2025年9月アーカイブ

アルツハイマー病については、現状の診断では患者や家族への問診、認知機能を測るテストなどで症状を基に判断する場合が多い。

このためアルツハイマー病と似た症状の病気と見分けられない。

新潟大学が2023年に発表した研究では、アルツハイマー病と診断された患者の約4割に別の病気の可能性があった。

有効な検査技術が確立しておらず、ベテラン医師でも症状が似ているほかの病気と見分けるのは難しい。

高齢化で認知症は増加を続ける。適切な治療には正確な診断が欠かせない。

精緻に診断するにはアミロイドベータやタウを測る必要がある。ただ、陽電子放射断層撮影装置(PET)検査は費用が高い。脳脊髄液を採取する検査は体への負担が大きい。

アルツハイマー病の患者の脳には、たんぱく質「アミロイドβ」がたまった沈着物や、タウタンパク質の繊維状の塊がみられる。

認知機能が衰える数十年前からアミロイドベータの蓄積は始まり、その後にタウが蓄積する。そして神経細胞が徐々に壊され、認知機能障害などが現れる。


患者の病気の進行度を知るためには、脳内のアミロイドベータやタウの蓄積を正確に把握する必要があるが、これまで脳内のタウ量を血液から推定できるバイオマーカーはなかった。

米Washington University School of Medicine, St. Louis, MOなどの研究チームは本年3月、アルツハイマー病の原因物質といわれるたんぱく質「タウ」の脳内での蓄積を血液中の物質から把握できるという診療に変革をもたらすと期待を集める成果を英科学誌 nature medicine に発表した。2025/3/31 Plasma MTBR-tau243 biomarker identifies tau tangle pathology in Alzheimer's disease

研究を主導したのは、同大の特任准教授でエーザイ研究部門の部長も務める堀江勘太氏。

堀江氏らが注目したのは「MTBR(微小管結合領域)タウ243」というタウの断片で、脳内でタウが塊を作る際に一部の構造が壊されると分泌されて血液に漏れ出す。脳内の蓄積と相関があると考えられている。

検証が進めば、新たな診断法として認められる。エーザイが出資する米バイオ企業C2N Diagnostics LLCが開発を進めている。

エーザイは2024年3月6日、米国子会社Eisai Inc.が、C2N Diagnostics LLCによる米国におけるアルツハイマー病の血液診断の実用化ならびに、アクセス、アフォーダビリティ、および利用の拡大に向けた取り組みを支援するため、同社に最大15百万米ドルの出資を決定したと発表した。今回の決定は、2022年8月に発表した米国の実臨床における認知症当事者への血液検査法の活用に関する協働を発展させるもの。

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もう一つの関連物質のアミロイドベータについては、「リン酸化タウ217」などのバイオマーカーが見つかっている。アミロイドベータが脳内に蓄積すると、タウに異常なリン酸化が起こり、リン酸化タウ217が血液に漏れ出す。

富士レビオ・ホールディングスは5月19日、リン酸化タウ217とアミロイドベータの断片比率を測定する血液検査薬について、米食品医薬品局(FDA)の承認を得たと発表した。

https://www.hugp.com/news/202505/20250519_news.pdf

アルツハイマー病の診断を補助する血液検査薬が米国で承認されるのは初めてで、スウェーデンの大学などが複数社の検査薬を比べた研究論文で、富士レビオの検査薬は特定の測定手法では「もっとも高い性能」と評価された。

国内向けは2025年内に医薬品医療機器総合機構に申請する。

正確な診断が実現した後は、それに適した新薬が求められる。患者の段階ごとの治療が実現すれば、無駄が減り、医療費の削減にもつながる。

(日本経済新聞の報道をベースにした)

伊藤忠商事は9月22日、医薬品製造を中心とした医薬品産業グループであるアンドファーマ㈱の株式を取得し、持分法適用会社化することに合意したと発表した。

本株式取得において、伊藤忠は、第三者割当増資の引受けに加え、ジェイ・ウィル・パートナーズが運営・管理する合同会社ジェイ・イー・エイチが保有する一部株式の譲り受けを通じて、同社の株式20%(出資金額:162億円)を取得する。

持田製薬も同日、同じ内容の発表を行った。

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アンドファーマ(AND PHARMA)は、ジェイ・ウィル・パートナーズ(J-Will Partners)が投資する日医工、共和薬品工業、武田テバファーマ(現 T'sグループ)の3社を傘下に収める持ち株会社として設立された。

2025年10月1日付けで、持田製薬と伊藤忠商事がアンドファーマの株式をそれぞれ20%ずつ取得する。


ジェイ・ウィル・パートナーズは、ゴールドマン・サックス出身の佐藤雅典氏により2003年に設立された。社名は、"Japan"の "J" と "志" を表す "Will" が由来で、「志をもって日本のために」が理念である。

地銀との関係が強い。債権、不動産への投資も行う。再生案件にも強い。 ビッグモーター事業を伊藤忠グループが引き取ったWECARS(ウィーカーズ)に共同投資している。

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国内の後発医薬品(ジェネリック医薬品)市場は、厚生労働省による医療費適正化の推進を背景に、政府目標であった数量シェア80%を達成し、今後も拡大が見込まれている。

一方で、依然として社会課題である医療費抑制や医薬品の安定供給に対応すべく、政府は品目統合や供給効率化を後押しし、企業間の連携や業界再編の動きがみられる。更に、サプライチェーンの強靱化、多様な提供チャネルの整備など、持続可能な医薬品供給体制の構築に向けた期待が高まっている。


アンドファーマは日医工、共和薬品工業、およびT'sグループを子会社に持つ純粋持株会社であり、国内大手ジェネリック医薬品企業と比肩する売上規模を有する企業である。オーソライズド・ジェネリック(先発医薬品メーカーの許諾を受けて製造・販売される「先発医薬品と同じ」ジェネリック医薬品)を含むジェネリック医薬品、バイオシミラー、長期収載品といった領域で幅広い品揃えを誇り、国内における医薬品の安定供給の一端を担っている。

