経済産業省は9月12日、米半導体メモリー大手マイクロン・テクノロジーの広島工場の設備投資や研究開発に最大5,360億円を支援すると発表 した。

ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業に同社の下記事業を採択した。

エッジ端末AI向けDRAMの革新的エネルギー効率改善を実現する製造技術の開発   


なお、同社は特定半導体生産施設整備等計画認定制度でも2件の助成を受けている。

令和4年9月30日認定  特定半導体生産施設整備等計画  最大助成額は464.7億円

令和5年10月3日認定   同上             最大助成額は1,670億円

ーーー

次世代半導体の国産化をめざす共同出資会社「Rapidus」が北海道に建設する新工場に対しては、 ポスト5G 基金事業で支援しており、本年3月31日に経産省はラピダスに2025年度に8,025億円の追加支援を決定

  累計で17,225億円  「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」審査結果 

 
  2022年度 2023年度 2024年度 2025年度 累計
前工程 700億円 2600億円 5365億円 6755億円 15420億円
後工程     535億円 1270億円 1805億円
合計 700億円 2600億円 5900億円 8025億円 17225億円

国はラピダスへの支援をさらに強化するため、次世代半導体企業を支援するための情報処理促進法などの改正法を提出、4月25日の参院本会議で可決・成立した。

経済産業省が所管する情報処理推進機構に金融業務を追加する。同機構を通じて政府が出資できるようになる。対象事業者は公募で選ぶとしており、ラピダスを想定する。同省は2025年度当初予算で出資金向けに1000億円を確保している。

ーーー

他に、半導体支援として下記の2つがある。

 1) 経済産業省の「半導体の安定供給確保のための取組に関する計画(供給確保計画)

    概要と、承認済みの計画(今回を含め18件)

 2) 特定半導体生産施設整備等計画認定制度があり、これまでTSMC、キオクシア、マイクロンメモリ(上記)

ーーー

ラピダスとマイクロンについては、政府がどんどん資金支援を行い、工事も進捗しているようだ。

しかし、この2件について、重要な点が曖昧なままになっている。

ラピダスやマイクロンはオランダの半導体製造装置大手ASMの「極端紫外線(EUV)露光装置」を導入する 必要がある。

2023/10/10 半導体装置大手ASML、北海道に新拠点、ラピダスの最先端半導体生産を支援


「極端紫外線(EUV)露光装置」の導入には高圧ガス保安法の改正が必要である。


EUV露光装置はPPL(Plasma-Produced Laser)方式の光源を採用

真空内を時速320km前後で移動する100万分の30mの大きさのスズの小滴を射出、レーザーを2回照射、1回目で高温にし、2回目で小滴を破壊、50万度のプラズマを発生させる。

スズを破壊させるプロセスを1秒当たり5万回繰り返すことで、半導体製造に必要な量のEUVが得られる。強力な炭酸ガスレーザーが必要。

炭酸ガスレーザーの生み出すエネルギーの8割は熱で、この除去が必要。 磁石でファンを浮上させ、熱を吸い出す。

この高圧状態のスズとその容器(タンク)が高圧ガス保安法の適用対象である。

高圧装置は、完成時の検査のほか、高圧ガス保安法に基づく年1回の保安検査が義務付けられている。

このため、24時間365日稼働し続ける半導体製造装置を何日か停止させねばならず、超高額装置の稼働率の低下をきたすことになる。


2022年〜2023年にかけて、「高圧ガス保安法等の一部を改正する法律」が成立しており、2023年12月21日から施行された「認定高度保安実施者制度」がその主要な改正のひとつ 。 この制度の趣旨・内容は、「自立的に高度な保安を確保できる事業者」について、保安検査等の手続きや検査の頻度などを一定緩和・合理化することを認めるというもの。

また、「認定高度保安実施者」の中でも更に要件が高い「特定認定高度保安実施者(A認定)」というランクもあり 、連続運転可能期間(停止しないでよい期間)や検査周期の延長など、より大きな緩和が可能。

ただ、この制度が成立した・施行されたということと、「EUV露光装置がこれにより年1回保安検査を停止なしで完全に免除される」ところまで来ているか、というと現時点ではそのような明確な報道や公式文書は見当た らない。

(ChatGDPに確認したが、見つけられないという回答があった。)

特に、EUVのような超高額・高圧スズタンクなどを含む装置が「認定高度保安実施者」制度の対象として認定を受け、その検査をどう柔軟化するかという具体的な適用例は公表されていない 。

広島県がMicronのEUV導入を見据えて高圧ガス保安法の規制緩和(簡素化・緩和)を国に要望したという報道があり、EUV装置がこの問題の中でしばしば例として挙げられてい るが、国がその要望を受けてEUVを含む装置を明示して「停止を要しない保安検査」「年1回検査からの免除」など具体的な措置を確定させた、という情報はまだ確認でき ない。

他国では「極端紫外線(EUV)露光装置」は以前から使われており、日本だけ年に何日か停止が必要などは考え難く、ラピダスとマイクロンが現行の高圧ガス保安法を前提に設備の建設を進めているのはありえない。おそらく経産省などとの間で、高圧ガス法の規定を適用しない方向で話が決まっていると思われる。

しかし、法律で動いている日本で、このような進め方がされるのは問題である。

慢性腎臓病(腎臓の働きが健康な人の60%未満に低下するか、あるいはタンパク尿など腎臓の異常が3カ月以上続く状態)は世界の主要な健康問題の一つで、腎不全が進行すると透析に至るため、その治療法の開発が急務だが、腎機能を改善する薬は 無かった。


東北大学大学院医学系研究科および医工学研究科の研究グループは、慢性腎臓病患者では合併する便秘によって腸内細菌叢の乱れが生じ 、腎機能の悪化につながるのではと考えた。


そこで国内9つの医療機関で中程度の患者118名を集め、慢性便秘治療薬ルビプロストン (腸管内への水分泌を促し、便を柔らかくすることで排便を促進する)の腎機能に対する効果を検証する第Ⅱ相臨床試験を実施した。

ルビプロストンは米国で2006年1月に(2007年9月、2013年4月に承認追加)、日本では2012年7月に承認された。商品名アミティーザ。

その結果、ルビプロストン8µgおよび16 μgを投与した患者群では、プラセボ群と比較して腎機能の低下が用量依存的に抑制された。

1)主要評価項目の尿毒症毒素(インドキシル硫酸)の血中濃度に有意な変化は見られなかった。

インドキシル硫酸は、食事のタンパク質に含まれるトリプトファンが腸内細菌に代謝され、肝臓で生成される尿毒素。
腎機能が低下すると、正常では尿中に排泄されるこの物質が体内に蓄積し、細胞の老化や線維化を促進することで慢性腎不全の進行に関与すると考えられている。


