「no」と一致するもの

サウジの紅海側の Rabighの近くのKing Abdullah Economic CityのKing Abdullah Port (第1期)が1月1日に開港し、 Petro Rabigh は1月5日、ここからポリオレフィンのコンテナー54個をシンガポールに向けて初出荷した。

Petro Rabighでは、工場の近くから出荷できることで輸送費が節減できること、世界市場に速く届けられること、これまで使用していたJeddah Islamic Port の混雑を避けられることなどの利点を挙げている。

King Abdullah Port はサウジの最も新しい港湾施設で、 Jeddah北方100kmにあるKing Abdullah Economic City (KAEC) 建設中である。

港湾地区は広さ約1500万m2で、全て完成した時の能力は2000万TEU(20フィートコンテナ単位)、世界最大のコンテナー船が停泊できる18mの深さのバースを30以上備える。

建設運営・管理を担当するのは私企業のPorts Development Companyで、2010年に建築複合企業の Saudi Binladin Group とKAECの開発を担当する開発業者のEmaar, the Economic City のJVとして設立された。サウジで唯一の私企業が所有運営する港湾施設である。

全て完成した時点で、紅海の主要港湾で世界の十大港湾の一つに入ること、世界で最も利用されるコンテナー輸送ルートの一つにおける主要積み替えハブになること、アジアと欧州を結ぶことを狙っている。


King Abdullah Economic City (KAEC)は2005年にサウジ国王が設立を発表したメガプロジェクトで、173 km² の土地に産業地区、港湾、居住地区、海浜リゾート、教育地区、ビジネス地区が建設されつつある。
教育地区にはKing Abdllah University of Science and Technology (KAUST) がある。

巡礼高速鉄道(Haramain High-Speed Railway)はメディナとメッカの444kmを2時間で結ぶ建設中の高速鉄道で、途中、ジッダ中央、ジッダ空港、KAEC駅がある。2014年開業予定。

 

   



Shellは2014年1月2日、RepsolのTrinidad & TobagoとPeruのLNG事業の買収を完了したと発表した。

買収金額は41億ドルで、他にLNG船のチャーターに係わる16億ドルの債務を引き受ける。

買収により、Shellが直接取り扱うLNGの数量は年間720万トン増え、LNG船の能力を飛躍的に増やす。
(能力持分の増加は420万トンで、Shellの全世界の能力持分は22百万トンから26百万トンに約20%増加する。)

一方でShellは本年に石油部門での売却を進める。
2013年11月にPeter Voser CEOはShell が
"a divestment phase"に入ったと述べた。2014年にも300億ドル (180億英ポンド) もの資産を売却するとしているが、背景には、精製マージンの低下やナイジェリアの石油窃盗で、純利益が大幅に減少したことがある。

売却候補は豪州のWoodside Petroleum (24%)の70億ドル、ナイジェリアの石油資産の20億ドル、その他の200億ドルと噂されている。

外資系企業にとって、ナイジェリアの最も大きな懸案事項は窃盗で、昨年の夏に、パイプラインから盗難された石油量は1日あたり190万バレルであった。同国における石油産出量は、4年連続で低下した。

Shellは、ナイジェリアの「運用上の課題」の影響で、第2四半期に2億5,000米ドルの損失があったことを明らかにした。「運用上の課題」とは、石油泥棒や当局による天然ガス輸出封鎖の影響である。

ーーー

今回買収する事業の概要は以下の通り。

1)Atlantic LNG Company of Trinidad and Tobagoの持分

同社は1995年に設立された。
Trinidad and Tobagoの周辺の天然ガスをパイプラインで 南西端のPoint Fortinに運び、4系列の液化設備でLNGにする。

4系列合計の能力は年間 1480万トン。


同社の出資比率、製品引取比率は下記の通り。

  出資比率 引取比率
Train 1 Train 2,  Train 3 Train 4
BP (AMOCO) 34% 34% 42.5% 37.78%
BG 26% 26% 32.5% 28.89%
Repsol 20% 20% 25% 22.22%
NGC 10% 10% 11.11%
Summer Soca LNG Liquefaction 10% 10%
能力   300万トン 330万トンx2 520万トン


NGCはTrinidad and Tobagoの権益を代表する国営の National Gas Company。
Summer Socaは中国のChinese Investment Corporationの子会社で、フランスのSuezから権益を買収した。当初の株主はCabot 。
 

2)Peru LNG の持分と引取契約

本プロジェクトはペルーの首都リマから南へ約170kmの太平洋沿岸Pampa Melchorita地区で天然ガスを液化、輸出するもので、原料となる天然ガスはペルー内陸部にあるカミセア・ガス田から供給される。

生産能力は年間445万トンで、Repsol は2010年のLNG生産開始から18年にわたり、LNG生産量の全量を購入する契約を締結している。

世界のLNG供給源の中で唯一南米地域に位置する本プロジェクトは、北中米西海岸に最も近く、極東地域にもアクセスが可能という地理的特性を持ち、今後も引き続き市場拡大が期待される環太平洋地域に競争力のあるLNGを供給できるというメリットがある。

同社の出資比率、製品引取比率は下記の通り。

  出資比率 引取
Hunt Oil 50%  
SK Energy 20%  
Repsol 20% 100%
丸紅 10%  


丸紅
は2007年8月にSKエナジーが保有する持分30%のうち10%分を購入した。

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Shell は全世界でLNG計画に参加している。

  能力 参加者
Pluto, Australia 480万トン  Woodside(Shellが24%出資)90%  
東京ガス 5%、関西電力 5%
North West Shelf Venture, Australia 1,590万トン BHP Billiton、BP、ChevronTexaco、Shell、Woodside Energy、Japan Australia LNG(三井物産/三菱商事)の6社が均等出資
Brunei LNG 671万トン ブルネイ政府 50%、Shell 25%、三菱商事 25%
Malaysia LNG 2,300万トン Malaysia LNG PETRONAS(90%)、サラワク州政府(5%)、三菱商事 (5%)
Malaysia LNG Dua PETRONAS(60%)、Shell(15%)、サラワク州政府(10%)、三菱商事 (15%)
Malaysia LNG Tiga PETRONAS(60%)、Shell(15%)、サラワク州政府(10%)、JX(10%)、Diamond Gas(5%)
* Diamond Gas は三菱商事80%、石油資源開発20%のJV
Nigeria LNG 2,200万トン Nigerian National Petroleum Corporation 49%, Shell 25.6%, Total 15%、Eni  10.4%.
Oman LNG 660万トン Oman政府 51%、Shell 30%、Total 5.54%、Korea Gas 5%、Partex (Oman) 2%、三菱商事 2.77%、三井物産 2.77%、伊藤忠 0.92%
Qatargas 4 780万トン Qatar Petroleum 70%、Shell  30%
Sakhalin 2 1,000万トン Shell 27.5%-1株、Gazprom 50%+1株、三井物産 12.5%、三菱商事 10%
Hazira, India
 再ガス化
  Shell 74%、Total 26%.
Altamira, Mexico
 再ガス化
  Shell 50%、Total 25%、三井物産 25%

