理化学研究所、ダイセルらの共同研究グループは、消化管内で酢酸を特異的に増加させるセルロース試料である水溶性酢酸セルロース(WSCA)が腸内細菌に作用することで消化管からの糖質吸収を抑え肥満を改善することを明らかにした。

本研究成果は、プレバイオティクスに基づく食品を介した肥満予防に貢献するものと期待される。

プレバイオティクス(prebiotics)は、消化管内で特定の腸内細菌に働きかけることでヒトに有益な効果をもたらす食品成分。水溶性食物繊維やオリゴ糖などを含む。

共同研究グループは、WSCA をマウスに投与した結果、肥満や高血糖、脂肪肝が改善すること、WSCA の効果により腸内環境の変化を介して吸収可能な単純糖質を減少させること、および、WSCA が肝臓での糖質貯蓄を減少させることを突き止めた。

肥満は 2 型糖尿病や心臓病などいろいろな生活習慣病の基盤となる病態で、日本のみならず世界中で増加しており、その効果的な対策が望まれている。

近年、GLP-1 作動薬などさまざまな治療法が開発され、実用化されている。

........... 2024/4/15 新タイプの肥満症治療薬が急増

しかし、投薬にかかるコストや副作用の懸念などから、安価で手軽な対策の開発が望まれている。


プレバイオティクスは「消化管内で特定の腸内細菌に働きかけることでヒトに有益な効果をもたらす食品成分」と定義されている。プレバイオティクスの一種である食物繊維は腸内細菌に代謝されて短鎖脂肪酸など有益な代謝物を増加させることや食物繊維を多く含む食事は健康増進につながることも知られている。

一方、ヒトの腸内細菌には個人差があることから、プレバイオティクスを効果的に分解して有益な代謝物を産生する細菌を保有するとは限らず、その効果が人それぞれ異なる理由の一つであると考えられる。


共同研究グループは、短鎖脂肪酸の一種である酢酸を消化管内で効果的に遊離する水溶性酢酸セルロース(WSCA)を作成し、どのような腸内環境であっても酢酸を増加させることができる手法を開発した。

共同研究グループは、WSCA をマウスに投与すると、マウスの体重増加が抑制されることを突き止めた。この効果はその大部分が上部消化管で吸収される酢酸ナトリウムの投与では見られないため、消化管内で酢酸を増加させる WSCA に特徴的であることが分かった。

さらに、肥満マウスにWSCA を投与したところ、高血糖や脂肪肝などが改善することが判明した。一方、他の短鎖脂肪酸であるプロピオン酸、酪酸の効果も同様の方法で調べたが、体重増加などに変化は見られなかった。

次に共同研究グループは WSCA がマウスの代謝に及ぼす影響を調べた。

その結果、WSCA は脂肪分解の代謝を促進するとともに、糖質代謝を抑制することが分かった。特に肝臓におけるグリコーゲンの貯蔵量が減少していたことから、WSCA が消化管からの糖質吸収に影響を与えている可能性があるのではないかと考えた。

そこで、WSCA が腸内環境に与える影響を調べたところ、WSCA は消化管内の代表的なヒト腸内細菌である Bacteroides 目の細菌を増加させていた。また、通常マウス、Bacteroides thetaiotaomicron 菌の単独定着マウス、 および無菌マウスいずれにおいても消化管内の酢酸濃度を増加させたものの、 無菌マウスでは体重抑制効果が見られなかった。さらに、WSCA は 消化管内においてマウスが分解・吸収可能な麦芽糖などの単純糖質を減少させたが、この効果は無菌マウスでは見られなかった。

最後に、共同研究グループは酢酸が腸内細菌に与える直接的な効果を調べた。その結果、酢酸は Bacteroides thetaiotaomicron 菌の増殖を促すことで糖質消費を加速させること、また、同菌の糖質代謝に関わる遺伝子の発現を増やすことが分かった。


以上の結果から、WSCA は消化管内で酢酸を増加させることで、Bacteroides thetaiotaomicron 菌をはじめとする腸内細菌による糖質消費を促進し、その結果、消化管からの糖質吸収を制限して体重増加を抑制する効果をもたらすことが明らかになった。

本研究成果は、プレバイオティクス(消化管内で特定の腸内細菌に働きかけることでヒトに有益な効果をもたらす食品成分。食物繊維やオリゴ糖などを含む)に基づく食品を介した肥満予防に貢献するものと期待される

