米Merck、米Pfizer、英GSK、相次いで中国の医薬会社から新規治療薬候補の開発・販売権を取得

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欧米の製薬大手が中国の製薬会社から相次いで新薬候補の開発・販売権を取得している。

激しい競争のもとで各社は新薬の開発に注力しており、どこの国のものであれ、特許情報等で可能性があると判断した候補薬剤を競って入手しようとしている。

1)米Merck

米Merck (米、カナダ以外ではMSDの社名を使用)は2024年12月18日、中国のバイオ医薬会社の翰森製薬集団Hansoh Pharma)との間で臨床試験前段階のGLP-1受容体作動薬 HS-10535のグローバルの独占ライセンス契約を締結した。

「GLP-1受容体作動薬」または「グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬」は、体内で生成されるGLP-1というホルモンと似た働きをする薬で、GLP-1は、血糖値を下げるインスリンの分泌を促進し、食欲を抑制する効果がある。

このため、最近は新タイプの肥満症治療薬として各社が競っている。

(GLP-1受容体活性化に加え、
グルコース依存性 インスリン分泌刺激ポリペプチド のGIP受容体を活性化させるものもある。)

CNBCによると、各社の開発状況は下記の通り。

製品名

メーカー

用法

米承認

Wegovy

Novo Nordisk

週1回の注射

2021 承認

GLP-1を活性化 

Zepbound

Eli Lilly

週1回の注射

2023 承認

GLP-1とGIPを活性化   

Saxenda

Novo Nordisk

週1回の注射

2020 承認

GLP-1を活性化

MariTide

Amgen

月1回の注射

Experimental

GLP-1を活性化し、GIPをブロック

Danuglipron

Pfizer

1日1回の錠剤

Experimental

GLP-1を活性化

VK2735

Viking Therapeutics

週1回の注射

Experimental

GLP-1とGIPを活性化

Pemvidutide

Altimmune

週1回の注射

Experimental

GLP-1を活性化

GSBR-1290

Structure Therapeutics

週1回の錠剤

Experimental

GLP-1を活性化

Survodutide

Zealand Pharma,
Boehringer Ingelheim

週1回の注射

Experimental

GLP-1とグルカゴンを活性化


2024/4/15 新タイプの肥満症治療薬が急増


ライセンス契約では、翰森製薬集団はMerckにHS-10535をグローバルに開発・生産・販売する独占的な権利を与える。見返りに翰森製薬集団は1億1,200万ドルの一時金を受け取るほか、開発、規制当局の承認および商業化に関連するマイルストーンに応じて、最大19億ドルの支払いを受け取る可能性がある。また、売上に応じたロイヤルティも受け取る。

翰森製薬集団は特定の条件で中国においてHS-10535を単独またはMerckと共同でHS-10535を商業化できる。

翰森製薬は、イノベーションを原動力とする大中華圏の大手製薬企業で、がん、感染症、中枢神経系疾患、代謝性疾患、および自己免疫疾患といった主要な疾病の治療に取り組んでおり、継続的なイノベーションを通じて人々の健康の向上に貢献することを使命としている。

同社は世界の製薬企業トップ100の一つとして、また中国における製薬研究開発パイプラインの分野で数年間にわたりトップ3の優良産業企業にランクインしており、国家重点ハイテク企業および国家技術革新モデル企業にも指定されている。

2) 米Pfizer

Pfizer Inc. 2015年5月19日、中国の大手バイオファーマの三生製薬(3SBio, Inc) との間でPD-1と血管内皮増殖因子(VEGF)を標的とする二重特異性抗体であるSSGJ-707の、中国以外でのグローバルな独占的開発、製造、販売のライセンス契約を締結した。SSGJ-707は現時点では中国で非小細胞肺がん、転移性大腸がん、および婦人科腫瘍を対象に複数の臨床試験が行われている。

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以下、AIによる「概要」

PD-1を標的とするのは免疫チェックポイント阻害薬で、免疫細胞のブレーキを解除してがん細胞を攻撃させる。一方、VEGFを標的とするのは血管新生阻害薬で、がん細胞への栄養供給を遮断して増殖を抑制する。

1) PD-1を標的とする治療(免疫チェックポイント阻害薬)

  • PD-1は、免疫細胞であるT細胞の表面に存在するタンパク質で、免疫反応を抑制する役割がある。
  • PD-1の働きを阻害する薬剤(PD-1抗体など)は、T細胞のブレーキを解除し、がん細胞を攻撃する免疫力を高める。
  • PD-1抗体は、がん細胞の表面にあるPD-L1というタンパク質と結合することで、免疫細胞の攻撃を抑制するPD-1の働きを阻害する。
2) VEGFを標的とする治療(血管新生阻害薬)
  • VEGFは、血管内皮細胞を増殖させ、新しい血管を形成するのを促進するタンパク質。