 

* Shell は "a divestment phase"に入ったとし、2014年にも$30bn (£18bn) もの資産を売却するとしているが、売却候補にWoodsideが入っている。


 
2012年5月16日、シェルカナダ、韓国ガス公社(Kogas)、中国石油天然気(PetroChina)と三菱商事はLNG輸出計画「LNG Canada」構想を発表した。

4社でカナダのブリティッシュ・コロンビア州 Kitimat港周辺においてLNG輸出基地を共同開発する。

2012/5/17  Shell、三菱商事等の「LNG Canada」計画 

Shellは2013年1月28日、米国のエネルギー会社 Kinder MorganとのJVを設立して、ジョージア州Savannahの近くのKinder Morgan子会社のEl Paso Pipeline の既存のElba Island LNG Terminalに 2段階で天然ガス液化プラントを建設すると発表した。

2013/1/30 Shell、LNG輸出用の天然ガス液化プラント建設 

 



Sinopec Engineering Group は2013年12月26日、 Zhong Tian He Chuang(中天合創)が内蒙古自治区オルドス市のUxin地区で計画しているCoal-to-Chemical プロジェクトの設計・調達・建設(EPC) 契約に調印した。

計画では、石炭ガス化により年産360万トンのメタノールを生産、MTOでオレフィン 120万トンを生産、更に副生C4~C6を接触分解してプロピレン等を生産、最終的にPEとPPを生産する。

総投資額は186.7億元(約31億ドル)で、引渡しは2015年10月30日となっている。

これまでで最大のCoal-to-Chemical プロジェクトである。

中天合創は、Sinopecが38.75%、国営の石炭生産大手の中国中煤能源(China Coal Energy) が38.75%出資するJVで、他に上海申能(Shenergy)が12.5%、內蒙古滿世煤炭が10%出資する。

当初は、2010年の生産開始を目指して、年産2,500万トンの石炭を採掘し、420万トンのメタノール、300万トンのDMEを生産することを計画していたが、DMEの市場性がないと判断し、MTOに切り替えた。


今回のEPC契約には下記プラントが含まれる。

石炭ガス化、精製  
メタノール 360万トン
MTO(オレフィン) 180万トン のメタノール処理施設x2系列  120万トンのエチレン、プロピレン
オレフィン接触分解 MTOで副生するC4~C6 20万トンを分解 約16万トンのプロピレン
MTBE/ブテン-1 1万トン/3万トン
PP(バルク法ループ型) 35万トン
PP(気相法 35万トン(PP 合計 70万トン)
LDPE(オートクレーブ) 12万トン
LDPE(チューブラー) 25万トン
LLDPE気相法 30万トン(PE 合計 67万トン)

Sinopec Engineeringは自社のMTO技術(SMTO)を使用する。

SMTO(Sinopec MTO)プロセスはシノペック上海石油精製研究(SRIPT)、シノペックエンジニアリング、シノペック北京燕山石化により共同で開発された。

2007 年に燕山石化が日産100トンのパイロットプラントを建設、2008年にメタノール投入ベースで年産180万トンのS-MTOプロセスの技術パッケージが完成した。

誘導品のうち、ガス法PP(35万トン)については、2012年2月にINEOSがInnovene PP processをライセンスしている。
ホモポリマー、ランダムコポリマー、インパクトコンポリマーを含むフルラインのPPを製造する。

ーーー

中国では石炭からのオレフィン製造("Coal to Olefins")が盛んで、多くのプロジェクトが進行している。
2011年11月時点で、
20件以上のCoal -to-olefins が建設中か検討段階にあった。

2011/10/26  中国の"Coal to Olefins"の現状

神華包頭石炭化学は2010年7月初め、内蒙古自治区の包頭で年産180万トンの石炭ベースのメタノールの生産を開始した。
同社はこの
180万トンのメタノールから、エチレン30万トン、プロピレン30万トンを、これから30万トンのポリエチレンと30万トンのポリプロピレンを生産する。

オレフィン製造には中国科学院大連化学物理研究所(DICP-CAS)とSINOPEC Luoyang Engineeringが開発したDMTO 技術を採用した。

これは現在稼動中の唯一のMTOによるエチレンである。

2010/7/23 神華包頭石炭化学、秋に中国最初の石炭からのポリオレフィン生産をスタート



ダウと神華集団は2009年11月3日、陜西省楡林市で大規模石炭化学JVの起工式を行った。

投資額は約100億米ドルで、陜西省楡林市に石炭と岩塩を原料とし、石炭化学・クロルアルカリ技術を使った23のプラントが建設される。

主な製品は以下の通り。(年産能力)

 メタノール 332万トン(Coal to Methanol)
 オレフィン 122万トン(Methanol to Olefins)
 クロルアルカリ 50万トン
 MEG  40万トン
 エタノールアミン/エチレンアミン 21万トン
 ポリエーテル ポリオール 34万トン
 アクリル酸 15万トン
 アクリレート 20万トン
 EDC  51万トン
 PVC  50万トン

2009/11/10 ダウと神華集団、陜西省で大規模石炭化学JVの起工式 




 

イラクで2つの石油化学計画が検討されている。
一つはShellの計画で、もう一つは韓国のHanwha Chemicalによるものである。

1)Shell

Shellは2012年4月にイラクでの石化コンプレックス建設に関するFS実施の覚書を締結した。
2013年11月12日にShellのCEOのPeter VoserがBaghdadでイラク首相と会談した。
近く、石化計画実施の覚書が締結されるとみられている。

構想では南部イラクに110億ドルを投じて石化コンプレックスを建設する。
Nebras計画
(アラビア語で "beacon of light")と呼ばれ、エタンクラッキングでエチレンを製造する。

ーーー

ShellはイラクでMajnoon油田の開発を行っている。

イラクの石油第二次入札で落札、2010年1月にShell(60%)とPetronas(40%)が20年間の契約を締結した。
国営石油会社Missan Oil が開発に加わり、Shell がオペレーターとなっている。

