米製薬大手Merck (米国とカナダ以外では MSD )は、インフルエンザ治療薬を開発中のバイオ企業 Cidara Therapeuticsを買収することで合意した。これは2028年に主力のがん免疫療法薬「キイトルーダ」が特許切れするのに備える動き。

買収額は1株当たり現金221.50ドルで、13日終値の2倍超に相当。総額は約92億ドル(約1兆4200億円)に上る。

Cidara Therapeuticsが開発中の インフルエンザ治療薬「CD388」はワクチンではなく、免疫反応を引き起こすタイプの薬ではない。これは合併症のリスクが高い人を対象に、インフルエンザを予防するための長期持続型治療薬で、現在は後期段階の臨床試験が進められている。

Cidara によれば、ワクチンや抗ウイルス薬に加わる新たな選択肢として、インフルエンザ予防に貢献する可能性があるという。

CD388は、長い半減期を持つ独自のヒト免疫グロブリンG1 Fcに安定的に結合した多価ザナミビル結合体である。

ザナミビル水和物(リレンザ)はインフルエンザウイルスの感染を抑制する効果を持つ抗ウイルス薬で、吸入剤として設計されており、直接呼吸器系に作用することでウイルスの増殖を阻害して症状の軽減や罹患期間の短縮に寄与する。

その特徴的な投与方法により全身への影響を最小限に抑えつつ局所での高い薬物濃度を維持することが可能となっている。

1989年にオーストラリアのBiota社が初めて開発、1990年にGlaxoSmithKlineに独占的にライセンスされ、同社がリレンザとして発売した。

CD388は、ザナミビルの多価複合体で、半減期を延長するように改変されたヒトIgG1のCH1-Fcハイブリッドドメインに結合している。CD388はザナミビルの抗ウイルス活性を向上させ、高病原性株やノイラミニダーゼ阻害剤耐性株を含むA型およびB型インフルエンザウイルス全般に対して強力かつ普遍的な活性を示し、耐性獲得の可能性が低く、致死性マウス感染モデルにおいて強力な有効性を示した。

10月9日にCD388が米国食品医薬品局(FDA)から画期的治療薬指定を受けた。

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Merckは今後5年間で180億ドル規模の売上げ減少が見込まれるキイトルーダ®の2028年の特許切れに備え、治療薬の拡充に向けた買収を進めている。キイトルーダは昨年の同社売上げのほぼ半分を占めていた。

癌細胞は、免疫細胞からの攻撃を逃れるために、PD-L1 というタンパク質を出し、これが免疫細胞のPD-1 に結合すると、免疫細胞の働きが抑制される。

キイトルーダ®(一般名:ペムブロリズマブ、MK-3475)は「抗PD-1抗体」とよばれる免疫チェックポイント阻害薬で、T細胞のPD-1に結合することにより、PD-1 とがん細胞のPD-L1の結合を防止する。その結果、T細胞が活性化され、抗がん作用が発揮されると考えられている。


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Merckは2023年4月16日、「キイトルーダ」特許切れ対策として、潰瘍性大腸炎やクローン病(炎症性腸疾患)向けの治療薬を開発している米バイオ企業Prometheus Biosciencesを買収すると発表した。

2023/4/18 米Merck、バイオ企業を1.4兆円で買収


同社は7月にも、呼吸器疾患治療薬を手がける英バイオ医薬品企業Verona Pharmaを約100億ドル(約1兆4700億円)で買収することで合意している。

Verona Pharmaは、昨年に米食品医薬品局(FDA)から承認された慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療薬「Ohtuvayre(アンシフェントリン)」を手掛けている。  

韓国のPosco Holdingsは、オーストラリアの鉱業会社Mineral Resources Limited(MinRes)のリチウム事業の30%を取得し、これにより西オーストラリア州の2つの鉱山の一部所有権を獲得、電気自動車用バッテリーに必要な重要な金属資源を確保できるようになる。


Mineral Resources Limited(略称 MinRes)は西オーストラリア州バースに本社を置く。多角的な鉱業サービス会社および鉱山運営会社で、西オーストラリア州とノーザンテリトリー全域に大規模な拠点を有する。

対象の鉱物資源は鉄鉱石、リチウムで、エネルギー関連事業も展開している。自社の採掘事業だけでなく、他の鉱山会社へのサービスの提供(採掘サービス、インフラ提供など)も行っている。

リチウムについては、西オーストラリア州北部のWodgina鉱山をAlbemarleとの50/50JVで運営しており、西オーストラリア州南部のMount Marion鉱山を 江西贛鋒鋰業集團(JiangxiGanfeng Lithium)との50/50JVで運営している。

PoscoとMinResは、12億豪ドル(約7.65億米ドル)に相当する取引により、合弁企業を設立する。

MinResは両鉱山のMinRes持ち分を新設するJVに移す。

下図のとおり、Posco はWodgina鉱山及びMt.Marion鉱山のMinRes持ち分各50%のうち、各15%を取得する。

Poscoはこれら2つの鉱山から出荷されるリチウム精鉱を出資比率に応じて それぞれ15%分を受け取る。

MinResは引き続きこれらの資産の運営を担当する。

投資はオーストラリア外国人投資審議委員会の承認後に確定する。

MinResは、今回の売却で得られた資金を債務返済に充てる。同社の債務は54億オーストラリアドルに急増しており、時価総額の半分を超えている。


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Poscoは年間27万トンのリチウム精鉱を安定的に確保することになる見通しで、これは水酸化リチウム約3万7000トンを生産できる量で、電気自動車約86万台に使われる量 である。

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Poscoは6500万ドルを投資し、アルゼンチン・オンブレムエルト(Hombre Muerto)塩湖内の鉱区(塩湖内に埋蔵された鉱物の採掘・開発権)を保有するカナダの資源開発会社LIS(Lithium South)のアルゼンチン現地法人の持分100%の買収を決定した。

Poscoは2018年にオンブレムエルト塩湖北側の権益を確保したのに続き、今回 、隣接する鉱区の買収を通じ、世界最高水準のリチウムが埋蔵されているオンブレムエルト塩湖で追加の資源と用地を確保することになる。

Posco は現地にリチウム生産工場を作って水酸化リチウムを生産しているが、このインフラとのシナジー効果も期待できる。

2021/12/23 韓国POSCO、アルゼンチンでのリチウム生産計画

米製薬大手 Pfizerは11月3日、デンマーク製薬大手のNovo Nordisk を提訴したと発表した。

Pfizerが買収で合意していた肥満症治療薬を開発する米新興企業Metseraに対し、Novo Nordisk が対抗して買収提案を出したことを問題視した。

Novo Nordisk は肥満症薬で先行しており、買収は独占につながると主張している。

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新タイプの肥満症治療薬の利用者が、米国を中心に世界で急増している。

