「no」と一致するもの

東レと三井物産は1月5日、東レが三井物産子会社の医薬会社 日本マイクロバイオファーマの株式20%を取得する契約書を締結した。

日本マイクロバイオファームは元 メルシャンの医薬・化学品事業で、メルシャンが経営資源をワイン・酒類事業に集中するため、受け皿会社 MBS社として分離した後、2011年7月1日に三井物産に譲渡した。

日本マイクロバイオファームはメルシャン時代から長年培ってきた発酵技術にバイオテクノロジーを付加した独自の製造技術により、微生物を利用した医薬品原薬、機能性化学品の製造、製造受託並びに創薬支援事業を行っている。

中国では、日本マイクロバイオファームが34%出資する関連会社の
深圳萬楽薬業を通じて、制癌剤を中心とする製品の製造・販売を展開している。

深圳萬楽薬業は1990年にメルシャンが、中国の深圳一致製薬薬業、香港の萬聯行との3社合弁で設立した。

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東レは、ライフサイエンス事業を次代の成長エンジンとして「重点育成・拡大事業」と位置付けている。
現在の事業分野は以下の通り。

  医薬品
    天然型インターフェロンベータ製剤、経口プロスタサイクリン(PGI2)誘導体製剤、
    経口プロスタサイクリン(PGI2)誘導体徐放性製剤、経口そう痒症改善剤
  医療機器
    中空糸型透析器、血液浄化器、カテーテル・ポート、バルーン拡張式弁形成術用カテーテル、
    医療用弾性ストッキング、コンタクトレンズ
  バイオツール
    DNAチップ
  アメニティ製品
    マイクロファイバークリーニングクロス(一般用、スキンケア、工業用)
    家庭用浄水器(トレビーノ)
  サービス

2011年4月からスタートさせた中期経営課題「プロジェクト AP-G 2013」では基本戦略1に「成長分野での事業拡大」を挙げているが、 ①環境・水・エネルギー、②情報・通信・エレクトロニクス、③自動車・航空機と並んで、④ライフサイエンスが入っている。

独自の先端技術を活かした研究開発のInnovationを推進することで、医薬・医療事業のさらなる拡大を目指している。

・「創薬型ビジネスモデル」の深化
・ 高付加価値医療材料の開発・上市
・ バイオとナノテクノロジーの融合による、革新的バイオツールの創出

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三井物産は消費者、医療機関、製薬企業のニーズに応えるべく、2008年にコンシューマーサービス事業本部にメディカル・ヘルスケア事業部を新設し、医療・健康関連のビジネスを集約した。

  「医薬バリューチェーン」

研究開発を含む製薬から流通・販売にいたるバリューチェーン全体を視野に、医薬品業界に対するソリューションプロバイダーとなることを目指す。

医薬品製造支援(CMO:Contract Manufacturing Organization)では40年以上にわたる事業経験を有し、医薬原料の供給等を通じ国内外の製薬企業との緊密な関係を築いている。

  「ヘルスケアサービスネットワーク」

医療、予防、介護の事業者間の相互連携を図り、国内では地域ごとに医療・予防・介護の各事業者間で連携を図る地域包括的なケアネットワークを構築、海外ではアジアを中心とするグローバルヘルスケアネットワークの構築をミッションとする。

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今回の出資参画を通じて、東レは日本マイクロバイオファームとの技術交流を深め、医薬品の新規開発や製造基盤の強化を図ると共に、同社の製品域の拡大を後押しする。

三井物産は、メディカル・ヘルスケア事業および化学品事業領域における経験とグローバルネットワークを生かし、 日本マイクロバイオファーム製品のグローバルシェアの拡大を目指す。

両社は、両社の経験・ノウハウを生かして日本マイクロバイオファームの強みをさらに引き出し、日本マイクロバイオファームでの協業を通じて、メディカル・ヘルスケア事業および化学品事業領域においてさらなる関係強化を推進する。

 

 

PetroChinaとSinopecは1月5日、財務部が石油採掘企業に対して課税する特別収益金(Windfall-tax) の課税下限を2011年11月から引き上げたことを明らかにした。

従来は石油価格が40ドル/バレル以上の場合に課税されていたが、これを55ドル/バレル以上に変更した。

原油価格高騰によりPetroChina、Sinopec、CNOOCが空前の高収益を上げているのに対して、国内産業は原料・燃料価格の高騰で収益を圧迫されていることを受け、中国政府は2006年3月26日から特別収益金(Windfall-tax) を徴収することを決めた。一般には暴利税と呼ばれた。

  特別収益金={(加重平均販売価格-40ドル)x 下記税率-下記控除額}x 販売数量

原油価格(US$/bbl) 40~45 45~50 50~55 55~60 60以上
税率  20%  25%  30%  35%  40%
控除額(US$)   0  0.25  0.75  1.50  2.50


2006/7/14 SINOPECの損益構造の変化

今回、以下の通り変更された。

特別収益金={(加重平均販売価格-55ドル)x 下記税率-控除額}x 販売数量

原油価格(US$/bbl) 55~60 60~65 65~70 70~75 75以上
税率  20%  25% 30% 35% 40%
控除額(US$) 0 0.25 0.75 1.50 2.50

  原油価格が1バレル100ドルの場合、特別収益金は15.5ドルとなる。(従来なら21.5ドル)

原油価格は2008年央から急落したが、最近は100ドルに近づいている。
PetroChinaなどは40ドルを超えれば暴利というのはおかしいとして、課税開始価格の引き上げを要請していた。 

Sinopec会長は昨年9月の国務院での会議で、1バレル50ドルでも低すぎるとし、Sinopecの国内の原油コストの平均は52ドルで、いくつかの油田のコストは70~75ドルにもなると述べた。

しかし、SinopecPetrochina2010年決算は、Refiningに関しては政府がインフレ抑圧のため値上げをしないよう強い圧力をかけているため減益となったが、開発部門は(「暴利税」を払っても)大増益となっている。

2011/4/8 SinopecPetrochina2010年決算 

今回、政府は課税の下限を37.5%引き上げたが、人民元はこの制度が導入された2006年3月以降、ドルに対して23%上昇しているため、実質的な引き上げ幅は小さい。

 

 

 