尿毒症毒素(インドキシル硫酸)の血中濃度に有意な変化は見られなかった。

2)一方、副次評価項目である腎機能においてルビプロストン16μg群ではeGFR(腎臓の機能を評価する指標)の低下がプラセボ群と比較して有意に抑制された。

  
この効果は特に中等度の腎機能障害を持つ患者で8μg、16μgの両群で顕著だった。

3)安全性については主な副作用(薬との関係がわかっていないものも含む)は軽度から中等度の消化器症状であり全体として良好な忍容性が確認された。


そのメカニズムとして、慢性便秘治療薬ルビプロストンによってミトコンドリア機能を改善するスペルミジン(ポリアミンの一種)を産生する菌が腸内で増え、血中のスペルミジン濃度が上昇して腎臓のミトコンドリア機能を改善することで腎保護効果をもたらすことを明らかにした。

本研究成果の概念図

ルビプロストン投与群では短鎖脂肪酸を産生する善玉菌であるBlautia属やRoseburia属などが増加

→ これらの細菌が持つポリアミン合成酵素遺伝子(aguA)DNA量が増加

→ それに応じて血中のスペルミジン(ポリアミンの一種)の濃度が上昇

ミトコンドリア機能の改善 腎機能の改善


本研究は、慢性便秘治療薬ルビプロストンが「腸内細菌→ポリアミン→-ミトコンドリア」という新たな経路を介して腎保護作用を発揮することをヒト臨床試験の解析から世界で初めて示した点で画期的 である。

本成果は、下剤が腸内環境を変化させることでミトコンドリアを介して腎機能低下を抑制できるという新しい治療戦略の可能性を示すものであり、今後 慢性腎臓病のみならずミトコンドリア異常疾患の治療開発への応用が期待される。

本研究成果は、2025年8月29日付で、科学誌Science Advancesに掲載された。  

Lubiprostone in chronic kidney disease: Insights into mitochondrial function and polyamines from a randomized phase 2 clinical trial


北海道大学総合イノベーション創発機構化学反応創成研究拠点の范海竜特任准教授(現・深圳大学 准教授)、龔剣萍教授(先端生命科学研究院)、及び瀧川一学特任教授らの研究グループは、タンパク質のデータマイニング、実験、機械学習を統合した画期的なデータ駆動型アプローチで、超強力な接着性ハイドロゲルのデノボ設計に成功した。

デノボ設計(De Novo Design)は ラテン語で「ゼロから」「新たに」という意味で、既存のものを改良するのではなく、全く新しいアイデアや原理に基づいて、目的とする機能や特性を持つものを設計・構築する手法。

チームは、フジツボやカタツムリなどが持つ天然の接着剤約2万5千種類の情報を基に、およそ180種類のハイドロゲルを作製して接着性を計測。データを「機械学習」という方法でAI に学ばせ、より性能が高い組成を提案させた。

具体的には次の3つのステップを踏んだ。

 1. タンパク質データベースからの情報抽出と記述子開発:

自然界で強力な接着性を示す約2 万5千種類のタンパク質の配列パターンを詳細に解析した。
その結果、高分子鎖のランダム共重合によってそのパターンを再現できる独自の記述子戦略を開発。これにより、ターゲットとする高機能接着性ハイドロゲルの設計とデータセット構築が可能となった。

 2. バイオインスパイアードハイドロゲルの合成とデータセット構築:

上記の戦略に基づき、多様な組み合わせを持つ 180 種類の生体模倣ハイドロゲルを実際に合成し、その接着強度データを収集することで初期データセットを構築した。
これらのハイドロゲルの中には、先行研究で報告されたものを上回る接着強度を示すものが約半数も確認され、優れたデータセットを獲得した。

  3. 機械学習による組成最適化:

構築したデータセットを基に機械学習モデル(特にガウス過程とランダムフォレスト回帰)を訓練し、膨大な候補の中から最適なハイドロゲルの組成を効率的に探索した。
実験回数を減らすため、バッチ型逐次モデルベース最適化(SMBO)の手法も導入し、効率的な探索を実現した。

この作業を繰り返し、最も接着性が高い新規のハイドロゲル3種類を特定した。これにより、従来のハイドロゲルを大幅に上回る最大1MPa を超える接着強度を海水環境で達成した。

これらは1平方センチ当たり約10キロの力で引っ張ってもはがれず、貼ったりはがしたりを200回以上繰り返しても 接着性が維持できた。

水を満たした高さ3mの筒の下部にあけた直径2センチの穴に貼り付け、漏れを止めることもできた。

波が打ち寄せる海辺の岩にアヒルのおもちゃを固定できた。



このゲルは海の潮の満ち引きや波の衝撃にも耐え、過酷な海洋環境下での強力な接着性能を実証。

通常の水中環境はもちろん、塩分濃度が高い海水環境においても非常に強力な接着性能を発揮する。

マウスへの皮下埋め込み試験では、これら複数のハイドロゲルが良好な生体適合性を示すことも確認され、医療分野への応用における大きな可能性を示唆している。


長期的な水中接着性、高い耐久性、そして生体適合性を示すことが実証され、多様な実用応用例での大きな可能性を秘めている。

再生医療における組織接着剤、水中での精密手術用接着剤、深海探査ロボットの緊急補修材、さらには生体模倣ロボットの柔軟な皮膚など、多岐にわたる分野での応用が期待される。


一方で、本研究で確立したデータ駆動型設計アプローチは、接着性ハイドロゲルに留まらず、広範な機能性ソフトマテリアルの迅速な開発にも適用可能な、極めて系統的なアプローチを提供する。


本研究成果は、2025年8月6日公開の Nature 誌に掲載された。Data-driven de novo design of super-adhesive hydrogels


バイオ企業のNANO MRNAの子会社 PrimRNA(プライムルナ )は、膝の軟骨がすり減り、根本的な治療法がない変形性膝関節症に使う治療薬の臨床試験を9月にもオーストラリアで始める。

変形性膝関節症の患者数は国内では自覚症状を有する患者で約1000万人、潜在的な患者は約3000万人にのぼるとも推定される。加齢などで発症し、歩くと痛みが生じる。症状が進むと外出が困難になって健康寿命を縮める要因にもなる。

現状は外科手術で膝関節を取り除き、人工関節に置きえるなどの対策があるが 、対症療法にとどまり、根本的な治療法はない。

PrimRNAのオーストラリア法人が 位高啓史教授らの研究チームによる成果を基に治験を始める。遺伝情報を伝える物質のメッセンジャーRNA (mRNA) を患者に投与し、コラーゲンなどをつくる軟骨細胞の働きを高める 新しい治療法である。位高教授はアドバイザーとして治験に関わる。

