「no」と一致するもの

ドイツのメルケル首相は5月30日、アメリカのハーバード大学の卒業式で演説した。

演説はトランプ米大統領の名前に一言も触れずに、大統領と米政権を痛烈に批判する内容だった。通商や移民、気候変動に至るまで、トランプ氏と衝突した政策を列挙し、首相が誰について話しているのか、聴衆は明確に理解し、 拍手喝采した。


同大学ホームページから

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最初に、旧東ドイツで育った 自らの体験に触れ「ベルリンの壁が文字どおり目の前に立ちはだかり、私の機会を制限した」と述べた。

それが、1989年にポーランド、ハンガリー、チェコ、東ドイツで人々が立ち上がり、壁を壊した。私を含め誰も可能と思わなかったことが事実となった。

30年前に何事も変わらないことはないということを自身で経験した。「何ごとも変えることができる(nothing has to stay the way it is)」 これをまず、皆さんに伝えたい。

次に、世界に立ちはだかる問題を取り上げた。

「気候変動」は宇宙の自然資源にとり脅威であり、これは人間により引き起こされたものだ。2050年までに気候中立(climate neutrality)を達成するよう全力を尽くす。
しかし、改善はみんなでやって可能になる。皆さんに伝えたい2番目は、我々の行動は一方的でなく多角的、国ごとではなく他国的、孤立主義でなく外に目を向けるということだ。
Multilateral rather than unilateral.  Global rather than national.  Outward-looking rather than isolationist

保護主義や貿易摩擦は自由な国際貿易を危険にさらし、我々の繁栄の基礎を台無しにする。

技術は限りない可能性を与えるかもしれない。しかし、技術に対するルールを決めているか? 技術が我々の行動を決めていないだろうか?人間を尊厳ある、多面的な個人として見ているか、それとも単に消費者やデータソース、監視対象としてしか見ていないのではないか?

もし、他人の目で世界を見れば、難しい問題に答えが見つかる。衝動で行動せず、ちょっと立ち止まって考えるのだ。

最も重要なのは、自分自身に正直であることだ。嘘を事実とし、事実を嘘とすり替えるな。

個人の自由は与えられたものではない。民主主義は当たり前と思うものではない。自由も繁栄も同じだ。
しかし、我々を取り囲む壁を壊し、外に出て、新しいことを取り込む勇気を持つなら、全てが可能だ。
"But if we break down the walls that hem us in, if we step out into the open and have the courage to embrace new beginnings, everything is possible."

最後に、この願いを皆さんに残したい。「無知と偏狭の壁をぶち壊せ、何ごとも変えることができる」。
"Tear down walls of ignorance and narrow-mindedness, for nothing has to stay as it is."

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"Tear down walls" は、彼女自身の経験のほか、1987年6月12日にレーガン大統領がブランデンブルク門でのベルリン750周年記念式典のスピーチで発した言葉 Tear down this wall! に因むもので、この演説の2年後にベルリンの壁は崩壊した。

同時にトランプ大統領のメキシコとの壁を皮肉っている。

Fiat Chrysler Automobiles (FCA) は5月27日、Renaultに経営統合を提案したと発表した。

統合比率は1対1と対等とし、統合による工場閉鎖は行わない。

付記 

FCAは6月6日、ルノーとの経営統合提案を撤回した 。5日夜にルノーの取締役会で承認が得られなかったことを受け、ルノーに通知した。
ルノーの筆頭株主である仏政府の介入により、望んでいた条件での統合は難しいと判断した。

発表:It has become clear that the political conditions in France do not currently exist for such a combination to proceed successfully.

オランダの持株会社(統合会社)の傘下にRenaultとFCAを置く。両社の株主には統合会社の株式が配分される。
統合会社の取締役は計11人で、FCAとルノーから各4人、日産から1人を出す形になる。

統合会社はイタリアやニューヨークの株式市場などに上場する。

以下の点が伝えられている。

フランス政府は現在、ルノー株15%を保有する筆頭株主で、フランスには同国企業の株式を2年以上持つ株主に2倍の議決権を与える「フロランジュ法」があるが、オランダに本社を置く統合会社の株式については同法は適用されない。

日産が現在ルノー株15%を保有しているが、統合が実現した場合の日産の持ち分は7.5%になる。

ルノーは現在、日産株の約43%を保有して議決権を持っているため、日産が保有する15%のルノー株には議決権がないが、統合後の新会社では議決権が復活することになる。
(フランス
会社法では、40%以上の出資を受ける企業は出資元の議決権を持てないが、オランダ法にはこの規定はない。)


仏ルノーは5月29日、日産自動車、三菱自動車とトップ会談を開き、統合協議を進めることに賛同を求めた。
日産は「反対ではない」としながらも、日産としてのスタンスを固めるには「まだつめなければならないことが多い」と述べた。

関係者によると、FCAのエルカン会長が日産自動車の西川社長兼最CEO、三菱自動車の益子会長兼CEOに、仏ルノーとの経営統合について直接会って説明したいとの書簡を送った。


年間販売台数は、合計870万台になる。ルノーと連合を組む日産と三菱を加えると、年間販売は約1500万台となり、独フォルクスワーゲンやトヨタ自動車の約1千万台を大きく引き離し世界トップとなる。

