2025年1月アーカイブ

トランプ次期大統領は1月20日に就任式を行うが、閣僚やホワイトハウス高官の指名を矢継早に行っている。

合衆国憲法は、上級公務員について大統領が指名し、上院が承認することを定めている。

上院の承認が必要な上級公務員はPAS(Presidential Appointed, Senate-confirmed)と呼ばれ、各省の長官や外交官、最高裁裁判官をはじめ1,200人以上が対象となっている。

上院が休会している間に生じた公務員の欠員については、上院の承認を得ないで任命する権限「休会任命」(recess appointment)を大統領に与えている。

トランプ次期大統領は、上院での承認プロセスに時間がかかることを問題視している。また、指名した数名の候補者に対して共和党の上院議員から承認に慎重な見方が示されていることもあり、同氏が1月20日の就任以降に上院を休会させて休会任命により、主要閣僚を任命するとの見方がでており、その動向が注目されている。

特に問題視されているのは、黄色で覆った各氏

Pete Hegseth 国防長官候補:国防総省のような大規模な組織を運営した経験がないだけでなく、2017年に性的暴行疑惑で警察の捜査を受けている。戦闘任務への女性従事に否定的。

Robert F. Kennedy Jr.保健福祉長官候補:新型コロナウイルスのワクチンに反対、「自閉症はワクチンが原因の可能性がある」「医薬品の一般向けの消費者広告を中止したい」と主張、肥満薬、糖尿病薬に反対