後発薬大手の日医工は多くの問題で苦境に立っていた。

2021年、ジェネリック医薬品の製造において不適合製品を適合品として出荷する品質不正が発覚し、富山県から業務停止命令を受けた。

品質不正や、以前から抱えていた米国子会社の事業失敗による損失計上が重なり、業績が悪化、経営危機を乗り越えるため、事業再生ADR手続きに入り、金融機関からの同意を得て事業再生計画を成立させた。

経営再生のため、2023年3月29日に東京証券取引所プライム市場での株式上場を廃止し、アンドファーマと医薬品卸大手メディパルホールディングスの出資を受け、新経営陣のもとで経営再建を進めている。

2022/11/17 日医工が破綻、投資ファンドの支援で再建へ

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共和薬品は、ジェネリックメーカーとして、特に中枢神経系(CNS)の領域においてトッププレイヤーの地位を確立してきた。

共和薬品工業は2007年10月、インドの後発薬大手のLupin と資本提携することとし、Lupinが共和薬品の発行済み株式の大半(99.82%)を100億円弱を投じて取得したが、2019年にLupinは共和薬品を日本の投資ファンドに売却した。

2019/11/14 インド後発薬大手のルピン、子会社 共和薬品を売却 

2022年3月に承認内容と異なる医薬品の製造や製造記録の改ざん・ねつ造などの品質問題が発覚し、兵庫県から薬機法に基づく行政処分(業務停止命令、業務改善命令)を受けた 。

2024年7月には「アルプラゾラム錠」の自主回収、2024年4月には「メスチノン錠」の一部変更申請時における不適切な試験データの提出が確認されるなど、その後も品質に影響する事案が発生している。

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T's ファーマは旧称武田テバで、武田薬品とテバファーマが共同出資してジェネリック医薬品などを取り扱う会社として2016年に設立された。武田薬品は武田テバの株式49%を保有していた。

2016年

2015/12/2 武田薬品とイスラエルのTeva Pharmaceutical、日本でジェネリック医薬品のJV設立


武田薬品工業は2024年12月6日、後発薬を扱う武田テバファーマの株式をイスラエルのテバファーマスーティカル・インダストリーズに譲渡すると発表した。今回の譲渡に伴い、約550億円を受けとる見込み。

テバファーマは同日、取得した株式を含む武田テバの全株式を2025年4月1日までに国内投資ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズ(JWP)が設立した㈱ジェイ・ケイ・アイに売却すると発表した。売却総額は明らかにしていない。武田テバはJWPの傘下に入ることになる。

JWP移管後の2025年9月に武田テバは社名を「T'sファーマ」へと変更する予定で、武田薬品が流通を担当する製品は、引き続き武田が担う。

2024/12/9  武田薬品とイスラエルのTEVA、JVの武田テバファーマを国内投資ファンドに売却


伊藤忠商事は、同社グループとの連携やグローバルネットワークを活用し、医薬品の原料等の調達・供給や物流・流通機能の提供、研究開発支援等、医薬品業界において幅広く事業を展開している。

今後、同社の幅広いサプライチェーンの知見・ノウハウと、今回本株式取得を行う持田製薬が有する独自の研究開発力や数々の技術的ノウハウを活用し、アンドファーマの製造・品質管理・供給基盤を強化し、後発医薬品のサプライチェーン強靭化による生産効率及び安定供給体制の向上に取り組んでいくとしている。更に、同社グループが強みとする生活消費分野における消費者接点を起点とした後発医薬品の流通ネットワーク構築等、横連携を通じた新たな事業展開を目指す。

伊藤忠商事は、経営方針「The Brand-new Deal ~利は川下にあり~」のもと、マーケットイン視点でのビジネスモデル構築を進めており、本出資を通じ、後発医薬品の安定供給と品質確保を両立し、医療費適正化への貢献と、より良い医療が提供される社会の実現に努めていくとしている。

一方、持田製薬は、本株式取得を通じたアンドファーマの子会社各社との協業により、同社グループが有するバイオシミラーの開発・事業化ノウハウと、アンドファーマの子会社が有するバイオシミラーの製造能力とのシナジーを創出するとともに、既存品目の製造連携も見据え、コア事業である医薬事業の収益力強化を図る。

新薬メーカーとして社会に新しい価値を提供する新薬への継続的な取り組みおよびバイオマテリアル事業や核酸医薬、細胞医薬といった成長事業への継続的な投資を堅持する中で、本株式取得は、「コア事業の収益力強化」における後発薬・バイオシミラーによる医療経済的価値の提供を具体化した施策の一つと位置付ける。

中長期的には、後発薬・バイオシミラー事業の安定収益基盤を活かして、同社の成長戦略を加速していく好循環を形成していきたいと考えている。

伊藤忠グループの有する原薬調達や流通機能に加え、同社グループが強みとする生活消費分野における消費者接点の活用等により、アンドファーマの子会社各社の事業基盤は今後一層強化されることが期待されるとしている。

米国、政府閉鎖か

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新年度が10月1日に始まる。

毎年のことだが、またまた、米国が政府閉鎖の危機に瀕している。

本年度の予算については、正式予算は成立せず、3月11日に下院が9月30日までのつなぎ予算案を通し、上院は3月14日、これを可決した。

2025/3/12 米下院、9月末までのつなぎ予算案可決-上院に送付

2025/3/15 米上院、つなぎ予算案を可決、政府機関閉鎖を回避

しかし、9月1日からの新年度の本予算は成立しておらず、このままでは9月1日に政府閉鎖となる。

このため、共和党は9月1日からの暫定予算( Continuing Resolution)を提出した。9月19日に、下院は共和党多数のため通ったが、上院は予算案は60票が必要なため、成立していない。仮に過半数でも否決である。

下院 共和党案 可決 上院 可決には60票が必要なため、否決    
  共和党 民主党 合計 欠員
賛成 216 1 217  
反対 2 210 212  

棄権

1 2 3  

合計

219 213 432 3

        

 