先駆けとなったのが、デンマーク製薬大手Novo Nordisk Wegovy(ウゴービ )で、2021年に米国で承認された。もともと糖尿病(内臓脂肪の蓄積が主な原因)のために開発した薬(GLP-1受容体作動薬)を肥満症治療に応用したもので、食欲を抑制することでやせる効果があるとされる。日本では「セマグルチド(遺伝子組換え)」として2023年3月に承認された。

Eli Lillyは2023年12月、同様の働きを持つ肥満症治療薬Zepboundを米市場に投入した。

2024/4/15 新タイプの肥満症治療薬が急増 

(以降)

2024/5/30 米 Eli Lilly、肥満症薬を増産

2024/7/24 ロシュの肥満症の候補薬、初期臨床試験で平均7%減量   

2024/8/5  Eli Lillyの肥満症治療薬、心不全重症化リスクも軽減

2025/5/19 新規プレバイオティクスによる抗肥満作用の発見

2025/7/30 米Merck、米Pfizer、英GSK、相次いで中国の医薬会社から新規治療薬候補の開発・販売権を取得 

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Pfizerは2023年12月1日、自社開発の肥満症経口薬「Danuglipron」の1日2回服用タイプについて、中期試験で被験者の大半が吐き気など副作用を理由に服用を取りやめたため、後期臨床試験への移行を見送る方針を示した。

その後、Danuglipronを1日1回服用する試験を複数の用量で進めていたが、2025年4月14日、開発を中止したと発表した。臨床試験で被験者1人が薬物性肝障害を発症した可能性があり、服用をやめたところ回復したことが理由。


Pfizerは本年9月22日、肥満治療薬スタートアップの Metsera を最大73億ドルで買収することで合意したと発表した。自社開発の減量薬を安全上の理由で中止したPfizerは、急成長する市場で遅れを取り戻す狙いがある。

発表によると、Pfizerは Metsera に対し1株当たり47.50ドル(19日の終値33ドル強に対し、43%のプレミアム)の現金を支払うほか、特定の業績目標達成時には追加で22.50ドルを支払う。

買収により、Pfizerは深い専門知識と、差別化された経口および注射剤のインクレチン、非インクレチン、そして併用療法候補のポートフォリオを獲得する。MetseraとPfizerの両社の取締役会は、この取引を全会一致で承認した。


インクレチンは、食事をとると小腸から分泌され、インスリンの分泌を促進する働きをもつホルモンで、GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド )とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)がある。(上図参照)


Metseraの候補製品は、
MET-097i: 完全にバイアスされた超長時間作用型GLP-1受容体アゴニストの注射剤候補で、第3相臨床試験への移行が予定されている。

同社の非インクレチン系肥満治療薬は、MET-233i:で、食欲調節ホルモンであるアミリンの作用を模倣する長時間作用型アナログ。第1相臨床試験の段階にあり、GLP-1受容体アゴニストとの併用療法の可能性も探られている。


このほか、
経口GLP-1受容体作動薬候補MET-224oおよびMET-097o:臨床試験の開始が間近)のMET-815や、MET-097iのプロドラッグ(体内で活性型に変換される前の薬剤)がある。


しかし、
Metsera は10月30日にデンマークのNovo Nordiskから一方的な買収提案を受けたと発表した。

株式1株あたり56.50 ドルの現金+最大21.25 ドルの追加払いを含むもので、最大85億ドル(一時金60億ドル+マイルストーン達成に応じた支払い)になる。Pfizerの提示額はマイルストーンを含め73億ドルである。

Metseraの取締役会は、この提案をPfizerとの合意を上回る「Superior Company Proposal(優越的買収提案)」と判断。これにより、Pfizerとの既存合意においてPfizer側が対応交渉を行う機会(いわゆるマッチング期間)が発生する。

これに対し、Pfizerは、Novo Nordiskの提案が「反競争的である」「買収契約における優先交渉権(あるいはマッチング条項)を無視している」と主張した。

Pfizerは、Metseraおよびその取締役会、さらにNovo Nordiskを対象に、契約違反・取締役義務違反・妨害行為を理由とした訴訟を提起した。

また、連邦法(〈クレイトン法〉第7条、〈シャーマン法〉第1条・第2条)に基づく反トラスト(反競争)訴訟も提起した。Pfizer側主張では、デンマークのNovo NordiskがMetseraを買収して将来のアメリカのライバルを排除しようとしているというもの。

PfizerとNovo Nordiskは、Metseraの買収をめぐり、4日に予定されている法廷審問を前に、それぞれの提示額を引き上げた。

Metseraの発表によると、Novo Nordiskの最新の提示額は1株当たり最大86.20ドルで、総額100億ドルに達する。一方、Pfizerの新たな提示額は1株70ドルで、総額およそ81億ドルとされている。Metseraによれば、Pfizerには自社の提案内容を再調整するため2日間の交渉期間が与えられている。

PfizerはMetseraおよびNovo Nordiskを相手取って起こした2件の訴訟のうち1件で、4日間とされていた自社の対抗入札期限を凍結するよう裁判所に求めている。この審問は、4日午前11時から米デラウェア州衡平裁判所で行われる予定。

 

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なお、Eli LillyとNovio Nordiskは、減量薬を含む新たな薬価取引をホワイトハウスと発表する計画である。

報道によれば、両社はそれぞれの肥満治療薬の最低用量を月額149ドルで提供する合意に至るとのことである。この発表は早ければ今週中にも行われる可能性がある。

価格譲歩の見返りとして、両社は65歳以上のアメリカ人を対象とする連邦健康保険制度であるメディケアの下で、自社の薬剤の保険適用を獲得することになる。この保険適用は、両製薬会社にとって重要な新たな償還機会を提供するものである。

メディケアの適用は、これらの肥満治療薬にとって潜在的に大きな市場拡大を意味する。何百万人もの高齢アメリカ人にとって、これらの治療がより利用しやすくなるからである。


トランプ大統領は、英製薬大手AstraZenecaと、一部処方薬の価格を大幅引き下げる代わりに医薬品関税を3年間免除することで合意したと発表(10/10)

今後米国で発売するすべての新薬に他の先進国での最低価格を適用するほか、メディケイド(低所得者向け医療保険制度)加入者向けに大幅に値引きを行う。

さらにアストラゼネカは直販サイトで取り扱う製品数を増やす予定で、大統領はその価格について、「大幅な値引き」になると述べた。また、近く立ち上げ予定の医薬品販売サイト「TrumpRx」でも医薬品を提供する計画。

アストラゼネカは米国での医薬品製造や研究開発に今後5年間で500億ドル(約7兆6千億円)を投資し、米国内で販売する薬の現地製造を目指す。

10/1の米Pfizerに次ぐ。同社は米国の医薬品価格を他の先進国が支払っている最低価格(最恵国待遇価格、いわゆるMFN価格)に合わせることとなる。

アメリカの薬剤価格の問題に関して、トランプが提案した行政命令「Delivering Most-Favored-Nation Prescription Drug Pricing to American Patients」〈5/12付)に基づくもので、
アメリカ人が他の国々と同じ価格で処方薬を購入できるようにするため、特定の製薬会社に対して具体的な措置を取るよう求める内容。