PetroChinaは1月3日、パートナーの持分を680百万カナダドルで買い取り、カナダのMacKay Riverオイルサンド権益を100%とした。

PetroChina は2009年8月、カナダのAthabasca Oil Sands Corp. との間で、Athabasca MacKay River 及び Dover オイルサンド計画の60%の権益19億カナダドルで取得する契約を締結した 。

2009/9/10  PetroChina、カナダのオイルサンド事業に参加

Athabasca Oil Sands は今回、MacKay River project の残り40%の権益を売却するオプションを行使した。

もう一つのDover oil sands projectにも同様のオプション条項があり、売却する場合の金額も13.2億カナダドルで決まっている。Athabasca はこれについても権利を行使するのではないかとみられている。

Athabascaは売却代金のうち、468百万カナダドルはPetroChinaからの借入金の返済に充て、残りを他のオイルサンドや軽質原油の開発に投じる。その一つとして自社単独のHangingstone oil sands開発を2014年に始める。

現在のところ、PetroChina が単独で事業を行うのか、他のパートナーを引き込むのかは明らかでない。これまでは進出したアジア各社は操業を現地のパートナーに任せている。

 

カナダ政府やカナダ企業は市場の拡大とより高い価格を求めて中国やアジア諸国との関係強化を図っている。

オイルサンド原油を西海岸に輸送し、アジアへの輸出することを狙った Enbridge Incの Northern Gateway pipeline計画(55億カナダドル)の公聴会が間もなく開かれる。(環境問題での反対が強く、実現には時間がかかる。)
 

  Northern Gateway は日量50万バレルの原油を輸送する計画。

アメリカのエネルギー会社Kinder Morganが運営する既存のTrans Mountain Pipelineは1953年に完成した。最初はVancouverまでで、その後、Seatle地区に伸びた。

オイルサンド原油の輸送のため、第二期計画(Edmonton--Burnaby)が計画されている。

 

ーーー

Sinopecと独立系石油会社Devon Energy は、SinopecがDevonの5つの新しいシェール鉱区の権利の1/3を22億ドルで取得する契約を締結した。1月3日に発表した。
Sinopecは他に、契約前の掘削費と、契約後の土地権益取得費用をDevonに支払う。

対象となるのは次の5つ。
  
Tuscaloosa Marine Shale 下の左図
  Niobrara 
◎印
  Mississippian:デボン紀後半~ミシシッピ紀(石炭紀)前半の地層 下の右図
  Ohio Utica Shale 
◎印
  
Michigan Basin 
◎印

Sinopecは契約発効時に現金で9億ドルを支払い、掘削費の形で16億ドルを支払う。
Sinopecは1エーカー当たり5500ドルを支払うこととなり、一般的な3000ドルよりはるかに高い。

本年中に125の井戸を掘削する予定。

Devonはオペレーターとなり、資金支出の責任を負う。またDevonは全製品を北米市場で販売する責任を負う。

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中国のPetroChina、Sinopec、中国海洋石油(CNOOC)は競って北米のシェールオイルやオイルサンド事業に参加している。

2005/4 中国海洋石油 カナダのオイルサンド開発企業・MEGエナジーの株式の16.69%を買収
2009/9/10 PetroChina、カナダのオイルサンド事業に参加 Athabasca Oil Sands
2005/6 SinopecNorthern Lightsにおけるオイルサンド事業の権益の40% をSynenco Energy から買収
2009年に50%にアップ
2010/4/16 Sinopec、カナダのオイルサンドに投資 ConocoPhillipsのオイルサンド事業会社 Syncrude Canada
2010/10/18 CNOOC、テキサス州のEagle Ford Shale projectに参加   Niobrara shaleを追加
2011/2/16 PetroChina、カナダの天然ガス権益取得
2011/7/22 中国海洋石油、カナダのオイルサンド企業を買収
今回 PetroChina、カナダのMacKay Riverオイルサンド権益を100%化
Devonは、Sinopec、Devon Energy の5つの新しいシェール鉱区の権利の1/3を取得

これには、事業参加によって技術を取得し、中国のシェール開発に役立てるという目的もある。

U.S. Energy Information Administration.によれば、中国のシェールの埋蔵量は通常の天然ガスの埋蔵量の12倍もあり、技術的に採掘可能な埋蔵量は米国のそれより50%も多い。

 

 

細野豪志・原発担当相は1月6日、運転開始から40年が経過した原発を原則として廃炉にする「40年運転制限制」を導入すると発表した。今年4月の法改正をめざす原子炉等規制法に盛り込む。延長申請があった場合には施設の老朽化や原子力事業者の技術能力を審査して例外的に認めるという。

付記 
政府は、運転期間が40年を超えた原子力発電所を原則廃炉にする法改正案について、環境相の認可を条件に最長20年、1回に限り延長を認める例外規定を設ける方針を決めた。

既に40年経過しているのが3炉(うち1炉は廃炉決定)、本年中に40年になるのが1炉ある。
上記を含め、10年内に40年になるのが合計54炉のうち19炉ある。(廃炉決定の福島第一の4炉を含む)

敦賀市の河瀬一治市長は2011年6月1日の定例記者会見で、運転開始後40年を超えている敦賀1号機をめぐり、福島の知見で高経年化(老朽化)などの影響があったと明らかになった場合には「早く廃炉に持っていくことも選択肢の一つ」と述べ、2016年としている運転終了の前倒しもあり得るとの考えを 示していた。