共和党

民主党 民主系
無所属
合計
賛成 43 1   44
反対 2 44 2 48
棄権 8     8
合計 53 45 2 100

トランプは、上院民主党が国の閉鎖を願っているなど、偽りを含め、民主党の批判をいろいろしている。

実際は、共和党から反対2,棄権8と10人が賛成しておらず、60票は遥かに遠い。

上院は採決後、1週間の休会に入った。休み明けに暫定予算案が可決できなければ、9月1日に政府閉鎖となる。

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政府閉鎖のおそれがあるなかで、与党共和党の議員が反対2、棄権8 というのはなぜだろうか。(全員賛成に回っても60票は無理なので、どうせ否決されるが。)

なぜ与党共和党でも反対・棄権が出たのか。ChatGPTに尋ねた。

上院共和党から反対または棄権する議員がいた理由はいくつか重なっている:

  • CR案(Continuing Resolution、暫定予算 or つなぎ予算)が"十分な政策的付加価値"を含んでいない。

    一部の共和党員(特に保守派)は、「たとえ短期間であっても、CR に政策的な条件(例えば歳出削減、移民・国境政策の厳格化、医療制度改革など)が含まれるべき」と考えており、現状のCR案はそういった要望を満たしていない、あるいはあまりにも "クリーン" すぎる、と感じている。現状維持(status quo)を延ばすだけでは、不足だという立場。

  • 予算・歳出の削減を強く求める圧力(党内の右派からの圧力)

    共和党内の保守派は政府支出全般を抑えることを重視しており、現行支出レベルをそのまま延長することに抵抗がある。特に非防衛部門などに対するさらなる削減を求めており、現行維持では満足しない議員がいる。

  • 与野党協調・民主党の政策要求に対する不信・戦略的対立

    民主党側は、CR案では触れられていない保険制度の税控除の延長やメディケイドの元に戻すこと、公的放送の復活などを要求している。これらを付け加えることは、共和党内の政策流儀・予算抑制の姿勢と相反する。共和党指導部は、「短期延長」の目的は政府の閉鎖を避けること、予算交渉を行う時間を稼ぐこと、恒久的政策は本予算の過程で議論すべき、という立場を取っている。これに対して、民主党は健康保険など多くの国民生活に関わる部分が「切り捨てられる」ことを懸念しており、政策を伴う調整を求めている。

  • 上院での60票制(フィリバスター対策)の壁

    上院では多くの法案・CR案で「進行させるための動議」には 60 票が必要。与党共和党は上院で多数派とはいえ、議席を53議席しか持っておらず、民主党の協力なしにはこの60票を確保できない。だから、共和党指導部としては「民主党を巻き込んで妥協案を探す」か「共和党内部で強硬派を説得する」が実務的な選択肢になるが、現状の案はどちらの方面の納得も十分ではなかった。

  • 政治的責任の取り合い・選挙・世論を意識した駆け引き

    政府閉鎖になったとき、どの党・どのリーダーが「責任を負うか」が大きな政治問題。共和党指導部は、「これは民主党が拒否している」「民主党が交渉に応じない」と主張したい。反対や棄権することで、「協議なしに耐えるだけの案を押し付けられた」との主張ができる。あるいは、共和党内部で自分の支持基盤(保守派濃厚な地区など)を失わないように、単に与党リーダーに追随するのではなく、慎重な姿勢をとる議員もいる。

  • 短期間ではあるが安全保障の追加支出部分にも異論がある人がいる

    CR案には、議員・裁判所・行政に対する追加の「安全保障」向け支出が含まれている。これを"余分な"支出と見なす議員もおり、その分予算全体の抑制を望む立場から反対する。

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参考  上院の議決

通常の法案や動議はフィリバスター可能で、可決には 60票が必要になる。

特例として「単純過半数」でよいものがある。

  • 予算決議 (budget resolution)

米上院は2025年2月21日、既に半年が経過している2025会計年度(2024年10月~2025年9月)予算決議案を52対48で可決した。

予算決議案は、予算枠の全体像を示すもので、ここで定められた枠を基に各歳出法案が策定される。

今回可決した予算決議では、政権が重視するテーマのうち、トランプ減税を除いたもので、国境措置の強化、国防費の増額、エネルギー生産の強化に対応する費用を盛り込んでおり、国境措置の強化として今後10年間で1,750億ドル、国防費の増額として同1,500億ドルを充てている。トランプ減税の延長減税措置に関しては、2026年度予算の審議過程で議論し取りまとめる。

2025/2/28 米国の2025会計年度(2024年10月~2025年9月)の予算決議案の審議

「予算決議」(budget resolution) の可決要件

  • 単なる決議 (concurrent resolution) なので、大統領の署名は不要。

  • 上院では 通常の法案と同じく「単純過半数(51票)」で可決可能

  • フィリバスター(議事妨害)も対象外なので、60票の「クロージャー票決」は不要。

「予算決議」が成立した後にできること

 予算決議の中で「調整指示 (reconciliation instructions)」が盛り込まれていると、その後の関連法案(例:税制改革、歳出削減、医療保険制度改革など)を 「和解手続き」 に乗せることができる。

  • 和解手続きは 上院でフィリバスターできない

  • したがって、単純過半数(51票)で可決可能

  • 和解法案 (reconciliation bills)

和解法案は、アメリカ議会における特別な立法手続き「予算調整 (budget reconciliation)」によって扱われる法案のこと。

通常の法案は上院で フィリバスター(長時間演説による議事妨害) を受ける可能性があり、その場合は採決に進むために 60票 必要になる。
しかし、和解法案は
フィリバスターできない 仕組みになっており、単純過半数(51票)で可決可能

和解法案は、もともと

  • 予算赤字削減

  • 歳出削減

  • 税制改正
    といった財政関連の調整を迅速に行うために導入された。

制限(Byrd Rule)

和解法案は「何でも過半数で通せる抜け道」にならないように、厳しい制限がある。和解法案には次のような条項は盛り込めない。

  • 財政に 直接関係しない政策事項

  • 予算上の影響が 副次的でしかない条項

  • 予算への効果が 10年後に消えるような歳出増・減税

このため、例えば移民政策や環境規制など「財政とは直接関係ない政策」は和解法案に入れられない。

歴史的な活用例

  • 1980年代〜:レーガン政権の歳出削減

  • 1990年代:クリントン政権の財政赤字削減法案

  • 2001・2003年:ブッシュ減税

  • 2010年:オバマ政権の医療保険改革法(オバマケア)修正部分

  • 2017年:トランプ政権の大規模減税(Tax Cuts and Jobs Act)

