「no」と一致するもの


富士フイルムホールディングスは6月18日、同社による買収合意を破棄した米事務機器大手 Xeroxを相手取り、正当な理由なく当該契約を終了することは契約違反であるとして、10億ドル超の損害賠償などを求める訴訟を米 ニューヨーク州南部連邦地方裁判所に起こした。

Xerox の取締役会は5月13日、富士フィルムと経営統合する合意を破棄した。

買収に反対する大株主のCarl Icahn、Darwin Deason と5月1日に和解したが、5月3日に撤回、5月9日に株主宛ての書簡で富士フィルムと再交渉するとしていたが、株主側と再度和解し、買収契約自体を終了させた。

富士フィルムは今回の訴状で、「この心変わりは間違いなく外的圧力が原因だ。Xeroxは最近、物言う投資家のCarl Icahn、Darwin Deason 両氏の気まぐれに影響された。両氏は少数株主であるにもかかわらず、Xerox取締役会をありとあらゆる方向に振り回した」と述べた。

買収の実現によって富士フイルムの株主が得られたはずの利益に懲罰的な賠償を上乗せし、計10億ドル超の支払いを求めた。
これとは別に、違約金として1億8300万ドルを Xerox から受け取る権利があるとも主張している。

富士フィルムでは、両社の経営統合は、ワールドワイドで一貫した経営戦略に基づくオペレーションを展開することにより、事業成長の更なる加速と顧客への新たな価値の提供を実現できることから、富士ゼロックス及び Xeroxの未来にとって最良の選択肢であると考えているとしている。

これに対しXeroxは、富士フイルム子会社の富士ゼロックスで起きた不正会計問題が未解決なことが合意破棄の主な理由だと主張、「契約上の明白な権利を正しく行使したという絶対の自信がある」と反論し、全面的に争う構えをみせた。

同社は5月13日に富士フィルムに契約終了を通知したが、理由として以下を挙げている。

①富士ゼロックスの監査済決算を4月15日までに提出しなかったこと、
②監査済の財務数字が契約締結前にもらっていた監査前の財務数字と著しく違っていること、
③その後の事態の変化で契約の実行が難しくなったことを勘案した。

1月22日、Carl IcahnとDarwin Deasonは共同声明を発表したが、そのなかで、富士ゼロックスの経理スキャンダルに鑑み、JVを解消するか、Xeroxに有利なように改定すべきであるとしていた。

富士ゼロックスの財務スキャンダルはXeroxの他の株主の間でも問題になっていた。

富士フィルムHDは2017年6月12日、傘下の富士ゼロックスの販売子会社で起きた不適切な会計処理を受けて375億円の損失が発生したと発表した。

調査報告書によると、不適切会計の主な舞台となったのは富士ゼロックスのニュージーランドの販売子会社。中堅幹部であるマネージングディレクターが中心となって、複写機などのリース契約で問題のある取引を繰り返していた。

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これとは別に、Darwin Deasonが富士フィルムによるゼロックス買収は不正だとして、差し止めを求めた裁判で、4月27日に米国ニューヨーク州裁判所が、Darwin Deason の主張を認め、買収手続きの一時差し止めを認める仮処分命令を下した。

裁判では、富士フィルムとXeroxのメールが開示され、裁判官は、複数のメールを引用したうえ、当時のXerox社長らについて「自身の地位を守ろうとして富士フイルム側と協力した」などと認定し買収の暫定差し止めを命じ た。

Xerox は5月4日、異議申し立てをした。
「差し止め命令はニューヨークの法律に反する。買収提案を認めるかどうかは裁判所ではなく、Xerox の株主が決めるものだ」と主張し、裁判所による差し止めの無効を訴えた。

富士フィルムホールディングスも同日、異議申し立てをした。

米ニューヨーク州の裁判所は、上訴の審理を9月から始めると決めた。 この裁判も続く。

2018/4/30 富士フイルムの Xerox買収、NYの裁判所が差し止め仮処分

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富士ゼロックスは6月20日の定時株主総会で、米XeroxのJohn Visentin CEOを取締役に選任した。

Visentin氏は、富士フイルムによるXerox買収に反対している大株主らの意向を受け、5月16日にCEOに就任した。

米Xeroxは富士ゼロックスの25%を保有しており、取締役を3人出すのが通例だが、今回は買収に反対する大株主に近い人物が取締役に就くことで、買収計画への影響が注目される。

米最高裁は6月14日、中国のビタミンC メーカーによる価格カルテルの裁判で、控訴裁がカルテルは中国政府の指示によるもので無罪とした判決について、満場一致で誤りとし、再審査のため差し戻した。

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事件は、2005年にTexasの動物飼料会社や New JerseyのビタミンのディストリビューターなどのビタミンC 需要家が、中国のビタミンC メーカーが2001年12月以降、米国で価格や供給量についてカルテルを結んでいるとして訴えたもの。

訴えられたのは4つのグループ。
・華北製薬(North China Pharmaceutical Group Corp.:NCPGC) と 河北维尔康製薬(Hebei Welcome Pharmaceutical)
   河北维尔康製薬は華北製薬集団と香港の三威國際企業Triple Well International)のJV

・China Pharmaceutical Group Ltd. (CSPC Pharma group:石薬集団)と100%子会社の維生藥業 (Weisheng Pharmaceutical )

・Aland Jiangsu Nutraceutical Co.(江蘇江山製藥 )

Northeast Pharmaceutical Co. Ltd.(東北製薬)

訴えによると、 中国の医薬・健康製品輸出入協会の2001年12月の会合で、上記4グループを含むビタミンC メーカーがビタミンC の輸出を制限して国際市場で不足状況を生むため、輸出数量を管理し、値上げをすることを決めた。

需要家は集団訴訟を起こした。

NY 連邦地裁の裁判で、メーカー側はカルテルを否定せず、中国政府の命令に従っただけであり、カルテル実行者は米国の独禁法の被告にはならないとした。また価格カルテルは中国政府の行為であるとした。更に、中国政府は米国法で裁かれないともした。

中国商務部はこの主張をすべてバックアップした。
商務部によると、中国では商務部の指導下で医薬・健康製品輸出入協会をつくっており、このビタミンC サブ委員会がビタミンCの輸出価格と数量を決定している。ミニマム価格が決められており、それ以下での輸出は出来ない という。

実際に米国の通商代表部は、中国政府がビタミンCの輸出価格を操作しているとしてWTOに提訴している。


本件の詳細  https://www.davispolk.com/files/msohn.jsolomon.antitrust.article.dec13.PDF


この輸出規制が強制的か、自主的なものかで判断が分かれた。被告側は、政府に強制されたもので、従わなければペナルティを受けると主張した。

判事は2011年9月に、中国政府は優遇政策としてビタミンC カルテルを奨励しているが、メーカーに価格カルテルを強制するほどのレベルでなく、違反しても罰金はないと認定した。



2012年5月に江蘇江山製藥は950百万ドルを支払うことで原告側と和解した。これは中国企業が米国のカルテル訴訟で和解した最初である。

最終論告開始の直前に、China Pharmaceutical Group と 維生藥業は 22.5百万ドルを支払うことで和解した。


2013年2月に始まったNew York Eastern District 地裁の最終審理で、陪審員は、 河北维尔康製薬と東北製薬が価格の固定、供給量の制限で共謀したと判断し、損害額を54.1百万ドルと決めた。

判事は3月14日、153.3百万ドル(損害額の3倍から9百万ドルを調整)の罰金を命じた。

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両社は控訴した。

2015年1月に連邦巡回区控訴裁判所(Second Circuit)がこれを取り上げた。

控訴裁は2016年9月20日、中国法が被告に対し外国で売られるビタミンCの価格を決め、数量を下げるよう要求しているとの正式の陳述書を中国政府が裁判所に提出していること、中国企業は中国法と米国の独禁法に同時に従うことができないということから、地裁は本件の管轄権を実行すべきでなかったと判断した。

