三井物産は近く豪州でLNGの新規生産を始める。

豪州南西部のWaitsia ガス田由来のLNGで、権益ベースで年70万トン程度の生産を見込む。

三井物産は2023年12月、三井物産100%子会社のAWE Pty Ltd を通じて50%権益を保有しオペレーターを務める西豪州Waitsiaガス田の本格的商業開発につき、事業パートナーのBeach Energy Limitedと共に、必要な政府許認可取得を前提とした最終投資決断を行った。

同社は2018年に、西豪州パースの北約350kmの陸上にあるWaitsiaガス田の権益を保有するAWE Pty Ltdを買収した。
同買収は、Waitsiaガス田をはじめとした豪州国内の優良原油・ガス資産のポートフォリオを拡充すること、及び豪州石油・ガス生産事業に於いてより活動領域を広めるためオペレーター機能を獲得することを目的としていた。

2018/2/9 三井物産、豪石油ガス大手買収

Waitsiaガス田は、豪州最大級の陸上天然ガス田でAWEとBeach Energyが50%ずつ権益を有する。

三井物産はAWE買収後に、三井物産が参画するNorth West Shelf JV の天然ガス液化設備を通じてLNG市場へのアクセスを確保したことから、商業化推進の判断に至った。

North West Shelf JVはBHP Billiton、Woodside Energy、BP、Chevron、Shell、Japan Australia LNG(通称 MIMI)の6社が均等出資し、Woodside が運営を担当する。

MIMI社概要

名称 Japan Australia LNG (MIMI) Pty., Ltd
設立年 1985年
資本構成 三井物産50%、三菱商事50%
事業概要 ガス・石油の探鉱、開発、生産、ガス液化、輸送及び販売
所在地 西オーストラリア州パース

2022年6月にBHP とWoodside が合併し、これが1/3を所有、他の4社が1/6ずつ所有する。

沖合生産プラットフォームでの石油(主に天然ガスとコンデンセート)の採掘、Karrathaガスプラントでの陸上処理、州内の産業用、商業用、家庭用の天然ガス生産、および液化天然ガスの輸出が含まれる。

 

Waitsiaプロジェクトは、世界で需要の増加が見込まれるLNGの安定供給に貢献するとともに、西豪州の製造業や消費者向けに国内ガスの供給を継続することを予定している。また、中期的にガスへの燃料転換を促進し、低炭素社会の実現に貢献する取り組みになる。

Waitsia のステージ2開発では、既存の日量20テラジュールの生産能力に加えて、日量250テラジュールの生産能力を新設する。具体的には、追加生産井の掘削と新規ガス処理施設の建設を予定しており、総投資額はプロジェクト100%ベースで7.68億豪ドル(約593億円)を予定している。

Waitsia JVはNWS JVとの間でガス処理契約を締結し、ガスを液化し輸出するために必要となる設備の利用権を確保している。

欧州委員会は12月5日、デジタルサービス法 (Degital Seevices Act : DSA) に基づく透明性義務に違反したとして、Elon Musk の SNSプラットフォーム「X」(旧Twitter)に対して1億2000万ユーロの罰金を科した。


EUの
デジタルサービス法は、SNSなどのオンラインプラットフォームに対し、違法・有害コンテンツ(偽情報、ヘイトスピーチなど)の削除、広告の透明性確保、利用者保護を義務付けるEU統一ルールで、2022年11月16日に発効、2024年2月に全面施行された。違反企業には巨額の制裁金(最大 年間売上高の6%)が科される。
  • 目的: オンライン環境での安全確保、偽情報対策、消費者の基本的人権保護、公正なデジタル空間の創出
     
  • 義務:
    • 違法コンテンツの迅速な削除・対応
    • 広告のターゲティング情報(誰が広告を出しているか)の開示
    • 「レコメンデーション(おすすめ表示)」の仕組みの透明化
    • 研究者によるデータアクセスへの協力
    • リスク評価と対策の実施(特に大規模プラットフォーム)

参考: 総務省 EU DSA法(Digital Services Act)の概観 (野村総合研究所作成)

 

2023年12月18日、委員会は、違法なコンテンツの拡散および情報操作に対抗するために講じられた措置の有効性に関連する分野において、Xがデジタルサービス法に違反した可能性があるかどうかを評価するための正式な手続を開始した。

Xは今回の調査で、EUで新しく施行されたデジタルサービス法(DSA)の違反の疑いがあるとして正式な調査を受ける初の主要なプラットフォームとなった。

違反行為には、1) 「ブルーチェックマーク」(青いバッジ)の誤解を招く設計、2) 広告リポジトリの透明性の欠如、および 3) 研究者が公開データへのアクセスを提供しなかったことが含まれる。

 

1) 「ブルーチェックマーク」の誤解を招く設計

Blue Checkmarkは、SNSが、そのアカウントが公式または本人であることを示す認証バッジで、アカウントの信頼性や本物であることを証明し、なりすましを防ぐ役割がある。

Xが「認証済みアカウント」にBlue Checkmarkを使用したことは、ユーザーを欺く。

これは、オンラインプラットフォームが提供するサービスにおける欺瞞的なデザイン慣行を禁止するというデジタルサービス法の義務に違反している。Xでは、アカウントの背後にいる人物を会社が有意義に確認することなく「検証済み」ステータスを取得するために誰でも支払いが可能であり、ユーザーがアカウントやコンテンツの真正性を判断するのは困難になる。この詐欺は、ユーザーを偽装詐欺を含む詐欺や、悪意のある行為者による他の形の操作にさらす。