米国では、原則的に製薬会社が薬の価格を自由に決めることなどから、他の先進国の約3倍になることもある。


Pfizer とAstraZenecaは、今後発動される医薬品関税の対象から3年間免除される。



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オランダ政府は2025年9月30日に経済安全保障上のリスクを理由に、中国企業の傘下にある半導体メーカーNexperiaの経営権を掌握するという、極めて異例の措置を発動した。

Nexperiaの半導体は高度な製品とはみなされていないものの、自動車や家電に大量に使用されている。大半の半導体は欧州で製造され、中国でパッケージングされている。


中国側は完成品の輸出を規制する形で対抗しており、同社製半導体に依存する欧州自動車メーカーの間に懸念が広がっている。(日本メーカーも)


オランダのカレマンス経済相は10月21日、中国の王文濤商務相とNexperiaを巡る対立について協議したが、解決策は見いだせなかった。

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Nexperia はオランダのフィリップスから分離した半導体メーカーで、オランダのNijmegenを拠点とする。 自動車向け電子部品(ダイオード・トランジスタ・MOSFETなど)などを手掛けている。

2006年にNXP Semiconductors N.V がフィリップスの半導体部門より分社化して誕生した。

2017年にNXP Semiconductors N.V のスタンダードプロダクト事業部門が独立し、Nexperiaとなった。

2016年に中国の金融投資家コンソーシアムが約27億5000万米ドルで買収。その後2019年に、スマートフォン設計製造受託および半導体事業を展開する聞泰科技(Wingtech Technology)に買収された。

それ以来、Wingtechの子会社として自動車産業や民生用電子機器向けの半導体を生産している。

Nexperiaは欧州、アジア、米国に1万2500人以上の従業員を有し、自動車、産業機器、モバイル、民生アプリケーションまで幅広い市場に向けて成熟半導体製品を展開。年間1100億個以上を出荷している。各種報道によれば、特に自動車業界向けだけで年間630億個の部品を供給しているといい、世界の自動車サプライチェーンにおいて重要な一角を占めている。

Nexperiaの半導体は高度な製品とはみなされていないものの、自動車や家電に大量に使用されている。大半の半導体は欧州で製造され、中国でパッケージングされている。

Nexperiaはドイツと英国にウエハー製造拠点を持ち、マレーシアとフィリピンにもパッケージング・検査工場を有しているが、中国・広東省東莞市のパッケージング・検査工場は最大規模であり、全世界の約70%のパッケージング工程を担っている。

聞泰科技の資料によれば、中国国内の生産能力はNexperia 全体の約80%(主に後工程のパッケージング・検査)を占め、中国市場の売上比率は全体の約50%に達している。

2025年10月1日、オランダ政府は「Goods Availability Act」(物品供給法)という供給確保・重要物資確保のために使われる極めて例外的な法律を根拠に、Nexperia に対し「経営決定(資産・人員・知財・事業運営)を政府がブロック/逆転できる措置」を講じた。

同法は冷戦時代の1952年、戦争などの災害を想定して制定された法律で、非常時に重要物資の供給を確保するため、民間企業への政府介入を認めるもの。実際に適用されるのは極めて異例。

この命令でNexperiaは一時的に政府管理下に置かれ、これまで通り業務を継続できるものの、政府がNexperia取締役会の決定を阻止または覆す権限を有することになる。政府は次のように説明している。

「物品供給法の発動は極めて例外的な措置だ。Nexperiaにおけるガバナンス上の欠陥が重大かつ緊急性を帯びているため、本法の適用が決定された。これらの兆候は、オランダおよび欧州域内における重要な技術的知識と能力の継続性および保護に対する脅威を呈していた。これらの能力を失うことは、オランダおよび欧州の経済的安全保障に対するリスクをもたらす可能性がある」

オランダ政府が懸念しているのは、Nexperia の欧州における製造・技術能力・知財が「将来中国に移転される/欧州から離脱する」リスクである。

裁判所も Nexperia の現経営に「信頼できる経営・適切な取引・ガバナンスに疑念がある」との判断を下した。

具体的には、

  • Nexperia の中国人CEOであった 張学政がオランダ当局・裁判所の判断を受けて取締役・CEO職から実質的に外され、独立した非中国人取締役が決定票を持つ形で体制が再編された。

  • Nexperia及びその全世界の子会社・支店・事務所に対し、最大1年間にわたり資産・知的財産・事業運営・人員に関する一切の調整を行わないよう命令が下った。

  • Wingtech 側はこの措置について「地政学的バイアスに基づいた過剰介入」であると反発している。

  • Wingtechによると、裁判官は審理を行わずに要請を認め、張氏のNexperiaにおける取締役職の停止に加え、Wingtechにおける非執行役取締役職の職務執行も停止した。
    さらに、裁判官は決定的な議決権を持ちNexperiaを代表する独立した非中国人取締役の任命をも命じたとのこと。

  • なお、Nexperia内では親会社Wingtechに対する反発があり、Nexperiaの株式の支配権を中国人株主から剥奪した上で独立した第三者に譲渡することを求める緊急審理を、Nexperiaの幹部3名がオランダの控訴院に提出したと伝えられている。


なお、米国当局がオランダ当局に対して「Nexperia のCEOが中国人オーナーのままだと米国市場アクセスに重大な影響が出る可能性がある」と警告した内部文書・裁判資料が報じられている。

中国側の反応・報復措置

  • このオランダの措置を受けて、中国政府・関係機関からは強い反発が出ている。
    中国商務部などが「欧州企業・中国企業への差別的取扱い」「国家安全保障という名の過剰介入」との声明を出している。

  • 更に、中国 商務部は10月4日にNexperiaおよびその委託先に対し、特定の半導体製品・部品の輸出を禁止する通知を出した。このため、同社製半導体に依存する欧州自動車メーカーの間に懸念が広がっている。(日本メーカーも懸念)

  • 10月19日、Nexperia(中国)は「全社員は中国法人の指示に従い、法定代表者の承認を得ていない外部からの命令には従う必要がない」とする公開書簡を発表した。経営陣が事業運営の安定を確保し、外部からの干渉を阻止する方針を強調している。

九州大学大学院医学研究院の小川佳宏主幹教授、同大学病院の田中義将助教、佛坂孝太大学院生らの研究グループは、自然科学研究機構生理学研究所の箕越靖彦教授らとの共同研究により、マウスを用いた最先端のオプトジェネティクスなどの神経科学的手法を用いて、排便を制御する脳の中枢が主に「橋」の「バリントン核(Barrington's nucleus)」に存在することを初めて実証した。