Shellはまた、三菱商事と組んで、イラク南部での油田ガス回収事業を行っている。

イラク内閣は2010年6月に計画を承認した。
Basra Gas Companyを設立、イラクが51%出資し、シェルが44%、三菱商事が5%出資した。

所要資金は120億ドル(将来170億ドルまで増える可能性あり)で、イラク南部の4つの巨大油田ー RumailaZubairWest Qurna Phase 1Majnoon油田ーでそのまま燃やされている付随ガスを回収、当初はイラクの電力不足解消のため発電に使用、将来は液化設備をつくり、最大日量6億立方フィートの輸出を行う。

2010/7/6 シェルと三菱商事、イラク南部で油田ガス回収事業

2)Hanwha Chemical

韓国のHanwha Chemicalは12月19日、イラク産業省次官との間で、40億ドルを投資し、イラク南部にエチレン生産設備や石油化学製品生産工場などを建設する計画の合弁事業意向書を締結した。

今後、イラク政府と具体的に事業性を検討する。

低コストの原料をほかに先駆けて確保し、原価競争力を得ようという戦略。

ーーー

イラン・イラク戦争(1980-88)前にはイラクには2つの石油化学計画があった。

Petrochemical-1 (PC-1)、PC-2と呼ばれ、いずれも国営石油化学企業 State Enterprise for Petrochemicalsが所有、運営するものであった。

PC-1はペルシャ湾近くのKhor Al-Zubair(Basrahの南方)にあり、1970年代後半にLummus と Thyssen Rheinstahが建設した。
PC-2はバグダッド南部のMusayibにあり、イラン・イラク戦争で建設が中断、
1988年の戦争終結で建設を再開した。

1991年にイラクはクウエートに侵攻して湾岸戦争を起こした。PC-1、PC-2 ともに爆撃を受け、大きな被害を受けた。
PC-2は2003年のイラク戦争の後、停止したままとなっている。

現在、PC-1はBasrah petrochemical complex と呼ばれ、State Company For Petrochemical Industries(SCPI)が運営している。
実際の稼働状況は不明だが、公称能力は以下の通り。

Plant Licensor 能力 千トン
エチレン Lummus 132
HDPE Phillips 30
LDPE Equistar 60
VCM Stuffer 66
PVC Stuffer 60
液塩/苛性ソーダ Oxytch/Zarmba 42/84


原料はRumaila油田からパイプラインで受け入れる。
LDPEの農業用フィルムも生産している。






東芝はこのたび、スペイン大手電力会社Iberdrola S.A.から、英原子力発電事業会社NewGeneration(NuGen)の株式50%を取得することで合意した。Iberdrolaが23日に発表した。取得価格は8500万ポンド(約140億円) 。


NuGen は仏エネルギー大手GDF Suez とIberdrola の50/50JVで、英中部Sellafieldで合計出力360万キロワットの原発建設を予定している。Iberdrola はスコットランドのScottish Powerを所有する。

2010年11月にGDF Suez、Iberdrola、Scottish and Southern Energy が夫々37.5%、37.5%、25%出資のJVを設立したが、2011年9月にScottish and Southern が撤退し、両社の50/50JVとなった。

しかし、Iberdrola が2012年に、事業再編と債務削減を進めるためにNuGenの保有株を売却する意向を明らかにしたことで、プロジェクトは頓挫していた。

東芝は子会社Westinghouse Electric の原発設備をNuGen に納入することを狙い、同社への出資を検討していた。

原発設備を納入した後に経営権を売却することを想定しているとされている。

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日立製作所は2012年10月30日、英国で原子力発電所の建設を計画している原発事業会社Horizon Nuclear Power の全株式を、同社株主のドイツのエネルギー会社 No.1のE.ON及びNo.2のRWEから6億7000万ポンド(約850億円)で買収する契約を締結した。

Horizon
が保有する北ウエールズのAnglesey島のWylfaとSouth GloucestershireのOldburyの2カ所で、1,300メガワット級の原子力発電設備をそれぞれ2~3基建設する予定で、日立が世界で唯一運転実績を持つ第三世代原子炉である改良型沸騰水型原子炉(ABWR)技術を用いる。

2012/11/1  日立製作所、英の原発会社買収

ーーー

英国では19基の原発が稼働しているが、英国政府は2009年11月に原発拡大策を発表した。
10か所に原発を新設し、2025年までに全電力の25%を原発で賄う計画(当時は全電力の13%)。

  稼働中 廃止 政府案
Berkeley    2基   
Bradwell    2基 
Calder Hall    4基   
Chapelcross    4基   
Dounreay DFR   2基   
Dungeness  2基   2基   
Hartlepool  2基   
Heysham  4基   
Hinkley Point  2基   2基 
Hunterston  2基   2基   
Oldbury  2基   
Sizewell  1基   2基 
Torness  2基     
Trawsfynydo    2基   
Windscale    1基   
Winfrith SGHWR    1基   
Wylfa  2基   
Braystones    
Sellafield    
Kirksanton    
合計  19基   26基   
 

しかし、福島事故で原発の安全確保のためのコストが見直された結果、2012年以降、ドイツ、英国の企業が原発計画から撤退した。

ドイツのE.ONとRWEは2009年にHorizon Nuclear Power を設立し、英国西部の2カ所に建設用地を購入、原子炉6基(発電容量計6ギガワット以上)の建設を計画していた。
2012年3月に
原発建設計画を断念し、共同出資会社を売却する方針を発表した。(→ 日立が買収)

下記のEDFのHinkley PointとSizewell の計画に英国のCentricaが2008年に20%の出資を決めたが、その後、福島事故による新しい安全対策などのさまざまな理由でコストが跳ね上がり、撤退を決めた。これにより英国企業は全て新規計画から撤退した。


英国政府はこのたび、原発推進のため自然エネルギーの普及に使われている「固定価格買取制度」を原発に導入した。

英国では、再生可能エネルギー、原子力、CCS付火力など低炭素電源へシフトする政策を掲げているが、現行の卸電力取引制度(BETTA)は、このような政策を前提に策定されたものではなく、強力な施策が導入されない限り、開発コストが高いこれら電源は市場から締め出されることになる。

そのため、英国政府は2011年7月、これらの電源の支援を目的とした電力市場改革(EMR: Electricity Market Reform)に着手した。
現行の卸電力取引制度の枠組みはそのまま残すものの、卸電力市場に低炭素電源を導入する強いインセンティブを組み込むべく、以下の4つの施策の導入を掲げている。
これらの制度は2013年以降、順次導入されることになっている。