発電所名
運転開始 型式 40年まで
年数
能力
(万KW)
稼働中
(定検
  時期)
停止 廃炉
決定
1次
  評価
定期
検査
トラブル 震災 政府
要請
提出 確認
北海道電力
 泊
① 1989/6/22   PWR   57.9            
② 1991/4/12   PWR   57.9            
③ 2009/12/22  PWR   91.2   4月              
東北電力
 東通
① 2005/12/8  BWR(Mark-I 改)   110.0            
東北電力
 女川
① 1984/6/1   BWR(Mark-I)   52.4              
② 1995/7/28 BWR(Mark-I 改)   82.5              
③ 2002/1/30 BWR(Mark-I 改)   82.5              
東京電力
 福島第一
① 1971/3/26  BWR(Mark-I) 0 46.0            
② 1974/7/18  BWR(Mark-I) 2 78.4            
③ 1976/3/27  BWR(Mark-I) 4 78.4            
④ 1978/10/12 BWR(Mark-I) 6 78.4            
⑤ 1978/4/18 BWR(Mark-I) 6 78.4              
⑥ 1979/10/24 BWR(Mark-Ⅱ) 7 110.0              
東京電力
 福島第二
① 1982/4/20 BWR(Mark-Ⅱ)   110.0              
② 1984/2/3 BWR(Mark-Ⅱ改)   110.0              
③ 1985/6/21 BWR(Mark-Ⅱ改)   110.0              
④ 1987/8/25 BWR(Mark-Ⅱ改)   110.0              
日本原子力
 東海
② 1978/11/28 BWR 6 110.0              
東京電力
 柏崎刈羽
① 1985/9/18 BWR(Mark-Ⅱ)   110.0              
② 1990/9/28 BWR(Mark-Ⅱ改)   110.0              
③ 1993/8/11 BWR(Mark-Ⅱ改)   110.0              
④ 1994/8/11 BWR(Mark-Ⅱ改)   110.0              
⑤ 1990/4/10 BWR(Mark-Ⅱ改)   110.0   3月              
⑥ 1996/11/7 ABWR   135.6   4月              
⑦ 1997/7/2 ABWR   135.6              
中部電力
 浜岡
③ 1987/8/28 BWR(Mark-I 改)   110.0              
④ 1993/9/3 BWR(Mark-I 改)   113.7              
⑤ 2005/1/18 ABWR   138.0              
北陸電力
 志賀
① 1993/7/30 BWR(Mark-I改)   54.0              
② 2006/3/15 ABWR   135.8              
日本原子力
 敦賀
① 1970/3/14   BWR(Mark-I) 0 35.7              
② 1987/7/25  PWR   116.0            
関西電力
 美浜
① 1970/11/28  PWR 0 34.0              
② 1972/7/25  PWR 1> 50.0              
③ 1976/3/15  PWR 4 82.6            
関西電力
 大飯
① 1979/3/27  PWR 7 117.5              
② 1979/12/5  PWR 7 117.5              
③ 1991/12/18  PWR   118.0            
④ 1993/2/2  PWR   118.0            
関西電力
 高浜
① 1974/11/14  PWR 2 82.6              
② 1975/11/14  PWR 3 82.6              
③ 1985/1/17  PWR   87.0   2月              
④ 1985/6/5  PWR   87.0              
中国電力
 島根
① 1974/3/29 BWR(Mark-I) 2 46.0              
② 1989/2/10 BWR(Mark-I改)   82.0   1月              
四国電力
 伊方
① 1977/9/30  PWR 5 56.6              
② 1982/3/19  PWR   56.6  1月              
③ 1994/12/15  PWR   89.0            
九州電力
 玄海
① 1975/10/15  PWR 3
55.9              
② 1981/3/30  PWR 9
55.9            
③ 1994/3/18  PWR   118.0              
④ 1997/7/25  PWR   118.0              
九州電力
 川内
① 1984/7/4  PWR   89.0            
② 1985/11/28  PWR   89.0            
合計       54基 6基 29 3 14 2 (4) 11 0

     PWR:加圧水型、BWR:沸騰水型、ABWR(Advanced BWR)改良型沸騰水型
     BWRのうち、
格納容器がMark-1型は問題とされている。

なお、伊方2号は1月13日に定検入りする。4月には全炉が停止する。
一次評価は2011年12月28日現在で11基が提出されているが、全てが保安院で評価中の段階。

手続きは、保安院への提出→保安院評価→安全委員会への報告→委員会の確認→3大臣(経産、原発担当、官房長官)判断となるが、3大臣が稼働を承認しても、稼働には地方自治体の了承が必要となる。

西川・福井県知事は2011年12月28日、停止している原発の再稼働について、高経年化(老朽化)対策や地震、津波に対するさらなるチェックを加えた上で「慎重かつ十分な信頼感を持った対応を県として進める必要がある」と述べた。

中部電は高さ18メートルの防波壁の建設などを柱とする約1000億円の対策工事に着手し、2012年末までに完成させる予定。

しかし、川勝平太・静岡県知事は、「福島第一原発事故で(浜岡原発と同じ)沸騰水型は危ないというのが日本人の共通認識になった」として、中部電の津波対策が完了しても再稼働を認めない方針を初めて明言した。(2012/1/1 読売新聞)

浜岡原発3、4号機が福島第一原発
と同じ沸騰水型軽水炉(BWR-5改良標準型)、5号機がその改良型(ABWR)であることを問題視し、「津波対策ができても再稼働の話にはならない。事故を繰り返さないためにはパラダイム(思考の枠組み)を変えるしかない」と述べた。

福島第一の1号機~5号機 は沸騰水型で格納容器はいずれもMark-1(フラスコ型)、6号機は沸騰水型でMark-2(円錐型)

国際原子力機関(IAEA)閣僚級会議に出席した海江田経済産業相(当時)は2011年6月20日、ウィーンで会見し、東京電力福島第1原発1~5号機に使われている米GE開発の原子炉格納容器 MarkⅠについて、安全性の観点から、廃炉を含めた検討が今後の課題になるとの考えを示した。
  2011/7/12 原発の安全性基準に関する「政府統一見解」 

MarkⅠは上表で青字表示。
沸騰水型(BWR、ABWR)が全て問題とすると、54基のうち、30基にものぼる。

 

 

参考 沸騰水型原子炉 格納容器

ソース:原子力安全研究協会編:軽水炉発電所のあらまし



 

 

2011年12月、液晶ディスプレーの販売価格で国際カルテルを結んでいたとして、米国の消費者らが起こした集団訴訟で、シャープや韓国サムスン電子など日本・韓国・台湾の主要液晶メーカー7社が、総額538百万ドルの和解金の支払いで合意した。

12月初めには8社が液晶ディスプレーの直接需要家に対し、合計388百万ドルの和解金の支払いで合意している。

2008年に最初の3社が国際カルテルを認め、罰金支払いで司法省と合意して以来、日本・韓国・台湾の8社は司法省に罰金を払うほか、役員22人が起訴された(そのうち多くが禁固刑と罰金刑を受けた)。

これに加え、直接の需要家からの集団訴訟と、最終消費者を代表する各州からの集団訴訟で二重に和解金の支払いを余儀無くされた。

シャープの場合、合計で340.5百万ドルとなる。
韓国の
Samsung ElectronicsはLeniency制度により米国とEUの独禁法に基づく罰金は免除されたが、米国での民事訴訟では322.7百万ドルの和解金を払わされることとなった。

