経済産業省は9月12日、米半導体メモリー大手マイクロン・テクノロジーの広島工場の設備投資や研究開発に最大5,360億円を支援すると発表 した。
ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業に同社の下記事業を採択した。
エッジ端末AI向けDRAMの革新的エネルギー効率改善を実現する製造技術の開発
なお、同社は特定半導体生産施設整備等計画認定制度でも2件の助成を受けている。
令和4年9月30日認定 特定半導体生産施設整備等計画 最大助成額は464.7億円
令和5年10月3日認定 同上 最大助成額は1,670億円
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次世代半導体の国産化をめざす共同出資会社「Rapidus」が北海道に建設する新工場に対しては、 ポスト5G 基金事業で支援しており、本年3月31日に経産省はラピダスに2025年度に8,025億円の追加支援を決定
累計で17,225億円 「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」の審査結果
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2022年度 |
2023年度 |
2024年度 |
2025年度 |
累計 |
前工程 |
700億円 |
2600億円 |
5365億円 |
6755億円 |
15420億円 |
後工程 |
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535億円 |
1270億円 |
1805億円 |
合計 |
700億円 |
2600億円 |
5900億円 |
8025億円 |
17225億円 |
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国はラピダスへの支援をさらに強化するため、次世代半導体企業を支援するための情報処理促進法などの改正法を提出、4月25日の参院本会議で可決・成立した。
経済産業省が所管する情報処理推進機構に金融業務を追加する。同機構を通じて政府が出資できるようになる。対象事業者は公募で選ぶとしており、ラピダスを想定する。同省は2025年度当初予算で出資金向けに1000億円を確保している。
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他に、半導体支援として下記の2つがある。
1) 経済産業省の「半導体の安定供給確保のための取組に関する計画(供給確保計画)」
概要と、承認済みの計画(今回を含め18件)
2) 特定半導体生産施設整備等計画認定制度があり、これまでTSMC、キオクシア、マイクロンメモリ(上記)
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ラピダスとマイクロンについては、政府がどんどん資金支援を行い、工事も進捗しているようだ。
しかし、この2件について、重要な点が曖昧なままになっている。
ラピダスやマイクロンはオランダの半導体製造装置大手ASMの「極端紫外線(EUV)露光装置」を導入する 必要がある。
2023/10/10 半導体装置大手ASML、北海道に新拠点、ラピダスの最先端半導体生産を支援
「極端紫外線(EUV)露光装置」の導入には高圧ガス保安法の改正が必要である。
EUV露光装置はPPL(Plasma-Produced Laser)方式の光源を採用
真空内を時速320km前後で移動する100万分の30mの大きさのスズの小滴を射出、レーザーを2回照射、1回目で高温にし、2回目で小滴を破壊、50万度のプラズマを発生させる。
スズを破壊させるプロセスを1秒当たり5万回繰り返すことで、半導体製造に必要な量のEUVが得られる。強力な炭酸ガスレーザーが必要。
炭酸ガスレーザーの生み出すエネルギーの8割は熱で、この除去が必要。 磁石でファンを浮上させ、熱を吸い出す。
この高圧状態のスズとその容器(タンク)が高圧ガス保安法の適用対象である。
高圧装置は、完成時の検査のほか、高圧ガス保安法に基づく年1回の保安検査が義務付けられている。
このため、24時間365日稼働し続ける半導体製造装置を何日か停止させねばならず、超高額装置の稼働率の低下をきたすことになる。
2022年〜2023年にかけて、「高圧ガス保安法等の一部を改正する法律」が成立しており、2023年12月21日から施行された「認定高度保安実施者制度」がその主要な改正のひとつ 。 この制度の趣旨・内容は、「自立的に高度な保安を確保できる事業者」について、保安検査等の手続きや検査の頻度などを一定緩和・合理化することを認めるというもの。
また、「認定高度保安実施者」の中でも更に要件が高い「特定認定高度保安実施者(A認定)」というランクもあり 、連続運転可能期間(停止しないでよい期間)や検査周期の延長など、より大きな緩和が可能。
ただ、この制度が成立した・施行されたということと、「EUV露光装置がこれにより年1回保安検査を停止なしで完全に免除される」ところまで来ているか、というと現時点ではそのような明確な報道や公式文書は見当た らない。
(ChatGDPに確認したが、見つけられないという回答があった。)
特に、EUVのような超高額・高圧スズタンクなどを含む装置が「認定高度保安実施者」制度の対象として認定を受け、その検査をどう柔軟化するかという具体的な適用例は公表されていない 。
広島県がMicronのEUV導入を見据えて高圧ガス保安法の規制緩和(簡素化・緩和)を国に要望したという報道があり、EUV装置がこの問題の中でしばしば例として挙げられてい るが、国がその要望を受けてEUVを含む装置を明示して「停止を要しない保安検査」「年1回検査からの免除」など具体的な措置を確定させた、という情報はまだ確認でき ない。
他国では「極端紫外線(EUV)露光装置」は以前から使われており、日本だけ年に何日か停止が必要などは考え難く、ラピダスとマイクロンが現行の高圧ガス保安法を前提に設備の建設を進めているのはありえない。おそらく経産省などとの間で、高圧ガス法の規定を適用しない方向で話が決まっていると思われる。
しかし、法律で動いている日本で、このような進め方がされるのは問題である。
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