本研究ではまず、神経幹細胞の機能に関わる遺伝子DNAの発現と、その制御機構をマウスの実験で解析したところ、加齢による神経幹細胞の機能低下に伴って、遺伝子DNA分子の塩基配列自体は変えずに、DNAを取り巻くタンパク質の構造変化などで発現を可逆的に制御する「エピジェネティック制御」(遺伝子のDNAの順番を変えずに、遺伝子のオン・オフを制御するメカニズム)が働き、遺伝子発現が低下することを突き止めた。
次いで、このデータを基に、加齢による変化に関与する主要な因子として Setd8 を特定した。
Setd8は、ヒストンH4の20番目のリジンに一重メチル化(H4K20me1)を施す酵素。この修飾は細胞の増殖や老化の制御に関与しており、
Setd8の発現低下は神経幹細胞の機能低下を引き起こす。
さらに、海馬の神経幹細胞に対し、特異的に Setd8 の発現を抑制すると、神経幹細胞の枯渇が通常よりも早期に進行し、新生神経細胞の減少や記憶・学習機能の低下が引き起こされることを確認した。
一方で、Setd8 の発現を一時的に抑制した場合には、神経幹細胞の機能低下が一過性であり、Setd8 活性の回復によって再び正常な機能を取り戻すことができることも確認された。
この結果は、Setd8 の発現低下によるエピゲノムおよび遺伝子発現の変化が可逆的であり、Setd8の操作によって老化した神経幹細胞を「若返らせる」ことができる可能性を示唆している。
本研究の成果を基に、将来的には老化した細胞を再活性化する「若返りリプログラミング技術」の開発と加齢性疾患の克服が期待される。
本研究成果は、国際学術誌「The EMBO Journal」に2025年6月3日に公開された。
Epigenetic regulation of neural stem cell aging in the mouse hippocampus by Setd8 downregulation
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