慢性便秘症は日常生活の質を著しく低下させるだけでなく、長期生命予後にも影響を及ぼすことが知られている。

慢性便秘症は生活の質に影響を及ぼすとともに近年、循環器疾患と脳血管疾患のリスク要因となり、慢性便秘症患者の生存率は健常人よりも 15 年生存率が 20%以上低いことが明らかとなり、注目されている。

慢性便秘症は、排便回数の減少を主症状とする大腸通過遅延型と排便困難を主症状とする便排出障害型に大別される。

大腸通過遅延型は大腸が便を送る動きが悪いため、排便の回数や量が減少する便秘である。

便排出障害型は直腸まで便が下りてきているのに、肛門の外に押し出す力が弱くなりスムーズな排便ができない便秘である。

今回の研究は便排出障害型の原因の解明につながることが期待される。

正常な排便は、腹圧などによる直腸圧の上昇肛門の弛緩による協調運動により達せられる。

協調運動に異常を来した状態が便排出障害型の慢性便秘症だが、その協調運動をつかさどる脳排便中枢の詳細に関しては解明されていなかった。

排便には中枢神経系が関与していることは分かっていたが、脳のどの領域がどのように排便を制御しているのかは未解明であった。

今回、脳の「橋」にある「バリントン核(Barrington's nucleus: Bar)」と青斑核(LC)が排便を制御していること、さらにその内部の異なる神経群が排便の開始や持続に異なる役割を果たしていることが分かった。

「橋」は 脳の部位の一つ。脳幹という生命維持に関与する意識・呼吸・循環などを調節する領域に存在する。

「バリントン核」は脳幹の「橋」にある神経核で、主に排尿の調節に関わっていて排尿中枢として以前より知られていた。

バリントン核と青斑核の VGluT2 神経が、即時かつ非持続的な腸管収縮を引き起こし、排便開始時のぜん動に関与していることが示唆された。

一方、バリントン核の CRH 神経は遅れて持続する腸管収縮を引き起こし、排便開始後の持続的なぜん動を担うことが判明した。

VGluT2(小胞性グルタミン酸トランスポーター2)はグルタミン酸を貯蔵するタンパク質で、CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)は視床下部から分泌されるホルモンである。


本研究成果は米国の医学雑誌「Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology」に2025年10月10日に掲載された。

https://www.cmghjournal.org/article/S2352-345X(25)00176-6/fulltext

2025年のノーベル生理学・医学賞は 大阪大学の坂口志文特任教授、米Institute for Systems BiologyのMary E. Brunkow、米Sonoma BiotherapeuticsのFred Ramsdellに授与

 授賞理由 "for their discoveries concerning peripheral immune tolerance." 「末梢免疫の抑制に関する発見」

制御性T細胞は自己に対する異常な免疫反応を抑えて自己免疫疾患を防ぐ。

米国の2氏は自己免疫疾患に関わるFoxp3という遺伝子を発見した。後に坂口氏らはFoxp3が制御性T細胞の成長を制御することを突き止めた。

以下の図は ノーベル委員会発表文添付資料より

細菌やウイルスなど外敵を退治する免疫機能が誤って自分の体を攻撃しないよう抑える免疫細胞「制御性T細胞」の存在を1995年に世界で初めて確認し、その働きを解明した業績

坂口氏は70年代、生後3日で胸腺を除去したマウスに自己免疫疾患のような症状が表れたとする先行研究に着目。胸腺で作られる「T細胞」というリンパ球の中に、自己の組織への攻撃を抑える役割を持ったタイプが存在すると推測し、研究を始めた。

探索の結果、「CD25」というたんぱく質を表面に持つリンパ球が、マウスの体内でこうした役割を果たしていると突き止め、1995年に論文発表した。後に「制御性T細胞」(Regylatory T cell )と名付け、ヒトにも存在することが分かった。

ブランコウ、ラムズデル両博士は2001年、自己免疫疾患を起こしているマウスとヒトで、FOXP3という遺伝子に変異があることを見つけた。その後、坂口氏はFOXPが制御性T細胞において重要な役割を果たしていることを突き止めた。

こうした成果から現在、1型糖尿病などの治療に向けた研究が進められている。また、一部のがんでは、制御性T細胞ががん細胞を免疫の攻撃から守っていることも明らかになってきており、制御性T細胞を減らす方法でも治療への活用が模索されている。

Regylatory T cell = 制御性T細胞

アルツハイマー病については、現状の診断では患者や家族への問診、認知機能を測るテストなどで症状を基に判断する場合が多い。

このためアルツハイマー病と似た症状の病気と見分けられない。

新潟大学が2023年に発表した研究では、アルツハイマー病と診断された患者の約4割に別の病気の可能性があった。

有効な検査技術が確立しておらず、ベテラン医師でも症状が似ているほかの病気と見分けるのは難しい。

高齢化で認知症は増加を続ける。適切な治療には正確な診断が欠かせない。

精緻に診断するにはアミロイドベータやタウを測る必要がある。ただ、陽電子放射断層撮影装置(PET)検査は費用が高い。脳脊髄液を採取する検査は体への負担が大きい。

アルツハイマー病の患者の脳には、たんぱく質「アミロイドβ」がたまった沈着物や、タウタンパク質の繊維状の塊がみられる。

認知機能が衰える数十年前からアミロイドベータの蓄積は始まり、その後にタウが蓄積する。そして神経細胞が徐々に壊され、認知機能障害などが現れる。


患者の病気の進行度を知るためには、脳内のアミロイドベータやタウの蓄積を正確に把握する必要があるが、これまで脳内のタウ量を血液から推定できるバイオマーカーはなかった。

米Washington University School of Medicine, St. Louis, MOなどの研究チームは本年3月、アルツハイマー病の原因物質といわれるたんぱく質「タウ」の脳内での蓄積を血液中の物質から把握できるという診療に変革をもたらすと期待を集める成果を英科学誌 nature medicine に発表した。2025/3/31 Plasma MTBR-tau243 biomarker identifies tau tangle pathology in Alzheimer's disease

研究を主導したのは、同大の特任准教授でエーザイ研究部門の部長も務める堀江勘太氏。

堀江氏らが注目したのは「MTBR(微小管結合領域)タウ243」というタウの断片で、脳内でタウが塊を作る際に一部の構造が壊されると分泌されて血液に漏れ出す。脳内の蓄積と相関があると考えられている。

検証が進めば、新たな診断法として認められる。エーザイが出資する米バイオ企業C2N Diagnostics LLCが開発を進めている。

エーザイは2024年3月6日、米国子会社Eisai Inc.が、C2N Diagnostics LLCによる米国におけるアルツハイマー病の血液診断の実用化ならびに、アクセス、アフォーダビリティ、および利用の拡大に向けた取り組みを支援するため、同社に最大15百万米ドルの出資を決定したと発表した。今回の決定は、2022年8月に発表した米国の実臨床における認知症当事者への血液検査法の活用に関する協働を発展させるもの。

