2025年1月アーカイブ

トランプ大統領は就任直後に多数の大統領令を出した。そのなかに「アメリカ市民権の意味と価値を守る大統領令」がある。

憲法修正14条第1節は以下のとおり規定する。

第1節 合衆国において出生し、又はこれに帰化し、その管轄権に服するすべての者は、合衆国及びその居住する州の市民である。

いかなる州も、合衆国市民の特権又は免除を制限する法律を制定又は施行してはならない。またいかなる州も、正当な法の手続によらないで、何人からも生命、自由又は財産を奪ってはならない。またその管轄内にある何人に対しても法律の平等な保護を拒んではならない。

今回の大統領令は、これについて以下のように述べている。

改正第14条はアメリカ国内で生まれたすべての者に普遍的に市民権を付与するものとして解釈されたものではなく、「その管轄権の対象となる」条件を満たさない者を市民権付与の対象外としてきた。

アメリカ国内で生まれても、その管轄権の対象とならない者のカテゴリーには以下が含まれる。

母親 父親
アメリカに不法滞在中 アメリカ市民または合法的永住者でない
アメリカに合法的だが、一時的に滞在中
(例えばビザ免除プログラム、学生ビザ、就労ビザ、観光ビザ等)


このため、上記に該当する場合は市民権を付与しない。本命令発効後30日以降にアメリカ国内で生まれる者にのみ適用される。

これは、不法移民や、米国籍獲得を目的としたBirth Tourism (出産旅行)の規制が目的である。不法滞在の母親を持つ子供で2022年に全米で生まれた子供は約25万5千人とされる。

これに対し、ワシントン、アリゾナ、イリノイ、オレゴンの4州が差し止めを求めて訴訟を提起。訴えを検討する間、大統領令を一時差し止めるよう求めた。

4州は、大統領に憲法を修正する権限はないと主張。大統領令が執行されれば、「米市民権を奪われた人々は不法滞在となり、強制退去や拘束の対象とされ、その多くは無国籍になる」とし、州民らが「回復不可能な損害を直ちに被る」と訴えた。

ワシントン州の連邦地裁のジョン・クーナー判事はは1月23日、25分間の審理を経て、今回の大統領令を「あからさまに違憲」と判断、差し止め命令を出した。大統領は控訴するとしており、最終的に最高裁に持ち込まれるとみられている。

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本件については既に1898年に最高裁の判断が出ている。

最高裁は1898年の United States v. Wong Kim Ark 事件で、「敵対的な職業に就いている敵性外国人の子供、外国の外交代表の子供を除き、米国内で生まれた全ての居住者の子供を明白に対象にしている。米国内に居住する外国人は全て米国の司法権に属する」とした。

背景

  • 修正第14条は、奴隷制度廃止後に、元奴隷やその子孫の市民権を保障するために制定された。
  • 19世紀後半、中国人労働者はアメリカ西部に多く移住したが、1882年の「中国人排斥法」により新たな中国人移民が禁止されるなど、移民政策が厳しく制限された。中国系アメリカ人の市民権の問題もこの差別的な背景の中で浮上した。
  • 原告 Wong Kim Ark (黄金德)は1873年にサンフランシスコで中国系移民の両親のもとに生まれた。彼自身はアメリカ生まれであり、修正第14条に基づき市民権を主張していた。彼が中国への旅行から戻る際にアメリカ入国を拒否され、市民権の有無をめぐる法的争いが生じた。

判決の内容

 最高裁は1898年に6対2の判断で以下の結論を下した:

  1. アメリカで出生したすべての人は、両親の国籍や移民ステータスにかかわらず、アメリカ市民であると確認した。
  2. 修正第14条の「アメリカで出生し、かつ合衆国の管轄下にある」という文言は、両親が外国人であっても、その子供がアメリカ国内で生まれた場合には市民権を認めると判断した。
  3. この原則には例外があり、外国政府の外交官の子供や占領軍の子供など、特定のケースには適用されない。

当時、中国系移民に対する差別が強まっていた中で、この判決は憲法の平等原則を支持するものであり、中国系アメリカ人にとって大きな勝利となった。

これによると、今回の大統領令が「管轄権の対象とならない」とする者は、不法滞在中であれ、一時的滞在であれ、「管轄権の対象」になる。

今回の大統領令を実行するためには、憲法改正か、長年認められてきた最高裁判断を覆す必要があることになる。

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強硬派の間には、1898年の最高裁判断は合法移民の子供に限定した判決だとの解釈がある。

不法入国者の流入は「侵略」で、不法移民は「敵性外国人」との主張もある。

上院は1月24日、トランプ大統領が国防長官に指名していたPete Hegsethを承認した。

Pete Hegsethは FOXニュースの司会者で、元軍人だが、軍や国家安全保障分野の上級職に就いた経験 はない。戦闘任務への女性従事に否定的である。

過去に女性への性的暴行の疑いで捜査を受けていたなどと報じられ、与党・共和党の一部からも起用を疑問視する声が出ていた。

Pete Hegsethは、14日に行われた上院の軍事委員会での公聴会で、優先課題は中国への対応だとし、「同盟国やパートナーと協力し、インド太平洋地域における中国による侵略を抑止する」と述べ、同盟国とともに抑止力の向上を図る考えを示した。

採決では反対に回る共和党議員も出た結果、賛成50票、反対50票の同数となったため、上院議長を兼ねるバンス副大統領が採決に加わり賛成したことから、ようやく承認された。

 

共和党

民主党 民主系
無所属
合計
賛成 50 0 50
反対 3 45 2 50
異動後 53 45 2 100


共和党の
Marco Rubio 上院議員が国務長官になる時点で辞任、フロリダ州知事が後任にFlorida Attorney General Ashley Moody を選び、1/16に就任した。


これで、承認されたのは3名となった。

 1月20日 国務長官 Marco Rubio 上院議員 99 対 0    本人は投票せず

 1月23日 CIA長官 John Ratcliffe元下院議員 74 対 25 (棄権 1)

 1月24日  国防長官  Pete Hegseth 50 対 50 議長が賛成票

厚生労働省は1月24日、2025年度の公的年金の支給額を24年度に比べて1.9%引き上げると発表した。

年金額の伸びを抑える「マクロ経済スライド」が発動されるため、増加率は0.4ポイント目減りした。 直近1年の物価変動率(基本)と比べると0.8ポイントの目減りである。 

2025年度の支給額は、国民年金では保険料を40年間納付した満額1人分で前年度比1,308円増の月6万9308円、厚生年金は夫婦2人のモデル世帯の場合、同4,412円増の同23万2784円。

計算は下記の通り。

直近1年の物価変動率 +2.7%
過去3年の名目手取り賃金変動率 +2.3%
採用 +2.3%
マクロ経済スライド -0.4%
最終改定率 +1.9%

マクロ経済スライドによるスライド調整率(▲0.4%)= 公的年金被保険者総数の変動率(▲0.1%) + 平均余命の伸び率(▲0.3%)(令和3~5年度の平均) (定率)