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今回、最高裁は、連邦裁判所は外国政府の主張に耳を傾ける必要はあるが、それにそのまま従う必要はないとし、更に審議するよう、下級審に差し戻した。

被告側は失望したとし、下級審で更に戦うとしている。中国大使館はコメントの要望に応じていない。

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ビタミンC 市場を中国企業がほぼ独占しているのは、米国でのビタミンCカルテルで多額の罰金を命じられ、各社が撤退した結果である。

かつてビタミンCの生産は欧米企業6社が生産量の75%を寡占する商品で、カルテルで値段を吊り上げていた。

1995年に米国でリジンのカルテルが摘発された。

2010/1/12 映画 The Informant

クエン酸カルテルに関するHoffman-LaRocheなどの調査でビタミンカルテルの存在が分かった。

1999年に米、スイス、独、日、加の合計11社に総額 9億1050万ドルの罰金が課せられた。アメリカでビタミンの価格カルテルが摘発されたのは、これが二度目である。

武田薬品 72百万ドル 事業をBASFに売却
エーザイ 40百万ドル
第一工業製薬 25百万ドル
Roche  500百万ドル 事業をDSMに売却
BASF 225百万ドル
Merck 14百万ドル
Degussa-Huls 13百万ドル
Lonza 10.5百万ドル

2001年1月には、EUでもスイス・独・蘭・仏・日の計8社に総額8億5522万ユーロの制裁金が課せられている。

そこへまた中国企業ががぜん安値攻勢をかけてきたため、欧米企業は次々にビタミンCの生産から撤退した。

現在欧米で頑張っているのはDSMだけである。

DSMはスコットランドに工場を持つが、2014年にAland Jiangsu Nutraceutical Co.(江蘇江山製藥 ) を買収した。

2014/7/29  DSM、江蘇江山製藥買収で合意、ビタミンC 事業を強化 

トランプ米政権は6月15日、中国の知的財産権侵害への制裁措置として、中国による知財侵害の被害額と同規模の500億ドル分の中国製品に25%の追加関税を課すと発表した。

中国が巨額補助金を拠出してハイテク産業を育成する「中国製造2025」計画を名指しで批判し「中国は不公正な手法で米国の知財や技術を得ており、もはや耐えられない」と主張し、「中国が報復措置に動けば米国はさらなる追加関税の発動に踏み切るだろう」と圧力をかけた。


まず7月6日に340億ドル分の制裁関税を発動し、残りの160億ドル分は一般の意見聴取後に発動する。

第1弾の対象は産業ロボットや電子部品などハイテク製品を中心に818品目で、消費者への影響を考慮し、4月時点での約1300品目からテレビなど消費者向け汎用品などを除外した。

第2弾の160億ドル分の対象は、化学品や光ファイバーなど、「中国製造2025」の重点分野に絞った。第1弾と合わせ約1100品目となる。

米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は6月15日、「次の段階は、米国の技術を買おうとする中国の投資を規制することだ」と述べ、中国への制裁関税に次ぐ措置を急ぐ考えを示した。

財務省が6月末までに中国企業の対米投資の規制をとりまとめ、速やかに実施する方針。

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中国商務省は6月16日、報復措置として、659品目、総額500億ドル規模の米国製品や農水産品に25%の追加関税を課すと正式発表した。

7月6日に発動する第1弾の追加関税は下記の545品目、約340億ドル相当。

大豆、牛肉、豚肉、鶏肉、水産物、じゃがいも、たまねぎ、キュウリ、ホウレンソウ、マンゴー、オレンジ、ブドウ、りんご
ウイスキー、たばこ、綿花、乗用車、電気自動車など

米国産大豆は中国が輸出先の6割を占めている。

原油、天然ガス、石炭、エチレン、医療器具など資源エネルギー分野を中心とした114品目、約160億ドル 相当は後日、発動日を公表する。 航空機は対象から外れた。


5月17~18日の
閣僚級通商協議(下記)で米側に伝えていた米国産のエネルギーや農産物などの輸入拡大策も白紙に戻す。

これらとは別に、中国は6月16日、米国および日本原産のヨウ化水素酸、米国およびサウジ・マレーシア・タイ原産のエタノールアミンの反ダンピング調査でクロの仮決定をし、保証金を取り始めた。
また6月15日には、米国およびEU原産のSeamless Steel Tubesについて、5年経過で、再調査を開始した。

二大経済大国が「貿易戦争」に突入するリスクが高まった。

付記

トランプ米大統領は6月18日、中国の知的財産侵害に対する制裁関税を巡り、新たに2千億ドル相当の輸入品に10%の追加関税を検討するよう米通商代表部(USTR)に指示したと発表した。

米国による500億ドル分への25%の関税に対し、中国が同規模の報復措置を打ち出したのを受けての追加措置。
中国が再び報復関税で対抗してきた場合は、さらに2千億ドル分の措置を実行すると強調した。

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これまでの経緯は次のとおり。

米国

トランプ米大統領は2017年8月14日、不公正貿易での制裁も視野に、中国に対する通商法301条に基づく調査を開始するよう指示した。

2017/8/18 米大統領、通商法301条で対中調査指示

米国

USTRは2018年4月3日、中国の知的財産の侵害に対して発動する制裁関税の原案を公表した。

産業用ロボットなど生産機械を中心とした約1300品目に25%の関税を課す。米国の消費者への悪影響を抑えるためスマホや衣料品など輸入額の大きい消費財は除いた。

対象品目の2018年の想定輸入額は500億ドルで、中国からの輸入額の約1割に相当する。(2017年の輸入額は5065億ドル)

中国

中国商務部は4月4日、公告34号を出し、米国の違法な行動から中国の権利を守るため、中国の対外貿易法や国際法の基本原則に基づき、米国産の大豆やその他の農産物、自動車、化学品、飛行機など計106品目(2017年の輸入額は約500億ドル)に25%の関税をかける方針を発表した。


対象は、大豆、棉花、トウモロコシ、小麦、牛肉、たばこ、乗用車、試薬、ポリアミド、飛行機、その他。
石油化学品では、EDC、アクリロニトリル、LDPE、PVC(310千トン)、アクリル重合体、ポリアセテール以外のポリエーテル、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、その他のポリエステル、ポリアミド、シリコーン、酢酸セルロースなどを含む。

2018/4/5 USTR、通商法301条に基づく対中制裁関税案を発表、中国も対抗措置を発表

米国

トランプ米大統領は4月5日、中国による知的財産権侵害を問題にした制裁措置を巡り、新たに1000億ドル規模の中国製品を対象にした追加関税を検討する方針を表明

中国

中国商務部はこれに対し、下記の声明

「米国が単独主義と保護貿易主義を堅持するならば、中国は最後まで付き合う。いかなる代償も惜しくないし、必ず反撃する」

米中

貿易摩擦を巡る米国と中国の初の公式交渉が5月3、4日の2日間、北京の釣魚台迎賓館で行われた。

下記の問題が議論されたが、問題は先送りされた。

1)米国の貿易赤字問題

2)投資分野

3)知財保護

4)中国のMade In China 2025計画 

2018/5/7 米中貿易協議 問題先送り

米中

米中両国は5月17~18日に閣僚級通商協議を行い、中国が貿易不均衡の是正に向けて、米国からの輸入拡大に同意したことを明らかにした。

共同声明で、中国が国民の消費拡大に対応して質の高い経済発展を実現するため、「米国の製品やサービスの購入を大幅に増やす」としたうえで、これが米国の経済成長や雇用促進の助けになるとの考えを示した。