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もう一つの関連物質のアミロイドベータについては、「リン酸化タウ217」などのバイオマーカーが見つかっている。アミロイドベータが脳内に蓄積すると、タウに異常なリン酸化が起こり、リン酸化タウ217が血液に漏れ出す。

富士レビオ・ホールディングスは5月19日、リン酸化タウ217とアミロイドベータの断片比率を測定する血液検査薬について、米食品医薬品局(FDA)の承認を得たと発表した。

https://www.hugp.com/news/202505/20250519_news.pdf

アルツハイマー病の診断を補助する血液検査薬が米国で承認されるのは初めてで、スウェーデンの大学などが複数社の検査薬を比べた研究論文で、富士レビオの検査薬は特定の測定手法では「もっとも高い性能」と評価された。

国内向けは2025年内に医薬品医療機器総合機構に申請する。

正確な診断が実現した後は、それに適した新薬が求められる。患者の段階ごとの治療が実現すれば、無駄が減り、医療費の削減にもつながる。

(日本経済新聞の報道をベースにした)

伊藤忠商事は9月22日、医薬品製造を中心とした医薬品産業グループであるアンドファーマ㈱の株式を取得し、持分法適用会社化することに合意したと発表した。

本株式取得において、伊藤忠は、第三者割当増資の引受けに加え、ジェイ・ウィル・パートナーズが運営・管理する合同会社ジェイ・イー・エイチが保有する一部株式の譲り受けを通じて、同社の株式20%(出資金額:162億円)を取得する。

持田製薬も同日、同じ内容の発表を行った。

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アンドファーマ(AND PHARMA)は、ジェイ・ウィル・パートナーズ(J-Will Partners)が投資する日医工、共和薬品工業、武田テバファーマ(現 T'sグループ)の3社を傘下に収める持ち株会社として設立された。

2025年10月1日付けで、持田製薬と伊藤忠商事がアンドファーマの株式をそれぞれ20%ずつ取得する。


ジェイ・ウィル・パートナーズは、ゴールドマン・サックス出身の佐藤雅典氏により2003年に設立された。社名は、"Japan"の "J" と "志" を表す "Will" が由来で、「志をもって日本のために」が理念である。

地銀との関係が強い。債権、不動産への投資も行う。再生案件にも強い。 ビッグモーター事業を伊藤忠グループが引き取ったWECARS(ウィーカーズ)に共同投資している。

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国内の後発医薬品(ジェネリック医薬品)市場は、厚生労働省による医療費適正化の推進を背景に、政府目標であった数量シェア80%を達成し、今後も拡大が見込まれている。

一方で、依然として社会課題である医療費抑制や医薬品の安定供給に対応すべく、政府は品目統合や供給効率化を後押しし、企業間の連携や業界再編の動きがみられる。更に、サプライチェーンの強靱化、多様な提供チャネルの整備など、持続可能な医薬品供給体制の構築に向けた期待が高まっている。


アンドファーマは日医工、共和薬品工業、およびT'sグループを子会社に持つ純粋持株会社であり、国内大手ジェネリック医薬品企業と比肩する売上規模を有する企業である。オーソライズド・ジェネリック(先発医薬品メーカーの許諾を受けて製造・販売される「先発医薬品と同じ」ジェネリック医薬品)を含むジェネリック医薬品、バイオシミラー、長期収載品といった領域で幅広い品揃えを誇り、国内における医薬品の安定供給の一端を担っている。

後発薬大手の日医工は多くの問題で苦境に立っていた。

2021年、ジェネリック医薬品の製造において不適合製品を適合品として出荷する品質不正が発覚し、富山県から業務停止命令を受けた。

品質不正や、以前から抱えていた米国子会社の事業失敗による損失計上が重なり、業績が悪化、経営危機を乗り越えるため、事業再生ADR手続きに入り、金融機関からの同意を得て事業再生計画を成立させた。

経営再生のため、2023年3月29日に東京証券取引所プライム市場での株式上場を廃止し、アンドファーマと医薬品卸大手メディパルホールディングスの出資を受け、新経営陣のもとで経営再建を進めている。

2022/11/17 日医工が破綻、投資ファンドの支援で再建へ

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共和薬品は、ジェネリックメーカーとして、特に中枢神経系(CNS)の領域においてトッププレイヤーの地位を確立してきた。

共和薬品工業は2007年10月、インドの後発薬大手のLupin と資本提携することとし、Lupinが共和薬品の発行済み株式の大半(99.82%)を100億円弱を投じて取得したが、2019年にLupinは共和薬品を日本の投資ファンドに売却した。

2019/11/14 インド後発薬大手のルピン、子会社 共和薬品を売却 

2022年3月に承認内容と異なる医薬品の製造や製造記録の改ざん・ねつ造などの品質問題が発覚し、兵庫県から薬機法に基づく行政処分(業務停止命令、業務改善命令)を受けた 。

2024年7月には「アルプラゾラム錠」の自主回収、2024年4月には「メスチノン錠」の一部変更申請時における不適切な試験データの提出が確認されるなど、その後も品質に影響する事案が発生している。

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T's ファーマは旧称武田テバで、武田薬品とテバファーマが共同出資してジェネリック医薬品などを取り扱う会社として2016年に設立された。武田薬品は武田テバの株式49%を保有していた。

2016年

2015/12/2 武田薬品とイスラエルのTeva Pharmaceutical、日本でジェネリック医薬品のJV設立


武田薬品工業は2024年12月6日、後発薬を扱う武田テバファーマの株式をイスラエルのテバファーマスーティカル・インダストリーズに譲渡すると発表した。今回の譲渡に伴い、約550億円を受けとる見込み。

テバファーマは同日、取得した株式を含む武田テバの全株式を2025年4月1日までに国内投資ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズ(JWP)が設立した㈱ジェイ・ケイ・アイに売却すると発表した。売却総額は明らかにしていない。武田テバはJWPの傘下に入ることになる。

JWP移管後の2025年9月に武田テバは社名を「T'sファーマ」へと変更する予定で、武田薬品が流通を担当する製品は、引き続き武田が担う。

2024/12/9  武田薬品とイスラエルのTEVA、JVの武田テバファーマを国内投資ファンドに売却


伊藤忠商事は、同社グループとの連携やグローバルネットワークを活用し、医薬品の原料等の調達・供給や物流・流通機能の提供、研究開発支援等、医薬品業界において幅広く事業を展開している。

今後、同社の幅広いサプライチェーンの知見・ノウハウと、今回本株式取得を行う持田製薬が有する独自の研究開発力や数々の技術的ノウハウを活用し、アンドファーマの製造・品質管理・供給基盤を強化し、後発医薬品のサプライチェーン強靭化による生産効率及び安定供給体制の向上に取り組んでいくとしている。更に、同社グループが強みとする生活消費分野における消費者接点を起点とした後発医薬品の流通ネットワーク構築等、横連携を通じた新たな事業展開を目指す。

