変形性膝関節症の治療薬の開発

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バイオ企業のNANO MRNAの子会社 PrimRNA(プライムルナ )は、膝の軟骨がすり減り、根本的な治療法がない変形性膝関節症に使う治療薬の臨床試験を9月にもオーストラリアで始める。

変形性膝関節症の患者数は国内では自覚症状を有する患者で約1000万人、潜在的な患者は約3000万人にのぼるとも推定される。加齢などで発症し、歩くと痛みが生じる。症状が進むと外出が困難になって健康寿命を縮める要因にもなる。

現状は外科手術で膝関節を取り除き、人工関節に置きえるなどの対策があるが 、対症療法にとどまり、根本的な治療法はない。

PrimRNAのオーストラリア法人が 位高啓史教授らの研究チームによる成果を基に治験を始める。遺伝情報を伝える物質のメッセンジャーRNA (mRNA) を患者に投与し、コラーゲンなどをつくる軟骨細胞の働きを高める 新しい治療法である。位高教授はアドバイザーとして治験に関わる。

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位高啓史氏は、東京科学大学総合研究院生体材料工学研究所教授で、大阪大学感染症総合教育研究拠点教授を兼務する。

東京科学大学は2024年10月に東京工業大学と東京医科歯科大学が統合して設立された 大学で、位高教授は東京医科歯科大の教授であった。

位高教授は2016年1月に東大の特任准教授であったが、東大大学院工学系のメンバーとの共同研究で、軟骨の形成に働く転写因子のmRNAを関節内へ届けると変形性関節症の進行を抑制できることを、動物モデルを用いて世界で初めて示した。本成果は、転写因子のmRNAが、新しい核酸医薬による治療法となりえることを示唆するものである。

mRNAは新型コロナウイルスワクチンの主成分として注目され、他の疾患に応用する研究が世界的に進んでいる。位高教授は、ノーベル生理学・医学賞を受賞したカタリン・カリコ氏と15年以上のつきあいがある。カリコ氏がmRNAに関する研究成果を出して間もない2008年頃、学会で本人から研究内容を説明してもらったことが、この研究を始めるきっかけの一つになったという。それ以降、学会などで意見交換してきた。

東京医科歯科大の位高教授らのチームは、人工的につくったmRNAで膝の痛みを抑える新しい再生医療の治験を計画した。

今回のmRNAは、膝軟骨の細胞の働きを高めるたんぱく質の遺伝情報でできている。患者の膝に注入すると、膝の細胞がこのたんぱく質を作り出し、軟骨を構成するコラーゲンを増やすなどして、軟骨が壊れるのを防ぐ。
動物実験では軟骨の摩耗や関節の変形を抑えることに成功した。

治験にはmRNA医薬品の開発を手がけるNANO MRNAなどが協力する。

NANO MRNAは1996年にナノキャリア㈱として設立された。2023年にmRNA医薬の創薬に特化する新ビジネスモデルへの転換に伴い、NANO MRNA㈱に改称した。

「mRNA創薬シーズと医療・開発ニーズをつなぐプラットフォーマーとしてmRNA医薬の知的財産(IP)創出とライセンスアウトのサイクルを確立する」という考えの下、事業活動を推進している。

mRNA医薬パイプラインでは、花王との共同研究で進めているアレルギー・自己免疫疾患治療ワクチンで、少なくとも1つのプロジェクトで開発候補品の選定の段階に進んでいる。
千寿製薬との眼科領域での共同研究も順調に進んでいる。


本件では、mRNAを直径1万分の1ミリ以下の膜に包んだ粒子状の医薬品とし、膝の細胞に届きやすくしている。

ポリアミンは、細胞内で様々な重要な機能を果たす生理活性物質で、細胞分裂や増殖を促進し、DNAやタンパク質の構造を安定化させるなど、生命活動に不可欠な役割を担っている。


高分子ミセルは、両親媒性高分子が水中で自己集合して形成するナノサイズの粒子で、疎水性の部分が内部に、親水性の部分が外部に配置されたコア-シェル構造を持ち、 薬物送達システム(DDS)として利用されている。




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