単位:百万ドル
       米 独禁法    直接需要家
('11/12/7)
消費者
('11/12/28)
時期     罰金
Samsung Electronics   Leniencyで免責   82.7 240.0
LG Display 2008/11 400  75 合意出来ず
Chunghwa Picture Tubes
中華映管(台湾)
65 金額不明 5.3
シャープ 120  105 115.5
日立ディスプレイズ 2009/3 31 金額不明 38.9
エプソンイメージング
デバイス
2009/8 26 金額不明 2.8
Chimei Innolux(CMI)
奇美電子(台湾)
2009/12 220 78 110.3
HannStar Display
瀚宇彩晶(台湾)
2010/6 30 金額不明  25.6
合計   892 388                    538
他に役員など22人起訴   他に
      罰金    14

 

付記

台湾のAU Optronics は4月に、韓国のLG Displayは5月1日に、それぞれ消費者との間で和解した。金額は非公開。

付記

シャープは7月9日、TFT液晶事業に関し、北米・欧州において提起されている損害賠償を求める民事訴訟のうち、Dell, Inc.ほか2社からの民事訴訟について、総額198.5百万米ドルの和解金で和解することに合意したと発表した。

同社は上記の通り、多額の和解金で和解したが、「カルテルに関する欧州委員会の調査が続いているほか、民事訴訟もまだ残っている」としている。

ーーー

米司法省は2008年11月、液晶パネルの販売を巡る国際価格カルテルで、3社が罪を認め、合計585百万ドルの罰金を支払うことに同意したと発表した。

韓国のLG Display と台湾のChunghwa Picture Tubes(中華映管)は、台湾・韓国・米国でTFT-LCD パネルの価格を協定した。
シャープ は、
DellAppleMotorola 向けのTFT-LCDパネルの価格を日米の他社と協定したとされる。

米司法省は2009年3月、日立製作所子会社のHitachi Displaysが関与していたことを認め、31百万ドルの罰金を支払うことに同意したと発表した。 Dell Inc 向けのTFT-LCDパネルが対象。

2009年8月、Epson Imaging DevicesがMotorolaの携帯電話向けで26百万ドルの罰金支払いで、2009年12月には台湾のChimeiが220百万ドルの罰金支払いで同意した。

2010年6月には台湾のHannStar Display(瀚宇彩晶)が30百万ドルの罰金支払いで同意し、罰金額は7社合計で 892百万ドルとなった。

なお、韓国のSamsung ElectronicsはLeniency制度で罰金を免除された。

シャーマン法では、罰則は法人の場合には1億ドル以下の罰金、自然人の場合には100 万ドル以下の罰金若しくは10 年以下の禁錮又はこれらの併科となっている。ただし、罰金額は、違反行為によって自らが得た利得の2倍の額又は違反行為によって被害者に与えた損害の2倍の額まで引き上げることができる。

また、各社の役員など22人が起訴された。

明細は不明だが、Chunghwa Picture Tubesの3人は禁固6~9か月で罰金2万~5万ドル、LGの1人は禁固7か月で罰金2.5万ドルとなっている。(両社とも、ほかにも起訴されている)

日立ディスプレイでも一人が起訴された。(判決はないため、日本在住のままの時効中断と思われる)

ーーー

液晶パネルカルテルに関しては、日本の公正取引委員会や、韓国、EUの当局も調査した。

公取委は2008年12月18日、任天堂の「ニンテンドーDS Lite」に用いられる液晶モジュールについて、シャープと日立ディスプレイズの2社が価格を統制したとして、両社に排除措置命令、シャープに2億6,107万円の課徴金の納付命令を出した。

公正取引委員会は2009年3月、両件について審判手続を開始した。
日立ディスプレイズから2009年9月25日、審判請求の取下げがあり、同社に対する排除措置命令は確定した。

シャープについては審判手続きが継続している。

EUは2010年12月、液晶表示装置パネルで価格カルテルを結んでいたとして、韓国・台湾のLCDパネルメーカー5社に対し、総額6億4890万ユーロの制裁金を科した。

  千ユーロ Leniency reduction
Samsung 0 100%
LG Display 215,000 50% and "partial immunity" for 2006
AU Optronics
友達光電(台湾)
116,800 20%
Chimei InnoLux 300,000  
Chunghwa Picture Tubes

9,025

5%
HannStar Display 8,100  
合計 648,925  

韓国公取委は2011年10月末、下記の液晶ディスプレイメーカー6社に対し、194 billion won(1億7600万ドル)の罰金を科した。

韓国 Samsung Electronics  97.2 billion won
LG Display  65.5 billion won
台湾 AU Optronics   金額不明  
Chimei Innolux   金額不明
Chunghwa Picture Tubes   金額不明
HannStar Display   金額不明
合計    194 billion won

ーーー

これに対し、AT&T、Nokia、Dell等、LCDパネルの需要家が相次いで訴訟を起こした。
米国独禁法上は
Samsung ElectronicsはLeniency制度で罰金が免除されたが、これは民事訴訟には関係なく、同社も訴えられた。

2011年12月初め、8社が直接需要家に対し、合計388百万ドルの和解金の支払いで合意した。

ーーー

これとは別に、2010年8月、NY州のクオモ司法長官は日本、韓国、台湾などの液晶ディスプレーパネルメーカー20社を、価格カルテルを組んでいたとしてニューヨーク郡の最高裁判所に訴えを起こした。

同司法長官は、多くの消費者が不当に高い価格で購入せざるを得なかったとし「消費者が違法に多く支払わされた分を取り返すために訴えを起こした」と述べた。

これに続き、多くの州が訴えを起こした。

これについて、 2011年12月末、シャープや韓国サムスン電子など日・韓・台の主要液晶メーカー7社が、総額538百万ドルの和解金の支払いで合意した。 7社のうち5社が計14百万ドル以上の罰金を支払うことでも合意した。

和解金のうち、37百万ドルは各州政府や公的機関などに払われ、残りの501百万ドルは1999年1月~2006年12月に対象商品を買った米国の24州とコロンビア特別区の消費者に返金される。各州は返金方法を後日通知するとしている。

なお、LG Displayは和解金の金額をめぐり主張の差が埋まらず、今後は金額の確定に向けた交渉を行うことになる。

 

 