伊藤忠商事は、経営方針「The Brand-new Deal ~利は川下にあり~」のもと、マーケットイン視点でのビジネスモデル構築を進めており、本出資を通じ、後発医薬品の安定供給と品質確保を両立し、医療費適正化への貢献と、より良い医療が提供される社会の実現に努めていくとしている。

一方、持田製薬は、本株式取得を通じたアンドファーマの子会社各社との協業により、同社グループが有するバイオシミラーの開発・事業化ノウハウと、アンドファーマの子会社が有するバイオシミラーの製造能力とのシナジーを創出するとともに、既存品目の製造連携も見据え、コア事業である医薬事業の収益力強化を図る。

新薬メーカーとして社会に新しい価値を提供する新薬への継続的な取り組みおよびバイオマテリアル事業や核酸医薬、細胞医薬といった成長事業への継続的な投資を堅持する中で、本株式取得は、「コア事業の収益力強化」における後発薬・バイオシミラーによる医療経済的価値の提供を具体化した施策の一つと位置付ける。

中長期的には、後発薬・バイオシミラー事業の安定収益基盤を活かして、同社の成長戦略を加速していく好循環を形成していきたいと考えている。

伊藤忠グループの有する原薬調達や流通機能に加え、同社グループが強みとする生活消費分野における消費者接点の活用等により、アンドファーマの子会社各社の事業基盤は今後一層強化されることが期待されるとしている。

新年度が10月1日に始まる。

毎年のことだが、またまた、米国が政府閉鎖の危機に瀕している。

本年度の予算については、正式予算は成立せず、3月11日に下院が9月30日までのつなぎ予算案を通し、上院は3月14日、これを可決した。

2025/3/12 米下院、9月末までのつなぎ予算案可決-上院に送付

2025/3/15 米上院、つなぎ予算案を可決、政府機関閉鎖を回避

しかし、9月1日からの新年度の本予算は成立しておらず、このままでは9月1日に政府閉鎖となる。

このため、共和党は9月1日からの暫定予算( Continuing Resolution)を提出した。9月19日に、下院は共和党多数のため通ったが、上院は予算案は60票が必要なため、成立していない。仮に過半数でも否決である。

下院 共和党案 可決 上院 可決には60票が必要なため、否決    
  共和党 民主党 合計 欠員
賛成 216 1 217  
反対 2 210 212  

棄権

1 2 3  

合計

219 213 432 3

        

 

共和党

民主党 民主系
無所属
合計
賛成 43 1   44
反対 2 44 2 48
棄権 8     8
合計 53 45 2 100

トランプは、上院民主党が国の閉鎖を願っているなど、偽りを含め、民主党の批判をいろいろしている。

実際は、共和党から反対2,棄権8と10人が賛成しておらず、60票は遥かに遠い。

上院は採決後、1週間の休会に入った。休み明けに暫定予算案が可決できなければ、9月1日に政府閉鎖となる。

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政府閉鎖のおそれがあるなかで、与党共和党の議員が反対2、棄権8 というのはなぜだろうか。(全員賛成に回っても60票は無理なので、どうせ否決されるが。)

なぜ与党共和党でも反対・棄権が出たのか。ChatGPTに尋ねた。

上院共和党から反対または棄権する議員がいた理由はいくつか重なっている:

  • CR案(Continuing Resolution、暫定予算 or つなぎ予算)が"十分な政策的付加価値"を含んでいない。

    一部の共和党員(特に保守派)は、「たとえ短期間であっても、CR に政策的な条件(例えば歳出削減、移民・国境政策の厳格化、医療制度改革など)が含まれるべき」と考えており、現状のCR案はそういった要望を満たしていない、あるいはあまりにも "クリーン" すぎる、と感じている。現状維持(status quo)を延ばすだけでは、不足だという立場。

  • 予算・歳出の削減を強く求める圧力(党内の右派からの圧力)

    共和党内の保守派は政府支出全般を抑えることを重視しており、現行支出レベルをそのまま延長することに抵抗がある。特に非防衛部門などに対するさらなる削減を求めており、現行維持では満足しない議員がいる。

  • 与野党協調・民主党の政策要求に対する不信・戦略的対立

    民主党側は、CR案では触れられていない保険制度の税控除の延長やメディケイドの元に戻すこと、公的放送の復活などを要求している。これらを付け加えることは、共和党内の政策流儀・予算抑制の姿勢と相反する。共和党指導部は、「短期延長」の目的は政府の閉鎖を避けること、予算交渉を行う時間を稼ぐこと、恒久的政策は本予算の過程で議論すべき、という立場を取っている。これに対して、民主党は健康保険など多くの国民生活に関わる部分が「切り捨てられる」ことを懸念しており、政策を伴う調整を求めている。

  • 上院での60票制(フィリバスター対策)の壁

    上院では多くの法案・CR案で「進行させるための動議」には 60 票が必要。与党共和党は上院で多数派とはいえ、議席を53議席しか持っておらず、民主党の協力なしにはこの60票を確保できない。だから、共和党指導部としては「民主党を巻き込んで妥協案を探す」か「共和党内部で強硬派を説得する」が実務的な選択肢になるが、現状の案はどちらの方面の納得も十分ではなかった。

  • 政治的責任の取り合い・選挙・世論を意識した駆け引き

    政府閉鎖になったとき、どの党・どのリーダーが「責任を負うか」が大きな政治問題。共和党指導部は、「これは民主党が拒否している」「民主党が交渉に応じない」と主張したい。反対や棄権することで、「協議なしに耐えるだけの案を押し付けられた」との主張ができる。あるいは、共和党内部で自分の支持基盤(保守派濃厚な地区など)を失わないように、単に与党リーダーに追随するのではなく、慎重な姿勢をとる議員もいる。

  • 短期間ではあるが安全保障の追加支出部分にも異論がある人がいる

    CR案には、議員・裁判所・行政に対する追加の「安全保障」向け支出が含まれている。これを"余分な"支出と見なす議員もおり、その分予算全体の抑制を望む立場から反対する。

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参考  上院の議決

通常の法案や動議はフィリバスター可能で、可決には 60票が必要になる。

特例として「単純過半数」でよいものがある。

  • 予算決議 (budget resolution)

米上院は2025年2月21日、既に半年が経過している2025会計年度(2024年10月~2025年9月)予算決議案を52対48で可決した。

予算決議案は、予算枠の全体像を示すもので、ここで定められた枠を基に各歳出法案が策定される。

今回可決した予算決議では、政権が重視するテーマのうち、トランプ減税を除いたもので、国境措置の強化、国防費の増額、エネルギー生産の強化に対応する費用を盛り込んでおり、国境措置の強化として今後10年間で1,750億ドル、国防費の増額として同1,500億ドルを充てている。トランプ減税の延長減税措置に関しては、2026年度予算の審議過程で議論し取りまとめる。