Kash Patel FBI長官候補:トランプ氏の捜査にあたったFBIなどを「ディープステート(闇の政府)」と批判する陰謀論を唱えてきた。

Tulsi Gabbard 国家情報長官候補:ロシアに同調するコメントや、2017年のシリア訪問・アサド大統領との会見など



第2次トランプ政権の主な顔ぶれ  赤字は女性

国務長官 Marco Rubio 上院議員 2016年の大統領選の共和党予備選でトランプと敵対、その後関係修復。
中国、イラン、ベネズエラに対する強硬派として知られ、ウクライナ支援には懐疑的。
財務長官 Scott Bessent ジョージ・ソロスのもとで経験を積んだ投資ファンド経営者
国防長官 Pete Hegseth FOXニュースの司会者、保守的な言動。
元軍人だが、軍や国家安全保障分野の上級職に就いた経験なし。戦闘任務への女性従事に否定的
司法長官 Pam Bondi 元フロリダ州司法長官。第1次政権でトランプが弾劾訴追された際の弁護団の一員
 当初 Matt Gaetz (辞退)下院議員。未成年女性と性的関係をもった疑惑 情報が流出 (議員を辞職し、下院の調査無効と主張)
内務長官 Doug Burgum ノースダコタ州知事。化石燃料の採掘促進を主導するとみられる
農務長官 Brooke Rollins 弁護士。シンクタンク「アメリカ・ファースト政策研究所」所長
商務長官 Howard Lutnick 米投資銀行トップ。政権移行チームの共同議長。対中強硬派
労働長官 Lori Chavez-DeRemer オレゴン州選出の下院議員(ラテン系女性としては同州初)、今回落選
保健福祉長官 Robert F. Kennedy Jr. 故Robert Kennedyの長男、弁護士、大統領選に無所属で立候補したが撤退してトランプを支持。FDAに対して批判的な立場、新型コロナウイルスのワクチンに反対 
住宅都市開発長官 Scott Turner 元下院議員。政界進出前は、米プロフットボールリーグ(NFL)選手
運輸長官 Linda McMahon プロレス団体「WWE」の元CEO。共和党への大口献金者で、シンクタンク「アメリカ・ファースト政策研究所」の理事長。第1次トランプ政権では中小企業庁長官
退役軍人長官 Doug Collins 元下院議員。トランプの「ウクライナ疑惑」をめぐる弾劾調査で同氏を強力に擁護。現在は空軍予備軍司令部の牧師
国土安全保障長官 Kristi Noem サウスダコタ州知事として、国境管理強化のため州兵を米メキシコ国境に派遣。
大統領首席補佐官 Susie Wiles 大統領選でトランプ陣営の選対本部長を務めた選挙戦略のプロ。冷徹さを買われ、トランプ氏から「氷の乙女」と紹介された
FBI 長官 Kash Patel 第1次トランプ政権では国防総省高官などを務めた。トランプ氏の熱烈な支持者で、トランプ捜査を巡る陰謀論主張
CIA長官 John Ratcliffe 元下院議員、第1次トランプ政権では2020~21年に国家情報長官を務めた。トランプの弾劾訴追時も、トランプ氏を強く擁護。
国家情報長官 Tulsi Gabbard 元下院議員 (米国議会初のサモア系アメリカ人で、米国議会初のヒンドゥー教徒)、2020年の大統領選では「非介入主義」の外交を掲げて民主党候補の指名獲得を目指したが、その後に離党。古巣を批判し保守層から人気を集めた。 ロシアに同調するコメント (「ウクライナ侵攻はロシア政府の責任によるものでない」)や、2017年のシリア訪問・アサド大統領との会見を巡り追及される見通し。
国境管理担当
"Border czar"
Tom Homan 国境管理で中核的な役割を担う。移民税関捜査局で局長代理を務めた経験があり、トランプが掲げる不法移民の「史上最大の強制送還」を担当するとみられる。
Department of Government Efficiency
(非公式の組織)
Elon Musk テスラ、スペースXなどを経営する世界有数の起業家。大統領選では自らが所有するX(旧ツイッター)で連日トランプ支持を訴えた。
Vivek Ramaswamy インドからの移民2世で、実業家として製薬ベンチャーなどを起業。24年大統領選では共和党の指名争いに立候補し、撤退後はトランプ氏を熱烈に支持してきた。製薬スタートアップ企業のRoivant Sciences (住友ファーマにライセンス)の創業者
「2人は官僚主義を解体し、過剰な規制と無駄な支出を削減する。
 特に重要なのは、年間6.5兆ドルに及ぶ政府支出に存在する膨大な無駄や詐欺行為を排除すること」
Musk: 連邦予算から少なくとも2兆ドルを削減できると主張 → (11/20 目標縮小)年間5千億ドル分の歳出について削減を
行政管理予算局局長 Russ Vought 第1次政権でも同じ役職を担った「コストカッター」で、歳出削減や規制緩和に取り組むとみられる
EPA長官 Lee Zrldin 元下院議員でトランプ氏の長年の盟友。環境政策の実績は乏しいと報じられている。環境規制の緩和を目指すとみられる。
大統領補佐官
(国家安全保障担当)
Michael Waltz下院議員 「グリーンベレー」出身で、アフガニスタンなどで従軍。バイデン政権のウクライナ支援を批判し、対中強硬派でもある。
国連大使 Elise Stefanik下院議員 下院共和党ナンバー3の党会議議長。親イスラエルの姿勢で知られ、国連でイスラエルへの批判が広がっていることに反発し、米国の資金拠出の見直しを訴えた。
中小企業局 Kelly Loeffler 元上院議員。トランプに忠実で、2020年選挙の結果を覆す運動を支持。
大統領顧問 Alina Habba 去数年間、トランプの裁判でトランプの弁護を行った。
"Crypto czar" (新設)
暗号資産担当官
David Sacks   トランプ:「David は、人工知能と暗号資産において政権の政策を導くことになる。この2つの分野は、将来の米国の競争力にとって重要だ。Davidは、両分野において米国を明確なグローバルリーダーとすることに注力する」
公衆衛生局長官 Dr. Janette Nesheiwat ニューヨークで開業する医師で、現在は緊急医療センターのチェーンの医療ディレクターを務めている。
トランプ大統領は「予防医学と公衆衛生の熱心な支持者であり、強力なコミュニケーター」と称賛した。
大統領報道官 Karoline Leavitt   27歳での就任は歴代最年少
トランプ政権の最初の任期中、ホワイトハウスで報道官補佐として働く。今回のトランプの選挙運動で全国報道官を務めた。


なお、選挙後の上院、下院の議席数は下記の通りとなる。上院で1名、下院で2名がトランプ政権で閣僚等になる予定で、その時点で議員を辞任する。

上院

 

共和党

民主党 民主系
無所属
欠員 合計
改選後 53 45 2 100
異動 -1 1
異動後 52 45 2 1 100


Marco
Rubio 上院議員が国務長官になる時点で辞任するため、新議会で後任決定まで欠員1 となる。

下院

定員 435名  

共和党 民主党 合計 欠員

改選後

220 215 435 0

選挙後に辞任

-1 -1

小計

219 215 434 1

2議員の辞任

-2 -2

合計

217 215 432 3


Matt Gaetz議員が未成年女性と性的関係をもった疑惑で、情報が流出、11月13日に議員を辞職した。        

追って
Elise Stefanik議員は国連大使に就任するため、辞任。
Michael Waltz 議員は大統領補佐官(国家安全保障担当)に就任するため辞任

この結果、トランプ議会のスタート時には共和党と民主党は217:215と接近し、数名の反対や欠席で結果が変わることにもなりかねない。

ーーー

米連邦議会で1月3日、昨年11月の選挙結果を受けた新議会が開会し、下院(定数435)で共和党のマイク・ジョンソン議長が僅差で再選された。当初は必要な過半数を得られない可能性があったものの、ドナルド・トランプ次期大統領が後押ししたこともあり、必要な票数を得た。