ーーー

位高啓史氏は、東京科学大学総合研究院生体材料工学研究所教授で、大阪大学感染症総合教育研究拠点教授を兼務する。

東京科学大学は2024年10月に東京工業大学と東京医科歯科大学が統合して設立された 大学で、位高教授は東京医科歯科大の教授であった。

位高教授は2016年1月に東大の特任准教授であったが、東大大学院工学系のメンバーとの共同研究で、軟骨の形成に働く転写因子のmRNAを関節内へ届けると変形性関節症の進行を抑制できることを、動物モデルを用いて世界で初めて示した。本成果は、転写因子のmRNAが、新しい核酸医薬による治療法となりえることを示唆するものである。

mRNAは新型コロナウイルスワクチンの主成分として注目され、他の疾患に応用する研究が世界的に進んでいる。位高教授は、ノーベル生理学・医学賞を受賞したカタリン・カリコ氏と15年以上のつきあいがある。カリコ氏がmRNAに関する研究成果を出して間もない2008年頃、学会で本人から研究内容を説明してもらったことが、この研究を始めるきっかけの一つになったという。それ以降、学会などで意見交換してきた。

東京医科歯科大の位高教授らのチームは、人工的につくったmRNAで膝の痛みを抑える新しい再生医療の治験を計画した。

今回のmRNAは、膝軟骨の細胞の働きを高めるたんぱく質の遺伝情報でできている。患者の膝に注入すると、膝の細胞がこのたんぱく質を作り出し、軟骨を構成するコラーゲンを増やすなどして、軟骨が壊れるのを防ぐ。
動物実験では軟骨の摩耗や関節の変形を抑えることに成功した。

治験にはmRNA医薬品の開発を手がけるNANO MRNAなどが協力する。

NANO MRNAは1996年にナノキャリア㈱として設立された。2023年にmRNA医薬の創薬に特化する新ビジネスモデルへの転換に伴い、NANO MRNA㈱に改称した。

「mRNA創薬シーズと医療・開発ニーズをつなぐプラットフォーマーとしてmRNA医薬の知的財産(IP)創出とライセンスアウトのサイクルを確立する」という考えの下、事業活動を推進している。

mRNA医薬パイプラインでは、花王との共同研究で進めているアレルギー・自己免疫疾患治療ワクチンで、少なくとも1つのプロジェクトで開発候補品の選定の段階に進んでいる。
千寿製薬との眼科領域での共同研究も順調に進んでいる。


本件では、mRNAを直径1万分の1ミリ以下の膜に包んだ粒子状の医薬品とし、膝の細胞に届きやすくしている。

ポリアミンは、細胞内で様々な重要な機能を果たす生理活性物質で、細胞分裂や増殖を促進し、DNAやタンパク質の構造を安定化させるなど、生命活動に不可欠な役割を担っている。


高分子ミセルは、両親媒性高分子が水中で自己集合して形成するナノサイズの粒子で、疎水性の部分が内部に、親水性の部分が外部に配置されたコア-シェル構造を持ち、 薬物送達システム(DDS)として利用されている。




...

アスベスト訴訟では、一連の訴訟で最高裁が2021年に国とメーカーの賠償責任を認める統一判断を示した。

2021/5/19 最高裁、建設アスベスト訴訟で 国と企業の責任認める

国は1人最大1300万円の和解金を支払うことなどで基本合意した。

2021/12/18 建設アスベストで国と和解成立 最高裁で初

また、国家賠償請求訴訟を起こしていない被害者らを補償する「給付金制度」に関する新法が、2021年6月9日の参院本会議で全会一致で可決、成立した。


一方で、メーカー側の賠償範囲や金額を決めるための訴訟が続いている。

今回、8月7日に東京高裁で、翌8月8日に大阪高裁でメーカーとの和解が成立した。

建材用アスベスト(石綿)で健康被害を受けたとして、元建設労働者らが建材メーカーに損害賠償を求めた二つの訴訟で、東京高裁で8月7日、メーカー7社が原告計302人に40億円超を支払う内容で和解が成立した。

注)報道によっては、「400人に対し52億円」と伝えられているが、原告数約400人のうち、実際に賠償金を受け取る対象は302人で、金額は40億円超とみられる。

このほかの原告46人は、和解金は受け取れないものの、メーカーから弔意や見舞いの意を表明されることで和解を受け入れた。

原告弁護団によると、全国で起こされた同種訴訟33件(原告計約1450人)で最大規模の和解となる。和解したのは2008~2014年に東京地裁に提訴した集団訴訟の原告ら。

和解条項では、訴えられた建材メーカーの中で市場占有率の高い7社が賠償責任を負うこととなった。

ーーー

関西の建設作業員や遺族ら133人が建材メーカーに賠償を求めていた裁判について、8月8日、大阪高裁で和解が成立した。  

和解が成立したのは、このうち元建設作業員や遺族ら115人の作業員・遺族と建材メーカー12社。

国と和解が成立したあとの2023年に1審の大阪地裁は12社に賠償を命じたが、原告と被告のいずれも控訴して審理が続いていた。

弁護団によると、本年2月に大阪高裁から和解案が提示され、今回、双方が合意して和解が成立した。

和解条項には、
▼1審で賠償を命じられた12社が、原告の8割余りにあたる115人にあわせて12億4600万円余りの解決金を支払うことや、
▼被告となったすべての会社が、元作業員に哀悼とお見舞いの意を表明すること
などが盛り込まれた。

信州大学医学部と東京大学医科学研究所らの研究グループは、抗癌免疫を引き起こす能力を強化した機能付加型の第三世代がん治療用ヘルペスウイルス(T-hIL12)を用いた悪性黒色腫の治験で、高い治療効果を確認したと発表した。

切除不能又は転移性悪性黒色腫の未治療患者に対し、4回の腫瘍内投与を行ったところ、ウイルス投与後24週経過した9例で奏効率(癌が消失or縮小した患者の割合)が77.8%あり、標準治療の奏効率(34.8%) と比較し、極めて高い有効性を示した。

なお、投与後の副作用で最も頻度が高かったのは「一時的発熱」「一時的リンパ球数減少」で、高い安全性が再確認された。

ウイルス療法は、がん細胞に感染させたウイルスが増えることによって直接がん細胞を破壊する手法で、革新的ながん治療法として期待される。

T-hIL12は悪性神経膠腫(脳腫瘍)を適応症として2021年に国内で市販が開始されたG47Δ(一般名 テセルパツレブ、製品名 デリタクト注)に免疫刺激機能を付加した新型ウイルスで、その開発は、発明から医師主導治験に至るまで、研究者だけで推し進めてきた。

悪性黒色腫を適応症としたT-hIL12の製造販売承認申請の実現性は非常に高く、今後治験を加速させる。承認されれば、世界初の機能付加型の第三世代がん治療用ヘルペスウイルス薬となる 。