2025/2/28 米国の2025会計年度(2024年10月~2025年9月)の予算決議案の審議

「予算決議」(budget resolution) の可決要件

  • 単なる決議 (concurrent resolution) なので、大統領の署名は不要。

  • 上院では 通常の法案と同じく「単純過半数(51票)」で可決可能

  • フィリバスター(議事妨害)も対象外なので、60票の「クロージャー票決」は不要。

「予算決議」が成立した後にできること

 予算決議の中で「調整指示 (reconciliation instructions)」が盛り込まれていると、その後の関連法案(例:税制改革、歳出削減、医療保険制度改革など)を 「和解手続き」 に乗せることができる。

  • 和解手続きは 上院でフィリバスターできない

  • したがって、単純過半数(51票)で可決可能

  • 和解法案 (reconciliation bills)

和解法案は、アメリカ議会における特別な立法手続き「予算調整 (budget reconciliation)」によって扱われる法案のこと。

通常の法案は上院で フィリバスター(長時間演説による議事妨害) を受ける可能性があり、その場合は採決に進むために 60票 必要になる。
しかし、和解法案は
フィリバスターできない 仕組みになっており、単純過半数(51票)で可決可能

和解法案は、もともと

  • 予算赤字削減

  • 歳出削減

  • 税制改正
    といった財政関連の調整を迅速に行うために導入された。

制限(Byrd Rule)

和解法案は「何でも過半数で通せる抜け道」にならないように、厳しい制限がある。和解法案には次のような条項は盛り込めない。

  • 財政に 直接関係しない政策事項

  • 予算上の影響が 副次的でしかない条項

  • 予算への効果が 10年後に消えるような歳出増・減税

このため、例えば移民政策や環境規制など「財政とは直接関係ない政策」は和解法案に入れられない。

歴史的な活用例

  • 1980年代〜:レーガン政権の歳出削減

  • 1990年代:クリントン政権の財政赤字削減法案

  • 2001・2003年:ブッシュ減税

  • 2010年:オバマ政権の医療保険改革法(オバマケア)修正部分

  • 2017年:トランプ政権の大規模減税(Tax Cuts and Jobs Act)

  まとめ

  • 和解法案=予算関連に限り、フィリバスター回避で 51票で成立 できる特別法案

  • 強力なツールだが、財政に関係ない内容は不可

  • 歴代政権が税制改革や医療制度改革で繰り返し活用

なお、下院は出席して投票した議員の過半数 で可決される。

フィリバスター(議事妨害) という制度は 下院には存在しない。

したがって、法案でも予算でも、大統領指名の承認でも、基本はすべて「過半数」で成立する。

2025年のIg Nobel 賞の受賞者が日本時間19日に発表され、日本からは、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)畜産研究部門の兒嶋朋貴研究員らの研究グループが「生物学賞」を受賞した。研究グループは、シマウマが体のしま模様によって血を吸うハエからの攻撃を防いでいるとする研究結果に注目し、家畜の黒毛の牛に白黒の模様を描いて「サシバエ」や「アブ」を防ぐ効果があるかを調べた。

その結果、模様を描いた牛は何も描かなかった牛に比べて足や胴体に付いたハエの数が半分以上減ったほか、首振りや足踏みなどハエを追い払う動作も減ったという。

これを応用することで、牛のストレスの軽減につながるだけでなく、虫刺されによる感染症を防ぐための殺虫剤の使用も減らせる。一方で、牛のしま模様のペイントは数日で落ちてしまうため、長期的な持続性を持つ技術の開発が課題だとしている。

日本人がイグ・ノーベル賞を受賞するのは19年連続。別紙参照。

 

本年の受賞(9件)は次の通り。

Biology
生物学
Tomoki Kojima, Kazato Oishi, Yasushi Matsubara, Yuki Uchiyama, Yoshihiko Fukushima, Naoto Aoki, Say Sato, Tatsuaki Masuda, Junichi Ueda, Hiroyuki Hirooka, and Katsutoshi Kino


本件

Chemistry

Rotem Naftalovich, Daniel Naftalovich, and Frank Greenway 

テフロンを食べることが、カロリー量を増やすことなく食物の量を増やして満腹感を得る良い方法であるかどうかをテストする実験


ゼロカロリー飲料は、人体で代謝されない分子を持つ人工甘味料の開発により、現代の食生活の主流となっている。著者たちは、ゼロカロリー食品という概念に興味を抱き、カロリーを増やすことなく、食​​品の満足感を高めることでゼロカロリー食品を実現できると考え、まさにその目的にぴったりの添加剤、テフロンを発見した。 食品3に対してテフロン粉末1の割合を推奨している。
テフロンの安全性に関する科学的研究を何段落もかけて引用し、既に使用されている多くの用途についても言及している。そして、テフロンは精子の運動性や生存率に影響を与えないようだ。

Physics

Giacomo Bartolucci, Daniel Maria Busiello, Matteo Ciarchi, Alberto Corticelli, Ivan Di Terlizzi, Fabrizio Olmeda, Davide Revignas, and Vincenzo Maria Schimmenti

パスタソースの物理学、特に不快な風味の原因となるダマの形成につながる相転移に関する発見。


「パスタ・アッラ・カチョ・エ・ペペ」は、トンナレッリ・パスタ、ペコリーノチーズ、そして胡椒だけで作るシンプルな料理。しかし、そのシンプルさは裏目に出る。この料理は、ソースが簡単にダマになり、滑らかでクリーミーな食感ではなく、糸を引くモッツァレラチーズのような食感になってしまうため、作るのが非常に難しいことで有名。
イタリアの物理学者たちが数々の科学的実験に基づいた、完璧なレシピでこの問題を解決した。

その秘訣は、パスタを茹でる際に沸騰したお湯に溶け出すデンプンの量に頼るのではなく、チーズとペッパーソースにコーンスターチを使うこと。
著者らは、適切なデンプン比率はチーズ重量の2~3%であると結論付けた。

Engineering Design

Vikash Kumar and Sarthak Mittal

エンジニアリング設計の観点から、「悪臭のする靴が靴箱の使用感にどのように影響するか」を分析

靴の臭いはインドでも普遍的な問題となっている。高温多湿のため、中程度の運動でも大量の汗をかく。さらに適切な換気と洗濯がされていないと、靴はキトコッカス・セデンタリウスと呼ばれる臭いの原因となる細菌の温床となる。インドでは多くの人が靴を靴棚に保管しており、その密閉された環境では臭いがかなり強くなることがある。

彼らは、UV-Cチューブライトを介した殺菌効果のある紫外線を内蔵の「消臭装置」として採用し、ソウル大学のアスリート数名の靴で装置をテストした。「非常に強い臭いがする」靴です。その結果、2~3分の照射で細菌を殺菌し、臭いを取り除くのに十分であると結論付けられた。