統合が実現すれば、両社は電気自動車技術や、インターネットとつながるコネクテッドカーなど複数分野で協業を模索する。

ーーー

Fiat Chryslerと、Renaultの歴史は次の通り。

1)Fiat Chryslerは2014年10月12日に、FiatとChrysler が合併して設立された。Fiat 創業者のAgnelli の投資会社が、株式の約3割(議決権ベースで4割以上)を保有する。

1-a) Fiat

1899年にトリノで創業

1960s~1980sに相次ぎ買収を行った。Autobianchi 、Ferrari 、Abarth、Lancia、Alfa Romeoなど。

石油ショックや、その前後の左翼勢力による慢性的な労働争議により経営が不安定化

2000年にGMと提携するが、2005年にGMが一方的に解消、違約金15.5億ドルを受け取る。

2005年頃から業績回復

2009年にChryslerに20%出資(将来的に35%まで引き上げること、米政府の公的資金完済後には最大51%を取得して子会社化できる条項あり)。

その後、持株比率を58.5%に引き上げ、2014年1月に残りのUAWの持株41.5%を買い取り、Chryslerを完全子会社化し、2014年10月に統合

1-b) Chrysler

1925年にWalter ChryslerがChrysler Corporation設立、その後、Big Threeの一つに成長。

1970年代後半には深刻な経営危機、1978年に元Ford Morter社長のLee Iacoccaが社長就任

1985年 三菱自動車と提携し、Diamond Star Mortorsを設立、1988年 イリノイ州新工場で共同生産開始。

その後、1993年に三菱自動車がDiamond Star Mortorsを買い取り、以降は三菱自動車の北米事業部門となる。

1987年、ルノー傘下のAmerican Motorsを買収 (Jeep Cherokeeがヒット)

1998年に、Daimler-Benz AGと合併し、Daimler-Chryslerとなる。事実上Daimler-Benzによる買収

2007年5月、Daimler-Benzとの競業体制解消
 Chrysler部門は「Chrysler LLC」とし、株の80.1%をCerberus Capital Management, L.P.が買収
 Daimler-BenzはDaimlerに改称

2009年4月にDaimlerは残り株式をCernerusに売却

2009年4月30日、Chapter 11 の適用申請

Cerberus の持株は事実上失効
新たに、UAWが55%、Fiatが20%、米国政府が8%、カナダ政府が2% 出資。

同年6月10日法的手続きが完了

2014年1月、Fiatは株式保有率を58.5%にまで引き上げていたが、UAWの医療保険基金が持つ残り41.5%を買い取り、Chryslerを完全子会社化すると発表。

2014年10月12日に統合

2) Renault S.A

1898年にフランス人技術者のLouis Renaultとその兄弟が設立

1979年 に アメリカ第4の自動車会社 American Motors を買収

1987年にAmerican MotorsをChryslerに売却

1993年 - スウェーデンのVolvoとの合併を発表するがその後白紙撤回

1999年、日産自動車を事実上の傘下に収めることを発表。

その後同社と相互に資本提携しRenaultが日産自動車の株を44.4%、日産自動車がRenaultの株の15%を所有する。Renaultが日産自動車に経営陣を送り込む。

2016年、日産自動車が三菱自動車工業の筆頭株主となる。

2010年4月7日、Renault・日産アライアンスとDaimlerは戦略的提携を発表。株式の交換による相互出資も発表。
Renault・日産アライアンスがDaimler株を3.1%、DaimlerがRenault株及び日産株を各3.1%保有する。


トランプ米大統領は5月30日、メキシコが米国への不法移民流入を止めるまで同国からの輸入品に関税を課 すと表明した。

米国を脅かす非常事態に対応するため、大統領に商業活動を規制する権限を与える「国際緊急経済権限法(IEEPA)」に基づき、関税を課するもので、メキシコが対策を取るまで、下記の通り、順次税率を引き上げる。

6月10日から 5%、7月1日に10%、8月1日に15%、9月1日に20%、10月1日に25%とし、問題解決までこれを維持する。

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付記 大統領は6月7日、メキシコからの全輸入品に対する5%の関税発動を「無期限」で見送るとツイッターで発表した。メキシコが米国への不法移民流入を防ぐための対策を取ることで合意した。

I am pleased to inform you that The United States of America has reached a signed agreement with Mexico.

The Tariffs scheduled to be implemented by the U.S. on Monday, against Mexico, are hereby indefinitely suspended.
Mexico, in turn, has agreed to take strong measures to stem the tide of Migration through Mexico, and to our Southern Border.

This is being done to greatly reduce, or eliminate, Illegal Immigration coming from Mexico and into the United States. Details of the agreement will be released shortly by the State Department. Thank you!

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大統領は5月30日夜のツイッター投稿で、関税は6月10日に発効し、不法移民がメキシコを通って米国に流入するのが止まるまで続くと述べた。 問題が解決するまで順次税率を引き上げるとした。

On June 10th, the United States will impose a 5% Tariff on all goods coming into our Country from Mexico, until such time as illegal migrants coming through Mexico, and into our Country, STOP.

The Tariff will gradually increase until the Illegal Immigration problem is remedied, at which time the Tariffs will be removed.

Details from the White House to follow.