デジタルサービス法はユーザー検証を義務付けていないが、そのような検証が行われなかった際に、オンラインプラットフォームがユーザーが認証済みであると虚偽に主張することを明確に禁止している。

Xでは2023年4月以降、従来の著名人向け認証は終了し、誰でも料金を払って(条件付きで)Blue Checkmarkを獲得できるようになった。著名人でなくても、誰でも条件を満たせば取得可能になった。

Elon Musk の買収以前のTwitterの従来のBlue Checkmark の主な特徴:
  • 信憑性の証明: なりすましやパロディアカウントと、著名人、ジャーナリスト、政治家、企業などの公式なアカウントを区別することを目的としていた。
  • 基準の厳格さ: バッジは、Twitter社が独自に設定した「著名で、活発で、信頼できる」という基準に基づいて、審査を経て付与されていた。誰でも申請できたが、必ず付与されるわけではなかった。
  • 無料: 現在のように月額料金を支払って取得するものではなく、基準を満たしたアカウントに無料で提供されていた。
  • ステータスシンボル: 所有が難しかったため、一種のステータスシンボルや社会的信用を示すマークとして認識されていた。
Elon Muskによる買収後、従来の認証プログラムは廃止され、Blue CheckmarkはX Premiumサブスクリプションの加入者に付与されるものに変更された。
必ずしもアカウントの著名さや公式な身元確認を意味するものではない。

即ち、現在のBlue Checkmarkは、対象のアカウントがX Premiumのアクティブなサブスクリプションを保有しており、所定の資格基準を満たしていることを意味する。

Xプレミアムには「ベーシック」、「プレミアム」、「プレミアムプラス」の3つのサブスクリプションレベルがあり、レベルが高くなるほど、より多くの機能を利用できる。

Xプレミアムは、以下の基準を満たしている必要がある。

  • 情報に不備がないこと: 対象のアカウントには表示名とプロフィール画像が設定されている必要がある。
  • アクティブに利用されていること: Xプレミアムにサブスクライブするには、対象のアカウントが過去30日間にわたってアクティブである必要がある。
  • セキュリティ: 認証対象のアカウントには、確認済みの電話番号が登録されている必要がある。
  • 欺瞞的行為に加担していないこと


 

2)Xの広告リポジトリ(広告キャンペーンで使用する画像・動画・テキスト・デザインテンプレートなどのデジタル資産を一元的に保存・管理するデータベースやシステム)の透明性の欠如

Xの広告リポジトリは、デジタルサービス法の透明性およびアクセシビリティ要件を満たしていない。利用可能で検索可能な広告リポジトリは、研究者や市民社会が詐欺、ハイブリッド脅威キャンペーン、連携した情報操作、および偽の広告を検出するために極めて重要で ある。

Xは設計機能やアクセス障壁を組み込んでおり、たとえば処理が遅延するなど、広告リポジトリの目的を損なう。
Xの広告リポジトリには、広告の内容や話題、およびその費用を支払っている法人などの重要な情報も欠けている。これにより、研究者や一般市民がオンライン広告における潜在的なリスクを独自に検証できなくなる。

3) 研究者が公開データへのアクセスを提供しなかったこと

Xは、研究者がプラットフォームの公開データにアクセスできるようにするというデジタルサービス法の義務を果たせていない。

たとえば、Xの利用規約では、対象となる研究者がスクレイピング(Webサイトからプログラムを使って必要な情報を自動的に収集・抽出・整形する技術)などを通じて自らの公開データに独立してアクセスすることを禁止してい る。
さらに、研究者が公開データにアクセスするためのXのプロセスは不要な障壁を課しており、EUにおけるいくつかのシステミックリスクに関する研究を事実上損なう要因となっている。


今回の罰金は、これらの侵害の性質、EU加盟国のユーザーへの影響に関する重大性、およびその期間を考慮して算出されたものである。

これはデジタルサービス法に基づく初めてのコンプライアンス違反の決定である。

Xは、Blue Checkmarkを不正に使用したことに起因する侵害を終結させるために講じる具体的な措置について、委員会に通知するための60営業日の猶予期間を現在設けてい る。

Xは、広告リポジトリおよび研究者の公開データへのアクセスに関する侵害に対処するために必要な措置を定めた行動計画を委員会に提出するための90営業日の猶予期間を有する。
デジタルサービス委員会は、Xの行動計画を受領してから1か月以内に意見を表明する。委員会は、最終的な決定を下し、適切な実施期間を設定するために、さらに1か月の猶予期間を設けなければならない。

コンプライアンス違反の決定に従わない場合、定期的な罰金の支払いにつながる可能性があ る。

 

Elom Muscは同日、EUが制裁金を科すことに反発した。Xの投稿で、EUが「Xだけでなく私個人にもばかげた罰金を科したことはさらに狂っている」と記した。

米政権の閣僚からも、EUのデジタル規制が米テック企業を標的にしているとして、批判が相次いだ。

 

これまでの代表的な罰金例

1. Meta (Facebook)

  • 金額: 2.5億ユーロ

  • 理由: 欧州のデータ保護規則であるGDPR(一般データ保護規則)違反で罰金を科せられた。
       これには、ユーザーのデータ処理に関する透明性の欠如や、ユーザーの同意を得ずにデータを収集する問題が含まれている。