がん細胞は、VEGFを過剰に分泌して血管新生を促し、栄養や酸素を吸収して成長する。

VEGFを阻害する薬剤(抗VEGF薬、血管内皮増殖因子阻害薬)は、がん細胞への栄養供給を遮断し、増殖を抑制する。

抗VEGF薬は、がんだけでなく、加齢黄斑変性や糖尿病網膜症などの眼科疾患の治療にも用いられる。

3) PD-1とVEGFの標的治療の組み合わせ
  • PD-1とVEGFを標的とする治療は、それぞれ異なるメカニズムでがん治療に作用するため、両方を組み合わせることで相乗効果が期待できる場合がある。
  • 例えば、PD-1阻害薬と抗VEGF薬を併用することで、免疫細胞の攻撃を強化し、同時に血管新生を抑制し、より効果的ながん治療を目指すことができる。

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契約に基づき、三生製薬(3SBio, Inc)と子会社である瀋陽陽光製薬有限公司および3S国建製薬(上海)有限公司はSSGJ-707を中国以外の全世界で開発、製造、商業化する独占的グローバルライセンスをPfizerに与える。更にPfizerに中国において商業化するオプション権も与えている。

三生製薬(3SBio, Inc)は頭金として12.5億ドルを受取り、開発、承認、販売のマイルストンごとに最大48億ドルを受け取ることが可能で、加えてSSGJ-707が承認を受けた場合、段階的な2桁の販売ロイヤリティを受け取る。

本取引は、必要な規制当局の承認および3SBio株主の承認を含む、慣例的な完了条件の充足を条件として、第3四半期に完了する見込みで、完了後にPfizerは両社間で合意された証券引受契約に基づき、3SBioに1億ドルの株式投資を行う。

Pfizerは、SSGJ-707の原薬をノースカロライナ州Sanfordで、製剤をカンザス州McPhersonで製造する予定。

3)英GSK

GSKは7月28日、中国の製薬大手・江蘇恒瑞医薬(Hengrui Pharma) と、最大12件の革新的医薬品の開発に関する契約を締結したと発表した。これにより、2031年以降の同社の成長機会が大幅に拡大する。

恒瑞医薬(Hengrui Pharma)は、満たされていない医療ニーズに対応する高品質な医薬品の研究、開発、商業化に取り組む革新的なグローバル製薬企業で、14の研究開発センターと5,500人以上の研究開発専門職を擁する同社は、腫瘍、代謝性疾患、心血管疾患、免疫・呼吸器疾患、神経科学などを重点治療領域としている。

 これまでに中国で23種類の新規化合物医薬品と4種類の革新的医薬品を商業化している。1970年に設立され、「患者第一」を基本理念とし、病気の克服、健康の改善、寿命の延伸を科学と技術の力で実現することを使命としている。

本契約で選定されたプログラムは、GSKの強力な呼吸器・免疫・炎症(Respiratory, Immunology & Inflammation:RI&I)および腫瘍領域のパイプラインを補完するもので、ベスト・イン・クラスまたはファースト・イン・クラスの可能性があると評価されてい。GSKはこれらの契約に対して、総額5億ドルの前払金を支払う。

契約には、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の維持療法として開発中の有望なPDE3/4阻害剤「HRS-9821」に関する全世界(中国本土、香港、マカオ、台湾を除く)独占ライセンスが含まれている。この薬剤は、吸入ステロイドやバイオ医薬品による治療が適さない、あるいは息切れが続くCOPD患者にも適応が期待され、GSKの目指す「COPD患者全体を幅広くカバーする治療選択肢の提供」に寄与する。

PDE3/4とは、ホスホジエステラーゼ3型と4型を指す。これらは、細胞内のcAMPという物質の分解を促進する酵素で、その濃度を調節することで、炎症や気管支拡張などの生理的な反応を制御する。

HRS-9821は、PDE3およびPDE4の強力な阻害作用を示しており、初期の臨床および前臨床試験において、気管支拡張作用と抗炎症作用の両方を確認している。また、利便性の高いドライパウダー吸入剤(DPI)としての製剤化が可能であり、GSKの既存の吸入製剤ポートフォリオとも戦略的に適合する。

さらに、本契約には、HRS-9821に加えて最大11件の新規プログラムを対象とする画期的なスケールアップ型共同開発契約も含まれている。これらのプログラムは恒瑞医薬が第I相試験(中国国外の患者も含む)まで開発を主導し、GSKは各プログラムについて第I相終了時またはそれ以前に、世界(中国本土、香港、マカオ、台湾を除く)における独占的な開発および商業化の選択権を持つ。また、一部のプログラムについては代替選択権も含まれている。

この提携により、最大11件の革新的な医薬品を概念実証(PoC)まで迅速かつスケールを持って開発することが可能になる。GSKの治療領域における専門知識、疾患生物学への深い理解、臨床開発能力、グローバルな商業展開力と、恒瑞医薬の早期創薬能力、プラットフォーム技術、前臨床段階の高価値パイプライン、臨床評価のスピードが組み合わさることで、強力なシナジーが生まれる。

GSKは、PDE3/4プログラムのライセンスを含む契約に対して、前払金として総額5億ドルを支払う。すべてのプログラムが選択され、すべてのマイルストーンが達成された場合、恒瑞医薬が受け取る可能性のある成功報酬(開発、規制、商業的マイルストーン)の合計額は約120億ドルにのぼる。

加えて、恒瑞医薬は世界(中国本土、香港、マカオ、台湾を除く)における製品純売上高に対して段階的なロイヤリティを受け取る権利を持つ。

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