「no」と一致するもの


クアーズフィールド球場での大谷翔平の打撃練習を見て「デンバーポスト」のスポーツコラムニストが書いた記事が話題になっている。

「人生が終わりを告げる前に、中国の万里の長城を上り、アイスランドのオーロラを見ながらダンスをし、クアーズフィールドでのショウヘイ・オオタニの打撃練習を見るべきである」と述べた。

報道ではこれが繰り返されているが、この次が面白い。

「ロッキーズのオーナーが球場の右翼にバルコニー席 The Rooftop をつくった本当の理由が今になって分かった。LoDo地区一番のこの屋外バーがなかったら、大谷の打った球はワイオミング州まで飛んで行った。」

記事は下記の通り。

May 8, 2018  by Mark Kiszla (The Denver Post)

Just once before you die, you should climb the Great Wall of China, dance with the Northern Lights in Iceland and watch Shohei Ohtani take batting practice at Coors Field.

Ohtani, as you might have heard, is the 23-year-old sensation from Japan that can hit and pitch the way Beyonce can sing and dance.

We're talking freak of nature, so big and beautiful, if folks don't get out of the way, somebody could get hurt.

I now understand the real reason why Rockies owner Dick Monfort installed The Rooftop in right field. The best outdoor bar in LoDo was all that stopped the American League's new sensation from blasting a ball to Wyoming.

During batting practice, he smacked so many pitches into the upper reaches of the ballpark it should be rechristened the Shohei Party Deck.

Fans showed up with gloves, anxious to collect B.P. souvenirs from Ohtani, only to run for cover, looking more shell shocked than White Goodman in the final reel of "DodgeBall."

映画 "DodgeBall"の最後のシーンでのライバルチームのオーナー以上に、大ショックを受けたように見えた。)



The Rooftop
   大谷の打った球はここまで飛んだ。

 

 


Xeroxは5月9日、株主に宛てた書簡を公表した。

これまでの経緯を説明するとともに、今後の方針について次の通り述べた。

1) 富士フィルムによるXerox買収について、1月31日に発表したものより良い条件にするよう富士フィルムと交渉する。

2) すべての株主の声に耳を傾ける。

3) 裁判所の仮処分は誤ったものであると信じており、異議を申し立てる。

なお、これに対し富士フィルムは5月10日、「ゼロックスから買収条件の具体的な提案は受けていない」とし、「提案済みのプランがベストで、新たな提案があった場合には当社の株主にとってもメリットがあるか検証が必要だ」と説明している。

ーーー

Xerox は5月4日、裁判所が4月27日に下した買収手続きの差し止め命令に対し、異議申し立てをしたと発表した。「買収提案を認めるかどうかは裁判所ではなく、Xerox の株主が決めるものだ」と主張し、裁判所による差し止めの無効を訴えた。

富士フィルムホールディングスも同日、異議申し立てをした。

米ニューヨーク州の裁判所は、上訴の審理を9月から始めると決めた。 審理までは差し止め命令が継続される。


Xeroxによる経緯の説明は下記の通り。

2015年秋に、Xerox取締役会は事業の戦略的レビューを開始した。

この結果、2016年1月にビジネス・プロセス・アウトソーシング事業を行う Conduent Incorporated をスピンオフ(分離・独立)することを決めた。これはCarl Icahnの意見を容れたもの。

この間、Icahn と Deasonの両株主とは建設的話し合いを続けた。Icahnの指名した人を取締役に加え、Deasonとの株を巡る争いも解決した。

Conduentのスピンオフの後、株主価値を高めるための方法の検討を進めた。

その結果、Xeroxと富士ゼロックスの統合が最も魅力的であると考えるに至った。

発表後に、投資家と100回以上の会合を持ったが、その意見は、
 両社の統合は戦略的な論拠がある、
 株主の支持を得るためより良い条件を得るべきだ、
 富士ゼロックスの経理スキャンダルは考慮すべき問題だというものであった。

Icahn/Deason 両氏には意見を述べる権利はあり、我々は反論する用意はあるが、二人が全株主を代表して話したり、他の株主が意見を述べる権利を奪う権利はない。

これまで両氏の発言に一々反論していないが、Xeroxと富士ゼロックスの統合が破産のリスクを生むと述べたのには、誤りであり無責任であると指摘せずるを得なかった。

Deason氏は訴訟に訴え、Xerox株主が総会で投票する権利を奪った。裁判所は4月27日に彼に味方した。

(4/27 裁判所が買収手続きの一時停止を命じる仮処分)

この命令は、Xerox株主がこの取引が自分自身の利益になるかどうかを決める権利を奪うものであり、法を無視したもので、覆るものと信じている。

では、なぜ、2人と和解したのか?

