東北大学大学院医学系研究科および医工学研究科の研究グループは、慢性腎臓病患者では合併する便秘によって腸内細菌叢の乱れが生じ 、腎機能の悪化につながるのではと考えた。
そこで国内9つの医療機関で中程度の患者118名を集め、慢性便秘治療薬ルビプロストン (腸管内への水分泌を促し、便を柔らかくすることで排便を促進する)の腎機能に対する効果を検証する第Ⅱ相臨床試験を実施した。
ルビプロストンは米国で2006年1月に(2007年9月、2013年4月に承認追加)、日本では2012年7月に承認された。商品名アミティーザ。
その結果、ルビプロストン8µgおよび16 μgを投与した患者群では、プラセボ群と比較して腎機能の低下が用量依存的に抑制された。
1)主要評価項目の尿毒症毒素(インドキシル硫酸)の血中濃度に有意な変化は見られなかった。
インドキシル硫酸は、食事のタンパク質に含まれるトリプトファンが腸内細菌に代謝され、肝臓で生成される尿毒素。
腎機能が低下すると、正常では尿中に排泄されるこの物質が体内に蓄積し、細胞の老化や線維化を促進することで慢性腎不全の進行に関与すると考えられている。
尿毒症毒素(インドキシル硫酸)の血中濃度に有意な変化は見られなかった。
2)一方、副次評価項目である腎機能においてルビプロストン16μg群ではeGFR(腎臓の機能を評価する指標)の低下がプラセボ群と比較して有意に抑制された。
この効果は特に中等度の腎機能障害を持つ患者で8μg、16μgの両群で顕著だった。
3)安全性については主な副作用(薬との関係がわかっていないものも含む)は軽度から中等度の消化器症状であり全体として良好な忍容性が確認された。
そのメカニズムとして、慢性便秘治療薬ルビプロストンによってミトコンドリア機能を改善するスペルミジン(ポリアミンの一種)を産生する菌が腸内で増え、血中のスペルミジン濃度が上昇して腎臓のミトコンドリア機能を改善することで腎保護効果をもたらすことを明らかにした。
本研究成果の概念図
ルビプロストン投与群では短鎖脂肪酸を産生する善玉菌であるBlautia属やRoseburia属などが増加
→ これらの細菌が持つポリアミン合成酵素遺伝子(aguA)DNA量が増加
→ それに応じて血中のスペルミジン(ポリアミンの一種)の濃度が上昇
→ ミトコンドリア機能の改善 → 腎機能の改善
本研究は、慢性便秘治療薬ルビプロストンが「腸内細菌→ポリアミン→-ミトコンドリア」という新たな経路を介して腎保護作用を発揮することをヒト臨床試験の解析から世界で初めて示した点で画期的 である。
本成果は、下剤が腸内環境を変化させることでミトコンドリアを介して腎機能低下を抑制できるという新しい治療戦略の可能性を示すものであり、今後 慢性腎臓病のみならずミトコンドリア異常疾患の治療開発への応用が期待される。
本研究成果は、2025年8月29日付で、科学誌Science Advancesに掲載された。
Lubiprostone in chronic kidney disease: Insights into mitochondrial function and polyamines from a randomized phase 2 clinical trial
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