ーーー

悪性黒色腫(メラノーマ)は、メラニン色素産生能を有するメラノサイトのがん化によって生じる悪性腫瘍で、主に皮膚及び粘膜部に発生する。

転移を起しやすく、原発性皮膚がんによる死亡のおよそ半数を占める難治性の皮膚がん。

切除可能な悪性黒色腫は切除によって局所再発の減少や生存率の改善などが期待されるが、転移が生じると治癒は難しくなる。

近年、本邦では、進行期悪性黒色腫を適応対象とする免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬が承認され治療に用いられてい るが、免疫チェックポイント阻害薬でも奏効率は単剤で約10~30%台に過ぎず、疾患特異的生存期間の中央値も1.5年前後と、その治療効果は必ずしも十分では なく、重い副作用も治療上問題となる。

免疫チェックポイント阻害薬は、免疫細胞のブレーキを解除し、がん細胞を攻撃する力を高める薬

 抗PD-1抗体: PD-1という免疫細胞のブレーキ分子に結合し、免疫細胞の活性化を促す。
  
ニボルマブ(商品名: オプジーボ)やペムブロリズマブ(商品名: キイトルーダ)など

 抗CTLA-4抗体: CTLA-4という別のブレーキ分子に結合し、免疫細胞の活性化を促す。
  
イピリムマブ(商品名:ヤーボイ)

 併用療法: 抗PD-1抗体と抗CTLA-4抗体を併用

がんのウイルス療法は、がん細胞のみで増えることができるウイルスを感染させ、ウイルスが直接がん細胞を破壊する治療法。

ウイルス療法では、遺伝子工学技術を用いてウイルスゲノムを「設計」し、がん細胞ではよく増えても正常細胞では全く増えないウイルスを人工的に造って臨床に応用 する。がん細胞に感染するとすぐに増殖を開始し、その過程で感染したがん細胞を死滅させる。増殖したウイルスはさらに周囲に散らばって再びがん細胞に感染し、ウイルス増殖、細胞死、感染を繰り返してがん細胞を次々に破壊していく。

一方、正常細胞に感染した遺伝子組換えウイルスは増殖できないような仕組みを備えているため、正常組織は傷つけない。

遺伝子組換えウイルスを用いたウイルス療法の臨床開発は、近年世界で競争が加速しており、中でも、単純ヘルペスウイルス1型を応用した開発が先頭を走っており、2015年にはAmgenが開発した第二世代のがん治療用ヘルペスウイルス製品(talimogene laherparepvec  略称:T-VEC)が悪性黒色腫の治療薬として欧米で認可された。Amgenの子会社であるBioVex Inc.が製造する。

G47Δ(一般名 テセルパツレブ、製品名 デリタクト注)は、3つのウイルス遺伝子を改変した世界初の第三世代遺伝子組換えヘルペスウイルスで 、それまでのがん治療用ウイルスに比べて安全性と治療効果が格段に高くなっている。

G47Δ は東京大学医科学研究所 藤堂具紀教授と第一三共が共同で開発
2021年6月に承認され、2021年11月に第一三共が「デリタクト®注」(一般名:テセルパツレブ)として国内で発売した。

G47Δは2つの機序を介して抗がん作用を現す。
1つめは、がん細胞にG47Δが感染して細胞内で増殖し、がん細胞を直接破壊する。増えたG47Δは、周囲のがん細胞に感染し、がん細胞を次々に破壊していき、一定の期間増えたあと免疫に排除され る。

2つめは、がん細胞で増えたG47Δを免疫が排除する過程で、破壊されたがん細胞もG47Δと一緒に免疫に処理される結果、がん細胞が免疫系に初めて非自己として認識されて免疫の攻撃対象となる。
抗がん免疫を効率よく惹起するために、G47Δを投与した部位のみならず、投与していないところにあるがんにも免疫を介して効果が期待できる。またがん細胞が免疫系に認識されるため、G47Δで治療を行った患者は、免疫チェックポイント阻害薬が効く確率が高くなると考えられる。

さらに、G47Δは、がんの根治を阻むとされるがん幹細胞をも効率よく破壊することが判っている。

G47Δは悪性脳腫瘍、前立腺癌、嗅神経芽細胞腫、悪性胸膜中皮腫に対して国内で臨床試験が行われ、2021年に、悪性神経膠腫(脳腫瘍)を適応症として日本初のウイルス療法薬(再生医療等製品、一般名テセルパツレブ、製品名デリタクト注)として製造販売承認(条件及び期限付)され、市販が開始された。

T-hIL12は、G47Δの基本骨格免疫を強力に刺激する因子であるインターロイキン12(IL-12)の遺伝子を組み込み、抗がん免疫を引き起こす能力を強化した藤堂教授らが作製した世界初の機能付加型の第三世代がん治療用遺伝子組換えヘルペスウイルスで、G47Δと同じ3つのウイルス遺伝子が改変されているため、G47Δと同様に高い安全性と強い治療効果が期待できる。さらにT-hIL12は、がん細胞に感染するたびにヒトIL-12を産生するため、G47Δの2つめの作用機序、すなわち抗がん免疫を介した効果を増強し、強力な抗がん免疫作用を呈する。

単純ヘルペスウイルス1型は、ウイルスのゲノムに任意の治療遺伝子を組み込むことにより、特定の抗がん機能を付加することが可能だが、G47Δの基本骨格に、任意の外来遺伝子を短期間に的確に組み込むことができる画期的技術を開発した。この技術を用いることにより、さまざまな機能付加型G47Δを作製することが可能になった。

免疫を刺激する蛋白質の遺伝子をG47Δに組み込むと、抗がん免疫を引き起こす機能が一層増強したG47Δができる。動物実験などで、IL-12が高い治療効果を示したため、機能付加型G47Δの臨床応用の第一弾としてT-hIL12の治験を進めてきた。

T-hIL12は、G47Δよりさらに効率的に抗がん免疫を誘導して一層強い治療効果を発揮するため、T-hIL12を投与した部位のみならず、投与していない遠隔のがんにも免疫を介して治療効果が期待でき る。

今後、承認申請と審査を経て、抗がん免疫刺激機能を付加した第三世代がん治療用ヘルペスウイルスとして世界初の承認薬となる見込み。

韓国で「黄色い封筒法」と呼ばれる労働組合法2・3条改正案が7月28日に国会環境労働委員会を通過し、8月4日に本会議での処理を控えていた。

使用者の範囲と労働争議の概念を拡大(2条)し、労働組合活動による企業の損害賠償請求を禁止する(3条)という内容が核心である。

しかし、野党が法案投票を遅らせるためフィリバスターを開始し、投票に入れずにいる。


韓国の現在の労働組合法は、労働者の権利を保護しつつ、使用者とのバランスも考慮した内容となっている。
ストライキは、労働者の権利として認められているが、正当な範囲内で行われる必要がある。

ストライキが違法な場合、使用者から損害賠償を請求される可能性がある。ストライキは、労働組合の正当な権利として認められてい るが、違法はストライキや、ストライキによって会社に損害が発生した場合、刑法上の責任や損害賠償責任を問われる可能性がある。