既裁定者(68歳到達年度以後の受給権者)

  実績 原則
2020年度 2021年度 2022年度 2023年度 2024年度 2025年度
直近1年の物価変動率(基本) +0.5% +0.0% -0.2% +2.5% +3.2% +2.7%

基本は物価変動率
賃金変動率が物価変動率より低い場合は賃金変動率を採用

過去3年の名目手取り賃金変動率 +0.3% -0.1% -0.4% +2.8% +3.1% +2.3%
(採用) +0.3% -0.1% -0.4% +2.5% +3.1% +2.3%  
マクロ経済スライド
公的年金被保険者の変動と平均余命の伸びに基づいて、スライド調整率を設定し、その分を改定率から控除
-0.1% -0.1%
(調整せず)

当期 -0.2% 
繰越 -0.1%
計  -0.3%

(調整せず)

当期  -0.3%
繰越  -0.3%
計   -0.6%


  -0.4%

   -0.4%

上記の(採用)がマイナスの場合は、調整せず、その分を翌年に繰り越す。

最終改定率 +0.2% -0.1% -0.4% +1.9% +2.7% +1.9%
マクロ経済スライド繰り越し   -0.1% -0.3%  

タレントの中居正広氏が1月23日、有料の会員サイトで芸能界を引退すると発表した。

英BBC(電子版)は「日本のエンターテイメント業界は長い間語られなかった性的暴行事件(sexually assaulting a woman at a 2023 dinner party held by staff )の精算に直面している」と報じた。「(フジの)社員がアレンジしたパーティ」としている。

「フジテレビがスキャンダルを隠蔽しようとしたというクレームの中、数十社がコマーシャルを差し止めた」としている。


フジテレビはあまり見ないが、BSのプライムニュースは、夜8時から10時の2時間にわたり、政治・経済問題を議論するので、よく見る。

23日も見たが、驚いた。通常は多数の大企業のコマーシャルが入るが、今回は全く入らず、代わりにACジャパンの公共広告が次々に出てきた。その後、初めて富士紡と原沢製薬のコマーシャルが出た。
通常は番組の終了に当り、提供各社の名前を挙げていき、残りは「ご覧の各社の提供でお贈りしました」と、社名は述べずに画面記載で済ませているが、今回は「ACジャパン、富士紡、原沢製薬の提供でお贈りしました」と2社の名前をあげた。

多数の大企業がコマーシャル枠を買い、代金も支払っているが、フジテレビの番組で自社の名前が広告主として出るのを嫌い、コマーシャル枠をACジャパンに譲ったものである。広告社として社名を出したのは富士紡と原沢製薬の2社だけであった。

ACジャパンによれば、

ACジャパンでは、創設から今日までさまざまなキャンペーンを展開しています。「公共マナー」「環境問題」「親子のコミュニケーション」といった時代を超えた普遍的なテーマ、「多様性」「ネットモラル」「災害」など時代の世相を反映したテーマ、公共福祉活動に取り組んでいる団体を支援するキャンペーン、阪神淡路大震災、東日本大震災など、大災害が発生した時の臨時キャンペーンを扱うものなど、社会がその時もっとも必要としているメッセージを発信し続けてきました。
ACジャパンの活動は、民間の企業・団体が持てる資源を少しずつ出し合い、社会にとって有益なメッセージを広告という形で発信しているCSR(Corporate Social Responsibility)活動です。
世の中を少しでも良くしたい。今後もこれらの様々な問題と真摯に向き合い、私たちは活動を続けていきます。

ACジャパンは、民間企業の会員社と一般生活者の個人会員の協力によって運営されている。活動資金はすべて会員社と個人会員の会費によるもので、公的な資金は一切受けていない。会員社は広告に関連する3つの業種の約1000社から構成され、それぞれの立場からACジャパンの活動を支えている。

会員である媒体社(放送局、新聞社、出版社、インターネットなど)の広告枠を無償で提供してもらうことで、広告を放送・掲載している。

通常は時々、特定の広告をするだけだが、今回は非常に多数の企業から広告枠の提供を受けたため、延々と広告を流すこととなった。

3月末までの番組の広告枠は決まっており、各社は既に代金を支払っている。問題は4月からのコマーシャルである。今の状況が続けば、コマーシャルを出す企業はごく少数にとどまり、フジテレビの収入がなくなることになる。

早急に問題を解決しないと、会社の存続が危うくなる。

付記

ライオンは1月23日、「人権侵害に関わるため、客観的な事実究明と結果に基づいた適切な対応の実行」を直接申し入れた。

フジとしては今後の広告主との関係も勘案し、1月にACジャパンの広告に差し替えた各社の広告料を請求しないことを決め、2月以降のCMのキャンセルを受け付けることを決めたとされる。

同社の月間広告料は約122億円で、同社の業績への影響は大きい。

同社は1月23日、第三者委員会の設置を決めた。

当社及びフジ・メディア・ホールディングスは、本日開催の両社の臨時取締役会において、第三者委員会の設置を決議いたしました。
この第三者委員会は、日本弁護士連合会が策定した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」に準拠するものです。

1. 第三者委員会の設置目的
2023 年6月に当社の番組出演タレントと女性との間で生じた事案に関連した 2024 年12 月以降の一連の報道を受けて、事実関係の調査及び当社の事後対応やグループガバナンスの有効性を客観的かつ独立した立場から調査・検証するため、利害関係を有しない弁護士で構成する「第三者委員会」を設置いたしました。また、調査結果を踏まえた原因分析及び再発防止に向けた提言を得ることも目的といたします。

2. 第三者委員会への調査委嘱事項
1) 本事案への当社及びフジ・メディア・ホールディングスの関わり
2) 本事案と類似する事案の有無
3) 当社が本事案を認識してから現在までの当社及びフジ・メディア・ホールディングスの事後対応
4) 当社及びフジ・メディア・ホールディングスの内部統制・グループガバナンス・人権への取組み
5) 判明した問題に関する原因分析、再発防止に向けた提言
6)その他第三者委員会が必要と認めた事項

3. 第三者委員会の構成
 委員長:竹内 朗 (弁護士・公認不正検査士、プロアクト法律事務所)
 委員 :五味祐子(弁護士、国広総合法律事務所)
 委員 :寺田昌弘(弁護士、三浦法律事務所)

4. 今後の対応
当社及びフジ・メディア・ホールディングスは、第三者委員会による調査に対して全面的に協力いたします。第三者委員会によりますと、調査報告書は本年3 月末を目途としてご提出いただける予定です。当社及びフジ・メディア・ホールディングスは、第三者委員会から調査報告書が提出され次第、速やかに本ガイドラインに従って調査報告書を公表し、必要な対策を講じてまいります。