  まとめ

  • 和解法案=予算関連に限り、フィリバスター回避で 51票で成立 できる特別法案

  • 強力なツールだが、財政に関係ない内容は不可

  • 歴代政権が税制改革や医療制度改革で繰り返し活用

なお、下院は出席して投票した議員の過半数 で可決される。

フィリバスター(議事妨害) という制度は 下院には存在しない。

したがって、法案でも予算でも、大統領指名の承認でも、基本はすべて「過半数」で成立する。

2025年のIg Nobel 賞の受賞者が日本時間19日に発表され、日本からは、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)畜産研究部門の兒嶋朋貴研究員らの研究グループが「生物学賞」を受賞した。研究グループは、シマウマが体のしま模様によって血を吸うハエからの攻撃を防いでいるとする研究結果に注目し、家畜の黒毛の牛に白黒の模様を描いて「サシバエ」や「アブ」を防ぐ効果があるかを調べた。

その結果、模様を描いた牛は何も描かなかった牛に比べて足や胴体に付いたハエの数が半分以上減ったほか、首振りや足踏みなどハエを追い払う動作も減ったという。

これを応用することで、牛のストレスの軽減につながるだけでなく、虫刺されによる感染症を防ぐための殺虫剤の使用も減らせる。一方で、牛のしま模様のペイントは数日で落ちてしまうため、長期的な持続性を持つ技術の開発が課題だとしている。

日本人がイグ・ノーベル賞を受賞するのは19年連続。別紙参照。

 

本年の受賞(9件)は次の通り。

Biology
生物学
Tomoki Kojima, Kazato Oishi, Yasushi Matsubara, Yuki Uchiyama, Yoshihiko Fukushima, Naoto Aoki, Say Sato, Tatsuaki Masuda, Junichi Ueda, Hiroyuki Hirooka, and Katsutoshi Kino


本件

Chemistry

Rotem Naftalovich, Daniel Naftalovich, and Frank Greenway 

テフロンを食べることが、カロリー量を増やすことなく食物の量を増やして満腹感を得る良い方法であるかどうかをテストする実験


ゼロカロリー飲料は、人体で代謝されない分子を持つ人工甘味料の開発により、現代の食生活の主流となっている。著者たちは、ゼロカロリー食品という概念に興味を抱き、カロリーを増やすことなく、食​​品の満足感を高めることでゼロカロリー食品を実現できると考え、まさにその目的にぴったりの添加剤、テフロンを発見した。 食品3に対してテフロン粉末1の割合を推奨している。
テフロンの安全性に関する科学的研究を何段落もかけて引用し、既に使用されている多くの用途についても言及している。そして、テフロンは精子の運動性や生存率に影響を与えないようだ。

Physics

Giacomo Bartolucci, Daniel Maria Busiello, Matteo Ciarchi, Alberto Corticelli, Ivan Di Terlizzi, Fabrizio Olmeda, Davide Revignas, and Vincenzo Maria Schimmenti

パスタソースの物理学、特に不快な風味の原因となるダマの形成につながる相転移に関する発見。


「パスタ・アッラ・カチョ・エ・ペペ」は、トンナレッリ・パスタ、ペコリーノチーズ、そして胡椒だけで作るシンプルな料理。しかし、そのシンプルさは裏目に出る。この料理は、ソースが簡単にダマになり、滑らかでクリーミーな食感ではなく、糸を引くモッツァレラチーズのような食感になってしまうため、作るのが非常に難しいことで有名。
イタリアの物理学者たちが数々の科学的実験に基づいた、完璧なレシピでこの問題を解決した。

その秘訣は、パスタを茹でる際に沸騰したお湯に溶け出すデンプンの量に頼るのではなく、チーズとペッパーソースにコーンスターチを使うこと。
著者らは、適切なデンプン比率はチーズ重量の2~3%であると結論付けた。

Engineering Design

Vikash Kumar and Sarthak Mittal

エンジニアリング設計の観点から、「悪臭のする靴が靴箱の使用感にどのように影響するか」を分析

靴の臭いはインドでも普遍的な問題となっている。高温多湿のため、中程度の運動でも大量の汗をかく。さらに適切な換気と洗濯がされていないと、靴はキトコッカス・セデンタリウスと呼ばれる臭いの原因となる細菌の温床となる。インドでは多くの人が靴を靴棚に保管しており、その密閉された環境では臭いがかなり強くなることがある。

彼らは、UV-Cチューブライトを介した殺菌効果のある紫外線を内蔵の「消臭装置」として採用し、ソウル大学のアスリート数名の靴で装置をテストした。「非常に強い臭いがする」靴です。その結果、2~3分の照射で細菌を殺菌し、臭いを取り除くのに十分であると結論付けられた。

Aviation

Francisco Sánchez, Mariana Melcón, Carmi Korine, and Berry Pinshow

アルコール摂取がコウモリの飛行能力とエコーロケーション能力を損なうかどうか。

自然界には、特に熟した果実から発生する天然エタノールが豊富に存在し、その果実は様々な微生物や動物種によって消費される。哺乳類、鳥類、さらには昆虫がエタノールを豊富に含む果実を摂取して酩酊状態になるという稀な例が時折存在する。
著者らは、コウモリが酩酊状態を避けようとしているのではないかと考えた。

彼らは、長い飛行通路として機能する屋外ケージで飼育された成体の雄オオコウモリを対象に実験を行った。
コウモリには、エタノール含有量の異なる液体飼料が与えられ、通路に放たれた。著者らは、それぞれのコウモリが通路の端から端まで飛ぶのにかかる時間を計測した。
2つ目の実験では、基本的なプロトコルは同じだが、今回はコウモリのエコーロケーションの鳴き声を超音波マイクで録音した。

結果:エタノール含有量が最も高い液体飼料を与えられたコウモリは、飛行経路を飛行するのに時間がかかり、飛行能力が低下していることが示された。また、これらのコウモリのエコーロケーションの質も低下し、飛行中に障害物に衝突するリスクが高まった。