2. Google

  • 金額: 約1.4億ユーロ

  • 理由: デジタル広告市場に関する反競争的行為。特に、広告サービスにおける不公正な慣行や、競争を制限する行為が問題視された。

3. Amazon

  • 金額: 1.0億ユーロ

  • 理由: EUのデータ保護法(GDPR)に違反して、消費者データの取り扱いについて透明性が不足していたとして罰金を科せらた。

4. Apple

  • 金額: 約1.7億ユーロ

  • 理由: EUの反トラスト規制に違反して、iPhoneのApp Storeにおける独占的な手法を用いているとして、罰金を科せられた。具体的には、開発者に対して不当な手数料を取っているとされた。

5. TikTok

  • 金額: 約2億ユーロ

  • 理由: EUにおける子どものオンライン保護に関連する規制に違反。特に、子どもたちの個人情報の取り扱いや広告の規制に関する違反が指摘された。

6. Twitter

  • 金額: 約4500万ユーロ

  • 理由: Twitter(現「X」)も過去にGDPR違反で罰金を受けた。具体的には、ユーザーデータの保護に関する透明性や安全対策の不十分さが問題視された。

 

 

 

 

大塚製薬と米国子会社のOtsuka Pharmaceutical Development & Commercialization, Inc.は11月25日、同社のVOYXACT®(一般名:シベプレンリマブ)が、"進行リスクのある成人のIgA腎症におけるタンパク尿の減少"の効能で、米国FDAより迅速承認を取得したと発表した。

本剤は処方薬ユーザーフィー法(Prescription Drug User Fee Act)による優先審査が認められていた。(製薬企業が新薬の承認審査を受ける際に、FDAに手数料を支払うことを義務付けた法律で、この法律により、FDAは審査費用を賄い、審査体制を強化することで、新薬の承認審査を迅速化する。)

IgA腎症は、進行性の自己免疫性慢性腎臓病であり、20~40歳の成人に発症する場合が多い。現在の標準治療では多くの患者が生涯のうちに末期腎不全に至る可能性がある。

タンパク尿の減少腎機能悪化遅延と相関する代替マーカーであり、本剤の臨床試験において迅速承認を支持する主要なエンドポイントとして用いられた。

VOYXACTは、フェーズ3試験の中間解析において、投与9ヵ月後時点で、タンパク尿改善の指標であるuPCR(尿蛋白/クレアチニン比)をプラセボ群と比較して、51.2%有意に減少させた。安全性はプラセボと同等であり、良好な忍容性が確認されている。

長期的に腎機能の低下を抑制するかどうかは、まだ確立されていない。

VOYXACTは自己投与が可能な皮下投与のプレフィルドシリンジ製剤で、患者が4週間ごとに在宅投与できる利便性がある。

VOYXACT(シベプレンリマブ)は、大塚製薬の子会社であるVisterra Inc.が創製し、IgA 腎症の発症機序に関与しているAPRIL(A-Proliferation-Inducing Ligand:増殖誘導リガンド )に選択的に結合することでその活性を阻害するモノクローナル抗体である。
シベプレンリマブは、APRILを阻害することで、IgA腎症における腎障害の進行や末期腎不全への進行を遅らせることが期待される。

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Otsuka Americaは2018年7月に現金430百万米ドルでVisterra Inc.を買収した。

元の株主のTOP5 は下記の通りで、Bill and Melinda Gates Foundationや、シンガポール政府の投資会社Temasek が含まれている。

Polaris Partners 17.2%
Flagship Pioneering 15.3%
Bill and Melinda Gates Foundation 10.6%
Merck Research Lab Venture Fund 10.2%
Temasek Holdings 10.2%

Visterraは、タンパク質の機能に必須と考えられる部分の立体構造をコンピューター上で推定し、同じくコンピューター上で推定した無数の抗体の部分構造と結合シミュレーションを行い、最適な抗体構造を発見し、抗体医薬を設計する独自の抗体プラットフォーム技術(Hierotope platform)を有している。


これにより、従来難しいと考えられていた多くの生体物質に対する抗体医薬品を開発できる可能性がある。


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塩野義製薬は今年のノーベル生理学・医学賞の受賞が決まった大阪大学・坂口志文特任教授との共同研究で開発中のがん治療薬を2029年にも日米で承認申請する。

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坂口教授は胸腺で作られる「T細胞」というリンパ球の中に、自己の組織への攻撃を抑える役割を持ったタイプが存在すると推測し、研究を始めた。探索の結果、「CD25」というたんぱく質を表面に持つリンパ球が、マウスの体内でこうした役割を果たしていると突き止め、1995年に論文発表した。後に「制御性T細胞」(Regulatory T cell :Treg )と名付け、ヒトにも存在することが分かった。

    2025/10/7 2025年のノーベル生理学・医学賞 

塩野義製薬は、2014年に大阪大学の最先端医療イノベーションセンター内に共同研究講座を開設し、坂口教授の指導のもと、腫瘍免疫およびTregに関する先進的な研究を推進してきた。

その過程で、2018年に腫瘍浸潤制御性T細胞に特異的に発現する分子としてCCR8を新たに同定し(特許成立済)、この成果を基盤にCCR8を標的とした抗体医薬「S-531011(抗CCR8抗体)」のがん領域でのPhase 1b/2試験を鋭意進めている。

S-531011 の概要、機能は下記の通りで、免疫細胞の活動をコントロールする「制御性T細胞」Regulatory T cell :Treg )を取り除き、免疫細胞ががんを攻撃する力を強める。