5. 第三者委員会委員長よりコメント
第三者委員会委員長の竹内朗氏より、次のコメントを預かっておりますので、ご紹介いたします。

「当職は本日、第三者委員会の委員長に就任いたしました。この第三者委員会は、最も独立性・中立性の高い日本弁護士連合会の第三者委員会ガイドラインに準拠して設置され、これに即して運営して参ります。フジテレビ及びフジ・メディア・ホールディングスにとって重要なステークホルダーである、視聴者の皆様、スポンサーの皆様、お取引先の皆様、株主・投資家の皆様、そして従業員の皆様が抱かれている疑問や懸念に対し、説明責任を明確に果たせるよう調査に努めて参ります」

建設現場でアスベストを吸い、肺がんや中皮腫を患った神奈川県の元労働者や遺族ら計28人が建材メーカー6社に損害賠償を求めた訴訟(横浜地裁→東京高裁)で、最高裁第3小法廷は1月15日付けで双方の上告を退ける決定をした。

メーカー4社(エーアンドエーマテリアル、ニチアス、エム・エム・ケイ、太平洋セメント)に対し22人に計約1億367万円の支払いを命じた差し戻し後の二審・東京高裁判決が確定した。

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建設現場でアスベスト(石綿)を吸い込んだ元建設作業員と遺族が、国と建材メーカーに損害賠償を求めた4件の訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷(深山卓也裁判長)は2021年5月17日、規制を怠った国の対応は違法と認め、「違法状態が続いた1975~2004年の被害に賠償責任が生じる」との初判断を示した。被害原因となった建材を製造した可能性が高い複数のメーカーの連帯責任も認めた。一部の元労働者について審理を高裁に差し戻した。

2021/5/19 最高裁、建設アスベスト訴訟で 国と企業の責任認める

神奈川県などの元労働者や遺族ら計28人が建材メーカー6社に計6億9300万円の損害賠償を求めた訴訟の差し戻し控訴審判決が2023年5月31日、東京高裁であった。渡部勇次裁判長は、うち4社に対し、22人へ計約1億367万円を支払うよう命じた。

賠償を命じられたのは、エーアンドエーマテリアル、ニチアス、エム・エム・ケイ、太平洋セメントの4社。

渡部裁判長は、元労働者の作業歴や建材製品の市場シェアなどに照らし、各メーカーの賠償額を算定した。

弁護団の田渕大輔弁護士は判決後に会見し、「責任を負うことが明確になった企業が、時間稼ぎのために訴訟を続けることはもはや許されない状況だ」として、各メーカー(計6社)による全面的な被害救済を求めた。

元労働者側とメーがー側がそれぞれ上告したが、最高裁は今回、双方の上告を退けた。


なお、
首都圏建設アスベスト東京1陣訴訟については、東京高裁は2024年12月26日、7社が原告282人に計約40億円の和解金を支払う内容の和解案を提示した。

2025/1/6 東京高裁 建設石綿訴訟で和解案提示

2024年12月25日の新華社通信によると、中国はチベット自治区を流れるヤルンツァンポ川(Yartung Tsangpo)の下流に世界最大級の水力発電ダムを建設する計画を承認した。

中国のCO2排出量削減目標の達成において大きな役割を果たし、関連産業を刺激し、チベットでの雇用を創出すると期待されているとしている。

新華社はダムの建設場所や建設の開始時期、事業の規模について言及していないが、承認された水力発電所の能力は年間3000kWhだとされる。中国が世界に誇る三峡ダムの3倍のスケール。

資金の規模も三峡ダム(約2542億元)の約4倍になる見込み。中国政府は2023年に「ダム建設費用は1兆元(約216000億円)に上る」との試算を発表している。

当局はこのプロジェクトがどれだけの人々を移住させ、地域の多様な生態系にどのような影響を与えるかを明らかにしていない。
ただ、当局によれば、チベットでの水力発電プロジェクトは、環境や下流の水供給に大きな影響を与えることはないという。

工事は難航することが予想される。

ダム建設には重機が欠かせないが、建設場所は奥地にあるため、その搬入が極めて困難だ。

日本時間の1月7日午前10時過ぎ、チベットでマグニチュード6.8の地震が発生、付近では多数の家屋が倒壊し、新華社通信は126人が死亡したと伝えている。

7日の地震が示すとおり、この地域は地震活動が活発であり、過去に大きな地震が何度も起きている。

ダムの建設には少なくとも10年はかかると言われている。

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ヤルンツァンポ雅魯蔵布:Yartung Tsangpo)川はチベット高原に端を発する河川で、世界で最も源流の標高が高い。

その後、ブラマプトラ(Brahmaputra)川となり、インドのアルナーチャル・プラデーシュ州に至る。そこから下流は一挙に川幅が広がり、シアング川
(Siang) と名を変える。アッサム州に達すると再びブラマプトラ川となり、バングラデシュではポッダ川と呼ばれるガンジス川に注いでいる。ガンジス川はインド洋へと注ぐ。



中国政府は「下流の水供給に大きな影響を与えることはない」としているが、インド、バングラデシュ両政府は早速懸念を表明している。

ヒマラヤ地方の大半の河川の水源付近にはこれまでダムの数は比較的少なかった。しかし中国に加え、インドもヒマラヤ地方にダム建設を急ぎつつある。建設計画中のダムの多くは米国コロラド川のフーバーダムに匹敵する4,000メガワット級の発電能力を有する世界最大級のダムになる。ヒマラヤ地方はダムが世界最多の地域となる可能性がある。

インドに流れる河川の半分は中国から直接流入していることからインドの置かれた立場は弱い。その一方で、バングラデシュはインドによる水路の迂回と水力発電計画を恐れている。バングラデシュの政府系機関の科学者によれば、バングラデシュではインドから流入する水量が1割減っただけで、1年の殆どの期間、農地の大半で水が枯渇することになる。バングラデシュ国内の5,000万人の小規模農家のうち、8割以上がインドから流入する水に依存している。

専門家は、洪水が増え、地震が起き易くなることを懸念している。また、ダムが建設されるのは、どれも氷河や雪原の融解が急速に進む河川であるが、気候変動が河川に及ぼす影響が未知数である。

今後、水問題で各国間の争いが起こる可能性がある。

トランプ次期大統領は2024年12月、1期目から目を付けていデンマークの自治領のグリーンランドについて、安全保障上の観点などからアメリカが所有すべきだと主張した。

北の隣国カナダを吸収して51番目の州にする可能性をほのめかし、カナダの当局者をあざけった。メキシコ湾をアメリカ湾に改めるとした。

さらに、米国が建設したもののパナマが四半世紀にわたって管理するパナマ運河を奪取する考えを示唆した。

記者からの「グリーンランドとパナマ運河について、軍事と経済で威圧しないと断言できるか」との質問に対し、「できない。どちらも経済安全保障に必要だ。デンマークに権利があるのか怪しい。権利を持っているなら放棄すべきだ。自由な世界を守るために」と述べた。