Psychology

Marcin Zajenkowski and Gilles Gignac

ナルシストや他の人に対して、彼らが賢いと伝えたら何が起こるかを調査

過信はナルシシズムに起因するというのが一般的な見解だが、著者らは、この効果が逆の方向にも作用するかどうか、つまり、外部からの肯定的なフィードバックによって自分が優れた知性を持っていると信じることで、少なくとも一時的にナルシシズム状態に陥る可能性があるかどうかを探ろうとした。

結果は研究者の仮説のほとんどを裏付けた。一般的に、参加者はIQテストを受けた後、自分の相対的な知能を低く評価した。これは一種の客観的な評価となった。しかし、彼らが受け取ったフィードバックの種類は測定可能な影響を与えた。肯定的なフィードバックは、彼らの独自性(誇大的ナルシシズムの重要な側面)を高めた。否定的なフィードバックを受けた人は、自分の知能を低く評価し、否定的なフィードバックは肯定的なフィードバックよりも大きな影響を与えた。

著者らは、フィードバックの正確さに関わらず、外部からのフィードバックが被験者の自身の知能に対する認識を形成するのに役立ったと結論付けた。

Nutrition

Daniele Dendi, Gabriel H. Segniagbeto, Roger Meek, and Luca Luiselli

ある種のトカゲが特定の種類のピザをどの程度食べるか

著者たちは虹色のトカゲが観光客の4種チーズピザを盗み、喜んで食べているのを目撃した。

研究チームは、9匹のトカゲの行動を観察した。4種類のチーズが乗ったピザと"four seasons" ピザを約10メートル間隔で並べ、どちらかを選ばせた。
トカゲがピザを見つけて食べるまでわずか15分しかかからず、時には残りのスライスをめぐって争った。しかし、実際に食べたのは4種類のチーズが乗ったピザだけだった。

研究チームは、このことから、トカゲがチーズたっぷりのピザに惹かれる何らかの化学的刺激があるか、あるいは消化しやすいのではないかと推測している。

Pediatrics
小児科

Julie Mennella and Gary Beauchamp

母親がニンニクを食べた時に、授乳中の赤ちゃんがどのような経験をするのか

乳児を完全母乳で育てている8人の女性を募集し、参加者が硫黄を含む食品(ニンニク、タマネギ、アスパラガス)の摂取を控えている期間に母乳サンプルを採取し、さらに母親がニンニクカプセルまたはプラセボを摂取した後にサンプルを採取した。

結果:ニンニクカプセルを摂取した母親は、明らかに臭いが強い母乳を産んだ。強い臭いは摂取後2時間でピークに達し、脂肪が減少した。これは、臭いの強い飼料を摂取した牛に関する過去の研究と一致している。
母親がニンニクを摂取した乳児は、母乳にニンニクの匂いがすると、より長く乳房に吸い付き、より多く吸う傾向があった。

これは、授乳中の感覚体験が、離乳後の乳児の新しい食物の受け入れやすさ、ひいてはその後の食嗜好にまで影響を与えるかどうかを調べる、現在進行中の研究に関連する可能性がある。

Literature

故 Dr. William B. Bean

35年間にわたり、自分の指の爪の成長速度を継続的に記録し、分析

文学部門に爪の成長速度に関する研究があるのを見て驚いたとしても、ビーン博士の華麗な散文を読めば全てが理解できるでしょう。

彼は実際に35年間、自身の爪の成長速度を詳細に記録し、最終報告書の中で「爪はゆっくりと動くケラチンのキモグラフであり、容赦ない時間の横座標上で年齢を測る」と主張している。

彼は自身の観察記録に、中世占星術、ジェームズ・ボズウェル、そして『白鯨』への重々しい言及を散りばめ、さらに「希望と苦痛、技巧の巧みさ、そして『健康センター』と呼ばれる非人格化の渦巻く」現代医学教育法の不毛さを嘆く、気難しい余談も散りばめている。

次の点を発見した。 まず、爪の成長速度は加齢とともに低下する。爪の成長速度は当初は安定していたものの、プロジェクトの最後の5年間で「わずかに遅くなった」。子供の爪は大人よりも早く伸びる。暖かい環境も成長を加速させる可能性があり、爪を噛むことも成長を加速させる。おそらく、噛むことで爪の周りの血流が刺激されるからだろうと彼は示唆している。また、死後も髪や爪が伸びるという言い伝えは誤りだと彼は主張する。爪が伸びているように見えるのは、死後の皮膚が縮むためだということだ。

Peace

Fritz Renner, Inge Kersbergen, Matt Field, and Jessica Werthmann

アルコールを飲むと外国語を話す能力が向上することがあるということ


バイリンガルの間では、少量のアルコール摂取が、同様に実行機能に依存する外国語の流暢さを向上させるという信念が広く浸透している。

彼らは、オランダのマーストリヒト大学で、ドイツ語を母国語とし、オランダ語にも堪能な心理学の学部生50名を募集した。彼らは無作為に2つのグループに分けられた。一方のグループにはアルコール飲料(ビターレモン入りウォッカ)を、もう一方のグループには水を与えた。

各参加者は15分後に軽く酔う程度まで飲酒した後、オランダ語を母国語とする人とオランダ語でディスカッションを行った。その後、オランダ語のスキルに関する自己認識を評価するよう求められ、オランダ語話者からは独立した観察者による評価が与えられた。

研究者たちは、独立観察者の報告に基づき、酩酊状態が参加者のオランダ語流暢性を向上させたことを知り、驚いた。(自己評価は酩酊度にほとんど影響されなかった。)
これを、いわゆる「オランダ的勇気」、つまり酩酊状態に伴う自信の増加に単純に帰することはできない。
むしろ、著者らは、酩酊状態が言語不安を軽減し、ひいては外国語能力を向上させると示唆している。この仮説を裏付けるにはさらなる研究が必要でしょう。 

プライムポリマー(三井化学65%、出光興産35%)の三井化学・出光興産と、同じ千葉地区にプラントを持つ住友化学の3社は9月10日、プライムポリマーが行うポリオレフィン(PE & PP)事業と、住友の国内のPP事業およびLLDPE事業の統合を行うことを基本合意したと発表した。

