トランプ次期大統領は1月20日に就任式を行うが、閣僚やホワイトハウス高官の指名を矢継早に行っている。
合衆国憲法は、上級公務員について大統領が指名し、上院が承認することを定めている。
上院の承認が必要な上級公務員はPAS(Presidential Appointed, Senate-confirmed)と呼ばれ、各省の長官や外交官、最高裁裁判官をはじめ1,200人以上が対象となっている。
上院が休会している間に生じた公務員の欠員については、上院の承認を得ないで任命する権限「休会任命」(recess appointment)を大統領に与えている。
トランプ次期大統領は、上院での承認プロセスに時間がかかることを問題視している。また、指名した数名の候補者に対して共和党の上院議員から承認に慎重な見方が示されていることもあり、同氏が1月20日の就任以降に上院を休会させて休会任命により、主要閣僚を任命するとの見方がでており、その動向が注目されている。
特に問題視されているのは、黄色で覆った各氏
Pete Hegseth 国防長官候補:国防総省のような大規模な組織を運営した経験がないだけでなく、2017年に性的暴行疑惑で警察の捜査を受けている。戦闘任務への女性従事に否定的。
Robert F. Kennedy Jr.保健福祉長官候補:新型コロナウイルスのワクチンに反対、「自閉症はワクチンが原因の可能性がある」「医薬品の一般向けの消費者広告を中止したい」と主張、肥満薬、糖尿病薬に反対
Kash Patel FBI長官候補:トランプ氏の捜査にあたったFBIなどを「ディープステート(闇の政府)」と批判する陰謀論を唱えてきた。
Tulsi Gabbard 国家情報長官候補:ロシアに同調するコメントや、2017年のシリア訪問・アサド大統領との会見など
第2次トランプ政権の主な顔ぶれ 赤字は女性
国務長官 | Marco Rubio 上院議員 | 2016年の大統領選の共和党予備選でトランプと敵対、その後関係修復。 中国、イラン、ベネズエラに対する強硬派として知られ、ウクライナ支援には懐疑的。 |
|
財務長官 | Scott Bessent | ジョージ・ソロスのもとで経験を積んだ投資ファンド経営者 | |
国防長官 | Pete Hegseth | FOXニュースの司会者、保守的な言動。 元軍人だが、軍や国家安全保障分野の上級職に就いた経験なし。戦闘任務への女性従事に否定的 |
|
司法長官 | Pam Bondi | 元フロリダ州司法長官。第1次政権でトランプが弾劾訴追された際の弁護団の一員 | |
当初 Matt Gaetz | (辞退)下院議員。未成年女性と性的関係をもった疑惑 情報が流出 (議員を辞職し、下院の調査無効と主張) | ||
内務長官 | Doug Burgum | ノースダコタ州知事。化石燃料の採掘促進を主導するとみられる | |
農務長官 | Brooke Rollins | 弁護士。シンクタンク「アメリカ・ファースト政策研究所」所長 | |
商務長官 | Howard Lutnick | 米投資銀行トップ。政権移行チームの共同議長。対中強硬派 | |
労働長官 | Lori Chavez-DeRemer | オレゴン州選出の下院議員(ラテン系女性としては同州初)、今回落選 | |
保健福祉長官 | Robert F. Kennedy Jr. | 故Robert Kennedyの長男、弁護士、大統領選に無所属で立候補したが撤退してトランプを支持。FDAに対して批判的な立場、新型コロナウイルスのワクチンに反対 | |
住宅都市開発長官 | Scott Turner | 元下院議員。政界進出前は、米プロフットボールリーグ(NFL)選手 | |
運輸長官 | Linda McMahon | プロレス団体「WWE」の元CEO。共和党への大口献金者で、シンクタンク「アメリカ・ファースト政策研究所」の理事長。第1次トランプ政権では中小企業庁長官 | |
退役軍人長官 | Doug Collins | 元下院議員。トランプの「ウクライナ疑惑」をめぐる弾劾調査で同氏を強力に擁護。現在は空軍予備軍司令部の牧師 | |
国土安全保障長官 | Kristi Noem | サウスダコタ州知事として、国境管理強化のため州兵を米メキシコ国境に派遣。 | |
大統領首席補佐官 | Susie Wiles | 大統領選でトランプ陣営の選対本部長を務めた選挙戦略のプロ。冷徹さを買われ、トランプ氏から「氷の乙女」と紹介された | |
FBI 長官 | Kash Patel | 第1次トランプ政権では国防総省高官などを務めた。トランプ氏の熱烈な支持者で、トランプ捜査を巡る陰謀論主張 | |
CIA長官 | John Ratcliffe | 元下院議員、第1次トランプ政権では2020~21年に国家情報長官を務めた。トランプの弾劾訴追時も、トランプ氏を強く擁護。 | |
国家情報長官 | Tulsi Gabbard | 元下院議員 (米国議会初のサモア系アメリカ人で、米国議会初のヒンドゥー教徒)、2020年の大統領選では「非介入主義」の外交を掲げて民主党候補の指名獲得を目指したが、その後に離党。古巣を批判し保守層から人気を集めた。 ロシアに同調するコメント (「ウクライナ侵攻はロシア政府の責任によるものでない」)や、2017年のシリア訪問・アサド大統領との会見を巡り追及される見通し。 | |