同日、ホワイトハウスから大統領声明が発表された。
  
Statement from the President Regarding Emergency Measures to Address the Border Crisis


内容は次のとおり。

 状況:

メキシコからの不法移民の大量流入が国民生活のあらゆる面で害を与えている。

メキシコ政府の協力が積極的でなく、米国の安全と経済に脅威を与えている。不法移民の米国流入を止め、出身国に送還できるのに。
米国は何十年も苦しんでいるのに、メキシコは放置している。米国の納税者にとりアンフェアな事態である。

メキシコは対策を取らねばならない。

 対応:

緊急事態への対応のため、「国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act)」で与えられた権限を行使する。

メキシコからの全ての輸入品に5%の関税を課する。有効な対策で問題が和らいだと判断すれば(大統領のみの判断)、関税は取りやめる。

問題が続けば、7月1日に10%に引き上げる。同様に毎月引き上げ、10月1日には25%に引き上げる。問題解決までは永久に25%となる。

メキシコが対策を取らなければ、関税は高いままで、メキシコに移った企業は米国に戻り、米国で生産することになる。米国に戻れば関税を払う必要はなくなる。

これまで米国は貯金箱("piggy bank")で、みんなが取る一方だった。これからは、米国の利益のために立ち上がる。

米国はこれまでメキシコに親切だった。メキシコにすぐお返しをしてほしい。不法移民を送り込む窓口として国境を使うのをやめて欲しい。

大統領として最大の義務は米国と米国民の防衛である。主権が脅かされるのを黙って見ていない。

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米国のメキシコからの輸入は2018年で3465億ドルで、中国に次ぎ2番目。

米国は中国に対しては現在、2500億ドルの輸入品に25%の追加関税をかけている。(残り約3000億ドルについても6月末以降実施としている)

これを上回る輸入品に、当初は5%に始まり、10月1日からは25%をかけるというもの。しかも全輸入品である。

メキシコからの輸入品は、自動車関連や電気製品、食料品が中心で、自動車関連は1281億ドルで4割弱を占める。

トヨタ、日産、ホンダ、マツダは4社で133万台を生産し、69万台を米国に輸出している。高関税が課されると大きな影響を受ける。

生産 対米輸出
トヨタ  15万台 14万台
ホンダ 21万台 13万台
日産 80万台 35万台
マツダ 18万台 7万台
合計 133万台 69万台

米国とカナダ、メキシコは昨年、NAFTA(North American Free Trade Agreement)の改正で合意し、「USMCA(the United States-Mexico-Canada Agreement)」に変更した。

自動車については、数量規制を導入したが、一応の決着を見ていた。

カナダ、メキシコからの乗用車輸入にそれぞれ年260万台の数量枠を設け、枠内であれば高関税を課さない。
米国で人気が高い小型トラックは輸入制限の対象から外す。

自動車部品でもメキシコに年1080億ドルの輸入枠を設ける。

自動車関税ゼロ  条件

域内部品調達比率 62.5%→75%
時給16ドル以上の地域での生産割合 40-45%

自動車関税ゼロ 限度 乗用車 年260万台
小型トラック 対象外
自動車部品関税ゼロ 年間1080億ドル限度

2018/10/4 NAFTA、3カ国協定を維持、USMCAに改称

このUSMCAは、米国では民主党が賛成せず、カナダとメキシコは米国の鉄鉱・アルミ製品への追加関税措置に反対して、批准に至っていない。

米国は5月17日、カナダ、メキシコとの間で、安全保障を理由とした鉄鋼・アルミニウム製品への追加関税措置を停止することで合意した。
カナダ、メキシコも、米農産物などにかけてきた報復関税を取りやめることで合意した。

これにより、進展するものと思われた。

2019/5/20 米、カナダ・メキシコへの鉄鋼・アルミ関税を撤廃 

今回の米国の一方的な措置により、メキシコが反発するのは必至で、USMCAの批准にも影響を与える。

米政府は、今回の対メキシコ関税計画はUSMCAとは無関係で、貿易紛争の一端ではなく、移民問題に関わるものだ。メキシコから十分な協力が得られたとホワイトハウスが判断すれば、関税は発効しないか、いったん発効後も速やかに撤回されるとしている。

メキシコのセアデ外務次官(北米担当)は、次のように述べた。

トランプ大統領の対メキシコ関税発表は予想していなかった 。米国は関税についてメキシコ政府に何も伝えてこなかった。

米国と話し合うまでは報復しないが、関税賦課が現実となれば、極めて深刻なものになろう 。

  米国との貿易戦争は望まない が、いつまでも手をこまぬいていない。

SAPの世界の各社の能力は次の通り。(千トン)

前記の日触と三洋化成の能力は今回両社が発表した。

その他は過去の情報から筆者が推定したもの。

2010/12/22  BASF、高吸水性樹脂を増強

2011/8/4 日本の各社、高吸水性樹脂を増強

「その他計」は日触発表の能力グラフから推定した。


1)住友精化
           

姫路 210
フランス
Arkema 委託
47
シンガポール 129
韓国 (59 x 2) 118
合計 504


住友精化は2014年5月28日、韓国の麗水市に高吸水性樹脂製造設備(年産59千トン)を建設することを決めたと発表した。
既に、第二期(年産59千トン)も稼働している。

なお、日本だけをとると、統合会社は480千トン、住友精化は210千トン、合計 690千トンで、統合会社はシェアが70%になる。また、これまでの3社が2社になる。

公取委をクリアしているのだろうか。

2) BASF

欧州 Antwerp 210
Mannheim 25
米国 Freeport, TX 215
タイ Rayong 20
中国JV 南京(BASF-YPC) 60
ブラジル 60
合計 590