中国は、米国の農産物やエネルギー資源の輸入を拡大することに同意した。詳細を詰めるため、米国のチームが近く中国を訪問する。

また、「知的財産の保護をきわめて重要な問題ととらえ、協力を強化することで合意した。」

中国

6月2~3日に北京で行われた協議で、中国は、米政権が知的財産権侵害の問題で米通商法301条の制裁関税を発動しない ことを条件として、米国から700億ドル近い農産物やエネルギー製品(米国産の大豆やとうもろこし、天然ガス、原油、石炭など)を輸入することを提案した。

米国

米商務省は6月7日、中国の通信機器大手、中興通訊(ZTE)に対する制裁の見直しで同社と合意したと発表した。

但し、ロス長官は「(ZTEに対する)取り締まり問題は切り離されている。貿易協議とは無関係だ」と強調し、301条による対中制裁措置は変えない構えを示した。

2018/6/8 米政府、中興通訊(ZTE)の事業再開認める  

最近、Ineosの会長兼CEO Jim Ratcliffe がニュースに取り上げられている。

1.爵位

英国エリザベス女王の公式誕生日にちなんで、国内外で活躍した人物に贈られる勲章の叙勲者リストが6月8日に発表された。

エリザベス女王の実際の誕生日は4月21日だが、君主の誕生日を6月に祝うことが英国の伝統となっている。

女王の公式誕生日に授与される叙勲は1860年にヴィクトリア女王が開始したもので、本年は1,057人、全体の49%が女性となっている。

日本出身のノーベル賞作家カズオ・イシグロがイギリスの文学に貢献したという理由で、爵位の中でも高い位のナイトの称号を与えられた。英国籍であるため、「Sir」の敬称を使うことができる。

Jim Ratcliffeも、ビジネスと投資への貢献でナイトの称号を与えられ、Sir Ratcliffe となった。
彼は2017年に資産を150億ポンドから210.5億ポンドに増やし、英国1位の金持ちとなっている。

現地紙は以下の例を挙げ、 Ratcliffe の受勲を祝わない人もいるとしている。

・ Ineosは最近、スコットランド政府のフラッキング禁止は違法として訴えた。

Ineos はスコットランドでシェール開発を計画しており、国中で合計700平方マイルにわたる掘削ライセンスを得ている。

2014/8/22 Ineos、スコットランドのシェールガス開発に参加

スコットランド政府は2017年10月にフラッキング禁止を発表、その後スコットランド議会で承認された。

・ Nottinghamshireの公園での試掘を認めないことに対し、National Trustを訴えている。

・ 2013年のGrangemouth refineryのストで労働者を脅迫。

2013/10/10 Ineos、Grangemouthの石化コンプレックス閉鎖か?

・ 2016年に生産性が落ちるとして、Grangemouth工場でのお茶休憩の禁止を発表

・ 英国の法人税率が高いことを理由に Ineosの本社をスイスに移した。その後、英国の減税で戻す。

2010/3/5  INEOS、節税のためスイスへの移転

2016/4/4 Ineos、本社を英国に戻す

付記 

Ineosが、スコットランド政府のフラッキング禁止は違法として訴えた裁判で、スコットランド最高民事裁判所は6月19日、下記の理由で、訴えを却下した。

政府はフラッキング禁止をまだ最終決定していない。今後、環境アセスメント、事業、法律面での検討に基づいて決定する。大臣が禁止と言ったのは誤りで、誤解を生んだ。

Ineosはこれを歓迎、偏見やご都合主義でなく、事実と科学に基づいて決定されることになるとしている。

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2.フットボールチーム Chelsea の買収提案、拒否さる

Jim Ratcliffeは Manchester United FC のファンとして知られているが、最近、ロンドン西部チェルシー地域をホームタウンとする Chelsea FC を20億ポンドで買収するオファーを行い、拒絶された。

Ineosは既にスイスのローザンヌを本拠地とするフットボールチーム ローザンヌ・スポルト(Lausanne-Sport)を所有している。
(Ineos は節税のため、一時本社をスイスに移していた。)

Manchester United FC のファンである Ratcliffeが、何故、Chelseaを買おうとしたのかが取りざたされている。

背景は次の通り。

Chelsea FC のオーナーは、ユダヤ系ロシア人で寡頭資本家(オリガルヒ)の一人、石油王のRoman Abramovichである。チュクチ自治管区知事を務めた政治家でもある。

2003年にChelsea Football Clubを買収し、約160億円ともいわれる負債を返済し、ポケットマネーで次々と有力選手を獲得した。

Roman Abramovich は最近、英国に住むためにビザ(UK investor's visa)の更新を申請したが、ロシアと英国の関係悪化で、拒否された。

このため、Ratcliffeは、AbramovichがChelseaのオーナーとしてやっていけないと考え、Chelsea FC を安く買えると思ったのではないかとされる。
(しかし、Ratcliffeは、Abramovichの英国ビザの問題が発生するもっと以前から真剣に買収を真剣に考えていたという説もある。Ineosは噂や憶測にはコメントしないとしている。)



英国のビザを拒絶されたAbramovich は本年5月末にイスラエルの国籍を取得した。
ユダヤ人であるため、イスラエル国籍を容易に取得する権利を有している。

イスラエル国籍取得によってAbramovich は英国も含めた数十か国へビザ申請を行わずに渡航することが可能となるため、Chelsea FC のオーナーとして従来通りやっていける
イスラエルの長者番付の第一位になったが、新たな祖国で一から生活を立て直すためとして、今後10年間、納税義務を免れることが許される

アゼルバイジャンのカスピ海沖のShah Deniz ガス田第2期のガスの欧州向け輸送ルートである Trans-Anatolian gas pipeline(TANAP)の完了部分の開通式が6月12日、トルコのEskisehirで行われた。
初のガステストは本年1月23日に開始されている。

Shah Deniz ガス田の天然ガスをロシアを経由せずに欧州に送るもので、ガス田から South Caucasus Pipeline (アゼルバイジャン~ジョージア)で送られたガスを、ジョージア国境のArdahanからトルコを横断し、欧州に渡ってギリシャ国境のEdirneまで送り、Trans Anatolian Pipeline 経由でイタリアから既存のパイプラインで欧州に送るもの。

TANAPは全長1850kmで、今回、Ardahan からEskisehirまでの1340kmが完成した。

TANAPの開通時の輸送能力は年間160億立方メートル で、60億立方メートルはトルコに、100億立方メートルはヨーロッパに運ばれる。
その後、まず220億立方メートル、その後投資により310億立方メートルに引き上げる目標がある。

エルドアン大統領は式典で行った演説で、「エネルギーのシルクロード」と呼び、ギリシャ国境への最初のガス供給を2019年6月に行うことを目指していると述べた。

TANAPはアゼルバイジャン国営石油会社のSOCARが運営する。

TANAPの株主は次の通り。

当初 現在
SOCAR 80% 58%
TRAO(トルコ石油) 15%
BOTAS(トルコのパイプライン会社) 5% 30%
BP 12%

Shah Deniz consortium (BP, Statoil and Total) は29%出資のオプション権を持っていたが、BPだけが権利を実行した。

なお、ロシア側の、ウクライナを迂回してロシアから欧州南部に天然ガスを輸送するパイプライン South Stream 計画は、2014年12月に中止となった。
EUの規制で、ブルガリアが認可しないことが理由である。

2014/12/4 ロシア、South Stream 計画を取り止め

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Shah Deniz ガス田第2期は世界最大級の天然ガス開発計画。

Shah Deniz コンソーシアムのメンバーは以下の通り。

BP 25.5% Operator
Statoil 25.5% ノルウェー
SOCAR 10.0% State Oil Company of Azerbaijan Republic
Total S.A. 10.0%
LukAgip 10.0% Eni & LUKoil (ロシア)のJV
NIOC 10.0% National Iranian Oil Company
TPAO 9.0% Turkish Petroleum