本研究は科学雑誌『Cell Metabolism』オンライン版(5 月16 日付)に掲載された。
タイトル:Acetylated cellulose suppresses body mass gain through gut commensals consuming host-accessible carbohydrates

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ドイツ連邦議会(下院=定数630)は5月6日、首相指名選挙の投票を行った。

しかし、キリスト教民主同盟(CDU)党首のFriedrich Merz氏(69)が獲得した票は310票にとどまり、指名に必要な過半数316票に足りなかった。

今回、キリスト教民主・社会同盟とドイツ社会民主党は連立を組んでおり、合計328議員を有する。このうち少なくとも(他党がすべて反対したとしても)18人が支持しなかったことになる。

1回目の投票で首相を選出できなかったのは戦後のドイツで初めてである。

メディアはMerz氏が本年1月に移民政策の厳格化のため極右団体「ドイツのための選択肢」と議会で協力したことに反発した与党議員が造反した可能性があるという見方を伝えている。

同日に2回目の投票をおこない、Merz氏は2回目では325票を獲得し、首相に選出された。

政治アナリストらは、首相選出投票で造反者が出たことにより連立与党の間で不信感が高まる可能性が高く、欧州でドイツの強力なリーダーシップが必要とされている時に、連立政権が不安定になるとの見方を示している。

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ドイツの総選挙は2月23日に行われ、最大野党会派の中道右派「キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)」が第1党となった。CDUのFriedrich Merz 党首(69)が次期首相になる見通し。

Friedrich Merz 氏は、メルケル元首相との「政争」に敗れ、政界を一時引退したが、2021年に連邦議会議員に復帰した。

Merz氏が、「防衛においてアメリカから独立できるよう、できるだけ早くヨーロッパを強化することが最優先事項だ」と述べたことが注目された。

ドイツでは下図のとおり、メルケル首相の時代でも連立政権が続く。

Merkel 首相 (CDU)

2021/12 Scholz 首相(SPD)

2025/5 Merz首相(CDU)
1 2 3 4
2005/11 2009/10 2013/12

2017/9

2018/3 2021/9 2025/2
キリスト教民主同盟 キリスト教
民主・社会同盟
(CDU/CSU)
連立 連立 連立 245 連立
協議
連立 196   208 連立
キリスト教社会同盟
ドイツ社会民主党(SPD)   152 離脱  

206  連立 120
緑の党       67   協議   118 85
自由民主党(FDP)   連立   80   協議 離脱   92 0
ドイツのための選択肢(AfD極右)       87     83 152
左派党   旧東独共産党系       69     39 64
無所属       9     1  
合計      

709 (過半数は355) 

 735( 368 )

630( 316)

 * キリスト教社会同盟はバイエルン州のみを地盤とする政党

 * Scholz内閣で連立を組んでいた自由民主党(FDP) は議席数がゼロとなった。

2025年の予算案を巡ってリントナー財務大臣(FDP) とショルツ首相が対立,、2024年11月6日にショルツ首相ががリントナー財務大臣を解任する方針を表明したことで、FDPは連立政権から離脱した。
その後の総選挙で、FDPは得票率が4.33%に減り、少数政党が乱立するのを避けるためにつくられた阻止条項(足切り条項:5%未満は無効)により議席数ゼロとなった。

以前は、第1投票(選挙区候補者への投票)で3議席以上を確保した政党、および民族的少数者を代表する政党に対し5%条項は適用されないとされていたが、2023年6月の選挙法改正でこの条項が廃止された。


キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)は4月9日、連立交渉合意を発表した。

連立交渉は2月23日の総選挙で第1党となったCDU/CSUと、現政権与党で第3党のSPDの間で行われていた。

両党は連立交渉と並行して、財政規律緩和を可能とする基本法の改正案も上下両院で可決させ、新政権始動後の財政出動の枠組みを整備していた。

  1. GDP比で1%を超える防衛費を債務ブレーキの適用対象外とし、GDP比1%を超える防衛費については、借り入れにより賄えるようになる。
  2. インフラ投資のため、5,000億ユーロの特別基金創設
    インフラへの追加投資のために12年間にわたって運用し、うち1,000億ユーロは気候変動対策に充てる。
    さらに、1,000億ユーロは州にも配分し、各州が12年間にわたってこの基金からインフラへの投資ができるようになる。
  3. 各連邦州政府予算の財政規律緩和:これまで債務が許されていなかった州予算で、GDPの0.35%までの債務を可能とする。