今後、正式な最終契約の締結に向け、協議を進める。

本事業統合により、3社協力のもと80億円/年以上の合理化を目標として生産体制等を最適化し、強靭でエッセンシャルな企業体としての競争力を一層強化する。さらに高機能かつ環境配慮型製品の開発力を高めることで、持続可能なグリーンケミカル事業の実現に向けた取り組みを加速する。


具体的には、住友がプライムポリマーに対して住友対象事業を譲り渡した上で、プライムポリマーの持ち分比率20%に相当する株式を取得する方法を検討している。今後3社で協議の上、最終的に決定する

なお現時点で想定する本事業統合の概要は以下のとおり。

統合会社 プライムポリマー(PRM)
拠点

PRM
本社、名古屋・大阪オフィス、基盤技術研究所・産包材研究所・自動車材研究所
市原工場、姉崎工場、大阪工場、徳山ポリプロ (注1)、Prime Evolue Singapore(注2)
住友
東京本社、名古屋支店、千葉工場、エッセンシャル&グリーンマテリアルズ研究所
出資比率 統合前:三井65%、出光35%
統合後:三井52%、出光28%、住友20%
統合時期 2026年4月(予定)
統合範囲

PRM 【国内】PP事業、LLDPE事業、HDPE事業
【海外】LLDPE事業(Prime Evolue Singapore(注2)のみ)
住友 【国内】PP事業、 LLDPE事業
 ※コンパウンド事業は国内のみ範囲に含む。海外は含まない。
国内生産能力
統合前:  
プライムポリマー PP 126万トン/年、PE 55万トン/年
住友化学 PP 33万トン/年、PE 17万トン/年
統合後: PP 159万トン/年、PE 72万トン/年
売上高 3,873億円(2024年度両社合算)


注1
  徳山ポリプロは、出光興産とトクヤマのポリプロピレン事業提携により設立(50/50)され、現在はプライムポリマーとトクヤマの合弁会社

注2  Prime Evolue Singapore:

   エボリューは三井化学のメタロセン直鎖状低密度ポリエチレン(気相法C6-LLDPE)

   日本エボリューは、プライムポリマー75%、住友化学25%:住友化学の引取量は当初の50千トンで変わらず。

 Prime Evolue Singaporeの出資  プライムポリマー80%、三井物産20%。

ーーー

以上が発表内容であるが、能力について疑問が生じた。

筆者は以前から各社の工場別能力をフォローしてきたが、2022年12月を最後に経産省が各社の能力発表をやめたこともあり、フォローをやめた。

しかし、現時点で分かる範囲でまとめると、各社の能力は次のようになる。

なお、住友化学については、2025/3/31時点の公称能力がInvestor Handbookに掲載されている。


ポリプロピレン能力(千トン)

2022/12/末 その後の変動 筆者
理解
Investors
Handbook
今回の
統合資料
プライムポリマー
 徳山ポリプロ 200 200
 出光千葉 400 400
 三井千葉 125 +200
-110
215
三井大阪 448 448
 合計 1,173 +200
-110
1,263 1,260
住友化学
 千葉 307 307 307 330


プライムポリマー、住友化学とも若干の差があるが、統合資料では実能力を採用したと思われる。

しかし、ポリエチレンでは、統合資料の両社の能力は、計算値と大きく変わっている。かなり減っている。

ポリエチレン能力 (千トン)  日本エボリューは住化引き取り分も含め、全能力をプライムポリマー に記載

LDPE LLDPE LL/HD併産 HDPE 合計 統合発表
資料
差異
LL HD
プライムポリマー
 日本エボリュー・千葉 300 300
 三井 岩国・大竹 6 6
 三井・千葉 市原 85 11 87 116 299
 三井ダウポリケミカル・千葉 125 125
 同    岩国・大竹 60 60
合計 185 385 11 87 122 790 550 -240
住化 千葉 172 133 305
2024年度内に停止発表 -20

-20

   
合計= Investors Handbook 152 133

285

170

-115

おそらく、双方とも現時点で大きな余剰能力を持っており、双方ともに今後、この分を拡販する見込みは無いと見たと思われる。

このため、統合に先立ち、互いに「余剰能力」をそれぞれの負担で処理し、統合会社が競争力ある形でスタートすることに決めたのだろう。

上表の「統合前能力」はこの整理後の能力である。


PPについては、各社の技術は優秀なため、三井、出光、住友のすべての設備でスタートしてもやっていけるとみたと思われる。

ーーー

日本では元のエチレン設備が余剰能力であり、稼働率は2022年7月に一時90.0%を回復したが、その後は3年にわたり、低下を続けており、全く異常な状態である。

各社とも、設備処理の検討を進めている。

旭化成、三井化学、三菱ケミカルの3社、西日本におけるエチレン製造設備に関わる有限責任事業組合(LLP)を設立を発表。西日本の生産設備を1基に集約する検討を行う。

丸善石油化学は 2026 年度を目途に自社エチレン製造装置を停止

ENEOSは 川崎の448千トンエチレンを2027年度末をめど停止

三菱ケミカルは21年4月に社長に就任したJean-Marc Gilson氏が当時の小林喜光会長らに「時価総額を2~3倍にしてほしい」と求められ、収益力の低い石化事業に代えて高付加価値のスペシャリティーケミカルズを主力とするメーカーへの転身を掲げた。

「日本における石油化学事業の再編を主導する」と意気込みを見せていたが、石化の扱いで社内に軋轢が生じ、24年3月末で退任した。
しかし、三菱として、このままでよいとは考えていない。

各社とも、対応を検討している。

  なお、 クラサスケミカル(旧昭和電工)は 同社の強さを誇示している


ポリオレフィンの需給状況は下記の通り。(千トン)  (能力はMETI発表最後の2022年末までだが、その後、大きな変動はない と思われる。需要は2024年のもの)

