INCJ(旧産業革新機構)は活動期限を2025年3月までと定めており、保有株の売却を進めている。
同社は3月14日にジャパンディスプレイ(JDI)の保有株をすべて売却したと発表した。これまで4,620億円の投融資をしており、1,547億円の損失が確定した。
支援決定 実投資額 回収額 損失 2011/8/31 2,000億円 2011/6/9 東芝・ソニーが携帯向け液晶統合、産業革新機構が出資 2016/12/21 750億円 2017/8/4 ジャパンディスプレイ、1千億円融資要請 2017/8/9 1,070億円 2018/6/26 200億円 2019/4/18 200億円 2019/8/7 200億円 2019/9/2 200億円 2025/3 3,073億円
売却完了、持株比率 0% 合計 4,620億円 3,073億円 1,547億円
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JDIは、東芝、ソニー、日立製作所と官民ファンドの産業革新機構が2012年春に中小型液晶パネル事業の統合会社として設立を発表したもの。
3社は10%ずつ出資、残り70%を産業革新機構が出資した。
当初は事業を拡大させ、2014年に株式を上場したが、中韓勢の参入で競争が激化した。2016年にも750億円の追加支援を決定するなどしたが、JDIは上場以来、一度も黒字化できず、株価も公募価格の900円を上回ることなく、現在は10円台で推移しており、INCJは当初想定した売却益を得られなかった。
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経営再建中のJDIは2020年1月31日、独立系投資顧問のいちごアセットマネジメントから最大1008億円の出資を受け入れる方向で最終契約を結んだと発表した。
いちごアセットは、日本開発銀行客員研究員やモルガン・スタンレー証券の株式統括本部長を務めたScott Callon 氏が2006年5月に設立した。社名の「いちご」は千利休が説いた茶人の心構え「一期一会」から採った。
2020/2/3 JDI、いちごアセットマネジメントと最終契約
いちごアセットの2024年9月末時点で出資比率は 78.19%である。
その後、JDIはいちごアセットのもとで経営改革を進めているが、ディスプレイ事業は厳しさが増している。そのため、「世界初、世界ー」の独自技術での成長を狙っている。
JDIは2022年5月に、世界で初めてマスクレス蒸着とフォトリソを組み合わせた方式で画素を形成し、輝度・寿命を大幅に高める次世代OLED「eLEAP」の量産技術を確立した。
また2022年3月には、世界で初めて第6世代量産ラインにおいて、従来の酸化物半導体薄膜トランジスタと比較して電界効果移動度が 2~4 倍以上となるバックプレーン技術「HMO」の開発に成功しており、早期の量産化を目指している。
そのほかを加え、6つの「世界初、世界一」独自技術を持つ。
eLEAP
(次世代OLED)%environment positive(環境ポジティブ)
Lithography with maskless deposition(マスクレス蒸着+フォトリソ方式)
Extreme long life, low power, and high luminance(超長寿命・省電力・高輝度)
Any shape Patterning(フリーシェイプ・パターニング)広発光領域でピーク輝度2倍または寿命3倍、フリーシェイプで明るく鮮明な画像を実現
OLED蒸着用マスクを使用せず、洗浄不要HMO
(High Mobility Oxide)電界効果移動度が、従来の OS-TFT 技術と比較して 2倍以上となる高移動度酸化物半導体(HMO、High Mobility Oxide)技術
及び 4倍以上となる超高移動度酸化物半導体(UHMO、Ultra High Mobility Oxide)技術メタバース
(超高精細ディスプレイ)圧倒的なリアリティと没入感
高い歩留りと安定した品質AutoTech EVに対応した統合コックピットの実現
HUDの進化による安全性の向上Rælclear
(透明ディスプレイ)高い技術開発力により実現したバックライト無しで表示が可能な液晶ディスプレイで、電源や駆動回路、HDMIと組み合わせて作られた透過率84%を誇るモニターセット。
映し出された映像は、表と裏の両面からクリアに見ることが可能。新技術・新商品・新事業 独自技術の用途拡大
課題解決型の新規事業
「世界初、世界ー」独自技術での成長のためにも、過去の遺産を処分する必要がある。
JDIは2023年2月10日、資本増強による財務基盤の抜本的改善ー成長戦略「METAGROWTH 2026」の加速化を発表した。
グローバルディスプレイ産業の市場環境が大変厳しい中、更なる事業モデル改革と収益向上の抜本策が必要不可欠
◼ 大幅資本増強と無借金化により、財務基盤を抜本的に改善し、成長戦略である「METAGROWTH 2026」を加速化
◼ 脆弱な収益構造の主たる原因は、当社がコモディティ競争に陥ったことによる既存商品の差別化の不十分さによるもの。即ち、当社が提供する独自の顧客価値の欠如
◼ 「METAGROWTH 2026」は、世界のトップテクノロジーカンパニーも認める、絶大なビジネスチャンス
◼ 「METAGROWTH 2026」の進化と深化を通じて当社の唯一無二の顧客価値を具現化し、収益基盤を飛躍的に強化
今回の資本増強の全体像
施策 下図 いちご債権 目的、効果 ① (2022/12)いちごから借入 2 280億円 ② 親会社「いちご」からの200億円の新規借入金→INCJからの同額の借入金の弁済 1 +200億円 資金調達(いちごからの借入金合計額480億円) ③ 2023/2/27 INCJが保有するA種優先株式のすべてを無償取得、消却 1 将来の希薄化の回避(A種優先株式は普通株式に転換可能 ④ 「いちご」がINCJより合計537億円の貸付金債権を譲受 2 +537億円 INCJからの借入金を完済 ⑤ 「いちご」によるJDIに対する150億円の債権放棄 2 -150億円 資本増強、完全無借金化に向けた借入金削減、財務基盤の強化 ⑥ 2025/3/14 INCJがJDIの普通株10百万株を市場で売却 持ち株ゼロ 3 ⑦ 「いちご」の貸付金債権の合計額867億円をデット・エクイティ・スワップ 3 計867億円 資本増強、完全無借金化、財務基盤の強化 ⑧ 新株予約権をいちごに割当て(総額1,736億円)をいちごに割当て ー 資本増強、資金調達、「METAGROWTH 2026」による成長の加速化、財務基盤の強化
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