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東京科学大学の近藤正聡准教授などの研究グループは、液体状になった金属を使い、海水から真水や金属を効率よく分離する技術を開発した。

地球には14億km3と非常に多くの水が存在するが、その内の97.5%を海水が占めていて、淡水は2.5%しかない。
その淡水のうち、68%が氷河、31%が地下水として存在していて、川や湖などのアクセスしやすい淡水はほんのわずかしかない。また地下水は汚染されている場合がある。

このように、利用できる淡水が十分に存在しないために、世界では20億人以上の人が水不足に直面している。

足りない淡水を補うために、海水淡水化プラントで大量の淡水が海水から生産されている。

海水を淡水化する原理として、下図に示すように半透膜を利用して水だけを透過させて得る逆浸透膜(Reverse osmosis)法や海水を蒸発させて水を得る多段フラッシュ法がある。

海水淡水化プラントで淡水を生産した際には、海水を濃縮したブラインと呼ばれる排水が淡水の1.5倍程度の量で発生する。
世界では1年間で50兆リットルに及ぶブラインが発生し、現在は、海洋環境に影響がでないように希釈してブラインを放出している。

一方で、海水は様々な金属元素を薄い濃度で含んでおり、海水が濃縮したブラインは 「掘らない資源」と呼ぶことができる。

研究グループは、核融合炉等の冷媒として期待される液体金属錫に関する研究を実施してきた。液体金属錫は、はんだ付けにも使用されるように、他の金属と結合しようとする強い反応性を有している。
そのため高温の状態では、液体金属錫は配管や容器を溶解してしまう課題があるが、この欠点を活かすことで、ブラインに含まれる海水資源を効果的に回収できるのではないかと考えた。

本研究では、淡水化ブラインを液体金属錫に直接接触させて海水資源を回収する研究を実施した。また、世界で課題とされているヒ素で汚染された地下水の浄化にも試みた。

これまでの淡水化で処分が課題だった高濃度の海水にも使える。海水資源の有効活用につながる技術で、5年以内にコンテナサイズの装置の開発を目指す。

チームはセ氏300度に加熱して液体状になったスズを使った。液体のスズは別の金属と反応しやすい性質を持つ。

液体のスズにブラインを約8時間連続して噴霧するとブラインに含まれる水分はすべて蒸発し、発生する水蒸気を蒸留して淡水として回収する。

図1(a):
ブラインを液体金属錫に直接接触させることで、
液体金属錫の表面では 蒸留の原理で淡水の蒸気を生産し、ブライン中に含まれるNaやMg、Ca、K などの金属元素を液体金属錫中に溶解させて濃縮できることが分った。

図1(b):
ブラインに接触させた錫をゆっくりと冷やすことにより、錫の中に溶解した金属元素を析出物として回収できることも分かった。スズを冷まして固めると、 ブライン中に含まれるNaやMg、Ca、K などはスズと反応した物質として析出する。冷却速度をゆっくりにすると金属の種類によって析出するタイミングが違うので、特定の金属のみを回収できる。


金属元素は、海水の直接接触蒸留プロセスにおいて液体スズプールに蓄積される。各金属元素は、液体スズ中での溶解度がそれぞれ異なり、液体温度は505~573 Kの範囲で制御される。

Kは初期段階で沈殿が始まり、すぐに成長が停止した。同時に、Naも沈殿が始まり、徐々に成長した。Caも沈殿が始まり、Kの沈殿後にすぐに成長が停止した。Mgは徐々に成長した。

ヒ素など有毒な物質で汚染された地下水の浄化にも使える可能性がある。

ヒ素で汚染された水を浄化する実験を実施したところ、高温の条件ではヒ素やその酸化物が蒸発してしまうため効率良く回収できないものの、300℃以下の低温の条件において効率的にヒ素を捉えて取り除くことができることが 分かった。


今後、海水に含まれるリチウムなどの有用な金属の回収方法も探す。


今後は金属加工を手掛ける金属技研や、核融合発電スタートアップのエクスフュージョンなどと共同で試験プラントを造り、数リットル単位のブラインで実証する。

液体金属のスズを循環させながら効率的に金属を回収できるようにし、淡水化用のプラントに併設する設備の開発を目指す。


本成果は、世界水協会(The International Water Association)が発刊している「Water Reuse」誌に3月1日付で掲載された。  