共和党は下院で219議席を得ている。議長選出には過半数の218人の支持が必要なため、共和党議員2人が造反すればジョンソン氏は再選に必要な過半数に届かない状況だった。当初は議員3人が造反したものの、ジョンソン氏は本会議場を離れて3人を説得。この結果、2人がジョンソン氏の支持に回り、再選が決まった。

議長候補 得票
共和党 Johnson議員 218
民主党 Jeffries議員 215
共和党 Emmer 議員 1
合計 434

建設現場でアスベスト(石綿)を吸い、健康被害が生じた元労働者や遺族らが建材メーカー12社に損害賠償を求めた東京第1陣訴訟の差し戻し審で、東京高裁は2024年12月26日、7社が原告282人に計約40億円の和解金を支払う内容の和解案を提示した。

弁護団によると、増田稔裁判長はこの日の協議で「早期全面解決を願って提案した」と述べた。

東京第1陣訴訟は2008年に起こされた。

ーーー

最高裁は2021年5月17日、この訴訟を含む4件の上告審判決で、適切な規制を怠ったのは違法だとして国の責任を認定した。東京第1陣訴訟については、メーカーの損害への関与度を原告ごとに検討する必要があるとして、審理を高裁に差し戻した。

本件の経緯は下記の通り。

建設現場でアスベスト(石綿)を吸い込んだ元建設作業員と遺族が、国と建材メーカーに損害賠償を求めた4件の訴訟の
高裁判決、過去の最高裁判決は下記の通り。(〇は有罪、Xは無罪、一人親方の〇は補償対象、Xは補償対象外)
メーカーの責任 一人親方への責任
最高裁第一小法廷 横浜地裁 東京高裁 2017/10 X   労働関係法令が保護対象とする「労働者」には当たらず、国は賠償責任を負わない。
事後 最高裁 2022/6/3 X 1名差し戻し、4名棄却
東京地裁 東京高裁 2018/3 X  「健康被害との因果関係が立証されていない」 〇  建設現場で労働者とともに作業に従事
最高裁 2020/12 2021/2/25に弁論
京都地裁 大阪高裁 2018/8 〇  労働安全衛生法には「労働現場で生じる健康障害について労働者以外の保護を念頭に置いた規定がある」
最高裁 2021/1
屋外作業1名:3/22に弁論
大阪地裁 大阪高裁 2018/9 〇  労働安全衛生法上の保護対象ではないが、国の違法行為があれば保護されるべき
最高裁 2021/2/22
屋外作業1名:4/19に弁論


最高裁第一小法廷が担当する4件のうち、横浜分を除く3件は既に判決が出ているが (横浜は2021/5判決以後に出た)、いずれも理由なしで原告または被告側の上告を却下し、一部の賠償が確定していた。また高裁判決の一部については判断をせず、その後に弁論を開き、双方の意見を聴取した。

一人親方への責任、メーカーの責任、屋外作業者への責任で、判断が分かれていた。

このため最高裁は横浜地裁の件も含め4件について最高裁第1小法廷(深山卓也裁判長ほか4人の5裁判官)で審理し、2021年5月17日に最高裁としての判断を下した 。裁判官5人全員一致の意見である。

(国の責任)

国は石綿の吹き付け作業を禁じた1975年10月1日には、肺がんや中皮腫の危険性を認識していたと指摘した。
建設事業者に労よ働者への防じんマスク着用を義務付けたり、建材に危険物と表示するようメーカーを指導したりすることを怠ったとし、国が石綿使用を原則禁止した2004年9月30日までの29年間を違法と判断した。

(メーカーの責任)

メーカーが警告表示なしに建材を販売し、元労働者らに石綿を吸わせる結果になった点も違法と認定した。

労働者は複数の現場で作業するため、 「複数の企業が個別にどの程度の影響を与えたかは不明」だが、シェアの高いメーカーの製品は現場に届いた可能性が高いなどとして各社の共同不法行為(民法719条1項後段類推適用)を認め、「各社は連帯して損害賠償責任を負う」とした。

東京高裁判決の12社のうち、シェア上位企業10社を対象とし、メーカーごとの責任の範囲や賠償額については、高裁で審理することを命じた。


  https://joshrc.net/archives/9706

(救済対象)