BASFは2011年10月11日、ブラジルのCamaçariに60千トンプラントを建設すると発表。生産開始は2014年末。

3) Evonik(元Degussa)

同社(当時はHuls)は1991年にStockhausen を買収した。米国(75千トン)、ドイツ(85千トン)、合計160千トンの能力を有していた。

2006年2月にDegussa はDowの高吸水性樹脂事業を買収した。
Dowのドイツのプラント(80千トン)を取得、米国のMidland
プラント(75千トン)では 一定期間 Dow に製造委託を行う。

これら取得時の能力は315千トンだが、その後増強している。

2016年9月の報道で、能力を40千トン減らし、530千トンにしたとある。

ーーー

なお、これとは別に、EvonikはサウジのJubailにJVを持つ。

Tasnee とSaharaのアクリル酸コンプレックスは以下の通り。

製品 エチレン、プロピレン、PE 持株会社 アクリル酸 高吸水性樹脂
社名 Saudi Ethylene and Polyethylene
(SEPC)
Saudi Acrylic Acid Saudi Acrylic Monomer
(SAMCO)

Saudi Acrylic Polymers
(SAPCO)
出資 Tasnee & Sahara Olefins 75%
LyondellBasell   25%
Tasnee
Sahara
Saudi Acrylic Acid 75%
Rohm & Haas(Dow) 25
%
Saudi Acrylic Acid 75%
Evonik 25%
能力 エチレン   1,000千トン
プロピレン   285千トン
HDPE     400千トン
LDPE     400千トン
アクリル酸  250千トン 高吸水性樹脂 80千トン
原料ソース SEPCのプロピレン SAMCOのアクリル酸


2011/8/31 Evonikも高吸水性樹脂を増強

米財務省は5月28日、貿易相手国の通貨政策を分析した半期為替報告書を公表した。

Macroeconomic and Foreign Exchange Policies of Major Trading Partners of the United States


日本と中国とドイツ、韓国を引き続き「監視リスト」に指定した。スイス、インドは今回、リストから外れた。新しく、アイルランド、ベトナム、イタリア、マレーシア、シンガポールをリストに加えた。 合計9カ国となった。

今回から基準を一部変更したが、イタリアとマレーシアは旧基準では対象外で 、変更により対象となった。未確認だが、シンガポール(外為市場への介入月数)もその可能性がある。

中国について、こう述べている。

昨年1年間のモノの対米貿易黒字は4,190億ドルで、これは中国の非関税障壁、非市場メカニズム、国家補助金、その他の施策の結果である。中国への輸入を妨げ、また外国の投資を妨げている。

2018年1年間で人民元は米ドルに対し5.4%安くなった。更に中国の対米黒字が増えることとなる。

為替介入をしないというG20での約束を守ることを注視する。

ーーー

2016年2月24日、2015年貿易円滑化・貿易履行強制法成立した。これはアンチダンピング法、相殺関税法および貿易救済法などを強化したものだが、上院の審議で為替操作国に対する措置が盛り込まれた。

対象は、重大な対米貿易黒字と実質的な経常黒字を有し、外為市場に対する長期かつ一方的な介入を行った米国の主要貿易相手国で、米財務省は次の基準で選ぶこととした。

今回、この基準を一部改正した。

従来の基準 2019/5より改正
①重大な対米貿易黒字 対米貿易黒字が200億ドル(米国GDPの約0.1%) 以上 同左
②実質的な経常黒字 経常黒字がその国のGDPの3.0%以上 GDPの2.0%以上
③外為市場に対する介入 GDPの2%以上(ネットで)の額の外貨を繰り返し購入
(12カ月のうち、8カ月
同左
(12カ月のうち、6カ月

財務省は2016年4月の報告で、3つの基準全てに当て嵌まる国はないことを確認したが、米国の主要貿易国の5カ国が3つの基準のうち2つに該当することを見つけた。
このため、新しい「監視リスト」を創設し、この5国を監視していくこととしたもの。

2016/5/2 米、日本や中国などを為替操作「監視リスト」に

その後の「監視リスト」の対象は次の通り。

  日本 中国 韓国 台湾 ドイツ スイス インド アイルランド ベトナム イタリア マレーシア シンガポール
2016/4
2016/10
2017/4
2017/10
2018/4
2018/10
2019/5

①②



①②



①②

①②



②③


中国は、2016/10以降は①の1つしか基準を超えていないが、対米貿易黒字が膨大なため、次回の報告書でも自動的に指定される。今回も同様である。

韓国は今回、①が基準から外れたが、引き続きリストに残る。この状況が続けば、次からは外れる。


各国の状況は下記の通り。



米食品医薬品局(FDA)は5月24日、Novartisの米子会社による脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)の遺伝子治療薬 Zolgensma (onasemnogene abeparvovec-xioi) の販売を承認した。

米国での価格は212万5千ドル(約2億3200万円)と発表され、投与は1回で済むが、米メディアは「世界一高い薬」と報じた。

付記 従来の治療法を10年続けた場合にかかる医療費約4億円の半額で設定された。ゾルゲンスマは1回の投薬で治療を済ませるため、単価は高くなる。

脊髄性筋萎縮症は遺伝的要因により、脊髄等の運動神経細胞が変性・脱落することで、筋収縮刺激がうまく伝達できなくなる疾患。

正常なSMN遺伝子(SMN1遺伝子)からは正常な活性を有するSMNタンパク質が合成されるが、遺伝子のエキソン7に変異のあるSMN2遺伝子を持っている場合、活性のない異常SMNタンパク質が合成されてしまう。