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1. グリーンランド

デンマーク領グリーンランドは、ロシアに近い世界最大の島で、軍事的な要衝である。

トランプ氏はグリーンランド周辺を中露の船が行き来していると指摘し、「国家安全保障上の理由で領有が必要だ」と訴えた。デンマークが譲渡に応じなければ「非常に高い水準の関税をかける」と強調した。 

トランプ氏は政権1期目の2019年にも買収計画を提案し、デンマークのフレデリクセン首相に「ばかげている」と一蹴され、外交摩擦になったことがある。

2019/8/20 トランプ大統領、「グリーンランド買いたい」

米国が懸念するように、中国はグリーンランドを狙っている。 中国政府は2018年1月、北極海の開発や利用に関する基本政策をまとめた「北極政策白書」を初公表した。北極海を通る航路を「氷上のシルクロード(Polar Silk Road)」と呼び、「一帯一路」と結びつける方針を示した。中国はグリーンランドをPolar Silk Roadの拠点とみなしている。

今回、クレムリンのペスコフ報道官はトランプ次期米大統領の発言について、「北極圏はロシアの国益と戦略的利益の領域」とし、「北極圏の平和と安定を維持することに関心がある」と述べ、状況を注意深く見守っているとした。

米国の現政権のブリンケン国務長官は1月8日、訪問先のフランスでの記者会見で「われわれは、同盟国を遠ざけるような言動をするのではなく緊密に協力することで、よりよい結果を得ることができる。その点で、グリーンランドをめぐる考えはよいことではない」と述べた。そのうえで「明らかに実現しないことなので、その議論に時間を費やすべきではないだろう」と批判した。

ドイツのショルツ首相は1月8日、ヨーロッパ各国の首脳らと意見を交わしたと明らかにしたうえで「最近のアメリカからの発言についてわれわれは理解しきれていない」と述べた。そして「国境の不可侵の原則はすべての国に適用される。小国であっても、とても強力な国家であろうと従わなければならない」と強調した。

フランスのバロ外相は8日、「グリーンランドはEUの領土だ。相手がどのような国であったとしても、EUが領土の攻撃を容認することはありえない」と述べるなど、ヨーロッパ各国からも批判的な声が相次いでいる。

2.パナマ運河

トランプ次期大統領は12月22日、アメリカが1900年代初頭に建設し、現在は中米パナマが全面的な管理権を得ているパナマ運河について、「法外な」通航料を請求していると同国側を非難し、通航料を引き下げるか、アメリカの管理下に戻すよう訴えた。

「パナマが請求している通航料金はばかげていて、非常に不公平だ」と語った。

トランプによれば、パナマ運河が中国に運営されている、運河を通航するアメリカの船舶に過剰な通航料を請求しているという。そして、来月大統領に就任するのをふまえ、「このような我が国に対する完全なぼったくりは、直ちに止まるだろう」と述べた。

香港を拠点とするCK Hutchison Holdingsは1997年にパナマ政府との契約を結び、パナマ運河の両入り口付近にあるバルボア港クリストバル港の運営権を保有し、港湾インフラの整備や近代化に投資、コンテナターミナルの運営や貨物取扱業務を行っている。

しかし、パナマのホセ・ラウル・ムリノ大統領は、「中国は全く干渉していない」と反論している。

パナマのホセ・ラウル・ムリノ大統領は、トランプ氏の発言を即座に非難。パナマ運河とその周辺地域はすべて、自国のものだと主張した。

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パナマ運河は、スエズ運河の建設者フェルディナン・ド・レセップスが初めて着工したが、黄熱病の蔓延や工事の技術的問題と資金調達の両面で難航した。
1889年にパナマ運河会社は倒産した。

フランスは運河建設から事実上、手を引くこととなり、運河建設は米国によって進められることとなった。

パナマ地峡は当初は自治権を持つコロンビア領であったが、パナマ運河の地政学的重要性に注目した米国は運河を自らの管轄下に置くことを強く志向し、1903年1月22日、米国のヘイ国務長官とエルラン臨時代理大使との間でヘイ・エルラン条約が結ばれた。しかし、コロンビア議会はこれを批准しなかったことから、米政府は、独立派の運動家と手を結び、1903年11月3日、この地域はコロンビアから独立を宣言して「パナマ共和国」となり、米国はパナマ運河条約を結び、運河の建設権と関連地区の永久租借権などを取得し、建設工事に着手した。

1905年にアメリカ資本による建設事業がスタートし、1914年8月15日に開通した。運河収入はパナマに帰属するが、運河地帯の施政権と運河の管理権は、米国に帰属した。

第二次世界大戦後になるとパナマの民族主義が高まり、運河返還を求める声が強くなっていった。1968年の軍事クーデターによって権力を握ったトリホス政権は運河の完全返還を強く主張した。これを契機に返還をめぐる協議が始まり、1977年、カーター大統領の時代に新パナマ運河条約が締結された。新条約では、恒久的に中立無差別な通航が保証される国際運河であることの再確認と引き換えに、まず1979年に主権をパナマに返還し、米国の海外領土としての運河地帯を法的に消滅させた。

その時点から20年間は運河の管理を両国共同で行うこととされ、1999年12月31日にアメリカは全ての施設を返還、アメリカ軍は完全に撤退した。

3.カナダとメキシコ

トランプ次期大統領は2024年11月25日、メキシコとカナダからの輸入に25%、中国からの輸入に10%の追加関税を就任初日に課す意向を示した。

メキシコとカナダについて、「数千の人々がメキシコとカナダを通じて米国に流入しており、犯罪と麻薬を持ち込んでいる」とし、就任日に署名予定の複数の大統領令の1つとして、両国からの全ての輸入品に25%の関税を課すとした。

両国から流入するフェンタニルをはじめとする麻薬と違法な入国者が止まるまで続けるとした。

米国は両国との間で、1期目のトランプ政権時の2020年7月1日に米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を発効させている。同協定の原産地規則を満たした製品の域内貿易については、基本的に関税が免除されることから、日米を含む多くの企業が両国に拠点を置いて米国に輸出するサプライチェーンを構築している。

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11月末にフロリダ州でカナダのトルドー首相と会談した際、カナダがアメリカの51番目の州になるべきだなどと述べた。大統領就任初日にカナダに新たな関税を課すとしており、それによってカナダ経済が疲弊するのであれば「51番目の州になるべき」だと述べたとされる。

12月18日にも、カナダがアメリカの51番目の州になるのは「素晴らしいアイデアだ」とソーシャルメディアに投稿、「多くのカナダ人は、カナダが51番目の州になるのを望んでいる。そうなれば、税金を大幅に節約でき、軍事的保護も得られる。素晴らしいアイデアだと思う。51番目の州だ!」とした。