Shah Deniz ガス田第1期は年産90億立方メートル。TANAPで輸送する第2期は年産160億立方メートルで最近完成した。

2010年6月、トルコとアゼルバイジャンがこの天然ガスの供給をトルコが受けることで覚書に署名した。
トルコが60億立方メートルを購入するのに加え、残り100億立方メートルを欧州など他国へ再輸出する権利を持つ。

OperatorのBPは、輸送ルートとして、トルコから北へ送るNabucco Gas Pipeline と、イタリアに送るTrans Anatolian Pipelineの2案を検討した。

2013/5/10 BP、アゼルバイジャン産ガスの欧州向け輸送ルート検討 

BPは2013年6月、Azerbaijan のカスピ海沖のShah Deniz ガス田第2期のガスの欧州向け輸送ルートをTrans Adriatic Pipeline (TAP) 決めたと発表した。

2013/7/2 アゼルバイジャン産ガスの欧州向け輸送ルート決定





双日は5月30日、BHP Billiton および三菱商事から豪州の製鉄用原料炭鉱 Gregory Crinum の権益 100%を取得することで合意したと発表した。取得金額は100百万豪ドル(約82億円)になる。

Gregory Crinum炭鉱は、BHP Billiton と三菱商事が2001年に設立した50/50JVのBHP Billiton Mitsubishi Allianceが豪州東部クィーンズランド州に所有する炭鉱の一つで、Gregory露天掘炭鉱とCrinum坑内掘炭鉱の2つの炭鉱からなり、製鉄原料となる石炭を生産していた 。
長期間の採掘で埋蔵量が減少したこと、石炭価格の下落で採算が取れなくなったことから、2012年10月にGregory露天掘炭鉱を休止 、Crinum坑内掘炭鉱も2016年1月に休止した。

双日では、十分な原料炭の資源量が確認されており、正式な取得手続きが完了次第、早期に操業を再開する予定 としている。

双日は、Gregory Crinum炭鉱の近くのMinerva 炭鉱で掘削から運び出しまで自前で手掛けており、更に近郊のMeteor Downs Southの開発運営にも参画している。
このため、独自の技術力に加え、人員や資材を転用することで埋蔵量に見合う低コストで運営できるため、再稼働しても収益貢献が見込めるとしている。

Gregory Crinum炭鉱のインフラを活用した周辺炭鉱の操業請負事業や、周辺炭鉱のリハビリ(自然環境の修復や緑化)の請負事業、リハビリ跡地での太陽光発電等、環境保全に資する新たな事業展開を通じ、雇用の創出等、地域経済に貢献するとしている。

一般炭に偏重している双日グループの石炭資産をリバランスし、原料炭の事業を強化することも目的とする。

参考:炭鉱のリハビリ

今回の権益取得に伴い、法制上の鉱山リハビリテーション(自然環境の修復や緑化)義務が双日に移転する。BHPおよび三菱商事からリハビリ資金引当金が引き継がれる。

露天掘り炭鉱では、石炭層まで数十メートルから百メートルを超える土砂を取り除いていくが、その際、30~40cmの表土を植生ごとはがし、この表土を別の場所に保存しておく。草木が枯れないように水やりや肥料の補給を行う。

石炭の採掘後、くぼみを隣接する区域を採掘する際に除去した土砂で埋め戻し、重機などでならし、その上を保存しておいた表土で覆い、採炭前にとっておいた草木や周辺で採取した種子を使って植栽を行う。修復後も回復状態をモニターし、草木がしっかりと根付いているか、生きものが戻ってきているかをチェックする。

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BHP Billiton Mitsubishi Alliance (BMA) はオーストラリア最大の石炭生産企業で、原料炭の海上輸送シェアは世界一である。2001年に三菱商事がBHP Billitonから権益を取得することにより発足した。BHP Billitonの原料炭事業における中核である。

BMAはオーストラリア東部クィーンズランド州の大規模石炭埋蔵地域であるBowen Basinの、北部の都市 Moranbahから南部 Blackwater まで広域にわたって9つの炭鉱で露天堀及び坑内堀を行っている。また、石炭を出荷するための港湾施設Hay Point の操業も行っている。

9つの炭鉱のうち、Norwich Park炭鉱は石炭価格下落、洪水による生産減、高コストを理由に2012年5月に休止、Gregory Crinumも2012年10月に休止した。

全産出量の90%超が製鉄用の原料炭で、日本をはじめ、韓国、ブラジル、インド、ヨーロッパなど世界約30ヵ国に及ぶ需要家に向け年間5,000万トンを供給している。

その大半をHay Point港湾施設より出荷し、一部をその近隣のDalrymple Bay港湾施設や南部にある主要資源積出港であるGladstoneから出荷している。

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双日は1994年に豪州の資源会社Felix ResourcesからMinerva炭鉱の権益30% を取得、70/30のJV(Minerva Coal Joint Venture)とし、2005年11月に高品位の燃料用一般炭の生産を開始した。

2006年に韓国資源公社をはじめとする韓国コンソーシアムがFelix の持ち分権益70%の内、15%の買収を計画したことに対し、双日が先買権の行使を決定し、15%を買収し、45%とした。

2010年12月 、双日はFelixの残り持株55%のうち、51%分を取得、持分権益を96%とし、海外の炭鉱経営・操業機能を直接保有する唯一の商社となった。
残り4%は韓国資源公社(KORES)が取得した。

Minerva炭鉱は年間生産量約280万トンの良質な一般炭を生産している炭鉱で、日本や韓国向けに輸出してい る。


豪州のU&D Mining Industry (Australia) は、
Minerva炭鉱の近くでMeteor Downs South炭鉱の開発を決めた。

双日は2014年にU&Dと本件でのJV契約を締結した。双日が建設、操業を請け負い、50%の権益を持つ。

Meteor Downs South炭鉱は本年4月に操業を開始した。

2年間はMinervaまでトラック輸送(そこからは鉄道でGladstoneまで輸送)のため、年産50万トンで、貨車への積み込み設備が出来た後は年産150万トンとなる。

今回のカナダでのG7サミットでは多くのテーマを取り上げた。

トランプ大統領は発表された声明文を承認しないとツイッターで述べているが、声明文では貿易問題についても意見が一致しているように書かれている。

そのほか、平和問題や女性の権利問題等々についても同様である。

しかし、気候変動問題については、米国とその他の主張が違うことを明記した。

ーーー

Trump 大統領は2017年3月28日、Obama 前政権の地球温暖化対策を全面的に見直す大統領令に署名した。「私の政権は石炭との戦争を終わらせる」と述べ、温暖化関連の規制を180日以内に見直すよう指示した。

大統領は2017年6月1日、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から米国が離脱すると正式表明した。パリ協定が「米国にとって不利益になっている」と語り、米経済の重荷になっていることを離脱の理由に挙げた。加えて「(米国にとって)公平な条約が必要」と述べ、新たな環境対策の合意に向け交渉を始める意向も明らかにした。

先進国が総額103億ドルを資金支援する国連「緑の気候基金」(Green Climate Fund)への約束分30億ドルのうちの残り20億ドルの拠出も停止する。

米政府は2017年8月4日、「パリ協定」の離脱方針を国連気候変動枠組み条約事務局に正式に通知した。

パリ協定の規定によると、離脱が可能になるのは発効日から4年後の2020年11月4日。前日の3日に次期米大統領選があるため、実際にパリ協定から離脱するかどうかは次期大統領が決めることになる。

ーーー

今回のG7サミット声明で、米国を除く6カ国とEUは、パリ協定への強いコミットを再確認している。

24. Canada, France, Germany, Italy, Japan, the United Kingdom, and the European Union reaffirm their strong commitment to implement the Paris Agreement, through ambitious climate action, in particular through reducing emissions while stimulating innovation, enhancing adaptive capacity, strengthening and financing resilience and reducing vulnerability, as well as ensuring a just transition, including increasing efforts to mobilize climate finance from a wide variety of sources. We discussed the key role of energy transitions through the development of market based clean energy technologies and the importance of carbon pricing, technology collaboration and innovation to continue advancing economic growth and protect the environment as part of sustainable, resilient and low-carbon energy systems, as well as financing adaptive capacity. We reaffirm the commitment that we have made to our citizens to reduce air and water pollution and our greenhouse gas emissions to reach a global carbon-neutral economy over the course of the second half of the century. We welcome the adoption by the UN General Assembly of a resolution titled "Towards a Global Pact for the Environment" and look forward to the presentation of a report by the Secretary-General in the next General Assembly.