PE、PPともに能力が内販数量をはるかに上回っている。

当初は余剰能力を中国はじめ開発途上国に輸出して埋めていたが、今や各国が自製を始め、中国などは輸出が増加している。 日本からの輸出はほぼゼロと見ておく必要がある。

更に、内需自体が、人口減に伴い、また、自動車などのように海外進出増による国内需要の減少などにより、国内需要も今後、減少する。

ポリオレフィン各社は、元のエチレンの設備処理とポリオレフィンの需要予想に基づいてポリオレフィンの設備処理を考える必要がある。

今後、いろいろな動きが出てくると思われる。

ーーー

なお、ポリオレフィンについて、安価な製品が日本に流入し、高コストの日本製品は対抗できないとの見方がある。

しかし、ポリオレフィンについてはこれは正しくない。

米国のポリオレフィンと日本のポリオレフィンは同じものではない。別物といってもよい。

米国では、ごく限られた汎用グレードを大量生産する。幾つかの製造ラインで同一グレードを連続生産する。需要家はそれを購入し、添加剤 等を加えるなどで自社のニーズに合わせる。

樹脂メーカーは需要家から翌月分を受注して連続生産を行い、それを95トン超の貨車、何十両 もに積んで配送する。月に1回の配送が普通である。

一般に言われている価格は、この汎用グレード・大量購入の価格である。メーカーが Just-in-time の供給をするなどはあり得ない。

需要家が特殊グレードを注文すれば、生産してくれるが、価格は著しく高い。 汎用品の何倍という価格もありうる。

需要家は、自ら添加剤等を加えて自社のニーズに品質を調節するか、又はコンパウンダーに注文する。
コンパウンダーはメーカーから汎用グレードを大量に購入し、添加剤等を加えて注文の品質に合わせ、供給する。
少量需要の場合も、コンパウンダーから購入する。
いずれにせよ、価格は大幅にアップする。

米国で日本の需要家の必要とする製品を購入しようとすれば、メーカーに特別に注文するか、コンパウンダーに注文するかのいずれかで、価格は大幅に上昇する。


米国メーカーは「汎用グレード」を供給するのに対し、日本のメーカーは「機能」を供給する。需要家の求める機能を充足する製品を供給する。

各社とも研究所には需要家が持つ検査機器を持ち、需要家のニーズに合うことを確認する。
有名な話ではバンパーの衝突試験の設備でテストをし、バンパー用に最適なグレードを開発し、自動車メーカーに提案することまでやっている。

このため、グレード数はどんどん増える。


もう一つの違いは、米国では前月初めに受注し、翌月分をまとめて配送するのに対し、日本ではトヨタのカンバン方式による前日注文、当日朝配送 という商習慣である。
しかも各社の需要に合わせた生産のため、グレード数はものすごく多い。メーカー側でも大量生産で在庫を持っておくこともできない。

米国では少数グレードを大量生産できるが、日本では多数グレードの少量生産をする必要がある。

このため、一つの生産ラインで連続生産しながら、途中で添加剤等の投入を変え、多数のグレードをつくる必要がある。

(グレード切り替え後の特定時間の生産分はオフグレードとなり、オフグレード品として安値販売するか、コンパウンドの生産に使用する。)

以上のように、同じポリオレフィンといっても、供給する製品は全く異なる。米国の汎用グレードの価格が安いからといって、米国品を輸入することはありえない。

日本で需要家が必要とするグレードを注文すれば、価格は非常に高くなる。(2倍や3倍もあり得る)

また、1ヶ月前に大量に注文する必要があるが、カンバン方式で在庫を持たない日本側に船で大量に運ばれた製品を保管する場所はない。


実際問題として、日本の大部分の需要家が、米国品に切り替える可能性はほぼゼロである。


経済産業省は9月12日、米半導体メモリー大手マイクロン・テクノロジーの広島工場の設備投資や研究開発に最大5,360億円を支援すると発表 した。

ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業に同社の下記事業を採択した。

エッジ端末AI向けDRAMの革新的エネルギー効率改善を実現する製造技術の開発   


なお、同社は特定半導体生産施設整備等計画認定制度でも2件の助成を受けている。

令和4年9月30日認定  特定半導体生産施設整備等計画  最大助成額は464.7億円

令和5年10月3日認定   同上             最大助成額は1,670億円

ーーー

次世代半導体の国産化をめざす共同出資会社「Rapidus」が北海道に建設する新工場に対しては、 ポスト5G 基金事業で支援しており、本年3月31日に経産省はラピダスに2025年度に8,025億円の追加支援を決定

  累計で17,225億円  「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」審査結果 

 
  2022年度 2023年度 2024年度 2025年度 累計
前工程 700億円 2600億円 5365億円 6755億円 15420億円
後工程     535億円 1270億円 1805億円
合計 700億円 2600億円 5900億円 8025億円 17225億円

国はラピダスへの支援をさらに強化するため、次世代半導体企業を支援するための情報処理促進法などの改正法を提出、4月25日の参院本会議で可決・成立した。

経済産業省が所管する情報処理推進機構に金融業務を追加する。同機構を通じて政府が出資できるようになる。対象事業者は公募で選ぶとしており、ラピダスを想定する。同省は2025年度当初予算で出資金向けに1000億円を確保している。

ーーー

他に、半導体支援として下記の2つがある。

 1) 経済産業省の「半導体の安定供給確保のための取組に関する計画(供給確保計画)

    概要と、承認済みの計画(今回を含め18件)

 2) 特定半導体生産施設整備等計画認定制度があり、これまでTSMC、キオクシア、マイクロンメモリ(上記)

ーーー

ラピダスとマイクロンについては、政府がどんどん資金支援を行い、工事も進捗しているようだ。

しかし、この2件について、重要な点が曖昧なままになっている。

ラピダスやマイクロンはオランダの半導体製造装置大手ASMの「極端紫外線(EUV)露光装置」を導入する 必要がある。

2023/10/10 半導体装置大手ASML、北海道に新拠点、ラピダスの最先端半導体生産を支援


「極端紫外線(EUV)露光装置」の導入には高圧ガス保安法の改正が必要である。


EUV露光装置はPPL(Plasma-Produced Laser)方式の光源を採用

真空内を時速320km前後で移動する100万分の30mの大きさのスズの小滴を射出、レーザーを2回照射、1回目で高温にし、2回目で小滴を破壊、50万度のプラズマを発生させる。