まず大腸がんを対象とし、将来は他のがんにも広げる (胃がんや食道がんなど12種類の固形がんに効果が見込める可能性がある)。他の抗癌剤との併用など、最も効果が高くなる投与条件を探している。

がん治療薬を「5年で実用化させたい」としている。


S-531011 :

 ・適応疾患は固形癌

 ・製品特性:抗CCR8 ヒト化モノクローナル抗体で、安全性に優れ、腫瘍免疫を賦活化することで強い薬効を期待。
     様々な癌種が適応となる可能性がある。

 ・作用機序:腫瘍内の制御性T細胞(Treg)に選択的に高発現しているCCR8 に結合し、細胞ごと除去することで 免疫抑制を解除。
。。。。。腫瘍免疫が回復し、抗腫瘍効果を発揮する。

       

  下図のとおり、Tregが除去されることで、ナイーブT細胞(未活性化状態のT細胞)が活性化され、パフォーリンとグランザイムが癌細胞を破壊する。

パーフォリンとグランザイムは、細胞傷害性T細胞(CTL)やナチュラルキラー(NK)細胞が持つ、がん細胞やウイルス感染細胞を攻撃するためのタンパク質。
パーフォリンは標的細胞の膜に孔をあけ、グランザイムはこの孔を通って細胞内に侵入し、細胞死(アポトーシス)を誘導して細胞を破壊する。

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制御性T細胞(Treg)は人間の体内にあって、過剰な免疫反応を抑える調整・ブレーキ役として機能するものであり、このTregを増やしたり除去したりすることで病気を治す新薬を創ろうと、世界の製薬会社で研究が進められている。

中外製薬は大阪大学免疫学フロンティア研究センターと共同研究で、Tregで重要な役割を持つ「FoxP3」というタンパク質を制御する新たなしくみを発見し、自己免疫疾患を治療する可能性を見いだした。

今回、坂口志文特任教授と共同でノーベル生理学・医学賞を受けた米Institute for Systems BiologyのMary E. Brunkow、米Sonoma BiotherapeuticsのFred Ramsdell 両博士は2001年、自己免疫疾患を起こしているマウスとヒトで、FOXP3という遺伝子に変異があることを見つけ 、その後、坂口教授がFOXPが制御性T細胞において重要な役割を果たしていることを突き止めた。

アステラス製薬も坂口教授らとの研究グループで、Tregを誘導し炎症を抑える化合物を発見している。

米製薬大手Merck (米国とカナダ以外では MSD )は、インフルエンザ治療薬を開発中のバイオ企業 Cidara Therapeuticsを買収することで合意した。これは2028年に主力のがん免疫療法薬「キイトルーダ」が特許切れするのに備える動き。

買収額は1株当たり現金221.50ドルで、13日終値の2倍超に相当。総額は約92億ドル(約1兆4200億円)に上る。

Cidara Therapeuticsが開発中の インフルエンザ治療薬「CD388」はワクチンではなく、免疫反応を引き起こすタイプの薬ではない。これは合併症のリスクが高い人を対象に、インフルエンザを予防するための長期持続型治療薬で、現在は後期段階の臨床試験が進められている。

Cidara によれば、ワクチンや抗ウイルス薬に加わる新たな選択肢として、インフルエンザ予防に貢献する可能性があるという。

CD388は、長い半減期を持つ独自のヒト免疫グロブリンG1 Fcに安定的に結合した多価ザナミビル結合体である。

ザナミビル水和物(リレンザ)はインフルエンザウイルスの感染を抑制する効果を持つ抗ウイルス薬で、吸入剤として設計されており、直接呼吸器系に作用することでウイルスの増殖を阻害して症状の軽減や罹患期間の短縮に寄与する。

その特徴的な投与方法により全身への影響を最小限に抑えつつ局所での高い薬物濃度を維持することが可能となっている。

1989年にオーストラリアのBiota社が初めて開発、1990年にGlaxoSmithKlineに独占的にライセンスされ、同社がリレンザとして発売した。

CD388は、ザナミビルの多価複合体で、半減期を延長するように改変されたヒトIgG1のCH1-Fcハイブリッドドメインに結合している。CD388はザナミビルの抗ウイルス活性を向上させ、高病原性株やノイラミニダーゼ阻害剤耐性株を含むA型およびB型インフルエンザウイルス全般に対して強力かつ普遍的な活性を示し、耐性獲得の可能性が低く、致死性マウス感染モデルにおいて強力な有効性を示した。

10月9日にCD388が米国食品医薬品局(FDA)から画期的治療薬指定を受けた。

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Merckは今後5年間で180億ドル規模の売上げ減少が見込まれるキイトルーダ®の2028年の特許切れに備え、治療薬の拡充に向けた買収を進めている。キイトルーダは昨年の同社売上げのほぼ半分を占めていた。

癌細胞は、免疫細胞からの攻撃を逃れるために、PD-L1 というタンパク質を出し、これが免疫細胞のPD-1 に結合すると、免疫細胞の働きが抑制される。

キイトルーダ®(一般名:ペムブロリズマブ、MK-3475)は「抗PD-1抗体」とよばれる免疫チェックポイント阻害薬で、T細胞のPD-1に結合することにより、PD-1 とがん細胞のPD-L1の結合を防止する。その結果、T細胞が活性化され、抗がん作用が発揮されると考えられている。


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Merckは2023年4月16日、「キイトルーダ」特許切れ対策として、潰瘍性大腸炎やクローン病(炎症性腸疾患)向けの治療薬を開発している米バイオ企業Prometheus Biosciencesを買収すると発表した。

