北海道大学、超強力接着性ハイドロゲルのデノボ設計に成功

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北海道大学総合イノベーション創発機構化学反応創成研究拠点の范海竜特任准教授(現・深圳大学 准教授)、龔剣萍教授(先端生命科学研究院)、及び瀧川一学特任教授らの研究グループは、タンパク質のデータマイニング、実験、機械学習を統合した画期的なデータ駆動型アプローチで、超強力な接着性ハイドロゲルのデノボ設計に成功した。

デノボ設計(De Novo Design)は ラテン語で「ゼロから」「新たに」という意味で、既存のものを改良するのではなく、全く新しいアイデアや原理に基づいて、目的とする機能や特性を持つものを設計・構築する手法。

チームは、フジツボやカタツムリなどが持つ天然の接着剤約2万5千種類の情報を基に、およそ180種類のハイドロゲルを作製して接着性を計測。データを「機械学習」という方法でAI に学ばせ、より性能が高い組成を提案させた。

具体的には次の3つのステップを踏んだ。

 1. タンパク質データベースからの情報抽出と記述子開発:

自然界で強力な接着性を示す約2 万5千種類のタンパク質の配列パターンを詳細に解析した。
その結果、高分子鎖のランダム共重合によってそのパターンを再現できる独自の記述子戦略を開発。これにより、ターゲットとする高機能接着性ハイドロゲルの設計とデータセット構築が可能となった。

 2. バイオインスパイアードハイドロゲルの合成とデータセット構築:

上記の戦略に基づき、多様な組み合わせを持つ 180 種類の生体模倣ハイドロゲルを実際に合成し、その接着強度データを収集することで初期データセットを構築した。
これらのハイドロゲルの中には、先行研究で報告されたものを上回る接着強度を示すものが約半数も確認され、優れたデータセットを獲得した。

  3. 機械学習による組成最適化:

構築したデータセットを基に機械学習モデル(特にガウス過程とランダムフォレスト回帰)を訓練し、膨大な候補の中から最適なハイドロゲルの組成を効率的に探索した。
実験回数を減らすため、バッチ型逐次モデルベース最適化(SMBO)の手法も導入し、効率的な探索を実現した。

この作業を繰り返し、最も接着性が高い新規のハイドロゲル3種類を特定した。これにより、従来のハイドロゲルを大幅に上回る最大1MPa を超える接着強度を海水環境で達成した。

これらは1平方センチ当たり約10キロの力で引っ張ってもはがれず、貼ったりはがしたりを200回以上繰り返しても 接着性が維持できた。

水を満たした高さ3mの筒の下部にあけた直径2センチの穴に貼り付け、漏れを止めることもできた。

波が打ち寄せる海辺の岩にアヒルのおもちゃを固定できた。



このゲルは海の潮の満ち引きや波の衝撃にも耐え、過酷な海洋環境下での強力な接着性能を実証。

通常の水中環境はもちろん、塩分濃度が高い海水環境においても非常に強力な接着性能を発揮する。

マウスへの皮下埋め込み試験では、これら複数のハイドロゲルが良好な生体適合性を示すことも確認され、医療分野への応用における大きな可能性を示唆している。


長期的な水中接着性、高い耐久性、そして生体適合性を示すことが実証され、多様な実用応用例での大きな可能性を秘めている。

再生医療における組織接着剤、水中での精密手術用接着剤、深海探査ロボットの緊急補修材、さらには生体模倣ロボットの柔軟な皮膚など、多岐にわたる分野での応用が期待される。


一方で、本研究で確立したデータ駆動型設計アプローチは、接着性ハイドロゲルに留まらず、広範な機能性ソフトマテリアルの迅速な開発にも適用可能な、極めて系統的なアプローチを提供する。


本研究成果は、2025年8月6日公開の Nature 誌に掲載された。Data-driven de novo design of super-adhesive hydrogels


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