主に生後6カ月ごろまでに筋肉の萎縮や呼吸困難を発症する希少疾患で、患者の多くが2歳になる前に亡くなるか、人工呼吸器を生涯、装着する必要があるとされ る。

日本では難病に指定されており、治療薬には2017年に承認されたスピンラザ髄注(一般名:ヌシネルセン)しかなく、髄注(抗がん剤を脊髄腔に注入)かつ4~6か月毎の投与が一生涯必要である。

日本ではバイオジェン・ジャパンが販売する国内初の「アンチセンス核酸医薬品(標的RNAに結合して、その遺伝子発現を調整する合成ヌクレオチド)」である。

ゾルゲンスマはウイルスを利用して静脈注射で患者に正常な遺伝子を導入する。FDAは2歳未満への使用を承認した。1回の静脈内投与で治療が完結する。

ゾルゲンスマは、正常なヒトSMN1遺伝子(二本鎖DNA構造)を「自己相補型アデノ随伴ウイルス9型(scAAV9)」と呼ばれるウイルスの殻(カプシド)で包んだ構造をしている。

静脈内に投与されたゾルゲンスマ血液脳関門を通過し、脊髄に到達する。

標的細胞内(SMNタンパク質産生細胞)に侵入すると、すぐに正常なヒトSMN1遺伝子が放出されて正常な遺伝子のみが核内に移行し、標的のDNA配列の箇所に遺伝子が挿入される。

1回の静脈内投与のみで正常SMN1遺伝子がDNAに組み込まれるため、これで治療が完了する。

これは米国のバイオテクノロジー会社のAveXisが開発した。Novartisは2018年4月、AveXisを総額87億ドルで買収することで合意した。

この薬は日本でも、厚生労働省が画期的な新薬を短期間で承認する制度の対象にして優先審査中。年内にも承認される可能性があり、薬価が注目される。

付記

厚生労働省の専門部会は2020年2月26日、世界一高い薬とされる脊髄性筋萎縮症の遺伝子治療薬「ゾルゲンスマ」の国内での製造販売を了承した。

3月中に正式承認される見通し。遺伝子治療薬としては国内2例目となる。5月にも薬価が決まるが、米国を参考に1億円を超え、国内で最高額になるとみられる。

ーーー

厚生労働省は2月20日、薬事・食品衛生審議会 再生医療等製品・生物由来技術部会を開催し、ノバルティスファーマの「キムリア点滴静注」(チサゲンレクルユーセル)を国内初のCAR-T細胞医療として正式承認することを了承した。

2019年3月26日に承認取得した。

厚生労働省は5月15日、「キムリア」の保険適用を決めた。薬価を3,349万円にし、5月22日から保険適用する。

治療対象は白血病の患者で抗がん剤が効かなかった人などに限定する。対象は216人と見込まれている。市場規模は72億円。

投与は1回で済む。ノバルティスの試験では、若年の白血病患者で8割に治療効果が見られた。

米国では約5200万円の価格がついたが、効き目に応じて患者から支払いを受ける成功報酬型が採用されている。日本では効果の有無に関係なく保険適用される。

2019/2/22 厚労省部会、国内初の遺伝子治療2品目の承認を了承 
 

 

武田薬品は2019年1月4日、アイルランドの製薬大手Shire plc 買収に関して英ジャージー裁判所の認可を取得したと発表した。

裁判所の認可を得たことで、2019年1月8日付で買収を完了した。1月8日に買収が完了した。

日本企業のM&Aとして最大となる460億ポンドの買収が実現した。

買収金額(円換算)は、買収を発表した昨年5月時点は約6.8兆円だったが、円高が進んだことで約6.2兆円となった。

同日付で普通株式を発行した。増加する資本金及び資本準備金の額は下記の通り。   
  増加する資本金の額:1兆5656億4千万円
  
  増加する資本準備金の額:1兆5656億4千万円

連結売上高が3兆円超の世界8位となる巨大製薬会社が誕生する。

2019/1/5 武田薬品、1月8日にShire plcの買収完了へ


同社は2019年5月に
Shireの下記事業の売却した。(2019/3月決算に含まず)

売却先 2018 Sales 売却対価
ドライアイの兆候・症状の治療薬「Xiidra®5%」 Novartis 3億8,800万米ドル 34億米ドルの一時金
最大19億米ドルのマイルストン
手術用パッチ剤「TachoSil® Ethicon 約1億5,500万米ドル 4億米ドルの一時金 製造は引き続き武田
長期の製造供給契約を締結


同社の決算は下記の通り。Shireの買収の影響で非常に複雑になっている。財務実績と、特殊処理、それを除いた実質に分けた。

財務実績:

                             単位:億円(配当:円)
売上高 営業損益

うちコア

税引前 株主帰属
損益
配当
中間 期末
2017/3 17,321 1,559 2,451 1,433 1,149 90.0 90.0
2018/3 17,705 2,418 3,225 2,172 1,869 90.0 90.0
2019/3 20,972 2,050 4,593 949 1,091 90.0 90.0
前年比 3,267 -368 1,368 -1,223 -778
2020/3予 33,000 -1,930 8,830 -3,690 -3,830 90.0 90.0