スズを破壊させるプロセスを1秒当たり5万回繰り返すことで、半導体製造に必要な量のEUVが得られる。強力な炭酸ガスレーザーが必要。

炭酸ガスレーザーの生み出すエネルギーの8割は熱で、この除去が必要。 磁石でファンを浮上させ、熱を吸い出す。

この高圧状態のスズとその容器(タンク)が高圧ガス保安法の適用対象である。

高圧装置は、完成時の検査のほか、高圧ガス保安法に基づく年1回の保安検査が義務付けられている。

このため、24時間365日稼働し続ける半導体製造装置を何日か停止させねばならず、超高額装置の稼働率の低下をきたすことになる。


2022年〜2023年にかけて、「高圧ガス保安法等の一部を改正する法律」が成立しており、2023年12月21日から施行された「認定高度保安実施者制度」がその主要な改正のひとつ 。 この制度の趣旨・内容は、「自立的に高度な保安を確保できる事業者」について、保安検査等の手続きや検査の頻度などを一定緩和・合理化することを認めるというもの。

また、「認定高度保安実施者」の中でも更に要件が高い「特定認定高度保安実施者(A認定)」というランクもあり 、連続運転可能期間(停止しないでよい期間)や検査周期の延長など、より大きな緩和が可能。

ただ、この制度が成立した・施行されたということと、「EUV露光装置がこれにより年1回保安検査を停止なしで完全に免除される」ところまで来ているか、というと現時点ではそのような明確な報道や公式文書は見当た らない。

(ChatGDPに確認したが、見つけられないという回答があった。)

特に、EUVのような超高額・高圧スズタンクなどを含む装置が「認定高度保安実施者」制度の対象として認定を受け、その検査をどう柔軟化するかという具体的な適用例は公表されていない 。

広島県がMicronのEUV導入を見据えて高圧ガス保安法の規制緩和(簡素化・緩和)を国に要望したという報道があり、EUV装置がこの問題の中でしばしば例として挙げられてい るが、国がその要望を受けてEUVを含む装置を明示して「停止を要しない保安検査」「年1回検査からの免除」など具体的な措置を確定させた、という情報はまだ確認でき ない。

他国では「極端紫外線(EUV)露光装置」は以前から使われており、日本だけ年に何日か停止が必要などは考え難く、ラピダスとマイクロンが現行の高圧ガス保安法を前提に設備の建設を進めているのはありえない。おそらく経産省などとの間で、高圧ガス法の規定を適用しない方向で話が決まっていると思われる。

しかし、法律で動いている日本で、このような進め方がされるのは問題である。

慢性腎臓病(腎臓の働きが健康な人の60%未満に低下するか、あるいはタンパク尿など腎臓の異常が3カ月以上続く状態)は世界の主要な健康問題の一つで、腎不全が進行すると透析に至るため、その治療法の開発が急務だが、腎機能を改善する薬は 無かった。


東北大学大学院医学系研究科および医工学研究科の研究グループは、慢性腎臓病患者では合併する便秘によって腸内細菌叢の乱れが生じ 、腎機能の悪化につながるのではと考えた。


そこで国内9つの医療機関で中程度の患者118名を集め、慢性便秘治療薬ルビプロストン (腸管内への水分泌を促し、便を柔らかくすることで排便を促進する)の腎機能に対する効果を検証する第Ⅱ相臨床試験を実施した。

ルビプロストンは米国で2006年1月に(2007年9月、2013年4月に承認追加)、日本では2012年7月に承認された。商品名アミティーザ。

その結果、ルビプロストン8µgおよび16 μgを投与した患者群では、プラセボ群と比較して腎機能の低下が用量依存的に抑制された。

1)主要評価項目の尿毒症毒素(インドキシル硫酸)の血中濃度に有意な変化は見られなかった。

インドキシル硫酸は、食事のタンパク質に含まれるトリプトファンが腸内細菌に代謝され、肝臓で生成される尿毒素。
腎機能が低下すると、正常では尿中に排泄されるこの物質が体内に蓄積し、細胞の老化や線維化を促進することで慢性腎不全の進行に関与すると考えられている。


尿毒症毒素(インドキシル硫酸)の血中濃度に有意な変化は見られなかった。

2)一方、副次評価項目である腎機能においてルビプロストン16μg群ではeGFR(腎臓の機能を評価する指標)の低下がプラセボ群と比較して有意に抑制された。

  
この効果は特に中等度の腎機能障害を持つ患者で8μg、16μgの両群で顕著だった。

3)安全性については主な副作用(薬との関係がわかっていないものも含む)は軽度から中等度の消化器症状であり全体として良好な忍容性が確認された。


そのメカニズムとして、慢性便秘治療薬ルビプロストンによってミトコンドリア機能を改善するスペルミジン(ポリアミンの一種)を産生する菌が腸内で増え、血中のスペルミジン濃度が上昇して腎臓のミトコンドリア機能を改善することで腎保護効果をもたらすことを明らかにした。

本研究成果の概念図

ルビプロストン投与群では短鎖脂肪酸を産生する善玉菌であるBlautia属やRoseburia属などが増加

→ これらの細菌が持つポリアミン合成酵素遺伝子(aguA)DNA量が増加

→ それに応じて血中のスペルミジン(ポリアミンの一種)の濃度が上昇

ミトコンドリア機能の改善 腎機能の改善


本研究は、慢性便秘治療薬ルビプロストンが「腸内細菌→ポリアミン→-ミトコンドリア」という新たな経路を介して腎保護作用を発揮することをヒト臨床試験の解析から世界で初めて示した点で画期的 である。

本成果は、下剤が腸内環境を変化させることでミトコンドリアを介して腎機能低下を抑制できるという新しい治療戦略の可能性を示すものであり、今後 慢性腎臓病のみならずミトコンドリア異常疾患の治療開発への応用が期待される。

本研究成果は、2025年8月29日付で、科学誌Science Advancesに掲載された。  

Lubiprostone in chronic kidney disease: Insights into mitochondrial function and polyamines from a randomized phase 2 clinical trial


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