理化学研究所、ダイセルらの共同研究グループは、消化管内で酢酸を特異的に増加させるセルロース試料である水溶性酢酸セルロース(WSCA)が腸内細菌に作用することで消化管からの糖質吸収を抑え、肥満を改善することを明らかにした。
本研究成果は、プレバイオティクスに基づく食品を介した肥満予防に貢献するものと期待される。
プレバイオティクス(prebiotics)は、消化管内で特定の腸内細菌に働きかけることでヒトに有益な効果をもたらす食品成分。水溶性食物繊維やオリゴ糖などを含む。
共同研究グループは、WSCA をマウスに投与した結果、肥満や高血糖、脂肪肝が改善すること、WSCA の効果により腸内環境の変化を介して吸収可能な単純糖質を減少させること、および、WSCA が肝臓での糖質貯蓄を減少させることを突き止めた。
肥満は 2 型糖尿病や心臓病などいろいろな生活習慣病の基盤となる病態で、日本のみならず世界中で増加しており、その効果的な対策が望まれている。
近年、GLP-1 作動薬などさまざまな治療法が開発され、実用化されている。
........... 2024/4/15 新タイプの肥満症治療薬が急増
しかし、投薬にかかるコストや副作用の懸念などから、安価で手軽な対策の開発が望まれている。
プレバイオティクスは「消化管内で特定の腸内細菌に働きかけることでヒトに有益な効果をもたらす食品成分」と定義されている。プレバイオティクスの一種である食物繊維は腸内細菌に代謝されて短鎖脂肪酸など有益な代謝物を増加させることや食物繊維を多く含む食事は健康増進につながることも知られている。
一方、ヒトの腸内細菌には個人差があることから、プレバイオティクスを効果的に分解して有益な代謝物を産生する細菌を保有するとは限らず、その効果が人それぞれ異なる理由の一つであると考えられる。
共同研究グループは、短鎖脂肪酸の一種である酢酸を消化管内で効果的に遊離する水溶性酢酸セルロース(WSCA)を作成し、どのような腸内環境であっても酢酸を増加させることができる手法を開発した。
共同研究グループは、WSCA をマウスに投与すると、マウスの体重増加が抑制されることを突き止めた。この効果はその大部分が上部消化管で吸収される酢酸ナトリウムの投与では見られないため、消化管内で酢酸を増加させる WSCA に特徴的であることが分かった。
さらに、肥満マウスにWSCA を投与したところ、高血糖や脂肪肝などが改善することが判明した。一方、他の短鎖脂肪酸であるプロピオン酸、酪酸の効果も同様の方法で調べたが、体重増加などに変化は見られなかった。
次に共同研究グループは WSCA がマウスの代謝に及ぼす影響を調べた。
その結果、WSCA は脂肪分解の代謝を促進するとともに、糖質代謝を抑制することが分かった。特に肝臓におけるグリコーゲンの貯蔵量が減少していたことから、WSCA が消化管からの糖質吸収に影響を与えている可能性があるのではないかと考えた。
そこで、WSCA が腸内環境に与える影響を調べたところ、WSCA は消化管内の代表的なヒト腸内細菌である Bacteroides 目の細菌を増加させていた。また、通常マウス、Bacteroides thetaiotaomicron 菌の単独定着マウス、 および無菌マウスいずれにおいても消化管内の酢酸濃度を増加させたものの、 無菌マウスでは体重抑制効果が見られなかった。さらに、WSCA は 消化管内においてマウスが分解・吸収可能な麦芽糖などの単純糖質を減少させたが、この効果は無菌マウスでは見られなかった。
最後に、共同研究グループは酢酸が腸内細菌に与える直接的な効果を調べた。その結果、酢酸は Bacteroides thetaiotaomicron 菌の増殖を促すことで糖質消費を加速させること、また、同菌の糖質代謝に関わる遺伝子の発現を増やすことが分かった。
以上の結果から、WSCA は消化管内で酢酸を増加させることで、Bacteroides thetaiotaomicron 菌をはじめとする腸内細菌による糖質消費を促進し、その結果、消化管からの糖質吸収を制限して体重増加を抑制する効果をもたらすことが明らかになった。
本研究成果は、プレバイオティクス(消化管内で特定の腸内細菌に働きかけることでヒトに有益な効果をもたらす食品成分。食物繊維やオリゴ糖などを含む)に基づく食品を介した肥満予防に貢献するものと期待される
本研究は科学雑誌『Cell Metabolism』オンライン版(5 月16 日付)に掲載された。
タイトル:Acetylated cellulose suppresses body mass gain through gut commensals consuming host-accessible carbohydrates
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