イランはペルシャ湾のLavan島を、Bandar Imam KhomeiniのPetrochemical Special Economic Zone、AsaluyehのPars Special Economic Zoneに次ぐ第三の石油化学センターにする計画である。

 

National Iranian Offshore Oil Company (NIOOC)は2011年末にイランのSepehr Energy Co. との間で、次の4年半のうちにLavanガス田を開発し、Lavan島に大規模石油化学コンプレックスを建設する契約を締結した。

Sepehr Energy はイランのSaderat Bankの子会社で、イランのエネルギー関連計画の主要なコントラクターの1社。

NIOOCは12月28日、Lavanガス田に200億ドルの投資をする計画であることを発表した。

イランは当初、ポーランドのPolish Oil and Gas と組んでLavanガス田を開発し、LNGの形で販売する計画であったが、Sepehr Energyの熱意を入れ、200億ドルの石油化学センター建設を決めたとしている。
200億ドルは、ガス田の開発(3期)と石油化学計画を合わせたもの。

また、石油化学計画の実現のため、周辺のガス田(Reshadat、Belal、Resalat、Khayyamなど)のガスもこれに投入する。

Lavanガス田は2003年に発見された。
Lavanガス田は750百万立方フィートの天然ガス、11千bpd のコンデンセートの生産が期待されている。

Reshadatガス田は1969年に発見された。Lavan島の近くの7650フィートの海底にある。
Resalat ガス田はカタールのHalul island の近くで、130kmのパイプラインでLavanターミナルに接続されている。

Khayyam
 ガス田は2011年6月にAsaluyehの近くで発見された。


 

 

 

インド政府は2011年12月31日にサウジからの輸入PPに対するダンピング課税を終了させた。物品税関税中央局が12月30日に発表した。

インドは2009年2月24日にサウジとオマーン、シンガポールからの輸入PPについてアンチダンピング調査を開始、2010年11月にサウジのSABIC、National Industrialization Co.(Tasnee)、Saudi Advanced Petrochemicalの3社からの輸入PPに対し、6.5%のダンピング課税を行った。

中国商務部も2009年6月24日、サウジ、マレーシア、インドネシア、ニュージーランドの4カ国原産の輸入メタノールのダンピング調査を開始した。

これらに対し、サウジ政府は異常な程の反発を示し、両国に抗議を行った。

中国商務部は2010年10月25日、サウジについてはシロ、他の3国についてはクロの仮決定を行った。
サウジについては、政治的配慮を行ったとみられる。

3国については、12月23日にクロの最終決定を行い、ダンピング課税を発表したが、「特殊な事情により、国務院の委員会の承認を得て、追って通知するまで実施しない」との発表を行った。

2009/7/7 サウジが中国のメタノールのダンピング調査に反発

今回のインドの発表では理由は明らかにされていない。
サウジのPPメーカーのAdvanced Petrochemicalsは「12月20日に本件でインドで政府のヒアリングが予定されていたが、急遽、理由なしでキャンセルされた。上層部で事態が解決されたのは間違いない」としている。

インドの決定は、イランに対する国際的な禁輸措置がペルシャ湾岸諸国からの石油出荷を妨げるとの懸念の高まりからと見られている。
インドはこのため、サウジからの追加の石油・天然ガスの輸入を強く求めていた。

Saudi政府は昨年、本件でのインドとの交渉の担当を通商産業省から石油省に変更、副石油相のPrince Abdulaziz bin Salman Al Saudが交渉に当たってきた。

サウジが本件の担当を石油省に変更したのは、サウジ政府のメッセージと見られている。

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EUは2011年12月、SABICのPETに対するアンチダンピング調査とサウジ政府の補助金調査を取りやめた。

EUは2011年2月に、欧州のAssociation of Product Manufacturerからの要請で調査を開始したが、サウジ政府からの要請を受け入れた。EUの利益を害していないとみなした。

サウジ政府は石油化学産業を最も重要視しており、国王令を出してサウジの石油化学製品に対するアンチダンピング措置に対応するチームを編成した。石油鉱物資源省を中心に、外務省、通産省、財務省が加わる。これに経済企画省、水電力省やその他の省庁、国際コンサルタント会社などが支援し、EUと交渉した。

 

付記

トルコ政府は2010年5月、サウジ(SABIC)とクウェート、ブルガリア原産の輸入MEGに対し、ダンピング課税を行った。

サウジ政府によると、トルコ政府はEUとインドがサウジに対するダンピング課税を止めたのを受け、SABICに対する課税を見直すことに同意した。

 

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付記

サウジはアジアへの投資拡大を狙っており、インド企業とのJVを望んでいる。インド側もサウジの投資を希望している。

1月3日、サウジのTawfiq Al-Rabiah通商産業相を団長とし、有力30社のトップを含む50人の代表団がNew Delhiに到着した。3日間にわたり、投資と貿易の協力関係強化と重要セクターでのJV設立に向け協議を行う。

Chevron Phillips Chemical は12月24日、テキサス州のメキシコ湾岸で大規模エタンクラッカーと誘導品設備を建設する計画のFSが完了したと発表した。

同社は本年3月に、シェールガス開発で得られる有利な原料を利用する計画のFS実施を進めることを発表していた。

テキサス州BaytownのCedar Bayou工場が新しいエチレンプラントの建設場所となる。年産150万トンのエタンクラッカーで、Shaw Energy and Chemicals の技術を使用する。設計契約を締結している。

更に自社技術を使用して2基のポリエチレンプラントを建設する。能力はそれぞれ年産50万トン、合計100万トンで、Cedar Bayou工場か、テキサス州Old Ocean市のSweeny facility工場の近くかに建設される。最終建設場所は2012年第1四半期に決める。

温室効果ガスや排気などの環境関連の申請は年内に行う。

本計画の完成時期は2017年となっている。

Chevron Phillipsでは、シェールガスが米国の化学業界に与える有利な立場を活用していきたいとしている。

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Chevron Phillips Chemical は2000年にPhillip Petroleum のオレフィン、ポリマー、芳香族事業とChevronの同事業と統合し、50/50のJVとして設立された。
(Phillips Petroleumの本体は2002年にConocoと合併し、ConocoPhillipsとなっている。)

Chevron Phillips Chemical はサウジのSaudi Industrial Investment Group との50/50JVを3つ持っている。