Liquid metal technology for collection of metal resources from seawater desalination brine and polluted groundwater

アスベストを扱う工場で働き、じん肺を患ったとして元労働者の遺族が国に損害賠償を求めた裁判で、大阪高裁は4月17日、1審とは逆に遺族の訴えを認め国に約600万円の賠償を命じた。

賠償を求める権利がなくなる「除斥期間」が争点となり、国は「医師の診断日」としてきたが判決では「行政が被害を認定した時」が起算点になるとして、現在、国が示している救済の運用とは異なる判断を示した。

ーーー

アスベストを扱う工場でおよそ8年間働いていた兵庫県尼崎市の男性は、1999年にじん肺と診断され、2000年5月に労働局から健康被害と認定された。

男性側は2020年に、国におよそ600万円の損害賠償を求める訴えを起こしたが、死亡したため遺族が裁判を引き継いでいる。

アスベスト被害の救済をめぐっては、国は一定の要件を満たした当事者と和解し、その際の除斥期間の起算点を2019年に「被害の発症が認められる時」に変更した。

今回の裁判では、除斥期間の起算点となる「被害の発症が認められた時」がいつであるかが争点となった。

遺族は「行政が健康被害を認定した時」と主張したのに対して、国はこれよりも早い「医師の診断日」とし、権利は既に消滅していると主張し、訴えを退けるよう求めた。

1審は国の主張を認め、除斥期間が過ぎているとして訴えを退け、遺族が控訴した。

4月17日の判決で大阪高裁の三木素子裁判長は「じん肺は病状がどの程度進行するのか、固定するのかすらも現在の医学では確定できず、病気にかかった事実は行政の決定がなければ認めがたい」として「行政が被害を認定した時」が起算点になると判断し、遺族の訴えを認めた。

判決のあと、弁護団が会見を開き、奥村昌裕弁護士は「逆転勝訴の判決が出てほっとした。国が起算点の変更を官報にも載せず、勝手に変えたというのが問題で、判決には大きな意義がある」と話した。

「除斥期間」の起算点について、厚生労働省は当初「労働局がアスベストによる健康被害を認める決定をした時」としてしたが、2019年以降は「医師の診断でアスベスト被害の発症が認められた時」と起算点を早める変更をしていた。

変更の理由について厚生労働省は、2019年の福岡高裁判決で、賠償金の支払いが遅れたことに伴って支払う「遅延損害金」を「医師の診断日」から支払うよう命じたため、「除斥期間」もそれにあわせるようにしたと説明している。

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今回の大阪高裁判決に対し、国は5月2日、上告を断念したことを明らかにした。上告期限は5月1日までで国の敗訴が確定した。厚生労働省石綿対策室は「慎重に検討し、関係省庁とも協議した」とコメントした。


厚生労働省は石綿肺についてのみ、起算点を「被害の発症時」から「行政上の決定日」に運用を変更する。

中国発インターネット通販「Temu」が米国のサイトで、中国から送る一部商品の価格を2倍以上に引き上げた。 対象は注文を受けた後に中国から米国の消費者宅に直接配送する商品。

これまではいわゆるDe minimis ruleに基づき課税対象外だった 中国から郵送される800ドル以下の小包が5月2日以降、課税される。

4/29以降に受注したものは、現地で出荷し、米国で通関するのは5/2以降になるので、課税を前提に値上げした。

付記

中国・香港からの全ての荷物に145%の追加関税が課される。スマートフォンなど一部製品は対象外。主にフェデックス、UPS、DHLなどの運送会社が関税を徴収する。

また、中国から郵便で送られる800ドル以下の荷物については、荷物の価値の120%、もしくは1個当たり100ドル(6月以降は200ドル)が課税される。
米郵便公社は関税徴収には関与せず、航空会社や船舶運航会社が中国側の配送業者や郵便当局と連携して関税を支払い、商品が中国・香港から発送される前に証明書を提示する必要がある。

