武田薬品工業は米国でデング熱用ワクチンの販売の承認をFDAに申請する。クリストフ・ウェバーCEOが日本経済新聞に明らかにした。
承認されればワクチンで米市場に参入する初の日本企業となる。
デング熱は、最も急速に感染が拡大している蚊媒介の感染症で、世界保健機関(WHO)は、2019年のグローバルヘルスに対する10の脅威の1つにデング熱を挙げている。
主にネッタイシマカ、および比較的低い割合でヒトスジシマカによって媒介され、4種のウイルス血清型(DEN-1、DEN-2、DEN-3、DEN-4)すべてがデング熱または重症型デング出血熱を引き起こす可能性がある。個別の血清型羅患率は地理、地域、国や季節によって異なり、また時間の経過とともに変化していく。ある血清型のウイルスに感染した場合、その血清型に対する免疫は一生涯続くが、後に異なる血清型のウイルスに感染した場合、重症化のリスクが高まる。
デング熱はパンデミックを起こしやすく、熱帯および亜熱帯地域で流行が認められており、最近では北米大陸やヨーロッパの一部で流行している。現在、世界の約半数がデング熱の脅威にさらされており、毎年世界中で3億9000万人が感染し、約2万人が死亡していると推定されている。デングウイルスはあらゆる年齢の人々に感染し、中南米およびアジアの一部の国では小児の重篤な疾患の主な原因となっている。
武田薬品の4価デング熱ワクチンQDENGA®(TAK-003)は、4種のワクチンウイルス型すべての遺伝子型の"バックボーン"として弱毒化された生の2型デングウイルスをベースに構築されている。
元々はバイオ企業Inviragen (米コロラド州) が開発してきた。 2013 年に武田薬品がワクチンパイプライン拡充の一環で同社を3500万ドルで買収した。
Inviragenは2005年に設立、デング熱のほか幼児がかかりやすい手足口病のワクチンの研究開発を進めている。 シンガポールに開発拠点を持つ。従業員は約50人。
2022 年8 月にまずインドネシアで「QDENGA®」の製品名で承認を取得した。
米国では一度承認申請している。2022年11月24日、デング熱ワクチン候補(TAK-003)が、米国食品医薬品局により生物学的製剤承認申請 (BLA)を受理され、優先審査に指定されたと発表した。米国では、TAK-003は4歳から60歳を接種対象とした4種すべてのデングウイルス血清型によって引き起こされるデング熱の予防を目的として審査され た。
TAK-003 の生物学的製剤承認申請は、グローバル臨床第3相試験であるTIDES試験の安全性および有効性データに基づいている。
しかし、同社は2023年7月、米国食品医薬品局(FDA)との現行の生物学的製剤承認申請(BLA)の審査サイクル内では解決できないデータ収集に関する議論を経て、米国におけるTAK-003のBLAを自主的に取り下げ た。
同社では、必要なデータ収集についてFDAの審査期間中に対応することができないとしていた。
米国では自治領プエルトリコなどデング熱流行地域に旅行する人やそこで暮らす人たちにとってワクチンが必要な点を踏まえ、米国における今後のTAK-003を巡る対応をさらに検討していくとした。
デング熱ワクチンは2015年にフランスの製薬大手Sanofiの製品が世界で初めて承認されたが、感染歴がない子どもが接種すると感染時に重症化するリスクが高まることが判明すると、使用が大幅に減少した。
2022年10月に欧州医薬品庁(EMA)の欧州医薬品評価委員会(CHMP)から肯定的な見解があったことを受け 、同年12月に欧州委員会により、EUでの4種すべてのデングウイルス血清型により引き起こされるデング熱の予防を目的として、4歳以上を接種対象者として承認された。
2023年3月、ブラジルで国家衛生監督庁により、4種すべてのデングウイルス血清型により引き起こされるデング熱の予防を目的として、4歳から60歳までを接種対象として承認された。QDENGAは、デングウイルス感染歴を問わず、またワクチン接種前の感染歴検査を必要としない、ブラジルで承認された唯一のデング熱ワクチンである。
28,000例を超える小児および成人を対象とした19件の臨床第1、2、3相試験にわたる結果に基づき、4.5年の追跡調査データより一貫した有効性が示され、重要な安全性リスクは特定されなかった。
ベトナム保健省の医薬品管理局は2024年5月14日、QDENGAの流通と使用を承認した。ベトナムでデング熱ワクチンが承認されるのは初めて。
世界保健機関は2024年5月15日、武田薬品工業のデング熱ワクチンQDENGA®(TAK-003)を事前認定したと発表した。WHOの医薬品事前認証プログラム (PQP) は、調達機関の供給する医薬品が品質、安全性、有効性の許容基準を満たすものであることを確証する支援プログラム。
国連機関などによる調達が可能になり、ワクチンの普及が進むと見込んでいる。WHOがデング熱ワクチンを事前認定したのは Sanofi PasteurのCYD-TDV vaccineにつぐ2例目。
WHOは、デング熱が大規模流行している地域で6~16歳の子供に対してQDENGA®の接種を推奨。初回接種の3カ月後に、2回目を受けるよう求めている。
今回、WHOの推奨を受け、米国で再度申請する。
世界で最大年20億ドルの売上高を目指す。
武田薬品工業は2024年2月27日、デング熱ワクチンQDENGAの生産拡大のため、インドの大手ワクチン・医薬品製造のBiological E と協業することを発表した。今後、Biological E が年間最大5,000万回接種分のワクチンを製造することで武田のワクチン供給能力は2030年までに年間1億回接種分に増加する。
同ワクチンは現在、欧州、インドネシア、タイ、アルゼンチン、ブラジルなどで承認されているが、価格と生産量などが障壁となり、民間市場を通した接種がほとんどで、公共接種は限定的にとどまる。
今回の協業を通じ、インドで価格を抑えたワクチンの大量生産が実現すれば、蔓延国・地域で公共接種を中心としたワクチン提供の拡大が見込まれ、世界のデング熱対策に大きく貢献することになる。
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WHO 世界ワクチン市場レポート 2023 (2024年06月13日)
《ポイント》
- Covid-19 ワクチンは引き続き世界のワクチン市場量の 60 % (2022年) を占めている。
- ワクチン製造の集中は依然として続いており、10 社だけでワクチン投与量 (Covid-19ワクチンを除く) の 75 % を供給し、金額の 85 % を獲得している。
下図は2022年の売上高トップ10。上はCOVID-19用ワクチンを含むもので、PfizerとModernaが合計で50%を超える。
下はCOVID-19用ワクチン以外のもの。
日本のメーカーはなし。中国やインドは含まれている。
- 需要量の地理的シェアでは、WHO 南東アジア地域が引き続き世界のワクチンの約 30 % を消費している。
- 中所得国が購入するワクチンは世界の数量で 60 % 、金額で 34 % を占め、高所得国は、世界の数量で 29 % 、金額で 63 % を占めている。
- ワクチン調達メカニズムに関しては、自己調達が数量で市場の約75 % 、金額で市場の90 % を占め、ユニセフなどによるプール調達メカニズムが、それぞれ残りの 25 % と 10 % を補っている。
2022年 ワクチン売上金額 トップ10 COVID-19ワクチンを含む
COVID-19ワクチンを除外
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