トルドー首相(53)は本年1月6日、与党・自由党の党首と首相の職を辞任すると表明した。9年間にわたって国を率いてきたが、退陣を求める声が与党内で大きくなっていた。

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トランプ次期大統領は1月7日、メキシコ湾の名称を「アメリカ湾」に変えると主張した。「なんと美しい名前だろう。(アメリカ湾こそ)ふさわしい。」

ワシントン・ポストによると、メキシコ湾という名称は400年以上前から使われてきた。
米政府が使用する地名については、連邦政府機関である「米国地名委員会」が、提案があったものを承認や却下する仕組みだという。

これを受け、メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領は1月8日、メキシコ湾という名称は何世紀にもわたり国際的に認められてきたものだと反論した。

さらに、北米大陸にスペイン語で「America Mexicana」(英語でメキシカン・アメリカ)と書かれた1600年代の北米地図を示しながら、北米の名称をこれに変更するよう提案した。

米連邦議会下院は1月9日、国際刑事裁判所(ICC)への制裁法案を可決した。

Illegitimate Court Counteraction Act (不正裁判対抗法)という法律で、国際刑事裁判所 (ICC) が特定の個人に対する告訴を捜査または追求する場合、ICC の職員および関係者に制裁を課すものである。

実際には、ICCがイスラエルのネタニヤフ首相らの逮捕状を発行した対抗措置になる。決定に関与した人物だけでなく、ICCに協力した同盟・有志国を含む外国の個人も米国に保有する資産が凍結される可能性がある。

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国際刑事裁判所(ICC)は2024年11月21日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とヨアフ・ギャラント前国防相に対し、人道に対する罪と戦争犯罪の容疑で逮捕状を発行した。

ICCは、パレスチナ自治区ガザ地区でネタニヤフ首相とギャラント前国防相が戦争手段として飢餓という戦争犯罪に刑事責任を負うと信じるに足る合理的な根拠があると判断した。

さらに、食料や水、電気、燃料、特定の医療物資の不足がガザで民間人の一部の破壊をもたらす生活条件を作り出し、その結果、子どもを含む民間人の死亡をもたらしたと信じるに足る合理的な根拠があると判断した。

国際刑事裁判所(ICC)の所長は、赤根智子氏で、2024年3月11日に日本人として初めてICCの所長に選出された。1982年に検事に任官し、東京高検や最高検検事などを務めた。2018年には日本人として3人目となるICC裁判官に就任している。

司法機関であるICCには独自の警察や執行機関がないため、容疑者の拘束については、ICCに関するローマ規程締約国124カ国・地域の協力に依存している。ロンドンを拠点とするアラブ系ニュースメディア「ニュー・アラブ」によると、オランダ、アイルランド、カナダ、ノルウェー、南アフリカ共和国がICCに協力する意向を示したという。

イスラエル首相府は2024年11月21日に声明を発表し、「イスラエルは、ICCの虚偽で不条理な告発を全面的に拒否する。いかなる反イスラエルの決定も、イスラエル国家が国民を守ることを妨げることはない」と述べた。

米国のバイデン大統領は11月21日に声明を発表し、「イスラエルの指導者に対するICCの逮捕状発行は言語道断だ。イスラエルとハマスの間に同等性はない。われわれは、イスラエルの安全保障に対する脅威に対して、常にイスラエルとともに立ち向かう」と述べた。なお、イスラエルも米国もICCには加盟していない。

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Illegitimate Court Counteraction Act は、国際刑事裁判所(ICC)が特定の個人に対して捜査や起訴を行った場合、ICCの職員や関連者に対する制裁を課すもの。

この法案では、特定の個人を保護対象者として定義している。

この中には、(1) 米軍の隊員、(2) 米軍を支援する米国政府の職員および契約者、(3) 米国の同盟国やパートナーの軍隊の一部の隊員が含まれる。

ICCが保護対象者を捜査または起訴した場合、大統領は、保護対象者の捜査、逮捕、拘留、または起訴に関与したICCの職員または関連者である外国人(個人または団体)に対し、ビザの発給停止や資産凍結の制裁を課さなければならない。

さらに、ICCが保護対象者を捜査または起訴した場合、大統領は以下の外国人に対してビザ発給停止の制裁を課す必要がある。

  1. ICCの職員
  2. ICCの代理として行動する者
  3. 保護対象者の捜査、逮捕、拘留、または起訴を支援した者の直系家族

ただし、資産凍結制裁は物品の輸入には適用されない。

また、ビザ発給停止の制裁は、(1) 米国の重要な法執行目的を達成する場合、または(2) 国連本部協定のような国際的な義務を遵守する場合には適用されない。

下院の投票結果は下記の通り。

定員 435名  

共和党 民主党 合計 欠員
賛成 198 45 243
反対 140 140
棄権ほか 21 30 51
219 215 434 1


共和党の Matt Gaetz は、未成年女性と性的関係をもった疑惑、情報が流出 2024/11/13に議員を辞職し、下院の調査無効と主張 


上院も近く、採決する見通し。



住友ゴム工業は1月8日、Goodyear Tire & Rubber Companyより、欧州・北米・オセアニア地域における四輪タイヤのDUNLOP商標権等を526百万米ドルで取得する契約を締結したと発表した。
 
今回の商標権取得により、一部の地域や商材を除き同社がグローバルにDUNLOPブランドでタイヤ事業の展開が可能となる。

これまでDUNLOPブランドを使えないため、欧州・北米・オセアニア地域で展開してきたFALKENブランドは、各地域で培った商品企画力やマーケティング力を生かし、ファン層に向けたエッジの効いた商品等に注力していく。

一方、Goodyearは、これまで推進してきたGoodyear brand で全面展開する。

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これまでの経緯については、2017/1/7 住友ゴム、海外のDUNLOPブランド事業を買収 参照。

住友ゴム工業は2016年12月27日、英国のSports Direct International plc から、海外のDUNLOP商標権と DUNLOPブランドのスポーツ用品事業およびライセンス事業を137.5百万ドルで買収することについて合意したと発表した。

住友ゴムがDunlopの商標権と事業を買収する。

(1) DUNLOP商標権
  【タイヤ】
    タイ、インドネシア、ブラジル、南アフリカなど86カ国で使用権者(ライセンシー)から所有権者(ライセンサー)へ
    現状のビジネス(下記)については影響なし
  【スポーツ/産業品】
    テリトリー : 全世界 (日本・韓国・台湾はすでに商標権を所有)
    商品 : 既ライセンシーがいない限り、全ての商品に拡大
     
(2) DUNLOPブランドのスポーツ用品事業
    スポーツ用品の製造・販売 (日本・韓国・台湾はすでに商標権を所有)
     
(3) DUNLOPブランドのライセンス事業
    ウエア、シューズ、バッグ、メガネ、時計、傘等 (日本・韓国・台湾はすでに商標権を所有)