1. 刑法上の責任:

  • 業務妨害罪:ストライキが、業務を妨害する行為とみなされた場合、業務妨害罪(刑法233条)が適用される可能性がある。例えば、暴力行為を伴うストライキや、正当な理由なく施設を占拠する行為などが該当する。
  • 器物損壊罪:ストライキの過程で会社の設備や備品を損壊した場合、器物損壊罪(刑法261条)が適用される可能性がある。
  • その他の犯罪:ストライキの過程で、傷害事件や脅迫事件などが発生した場合、それぞれの犯罪が適用される可能性がある。

2. 損害賠償責任:

  • 正当なストの場合労働組合法で認められた正当なストライキであれば、原則として損害賠償責任は発生しない。ただし、ストライキの態様が悪質で、会社に予見不可能な損害が発生した場合は、損害賠償責任を負う可能性がある。.
  • 違法なストの場合違法なストライキの場合、会社はストライキによって被った損害について、損害賠償請求をすることができる。 ストライキによって生産が停止し、販売機会を逸したことによる損失や、代替要員を雇用するための費用などが該当する。
  • 大法院の判例:韓国の大法院(最高裁判所)は、ストライキによって会社に実際の営業損失がない場合は、労組幹部に損害賠償責任はないと判断したことがある。ただし、ストライキによって会社の名誉や信用が毀損された場合は、慰謝料を支払うべきと判決した例もある。


実際にあった損害賠償請求の事例と金額

1. 双龍自動車のストライキ(2013年)

  • 金属労組が119名の解雇に反対してストライキを実施。

  • 会社側が警察などを通して訴訟を起こし、1審では 約14億1,000万ウォン(約1.38億円) の損害賠償請求が認められた。

  • 社会的に注目されたのが、後に 最高裁が支持した約47億ウォン(約3,600万円/当時の換算) の損害賠償命令。

2. 韓進重工業(2003年頃)

  • 労働運動や争議に対して会社が賠償請求し、関係した労働者の中に自死した者も複数。

  • 韓進重工業 では18億ウォン規模の仮差押え請求があったとされ、被害の深刻さが認知された。

3. 現代製鉄(2021年)

  • 641名の組合員に対し 200億ウォン(約1,440万米ドル) の損賠訴訟を提起。

  • 仁川地裁が下した判決では、約5億9,000万ウォン(約42万米ドル) の支払いが命じられた。会社側の主張した「余計な残業費等11.8億ウォン超」も、一部作業は通常発生すると認定され、責任を50%に制限。他の損害項目は因果関係・証拠不十分として却下された。

通称「黄色い封筒法」は、2014年に47億ウォンの損害賠償を請求された双龍自動車の労働組合を支援するために多くの市民が自発的な連帯活動として展開した「黄色い封筒キャンペーン」を起源とする。

損害賠償を負った労働者に対する支援として、ある市民が4万7,000ウォンを入れた黄色の封筒をメディアに送り、寄付運動のきっかけを作った――というのが「黄色の封筒法」の名前の由来。


黄色い封筒運動の趣旨は、労働組合の争議行為が違法とみなされて命じられる莫大な損害賠償、仮差押さえによる労組破壊と労働者の生活の破滅を防ごうというものだった。

実際に、黄色い封筒運動を主導してきた市民団体「手を取って」によれば、1990年から2023年にかけて197件の損害賠償・仮差押さえ事件で3160億ウォンが請求され、これらの事件の94.9%が労働者個人を標的にし、彼らの暮らしと家庭を深刻に破壊したことが確認できる。多くの企業が損害賠償・仮差押さえを武器に労組の無力化を試みる過程で、2003年の労働者ペ・ダルホさんをはじめ数十人の「労働者烈士」を生み出してもいる。

企業による雇用関係の外部化とデジタルプラットフォームの商業化によって、急速に増えている間接雇用の非正規労働者と従属的事業者に対し、労働基本権を保障しようというのが黄色い封筒法のもう一つの制定趣旨。

派遣、請負、用役、下請けなどの様々なかたちで働く間接雇用の非正規労働者、特殊雇用労働者、フリーランサー、プラットフォーム仲介労働者などの従属的事業契約に縛られて働く労働者は、労働組合を結成して彼らの労働条件を実質的に支配する「本当の社長」である元請け大企業、フランチャイズ本部、プラットフォーム事業者、仲介エージェンシー、親企業との交渉を保障するよう求めてきた。

元請け企業のほとんどが現行の労働関係法における使用者ではないとの理由で交渉を拒否しているため、不安定な労働者たちが自身の権益を改善するために違法ストライキに打って出た、というニュースにもよく接する。大宇造船海洋の下請け労組は昨年、元請けとの交渉を引き出すためにストライキを打たざるを得なかったが、それによって彼らの組合費や賃金ではとてもまかなえない途方もない額の損害賠償訴訟が起こされている。

現行の労働組合法の弱点の改善を目指す「黄色い封筒法」は、最高裁の判例、国際労働機関(ILO)条約(第87号と第98号)の批准、国家人権委員会の勧告などによって、その必要性に対する社会的コンセンサスは十分に形成されている。

ところが財界と保守メディアは、「黄色い封筒法」の施行はストの急増、労使関係の不安定化、法治秩序の崩壊などを招くため、企業投資の萎縮と雇用の減少に帰結し、結局は韓国経済を駄目にしてしまうと主張している。

労働争議を制限し、違法ストに対する過剰な損害賠償請求を認める現行の労組法体系こそが、労働基本権を形骸化させ ている。

ーーー

「黄色い封筒法」と呼ばれる労働組合・労働関係調整法第2条・第3条改正案は 2023年11月9日、野党主導で本会議において可決された

政府与党と財界は「国を亡ぼす悪法の強行」と激しく非難し、大統領に拒否権行使を求める一方、野党と労働社会団体は30年あまりかかった法制定であるだけに、直ちに公布・施行することを求めた。

しかし、尹錫悦大統領の再議要求権(拒否権)が行使され、2023年12月8日の本会議で再表決されたものの、賛成要件(出席議員の3分の2以上)を満たせず否決、法案は廃案となった。