その後、米中交渉の妥結に伴い、5/14 以降、下記の通り変更

変更前:中国から郵便で送られる800ドル以下の荷物については、荷物の価値の120%、もしくは1個当たり100ドル(6月以降は200ドル)が課税される。

変更後:中国から郵便で送られる800ドル以下の荷物については、荷物の価値の54%、もしくは1個当たり100ドル(6月以降も100ドル)が課税される。

TemuやSHEIN(シーイン)といった新興の通販会社が米国で急成長を遂げた背景には、一世紀近くにわたるこの抜け穴の存在がある。米税関・国境警備局によると、米国への「デミニミス」小包の数は2024年度に14億個と、22年度の約2倍に増えた。

今後、800ドル以下の小包も課税されるため、TemuやSHEINなどにとって打撃となる。 このため、新しく課税される税額を価格に上乗せする。

Temu やSHEINは販売業者なので、追加コストを自ら負担して販売することはありえない。外国のメーカーが追加コストを負担するかどうかは、そのメーカーの判断による。まずは各社の値上げ宣言で販売がどうなるか(需要家が追加コストを負担して高値で買うか、買うのを諦めるか、少々劣る代替品で我慢するか、等々)結果を見たい。

トランプ大統領による関税の大幅引き上げが早速、米国消費者に「値上げ」という形で影響を与えることとなった。トランプ大統領は関税収入を所得税減税で米国民に還元するとしているが、最終的にどんな形で米国経済に影響を与えるのか、注目される。

付記

アマゾンはTemu やSHEINに対抗して2024年11月に20ドル以下(大半が10ドル以下)の幅広い商品を取りそろえたサイト Amazon Haul を開設した。

大半が中国からの輸入品のため、 今回、これらについて対中関税による価格アップ分を明示することを決めた。

しかし、これを知った米政権側が「政権に敵対的だ」と猛反発し、大統領報道官が記者会見で批判、トランプ大統領もアマゾン創業者のJeff Bezosに電話して懸念を伝えた。

このため、アマゾンはこれを取りやめた。

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トランプ大統領は4月2日、中国からの輸入に対して非課税基準額(De minimis ;ラテン語で「些細なこと」という意味)ルールの適用を停止する大統領令を発表した。

これまで関税支払いが免除されていた800ドル以下の少額貨物に対して、5月2日以降、関税が課されることになる。

トランプ政権はフェンタニルの流入阻止などを理由に、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき、中国原産品に対して20%の追加関税を課している。

同措置を定めた大統領令では、輸入申告額が800ドル以下の少額貨物の輸入に対して、関税支払いなどが免除されるデミニミスルールの適用停止も定められていたが、通関上の混乱などがみられたことから、「適用される関税収入を完全かつ迅速に、処理および徴収するための適切なシステムが整っていることを商務長官が大統領に通知した時点」まで、一時的にデミニミスルールの適用を認めていた。

今般、商務長官が、関税を徴収するための適切なシステムが整ったことを大統領に報告したことから、次の措置を執ると発表した。

  • 米国東部時間5月2日午前0時1分以降に通関された中国または香港で生産された800ドル以下の製品に対して関税を課す。
  • 国際郵便ネットワークを通じて中国または香港から輸送された場合、関税率は、輸入申告価格の30%の従価税、または郵便物1件につき25ドルの重量税(6月1日午前0時1分以降は郵便物1件につき50ドル)が適用される。

* ChatGPTに確認したところ、通常この表現がされた場合には、"whichever is higher"(いずれか高い方) という意味になる。

  • 大統領令が発表された日から90日以内に、商務長官は米国通商代表部(USTR)代表と協議の上、本措置が米国の産業、消費者、およびサプライチェーンに与える影響と必要な追加措置について大統領に報告する。これには、マカオに対してデミニミスルールの適用停止を行うべきか否かについての勧告も含まれる。

なお、商品の価値が100ドル以下の贈答品、商品の価値が200ドル以下であり個人または家庭用で米国に入国する人物が携行している場合は、これまでどおり De minimis ruleが適用される。

中国以外の国に関しては「対応できるシステムができ次第」 De minimis ruleは廃止される。

ーーー

Temuは、商品代金に加えてこうしたコストを支払うよう、顧客に求めている。

Temuのベストセラーリストに掲載されている中国から発送された14商品は、税金が商品の価値を上回っていた。例えば、19.49ドルの電源タップは、28日時点で商品価格の1.41倍にあたる27.56ドルの輸入コストがかかっている。

Bloomberg によるTemuのベストセラー14品目の価格追加関税コストは下記の通りで、単純平均で追加コストは価格の1.24倍となり、全て転嫁すると、価格は従来の価格の2.24倍になる。