CO2排出権価格の下限値の設定:火力発電事業者が購入しなければならない排出権の価格を一定以上に保つことで、低炭素電源を相対的に優位に立たせる制度
低炭素電源からの固定価格買取制度の導入:再生可能エネルギーの他、原子力やCCS付火力なども対象とする方針
新設火力のCO2排出基準の設定:石炭火力に対するCCS設置を実質義務化するもの。
キャパシティーペイメント制度の導入:再生可能エネルギーの大量導入によって、設備利用率の低下から投資不足が懸念される一般電源を確保する制度(設備に対する報酬制度)
   
  http://www.jepic.or.jp/data/ele/ele_05.html

ーーー

フランスのEDF と英国政府は2013年10月、2基の原発リアクターの建設で合意した。
英国での原発新設は1995年完成したSizewell B 原発以来となる。2023年の運転開始を目指す。

総額160億英ポンド(うち建設費は140億英ポンド)を投じて、Hinkley Pointに欧州加圧水型原子炉(EPR) 2基(総出力320万kW)を建設する。
これに続いて、Sizewell に2基のEPRの建設を進める。
同型のものを建設することで、設計、購入、建設における経費節減を図る。("series benefit")


運営体制としては、機器メーカーのAREVA、提携している中国の中国広核集団(CGN:旧称中国広東核電集団)と核工業集団公司 (CNNC) に加え、他社の参加を交渉している。

EDF Group 45-50%
AREVA 10%
CGN & CNNC 30-40%
その他(15%までの参加を認める)


広核集団はこれを海外原発事業への進出の足掛かりにしようとしている。
同社は
Horizon 買収にも名乗りを上げた。
英国政府は安全保障上、懸念を示しており、Horizon では
少数株主持ち分しか取得できないと主張し、最終的には日立製作所が取得した。

英国政府とEDFは今回、原子力発電での電力の固定価格買取価格(35年間)について、下記の通り合意した。

Sizewell での建設を決める場合 £89.50/MWh(約14.1円/kWh)
Hinkley Point単独の場合        £92.50/MWh(約14.6円/kWh)

 これは現在の卸価格の約2倍になる。

英国の自然エネルギーの固定費買取価格は以下の通り。(いずれも 2014年)

・陸上風力   £100/MWh
・洋上風力    £155/MWh
・潮力・波浪   £305/MWh 
・バイオマス   £105/MWh
・太陽光   £125/MWh

原発に固定費買取価格制度を適用することに対する反対は強い。

反原発団体 Stop Hinkley は、「原発の固定価格は、現在の市場価格の約2倍と高い。原発にこの制度を導入するのは、事実上の補助金にあたる」と言う。

Hinkley原発での固定価格は、ほかの自然エネルギーより安いが、買い取り期間が通常15~20年程度の自然エネルギーに比べて、35年とかなり長い のも問題とされる。

これが、競争を阻害する「国家による補助」を禁じるEUの法律に違反しないか、調査が進められる。

これらの批判に対しては、「世界的なエネルギー需要の高まりで化石燃料が高騰するので、今は市場価格の2倍でも将来的には元が取れる」、「原発は60年使うからその6割を保証するだけで、自然エネルギーも運転期間25年に対し15年だから、変わりない」との反論がなされている。

 

英国の電力価格は、2005年を100として、2012年までに1.7倍、2000年と比較すると2倍以上に高騰しているという。 今後、どこまで上がるのだろうか。

ーーー

米国では、シェールガスの生産増加の影響で天然ガス価格が低くとどまり、発電コストの競争力が低下したことや安全性や信頼性向上のために多額の費用がかかることなどを理由に、既存の原発を停止したり、新設を中止するケースが出ている。(他の問題も絡むが。)

2013/9/2 米・電力大手Entergy、Vermont Yankee原発の廃炉を決定


英国での今回の原発電力の買取価格の高さは驚きである。

まともに対策を取れば、こんな価格でないとやれないのであろうか。



2012年6月に三菱化学が鹿島事業所の基礎石油化学事業の構造改革を発表したが、本年に入り、住友化学が2月に千葉のエチレン停止を発表、8月には旭化成ケミカルズと三菱化学が水島地区の両社のエチレンセンターの集約について合意したと発表、日本の石油化学業界もようやく動き出した。

1) 三菱化学(鹿島) 第1エチレン及び第1ベンゼンの停止(2014年5月の定期修理時に実施)

三菱化学は2012年6月11日、鹿島事業所の基礎石油化学事業の構造改革を発表した。

生産能力(非定修年、千トン/年)
    現 在 停止後 増減
エチレン 1E 390 0 -390
2E 490 540 +50
880 540 -340
ベンゼン 1Bz 90 0 -90
2Bz 180 180 0
270 180 -90


なお、日本ポリエチレンと日本ポリプロは、川崎(旧 東燃化学)の1系列ずつを2014年4月に停止すると発表した。

日本ポリエチレン HDPE 5.2万トン/年
日本ポリプロ    PP      8.9万トン/年

2012/6/27 三菱化学、鹿島事業所における基礎石油化学事業の構造改革

2) 住友化学(千葉) エチレン停止と京葉エチレン改組(2015年9月)、日本オキシラン停止(2015年5月)

住友化学は2月1日、国内石油化学事業の拠点の千葉工場の競争力強化のため、2015年9月(次の定修時期 )までに、エチレン製造設備を停止すると発表した。

    現状
  千トン
2015年
  千トン
 

住友化学

千葉

415 0 合計能力607→( 384+α)
京葉エチレン 住友化学 千葉 192 384+α
三井化学 192 0 三井離脱
丸善石化 384 384-α  

丸善石油化学

千葉

525 525  

丸善石化は、エチレンの引き取り枠については「当社分(50%)が減り、住友化学の引き取り枠(25%)が増えることで、より稼働率が改善する体制を目指すのが基本姿勢」との認識を示した。

2013/2/4 住友化学、エチレン国内生産から撤退 

住友化学は、2015年9月のエチレン停止までに千葉の不採算事業の縮小も進めるとしたが、11月27日に、日本オキシランのSM(年産425千トン)、PO(181千トン)、PG(100千トン)を2015年5月をめどに停止すると発表した。