(5/1  Xeroxと株主が和解、株主側が主体の体制へ)

それは、裁判所の命令が、富士フィルムとの条件を良くするための交渉を禁じており、株主の利益を最大限にすることができないと考えたためである。
2人と和解すれば、長く続く訴訟による不確実性や混乱を避けられ、事業を進められ、裁判所の仮処分命令にとらわれず、富士フィルムとの条件交渉が可能になると考えた。

何が変わったのか?

和解の発表後に、二人は彼らの体制で事業を進めることを公言した。すると、株価は12%以上下がり、投資家との話し合いで、多くの株主がこれに反対していることが分かった。

そして、5月3日の裁判所のヒアリングで、裁判所は、差し止め命令のもとでも、富士フィルムと代替案の交渉をすることができると明言した。

(5/2 富士フィルムが上記和解に異議申し立て)
(5/3 裁判所が関係者に意見提出を要請、決着に時間がかかる見通し)

その日の午後、2人は、Xeroxが富士フィルムとの契約を直ちに終息させなければ、和解契約を終息させ、戦争に出る("go to war")と伝えた。

取締役会は、十分に検討・分析することなしに富士との契約を終息するようにとの圧力を拒否した。

このため、和解の撤回が株主の利益になると判断した。

(5/3 Xeroxが和解の撤回を発表、以前の体制に戻す。)

今後について:

  • 事業の安定に注力する。

  • 株主の利益の最大限化のため、富士フィルムからの対価を増やすことも含め、代替案を探る。

  • 株主の声を反映できるようにする。定時株主総会での取締役候補の指名を認めるreopen the window for nominating director candidates 。株主が総会で決める権利を奪う差し止め命令には上訴して争う。

5/4  Xeroxと富士フィルムが裁判所に買収手続き差し止め命令への異議申し立て。裁判所は審理を9月に始めると決定)

ーーー

株主総会は6月にも開かれる予定であるが、裁判所の審理は9月に始まるため、今回の総会には富士フィルムとの契約は議題にあげられない。

Xeroxはこれまで、総会での取締役候補の推挙の期限の2017年12月11日であるとしてきたが、今回、推挙を認めるとした。

当然、Icahn/Deason 側は候補を出すため、委任状争奪戦になると思われる。


武田薬品工業は5月8日、アイルランド製薬大手Shire plc を総額約460億ポンド(約6兆8千億円)で、完全子会社化することで合意したと発表した。

Shire 株主は株式1株当たり30.33米ドルの現金、ならびに武田新株 0.839株(又は1.678の武田ADR)を受領する権利を有する。

2018年4月23日における武田株式の終値4,923円並びに同日の為替レート 1ポンド=151.51円=1.3945ドルに基づくと、1株当たりの価値は49.01ポンドになり、総額は約460億ポンドとなる。

これは、4月24日の4回目の提案のままである。

1回目は3月29日で、1株当たり44ポンド(武田株式28ポンド + 現金16ポンド)、合計約410億ポンド(574億ドル) 
2回目は4月11日で、1株当たり45.50ポンド(武田株式28.75ポンド + 現金16.75ポンド)、合計約430億ポンド(602億ドル)  
3回目は4月13日で、1株当たり46.50ポンド(武田株式28.75ポンド + 現金17.75ポンド)、合計約440億ポンド(616億ドル) 
4回目は4月24日で、1株当たり49.01ポンド(武田株式 0.839株=27.26ポンド + 現金US$30.33 =21.75ポンド)、合計約460億ポンド(641.5億ドル