Aviation

Francisco Sánchez, Mariana Melcón, Carmi Korine, and Berry Pinshow

アルコール摂取がコウモリの飛行能力とエコーロケーション能力を損なうかどうか。

自然界には、特に熟した果実から発生する天然エタノールが豊富に存在し、その果実は様々な微生物や動物種によって消費される。哺乳類、鳥類、さらには昆虫がエタノールを豊富に含む果実を摂取して酩酊状態になるという稀な例が時折存在する。
著者らは、コウモリが酩酊状態を避けようとしているのではないかと考えた。

彼らは、長い飛行通路として機能する屋外ケージで飼育された成体の雄オオコウモリを対象に実験を行った。
コウモリには、エタノール含有量の異なる液体飼料が与えられ、通路に放たれた。著者らは、それぞれのコウモリが通路の端から端まで飛ぶのにかかる時間を計測した。
2つ目の実験では、基本的なプロトコルは同じだが、今回はコウモリのエコーロケーションの鳴き声を超音波マイクで録音した。

結果:エタノール含有量が最も高い液体飼料を与えられたコウモリは、飛行経路を飛行するのに時間がかかり、飛行能力が低下していることが示された。また、これらのコウモリのエコーロケーションの質も低下し、飛行中に障害物に衝突するリスクが高まった。

Psychology

Marcin Zajenkowski and Gilles Gignac

ナルシストや他の人に対して、彼らが賢いと伝えたら何が起こるかを調査

過信はナルシシズムに起因するというのが一般的な見解だが、著者らは、この効果が逆の方向にも作用するかどうか、つまり、外部からの肯定的なフィードバックによって自分が優れた知性を持っていると信じることで、少なくとも一時的にナルシシズム状態に陥る可能性があるかどうかを探ろうとした。

結果は研究者の仮説のほとんどを裏付けた。一般的に、参加者はIQテストを受けた後、自分の相対的な知能を低く評価した。これは一種の客観的な評価となった。しかし、彼らが受け取ったフィードバックの種類は測定可能な影響を与えた。肯定的なフィードバックは、彼らの独自性(誇大的ナルシシズムの重要な側面)を高めた。否定的なフィードバックを受けた人は、自分の知能を低く評価し、否定的なフィードバックは肯定的なフィードバックよりも大きな影響を与えた。

著者らは、フィードバックの正確さに関わらず、外部からのフィードバックが被験者の自身の知能に対する認識を形成するのに役立ったと結論付けた。

Nutrition

Daniele Dendi, Gabriel H. Segniagbeto, Roger Meek, and Luca Luiselli

ある種のトカゲが特定の種類のピザをどの程度食べるか

著者たちは虹色のトカゲが観光客の4種チーズピザを盗み、喜んで食べているのを目撃した。

研究チームは、9匹のトカゲの行動を観察した。4種類のチーズが乗ったピザと"four seasons" ピザを約10メートル間隔で並べ、どちらかを選ばせた。
トカゲがピザを見つけて食べるまでわずか15分しかかからず、時には残りのスライスをめぐって争った。しかし、実際に食べたのは4種類のチーズが乗ったピザだけだった。

研究チームは、このことから、トカゲがチーズたっぷりのピザに惹かれる何らかの化学的刺激があるか、あるいは消化しやすいのではないかと推測している。

Pediatrics
小児科

Julie Mennella and Gary Beauchamp

母親がニンニクを食べた時に、授乳中の赤ちゃんがどのような経験をするのか

乳児を完全母乳で育てている8人の女性を募集し、参加者が硫黄を含む食品(ニンニク、タマネギ、アスパラガス)の摂取を控えている期間に母乳サンプルを採取し、さらに母親がニンニクカプセルまたはプラセボを摂取した後にサンプルを採取した。

結果:ニンニクカプセルを摂取した母親は、明らかに臭いが強い母乳を産んだ。強い臭いは摂取後2時間でピークに達し、脂肪が減少した。これは、臭いの強い飼料を摂取した牛に関する過去の研究と一致している。
母親がニンニクを摂取した乳児は、母乳にニンニクの匂いがすると、より長く乳房に吸い付き、より多く吸う傾向があった。

これは、授乳中の感覚体験が、離乳後の乳児の新しい食物の受け入れやすさ、ひいてはその後の食嗜好にまで影響を与えるかどうかを調べる、現在進行中の研究に関連する可能性がある。

Literature

故 Dr. William B. Bean

35年間にわたり、自分の指の爪の成長速度を継続的に記録し、分析

文学部門に爪の成長速度に関する研究があるのを見て驚いたとしても、ビーン博士の華麗な散文を読めば全てが理解できるでしょう。

彼は実際に35年間、自身の爪の成長速度を詳細に記録し、最終報告書の中で「爪はゆっくりと動くケラチンのキモグラフであり、容赦ない時間の横座標上で年齢を測る」と主張している。

彼は自身の観察記録に、中世占星術、ジェームズ・ボズウェル、そして『白鯨』への重々しい言及を散りばめ、さらに「希望と苦痛、技巧の巧みさ、そして『健康センター』と呼ばれる非人格化の渦巻く」現代医学教育法の不毛さを嘆く、気難しい余談も散りばめている。

次の点を発見した。 まず、爪の成長速度は加齢とともに低下する。爪の成長速度は当初は安定していたものの、プロジェクトの最後の5年間で「わずかに遅くなった」。子供の爪は大人よりも早く伸びる。暖かい環境も成長を加速させる可能性があり、爪を噛むことも成長を加速させる。おそらく、噛むことで爪の周りの血流が刺激されるからだろうと彼は示唆している。また、死後も髪や爪が伸びるという言い伝えは誤りだと彼は主張する。爪が伸びているように見えるのは、死後の皮膚が縮むためだということだ。

Peace

Fritz Renner, Inge Kersbergen, Matt Field, and Jessica Werthmann

アルコールを飲むと外国語を話す能力が向上することがあるということ


バイリンガルの間では、少量のアルコール摂取が、同様に実行機能に依存する外国語の流暢さを向上させるという信念が広く浸透している。

彼らは、オランダのマーストリヒト大学で、ドイツ語を母国語とし、オランダ語にも堪能な心理学の学部生50名を募集した。彼らは無作為に2つのグループに分けられた。一方のグループにはアルコール飲料(ビターレモン入りウォッカ)を、もう一方のグループには水を与えた。

各参加者は15分後に軽く酔う程度まで飲酒した後、オランダ語を母国語とする人とオランダ語でディスカッションを行った。その後、オランダ語のスキルに関する自己認識を評価するよう求められ、オランダ語話者からは独立した観察者による評価が与えられた。

研究者たちは、独立観察者の報告に基づき、酩酊状態が参加者のオランダ語流暢性を向上させたことを知り、驚いた。(自己評価は酩酊度にほとんど影響されなかった。)
これを、いわゆる「オランダ的勇気」、つまり酩酊状態に伴う自信の増加に単純に帰することはできない。
むしろ、著者らは、酩酊状態が言語不安を軽減し、ひいては外国語能力を向上させると示唆している。この仮説を裏付けるにはさらなる研究が必要でしょう。 

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