2019年3月期(実績)にはShireの2019/1-3の業績を、2020年3月期(予想)には年間業績を含む。

2019年3月期(実績)と2020年3月期(予想)にはShireの買収の影響(企業結合会計の影響と買収・統合関連費用)を含む。

概要は次の通り。

2019/3  実績 億円
  武田 Shire 小計 結合会計 統合費用 合計
営業損益 4,118 598 4,715 -1,816 -850 2,050
持分法損益 -439 3 -436 -436
税引前 3,574 494 4,068 -1,856 -1,263 949
法人税 -446 -113 -559 440 261 141
当期利益 3,128 381 3,509 -1,376 -589 1,090


買収の影響の主なものは下記の通り。

売上原価:棚卸資産公正価値調整など817億円
販売費・一般管理費:
Shire社買収に係る買収関連費用 238億円
その他費用:
Shire買収取得した無形資産償却費992億円、Shire買収関連した合費用596億円
金融損益:
Shire関連する財務費用413億円
税金:S
hire収に伴う税金費用の減少影響587億円

2020/3 予想
  武田 結合会計 統合費用 合計
営業損益 6,540 -6,930 -1,540 -1,930
税引前 5,810 -7,090 -2,410 -3,690
当期利益 4,130 -7,960 -3,830


上記を過去の実績を含めグラフ化すると下記の通り。

売上高

営業損益

内訳

税引前損益

株主帰属損益

財務損益と、統合会計・統合費用を除いた実質の対比


中国は2018年7月以降、特定の米国産品に報復関税を課しているほか、国有企業が購入を減らしたり輸入時の審査手続きを遅らせたりしている。この結果、大豆の2018年の対中輸出は7割超減り、市場価格も下落し、幅広い農産品に悪影響が出ている。

米農務省は5月23日、「不当な報復と貿易障壁で被害を受けた農家に対する支援策」を発表した。発表文は次の通り。

トランプ大統領が農務長官に指示し、政府が引き続き自由でフェアで互恵的な貿易に向け努力し、長期的に米国の農業がグローバルに競争するのを助ける一方で、米国の農業生産者を支えるための救済策を立てるよう指示した。

特に大統領は、農務省に対し、160億ドルの支援を認めた。これは米国の農産品に対する不当な報復やその他の貿易障壁に対応するものだ。

この計画は農業生産者を助けるもので、大統領は長期的な市場バリアに対応する。

中国は長い間ルールに沿っておらず、大統領は米国は最早、彼らのアンフェアな貿易慣行、知財盗用に我慢できないとの明確なメッセージを送った。大統領が愛する米国の農家や畜産業者は貿易摩擦の影響を受けている。今回の計画は、彼らが中国や他の貿易相手からの不当な報復関税の影響を受けないことを保証するものだ。

中国の報復関税や市場のひずみは多くの米国のコモディティ:大豆、コーン、小麦、綿花、コメ、ソーガム、ミルク、豚、果物、ナッツ、その他に悪影響を与えてきた。高関税のため新市場を探さざるを得なくなった。中国向け出荷は異常に厳密な通関手続きで時間がかかり、品質劣化を生み、日持ちのしない製品は売れなくなる。

具体的な支援は次の通り。

1) 2019年 市場活性プログラム(Market Facilitation Program):145億ドルを直接生産者に支払い

商品金融公社(CCC)の法的権限の下、米国農務省の農業サービス局が主管となり、大豆をはじめとする農産物の生産者に対し、植え付け面積に指定の単価を掛け合わせることによって算出される金額を直接支払う。

対象品:alfalfa hay, barley, canola, corn, crambe, dry peas, extra-long staple cotton, flaxseed, lentils, long grain and medium grain rice, mustard seed, dried beans, oats, peanuts, rapeseed, safflower, sesame seed, small and large chickpeas, sorghum, soybeans, sunflower seed, temperate japonica rice, upland cotton, and wheat

何を植えるかに関係なく、これらの植え付けに地方ごとの一定率を乗じて支払う。合計植え付けは2018年のものを超えない。

その他に、酪農業、果物等への支援

3回分割で支払いが行われる。

2) Food Purchase and Distribution Program (FPDP)  14億ドル

報復で影響を受けた余剰コモディティの購入(フードバンク、学校、低所得者向け販売店向けに配る)