2023/4/18 米Merck、バイオ企業を1.4兆円で買収


同社は7月にも、呼吸器疾患治療薬を手がける英バイオ医薬品企業Verona Pharmaを約100億ドル(約1兆4700億円)で買収することで合意している。

Verona Pharmaは、昨年に米食品医薬品局(FDA)から承認された慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療薬「Ohtuvayre(アンシフェントリン)」を手掛けている。  

韓国のPosco Holdingsは、オーストラリアの鉱業会社Mineral Resources Limited(MinRes)のリチウム事業の30%を取得し、これにより西オーストラリア州の2つの鉱山の一部所有権を獲得、電気自動車用バッテリーに必要な重要な金属資源を確保できるようになる。


Mineral Resources Limited(略称 MinRes)は西オーストラリア州バースに本社を置く。多角的な鉱業サービス会社および鉱山運営会社で、西オーストラリア州とノーザンテリトリー全域に大規模な拠点を有する。

対象の鉱物資源は鉄鉱石、リチウムで、エネルギー関連事業も展開している。自社の採掘事業だけでなく、他の鉱山会社へのサービスの提供(採掘サービス、インフラ提供など)も行っている。

リチウムについては、西オーストラリア州北部のWodgina鉱山をAlbemarleとの50/50JVで運営しており、西オーストラリア州南部のMount Marion鉱山を 江西贛鋒鋰業集團(JiangxiGanfeng Lithium)との50/50JVで運営している。

PoscoとMinResは、12億豪ドル(約7.65億米ドル)に相当する取引により、合弁企業を設立する。

MinResは両鉱山のMinRes持ち分を新設するJVに移す。

下図のとおり、Posco はWodgina鉱山及びMt.Marion鉱山のMinRes持ち分各50%のうち、各15%を取得する。

Poscoはこれら2つの鉱山から出荷されるリチウム精鉱を出資比率に応じて それぞれ15%分を受け取る。

MinResは引き続きこれらの資産の運営を担当する。

投資はオーストラリア外国人投資審議委員会の承認後に確定する。

MinResは、今回の売却で得られた資金を債務返済に充てる。同社の債務は54億オーストラリアドルに急増しており、時価総額の半分を超えている。


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Poscoは年間27万トンのリチウム精鉱を安定的に確保することになる見通しで、これは水酸化リチウム約3万7000トンを生産できる量で、電気自動車約86万台に使われる量 である。

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Poscoは6500万ドルを投資し、アルゼンチン・オンブレムエルト(Hombre Muerto)塩湖内の鉱区(塩湖内に埋蔵された鉱物の採掘・開発権)を保有するカナダの資源開発会社LIS(Lithium South)のアルゼンチン現地法人の持分100%の買収を決定した。

Poscoは2018年にオンブレムエルト塩湖北側の権益を確保したのに続き、今回 、隣接する鉱区の買収を通じ、世界最高水準のリチウムが埋蔵されているオンブレムエルト塩湖で追加の資源と用地を確保することになる。

Posco は現地にリチウム生産工場を作って水酸化リチウムを生産しているが、このインフラとのシナジー効果も期待できる。

2021/12/23 韓国POSCO、アルゼンチンでのリチウム生産計画

米製薬大手 Pfizerは11月3日、デンマーク製薬大手のNovo Nordisk を提訴したと発表した。

Pfizerが買収で合意していた肥満症治療薬を開発する米新興企業Metseraに対し、Novo Nordisk が対抗して買収提案を出したことを問題視した。

Novo Nordisk は肥満症薬で先行しており、買収は独占につながると主張している。

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新タイプの肥満症治療薬の利用者が、米国を中心に世界で急増している。

先駆けとなったのが、デンマーク製薬大手Novo Nordisk Wegovy(ウゴービ )で、2021年に米国で承認された。もともと糖尿病(内臓脂肪の蓄積が主な原因)のために開発した薬(GLP-1受容体作動薬)を肥満症治療に応用したもので、食欲を抑制することでやせる効果があるとされる。日本では「セマグルチド(遺伝子組換え)」として2023年3月に承認された。

Eli Lillyは2023年12月、同様の働きを持つ肥満症治療薬Zepboundを米市場に投入した。

2024/4/15 新タイプの肥満症治療薬が急増 

(以降)

2024/5/30 米 Eli Lilly、肥満症薬を増産

2024/7/24 ロシュの肥満症の候補薬、初期臨床試験で平均7%減量   

2024/8/5  Eli Lillyの肥満症治療薬、心不全重症化リスクも軽減

2025/5/19 新規プレバイオティクスによる抗肥満作用の発見

2025/7/30 米Merck、米Pfizer、英GSK、相次いで中国の医薬会社から新規治療薬候補の開発・販売権を取得 

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Pfizerは2023年12月1日、自社開発の肥満症経口薬「Danuglipron」の1日2回服用タイプについて、中期試験で被験者の大半が吐き気など副作用を理由に服用を取りやめたため、後期臨床試験への移行を見送る方針を示した。

その後、Danuglipronを1日1回服用する試験を複数の用量で進めていたが、2025年4月14日、開発を中止したと発表した。臨床試験で被験者1人が薬物性肝障害を発症した可能性があり、服用をやめたところ回復したことが理由。


Pfizerは本年9月22日、肥満治療薬スタートアップの Metsera を最大73億ドルで買収することで合意したと発表した。自社開発の減量薬を安全上の理由で中止したPfizerは、急成長する市場で遅れを取り戻す狙いがある。

