韓国の「黄色い封筒法」

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韓国で「黄色い封筒法」と呼ばれる労働組合法2・3条改正案が7月28日に国会環境労働委員会を通過し、8月4日に本会議での処理を控えていた。

使用者の範囲と労働争議の概念を拡大(2条)し、労働組合活動による企業の損害賠償請求を禁止する(3条)という内容が核心である。

しかし、野党が法案投票を遅らせるためフィリバスターを開始し、投票に入れずにいる。


韓国の現在の労働組合法は、労働者の権利を保護しつつ、使用者とのバランスも考慮した内容となっている。
ストライキは、労働者の権利として認められているが、正当な範囲内で行われる必要がある。

ストライキが違法な場合、使用者から損害賠償を請求される可能性がある。ストライキは、労働組合の正当な権利として認められてい るが、違法はストライキや、ストライキによって会社に損害が発生した場合、刑法上の責任や損害賠償責任を問われる可能性がある。

1. 刑法上の責任:

  • 業務妨害罪:ストライキが、業務を妨害する行為とみなされた場合、業務妨害罪(刑法233条)が適用される可能性がある。例えば、暴力行為を伴うストライキや、正当な理由なく施設を占拠する行為などが該当する。
  • 器物損壊罪:ストライキの過程で会社の設備や備品を損壊した場合、器物損壊罪(刑法261条)が適用される可能性がある。
  • その他の犯罪:ストライキの過程で、傷害事件や脅迫事件などが発生した場合、それぞれの犯罪が適用される可能性がある。

2. 損害賠償責任:

  • 正当なストの場合労働組合法で認められた正当なストライキであれば、原則として損害賠償責任は発生しない。ただし、ストライキの態様が悪質で、会社に予見不可能な損害が発生した場合は、損害賠償責任を負う可能性がある。.
  • 違法なストの場合違法なストライキの場合、会社はストライキによって被った損害について、損害賠償請求をすることができる。 ストライキによって生産が停止し、販売機会を逸したことによる損失や、代替要員を雇用するための費用などが該当する。
  • 大法院の判例:韓国の大法院(最高裁判所)は、ストライキによって会社に実際の営業損失がない場合は、労組幹部に損害賠償責任はないと判断したことがある。ただし、ストライキによって会社の名誉や信用が毀損された場合は、慰謝料を支払うべきと判決した例もある。


実際にあった損害賠償請求の事例と金額

1. 双龍自動車のストライキ(2013年)

  • 金属労組が119名の解雇に反対してストライキを実施。

  • 会社側が警察などを通して訴訟を起こし、1審では 約14億1,000万ウォン(約1.38億円) の損害賠償請求が認められた。

  • 社会的に注目されたのが、後に 最高裁が支持した約47億ウォン(約3,600万円/当時の換算) の損害賠償命令。

2. 韓進重工業(2003年頃)

  • 労働運動や争議に対して会社が賠償請求し、関係した労働者の中に自死した者も複数。

  • 韓進重工業 では18億ウォン規模の仮差押え請求があったとされ、被害の深刻さが認知された。

3. 現代製鉄(2021年)

  • 641名の組合員に対し 200億ウォン(約1,440万米ドル) の損賠訴訟を提起。

  • 仁川地裁が下した判決では、約5億9,000万ウォン(約42万米ドル) の支払いが命じられた。会社側の主張した「余計な残業費等11.8億ウォン超」も、一部作業は通常発生すると認定され、責任を50%に制限。他の損害項目は因果関係・証拠不十分として却下された。

通称「黄色い封筒法」は、2014年に47億ウォンの損害賠償を請求された双龍自動車の労働組合を支援するために多くの市民が自発的な連帯活動として展開した「黄色い封筒キャンペーン」を起源とする。

損害賠償を負った労働者に対する支援として、ある市民が4万7,000ウォンを入れた黄色の封筒をメディアに送り、寄付運動のきっかけを作った――というのが「黄色の封筒法」の名前の由来。


黄色い封筒運動の趣旨は、労働組合の争議行為が違法とみなされて命じられる莫大な損害賠償、仮差押さえによる労組破壊と労働者の生活の破滅を防ごうというものだった。

実際に、黄色い封筒運動を主導してきた市民団体「手を取って」によれば、1990年から2023年にかけて197件の損害賠償・仮差押さえ事件で3160億ウォンが請求され、これらの事件の94.9%が労働者個人を標的にし、彼らの暮らしと家庭を深刻に破壊したことが確認できる。多くの企業が損害賠償・仮差押さえを武器に労組の無力化を試みる過程で、2003年の労働者ペ・ダルホさんをはじめ数十人の「労働者烈士」を生み出してもいる。

企業による雇用関係の外部化とデジタルプラットフォームの商業化によって、急速に増えている間接雇用の非正規労働者と従属的事業者に対し、労働基本権を保障しようというのが黄色い封筒法のもう一つの制定趣旨。

派遣、請負、用役、下請けなどの様々なかたちで働く間接雇用の非正規労働者、特殊雇用労働者、フリーランサー、プラットフォーム仲介労働者などの従属的事業契約に縛られて働く労働者は、労働組合を結成して彼らの労働条件を実質的に支配する「本当の社長」である元請け大企業、フランチャイズ本部、プラットフォーム事業者、仲介エージェンシー、親企業との交渉を保障するよう求めてきた。