Chevron Phillips Chemicalは12月7日、Saudi Polymers Company(エチレン1,165千トンのコンプレックス)の建設完了を発表した。商業生産は2012年第1四半期の予定。

2008/1/25 Chevron Phillipsのサウジ石化事業

Chevron Phillips Chemicalは住友化学とのポリプロピレンのJVのPhillips Sumika Polypropylene の工場を永久停止することを決めたが、Saudi Polymers Companyの製造するPPを米国で販売する。

また、カタールではQatar Petroleum とのJVのQ-Chemを持つ。

2006/6/1 湾岸諸国の石油化学ー2 カタール

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既報の通りLyondellBasellは低コストのエタンを利用してエチレンの増設を計画している。

2011/12/20   LyondellBasellの成長戦略

Shellは6月に、Appalachia地方でエチレンクラッカーと誘導品プラントの建設を検討していることを明らかにした。
豊富なMarcellus Shaleガスからのエタンを原料とする。

2011/6/14 Shell、アパラチア地方でエチレンクラッカー建設へ 

Dowも4月エチレンとプロピレンの能力増強を発表したが、Marcellusや南テキサスのEagle Ford などのシェールガスから価格面で競争力のあるエタンとプロパンを確保する目処がついたとしている。

2011/4/26 ダウ、エチレンとプロピレンの拡張計画を発表 
 

 

 

石化の不振を受け、日本の化学メーカーは液晶材料やリチウムイオン二次電池用材料等のハイテク材料分野に注力している。

これについて2006年3月のハイテク材料バブル説」のなかで、下記の通り述べた。

ハイテク材料は以下の問題を内包している。

・化学以外の他の業界からも殺到するため、過当競争となる。

・需要分野の進展が急で、新製品・新製法の開発により折角投資した材料の需要が急になくなる可能性がある。

・供給先が競争に敗れ撤退する可能性(他社に供給できればよいが・・・)

・新製法等での競合材料の出現

・需要家自体が材料分野に進出する可能性

・需要自体がバブルである可能性 (光ファイバーの例)

最先端を走っていた液晶材料が早くも問題に直面している。

日本の大型液晶パネルメーカーは韓国、台湾勢に押され、各社とも生産を縮小している。
加えて2012年以降、
中国企業が建設中の大型パネル工場も相次いで稼働するため、世界の液晶パネルは2012年に約1600万台の供給過剰になると言われる。

既に、液晶パネルで世界の上位4位を占めるSamsung、LG、友達、奇美の4社が本年7~9月期に赤字となった。

パナソニックは茂原工場を売却、約3千億円を投資し2010年1月に稼働した姫路の最新プラントも一部は中小型パネルに切り替える。シャープも亀山工場をモバイル向けを中心に転換する。

2011/10/31 液晶パネル事業の現状と課題

更に、パナソニックは2012年前半にも姫路工場に有機ELパネルの製造設備を導入する方針を固めた。
(有機ELについてはソニーが2007年末に世界で初めて11型テレビを発売したが、2010年に国内向け販売を終えた。)

韓国のサムスン電子は有機ELテレビ市場に来年後半までに参入する方針で、まず55型などの大型テレビから投入し市場の動向を見極める。LG電子も55型の同テレビを同時期に発売する予定。

付記 LD Display は12月26日、有機ELパネルでTV用の55型を開発したと発表した。
        LG電子が2012年後半に有機ELテレビを発売する。

中小型液晶パネル事業については官民ファンドの産業革新機構が70%、東芝・日立・ソニーが各10%出資して「ジャパンディスプレイ」を設立するが、ソニーは業務用の有機ELパネル事業のうち中小型品の生産を同社に移管する。

付記
ジャパンディスプレイは2012年4月に発足した。
有機ELパネルについて日立製作所から取得した茂原工場に試験設備を設けて研究を進めており、12年度中にも製品のサンプルを通信機器メーカーなどに出荷し、2013年度にもスマートフォン向けの量産を始める。

有機ELの権威、山形大学の城戸淳二教授はブログ「大学教授のぶっちゃけ話」で以下の通り述べている。

ジャパンディスプレイといい、パナソニックといい、日本勢が有機ELで反撃開始です。
でも、これで一番困るのは液晶メーカー。
これまでサムスン1社で中小型有機ELを供給してたけど、これで需要と供給のバランスがあって、セットメーカーは液晶にサヨナラできる。 
液晶一本足打法だとパネルメーカーの寿命はあと5年、と見た。 

住友化学など液晶材料メーカーは競争による値下がりで大きな影響を受けているが、今後、需要そのものの減退→消失で先の見込みがなくなることとなる。 

三井金属は液晶パネル用のフィルム基板「チップ・オン・フィルム」で一時は世界で4割のシェアを誇ったが、12月22日、2013年3月末までにこの事業から撤退すると発表した。国内2位だった日立電線も3月に撤退済み。


リチウムイオン二次電池用材料については需要はこれからさらに増えることは確実で、 三菱化学など各社は争って原料の増設を行っている。

経産省などは10月に「2011年版ものづくり白書」を発表したが、その中にリチウムイオン電池の状況がある。

2004年と2008年における日系企業の世界シェアを比較すると、最終製品については、特にシリンダ型電池、リチウムイオンポリマー二次電池における低下が目立っている。これは、韓国・中国企業の躍進によるところが大きい。

一方、部素材においては、負極材、セパレータ、バインダー等、2008年においても80%を超えるシェアを維持しているものも多い。 

しかし、ヒアリングの結果によると、至近では部素材分野でも韓国・中国企業等のシェアが拡大し、日本製品のシェアは下降傾向にある。その背景としては、大規模集中投資や品目の絞り込みによるコスト競争力の強化を通じた、韓国・中国製最終製品の世界シェア拡大を指摘する声が聞かれた。

リチウムイオン二次電池用材料での懸念はこの韓国・中国製最終製品の世界シェア拡大である。

日本の化学業界は材料から入っている。多くの企業が相次いで参入し、競っている。

これに対し、韓国のLG化学は、材料ではなく気自動車用バッテリー分野で世界1位となり、韓国の現代・起亜車と電気自動車メーカーのCT&T、米国のGMと自動車用部品メーカーのEaton Corporation、中国の長安汽車、スウェーデンのボルボの6社と電気自動車用バッテリー供給契約を結んだ。