果物、野菜、加工食品、ビーフ、ポーク、ラム、鶏肉、ミルク等

3) Agricultural Trade Promotion Program (ATP)  1億ドル

生産者のために新しい輸出市場を開発するのを支援

これらは既に議会から割り当てられた予算から拠出するため新たな承認は要らない。

ーーー

米政権は5月10日午前0時1分、2千億ドル分の中国製品に課す制裁関税を現在の10%から25%に引き上げた。

この日、Trump大統領はツイッターを連発した。

このなかに次のものがある。

今や2500億ドルの中国からの輸入品に25%の関税がかかる。大金の関税が直接、政府に入る。

追加で入る1000億ドルの関税で米国の農家から農業製品を購入する。中国がこれまでに買ったよりもはるかに多額だ。これを貧しく、飢えた国々に人道援助の形で供給する。

2019/5/11 中国製品の制裁関税についてのTrump 大統領のツイッター 

大統領は政府に入る追加関税は中国が支払うものと信じており、その金で農産品を買って農家を救済し、それを飢えた国に人道援助で供給する、結構なことだとしている。

今後は別だが、少なくとも今までは、大統領の主張が正しいようだ。追加関税のかなりの部分を中国の輸出業者が値引きの形で負担している。

2019/5/13 米国の中国製品への追加関税の影響

今回の支援策はこれとは関係なく、農家の不満を抑えるために、追加予算や新しい法律の承認などを必要としない範囲で支援を行うものである。


Massachusettsの米国地裁は5月17日、ノーベル医学・生理学賞を受賞した京都大学 の本庶佑・特別教授が開発した癌の治療薬「オプジーボ」の特許について、ハーバード大学医学部の主要関連医療機関の一つである Dana-Farber Cancer Instituteの研究者 Gordon Freeman と Clive Woodの2人を共同発明者として認める判決を出した。

ーーー

癌細胞には、免疫細胞攻撃を防止する「免疫チェックポイント」という仕組みがある。

癌細胞は、免疫細胞からの攻撃を逃れるために、PD-L1 というタンパク質を出し、これが免疫細胞のPD-1 に結合すると、免疫細胞の働きが抑制される。

本庶教授は1992年に免疫細胞上のタンパク質(PD-1)を発見した。

1999年にPD-1欠損マウスが自己免疫疾患を発症することを発見、2002年に癌の免疫回避とPD-1の関与が判明した。その後、ヒトのPD-1の働きを阻害する抗体を開発した

提携していた小野薬品には抗体を作る技術がなかったが、2005年に米ベンチャー企業 Medarexとの提携で「完全ヒト型抗PD-1 抗体」を入手でき、オプジーボが誕生した。。

(その後2009年にBristol-Myers SquibbがMedarexを24億ドルで買収した。)

               ↓

 (治療薬の働き)

機能 承認 開発中
抗PD-1抗体 免疫細胞のPD-1に結合し、PD-1と癌細胞のPD-L1の結合を防止 オプジーボ(小野薬品/Bristol-Myers Squibb)
キイトルーダ(米Merck)
抗PD-L1抗体 癌細胞のPD-L1に結合し、PD-1とPD-L1の結合を防止 Roche/中外製薬
AstraZeneca
独Merck
/Pfyzer
抗CTLA-4抗体 免疫細胞のCTLA-4に結合し、CTLA-4と樹状細胞のB7の結合を防止 ヤーボイ(Bristol-Myers Squibb/小野薬品)
AstraZeneca


オプジーボの特許は本庶教授と小野薬品工業が持つ。
日本、韓国、台湾以外はBristol-Myers Squibbが開発・商業化の権利を持つ。

ーーー

今般、米地裁の
Patti B. Saris裁判官は111ページの判決文で、2人が本件の6つのパテントの権利を有すると判断した。

Freeman はその研究で、癌細胞にも健康な細胞にもPD-L1が現れることに注目した。PD-1とPD-L1 の接続が、癌細胞が免疫システムから免れる主要な役割を果たす。
この接続を防ぐことで、人体の免疫システムは癌細胞を攻撃できる。

2人と本庶教授は2000年に共同研究を発表し、PD-L1の発見を報告した。そこでは、PD-L1 がT 細胞のPD-1 と結合することで、T細胞に免疫システムを働かせないよう伝え、阻止効果を生むことを示している。

裁判では、本庶教授はDana-Farber Cancer Instituteの2人からは重要な助けを得てはいないと主張した。

証言は1999年と2000年の双方の研究者の間での生体物質と非公開のデータのやり取りが中心となった。

Saris 裁判官は彼女の結論として次のように述べた。

3人は特許権者として名前を出すに値する。3人は共同の目的に向かって研究した。本庶教授の発明のコンセプトは3人全ての協力の結果である。

判決を受け、Dana-Farberは免疫チェックポイント阻害剤の開発をする企業に技術をライセンスできるとしている。

本庶教授の弁護士は「現在、判決の内容を精査しているところで、特許の使用に関わっている
Bristol-Myers Squibbや小野薬品工業と協議したうえで今後の対応方針を決めたい」とコメントした。
小野薬品工業は、「判決は不服で、関係者と協議したうえで控訴する予定だ」とコメントしている。

オプジーボをめぐっては、本庶教授が小野薬品工業に対し、特許料が低いとして配分を見直すよう求めており、今回の判決は今後特許収入に影響を与える可能性が ある。

ーーー

京都大学の本庶佑特別教授らは4月10日、記者会見を開き、小野薬品工業と共同で取得したがん免疫薬「オプジーボ」に関する特許の対価について、引き上げを求めた。

2006年に特許のライセンス契約をした。

本庶氏はこの契約での取り分について、オプジーボによる小野薬品の売り上げや他社からのライセンス収入などの1%以下になっていたことを公表した。代理人弁護士は「常識的なレベルではない」と批判した。

2014年9月の販売開始から2018年12月までの4年の売上高約2890億円に対し、小野薬品からの支払(本庶氏が受け取りを拒否し、小野薬品は法務局に供託)は約26億円で1%以下となる。

本庶氏は抗がん剤として使う用途を視野にいれた特許と考えていたが、小野薬品はPD-1を作る遺伝子という狭い範囲の特許とみて契約を提示したため、料率の低い契約になったとしている。「用途特許ならば5~10%が常識的なレベルだ」(代理人弁護士)