元請け企業のほとんどが現行の労働関係法における使用者ではないとの理由で交渉を拒否しているため、不安定な労働者たちが自身の権益を改善するために違法ストライキに打って出た、というニュースにもよく接する。大宇造船海洋の下請け労組は昨年、元請けとの交渉を引き出すためにストライキを打たざるを得なかったが、それによって彼らの組合費や賃金ではとてもまかなえない途方もない額の損害賠償訴訟が起こされている。

現行の労働組合法の弱点の改善を目指す「黄色い封筒法」は、最高裁の判例、国際労働機関(ILO)条約(第87号と第98号)の批准、国家人権委員会の勧告などによって、その必要性に対する社会的コンセンサスは十分に形成されている。

ところが財界と保守メディアは、「黄色い封筒法」の施行はストの急増、労使関係の不安定化、法治秩序の崩壊などを招くため、企業投資の萎縮と雇用の減少に帰結し、結局は韓国経済を駄目にしてしまうと主張している。

労働争議を制限し、違法ストに対する過剰な損害賠償請求を認める現行の労組法体系こそが、労働基本権を形骸化させ ている。

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「黄色い封筒法」と呼ばれる労働組合・労働関係調整法第2条・第3条改正案は 2023年11月9日、野党主導で本会議において可決された

政府与党と財界は「国を亡ぼす悪法の強行」と激しく非難し、大統領に拒否権行使を求める一方、野党と労働社会団体は30年あまりかかった法制定であるだけに、直ちに公布・施行することを求めた。

しかし、尹錫悦大統領の再議要求権(拒否権)が行使され、2023年12月8日の本会議で再表決されたものの、賛成要件(出席議員の3分の2以上)を満たせず否決、法案は廃案となった。

2024年以降、共に民主党が改正案を再提案・再発議した下請け労働者の元請けへの対応義務強化や、争議行為の対象範囲拡大、損害賠償制限などを含む。

2025年7月28日、与党(共に民主党と進歩党)主導で国会環境労働委の小委員会を通過8月4日に本会議で決議される 予定。

1. 黄色い封筒法の概要

 1) 目的

  • 労働者が不当な損害賠償請求を避けることができるようにする。

  • 過度の損害賠償請求を制限し、労働争議における不正義を解消する。

 2)主な内容

  • 労働争議(ストライキ)による損害賠償請求を制限

    • 企業側が過度に高額な損害賠償請求を行うことに対する制限。

    • 労働組合が正当な理由でストライキや争議を行った場合、企業がその損害に対して過度に大きな請求をすることができなくなる。

  • 組合員の賠償責任の制限

    • 労働組合やそのメンバーが行ったストライキや争議活動に関連して個人に対する損害賠償責任を減少させる

    • 組合員が過剰に訴えられることを防ぐために、個別責任を限定する。

  • 訴訟制限

    • 特に企業が不当な訴訟を起こすことを防ぐため、裁判所が訴訟手続きにおいて企業の損害賠償請求額を慎重に審査することを求める内容が含まれている。

2. 法案の賛否

 1) 賛成の立場

  • 労働者と労働組合は、企業による過度な損害賠償請求が社会的に不公正であると主張し、この法案が成立することで、労働者の権利を守り、過度な負担から解放されると歓迎。

  • 労働組合は、ストライキが合法的な手段であり、その活動に対する過度の報復を防ぐために、この法案が重要だとしている。

 2) 反対の立場

  • 一方で、企業側は、ストライキや労働争議が生じた場合には、その影響で生産や経済活動に深刻な損害を与える可能性があるため、過度の損害賠償請求の制限は企業活動の自由を制約するとして反対している。

  • 企業側は、損害賠償請求を通じて、労働争議を抑止し、安定した経済活動を確保しようとする立場を取っている。


「黄色い封筒法」に対する経済界の反対がさらに強まっている。

韓国経営者総協会(経総)の孫京植)会長(CJグループ会長)は7月31日、緊急記者会見を開き、「国会は労働組合法の改正を中断し、社会的な対話をしなければいけない」と声を高めた。孫会長は「緊急記者会見は、それだけ労働組合法改正に対する経営界の心配が深いということと理解してほしい」と述べた。

孫会長は「数百の下請け会社の労働組合が交渉を要求すれば、元請け事業主はこれに対応できず、産業現場は極度の混乱状態になるはず」と懸念を表した。続いて「損害賠償額の上限を定め、勤労者の給与も差し押さえができないようにする代案を与党指導部と議員に会って提案した」とし「十分な議論なく労働界の要求だけが反映された」と主張した。

造船業界からは、「(下請け業者の数に合わせて)100回ずつ交渉しろというのか」という不満の声が上がっている。外資系企業は公然と「韓国からの撤退を考えざるを得ない状況だ」と話している。 ある上場企業の代表は、「大げさだと言うが、追加の商法の改正案が発効すれば、国内上場企業の多くの経営権が第3者に渡るだろう」と懸念している。



韓国の労使関係が「対立的」であることが原因である。

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