ーーー

今回はメインの自動車用タイヤの話で、過去の経緯は下記の通り。

住友ゴムは当初、英国のDunlop Rubber の日本工場としてスタートしたが、1963年に住友ゴムとなり、1999年にGoodyear Tire & Rubber と全世界のタイヤ事業で提携した。

しかし、住友ゴムは2015年10月1日付でGoodyearとのアライアンスを解消した。

北米JVと「ダンロップグッドイヤータイヤ」は住友ゴムが買取り
欧州JVと「日本グッドイヤー」はGoodyear社が買取り
共同購買及び技術交流、共同開発JVは解散

住友ゴムは、Goodyearから271百万USドルを受領

これに伴い、タイヤでのDunlopブランド商標使用権の帰属は下記のとおりとなり、現在に至っている。

  従来

解消後

  住友 Goodyear
北米(米・加・メキシコ) 米国JV 新車用 日系自動車新車用 非日系自動車新車用
市販用   市販用
モーターサイクル 新車用、市販用  
欧州 欧州JV     新車用、市販用
日本 日本JV 新車用 新車用、市販用  
住友ゴム 市販用
旧ソ連・トルコ・西アフリカ等33カ国 住友ゴム/欧州JV   新車用、市販用  
 
現在も今後も商標権保有   アジア、中東、中南米、東アフリカ 
(インドを除く)*
豪州・NZ

* タイ、インドネシア、ブラジル、南アフリカなど86カ国で使用権者(ライセンシー)から所有権者(ライセンサー)へ
なおインドはRuia Group が商標権を保有(Dunlop India は1984年にJumbo Groupに売却され、2005年にRuiaが買収した。)

2015/6/8 住友ゴム、Goodyearとのアライアンスを解消 



今回の欧州・北米・オセアニア地域における四輪タイヤのDUNLOP商標権等の買収で、次のようになる。

  従来

住友ゴム

  2016/12/27 解消後 2025~ 住友が全て買収
北米(米・加・メキシコ) 米国JV 新車用 日系自動車新車用
市販用  
モーターサイクル 新車用、市販用
欧州 欧州JV     モーターサイクルタイヤは除く
日本 日本JV 新車用 新車用、市販用
住友ゴム 市販用
旧ソ連・トルコ・西アフリカ等33カ国 住友ゴム/
欧州JV
  新車用、市販用
アジア、中東、中南米、東アフリカ (インドを除く)   下記を除く

四輪タイヤは、インド、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、

モーターサイクルタイヤは、インド、オセアニア地域

豪州、NZ

トランプ次期大統領は1月20日に就任式を行うが、閣僚やホワイトハウス高官の指名を矢継早に行っている。

合衆国憲法は、上級公務員について大統領が指名し、上院が承認することを定めている。

上院の承認が必要な上級公務員はPAS(Presidential Appointed, Senate-confirmed)と呼ばれ、各省の長官や外交官、最高裁裁判官をはじめ1,200人以上が対象となっている。

上院が休会している間に生じた公務員の欠員については、上院の承認を得ないで任命する権限「休会任命」(recess appointment)を大統領に与えている。

トランプ次期大統領は、上院での承認プロセスに時間がかかることを問題視している。また、指名した数名の候補者に対して共和党の上院議員から承認に慎重な見方が示されていることもあり、同氏が1月20日の就任以降に上院を休会させて休会任命により、主要閣僚を任命するとの見方がでており、その動向が注目されている。

特に問題視されているのは、黄色で覆った各氏

Pete Hegseth 国防長官候補:国防総省のような大規模な組織を運営した経験がないだけでなく、2017年に性的暴行疑惑で警察の捜査を受けている。戦闘任務への女性従事に否定的。

Robert F. Kennedy Jr.保健福祉長官候補:新型コロナウイルスのワクチンに反対、「自閉症はワクチンが原因の可能性がある」「医薬品の一般向けの消費者広告を中止したい」と主張、肥満薬、糖尿病薬に反対