2024年以降、共に民主党が改正案を再提案・再発議した下請け労働者の元請けへの対応義務強化や、争議行為の対象範囲拡大、損害賠償制限などを含む。

2025年7月28日、与党(共に民主党と進歩党)主導で国会環境労働委の小委員会を通過8月4日に本会議で決議される 予定。

1. 黄色い封筒法の概要

 1) 目的

  • 労働者が不当な損害賠償請求を避けることができるようにする。

  • 過度の損害賠償請求を制限し、労働争議における不正義を解消する。

 2)主な内容

  • 労働争議(ストライキ)による損害賠償請求を制限

    • 企業側が過度に高額な損害賠償請求を行うことに対する制限。

    • 労働組合が正当な理由でストライキや争議を行った場合、企業がその損害に対して過度に大きな請求をすることができなくなる。

  • 組合員の賠償責任の制限

    • 労働組合やそのメンバーが行ったストライキや争議活動に関連して個人に対する損害賠償責任を減少させる

    • 組合員が過剰に訴えられることを防ぐために、個別責任を限定する。

  • 訴訟制限

    • 特に企業が不当な訴訟を起こすことを防ぐため、裁判所が訴訟手続きにおいて企業の損害賠償請求額を慎重に審査することを求める内容が含まれている。

2. 法案の賛否

 1) 賛成の立場

  • 労働者と労働組合は、企業による過度な損害賠償請求が社会的に不公正であると主張し、この法案が成立することで、労働者の権利を守り、過度な負担から解放されると歓迎。

  • 労働組合は、ストライキが合法的な手段であり、その活動に対する過度の報復を防ぐために、この法案が重要だとしている。

 2) 反対の立場

  • 一方で、企業側は、ストライキや労働争議が生じた場合には、その影響で生産や経済活動に深刻な損害を与える可能性があるため、過度の損害賠償請求の制限は企業活動の自由を制約するとして反対している。

  • 企業側は、損害賠償請求を通じて、労働争議を抑止し、安定した経済活動を確保しようとする立場を取っている。


「黄色い封筒法」に対する経済界の反対がさらに強まっている。

韓国経営者総協会(経総)の孫京植)会長(CJグループ会長)は7月31日、緊急記者会見を開き、「国会は労働組合法の改正を中断し、社会的な対話をしなければいけない」と声を高めた。孫会長は「緊急記者会見は、それだけ労働組合法改正に対する経営界の心配が深いということと理解してほしい」と述べた。

孫会長は「数百の下請け会社の労働組合が交渉を要求すれば、元請け事業主はこれに対応できず、産業現場は極度の混乱状態になるはず」と懸念を表した。続いて「損害賠償額の上限を定め、勤労者の給与も差し押さえができないようにする代案を与党指導部と議員に会って提案した」とし「十分な議論なく労働界の要求だけが反映された」と主張した。

造船業界からは、「(下請け業者の数に合わせて)100回ずつ交渉しろというのか」という不満の声が上がっている。外資系企業は公然と「韓国からの撤退を考えざるを得ない状況だ」と話している。 ある上場企業の代表は、「大げさだと言うが、追加の商法の改正案が発効すれば、国内上場企業の多くの経営権が第3者に渡るだろう」と懸念している。



韓国の労使関係が「対立的」であることが原因である。


カネカは、大阪大学との共同研究成果を基に開発した気管支拡張用バルーンカテーテル(商品名:SUKEDACHI®)を 6 月より販売開始した。

カネカのバルーンカテーテルをはじめとした精密成形技術と、大阪大学大学院医学系研究科の臨床・非臨床試験に関する豊富な経験を融合することで製品化したもの。

日本では呼吸器系疾患の患者数は 700 万人以上で、そのうちがん死亡数第一位である肺がん患者数は約 33 万人にのぼる。

肺癌は中枢型と末梢型に大別されるが、ほとんどは肺の奥深くに発生する末梢型肺癌である。肺は先細りの気管支が無数に分岐する構造をしており、内視鏡(気管支鏡)を用いたとしても、十分に末梢型肺癌に近づくことができず、診断および治療を精度高く行うことは困難であった。

大阪大学大学院医学系研究科の三宅浩太郎助教らは2011年にCT画像を分析する'コツ'に気づき、オブリーク法(Oblique Method)と名付けた。内視鏡で末梢型肺癌にアプローチするための"道"が詳しく分かるようになった。

一方でオブリーク法で末梢型肺癌までの道が分かっても、気管支鏡が末梢型肺癌まで到達できるわけではない。気管支が先細りになっているからで、これまで肺野末梢に入っていくために気管支鏡はどんどん細く設計されたが、それでも十分に肺野末梢まで到達することはできなかった。

そこで助教らは逆に、気管支を広げることで気管支鏡を末梢に進めるというアイデアを思いついた。試しにブタの肺で心臓用のカテーテルを使ってこのアイデアを行ってみたところ、気管支鏡で肺の底まで到達することに成功した。

助教らはこの方法をBalloon Dilatation for Bronchoscopy Delivery (BDBD法:バルーン併用気管支鏡送達法)と名付けた。


カネカは大阪大学と提携し、肺がん診断を目的とした気管支鏡検査用途にバルーンカテーテルを開発、「SUKEDACHI」と名付けた。従来到達困難であった肺の奥深くまで気管支鏡を送達させることが可能になり、病変の診断精度の向上が期待される。

胸部異常陰影 2 ㎝未満のがんの診断率について、従来法は 34%に対し、SUKEDACHI を用いた気管支鏡検査の臨床成績は 77.8%を達成した。

また、病変付近まで気管支鏡を届けられる特長により、患者の負担を軽減する気管支鏡下治療(気管支鏡を使って気管・気管支の狭窄を拡張したり、がん細胞を焼灼したりする治療)への応用が可能になるなど、今後の用途拡大が期待される。




欧米の製薬大手が中国の製薬会社から相次いで新薬候補の開発・販売権を取得している。

激しい競争のもとで各社は新薬の開発に注力しており、どこの国のものであれ、特許情報等で可能性があると判断した候補薬剤を競って入手しようとしている。

1)米Merck

米Merck (米、カナダ以外ではMSDの社名を使用)は2024年12月18日、中国のバイオ医薬会社の翰森製薬集団Hansoh Pharma)との間で臨床試験前段階のGLP-1受容体作動薬 HS-10535のグローバルの独占ライセンス契約を締結した。

「GLP-1受容体作動薬」または「グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬」は、体内で生成されるGLP-1というホルモンと似た働きをする薬で、GLP-1は、血糖値を下げるインスリンの分泌を促進し、食欲を抑制する効果がある。

このため、最近は新タイプの肥満症治療薬として各社が競っている。

(GLP-1受容体活性化に加え、
グルコース依存性 インスリン分泌刺激ポリペプチド のGIP受容体を活性化させるものもある。)