発表によると、Pfizerは Metsera に対し1株当たり47.50ドル(19日の終値33ドル強に対し、43%のプレミアム)の現金を支払うほか、特定の業績目標達成時には追加で22.50ドルを支払う。

買収により、Pfizerは深い専門知識と、差別化された経口および注射剤のインクレチン、非インクレチン、そして併用療法候補のポートフォリオを獲得する。MetseraとPfizerの両社の取締役会は、この取引を全会一致で承認した。


インクレチンは、食事をとると小腸から分泌され、インスリンの分泌を促進する働きをもつホルモンで、GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド )とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)がある。(上図参照)


Metseraの候補製品は、
MET-097i: 完全にバイアスされた超長時間作用型GLP-1受容体アゴニストの注射剤候補で、第3相臨床試験への移行が予定されている。

同社の非インクレチン系肥満治療薬は、MET-233i:で、食欲調節ホルモンであるアミリンの作用を模倣する長時間作用型アナログ。第1相臨床試験の段階にあり、GLP-1受容体アゴニストとの併用療法の可能性も探られている。


このほか、
経口GLP-1受容体作動薬候補MET-224oおよびMET-097o:臨床試験の開始が間近)のMET-815や、MET-097iのプロドラッグ(体内で活性型に変換される前の薬剤)がある。


しかし、
Metsera は10月30日にデンマークのNovo Nordiskから一方的な買収提案を受けたと発表した。

株式1株あたり56.50 ドルの現金+最大21.25 ドルの追加払いを含むもので、最大85億ドル(一時金60億ドル+マイルストーン達成に応じた支払い)になる。Pfizerの提示額はマイルストーンを含め73億ドルである。

Metseraの取締役会は、この提案をPfizerとの合意を上回る「Superior Company Proposal(優越的買収提案)」と判断。これにより、Pfizerとの既存合意においてPfizer側が対応交渉を行う機会(いわゆるマッチング期間)が発生する。

これに対し、Pfizerは、Novo Nordiskの提案が「反競争的である」「買収契約における優先交渉権(あるいはマッチング条項)を無視している」と主張した。

Pfizerは、Metseraおよびその取締役会、さらにNovo Nordiskを対象に、契約違反・取締役義務違反・妨害行為を理由とした訴訟を提起した。

また、連邦法(〈クレイトン法〉第7条、〈シャーマン法〉第1条・第2条)に基づく反トラスト(反競争)訴訟も提起した。Pfizer側主張では、デンマークのNovo NordiskがMetseraを買収して将来のアメリカのライバルを排除しようとしているというもの。

PfizerとNovo Nordiskは、Metseraの買収をめぐり、4日に予定されている法廷審問を前に、それぞれの提示額を引き上げた。

Metseraの発表によると、Novo Nordiskの最新の提示額は1株当たり最大86.20ドルで、総額100億ドルに達する。一方、Pfizerの新たな提示額は1株70ドルで、総額およそ81億ドルとされている。Metseraによれば、Pfizerには自社の提案内容を再調整するため2日間の交渉期間が与えられている。

PfizerはMetseraおよびNovo Nordiskを相手取って起こした2件の訴訟のうち1件で、4日間とされていた自社の対抗入札期限を凍結するよう裁判所に求めている。この審問は、4日午前11時から米デラウェア州衡平裁判所で行われる予定。

 

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なお、Eli LillyとNovio Nordiskは、減量薬を含む新たな薬価取引をホワイトハウスと発表する計画である。

報道によれば、両社はそれぞれの肥満治療薬の最低用量を月額149ドルで提供する合意に至るとのことである。この発表は早ければ今週中にも行われる可能性がある。

価格譲歩の見返りとして、両社は65歳以上のアメリカ人を対象とする連邦健康保険制度であるメディケアの下で、自社の薬剤の保険適用を獲得することになる。この保険適用は、両製薬会社にとって重要な新たな償還機会を提供するものである。

メディケアの適用は、これらの肥満治療薬にとって潜在的に大きな市場拡大を意味する。何百万人もの高齢アメリカ人にとって、これらの治療がより利用しやすくなるからである。


トランプ大統領は、英製薬大手AstraZenecaと、一部処方薬の価格を大幅引き下げる代わりに医薬品関税を3年間免除することで合意したと発表(10/10)

今後米国で発売するすべての新薬に他の先進国での最低価格を適用するほか、メディケイド(低所得者向け医療保険制度)加入者向けに大幅に値引きを行う。

さらにアストラゼネカは直販サイトで取り扱う製品数を増やす予定で、大統領はその価格について、「大幅な値引き」になると述べた。また、近く立ち上げ予定の医薬品販売サイト「TrumpRx」でも医薬品を提供する計画。

アストラゼネカは米国での医薬品製造や研究開発に今後5年間で500億ドル(約7兆6千億円)を投資し、米国内で販売する薬の現地製造を目指す。

10/1の米Pfizerに次ぐ。同社は米国の医薬品価格を他の先進国が支払っている最低価格(最恵国待遇価格、いわゆるMFN価格)に合わせることとなる。

アメリカの薬剤価格の問題に関して、トランプが提案した行政命令「Delivering Most-Favored-Nation Prescription Drug Pricing to American Patients」〈5/12付)に基づくもので、
アメリカ人が他の国々と同じ価格で処方薬を購入できるようにするため、特定の製薬会社に対して具体的な措置を取るよう求める内容。