2013/11/29  住友化学、エチレン停止に合わせ日本オキシランのSM、PO、PGを2015年に停止 

3) 水島のエチレン集約

旭化成ケミカルズと三菱化学は8月2日、西日本エチレン有限責任事業組合として運営している水島地区の両社のエチレンセンター(いずれもエチレン能力 50万トン/年:非定期修理年)の集約について合意したと発表した。

2014年2月に正式発表する予定で、2016年春からスタートする。

いずれかのエチレンを止めるが、誘導品については両社ともかなりの処理をすると思われる。

2013/8/5   水島地区エチレンセンター集約へ 

以上の結果、エチレンとスチレンモノマーの状況は以下の通りとなる。

 エチレン 

工場別能力一覧表 定修スキップ年   単位:千トン/年
会社名 工場 2001年 2012/12/末 変更後  

三菱化学

鹿島1

410 390 0 2014年停止

鹿島2

491 490 540  
四日市 270 - - 2001/1 停止
水島 496 494 494
 -250

西日本エチレン
  有限責任事業組合

2016年春
 いずれかを全停止
 

(1,667) (1,374) (1,034)
旭化成 水島 504 504 504
*   -250
三井化学 500 500 500  
千葉 612 612 612

千葉ケミカル製造
有限責任事業組合
 

(京葉) (192) (192) (  0)
(1,304) (1,304) (1,112)
出光興産 千葉 413 413 413
徳山 498 688 688  
(911) (1,101) (1,101)  

住友化学

千葉

415 415 0 2015年停止
(京葉) (192) (192) (384)  
(再計) (607) (607) (384)  

丸善石油化学

千葉

525 525 525  
(京葉) (384) (384) (384)
(再計) (909) (909) (909)

京葉エチレン

丸善石化

千葉

384 384 384  
住友化学 192 192 384
三井離脱
三井化学 192 192 0
合計 (768) (768) (768)  

東燃化学

川崎

515 540 540 Exxon 少数株主に
日本ユニカー100%化

JX日鉱日石エネルギー

川崎

443 443 443  

東ソー

四日市

527 527 527  

昭和電工

大分

635 691 691  

合計

8,022 8,000 6,745  


西日本エチレン有限責任事業組合の集約は、どちらを止めるか未定のため、三菱化学・旭化成各250千トンの減で表示した。

 SM 

2011年3月に三菱化学(鹿島)、2012年に電気化学(千葉)が停止、千葉スチレンモノマーが改組している。

会社名 工場 2012/12   変更後 備考

旭化成

水島 

678

678

2004/2 330千トンプラント稼動
2007 125千トン停止

出光興産

千葉

210

210

徳山

340

340

合計

(550)

(550)

(新日鐵化学)

大分

0 0

2011/8 SM事業をNSスチレンモノマーに移管

NSスチレンモノマー 大分 422 422 新日鉄化学51%/昭和電工49%

(電気化学工業)

千葉

0

0

2012 停止 240千トン

千葉スチレンモノマー

千葉

270

270

電気化学60%/住友化学40%
2012/4 住友化学離脱

日本オキシラン

千葉

412

 0

住友化学60%/ライオンデル・ケミカル40%
PO併産  2015年停止

太陽石油化学

宇部

335

335

04/1/1 三井化学から譲受け

(三菱化学)

鹿島

0

0

2011/3 停止 371,000トン

合計

 2,667

 2,255

 


ーーー

エチレン能力は現状の800万トンが675万トンに、SMは一時の340万トンが225万トンに減少する。

これはグラフで見られるように、エチレン製品(エチレン換算)とSMの内輸込みの数量である。

輸出は多くの場合、操業度維持のための赤字輸出である。また、サウジなどでは今後、高加価値製品の生産が始まり、米国では安価なシェールガスを利用した生産も始まるため、日本からの輸出は減少する。

日本の石油化学が生き残るためには更なる設備廃棄が必要であるが、出来るであろうか。


水島の三菱化学と旭化成の西日本エチレン有限責任事業組合はエチレンプラントの集約を決めるが、千葉の三井化学と出光興産の千葉ケミカル製造有限責任事業組合の場合は、エチレン集約を行わないと思われる。
三井化学が京葉エチレンから脱退し、これまでの引取義務 192千トンを住友化学に譲り、実能力が減るためである。

あまり報じられていないが、週間ダイヤモンド(2013年2月14日)によると、三井化学は住友化学と丸善石油化学に対し、 千葉地区の4社(3社プラス出光興産)のエチレンの大統合の提案をしていたという。最新鋭プラントである京葉エチレンを停止するのが条件で、これが通らなければ京葉エチレンから離脱するとした。

住友化学と丸善石油化学がこれを断り、現在の形になったとしている。

その他の企業についてもなかなか難しい。

これまで何度も述べてきたが、日本で設備処理が柔軟に出来ないのは雇用問題があるからである。
日本では他国のように人員整理が簡単には出来ない。

東洋酸素事件の東京高裁判決(1979)では整理解雇の要件は以下の通り。
  ・事業部門を閉鎖することが企業の合理的運営上やむを得ない場合であること
  ・従業員を他の事業部門の同一又は類似職種に充当する余地がないこと
  ・具体的な解雇対象者の選定が客観的、合理的な基準に基づくものであること
  その後の判例では「労働組合との協議」が条件に加えられた。

具体的には、このままでは倒産もありうるというような状況でないと、解雇が認められない。

新規事業で多人数を使う事業は少なく、停止するエチレンと誘導品の人員を、他の業務に回すのは容易ではない。

過去にエチレンを止めたのは三菱化学の四日市だけであり、今回も 他部門にひろく展開する三菱化学と住友化学及び旭化成である。

住友化学の場合、千葉工場の従業員約1000人のうちの4分の1程度を他工場に配置転換するが、他社ではなかなか難しい。
石油会社の場合は、本業の石油精製設備のスクラップも進める必要があり、こちらでの人員吸収は難しい。


住友化学の場合は、今後、バルク製品はサウジで展開し、シンガポールを高付加価値製品の供給拠点とし、千葉工場はマザー工場として、生産技術・製品・ノウハウの発信拠点としても活用していく という絵を描いており、不採算の誘導品は大胆に停止する。

三菱化学も同様に、不採算の誘導品の処理を進め、高付加価値化を進めている。

他社も早く手を打たないと、ジリ貧になる可能性がある。




第二次安倍内閣がスタートして1年が経過した。
2013年3月には黒田東彦氏が日銀総裁に就任、デフレ経済を克服するために2%のインフレターゲットを設定し、無制限の量的緩和を行っている。