本庶氏が2011年に対価の引き上げを要請したが、現在は交渉が途絶えているという。

代理人は①小野薬品の売り上げ②ブリストルから入る権利使用料③同様の薬を開発した別企業から入る使用料、の3種類の一部を本庶さんが受け取るべきだと主張しており、仮に試算すると、現時点で約830億円になるとし、「今後さらに増える」と強調する。対価の一部は若手研究者を支援する基金に投じる予定だ。


本庶氏は当初、京大に出願を要請したが、当時、京大には知財を扱う専門人材やノウハウがなく資金も不十分だったため、本庶氏本人が、小野薬品と共同出願したという経緯があり、このことがこの問題を生んだ。

当時の契約は本庶氏が弁護士を雇わずに署名したもの。

当時はがんの免疫療法が「海の物とも山の物ともわからないという扱い」だった。業界関係者はごく初期の特許の料率が1ケタになることは珍しくないとしている。

このことからも、当初の契約に本庶氏が自ら署名していることからも、裁判で契約を覆すのは難しいとみられる。


小野薬品は5月22日、次のコメントを発表した。契約の見直しは拒否、別途京大への寄付を検討するとしている。

先般より報道されているPD-1特許に関するライセンス契約については、本庶教授と当社が合意の下、2006年に締結している。

そして、2014年より契約に基づく対価を支払いしており、今後も契約に基づく対価を四半期ごとに支払いする。

2011年に本庶教授から当社に要請のあった契約の見直しに対しても誠意をもって話し合いを続けてきたが、合意に至らず、2018年11月に本庶教授に対し、対価の上乗せという枠組みではなく 、将来の基礎研究の促進や若手研究者の育成に資するという趣旨から京都大学への寄付を検討している旨、申し入れた。

今後は、本庶教授との話し合いを継続するとともに、基礎研究の促進や若手研究者の育成のための寄付について、慎重に検討 する。

米地裁判決への控訴には、小野薬品としては本庶氏との連携が不可欠になるが、特許契約を巡る対立から本庶氏と小野薬品の間では本件についても接触はないとされ、先行きは不透明である。


付記

小野薬品の発表に対し、本庶氏は次のように主張している。

特許料増額交渉は2011年からしており、後出しジャンケンではない。

2013年に小野薬品は書面で増額提示を行った。

現行契約 小野薬品提案
小野薬品の売り上げ 1%以下 2%
Bristol-Myers Squibbから入る特許料 10%
Merckから入る特許料 40%


本庶氏は「安すぎる」として合意せず、交渉を続けたが、小野薬品が一方的に撤回した。

交渉が再開されない場合、訴訟も排除しない。


主力の液晶材料が赤字に転落した結果、営業損益、経常損益でも赤字に転落した。

当期利益は3年連続の赤字で、2019年3月末の未処理損失は 1,501億円となった。
資本金は78億円で、純資産は
−1,179億円となっている。

単位:億円 (配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 特別損益 当期損益   配当
中間 期末
2016/3 1,718 129 138 -39 55 0 0
2017/3 1,540 61 75 -64 -14 0 0
2018/3 1,600 29 48 -40 -33 0 0
2019/3 1,550 -38 -14 -38 -82 0 0
前年比 -50 -67 -62 1 -48
2020/3予

未定


特別損失

16/3 17/3 18/3 19/3
水俣病補償損失 -37 -35 -33 -31
災害損失 -16 -7 -7


経常損益は次の通り。

これまでの主力であった液晶材料等の機能材料部門は、2015年3月期には最高の182億円の利益を計上したが、その後、128億円、83億円、26億円に激減し 、本年は赤字に転じた。

パネルの供給過多の状況が増幅され、顧客が引き続き稼働調整したことに加え、中国液晶材料メーカーの台頭が影響したとしている。
液晶パネルから有機ELパネルに切り替わっており、今後、液晶が元に戻る可能性は少ない。

液晶材料の不振を補うような製品は見当たらず、このままでは補償金の支払いも難しくなる。

15/3 16/3 17/3 18/3 19/3 増減
機能材料
(液晶材料等)
182 128 83 26 -28 -54
加工品
(繊維製品、肥料、電子部品等)
21 16 15 18 5 -13
化学品
(アルコール、樹脂等)
-11 17 -1 21 32 11
商業事業 4 3 3 3 3 0
電力 5 1 0 1 1 0
その他 2 1 2 2 -3 -4
全社 -28 -28 -27 -23 -24 -1
合計 175 138 75 48 -14 -62

ーーー

チッソは2011年1月に「事業再編計画」に記載した100%子会社 JNC㈱ を設立し、事業を譲渡した。

2011/1/12 チッソ、「事業再編計画」に基づく、新会社を設立

親会社のチッソは当面、子会社JNCの株式配当益で補償業務を担い、3年後をめどに株式を他者に全面譲渡し、譲渡益を熊本県に納付して補償業務を委ね、清算するという構想である。

特措法では、「救済の終了」と「市況の好転」をJNC売却の条件としている。

JNCの資本と損益の状況は次の通り。 現在のところは過去の蓄積分が残っている。

資本金 31,150 百万円
資本剰余金 27,149
利益剰余金 37,424
株主資本合計 95,723

将来、チッソがJNCを売却して、譲渡益で補償を終える計画であるが、JNCの赤字が続くと、その構想も実現が難しくなる。



  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358  

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