25. Canada, France, Germany, Italy, Japan, the United Kingdom, and the European Union will promote the fight against climate change through collaborative partnerships and work with all relevant partners, in particular all levels of government; local, Indigenous, remote coastal and small island communities; as well as with the private sector, international organizations and civil society to identify and assess policy gaps, needs and best practices. We recognize the contribution of the One Planet conferences to this collective effort.

これに対し米国は、持続可能は成長と発展はエネルギーの確保に依存すると信じており、世界のエネルギー安全保障の強化にコミットするとしている。

世界の海洋や環境を守りつつ、各国がエネルギーを確保できるようインフラや技術の開発に努める。各国が、化石燃料をよりクリーンに有効に使うよう、また、再生可能エネルギーや他のクリーンなエネルギーを使うよう協力する。

26. The United States believes sustainable economic growth and development depends on universal access to affordable and reliable energy resources. It commits to ongoing action to strengthen the worlds' collective energy security, including through policies that facilitates open, diverse, transparent, liquid and secure global markets for all energy sources. The United States will continue to promote energy security and economic growth in a manner that improves the health of the world's oceans and environment, while increasing public-private investments in energy infrastructure and technology that advances the ability of countries to produce, transport, and use all available energy sources based on each country's national circumstances.

The United States will endeavor to work closely with other countries to help them access and use fossil fuels more cleanly and efficiently and help deploy renewable and other clean energy sources, given the importance of energy access and security in their Nationally Determined Contributions. The United States believes in the key role of energy transitions through the development of market-based clean energy technologies and the importance of technology collaboration and innovation to continue advancing economic growth and protect the environment as part of sustainable, resilient, and clean energy systems. The United States reiterates its commitment to advancing sustainable economic growth, and underscores the importance of continued action to reduce air and water pollution.

付記

トランプ大統領が他と意見が違ったのは、もう一つあった。こちらは日本も同様である。

欧州とカナダは海洋汚染の原因になるプラスチックごみをG7で減らそうと呼びかけた。

トランプ大統領はプラスチックは産業に必要だとして反対。安倍首相は対策は必要としたうえで「G7だけで解決できない。来年、日本で開く20カ国・地域(G20)首脳会議でこの問題に取り組みたい」と訴えた。孤立を避けたトランプ氏は「シンゾーと同じだ」と喜んだという。

英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダの5カ国とEUは、自国でのプラスチック規制強化を進める「海洋プラスチック憲章」に署名 したが、米国と日本は署名しなかった。

環境省によると、憲章の文書案を受け取ったのは4月中旬。中川雅治環境相は「趣旨は賛同するが、産業界や関係省庁と調整が必要で、時間が足りなかった」と釈明 した。
政府関係者は「日本も参加できるよう数値目標を明示しないなどの修正を試みたが、無理だった」と打ち明けた。

参考 市民のための環境学ガイド 2018/6/17 G7 サミットでの海洋憲章

G7サミット声明は下記のとおり。

27. Recognizing that healthy oceans and seas directly support the livelihoods, food security and economic prosperity of billions of people, we met with the heads of state or government of the Argentina, Bangladesh, Haiti, Jamaica, Kenya, Marshall Islands, Norway, Rwanda (Chair of the African Union), Senegal, Seychelles, South Africa, Vietnam, and the heads of the United Nations, the IMF, the World Bank and the OECD, to discuss concrete actions to protect the health of marine environments and ensure a sustainable use of marine resources as part of a renewed agenda to increase global biodiversity protection.

We endorse the Charlevoix Blueprint for Healthy Oceans, Seas and Resilient Coastal Communities, and will improve oceans knowledge, promote sustainable oceans and fisheries, support resilient coasts and coastal communities and address ocean plastic waste and marine litter.

海洋プラスチック問題等に対応するため世界各国に具体的な対策を促す「健康な海洋、海、レジリエントな沿岸地域社会のためのシャルルボワ・ブループリント」を採択

Recognizing that plastics play an important role in our economy and daily lives but that the current approach to producing, using, managing and disposing of plastics and poses a significant threat to the marine environment, to livelihoods and potentially to human health, we the Leaders of Canada, France, Germany, Italy, the United Kingdom and the European Union endorse the Ocean Plastics Charter.

英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダの5カ国とEUは、自国でのプラスチック規制強化を進める「海洋プラスチック憲章」に署名


G7サミットは6月9日午後、2日間の討議を総括した首脳宣言を採択し、閉幕した。トランプ大統領は途中で退席し、米朝首脳会議のため、シンガポールに向かった。

宣言では、焦点の通商問題について、「ルールに基づく貿易」の重要性を強調し、保護主義と引き続き闘うことを明記した。

4. We acknowledge that free, fair, and mutually beneficial trade and investment, while creating reciprocal benefits, are key engines for growth and job creation. We recommit to the conclusions on trade of the Hamburg G20 Summit, in particular, we underline the crucial role of a rules-based international trading system and continue to fight protectionism. We note the importance of bilateral, regional and plurilateral agreements being open, transparent, inclusive and WTO-consistent, and commit to working to ensure they complement the multilateral trade agreements. We commit to modernize the WTO to make it more fair as soon as possible. We strive to reduce tariff barriers, non-tariff barriers and subsidies.

また、北朝鮮に全ての大量破壊兵器などの「完全、検証可能かつ不可逆的」な廃棄を求めた。安倍首相が訴えた拉致問題の早急な解決も盛り込まれた。

16. We continue to call on North Korea to completely, verifiably, and irreversibly dismantle all of its weapons of mass destruction (WMD) and ballistic missiles as well as its related programs and facilities. (中略) In this context, we once again call upon North Korea to respect the human rights of its people and resolve the abductions issue immediately.

安倍首相は内外記者会見で「G7が自由で公正な、ルールに基づく貿易システムの発展へ努力していくことで合意した」と説明した。

今回、合意文書の作成で難航、2日目の9日早朝まで、文書に盛り込む文言などを事務方で調整、9日午前の行事の合間にも、急きょ首脳だけの会合を開いた。この会合で安倍首相が貿易問題について「自由で公正な貿易システムをG7がまとまって表明すべきだ」と各首脳を説得したという。

しかし、トランプ大統領はシンガポールへの機中でツイッターで、「米市場に大量に流入する自動車への関税を検討しており、コミュニケを承認しないよう指示した」と書き、米国とその他の国の亀裂が際立つ異例の事態となった。

Based on Justin (カナダ首相)'s false statements at his news conference, and the fact that Canada is charging massive Tariffs to our U.S. farmers, workers and companies, I have instructed our U.S. Reps not to endorse the Communique as we look at Tariffs on automobiles flooding the U.S. Market!