アベノミクスは「三本の矢」を基本方針としている。
  (1) 大胆な金融政策
 (2) 機動的な財政政策
 (3) 成長戦略

安倍内閣の発足後、円は急落、現在は100円を越えている。

 

日銀の黒田東彦総裁は就任記者会見で、2%の物価上昇率目標の達成へ「量的、質的両面から大胆な金融緩和を進める」とし、目標の達成期限は「2年程度を念頭に置く 」とし、「達成まで、あらゆる手段を講じる」と強調した。
(この2%は食料とエネルギー価格を除くコアコアCPIであり、当然消費税アップの影響は除くと明言している。)

総合物価指数(2010年=100)は、昨年12月が99.3であったのが、本年10月には100.7になった。
生鮮食品を除いても(コアCPI)、99.4から100.7になっている。

 

付記 2013年11月はそれぞれ、100.8、100.7、98.7であった。

果たしてアベノミクスは成功し、2年後にデフレを脱却するであろうか。

私見ではアベノミクスは失敗である。以下に理由を述べる。

ーーー

アベノミクスの基本的な誤りは、安倍首相の「デフレは貨幣現象である」という考えである。

安倍首相は2013年2月7日の衆議院予算委員会で、民主党の前原誠司委員の「人口が減少するなかで、構造問題を解決しないとデフレは脱却できないのではないか」との質問に対し、「人口減少とデフレを結びつける考え方を私はとらない。デフレは貨幣現象であり、金融政策で変えられる。人口が減少している国はあるが、デフレになっている国はほとんどない」と答えた。

白川前総裁は2012年11月12日に「物価安定のもとでの持続的成長に向けて」という講演で、全く異なる意見を述べた。

日本でも、高齢化や女性の社会進出、価値観の多様化などによって、新しいタイプの需要が潜在的にはどんどん生まれていると考えられます。例えば、医療・福祉産業では、高齢化により潜在需要が急拡大しているにもかかわらず、各種の規制や現場の人手不足などから、需要に見合うサービスが提供できていないとの声が多く聞かれています。また最近注目が集まっている高齢者の消費についても、所得、健康状態、嗜好の違いなどから若年層の消費よりも個別性が強く、供給者サイドの工夫如何でさらに拡大する余地があることが指摘されています。

いずれにせよ、こうした未充足の需要、すなわち成長分野における「供給不足」は、需給ギャップにカウントされていません。
本来「需給のミスマッチ」と認識すべき部分まで、「需要不足」という形で示されているということです。

持続的に需給ギャップを改善していくためには、潜在需要を顕在化させるように、経済の変化に合わせて供給構造を作り変えていくことが必要です。

2013/1/5 日銀総裁の変心?


アベノミクスは「三本の矢」を基本方針とするが、デフレは貨幣現象であり、金融政策で変えられる」との考えから(1)の「大胆な金融政策 」がメインである。
(2)の「機動的な財政政策」は当面の対策であり、(3)の「成長戦略」はデフレ対策とは別である。

6月5日に安倍首相は成長戦略の第3弾を発表し、以下の通り述べた。

規制改革こそ成長戦略の一丁目一番地です。時には国論を二分するようなこともあるでしょう。TPP交渉の参加を決定したときもそうでした。しかし、私は成長のために必要であれば、どのような岩盤にもひるむことなく、立ち向かっていく覚悟です。
本日、規制改革会議から答申を頂きました。その主な成果を紹介しましょう。
インターネットによる一般医薬品の販売を解禁します。ネットでの取引がこれだけ定着した時代で、対面でもネットでもとにかく消費者の安全性と利便性を高めるというアプローチが筋です。消費者の安全性を確保しつつ、しっかりしたルールの下で、全ての一般医薬品の販売を解禁致します。

実際には、「成長戦略の一丁目一番地」の岩盤規制の切り崩しは、利益団体と官僚の抵抗に会い、全く進まない。
TPPへの交渉参加や、コメの生産調整(減反)の廃止方針などを評価する声も聞かれるが、鳴り物入りで打ち出した「国家戦略特区」や医療分野など他の「岩盤規制」に切り込み不足であり、首相の指導力が見えない。
首相が明言した「インターネットによる一般医薬品の販売を解禁」も、条件付となった。

池田信夫ブログは「日本には超効率的な輸出産業と規制だらけの国内産業の二つの経済があるが、アベノミクスはその構造を変えないで格差を拡大しただけだ」としている。

日銀の黒田東彦総裁も11月21日の記者会見で、「なかんずく第3の矢といわれている成長戦略が非常に重要」と切り出し、「成長力を底上げするための成長戦略の実行を加速し、強化することが極めて重要だ」と訴えた。


以下に示すように、デフレは貨幣現象であり、金融政策で変えられる」というのは誤りである。
規制緩和による成長戦略がなければ、デフレは解消しない。

白川前総裁の言うように、「潜在需要を顕在化させるための供給構造の作り変え」が必要であり、そのためには、首相が前面にたって、利益団体と官僚組織に立ち向かい、規制緩和をすることが必要である。

安倍首相にその認識と対応する決意がないことがアベノミクスが失敗するとみる理由である。

以下は現状についての認識。

1) 為替レート

政府と日銀が、デフレ経済を克服するために2%のインフレターゲットを設定し、無制限の量的緩和 を行うと表明すれば、トレーダーが円を売るのは当然であり、円安はその結果である。

財界は円高を日本経済の六重苦(円高、高い法人税率、自由貿易協定への対応の遅れ、労働規制、環境規制、電力不足)の筆頭に挙げ、是正を要請していたが、現在の100円を超える水準は日本経済全体にとってはマイナスである。
(2013年1月の日経の景気討論会で東芝の岡村正相談役は、1ドル85~90円が望ましく、それ以上になると原料や電力料がアップし、大変であると述べた)

日本の10月の貿易統計によると、貿易収支は1兆907億円の赤字で、貿易赤字は16カ月連続で、1979年以降で最長を更新した。
輸入の方が輸出より多いため、円安は全体としては不利であり、特に家計にとっては (今後は消費税アップも加わり) 影響が大きい。

後述するが、総合物価指数はアップしているが、実態はエネルギー価格が円安でアップしているためである。

輸出産業にとっては円安は大きな恩恵であり、輸出製品の採算は向上している。
しかし、輸出数量は増えていない。赤字輸出が黒字になり、企業採算が向上しただけである。

円安を利用してドル建て価格を下げて輸出数量を増やし、生産増や投資に結びついて初めてデフレ解消に役立つが、そうはなっていない。
ほんの一部を除き、現在の輸出品には国際競争力がないためである。
化学製品の場合、円安が続いても、新規投資を行うことはない。