CNBCによると、各社の開発状況は下記の通り。

製品名

メーカー

用法

米承認

Wegovy

Novo Nordisk

週1回の注射

2021 承認

GLP-1を活性化 

Zepbound

Eli Lilly

週1回の注射

2023 承認

GLP-1とGIPを活性化   

Saxenda

Novo Nordisk

週1回の注射

2020 承認

GLP-1を活性化

MariTide

Amgen

月1回の注射

Experimental

GLP-1を活性化し、GIPをブロック

Danuglipron

Pfizer

1日1回の錠剤

Experimental

GLP-1を活性化

VK2735

Viking Therapeutics

週1回の注射

Experimental

GLP-1とGIPを活性化

Pemvidutide

Altimmune

週1回の注射

Experimental

GLP-1を活性化

GSBR-1290

Structure Therapeutics

週1回の錠剤

Experimental

GLP-1を活性化

Survodutide

Zealand Pharma,
Boehringer Ingelheim

週1回の注射

Experimental

GLP-1とグルカゴンを活性化


2024/4/15 新タイプの肥満症治療薬が急増


ライセンス契約では、翰森製薬集団はMerckにHS-10535をグローバルに開発・生産・販売する独占的な権利を与える。見返りに翰森製薬集団は1億1,200万ドルの一時金を受け取るほか、開発、規制当局の承認および商業化に関連するマイルストーンに応じて、最大19億ドルの支払いを受け取る可能性がある。また、売上に応じたロイヤルティも受け取る。

翰森製薬集団は特定の条件で中国においてHS-10535を単独またはMerckと共同でHS-10535を商業化できる。

翰森製薬は、イノベーションを原動力とする大中華圏の大手製薬企業で、がん、感染症、中枢神経系疾患、代謝性疾患、および自己免疫疾患といった主要な疾病の治療に取り組んでおり、継続的なイノベーションを通じて人々の健康の向上に貢献することを使命としている。

同社は世界の製薬企業トップ100の一つとして、また中国における製薬研究開発パイプラインの分野で数年間にわたりトップ3の優良産業企業にランクインしており、国家重点ハイテク企業および国家技術革新モデル企業にも指定されている。

2) 米Pfizer

Pfizer Inc. 2015年5月19日、中国の大手バイオファーマの三生製薬(3SBio, Inc) との間でPD-1と血管内皮増殖因子(VEGF)を標的とする二重特異性抗体であるSSGJ-707の、中国以外でのグローバルな独占的開発、製造、販売のライセンス契約を締結した。SSGJ-707は現時点では中国で非小細胞肺がん、転移性大腸がん、および婦人科腫瘍を対象に複数の臨床試験が行われている。

ーーー

以下、AIによる「概要」

PD-1を標的とするのは免疫チェックポイント阻害薬で、免疫細胞のブレーキを解除してがん細胞を攻撃させる。一方、VEGFを標的とするのは血管新生阻害薬で、がん細胞への栄養供給を遮断して増殖を抑制する。

1) PD-1を標的とする治療(免疫チェックポイント阻害薬)

  • PD-1は、免疫細胞であるT細胞の表面に存在するタンパク質で、免疫反応を抑制する役割がある。
  • PD-1の働きを阻害する薬剤(PD-1抗体など)は、T細胞のブレーキを解除し、がん細胞を攻撃する免疫力を高める。
  • PD-1抗体は、がん細胞の表面にあるPD-L1というタンパク質と結合することで、免疫細胞の攻撃を抑制するPD-1の働きを阻害する。
2) VEGFを標的とする治療(血管新生阻害薬)
  • VEGFは、血管内皮細胞を増殖させ、新しい血管を形成するのを促進するタンパク質。

がん細胞は、VEGFを過剰に分泌して血管新生を促し、栄養や酸素を吸収して成長する。

VEGFを阻害する薬剤(抗VEGF薬、血管内皮増殖因子阻害薬)は、がん細胞への栄養供給を遮断し、増殖を抑制する。

抗VEGF薬は、がんだけでなく、加齢黄斑変性や糖尿病網膜症などの眼科疾患の治療にも用いられる。

3) PD-1とVEGFの標的治療の組み合わせ
  • PD-1とVEGFを標的とする治療は、それぞれ異なるメカニズムでがん治療に作用するため、両方を組み合わせることで相乗効果が期待できる場合がある。
  • 例えば、PD-1阻害薬と抗VEGF薬を併用することで、免疫細胞の攻撃を強化し、同時に血管新生を抑制し、より効果的ながん治療を目指すことができる。

ーーー

契約に基づき、三生製薬(3SBio, Inc)と子会社である瀋陽陽光製薬有限公司および3S国建製薬(上海)有限公司はSSGJ-707を中国以外の全世界で開発、製造、商業化する独占的グローバルライセンスをPfizerに与える。更にPfizerに中国において商業化するオプション権も与えている。

三生製薬(3SBio, Inc)は頭金として12.5億ドルを受取り、開発、承認、販売のマイルストンごとに最大48億ドルを受け取ることが可能で、加えてSSGJ-707が承認を受けた場合、段階的な2桁の販売ロイヤリティを受け取る。

本取引は、必要な規制当局の承認および3SBio株主の承認を含む、慣例的な完了条件の充足を条件として、第3四半期に完了する見込みで、完了後にPfizerは両社間で合意された証券引受契約に基づき、3SBioに1億ドルの株式投資を行う。

Pfizerは、SSGJ-707の原薬をノースカロライナ州Sanfordで、製剤をカンザス州McPhersonで製造する予定。

3)英GSK

GSKは7月28日、中国の製薬大手・江蘇恒瑞医薬(Hengrui Pharma) と、最大12件の革新的医薬品の開発に関する契約を締結したと発表した。これにより、2031年以降の同社の成長機会が大幅に拡大する。

恒瑞医薬(Hengrui Pharma)は、満たされていない医療ニーズに対応する高品質な医薬品の研究、開発、商業化に取り組む革新的なグローバル製薬企業で、14の研究開発センターと5,500人以上の研究開発専門職を擁する同社は、腫瘍、代謝性疾患、心血管疾患、免疫・呼吸器疾患、神経科学などを重点治療領域としている。

 これまでに中国で23種類の新規化合物医薬品と4種類の革新的医薬品を商業化している。1970年に設立され、「患者第一」を基本理念とし、病気の克服、健康の改善、寿命の延伸を科学と技術の力で実現することを使命としている。

本契約で選定されたプログラムは、GSKの強力な呼吸器・免疫・炎症(Respiratory, Immunology & Inflammation:RI&I)および腫瘍領域のパイプラインを補完するもので、ベスト・イン・クラスまたはファースト・イン・クラスの可能性があると評価されてい。GSKはこれらの契約に対して、総額5億ドルの前払金を支払う。

契約には、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の維持療法として開発中の有望なPDE3/4阻害剤「HRS-9821」に関する全世界(中国本土、香港、マカオ、台湾を除く)独占ライセンスが含まれている。この薬剤は、吸入ステロイドやバイオ医薬品による治療が適さない、あるいは息切れが続くCOPD患者にも適応が期待され、GSKの目指す「COPD患者全体を幅広くカバーする治療選択肢の提供」に寄与する。

PDE3/4とは、ホスホジエステラーゼ3型と4型を指す。これらは、細胞内のcAMPという物質の分解を促進する酵素で、その濃度を調節することで、炎症や気管支拡張などの生理的な反応を制御する。