更に、LGとGMは8月25日、LGによるGMへのバッテリー供給での協力関係を拡大し、電気自動車を共同で開発すると発表した。
   
2011/8/29 韓国LG、GMと電気自動車の共同開発へ 

二次電池用材料については上記の通り日本が抑えているが、韓国政府は2010年に、二次電池(充電式電池)を次世代の基幹産業に育てる2020年までの長期計画をまとめ、材料についても日本を追撃する態勢を整えている。
    
2010/7/15 韓国、「二次電池の競争力強化に向けた統合ロードマップ」を確定

LG自身、二次電池用材料への上流進出を匂わせている。

現在では、特殊なノウハウを握ることで技術を抑えるのは難しく、韓国や中国が日本に追随するのは時間の問題である。
最終製品で日本企業のシェアが低落するなかで、最終製品を支配するLGなどが材料に遡れば、日本の材料メーカーは早晩、苦しい立場に追いやられることとなる。

伊丹敬之・東京理科大学教授は、産業の中心科学が物理学から化学へとシフトしており、多くの化学素材が様々な消費財や産業財の中で、必須の部分として使われ、産業が化学化しつつあるとするが、同時に、イノベーションを担うのが化学企業となるかどうかは別の問題であると指摘している。

多数のメーカーが流行を追って進出し競合するのではなく、LGのような戦略思考が必要であろう。

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今年、新しい本が出版された。

   

化学産業の時代
日本はなぜ世界を追い抜けるのか

橘川武郎(一橋大学大学院商学研究科教授)
平野 創(成城大学経済学部専任講師)/共著

 

 

日本の化学会社の各事業を分析、①事業規模の拡大、②サプライチェーンの中での「主導権の確保」による高付加価値化の果実の収益化が必要であるとし、以下のとおり結論づけている。

日本の化学メーカーが採用しうる高収益シナリオは、
① 特定の高機能品事業に集中する「特定機能化学」、
② エチレン製造設備を擁しながら軸足を高機能事業に移す「総合機能化学」、
③ 特定の汎用品事業をグローバルに展開する「グローバル汎用化学」、
④ エチレン製造事業をグローバルに展開する「グローバル総合化学」、
の4つに分けることができる。 

日本の化学産業が次のリーディング・インダストリーとなるためには、ハイエンド市場(高付加価値化の果実の収益化)とローエンド市場(事業規模の拡大)とを同時に攻略する2正面作戦の展開が必要不可欠で、2正面作戦を展開し、2つの課題を同時に達成することができれば、日本の化学産業は、次のリーディング・インダストリーとなり、世界を追い抜くことができる。

 

実際の日本の化学産業はリーディング・インダストリーとなるには難しい状況にある。

まず、高付加価値化が高収益につながらないことである。

上の液晶材料や二次電池用材料にみられるように、高付加価値製品を多くの企業が競って供給するだけで、サプライチェーンの中での「主導権の確保」には至らず、暫くすると韓国・台湾・中国に追い上げられることとなる。

①の特定機能化学の成功例にはニッチ狙い(競争者が少ない)が多いが、成功すれば新規進出のおそれが出てくる。

二次電池でのLGのように、サプライチェーンの中での主導権を確保する「戦略」が必要である。

日本の化学業界で数少ない成功例は炭素繊維である。

PAN系炭素繊維では東レ、東邦テナックス、三菱レイヨンの3社がそれぞれ日・米・欧に拠点を持ち、世界市場の75%を押さえている。

1970年代に釣竿やゴルフシャフトから始め、当初参入した多くの欧米の企業が1990年代に相次いで撤退する中、長年にわたり開発を続け、飛行機や自動車 用に採用されるに至った。

全日空が今秋、世界で初めて就航させた米ボーイングの新型中型旅客機「787」は炭素繊維複合材料を全体重量の50%に用い、従来機「767」に比べて20%軽くし、燃費と航続距離の向上、CO2の排出削減につなげた。
東レのプリプレグだけがボーイングの1次構造認定を取得しており、東レがプリプレグを全量供給する。

自動車では帝人がコンポジット製品を1分以内で成形する量産技術を確立し、GMと組んで、量産車向けの開発を行う。

東レも炭素繊維複合材料 (CFRP)の革新的成形技術である「ハイサイクルRTM成形技術」を活用し、ダイムラーAGとCFRP製自動車部品を製造・販売する合弁会社を設立した。

三菱レイヨンもドイツの炭素繊維メーカーのSGL TechnologiesとJVを設立し、BMW向けの炭素繊維のプレカーサーの供給を行っている。

2011/12/15 自動車向け炭素繊維複合材料の開発が進展

長年にわたる技術の積み重ねと、日米欧に製造拠点を持つ供給体制で、サプライチェーンの中での「主導権の確保」を行っており、他社が追い付くのには時間がかかるであろう。

 

次に、②の軸足を高機能事業に移す「総合機能化学」の基礎であるエチレン製造設備が、このままでは破綻しかねない。

三菱など総合化学大手5社の石油化学部門の業績が急減速している。欧州債務危機を機に世界景気の減速懸念が強まるなか、石化製品の市況は大幅に悪化した。業界ではエチレンの11年生産量は16年ぶりの低水準にとどまるとみられており、設備再編の圧力が高まりそうだ。(12/13 日本経済新聞)

ベースのエチレンセンターが破綻すれば、総合機能化学はあり得ない。

国内エチレン生産は500万トンまで縮小するのが明らかなのに、能力は800万トンのままである。

この問題はこれまで何度も述べてきた。(過去の「回顧と展望」)

石油化学に関しては、日本の現状は世界の動きと異にしている。筆者は「ガラパゴス鎖国」論として述べた。

三菱化学では2015年の国内エチレン生産は500万トンまで縮小、その後も更なる縮小を懸念しており、エチレンや汎用品事業を再編・再構築事業としている。

しかし、水島のエチレンの対応は、旭化成との折半出資の西日本エチレン有限責任事業組合で両社のエチレンを統合するが、どちらのエチレンも止めず、単に減産体制をとるだけである。

出光興産と三井化学の「千葉ケミカル製造有限責任事業組合」も同様である。

欧米の大企業なら、今後成長の見込みがないなら、早急にその事業を止め、経営資源を他の事業に向けるであろう。
三菱化学によると、海外での説明会で、どうして石油化学をやめないのかとの質問を受けたという。