次世代半導体企業を支援するための情報処理促進法などの改正法が4月25日の参院本会議で可決・成立した。

法律案の概要(部分)

指定高速情報処理用半導体の生産を安定的に行うために必要な取組について、その実施に必要な資金の出資や施設・設備の現物出資、必要な資金の借入れに関する債務の保証等の支援措置を講じる。

また、これらの支援措置の対象となる者は、公募により選定し、これらの支援措置に関する業務は、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が行う

対象事業者は公募で選ぶとしているが、ラピダスを想定した法改正である。2025年度当初予算で出資金向けに1000億円を確保している。

IPAが次世代半導体事業者による民間金融機関からの借り入れに債務保証も付けられるようになる。IPAは今後、金融機関などから専門人材の受け入れを予定する。

ラピダスは2025年4月、千歳市の工場で試作ラインを立ち上げた。2027年に回路線幅2ナノメートルの最先端半導体の量産を目指しており、政府はこれまで研究開発向けに計1兆7225億円の支援(下記)を決めてきた。

同社の試算では量産まで5兆円規模の資金が必要になる。政府出資による信用力の向上や債務保証で民間からの資金調達を後押しする。

ラピダスは民間からもまずは1000億円の資金調達を目指している。現在はトヨタ自動車やNTTなどからの73億円の出資にとどまる。ラピダスは既存株主からの追加出資のほか、新規出資にも期待する。富士通などが新規出資の意向を示しているとみられる。

ラピダスでは7月にも最初の試作品ができあがる見込みで、性能は企業の出資判断を左右する。



政府によるラピダス支援の内容: 

「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」  累計金額=700+2,600+5,900+8,025 = 17,225億円

 

米国通商代表部(USTR)は4月17日、中国の海事・物流・造船分野に対する1974年通商法301条に基づく措置内容を決定したと発表した。

1974年通商法301条は、外国の通商措置や政策、慣行が通商協定に規定した米国の権利を侵害する場合や、不合理または差別的で米国の商業に負担や制限を与える場合に、外国製品に対して追加関税など輸入制限措置を講じることや、外国のサービスに対して追加料金や制限を課す権限などを認めている。

USTRは2024年2月以降、中国の海事・物流・造船分野に関する措置・政策・慣行を対象とした301条に基づく措置の要否や内容の決定に向けた手続きを進めていた。

今回、全く突然、米国以外で建造された自動車船に入港料を課すことが唐突に盛り込まれたことで、海運関係者の間に困惑が広がっている。

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中国企業が運航・所有する船舶や、中国で建造された船舶の米国港湾への入港について、2025年10月から追加料金を課す。

 

海運会社は、米国で建造される新しい船舶を発注したことを証明できれば、入港料を最大3年間免除される。

米国で建造される船舶:船体の鉄鋼は全て米国産、エンジン、プロペラなどの主要部品もすべて米国製など、条件は厳しく、現実的でない。

入港料は1航海当たり1回のみ適用され、年間では最高6回まで適用される。
米国から石炭や穀物などを輸出するために、貨物を積載せずに米国の港湾に入港した船舶は入港料を免除される。

なお、 中国で建造された船舶が米国内の港湾に入港する際に入港料を課す措置について、国内の輸出業者および五大湖、カリブ海、米領海を運航する船舶所有者を免除すると発表した。

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自動車運搬船に関しては、中国で建造された船舶に限らず、米国外で建造された全ての船舶の米国港湾への入港に際し、追加料金を課す。

USTRは2月に入港料案を公表したが、2月に公表した案には、中国関係船ではない自動車船に入港料を課す案はなかった。米国の港湾に寄港するほぼ全ての自動車船に手数料の支払いが求められることになる。

自動車船に対する入港料は、当該船舶の輸送能力に応じて徴収される。入港料は1CEU(標準車換算積載量)当たり150ドルで、大型船の6000―7000台積みの場合は90万―105万ドル(約1.3億―1.5億円)となる。

日本の開運会社の自動車船は320隻程度で、最大手は日本郵船の124隻。

お断り - 化学業界の話題

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システムミスで古いデータについては、①画像が出ない、②他のデータ(http://www.knak.jp/)に飛べない、という問題が出ました。