Kash Patel FBI長官候補:トランプ氏の捜査にあたったFBIなどを「ディープステート(闇の政府)」と批判する陰謀論を唱えてきた。

Tulsi Gabbard 国家情報長官候補:ロシアに同調するコメントや、2017年のシリア訪問・アサド大統領との会見など



第2次トランプ政権の主な顔ぶれ  赤字は女性

国務長官 Marco Rubio 上院議員 2016年の大統領選の共和党予備選でトランプと敵対、その後関係修復。
中国、イラン、ベネズエラに対する強硬派として知られ、ウクライナ支援には懐疑的。
財務長官 Scott Bessent ジョージ・ソロスのもとで経験を積んだ投資ファンド経営者
国防長官 Pete Hegseth FOXニュースの司会者、保守的な言動。
元軍人だが、軍や国家安全保障分野の上級職に就いた経験なし。戦闘任務への女性従事に否定的
司法長官 Pam Bondi 元フロリダ州司法長官。第1次政権でトランプが弾劾訴追された際の弁護団の一員
 当初 Matt Gaetz (辞退)下院議員。未成年女性と性的関係をもった疑惑 情報が流出 (議員を辞職し、下院の調査無効と主張)
内務長官 Doug Burgum ノースダコタ州知事。化石燃料の採掘促進を主導するとみられる
農務長官 Brooke Rollins 弁護士。シンクタンク「アメリカ・ファースト政策研究所」所長
商務長官 Howard Lutnick 米投資銀行トップ。政権移行チームの共同議長。対中強硬派
労働長官 Lori Chavez-DeRemer オレゴン州選出の下院議員(ラテン系女性としては同州初)、今回落選
保健福祉長官 Robert F. Kennedy Jr. 故Robert Kennedyの長男、弁護士、大統領選に無所属で立候補したが撤退してトランプを支持。FDAに対して批判的な立場、新型コロナウイルスのワクチンに反対 
住宅都市開発長官 Scott Turner 元下院議員。政界進出前は、米プロフットボールリーグ(NFL)選手
運輸長官 Linda McMahon プロレス団体「WWE」の元CEO。共和党への大口献金者で、シンクタンク「アメリカ・ファースト政策研究所」の理事長。第1次トランプ政権では中小企業庁長官
退役軍人長官 Doug Collins 元下院議員。トランプの「ウクライナ疑惑」をめぐる弾劾調査で同氏を強力に擁護。現在は空軍予備軍司令部の牧師
国土安全保障長官 Kristi Noem サウスダコタ州知事として、国境管理強化のため州兵を米メキシコ国境に派遣。
大統領首席補佐官 Susie Wiles 大統領選でトランプ陣営の選対本部長を務めた選挙戦略のプロ。冷徹さを買われ、トランプ氏から「氷の乙女」と紹介された
FBI 長官 Kash Patel 第1次トランプ政権では国防総省高官などを務めた。トランプ氏の熱烈な支持者で、トランプ捜査を巡る陰謀論主張
CIA長官 John Ratcliffe 元下院議員、第1次トランプ政権では2020~21年に国家情報長官を務めた。トランプの弾劾訴追時も、トランプ氏を強く擁護。
国家情報長官 Tulsi Gabbard 元下院議員 (米国議会初のサモア系アメリカ人で、米国議会初のヒンドゥー教徒)、2020年の大統領選では「非介入主義」の外交を掲げて民主党候補の指名獲得を目指したが、その後に離党。古巣を批判し保守層から人気を集めた。 ロシアに同調するコメント (「ウクライナ侵攻はロシア政府の責任によるものでない」)や、2017年のシリア訪問・アサド大統領との会見を巡り追及される見通し。
国境管理担当
"Border czar"
Tom Homan 国境管理で中核的な役割を担う。移民税関捜査局で局長代理を務めた経験があり、トランプが掲げる不法移民の「史上最大の強制送還」を担当するとみられる。
Department of Government Efficiency
(非公式の組織)
Elon Musk テスラ、スペースXなどを経営する世界有数の起業家。大統領選では自らが所有するX(旧ツイッター)で連日トランプ支持を訴えた。
Vivek Ramaswamy インドからの移民2世で、実業家として製薬ベンチャーなどを起業。24年大統領選では共和党の指名争いに立候補し、撤退後はトランプ氏を熱烈に支持してきた。製薬スタートアップ企業のRoivant Sciences (住友ファーマにライセンス)の創業者
「2人は官僚主義を解体し、過剰な規制と無駄な支出を削減する。
 特に重要なのは、年間6.5兆ドルに及ぶ政府支出に存在する膨大な無駄や詐欺行為を排除すること」
Musk: 連邦予算から少なくとも2兆ドルを削減できると主張 → (11/20 目標縮小)年間5千億ドル分の歳出について削減を
行政管理予算局局長 Russ Vought 第1次政権でも同じ役職を担った「コストカッター」で、歳出削減や規制緩和に取り組むとみられる
EPA長官 Lee Zrldin 元下院議員でトランプ氏の長年の盟友。環境政策の実績は乏しいと報じられている。環境規制の緩和を目指すとみられる。
大統領補佐官
(国家安全保障担当)
Michael Waltz下院議員 「グリーンベレー」出身で、アフガニスタンなどで従軍。バイデン政権のウクライナ支援を批判し、対中強硬派でもある。
国連大使 Elise Stefanik下院議員 下院共和党ナンバー3の党会議議長。親イスラエルの姿勢で知られ、国連でイスラエルへの批判が広がっていることに反発し、米国の資金拠出の見直しを訴えた。
中小企業局 Kelly Loeffler 元上院議員。トランプに忠実で、2020年選挙の結果を覆す運動を支持。
大統領顧問 Alina Habba 去数年間、トランプの裁判でトランプの弁護を行った。
"Crypto czar" (新設)
暗号資産担当官
David Sacks   トランプ:「David は、人工知能と暗号資産において政権の政策を導くことになる。この2つの分野は、将来の米国の競争力にとって重要だ。Davidは、両分野において米国を明確なグローバルリーダーとすることに注力する」
公衆衛生局長官 Dr. Janette Nesheiwat ニューヨークで開業する医師で、現在は緊急医療センターのチェーンの医療ディレクターを務めている。
トランプ大統領は「予防医学と公衆衛生の熱心な支持者であり、強力なコミュニケーター」と称賛した。
大統領報道官 Karoline Leavitt   27歳での就任は歴代最年少
トランプ政権の最初の任期中、ホワイトハウスで報道官補佐として働く。今回のトランプの選挙運動で全国報道官を務めた。


なお、選挙後の上院、下院の議席数は下記の通りとなる。上院で1名、下院で2名がトランプ政権で閣僚等になる予定で、その時点で議員を辞任する。

上院

 

共和党

民主党 民主系
無所属
欠員 合計
改選後 53 45 2 100
異動 -1 1
異動後 52 45 2 1 100


Marco
Rubio 上院議員が国務長官になる時点で辞任するため、新議会で後任決定まで欠員1 となる。

下院

定員 435名  

共和党 民主党 合計 欠員

改選後

220 215 435 0

選挙後に辞任

-1 -1

小計

219 215 434 1

2議員の辞任

-2 -2

合計

217 215 432 3


Matt Gaetz議員が未成年女性と性的関係をもった疑惑で、情報が流出、11月13日に議員を辞職した。        

追って
Elise Stefanik議員は国連大使に就任するため、辞任。
Michael Waltz 議員は大統領補佐官(国家安全保障担当)に就任するため辞任

この結果、トランプ議会のスタート時には共和党と民主党は217:215と接近し、数名の反対や欠席で結果が変わることにもなりかねない。

ーーー

米連邦議会で1月3日、昨年11月の選挙結果を受けた新議会が開会し、下院(定数435)で共和党のマイク・ジョンソン議長が僅差で再選された。当初は必要な過半数を得られない可能性があったものの、ドナルド・トランプ次期大統領が後押ししたこともあり、必要な票数を得た。

共和党は下院で219議席を得ている。議長選出には過半数の218人の支持が必要なため、共和党議員2人が造反すればジョンソン氏は再選に必要な過半数に届かない状況だった。当初は議員3人が造反したものの、ジョンソン氏は本会議場を離れて3人を説得。この結果、2人がジョンソン氏の支持に回り、再選が決まった。

議長候補 得票
共和党 Johnson議員 218
民主党 Jeffries議員 215
共和党 Emmer 議員 1
合計 434

建設現場でアスベスト(石綿)を吸い、健康被害が生じた元労働者や遺族らが建材メーカー12社に損害賠償を求めた東京第1陣訴訟の差し戻し審で、東京高裁は2024年12月26日、7社が原告282人に計約40億円の和解金を支払う内容の和解案を提示した。

弁護団によると、増田稔裁判長はこの日の協議で「早期全面解決を願って提案した」と述べた。

東京第1陣訴訟は2008年に起こされた。

ーーー

最高裁は2021年5月17日、この訴訟を含む4件の上告審判決で、適切な規制を怠ったのは違法だとして国の責任を認定した。東京第1陣訴訟については、メーカーの損害への関与度を原告ごとに検討する必要があるとして、審理を高裁に差し戻した。

