京都大学医学部附属病院は4月17日、iPS細胞を用いたパーキンソン病治療の治験で"安全性"と"有効性" が示唆されたと発表した。
京大医学部附属病院は京都大学iPS細胞研究所と連携し、「iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療に関する医師主導治験」を実施した。
2018年6月4日付で医薬品医療機器総合機構(PMDA)に医師主導治験として治験計画届を提出し、2018年8月1日より治験を開始した。
7名のパーキンソン病患者を対象に、iPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞を脳内の被殻に両側移植した。主要評価項目は安全性および有害事象の発生で、副次評価項目として運動症状の変化およびドパミン産生を24カ月間にわたり観察した。
その結果、重篤な有害事象は発生しなかった。
iPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞は生着し、ドパミンを産生し、腫瘍形成を引き起こさなかったことが示された。
これにより、パーキンソン病に対する安全性と臨床的有益性が示唆された。
パーキンソン病モデル動物を用いた研究から、ドパミン神経前駆細胞(ドパミン神経細胞に分化する前の細胞)を移植することによって脳内に成熟ドパミン神経細胞が効率的に生着することが明らかになっている。
iPS細胞研究所の髙橋淳教授らの研究グループはこれまでに、ヒトiPS細胞からドパミン神経細胞を誘導する方法を開発し、サルのパーキンソン病モデルの脳内でドパミンを産生し、運動症状を改善することを確認した。
高橋淳教授らは2018年11月9日、iPS細胞から育てた神経細胞をパーキンソン病患者の脳に移植したと発表した。医師主導による臨床試験(治験)の1例目。
10月に50代の男性患者で実施した。患者は手術前と同じように過ごしているという。国内でiPS細胞の移植は目の網膜の難病に続いて2番目、保険適用をにらんだ治験は初めてとなる。
2018/7/30 京大がiPS細胞でパーキンソン病治療臨床試験へ
本治験は、日本医療研究開発機構(AMED)と住友ファーマ(当時は大日本住友製薬)より支援を受けて実施され、治験が成功すれば住友ファーマが開発を引き継ぎ、実用化を目指す。
2021/3/16 大日本住友製薬の再生医療事業
今回の「iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療に関する医師主導治験」のデータをもとに、治験に協力した住友ファーマは国に製造・販売の申請を行う。
住友ファーマの木村徹社長は2月4日、大阪市内で開いた説明会で、パーキンソン病を対象としたiPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞「DSP-1083」について「2025年度中の申請と承認取得を目指す」と表明した。再生・細胞医薬事業を移管した住友化学との合弁会社「RACTHERA(ラクセラ)」が中心となって事業を進める。早ければ2026年度中に販売を開始する見通し。
「DSP-1083」については当初2024年度内の申請、承認を計画していたが、医薬品医療機器総合機構(PMDA)との協議の進捗を踏まえ、先送りしていた。このほど京都大学による医師主導治験の結果発表のメドが立ち、準備が整ったことから条件・期限付き承認申請に向けた活動を再開した。
治験に参加した人数が少ないため、条件付きの「仮承認」となる可能性がある。
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パーキンソン病は、「ドパミン」という神経の伝達物質を作り出す脳の細胞が失われることで手足が震えたり体が動かなくなったりする難病で、国内にはおよそ25万人の患者がいるとされてい る。
主に薬の投与や電極を脳に埋め込むなどの治療が行われているが、現在、根本的に治療する方法はない。
ドパミンは神経伝達物質の一つで、ドパミン神経細胞の中で作られる。
パーキンソン病では脳の中脳黒質の神経細胞が減少し、脳の被殻へのドパミン供給が減るため、神経伝達に障害が生じ、手足が動きにくくなったり、ふるえたりする症状があらわれ る。
今回、iPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞を脳内の被殻 という部位に両側移植した。
iPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞は生着し、ドパミンを産生し、腫瘍形成を引き起こさなかったことが示された。重篤な有害事象は発生しなかった。
これにより、パーキンソン病に対する安全性と臨床的有益性が示唆された。
今回の治験は7人の患者に対して行われたが、1人については安全性のみの確認で、治療の効果が調べられたのは6人。
患者の運動機能がどのくらい改善したかを確かめるために、パーキンソン病患者の症状の程度を評価する国際的な指標の一つ、「国際パーキンソン病・運動障害学会統一パーキンソン病評価尺度パートIII」が使われた。
この指標は、しゃべるときのことばがはっきりしているかどうかや、いすから立ち上がるときに支えが必要かどうかなどの項目についてそれぞれ0から4までの5段階で評価するもので、症状が重いほど数字が大きくなる。
パーキンソン病の治療薬の効果が切れた状態で運動機能の検査を行った結果、2年が経過した時点で6人中4人の数値が改善し、中には32ポイント改善したという大きな効果が見られた人もいた。
4人のうち2人は症状の程度の区分が「中等症」から「軽症」に、1人は「重症」から「中等症」に改善した。
一方、2人は数値が数ポイント悪化したがこれは同じ期間、薬で治療を受けていた人と同じ程度の悪化だった。
大幅な改善が見られた患者は年齢が比較的若く、症状の程度が軽かったということで、研究チームはこの治療について「若くて重症度の低い患者に適していると考えられる」としてい る。
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