2018/4/26 武田薬品、Shire 買収で4回目の提案、詰めの協議へ 

総額約460億ポンド(約6兆8千億円)のうち、株式で3.78兆円(27.26 / 49.01 )、現金で3.02兆円となる。

武田薬品は既に、三井住友銀行と三菱UFJ銀行、JPモルガン・チェース・バンクの3行から総額308.5億ドル(約3兆3600億円)のブリッジローン契約を締結している。

付記 JPモルガン・チェースが幹事で1/2、三井住友と三菱UFJが1/4ずつ。みずほ銀行は外された。

付記

武田薬品は6月8日、JP Morgan Chase Bank、三井住友銀行、三菱UFJ銀行及びみずほ銀行を含むトップクラスのグローバル金融機関と、総借入限度額75億米国ドルの "Term Loan Credit Agreement"を締結した。資金調達の過半は、日本の金融機関からによる。5年のローンで、ブリッジクレジット契約分を減額する。

付記

武田薬品は10月18日、日本の公取委から無条件の承認を得たと発表した。米国、中国、ブラジルは既に承認を得ており、EUの承認待ち。 →11月20日に取得。


両社の取締役会によって承認されている。両社とも臨時株主総会を開き、株主の賛成を得て、2019年上期(1~6月期)に完了する予定としている。

本買収の完了により、両社の株主はそれぞれ、統合後の会社の約50%を保有することになる。

武田薬品では、本買収のハイライトとして以下を挙げている。 

  • 消化器系疾患及びニューロサイエンスにおいて相互に補完するとともに、希少疾患と血漿分画製剤においてリーディングカンパニーとしてのポジションを獲得することで、オンコロジーやワクチンにおける強みを補完
     付記 Shireは4月16日、オンコロジー(癌)事業を24億ドルでServierに売却した。
  • 日本に本社を置く、研究開発型グローバルバイオ医薬品企業のリーディングカンパニーが誕生し、今後の発展を促進する魅力的な地理的拠点と規模を確立
  • 強固かつモダリティの多様な、高度に補完的なパイプラインを創出し、画期的なイノベーションにフォーカスした研究開発体制を強化
  • 武田のキャッシュフロープロファイルが向上し、大幅な年間コストシナジーの実現や充実した株主還元実施を確信
  • 武田の変革が、Shire の統合を成功に導き、統合後の会社の価値を最大化

両社を合算すれば売上高の合計は3兆円超となり、世界の製薬業界のトップ10の一角に躍り出ることになる。

但し、武田薬品は2017年9月末時点で1兆1千億円の有利子負債を抱え、Shireも2兆円程度の負債がある。買収で3兆円程度の借り入れを行うことで、統合後に負債が6兆円程度に膨らむ。

ーーー

英国法上、上場会社を完全子会社化するには、公開買付で大部分を取得し、残り株を買い取る(Squeeze Out)方法と、Scheme of arrangement を使う方法がある。

前者の場合、TOBで90%以上を取得した場合に限り、Squeeze Outの提案ができる。TOBでは3か月以上かかるとされる。

後者の場合は、議決に参加した株主の過半数が賛成し、賛成株主が75%以上を有している場合に限り、裁判所が認可する。最短で2か月とされる。 株主総会で賛成を得られない場合、改めてTOBをすすめることができる。

今回、後者を使うとされ、Shire の株主総会では 75%以上の賛成票が必要である。

Shireの取締役会は 、賛成を得やすくするため現金の比率を増やすよう要請していたとされるが、当初案のままとなった。


問題は武田薬品の株主総会である。

今回、3兆8千億円の新株発行で、時価総額(3兆4800億円)を上回り、武田株主にとり株式が1/2 以下に希薄化する。
買収発表後、武田の株価は1000円以上 下落しており、株主の賛成を得るハードルは高いと見られる。

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AnswersNews(2018/04/27)による2017年の製薬会社売上高トップ10は下記の通り。