仮に事業を縮小しながらも継続するなら、(水島や千葉のケースなら)、どちらかの設備を廃棄して残りをフル稼働し、もし不足があれば購入すればよい。

実際には、どちらも自社の設備の廃棄に応じず、一時は交渉が破綻しかけたとされる。

上記の「ものづくり白書」では、これが「グローバル競争に向けた再編」として取り上げられ、「事業統合により、最適な生産体制・効率的な事業運営の実現を目指す」と誇らしげに書いている。

有限責任事業組合(LLP)制度
2005年8月に創立されたが、それ以前に実質的に同様な運営は株式会社または有限会社で実施されている。
産構法後の石化増設に当たり、大規模設備をつくる必要から、数社が生産枠を持ち寄ってJVとして建設し、原価基準、生産枠によるTake or Pay 方式で運営した。エチレン30万トン時代の輪番投資も同様である。
(いずれも需要増大に合わせ、JVを解消した。)
これらの場合は、個別に需要に合わせた小規模設備を建設するのと異なり、全く合理的なものである。

しかし、縮小均衡のための統合でありながら、設備を廃棄しないのであれば、少々のコストダウンが出来るだけで、「最適な生産体制・効率的な事業運営の実現」とは言えず、「グローバル競争に向けた」抜本的な解決にはならない。

三菱化学はPP(日本ポリプロ)では、鹿島にチッソ気相法による300千トンの最新鋭プラントを建設し、同能力の老朽スラリープラントを停止した。

しかし、PEの日本ポリエチレンもPPの日本ポリプロについても、いずれも4社の5工場を抱えたままで、なかには小規模のプラントもある。

合理的に考えれば、事業の統合を行う場合、S&Bを通して最適体制(例えば東西2工場など)をつくるのがよい。
しかし、三菱化学は両JVに50%以上を出資する支配株主であるが、他社のコンプレックス内にあるプラントを自由に処分できない。

現在の体制は、参加各社の設備を守るということを前提にしているように思われる。
結果的には、三菱化学によるPE、PPの大統合が、各社のエチレンの存続を保証する形になっている。

恐らくは、PEやPPの停止がエチレンの停止につながり、そのコンビナートが立ち行かなくなるからであろう。上記の水島の例も同様である。

その背後には、日本では従業員を簡単に解雇することが出来ず、他の事業への転用も難しいことがある。

他のコンビナートも同様である。

丸善石油化学のコンビナートの場合、旭硝子は早くに千葉の電解とVCM(京葉モノマー)を止め、鹿島の電解に集中したいとの意向を表明した。
宇部興産も千葉のPEを停止する意向を示した。

しかし、丸善石油化学がこれに反対し、京葉モノマー(丸善石化も株主)は存続させ、PEについては丸善石化とのJVの宇部丸善ポリエチレンとして存続させた。

コンビナートの維持が最適体制確立に優先し、しかも、それを当然のこととして誰も問題視しないのは、まさにガラパゴス鎖国といえる。(海外の石化の状況と異なるだけではなく、大胆な改革を行っている国内の他の業界とも異なる。)

このままでは、エチレンの需要が激減しても、エチレンの能力は変わらないままで、各社が共倒れになりかねない。

なお、住友化学の戦略はかなり合理的である。

同社のエチレンは1基415千トンだけである。エチレン需要増大を受け、(自社での増設ではなく)1995年に丸善石油化学のつくった京葉エチレンに三井化学とともに参加し、25%の引取権を得た。
合わせて1998年に千葉塩ビモノマーを停止し、原料エチレンを高採算品にまわした。
(PVCからは2001年に撤退、プラントは残して、トクヤマの新第一塩ビから製造受託している。)

PE、PPについては当初は他社とのJVの千葉ポリエチレン、千葉ポリプロで増設したが、需要増大に伴い、JVを解散し、自社設備とした。(見返りに設立した宇部ポリプロはその後、停止した。)

早くも1984年にシンガポールのエチレンコンプレックスが稼働、1997年に2期計画が稼働した。

その後サウジに進出、PetroRabighが2009年に稼働を開始した。
現在Aramcoとの間で、多くの新規誘導品を含めた第2期計画の検討を行っている。

同社はエチレンや誘導品の国内での規模にこだわらず、自社の枠内で最適化を図るとともに、海外で規模を拡大し、研究開発費の負担を軽減している。


日本のエチレンの需要が減少しても、依然として石化製品の需要はあり、石油化学事業はなくならない。機能製品の開発は常に日本が先行しており、国内での生産は必須である。

生産体制の改革が出来れば、2正面作戦により次のリーディング・インダストリーとなりうる可能性はある。


 

 

元Dow AgroSciencesの研究者のKexue Huang(黄科学)は12月21日、経済スパイ法(Economic Espionage Act)違反で 7年3か月の禁固刑の判決を受けた。 

黄科学は中国で生まれ、米国の永住権を持つカナダ国民で、吉林農業大学で生物学を専攻し、日本で博士号を取得した後、Texas A&M University、Rice Universityで研究生活を送り、2003-08年にDow AgroSciencesに勤務し、殺虫剤の開発に従事した。

2008年にバイオ技術者としてCargill に移った。

Dow AgroSciences時代に秘密情報を少なくとも2人に流した。そのうちの一人は湖南師範大学の研究者。

Cargill でも同社の秘密情報(新しい食品の製造のための主材料)を盗んだことを認めている。

 

付記

2012年1月12日、元Dowの研究員であったWen Chyu Liu (刘文秋:通称 David W. Liou) がDowの塩素化塩ビの秘密を盗み、中国企業に売った罪でルイジアナ州Baton Rougeの連邦地裁で禁固5年の判決を受けた。

1965年から1992年までDowに勤務していた。

ーーー

同様の事件はこれまでに多数起こっており、DuPontでは元社員二人が有罪になっている。

2007年に中国生まれで、後に米国の市民権を取得したGary Min(闵盖里)が同社の最も有名な製品(複数)についての推定4億ドルの価値のある情報をデータベースから盗み、懲役18ヶ月の判決を受けた。

2009年にはDuPont は同社の有機ELに関する企業秘密を盗んで母校の北京大学に持ち帰ろうとした中国生まれの研究員Hong Meng (孟鸿)を解雇した。孟鸿は有罪を認め、2010年10月に禁固14か月となった。

2009/9/12 DuPont、産業スパイを摘発

 

 

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