 

2) 金融緩和

毎日新聞の「安倍政権1年」で伊東光晴氏のインタビューが載っている。(2013年12月9日 夕刊)


現実はどうか。「マネタリーベース」を見ろと伊東さんは言う。
市中に流通するお金と、各銀行が日銀に開設する当座預金口座残高との合計がマネタリーベースだ。
日銀のデータでは、アベノミクスが始まった4月末のマネタリーベースは155兆円。このうち当座預金残高は66兆円、流通するお金は89兆円。
11月末はマネタリーベースは191兆円、当座預金残高は102兆円に膨らむ一方、流通するお金は89兆円と同じ。
つまりアベノミクスで市中に出たお金は、銀行に眠ったままなのだ。

「どうしてって? 当たり前でしょう。消費も企業活動も低調で、新たな融資先などあるはずがない。経済学の常識だよ」。怒声に近い。
「要するに安倍内閣はこの1年、何もしていないんだよ。国民の不安を高めただけ」。

ーーー

もともと、企業の内部留保は280兆円あるとされる。

金がないから投資しないのなら金融緩和が有効であるが、顕在化している需要が少ないために使えない金が豊富にあるのに金融緩和しても意味がない。

これを見ても、デフレは貨幣現象であり、金融政策で変えられる」というのは誤りである ことが分かる。

白川前総裁の言うように、潜在需要を顕在化させるように、経済の変化に合わせて供給構造を作り変えていくことが必要で、そのためには規制緩和が必要である。

3) 物価

総合物価指数(2010年=100)は、昨年12月が99.3であったのが、本年10月には100.7になった。
生鮮食品を除いても(コアCPI)、99.4から100.7になっている。

しかし、食料(酒類を除く)とエネルギーを除外したコアコアCPIは昨年12月が98.0であったのが、本年10月は98.8で、ほとんど変わっていない。

付記 2013年11月はそれぞれ、100.8、100.7、98.7であった。

総合物価指数の上昇のほとんどは円安によるエネルギー価格の上昇によるものである。
ほかには、消費増税の駆け込み需要などで需要が高まっている建材などが指数を押し上げた。

今後も消費増税の駆け込み需要は増えると思われるが、家電のエコポイント終了後の家電価格の大幅下落のように、デフレ脱却とは無関係である。

ーーー

なお、エネルギー価格の上昇には原発停止の影響も含まれる。

経産省は2013年4月に、原発停止の影響による燃料費増が、大半の原発が停止した2012年度が2010年度比で3.1兆円の増で、2013年度は3.8兆円に上るとの試算を発表した。(原発停止論に対する反論には必ず、この「3.8兆円の負担増」が使われている。)

これについて、河野太郎氏のブログ「ごまめの歯ぎしり」は、「経産省の嘘」(2013/11/20)で以下の通り述べている。

これ(2012年度の3.1兆円)は嘘だった。

経産省は、2008年度から2010年度の原子力発電電力量の平均2748億kWhから、泊3号機と大飯3、4号機の156億kWhを除いた電力量、2592億kWhを火力発電で代替したと仮定した。
その火力発電の内訳を石炭153億kWh、石油1206億kWh、LNG 1234億kWhとして経産省が計算したのが3.1兆円という数字だ。

しかし、実際には、節電や省エネルギーへの取り組みが進んだこともあり、火力発電の焚き増しは1827億kWhに過ぎず、経産省の計算の前提よりも現実は766億kWhも焚き増しは少なくて済んでいる。

現実の焚き増しによる燃料費の増加は2.1兆円にとどまる。(LNG価格上昇分を除くと、1.4~1.6兆円となる。)

経産省は、2013年度の原発停止による燃料費の焚き増しは3.8兆円にも上るとしているが、その数字も信憑性が低いと言わざるを得ない。

4) 株価

2012年11月からの株高は、円安と同時に始まったもので、ほとんど円ドル相場と連動しており、外人投資家によって日本株が買われているだけである。日本の経済が活況になることによって株価が上がっているのではない。

東京証券取引所によると、2012年11月第2週からの1年間で、外国人の累計買越額は12兆7500億円になった。
12カ月ベースでは過去最高で、この間に日経平均株価が7割近く上昇するけん引役になった。

投機マネーが日本に流れ込むか、それとも出ていくかだけの違いであり、円安になればアメリカのヘッジファンドが日本株を買いあさり、逆に円高になれば売りとばし、暴落することとなる。

5) 賃上げ

政府は産業界に賃上げを要請している。

しかし、 円安の恩恵を受けているのは極く一部であり、逆にデフレ解消が全く進まず、円安によるエネルギーや輸入原料価格アップを転嫁できず苦しむ中小企業は多い。

また、日本では、このままでは倒産もありうるというような状況でないと、解雇が認められないため、社内失業者が多い。
日本の労働者人口は6200万人で失業者は300万人程度、失業率は4%台とされるが、「社内失業者」が推定で他に600万人もいると言われている。

既存の事業の先行きが不明なまま、社内失業者を抱えたままで、賃上げを行うのは難しい。

規制緩和で供給構造を変え、低迷事業では解雇を認め、新しい分野に人を移すということをやらない限り、賃上げは難しいだろう。

ーーー

安倍首相が、デフレを解消し、アベノミクスを成功例として歴史に残したいならば、指導力を発揮して「抵抗勢力」を排除し、規制緩和を断行すべきである。

しばらくは選挙もないため、集票組織に気を使う必要もない。
また、経済立て直しに成功すれば、国民の支持は間違いなく、集票組織に頼る必要もなくなる。

「正当な理由」なしに規制緩和に反対する役人は昇進させなければよい。
「表情や口臭などを通じて患者の状況を把握」することが必要というのは、ネット販売否定の「正当な理由」ではない。


ーーー

日本の石油化学についても同じことが言える。

石油化学製品の需給構造は10年も前から変わりつつある。

日本の石油化学製品の需要は減少しつつあり、最大の需要国である中国は自給体制を整えた。
原料が安い中東諸国は供給能力を増やし、更に、日本企業の存在価値があった付加価値の高い製品の生産を始めた。
加えて、米国の安いシェールガスを利用し、多数の企業が米国での新規投資を開始している。