米国では、原則的に製薬会社が薬の価格を自由に決めることなどから、他の先進国の約3倍になることもある。


Pfizer とAstraZenecaは、今後発動される医薬品関税の対象から3年間免除される。



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オランダ政府は2025年9月30日に経済安全保障上のリスクを理由に、中国企業の傘下にある半導体メーカーNexperiaの経営権を掌握するという、極めて異例の措置を発動した。

Nexperiaの半導体は高度な製品とはみなされていないものの、自動車や家電に大量に使用されている。大半の半導体は欧州で製造され、中国でパッケージングされている。


中国側は完成品の輸出を規制する形で対抗しており、同社製半導体に依存する欧州自動車メーカーの間に懸念が広がっている。(日本メーカーも)


オランダのカレマンス経済相は10月21日、中国の王文濤商務相とNexperiaを巡る対立について協議したが、解決策は見いだせなかった。

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Nexperia はオランダのフィリップスから分離した半導体メーカーで、オランダのNijmegenを拠点とする。 自動車向け電子部品(ダイオード・トランジスタ・MOSFETなど)などを手掛けている。

2006年にNXP Semiconductors N.V がフィリップスの半導体部門より分社化して誕生した。

2017年にNXP Semiconductors N.V のスタンダードプロダクト事業部門が独立し、Nexperiaとなった。

2016年に中国の金融投資家コンソーシアムが約27億5000万米ドルで買収。その後2019年に、スマートフォン設計製造受託および半導体事業を展開する聞泰科技(Wingtech Technology)に買収された。

それ以来、Wingtechの子会社として自動車産業や民生用電子機器向けの半導体を生産している。

Nexperiaは欧州、アジア、米国に1万2500人以上の従業員を有し、自動車、産業機器、モバイル、民生アプリケーションまで幅広い市場に向けて成熟半導体製品を展開。年間1100億個以上を出荷している。各種報道によれば、特に自動車業界向けだけで年間630億個の部品を供給しているといい、世界の自動車サプライチェーンにおいて重要な一角を占めている。

Nexperiaの半導体は高度な製品とはみなされていないものの、自動車や家電に大量に使用されている。大半の半導体は欧州で製造され、中国でパッケージングされている。

Nexperiaはドイツと英国にウエハー製造拠点を持ち、マレーシアとフィリピンにもパッケージング・検査工場を有しているが、中国・広東省東莞市のパッケージング・検査工場は最大規模であり、全世界の約70%のパッケージング工程を担っている。

聞泰科技の資料によれば、中国国内の生産能力はNexperia 全体の約80%(主に後工程のパッケージング・検査)を占め、中国市場の売上比率は全体の約50%に達している。

2025年10月1日、オランダ政府は「Goods Availability Act」(物品供給法)という供給確保・重要物資確保のために使われる極めて例外的な法律を根拠に、Nexperia に対し「経営決定(資産・人員・知財・事業運営)を政府がブロック/逆転できる措置」を講じた。

同法は冷戦時代の1952年、戦争などの災害を想定して制定された法律で、非常時に重要物資の供給を確保するため、民間企業への政府介入を認めるもの。実際に適用されるのは極めて異例。

この命令でNexperiaは一時的に政府管理下に置かれ、これまで通り業務を継続できるものの、政府がNexperia取締役会の決定を阻止または覆す権限を有することになる。政府は次のように説明している。

「物品供給法の発動は極めて例外的な措置だ。Nexperiaにおけるガバナンス上の欠陥が重大かつ緊急性を帯びているため、本法の適用が決定された。これらの兆候は、オランダおよび欧州域内における重要な技術的知識と能力の継続性および保護に対する脅威を呈していた。これらの能力を失うことは、オランダおよび欧州の経済的安全保障に対するリスクをもたらす可能性がある」

オランダ政府が懸念しているのは、Nexperia の欧州における製造・技術能力・知財が「将来中国に移転される/欧州から離脱する」リスクである。

裁判所も Nexperia の現経営に「信頼できる経営・適切な取引・ガバナンスに疑念がある」との判断を下した。

具体的には、

  • Nexperia の中国人CEOであった 張学政がオランダ当局・裁判所の判断を受けて取締役・CEO職から実質的に外され、独立した非中国人取締役が決定票を持つ形で体制が再編された。

  • Nexperia及びその全世界の子会社・支店・事務所に対し、最大1年間にわたり資産・知的財産・事業運営・人員に関する一切の調整を行わないよう命令が下った。

  • Wingtech 側はこの措置について「地政学的バイアスに基づいた過剰介入」であると反発している。

  • Wingtechによると、裁判官は審理を行わずに要請を認め、張氏のNexperiaにおける取締役職の停止に加え、Wingtechにおける非執行役取締役職の職務執行も停止した。
    さらに、裁判官は決定的な議決権を持ちNexperiaを代表する独立した非中国人取締役の任命をも命じたとのこと。

  • なお、Nexperia内では親会社Wingtechに対する反発があり、Nexperiaの株式の支配権を中国人株主から剥奪した上で独立した第三者に譲渡することを求める緊急審理を、Nexperiaの幹部3名がオランダの控訴院に提出したと伝えられている。


なお、米国当局がオランダ当局に対して「Nexperia のCEOが中国人オーナーのままだと米国市場アクセスに重大な影響が出る可能性がある」と警告した内部文書・裁判資料が報じられている。

中国側の反応・報復措置

  • このオランダの措置を受けて、中国政府・関係機関からは強い反発が出ている。
    中国商務部などが「欧州企業・中国企業への差別的取扱い」「国家安全保障という名の過剰介入」との声明を出している。