国境管理担当 "Border czar" |
Tom Homan | 国境管理で中核的な役割を担う。移民税関捜査局で局長代理を務めた経験があり、トランプが掲げる不法移民の「史上最大の強制送還」を担当するとみられる。 | |
Department of Government Efficiency (非公式の組織) |
Elon Musk | テスラ、スペースXなどを経営する世界有数の起業家。大統領選では自らが所有するX(旧ツイッター)で連日トランプ支持を訴えた。 | |
Vivek Ramaswamy | インドからの移民2世で、実業家として製薬ベンチャーなどを起業。24年大統領選では共和党の指名争いに立候補し、撤退後はトランプ氏を熱烈に支持してきた。製薬スタートアップ企業のRoivant Sciences (住友ファーマにライセンス)の創業者 | ||
「2人は官僚主義を解体し、過剰な規制と無駄な支出を削減する。 特に重要なのは、年間6.5兆ドルに及ぶ政府支出に存在する膨大な無駄や詐欺行為を排除すること」 Musk: 連邦予算から少なくとも2兆ドルを削減できると主張 → (11/20 目標縮小)年間5千億ドル分の歳出について削減を |
|||
行政管理予算局局長 | Russ Vought | 第1次政権でも同じ役職を担った「コストカッター」で、歳出削減や規制緩和に取り組むとみられる | |
EPA長官 | Lee Zrldin | 元下院議員でトランプ氏の長年の盟友。環境政策の実績は乏しいと報じられている。環境規制の緩和を目指すとみられる。 | |
大統領補佐官 (国家安全保障担当) |
Michael Waltz下院議員 | 「グリーンベレー」出身で、アフガニスタンなどで従軍。バイデン政権のウクライナ支援を批判し、対中強硬派でもある。 |
|
国連大使 | Elise Stefanik下院議員 | 下院共和党ナンバー3の党会議議長。親イスラエルの姿勢で知られ、国連でイスラエルへの批判が広がっていることに反発し、米国の資金拠出の見直しを訴えた。 | |
中小企業局長 | Kelly Loeffler | 元上院議員。トランプに忠実で、2020年選挙の結果を覆す運動を支持。 | |
大統領顧問 | Alina Habba | 去数年間、トランプの裁判でトランプの弁護を行った。 | |
"Crypto czar" (新設) 暗号資産担当官 |
David Sacks | トランプ:「David は、人工知能と暗号資産において政権の政策を導くことになる。この2つの分野は、将来の米国の競争力にとって重要だ。Davidは、両分野において米国を明確なグローバルリーダーとすることに注力する」 | |
公衆衛生局長官 | Dr. Janette Nesheiwat | ニューヨークで開業する医師で、現在は緊急医療センターのチェーンの医療ディレクターを務めている。 トランプ大統領は「予防医学と公衆衛生の熱心な支持者であり、強力なコミュニケーター」と称賛した。 |
|
大統領報道官 | Karoline Leavitt | 27歳での就任は歴代最年少 トランプ政権の最初の任期中、ホワイトハウスで報道官補佐として働く。今回のトランプの選挙運動で全国報道官を務めた。 |
なお、選挙後の上院、下院の議席数は下記の通りとなる。上院で1名、下院で2名がトランプ政権で閣僚等になる予定で、その時点で議員を辞任する。
上院
共和党
民主党 民主系
無所属欠員 合計 改選後 53 45 2 100 異動 -1 1 異動後 52 45 2 1 100
Marco Rubio 上院議員が国務長官になる時点で辞任するため、新議会で後任決定まで欠員1 となる。
下院
定員 435名
共和党 民主党 合計 欠員 改選後
220 215 435 0 選挙後に辞任
-1 -1 小計
219 215 434 1 2議員の辞任
-2 -2 合計
217 215 432 3
Matt Gaetz議員が未成年女性と性的関係をもった疑惑で、情報が流出、11月13日に議員を辞職した。追って
Elise Stefanik議員は国連大使に就任するため、辞任。
Michael Waltz 議員は大統領補佐官(国家安全保障担当)に就任するため辞任この結果、トランプ議会のスタート時には共和党と民主党は217:215と接近し、数名の反対や欠席で結果が変わることにもなりかねない。
ーーー
米連邦議会で1月3日、昨年11月の選挙結果を受けた新議会が開会し、下院(定数435)で共和党のマイク・ジョンソン議長が僅差で再選された。当初は必要な過半数を得られない可能性があったものの、ドナルド・トランプ次期大統領が後押ししたこともあり、必要な票数を得た。
共和党は下院で219議席を得ている。議長選出には過半数の218人の支持が必要なため、共和党議員2人が造反すればジョンソン氏は再選に必要な過半数に届かない状況だった。当初は議員3人が造反したものの、ジョンソン氏は本会議場を離れて3人を説得。この結果、2人がジョンソン氏の支持に回り、再選が決まった。
議長候補 得票 共和党 Johnson議員 218 民主党 Jeffries議員 215 共和党 Emmer 議員 1 合計 434
最近のコメント