恐れ入りますが、過去のデータについてはバックナンバー  (目次つき) でご覧ねがいます。

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Eli Lillyは4 月17日、食事療法および運動療法のみでは血糖管理が不十分な2 型糖尿病の成人患者を対象に、経口GLP-1 受容体作動薬 Orforglipron の安全性と有効性を評価する第 III 相 ACHIEVE-1 試験で肯定的なトップライン結果を発表した。

Orforglipron は、時間を問わず、飲食および飲水の制限なく服用することが可能な初めての飲み薬である。(1 日1 回服用)

Orforglipronは初めての経口低分子 GLP-1 受容体作動薬として第 III相試験で統計学的に有意な有効性を示し、各群の平均 HbA1cを 1.3~1.6%低下させた。
Orforglipronを 1日 1回経口投与し、主な副次評価項目の 1つとして検討した体重減少量は、最高用量群で平均 16.0ポンド(7.3 kg)(7.9%) だった。
ACHIEVE-1における Orforglipron の全般的な安全性と忍容性のプロファイルは、注射剤のGLP-1受容体作動薬と同様であった。

Eli Lillyのミッションは、成人患者数が 2050 年までに 7 億6千万人に達すると予測される2 型糖尿病をはじめとした慢性疾患を減らすことで、今回の結果は、そのミッションに向けた大きな歩みとなる。本剤が承認されれば、供給に制約なく全世界で Orforglipron を上市できる見込みとしている。

2型糖尿病とは:

最も多いタイプの糖尿病で、一般的に"糖尿病"と表現した場合2型糖尿病を示すことが多い。

遺伝的素因によるインスリン分泌能の低下に、環境的素因としての生活習慣の悪化に伴うインスリン抵抗性が加わり、インスリンの相対的不足に陥った場合に発症する。

一般的に生活習慣病と称されるタイプの糖尿病が2型糖尿病で、インスリン分泌能の低下が不可欠で、生活習慣の乱れだけではなく、大なり小なり糖尿病になりやすい遺伝的素因を持っている。

肥満は、遺伝的な原因に関係なく、2型糖尿病の重大な危険因子となる。

血糖の濃度(血糖値)が何年間も高いままで放置されると、血管が傷つき、将来的に心臓病や、失明、腎不全、足の切断といった、より重い病気につながる。また、著しく高い血糖は、それだけで昏睡などをおこすことがある。

糖分を含む食べ物は消化酵素などでブドウ糖に分解され、小腸から血液中に吸収される。

食事によって血液中のブドウ糖が増えると、すい臓からインスリンが分泌され、その働きによりブドウ糖は筋肉などへ送り込まれ、エネルギーとして利用される。

インスリンの相対的不足に陥った場合に2型糖尿病を発症する。

食事をとると小腸から分泌され、インスリンの分泌を促進する働きをもつホルモンをインクレチンといい、GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド )とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)がある。
2型糖尿病に対する治療薬として注目されるのがGLP-1である。






GLP-1は、食事をとって血糖値が上がると、小腸にあるL細胞から分泌され、すい臓のβ 細胞表面にあるGLP-1の鍵穴 (受容体) にくっつき、β 細胞内からインスリンを分泌させる。GLP-1は、血糖値が高い場合にのみインスリンを分泌させる特徴がある。摂取した食物の胃からの排出を遅らせる作用や食欲を抑える作用などもある。

GIPも食欲を抑制するだけでなく、体内での糖分や脂肪の分解を改善する可能性がある。

GLP-1もGIPも肥満症治療薬として使われる。(2型糖尿病治療薬として使われるのはGLP-1)


Orforglipron (OWL833) は中外製薬が初期段階前まで開発した後、2018年に全世界での開発・販売の権利をEli Lillyに譲渡した。

Eli LillyはOWL833に関する全世界の開発権および販売権を取得する。

中外製薬は5,000万米ドルの契約一時金を受け取り、今後の開発の進捗度合いに応じて追加の支払いを受け取る。

また、上市成功後には、中外製薬はさらに売上額に応じたロイヤルティを受け取る。Eli Lillyによると、実用化できれば売上高の1桁台半ばから10%台前半までの段階的なロイヤルティーを中外製薬に支払う。仮に6兆円の売り上げで12%の料率なら、約7000億円が中外製薬に入る計算である。

中外製薬にとって、糖尿病・肥満症領域は主力分野ではない。そのため、Eli Lillyにライセンスした。

同社がこれをタイミング良く開発できたのは、同社の開発体制にある。まず創薬技術を開発してそれを医薬品開発に適用する「技術ドリブン創薬」を掲げる。他社のようにターゲットとする疾患領域を定めてから開発に取り組むのと発想が異なる。