労働者のほか、労働法令では労働者とみなされない個人事業主の「一人親方」についても、「労働者と同等に保護されるべきだ」として救済対象に含めた。
一人親方を救済しないことは「合理性を欠き、違法」だと結論付けた。

屋内作業者が対象となる。
解体工については国の責任は認めたが、メーカー責任は認めず。
(メーカーの場合、仮に警告表示していたとしても、解体時には警告を認識できないため、被害は回避できない。)

主に屋外で作業していた元労働者への責任は「国やメーカーが危険を認識できたとは言えない」として認めなかった。
屋外作業でのアスベスト濃度について、「規制値を下回っていたとするデータもある」などとして訴えを全面的に退けた。
建材メーカー
対象職種 屋内作業者
解体工 X 
屋外工  X 

2021/5/19

最高裁、建設アスベスト訴訟で 国と企業の責任認める

ーーー

東京第1陣訴訟の差し戻し審で、東京高裁は2024年12月26日、7社が原告282人に計40億2956万円の和解金を支払う内容の和解案を提示した。裁判所は別紙含めて1100ページにわたる書面をもって、個々の一審原告ごとに具体的な和解金額を示した和解案を提示した。

本和解案の対象は、一審原告347名のうち解体工等を除く306名である。このうち、経験した現場の数が基準に満たなかった元労働者ら24人は和解金支払いの対象から外れた。

和解案の具体的な内容は、建材メーカー12社のうち7社(エーアンドエーマテリアル、太平洋セメント、ナイガイ、ニチアス、日東紡績、ノザワ、エム・エム・ケイ)に対して一審原告ら282名に総額金40億2956万円の和解金を支払えというものである。

本和解案の特徴は、全ての建材メーカーらに警告義務違反を認めたこと、概ね10%のシェアを有する建材メーカーについては建材が現場に到達した事実を認めたこと、建材メーカーの基本寄与度を40%から50%と認めたこと、基本慰謝料額を建設アスベスト給付金と同一額を認めたことであり、この点は弁護団は評価した。

改修・解体作業での石綿粉じん曝露を中心とする解体工等の一審原告41名については、2022年6月3日の神奈川2陣最高裁判決が解体作業従事者に対する建材メーカーらの警告表示義務を否定するという判断をしたが、これを是正するには差戻審をはじめとする同種訴訟で適正な判決を得る必要があることから、本和解案の対象にはされておらず、今後、差戻審において判決が言い渡される予定である。

最高裁判所第2小法廷は2022年6月3日、原告5名との関係で、原告らのニチアス及びA&Aに対する請求を認めた東京高裁の判決を破棄し、原告1名について審理を東京高裁に差戻し、原告4名について原告らの請求を棄却する判決を言い渡した。
建物の解体作業に従事した被災者との関係で、建材メーカーらの警告義務違反を認めた東京高裁判決を取り消すものである。
なお、東京高裁に差戻しとなった1名の原告は、建物の解体作業以外の建築作業に従事した経歴を有することから、損害の額等について更に審理を尽くさせる必要があるとして差戻しとなったもの。

建築現場では、石綿の危険性や石綿粉じん曝露防止策の必要性が全く周知されていなかったため、多くの建築作業従事者が無防備な状態で作業に従事し、石綿粉じんに曝露することになった。このような状況は、建物の解体作業に従事した被災者との関係でも全く同じであった。
ところが、最高裁は建物の解体までには長期間を経るのが通常であり、その間に注意書の紛失等の事情が生じ得ること等を指摘し、いずれも警告表示の方法として実現性又は実効性に乏しいと判断して、建材メーカーらに建物の解体作業に従事した被災者との関係では警告義務を認めなかった。

弁護団は次のように述べた。

提訴から最高裁判決まで約13年、差戻審の本和解提案に至るまでに約16年経過し、一審原告らのうち既に9割以上が亡くなっている。これ以上の解決の先延ばしは非人道的であり許されない。

本和解案は、差戻審での2年半にわたる審理と、結審から本日の和解所見提示まで1年を要して出されたものであることから、われわれは判決と同等の重みをもつものとしてその重大性を真摯に受け止め、可能な限り早期に和解案に対するわれわれの態度を表明する所存である。

建材メーカーらに対しては、最高裁判決後の差戻審の和解案であるという重みを踏まえて本和案を検討することを求める。一審被告メーカーらがいたずらに本和解所見を拒否し判決を選択すれば、さらに解決が引き延ばされる事態となる。このような事態は、非人道的であり、企業の社会的責任を放棄するもので到底許されるべきではない。

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