  • 更に、中国 商務部は10月4日にNexperiaおよびその委託先に対し、特定の半導体製品・部品の輸出を禁止する通知を出した。このため、同社製半導体に依存する欧州自動車メーカーの間に懸念が広がっている。(日本メーカーも懸念)

  • 10月19日、Nexperia(中国)は「全社員は中国法人の指示に従い、法定代表者の承認を得ていない外部からの命令には従う必要がない」とする公開書簡を発表した。経営陣が事業運営の安定を確保し、外部からの干渉を阻止する方針を強調している。

九州大学大学院医学研究院の小川佳宏主幹教授、同大学病院の田中義将助教、佛坂孝太大学院生らの研究グループは、自然科学研究機構生理学研究所の箕越靖彦教授らとの共同研究により、マウスを用いた最先端のオプトジェネティクスなどの神経科学的手法を用いて、排便を制御する脳の中枢が主に「橋」の「バリントン核(Barrington's nucleus)」に存在することを初めて実証した。

慢性便秘症は日常生活の質を著しく低下させるだけでなく、長期生命予後にも影響を及ぼすことが知られている。

慢性便秘症は生活の質に影響を及ぼすとともに近年、循環器疾患と脳血管疾患のリスク要因となり、慢性便秘症患者の生存率は健常人よりも 15 年生存率が 20%以上低いことが明らかとなり、注目されている。

慢性便秘症は、排便回数の減少を主症状とする大腸通過遅延型と排便困難を主症状とする便排出障害型に大別される。

大腸通過遅延型は大腸が便を送る動きが悪いため、排便の回数や量が減少する便秘である。

便排出障害型は直腸まで便が下りてきているのに、肛門の外に押し出す力が弱くなりスムーズな排便ができない便秘である。

今回の研究は便排出障害型の原因の解明につながることが期待される。

正常な排便は、腹圧などによる直腸圧の上昇肛門の弛緩による協調運動により達せられる。

協調運動に異常を来した状態が便排出障害型の慢性便秘症だが、その協調運動をつかさどる脳排便中枢の詳細に関しては解明されていなかった。

排便には中枢神経系が関与していることは分かっていたが、脳のどの領域がどのように排便を制御しているのかは未解明であった。

今回、脳の「橋」にある「バリントン核(Barrington's nucleus: Bar)」と青斑核(LC)が排便を制御していること、さらにその内部の異なる神経群が排便の開始や持続に異なる役割を果たしていることが分かった。

「橋」は 脳の部位の一つ。脳幹という生命維持に関与する意識・呼吸・循環などを調節する領域に存在する。

「バリントン核」は脳幹の「橋」にある神経核で、主に排尿の調節に関わっていて排尿中枢として以前より知られていた。

バリントン核と青斑核の VGluT2 神経が、即時かつ非持続的な腸管収縮を引き起こし、排便開始時のぜん動に関与していることが示唆された。

一方、バリントン核の CRH 神経は遅れて持続する腸管収縮を引き起こし、排便開始後の持続的なぜん動を担うことが判明した。

VGluT2(小胞性グルタミン酸トランスポーター2)はグルタミン酸を貯蔵するタンパク質で、CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)は視床下部から分泌されるホルモンである。


本研究成果は米国の医学雑誌「Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology」に2025年10月10日に掲載された。

https://www.cmghjournal.org/article/S2352-345X(25)00176-6/fulltext

2025年のノーベル生理学・医学賞は 大阪大学の坂口志文特任教授、米Institute for Systems BiologyのMary E. Brunkow、米Sonoma BiotherapeuticsのFred Ramsdellに授与

 授賞理由 "for their discoveries concerning peripheral immune tolerance." 「末梢免疫の抑制に関する発見」

制御性T細胞は自己に対する異常な免疫反応を抑えて自己免疫疾患を防ぐ。

米国の2氏は自己免疫疾患に関わるFoxp3という遺伝子を発見した。後に坂口氏らはFoxp3が制御性T細胞の成長を制御することを突き止めた。

以下の図は ノーベル委員会発表文添付資料より

細菌やウイルスなど外敵を退治する免疫機能が誤って自分の体を攻撃しないよう抑える免疫細胞「制御性T細胞」の存在を1995年に世界で初めて確認し、その働きを解明した業績

坂口氏は70年代、生後3日で胸腺を除去したマウスに自己免疫疾患のような症状が表れたとする先行研究に着目。胸腺で作られる「T細胞」というリンパ球の中に、自己の組織への攻撃を抑える役割を持ったタイプが存在すると推測し、研究を始めた。

探索の結果、「CD25」というたんぱく質を表面に持つリンパ球が、マウスの体内でこうした役割を果たしていると突き止め、1995年に論文発表した。後に「制御性T細胞」(Regulatory T cell )と名付け、ヒトにも存在することが分かった。

ブランコウ、ラムズデル両博士は2001年、自己免疫疾患を起こしているマウスとヒトで、FOXP3という遺伝子に変異があることを見つけた。その後、坂口氏はFOXPが制御性T細胞において重要な役割を果たしていることを突き止めた。

こうした成果から現在、1型糖尿病などの治療に向けた研究が進められている。また、一部のがんでは、制御性T細胞ががん細胞を免疫の攻撃から守っていることも明らかになってきており、制御性T細胞を減らす方法でも治療への活用が模索されている。

Regulatory T cell = 制御性T細胞

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