(追記)

トランプ大統領が激怒したトルドー首相の発言は、「カナダ人は第一次大戦以来、遠い土地で米兵と肩を並べて戦ってきた。米の関税は屈辱的だ。報復関税を課することをためらわない」というもの。

トランプ大統領は2つめのツイートで、「トルドー首相はG7 の会議中は非常に柔和に穏やかに振る舞っていたが、私が去った後の記者会見で『米国の関税は屈辱的だ』が、『振り回されることはない』と語った。非常に不誠実で意気地がない。米国の関税はカナダの乳製品への270%関税に対応するものだ」と述べた。更に、「Fair Trade」は互恵的でないなら「Fool Trade」だと呟いた。

非難はEUにも向けられ、NATOの費用負担を持ち出し、EUの対米黒字は1510億ドルで、もっと軍事に使えとか、米国は財政赤字なのに欧州を守っているが、貿易で不当に叩かれている、変えるべきだ、と呟いた。



サミットでは初日から、米国の保護主義的な通商政策をめぐり、トランプ米大統領と6カ国の首脳との応酬が続いた。

米国の鉄鋼・アルミ製品への高関税措置や、NAFTA再交渉、世界貿易機関(WTO)をめぐる課題などについて、具体的に意見が交わされた。

米国の高関税措置に「率直なやりとり」があり、「各首脳が自らの立場を表明した」。安倍首相は「G7が貿易制限措置の応酬に明け暮れることは、どの国の利益にもならない」などと主張した。

これに対し、トランプ大統領は自らの政策の妥当性を主張した。記者会見では、米国の課税に対する批判に開き直り、「関税も障壁もゼロ。それがあるべき姿だ。補助金もゼロだ」と述べた。

これとは別に、トランプ大統領は、クリミア半島の一方的な併合によりG8から排除されたロシアを再び加入させるべきだとの驚きの発言をした。

「知ってのとおり、好きか嫌いかに関わらず、また政治的に正しくないかもしれないが、我々は世界を動かしていかなければならない。G7はかつてG8だったが、彼らはロシアを追放した。彼らはロシアを復帰させるべきだ。」

これに対し、メルケル独首相は、G7サミットに参加しているEU加盟国は全て、ロシアは再加入すべきでないと一致していると述べた。
しかし、6月1日に就任し、G7初参加のイタリアのジュゼッペ・コンテ首相は、「皆の利益になる」とツイートし、ロシアの再加入を支持した。

ーーー

トランプ大統領の主張は、米国の膨大な貿易赤字がもとになっている。

2017年の国別のモノの貿易赤字は下記の通りで、中国が圧倒的であるが、英国を除くG7メンバー、EU全体、韓国、NAFTA締結のメキシコ等々、ほとんどの相手で赤字である。
OPECも当然赤字だが、シェールの大増産で赤字は少ない。


トランプ米大統領は3月1日、鉄鋼とアルミニウムの輸入増が安全保障上の脅威になっているとして輸入制限(鉄鋼に25%、アルミに10%の追加関税)を発動する方針を表明、米東部時間3月23日午前0時1分に発動された。

2018/3/26 米国、鉄鋼とアルミの輸入制限を発動

トランプ大統領は5月23日、自動車や自動車部品を対象に安保を理由に輸入制限を課せる通商拡大法232条に基づく調査を指示した。「自動車や自動車部品などの中核産業は国家としての強さに重要だ」との声明を出した。商務省は乗用車やトラック、自動車部品を対象に調査を始めた。鉄鋼に課した輸入制限と同様に、車の輸入増が安保上の脅威になっているか調べる。
米メディアによると乗用車の関税を25%に引き上げる案が浮上しており、日本への影響は極めて大きい。

2018/5/24 中国、自動車関税を一律引き下げ 米に歩み寄り の付記

鉄鋼とアルミの追加関税については、EU、カナダ、メキシコがWTOに提訴し、WTOルールに基づく報復関税を準備しており、エスカレートしつつある。

2018/6/2 米、EU・カナダ・メキシコに鉄鋼・アルミ関税発動   


中国の対米貿易黒字は貿易黒字全体とほぼ同額となっている。

2018/1~5 累計 単位:億ドル
  輸出 輸入 差額
USA 1,754 704 1,051
香港 1,125 29 1,096
日本 586 724 -137
韓国 448 815 -367
台湾 190 700 -510
ASEAN 1,271 1,062 209
EU 1,558 1,102 457
その他 2,637 3,438 -801
合計 9,571 8,574 997
中国の貿易構造

「その他」から石油、鉄鉱石などを、日本、韓国、台湾などから部品を輸入

米国、EU、ASEANなどに製品を輸出
各国に香港経由で製品を輸出
 (米国の中国からの輸入が中国統計より大きいのは、
  香港経由で米国に多額の輸出が行われているためと思われる)

中国については、米国の対中貿易赤字を1千億ドル減らすよう要求した。
鉄鋼・アルミの輸入制限に加え、
中国の知的財産の侵害に対して通商法301条に基づく制裁関税の原案を公表、中国の対抗措置発表に対し、更なる制裁追加の検討を発表した。

2018/3/19 トランプ政権、貿易赤字解消に躍起、対中貿易赤字1000億ドル削減を要請 

2018/4/2 中国、対米報復関税を発動 (鉄鋼・アルミ)

2018/4/5 USTR、通商法301条に基づく対中制裁関税案を発表、中国も対抗措置を発表

2018/4/7 米、対中制裁追加を検討

貿易摩擦を巡る米国と中国の初の公式交渉が5月3、4日の2日間、北京で開催され、問題を先送りすることが決まったが、その後も米国は制裁課税実施を匂わせている。

2018/5/7 米中貿易協議 問題先送り

米国はその間、中国通信機器大手 ZTEへの製品販売を7年間禁止するなどで、中国政府を揺さぶっている。

2018/4/19 米国が中国通信機器大手 ZTEへの製品販売を7年間禁止

2018/6/8 米政府、中興通訊(ZTE)の事業再開認める  


トランプ大統領は、米国の貿易赤字の原因が相手国の高い輸入関税と非関税障壁であると信じている。

米国には製品を関税ゼロで輸出しながら、自国では高関税と非関税障壁で米国品の輸入を制限し、米国の農家や企業を痛めつけているとし、G7サミットでこれを是正すると意気込んだ。

しかし、集中攻撃を受け、総括コミュニケを認めないよう指示、米国に流入する自動車に関税をかけるとしている。

この数日間のツイッターは下記の通り。

各国に対し、高関税と非関税障壁を取り除くよう要求しているが、特にカナダの乳製品その他の高関税(二次関税)を攻撃している。

日本に対しては、FTA締結を求めている。

全体 不公平取引
 是正
The United States will not allow other countries to impose massive Tariffs and Trade Barriers on its farmers, workers and companies.
While sending their product into our country tax free. We have put up with Trade Abuse for many decades -- and that is long enough.
Looking forward to straightening out unfair Trade Deals with the G-7 countries.
If it doesn't happen, we come out even better!
I am heading for Canada and the G-7 for talks that will mostly center on the long time unfair trade practiced against the United States.

From there I go to Singapore and talks with North Korea on Denuclearization. Won't be talking about the Russian Witch Hunt Hoax for a while!
(退席後)
Just left the G7 Summit in beautiful Canada. Great meetings and relationships with the six Country Leaders especially since they know I cannot allow them to apply large Tariffs and strong barriers to U.S.A. Trade.
They fully understand where I am coming from. After many decades, fair and reciprocal Trade will happen!
総括コミュニケに反対 Based on Justin's false statements at his news conference, and the fact that Canada is charging massive Tariffs to our U.S. farmers, workers and companies, I have instructed our U.S. Reps not to endorse the Communique as we look at Tariffs on automobiles flooding the U.S. Market!
ロシアのG7復帰主張で伊首相が賛意 Just met the new Prime Minister of Italy, GiuseppeConte, a really great guy.
He will be honored in Washington, at the WhiteHouse, shortly.
He will do a great job - the people of Italy got it right!
日本 貿易関係改善 PM Abe and I are also working to improve the trading relationship between the U.S. and Japan, something we have to do.