HRS-9821は、PDE3およびPDE4の強力な阻害作用を示しており、初期の臨床および前臨床試験において、気管支拡張作用と抗炎症作用の両方を確認している。また、利便性の高いドライパウダー吸入剤(DPI)としての製剤化が可能であり、GSKの既存の吸入製剤ポートフォリオとも戦略的に適合する。

さらに、本契約には、HRS-9821に加えて最大11件の新規プログラムを対象とする画期的なスケールアップ型共同開発契約も含まれている。これらのプログラムは恒瑞医薬が第I相試験(中国国外の患者も含む)まで開発を主導し、GSKは各プログラムについて第I相終了時またはそれ以前に、世界(中国本土、香港、マカオ、台湾を除く)における独占的な開発および商業化の選択権を持つ。また、一部のプログラムについては代替選択権も含まれている。

この提携により、最大11件の革新的な医薬品を概念実証(PoC)まで迅速かつスケールを持って開発することが可能になる。GSKの治療領域における専門知識、疾患生物学への深い理解、臨床開発能力、グローバルな商業展開力と、恒瑞医薬の早期創薬能力、プラットフォーム技術、前臨床段階の高価値パイプライン、臨床評価のスピードが組み合わさることで、強力なシナジーが生まれる。

GSKは、PDE3/4プログラムのライセンスを含む契約に対して、前払金として総額5億ドルを支払う。すべてのプログラムが選択され、すべてのマイルストーンが達成された場合、恒瑞医薬が受け取る可能性のある成功報酬(開発、規制、商業的マイルストーン)の合計額は約120億ドルにのぼる。

加えて、恒瑞医薬は世界(中国本土、香港、マカオ、台湾を除く)における製品純売上高に対して段階的なロイヤリティを受け取る権利を持つ。

柏崎刈羽原子力発電所について、東京電力は6月25日、先行して準備を進めてきた7号機に代わり、6号機の再稼働を優先することを決めたと発表した。

問題は、6号機、7号機ともにテロ対策施設が完成していないことである。これが未完成の場合、稼働できないが、通常の審査終了後5年間は猶予されている。

テロ対策施設は「特定重大事故等対処施設」と呼ばれ、2011年の福島第一原発事故後にできた新規制基準で設置が義務付けられた。
原子炉から離れた場所に建て、遠隔制御で原子炉を冷やす設備を備える。原子炉が航空機の衝突などによる攻撃を受けても、電源や冷却機能などを失わないようにする。

6号機は設置期限が2029年9月、7号機は2025年10月である。それまでは稼働できる。

原子力規制委員会は2019年4月24日の定例会合で、原発に設置が義務付けられているテロ対策施設が期限内に完成しない場合、 期限の延長を認めないことを決めた。原則として原発の運転停止を命じる。


東京電力は2025年2月27日、再稼働を目指している7号機のテロ対策施設の完成が遅れ、設置期限の10月に間に合わないと発表した。

7号機のテロ対策施設は今年3月に完成予定としていたが、難工事だった上、人手不足などから遅れ、2029年8月に延期した。

7号機の場合、昨年4月に原子炉に核燃料を装塡しており、地元の同意を得ることができれば、再稼働できる状態だった。猶予期限の今年10月までは稼働できるが、それ以降は完成する2029年まで稼働できない。

一方、6号機は設置期限が2029年9月で、それまでの猶予期間は稼働できる。東電は核燃料を今年6月に装塡する計画を示しており、6号機を今夏にも再稼働させたい考え。

核燃料装填 テロ対策設置期限
未設置の場合、操業停止
テロ対策設置予定 テロ対策完了前の稼働可能期間
(地元の同意が前提)
6号機 2025/6/21 2029/9 当初2026/9→2031/9 6号機遅れの影響 稼働→2029/9 地元同意は9月
降となる。
7号機 2024/4 2025/10 当初2025/3→2029/8 難工事、人手不足 稼働→2025/10


東電では当初、準備が先行する7号機について、地元同意が得られて再稼働したとしても9月末には停止する必要があるが、短期間でも優先で再稼働させたい考えを示した。

一方、設置期限が2029年9月の6
号機については今夏以降にも再稼働させたいとした。6号機はテロ対策施設の設置期限まで4年程度の余裕があるほか、今月21日、原子炉に核燃料を入れる作業が終わるなど、再稼働に向けた準備も進んでいる。

いずれにしても、地元の同意が大前提であるが、新潟県の花角知事は、県民の意見を聞く「公聴会」が終わる今年8月末以降に再稼働の是非を判断する見通しで、地元の同意が得られるとしても9月以降となり、7号機を再稼働させるのは難しくなった。

こうしたことから柏崎刈羽原発の稲垣武之所長は、25日の記者会見で6号機の再稼働を優先することを決めたと正式に発表した。今後、7号機の原子炉に入っている核燃料を取り出し、燃料プールに戻すことも検討する。

稲垣所長は「6号機にリソースを集中させ、設備の健全性の確認など再稼働に向けた準備を進めていきたい」と述べた。



なお、立地する柏崎市と刈羽村では再稼働への理解が進んでいるといえる。両市村では昨年11月、任期満了に伴う首長選が行われ、柏崎市長選は再稼働を条件付きで容認する姿勢を示す現職の桜井雅浩氏が大差で3選。刈羽村長選は、再稼働を容認している品田宏夫氏が無投票で7選を果たした。

桜井市長は3選を決めた際に、「再稼働の是非について判断を下し、その判断について県民に信を問う時期に来ている」と述べ、花角知事に対応を促した。
品田村長も「原発が発電することで村が回っていく。それが村の望む姿だ」と再稼働の必要性を訴えた。

しかし、花角英世知事は再稼働の賛否を明らかにしていない。

花角知事は2023年5月、再稼働の判断にあたって、まず「議論の材料」が必要と主張した。

①福島第一事故の「三つの検証」②柏崎刈羽原発の運転禁止命令の解除③同原発の安全性確認④事故時の避難を巡る取り組みで、これらは既に出揃った。

その後に「県民の受け止めを見極める」手続きが必要としており、公聴会、首長との対話、県民意識調査を挙げていた。県は公聴会の日程を6月29日~8月31日と発表、その後に「リーダーとして判断する」としている。

これについて6月19日の県議会の代表質問で県議が、辺野古基地建設を当時の知事が承認した後、知事選や県民投票で反対の民意が示されても工事が止まらないことを引き合いに出し、「県民の意思を反映させるには、国に対して再稼働への理解要請に回答する前に県民の意思を確認するべきだ」と問いかけた。

これに対し知事は、「県民の意思を確認した後、国からの理解要請へ回答することになる」と述べた。意思を確認する方法については明確にしなかったが、選挙などで「信を問う」ことも例示した。

一方、再稼働の是非を判断する時期について問われると「現在、県民の多様な意見の把握に努めているところ。結論を申し上げる段階にない」とした。

同意についての判断は事実上、9月以降にずれ込むことになる。

最近のコメント

月別 アーカイブ