研究開発に集中できるのは、スイスの親会社ロシュとの役割分担がうまくいっているためである。

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肥満は2型糖尿病の重大な危険因子となるが、他にもいろいろな病気の原因となる。

新タイプの肥満症治療薬の利用者が、米国を中心に世界で急増している。GLP-1、GIP を使うものである。

先駆けとなったのが、デンマーク製薬大手Novo Nordisk Wegovy(ウゴービ )で、2021年に米国で承認された。もともと糖尿病(内臓脂肪の蓄積が主な原因)のために開発した薬(GLP-1受容体作動薬)を肥満症治療に応用したもので、食欲を抑制することでやせる効果があるとされる。日本では「セマグルチド(遺伝子組換え)」として2023年3月に承認された。

Eli Lillyは2023年12月、同様の働きを持つ肥満症治療薬Zepboundを米市場に投入した。

CNBCによると、各社の開発状況は下記の通り。これまでの治療薬はすべて注射である。

製品名

メーカー 用法 米承認
Wegovy Novo Nordisk 週1回の注射 2021 承認 GLP-1を活性化 
Zepbound Eli Lilly 週1回の注射 2023 承認 GLP-1とGIPを活性化   
Saxenda Novo Nordisk 週1回の注射 2020 承認 GLP-1を活性化
MariTide Amgen 月1回の注射 Experimental GLP-1を活性化し、GIPをブロック
Danuglipron Pfizer 1日1回の錠剤 Experimental GLP-1を活性化
VK2735 Viking Therapeutics 週1回の注射 Experimental GLP-1とGIPを活性化
Pemvidutide Altimmune 週1回の注射 Experimental GLP-1を活性化
GSBR-1290 Structure Therapeutics 週1回の錠剤 Experimental GLP-1を活性化
Survodutide Zealand Pharma,
Boehringer Ingelheim
週1回の注射 Experimental GLP-1とグルカゴンを活性化


2024/4/15 新タイプの肥満症治療薬が急増

参考 

京都大学病院はiPS細胞から作った膵臓の細胞のシートを糖尿病の患者に移植する臨床試験を2025年にも実施する。

 2024年9月3日  京大、iPSで糖尿病を治療 



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トランプ米政権が発足して20日で3カ月。トランプ大統領は世界各国からの輸入品に対して「相互関税」を課した。高関税を武器に対米貿易黒字の解消や防衛費拡大を求め、各国は対抗か譲歩かの決断を迫られる。不確実性は前例のない水準に高まった。

米ノースウェスタン大のスコット・ベーカー准教授らが新聞記事などから算出する「貿易政策不確実性指数」は3月に5735に跳ね上がった。大統領選直前だった2024年10月の29倍、第1次政権で過去最高を更新した2019年8月の3倍である。

トランプ政権の猫の目の関税政策が経済の先行きを極めて不透明にしていることを映す。


TPU指数は、
企業や投資家が貿易政策の今後の方向性にどれだけ不透明感を持っているかを測るもので、たとえば、関税の変更、自由貿易協定の破棄・締結、輸出入制限などのニュースが増えると、「不確実性」が高まるとされている。

TPU指数は、以下のようなステップで計算される。

  1. 新聞記事の収集 
    一般的には、主要新聞(たとえばアメリカなら Wall Street Journal, New York Times など)の記事を対象とする。

  2. キーワード検索
    「不確実性(uncertainty)」に関連する語と、「貿易(trade)」や「関税(tariff)」「輸出入(exports/imports)」などの
    貿易関連語が含まれる記事を抽出する。

  3. 割合の計算
    特定の月や四半期において、全記事のうち上記の条件を満たす記事の割合を計算する。

  4. 指数化
    得られた割合を基準年などに合わせてスケーリングし、指数化する(たとえば基準年=100とするなど)。

これは、「経済政策不確実性指数(EPU: Economic Policy Uncertainty Index)」の貿易政策版である。

『経済政策不確実性指数』とは、政策の影響による経済の先行きの不確実性を示す指標で、米スタンフォード大学の教授らによって開発され、経済政策の不確実性に関する新聞報道の定量化、先行きに控える税制変更の数、エコノミストによる経済予想の不一致度合いの3要素で構成されている。

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