We're working hard to reduce our trade imbalance.

FTA推進 The U.S. seeks a bilateral deal with Japan that is based on the principle of fairness and reciprocity.
EU & カナダ 関税
非関税障壁
Please tell Prime Minister Trudeau and President Macron that they are charging the U.S. massive tariffs and create non-monetary barriers.
The EU trade surplus with the U.S. is $151 Billion, and Canada keeps our farmers and others out.
Look forward to seeing them tomorrow.
Why isn't the European Union and Canada informing the public that for years they have used massive Trade Tariffs and non-monetary Trade Barriers against the U.S.
Totally unfair to our farmers, workers & companies.
Take down your tariffs & barriers or we will more than match you!
カナダ 乳製品関税



Prime Minister Trudeau is being so indignant, bringing up the relationship that the U.S. and Canada had over the many years and all sorts of other things...but he doesn't bring up the fact that they charge us up to 300% on dairy -- hurting our Farmers, killing our Agriculture!

関税割当枠を超える部分に二次関税
牛乳 241.3%、バター298.5%、チーズ245.6%、ヨーグルト 237.5% ほか

Canada charges the U.S. a 270% tariff on Dairy Products!
They didn't tell you that, did they? Not fair to our farmers!
(退席後)
PM Justin Trudeau of Canada acted so meek and mild during our G7 meetings only to give a news conference after I left saying that, "US Tariffs were kind of insulting" and he "will not be pushed around." Very dishonest & weak.
Our Tariffs are in response to his of 270% on dairy!


米商務省は6月7日、中国の通信機器大手、中興通訊(ZTE)に対する制裁の見直しで同社と合意したと発表した。


付記

米商務省は7月13日、中興通訊(ZTE)に科した米国企業との取引禁止の制裁を解除したと発表した。
同社が制裁解除の条件である罰金の支払いや経営陣の刷新を終えた。

ロス商務長官は声明で「ZTEへの取引禁止は解除するが、米国の法律や規制を順守させるため同社の行動を注意深く監視する」と強調した。同社は新たに法令違反を犯した場合、米政府に預けた4億ドルが没収される。今後10年間、米国が選んだ社内の責任者が法令順守状況を米商務省に報告する。

安全保障上の観点からZTEの制裁解除には米議会の反発が強い。

ーーー

米商務省は2016年3月、ZTEが2010年にイランや北朝鮮に禁輸措置品を輸出し、その事実を隠ぺいしたとして、輸出禁止の対象とした。商務省は半月後に、ZTEが社内コンプライアンス体制の改革や情報提供を行うことを条件に規制の一部緩和措置を発表した。

輸出禁止措置の4度目の猶予期間中の2017年3月に、ZTEは米国による対イラン制裁措置などに違反し、米国製品や技術をイランに輸出していたことで有罪を認め、8億9000万ドルの罰金支払いや、さらなる違反があった場合に3億ドルの追徴金を支払うことで合意した。 更に、幹部社員4人を解雇し、他の社員35人については賞与減額か懲戒処分とすることを約束した。

同時に、これらの条件に反したり、新しく米国輸出管理規則(Export Administration Regulations) に違反した場合、米企業によるZTEへの製品販売の7年間禁止することに同意した。

しかし、同社は今年3月、幹部4人を解雇したものの、他の35人については賞与減額も懲戒も行っていなかったことを認めた。

米商務省は4月16日、中国通信機器大手の中興通訊(ZTE )がイランや北朝鮮に対し通信機器を違法に輸出していた件で、商務省との約束を守っていなかったため、米企業によるZTEへの製品販売を7年間禁止すると発表した。ロス商務長官は声明で、ZTEが同問題を巡り、米政府に繰り返し虚偽の報告を行っていたことを指摘した。

2018/4/19 米国が中国通信機器大手 ZTEへの製品販売を7年間禁止 

ZTEは米国でAT&T やT-Mobile US、Sprint など携帯電話大手にスマートフォンを供給する一方、Qualcomm、Microsoft、Intel など米企業の製品を採用している。

米企業は半導体などスマートフォンに不可欠な部品をZTEに直接輸出することも、第三国を通じて輸出することも、直ちにできなくなる。
ZTEはまた、米サプライヤーから技術を得られなくなる。

ZTEは部品供給が止まったため、業務を停止すると発表した。

習近平国家主席がトランプ大統領に対応を要請したとされる。

トランプ大統領は米中貿易協議で中国側から譲歩を引き出す交渉材料とする構えをみせ、5月13日のtwitterで緩和を示唆した。

President Xi of China, and I, are working together to give massive Chinese phone company, ZTE, a way to get back into business, fast.
Too many jobs in China lost. Commerce Department has been instructed to get it done!

しかし、制裁の緩和には米議会から強い反発の声が上がっていた。

ーーー

合意内容は次の通り。

ZTEが10億ドルの罰金を支払うほか、将来新たな法令違反があった場合に没収される4億ドルを預託する。

ZTEは30日以内に新しい取締役会や経営陣を決める。
再発防止を徹底するため、米国は自ら選んだ法令順守担当者を同社に送り込み、今後10年間監視する。

代わりに取引禁止を解く。

ロス商務長官は「非常に厳しい合意内容で、商務省が科す罰金額として過去最大だ」と強調した。

ZTEは2017年に商務省から8億9千万ドルの罰金を科されており、今回の措置により罰金総額は約23億ドルになる。

トランプ政権は、中国の知的財産権侵害を理由にした米通商法301条に基づく追加関税の対象製品の最終リストを6月15日までに公表、その後間もなく発動する方針 で、ロス長官は「(ZTEに対する)取り締まり問題は切り離されている。貿易協議とは無関係だ」と強調し、301条による対中制裁措置は変えない構えを示した。

5月29日の欧州市場では、イタリアの政局混乱を懸念する投資家が同国債を売る動きを拡大し、利回りが急上昇した。10年債利回りは一時、3.3%台と、2014年3月以来の高水準を記録した。
ポルトガルやスペインなど周辺国の国債も売られ、2%近く利回りが上昇した。ユーロを売る動きも広がった。

イタリアに続きスペインでも政治が流動化してきた。(別記)

3月4日の総選挙では、パオロ・ジェンティローニ首相の「民主党」が大敗した。

総選挙後、政治の空白が続いていたが、反EUの「五つ星運動」と「同盟」が連立することとなった。
しかし大統領が
EU・ユーロ懐疑派の経済相候補を拒否したため、再び混迷に陥り、再選挙の可能性もあった。

5月31日に状況が一変した。「五つ星運動」と「同盟」が経済相候補を入れ替え、大統領がこれを受け入れた。両党の推す法学者ジュセッペ・コンテの内閣が6月1日に発足した。

反EUの立場では同じだが、政治姿勢の異なる2つの党の連立である。連立の早期瓦解の可能性も指摘されている。

「五つ星」は失業者らへの最低所得保障など「ばらまき型」の経済刺激策を重視する。
同盟」は、EUの移民政策を批判、違法移民の強制送還の強化や、難民が域内で最初に到着した国で保護申請することを義務づけたEUのダブリン規則の見直しを強く求める 。

首相は学者で政治経験がなく、両党の主張をうまく調整できるか、疑問視されている。

イタリアの政府債務残高のGDP比で約130%と、欧州でギリシャ(180%)に次ぐ高水準であり、EUが求める60%以内という基準からはほど遠い なかで、選挙中に訴えた大型減税や最低所得保障の導入などのばら撒き色の強い政策をどう実施するかも問題である。