伊丹敬之教授は、70年代以降日本の産業に「エレクトロニクス化」が起こったように、化学以外の産業でも生産プロセスと製品の根幹部分に、化学反応や化学素材が必須の部分として使われるようになるとし、日本のイノベー ションと国際競争力を担うのは「化学」となるとする。
また、多くの産業の環境維持努力のプロセスも「産業の化学化」をもたらす。
産業の中心科学がエレクトロニクスを代表とする物理学から化学へとシフトする。

   http://www.csj.jp/kaimu/ronsetsu/ronsetsu0902.pdf

ただし、教授は、そのイノベーションを担うのが化学企業となるかどうかは別の問題であるとしている。

減少しつつある需要に対する供給構造を、新しい時代に対応した体制に早く変える必要がある。






Ineosは12月20日、労働組合との紛争が続いていたスコットランドのGrangemouthの石油精製・石油化学コンプレックスで、1350人の労働者のほとんど全てが新しい年金制度にサインし、新しい労働条件を受け入れたと発表した。


Ineosは、Grangemouth石化事業は毎月10百万ポンド(約15億円)以上の損失を出しており、年金の赤字は200百万ポンド(約310億円)に達するうえ、
North Sea pipelineで供給を受けている北海の石化原料が減少しており、このままでは原料が枯渇し、遅くとも2017年末までには閉鎖するしかないとし、Survival Plan を作成、労働組合と政府(英国及びスコットランド)に協力を求めた。

 1) 300百万ポンド(468億円)を投資して、事業継続に必須の米国からの輸入エタンのガスターミナルを建設する。

 2) その条件として、労働組合に対し、製油所も含めた人員整理と賃金・年金の改正を要求

同社によると、Grangemouth での基本給は年間 £40,000 ~£43,000、手当やボーナスを入れると £55,000となり、スコットランド平均 の £26,000の2倍以上としている。これに年金が65%上乗せされ、1人当たり労務コストは£90,000 にもなる。

 3) 同時にIneosはスコットランド政府と英国政府に対し、事業をサポートするため、
  合計150百万ポンドの補助金と借入保証を要求
 

これに対し、組合側はストライキで対抗した。

2013/10/10    Ineos、Grangemouthの石化コンプレックス閉鎖か?

工場は閉鎖の危機に陥ったが、政府の介入で組合側は年金改正提案を受け入れた。Ineos は従業員の現在の給与は変更なしとしている。

この結果、労務費の高騰が避けられるため、会社は3億ポンドの投資を実行する。

33千トンを保管できる欧州最大の液化エタンタンクを1.25億ポンドを投じて建設する。2016年に完成する。

米国からシェールガス原料のエタンガス(正確にはシェールガスと同時に出る天然ガス液からのエタン)を輸入する特製の船2艘のための新しいドック設備も建設する。

Ineosは2012年9月、欧州のエチレン原料用にエタンを輸入するため、米国の独立系石油・ガス業者のRange Resourcesとの間で、2015年からエタンを購入する契約を締結した。

老朽設備を廃棄する。

ベンゼンプラントは2014年に、エタンとナフサの両方を原料とする「G4」クラッカー(年産32万トン)とブタジエンは2015年後半に停止する。
エタンを原料とする
「KG」クラッカー
(年産70万トン)だけが残ることとなり、誘導品も縮小する。

英国政府はIneosに対し150百万ポンドの債務保証を行い、スコットランド政府も900万ポンド以上の支援を行う。


 

大阪ガスは12月20日、減損損失290億円の計上を発表した。

同社が参加している米国テキサス州のPearsall Shale ガス・オイル開発プロジェクトが経済性に見合った油・ガスを取り出せず、現時点では生産性の大幅な改善が見込めないため。


大阪ガスは2012年6月22日、Pearsall Shale ガス・オイル開発プロジェクトに参画することを決め、Cabot Oil & Gas Corporationとの間で、権益35%を250百万米ドルで取得すること等を定めた権益売買契約を締結した。

所在地:米国テキサス州南部(Eagle Ford地区)
参加者:Cabot 65%(オペレーター)、大阪ガス 35%
開発対象:ピアソール層
主な産出資源:天然ガス、軽質原油、NGL

これまで累計で330億円を投じたが、地下3300mのやや深いエリアで地層に難があったため、「現在の掘削技術では経済性に見合った量を確保できない」という。ガス・原油の販売高は当初想定の14%程度にとどまっている。

今後も鉱区閉鎖せず、生産販売を続ける。


米国では、油・ガスが予定通り出た場合でも、天然ガス価格の値下がりで、破産法を申請した企業も出ている。

2013/4/5  米国のシェールガス開発会社が破産法申請


 

 

 


BPは12月16日、Oman政府との間でBPをオペレーターとするKhazzan タイトサンドガス田開発に関するガス販売契約と改定生産物分与契約を締結した。

BPは2007年1月にOman政府との間で、OmanのBlock 61の Khazzan ガス田とMakaremガス田の探査、開発のための契約を締結し、開発を続けてきた。

Khazzan project の建設は2014年に始まり、2017年後半に最初のガスが期待される。

15年にわたり約300の井戸を掘削し、Block 61に建設する中央処理施設に500kmのパイプラインでつなぎ、日量10億立方フィートのガスと日量25千バレルのガスコンデンセートを生産する。

投資額は、これまでの支出を含め、約160億ドルに達する見込み。

今回、Oman国有の開発会社 Oman Oil Company Exploration & Production (OOCEP)が開発に参加し、40%の権益を取得した。

同時に、BP とOman Oil Company は、Duqm市の Special Economic Zoneに年産100万トンの酢酸プラントを建設するためのFSを共同で実施する覚書を締結した。
実現すれば、BPの新法のSaaBre™ processを使用する世界初のプラントとなる。

BPは2013年11月7日に酢酸とエチレンの新法開発を発表した。

SaaBre process は天然ガス等からの一酸化炭素と水素からの合成ガスを直接、酢酸に変換するもので、COの精製やメタノールを必要としない。

Hummingbird® はエタノールの脱水素でエチレンを製造する方法。

ーーー

タイトサンドガスは非在来型天然ガスの一つ。

Tight sand gas 在来型ガスが貯留している地層よりも稠密な砂岩層に貯留した天然ガス。
Coalbed methane 石炭が生成される過程で発生して、そのまま石炭層に滞留した天然ガス。
Shalegas タイトガスよりも浸透率が2桁以上低い(0.001ミリダルシー未満)泥岩の一種である頁岩(シェール)に含まれる天然ガス

 


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