本件の経緯は下記の通り。

建設現場でアスベスト(石綿)を吸い込んだ元建設作業員と遺族が、国と建材メーカーに損害賠償を求めた4件の訴訟の
高裁判決、過去の最高裁判決は下記の通り。(〇は有罪、Xは無罪、一人親方の〇は補償対象、Xは補償対象外)
メーカーの責任 一人親方への責任
最高裁第一小法廷 横浜地裁 東京高裁 2017/10 X   労働関係法令が保護対象とする「労働者」には当たらず、国は賠償責任を負わない。
事後 最高裁 2022/6/3 X 1名差し戻し、4名棄却
東京地裁 東京高裁 2018/3 X  「健康被害との因果関係が立証されていない」 〇  建設現場で労働者とともに作業に従事
最高裁 2020/12 2021/2/25に弁論
京都地裁 大阪高裁 2018/8 〇  労働安全衛生法には「労働現場で生じる健康障害について労働者以外の保護を念頭に置いた規定がある」
最高裁 2021/1
屋外作業1名:3/22に弁論
大阪地裁 大阪高裁 2018/9 〇  労働安全衛生法上の保護対象ではないが、国の違法行為があれば保護されるべき
最高裁 2021/2/22
屋外作業1名:4/19に弁論


最高裁第一小法廷が担当する4件のうち、横浜分を除く3件は既に判決が出ているが (横浜は2021/5判決以後に出た)、いずれも理由なしで原告または被告側の上告を却下し、一部の賠償が確定していた。また高裁判決の一部については判断をせず、その後に弁論を開き、双方の意見を聴取した。

一人親方への責任、メーカーの責任、屋外作業者への責任で、判断が分かれていた。

このため最高裁は横浜地裁の件も含め4件について最高裁第1小法廷(深山卓也裁判長ほか4人の5裁判官)で審理し、2021年5月17日に最高裁としての判断を下した 。裁判官5人全員一致の意見である。

(国の責任)

国は石綿の吹き付け作業を禁じた1975年10月1日には、肺がんや中皮腫の危険性を認識していたと指摘した。
建設事業者に労よ働者への防じんマスク着用を義務付けたり、建材に危険物と表示するようメーカーを指導したりすることを怠ったとし、国が石綿使用を原則禁止した2004年9月30日までの29年間を違法と判断した。

(メーカーの責任)

メーカーが警告表示なしに建材を販売し、元労働者らに石綿を吸わせる結果になった点も違法と認定した。

労働者は複数の現場で作業するため、 「複数の企業が個別にどの程度の影響を与えたかは不明」だが、シェアの高いメーカーの製品は現場に届いた可能性が高いなどとして各社の共同不法行為(民法719条1項後段類推適用)を認め、「各社は連帯して損害賠償責任を負う」とした。

東京高裁判決の12社のうち、シェア上位企業10社を対象とし、メーカーごとの責任の範囲や賠償額については、高裁で審理することを命じた。


  https://joshrc.net/archives/9706

(救済対象)

労働者のほか、労働法令では労働者とみなされない個人事業主の「一人親方」についても、「労働者と同等に保護されるべきだ」として救済対象に含めた。
一人親方を救済しないことは「合理性を欠き、違法」だと結論付けた。

屋内作業者が対象となる。
解体工については国の責任は認めたが、メーカー責任は認めず。
(メーカーの場合、仮に警告表示していたとしても、解体時には警告を認識できないため、被害は回避できない。)

主に屋外で作業していた元労働者への責任は「国やメーカーが危険を認識できたとは言えない」として認めなかった。
屋外作業でのアスベスト濃度について、「規制値を下回っていたとするデータもある」などとして訴えを全面的に退けた。
建材メーカー
対象職種 屋内作業者
解体工 X 
屋外工  X 

2021/5/19

最高裁、建設アスベスト訴訟で 国と企業の責任認める

ーーー

東京第1陣訴訟の差し戻し審で、東京高裁は2024年12月26日、7社が原告282人に計40億2956万円の和解金を支払う内容の和解案を提示した。裁判所は別紙含めて1100ページにわたる書面をもって、個々の一審原告ごとに具体的な和解金額を示した和解案を提示した。

本和解案の対象は、一審原告347名のうち解体工等を除く306名である。このうち、経験した現場の数が基準に満たなかった元労働者ら24人は和解金支払いの対象から外れた。

和解案の具体的な内容は、建材メーカー12社のうち7社(エーアンドエーマテリアル、太平洋セメント、ナイガイ、ニチアス、日東紡績、ノザワ、エム・エム・ケイ)に対して一審原告ら282名に総額金40億2956万円の和解金を支払えというものである。

本和解案の特徴は、全ての建材メーカーらに警告義務違反を認めたこと、概ね10%のシェアを有する建材メーカーについては建材が現場に到達した事実を認めたこと、建材メーカーの基本寄与度を40%から50%と認めたこと、基本慰謝料額を建設アスベスト給付金と同一額を認めたことであり、この点は弁護団は評価した。

改修・解体作業での石綿粉じん曝露を中心とする解体工等の一審原告41名については、2022年6月3日の神奈川2陣最高裁判決が解体作業従事者に対する建材メーカーらの警告表示義務を否定するという判断をしたが、これを是正するには差戻審をはじめとする同種訴訟で適正な判決を得る必要があることから、本和解案の対象にはされておらず、今後、差戻審において判決が言い渡される予定である。

最高裁判所第2小法廷は2022年6月3日、原告5名との関係で、原告らのニチアス及びA&Aに対する請求を認めた東京高裁の判決を破棄し、原告1名について審理を東京高裁に差戻し、原告4名について原告らの請求を棄却する判決を言い渡した。
建物の解体作業に従事した被災者との関係で、建材メーカーらの警告義務違反を認めた東京高裁判決を取り消すものである。
なお、東京高裁に差戻しとなった1名の原告は、建物の解体作業以外の建築作業に従事した経歴を有することから、損害の額等について更に審理を尽くさせる必要があるとして差戻しとなったもの。

建築現場では、石綿の危険性や石綿粉じん曝露防止策の必要性が全く周知されていなかったため、多くの建築作業従事者が無防備な状態で作業に従事し、石綿粉じんに曝露することになった。このような状況は、建物の解体作業に従事した被災者との関係でも全く同じであった。
ところが、最高裁は建物の解体までには長期間を経るのが通常であり、その間に注意書の紛失等の事情が生じ得ること等を指摘し、いずれも警告表示の方法として実現性又は実効性に乏しいと判断して、建材メーカーらに建物の解体作業に従事した被災者との関係では警告義務を認めなかった。

弁護団は次のように述べた。

提訴から最高裁判決まで約13年、差戻審の本和解提案に至るまでに約16年経過し、一審原告らのうち既に9割以上が亡くなっている。これ以上の解決の先延ばしは非人道的であり許されない。

本和解案は、差戻審での2年半にわたる審理と、結審から本日の和解所見提示まで1年を要して出されたものであることから、われわれは判決と同等の重みをもつものとしてその重大性を真摯に受け止め、可能な限り早期に和解案に対するわれわれの態度を表明する所存である。

建材メーカーらに対しては、最高裁判決後の差戻審の和解案であるという重みを踏まえて本和案を検討することを求める。一審被告メーカーらがいたずらに本和解所見を拒否し判決を選択すれば、さらに解決が引き延ばされる事態となる。このような事態は、非人道的であり、企業の社会的責任を放棄するもので到底許されるべきではない。

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