ユーロ圏第3の経済大国で、EUに懐疑的なポピュリズム政権が誕生したことは、 英国離脱で結束を固めようとしているEUを揺さぶる。

3月初めの総選挙後、ようやく新内閣がスタートしたが、問題はこれからで、世界経済のリスク要因にもなる。

ーーー

イタリアの総選挙は3月4日に行われ 、パオロ・ジェンティローニ首相の「民主党」が大敗した。五つ星運動が上院、下院とも議席を倍増させ、第一党となったが、過半数は取れなかった。

これまで議席の大部分が比例代表であったが、2017年に成立した選挙法改正によって3分の1が小選挙区で選出される制度に改められた。合わせて比例選挙での小政党乱立を防ぐ為の追加議席制度も廃止され、単一政党での政権獲得が困難になった。

  今回 2018年
元老(上院) 代議院(下院)
五つ星運動 112 +58 227 +118
同盟 58 +41 125 +107
(小計) (170) (352)
民主党 53 -52 112 -185
フォルツァ・イタリア 57 -41 104 +6
その他 35 -6 62 -46
合計 315 630
(過半数) (158) (316)


「五つ星運動」は、大衆の不満に率直な賛同を示す人民主義政党(ポピュリズム)として行動。反政党政治(直接民主主義)やEU離脱など急進的政策を掲げ、政治不信の募る若年層の間で急速に台頭した。五つの星は社会が守り抜くべき概念(発展・水資源・持続可能性のある交通・環境主義・インターネット社会)を指している。

「同盟」は右派ポピュリズム政党。イタリア北部の郷土主義政党「北部同盟」であったが、近年は反EUや排外主義などが支持基盤に変わりつつある。

「民主党」は社会民主主義政党で、近年はリベラル的な中道左派勢力が主導権を得ている。

「フォルツァ・イタリア」はキリスト教民主主義政党。フォルツァとはイタリア語で「がんばれ」を意味する。2009年に「自由の人民」となり、2013年に元に戻した。


直近の動きをまとめると次の通りとなる。

5/20 「五つ星運動」と「同盟」が連立政権樹立で合意
5/21 「五つ星運動」と「同盟」、大統領にコンテ氏を首相に推薦
5/23 大統領、コンテ氏に組閣を命じる。
5/27 コンテ氏、大統領に人事案を説明。大統領、経済相候補のサボナ氏を拒否、コンテ氏、組閣断念 。
「五つ星運動」と「同盟」、不満を表明。
5/28 大統領、コッタレリ氏に組閣を命じる。
5/30 「五つ星運動」と「同盟」が改めて連立政権に向け、動き、コッタレリ氏、組閣を中断 。
5/31 大統領がコンテ氏を首相に任命、閣僚名簿を受理
6/1 コンテ内閣発足


3月の総選挙以降、政治空白が続いていたが、「五つ星運動」と反移民を掲げる右派「同盟」が連立政権樹立に向けた政策で合意した。

経済弱者向けの政策を掲げ、貧しい南部で圧倒的な強さを見せ単独政党で最多議席を獲得した「五つ星」が、産業集積地の北部で支持を固め、得票率で3位となった「同盟」との連立を模索した。

「五つ星」のディマイオ代表と「同盟」のサルビーニ書記長は、共に意欲をみせていた首相候補を辞退し、連立への妥協点を見いだした。

「同盟」と中道右派連合を形成する「フォルツァ・イタリア」の党首、ベルルスコーニ元首相が両勢力の連立を容認し、同党としては連立政権にが加わらない姿勢を示したことで事態が進展した。

「五つ星」と「同盟」は、5月18~20日に共通政策の是非を問う党員投票を実施。両党とも賛成が90%以上となり承認された。

両政党は、市場が警戒してきた共通通貨「ユーロ」からの離脱は言っていないが、「同盟」の看板政策である法人・個人所得税の大幅減税や「五つ星」の掲げた最低所得保障の導入など、有権者受けするバラマキ色の濃い政策を掲げ た。

また両党はEUの対露制裁解除に積極的である一方、マクロン仏大統領が提案する統合深化に向けたEU改革には否定的である。

「五つ星」のディマイオ代表と「同盟」のサルビーニ書記長は5月21日、マッタレッラ大統領と会い、フィレンツェ大のジュセッペ・コンテ教授を首相に推薦した。

マッタレッラ大統領は5月23日、新政権の首相にジュセッペ・コンテ教授(53)を指名し、組閣を命じた。

コンテ氏は行政法の専門家で、「五つ星」と近い関係にある。コンテ氏は5月24日、組閣作業を始めた。

「同盟」のサルビーニ書記長は経済・財務相候補にパオロ・サボナ元産業相(81)を推薦した。1990年代に産業相を務めた経験のあるサボナ氏は、EUへの批判的な姿勢で知られ、緊縮財政の反対派でもある。EUとユーロの創設を定めたマーストリヒト条約の締結にも反対したEU・ユーロ懐疑派である。

コンテ氏は5月27日、次期政権の閣僚人事案を提出する会談のためマッタレッラ大統領を訪ねたが、 大統領はサボナ氏がEUに激しく反対していることを理由に、経済・財務相への起用を拒否した。大統領は、提示された閣僚名簿のうち、欧州連合(EU)懐疑派のサボナ氏だけは支持できなかったと述べた。イタリアの法律では、大統領は閣僚の任命を拒否する権利を持つ。

これを受け、コンテ氏は、組閣を断念した。

五つ星運動のディ・マイオ党首は大統領の弾劾を要求した。同盟のマッテオ・サルビーニ書記長は新たな選挙を求めた。「民主主義では、やることはただ一つ、イタリア人に自らの意見を言わせることだ」と述べた。

マッタレッラ大統領は5月28日、緊縮財政派の経済学者、カルロ・コッタレリ氏に組閣を命じた。 コッタレリ氏は報道陣に対し、「私が投票により信任されたならば、2019年度予算案の採決といったプランを携えて議会に臨む。その後議会を解散し、2019年初めに総選挙を行う」と述べた。一方議会の信任が得られなかった場合は、「8月より後に」再び総選挙を行う可能性も示唆した。

しかし、コッタレリ氏は5月30日、マッタレッラ大統領に組閣作業を中断する考えを示した。議会信任が得られる見通しがない上、最大勢力の「五つ星運動」による連立政権樹立の動きが再燃したためとみられる。

「五つ星運動」と「同盟」はあらためて連立政権樹立に向けて動き出した。「五つ星」のディマイオ代表は5月29日、南部ナポリで「議会で過半数を占める勢力による政権を発足させるため、大統領に協力する用意がある」と演説した。経済相に別候補を挙げることで 大統領との妥協点を見いだそうとしているという。

しかし、「同盟」を率いるマッテオ・サルビーニ書記長は、イタリアはできる限り早急に選挙を行うべきだと主張 、「投票は早ければ早いほど良い。この窮地や混乱を抜け出す最良の方法だからだ」と指摘した。

再選挙の場合、「五つ星」と「同盟」が新たな選挙で議席を増やす恐れが浮上している。イタリアメディアが5月30日に公表した支持率世論調査では、「五つ星」は第1党の勢いを維持、「同盟」は勢いが増す結果が出ている。

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5月31日、両党の指導者らは、 一旦組閣を断念したジュセッペ・コンテ氏を再び首相に推薦したマッタレッラ大統領は同日夜、コンテ氏と会談し、次期首相に指名した。

コンテ氏は閣僚名簿を提出し、受理された。五つ星運動のディ・マイオ党首が経済発展・労働相、同盟のサルビーニ書記長は 移民問題を扱う内相として入閣 し、ともに副首相となる。
経済相への起用が拒否されたユーロ懐疑派エコノミストのパオロ・サボーナ氏は欧州担当相に就く。経済・財務相にはジョバンニ・トリア教授(経済学)を起用する。

6月1日午後、閣僚とともに宣誓式にのぞみ、「コンテ内閣」が発足した。

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