億ドル
1 Roche * スイス 543.65
2 Pfizer 525.46
3 Novartis スイス 491.09
4 Merck 401.22
5 Sanofi * 396.12
6 GlaxoSmithKline * 389.40
7 Johnson & Johnson 362.56
8 AbbVie 282.16
9 Gilead Sciences 261.07
10 Eli Lilly 228.71

* は2017年平均レートによる米ドル換算

武田薬品は売上高1.75兆円(2018年3月期見込み)で19位、Shireは1.70兆円(2017年12月期)で20位で、単純合算すると3.45兆円で、世界8位になる。

付記 JPモルガン・チェースが幹事で1/2、三井住友と三菱UFJが1/4ずつ。みずほ銀行は外された。

貿易摩擦を巡る米国と中国の初の公式交渉が5月3、4日の2日間、北京釣魚台迎賓館で行われた。
米国側は
ムニューシン財務長官、ライトハイザー通商代表部(USTR)代表らが、中国側は習近平国家主席の側近で経済ブレーンの劉鶴副首相らが出席した。

米国は2020年までに対中赤字を2千億ドル削減するよう要求し、従来の1千億ドルから上積みした。中国は対中輸出制限の緩和などを求めた。

投資分野、知財分野でも応酬があった。

Made In China 2025計画などハイテク分野でも双方の主張は隔たりが大きい。新華社も「一部の問題は意見の食い違いが大きい」と認めた。

貿易戦争の回避は綱渡りで交渉は長期化の様相を呈してきた。今後、四半期ごとにレビューのための会合を持つ。

ホワイトハウスは5月4日、「米中の経済関係の調整について率直に議論した」とする声明を発表した。トランプ政権内には「(米中の問題に)即座に対処しなければいけないとの総意がある」と指摘し、報告を受けたトランプ大統領が次の行動を決断するとしている。

米国は500億ドル分の中国製品に25%の追加関税をかける制裁案を既に公表済み。

対抗して中国も、米国産の大豆やその他の農産物、自動車、化学品、飛行機など計106品目に25%の関税をかける方針を発表した。
中国は2017年に米国から約3300万トンの大豆を輸入し、米国の輸出先の6割を中国が占める。トランプ大統領の票田の農業州に揺さぶりをかける。

2018/4/5 USTR、通商法301条に基づく対中制裁関税案を発表、中国も対抗措置を発表

中国の対抗策を受け、トランプ米大統領は4月5日、新たに1000億ドル規模の中国製品を対象にした追加関税を検討する方針を表明した。

2018/4/7 米、対中制裁追加を検討
いずれも実施時期は決めていない。

米国が制裁を実施すると、貿易戦争となる。


米国の要求とそれに対する中国の反応は次の通り。

1)米国の貿易赤字問題

(米国)

対中赤字(米側統計で2017年で3757億ドル) を、2019年6月までに2018年比で1千億ドル、2020年に同 2千億ドルの削減

* 不思議なことに中国の統計では2017年の対米貿易黒字は2758億ドルで、1千億ドルの差がある。この理由を解明するのが先ではないか。

現在平均10%の関税を2020年までに 米国と同水準("noncritical sectors"で平均3.5%)に引き下げ

検疫強化や関税上げなどの報復措置を控えること。

サービス、農業分野の市場開放

(中国

ハイテク製品の対中輸出制限緩和

* 中国商務部は本年1月には、ハイテク製品の対中輸出を制限する米国の規制が米国の対中貿易赤字の原因になっているとの認識を示した。
規制を緩めれば米国の対中輸出が増え、貿易不均衡は縮小するとの見通しを示した。対中赤字が3割超減るとの試算もある。

米国による中国製航空機の安全検査で差別的な取り扱いをしないこと。

世界貿易機関(WTO)協定の「市場経済国」に認定すること。

(中国側は、輸出制限緩和などを条件に現在25%の自動車関税を引き下げる。)

2)投資分野

(米国)

外資の投資禁止項目だけ示す「ネガティブリスト」を7月までに導入すること。
米国がリストを調査して米投資家を阻む内容があれば速やかな是正を求める。

機密の(sensitive) 技術について、中国勢の投資を米国が制限しても、報復をしないこと。

(中国)

米国での投資で中国企業を差別的に取り扱わないこと。

3)知財保護

(米国)

米国でのサイバー攻撃で企業秘密を盗む行為をやめるよう、直ちに、検証可能な手段を取る。

知財保護の強化

海外からの技術移転で中国企業に有利な条例を2018年末までに廃止。

(中国)

通商法301条による知的財産侵害の調査を今後、一切しないこと。

米国による中興通訊(ZTE)の制裁緩和

4)中国のMade In China 2025計画 

(米国)

中国のMade In China 2025計画で、全ての政府補助金の廃止

中国のMade In China 2025計画からの輸入品を米国が制限するのと認めること。

Made In China 2025計画は、2025年までに世界の製造業大国となり、建国100周年の2049年までに製造強国の先頭グループになるという計画である。(後記)

巨額の補助金で自国の企業を育てるとみられ、米国のIT企業などは、半導体などの基幹部品の自給で米企業が締め出されかねないとの懸念を持つ。

米国は交渉で中国2025の補助金の即時停止を求めたが、中国には事実上の計画停止を意味し、中国商務省の関係者は「絶対に受け入れられない」と憤る。

ーーー

中国のMade In China 2025(中国製造2025)計画は、2014年から中国工業情報化部、国家発展改革委員会、科技部、財務部、中国工程院など20の政府機関が製造業振興の長期戦略プランを策定し,2015年5月19日,国務院より「中国製造2025」が式に公布された。製造強国になるという戦略目標の実現を図るもの。

2015年までに製造業規模世界第一位、世界の製造業大国になり、
ステップ1で、2025年までに、格差縮小、十点突破で製造強国の仲間入りを果たし,
ステップ2で、2035年までに工業化の実現により製造強国の中位レベルに到達する。
ステップ3で、建国100周年の2049年までにイノベーション先導で製造強国の先頭グループに入るとの目標を掲げている。

ドイツのMinistry of Economic Affairs and Energyは4月26日、中国の安泰科技(Advanced Technology & Materials:AT&M) によるCOTESA GmbHの買収を承認した。


COTESAはドイツ・ザクセン州に本社があり、宇宙航空と自動車の分野で質の高い炭素繊維複合材料部品を供給しており、顧客にはエアバスやボーイングが名前を連ねる。

安泰科技中国国有の中国鋼研科技集団(China Iron & Steel Research Institute Group:CISRI) の子会社で、新金属材料を主要業務と位置づけ、金属磁性材料、粉末冶金、溶接材料、ダイヤモンド工具、高速工具鋼、先端エネルギー材料という6つの分野で活動している。

2017年9月に、AT&MによるCOTESA買収で合意された。

手続き上は中国の明徳投資(Interity Capital Partners)と QFAT Investmentが共同運営する新素材関連ファンドがCOTESAを買収するもので、買収後にはこのファンドに投資する安泰科技(AT&M)が中国市場での製造・販売に協力することとされた。買収額は1億~2億ユーロと報じられた。

狙いは、中国の国有航空機メーカーである中国商用飛機(COMAC)に COTESA製の部品を供給することとされた。

これに対し、2017年12月にMinistry of Economic Affairs and Energyが介入した。ドイツの法律に合致するかどうかを調査するとした。

ドイツ政府は2017年、ハイテク部門での中国企業のM&A拡大に対する懸念が高まる中、中国企業による独企業の買収を阻止する為の政府権限拡大に乗り出した。

背景には、2016年に同国最大の産業ロボットメーカーであるKUKAが、中国家電メーカーの美的集団に45億ユーロで買収されたことにある。

同年8月にはドイツ政府は「買収は安全保障に危険は及ぼさない」として不介入を表明、米政府も同年12月31日に認可した。

しかし、ドイツの先進技術がアジア企業に奪われることへの懸念が一気に高まり、それ以来、類似の取引に対する調査が大幅に厳格化された。

ーーー

半導体製造装置メーカーのドイツのAixtron は 2016年5月23日、中国の福建芯片投資基金 (FGC)が同社を買収することで合意したと発表した。

Aixtron は1983年創業で、ドイツのヘルツォーゲンラートに本社を置く。買収手続き完了後も、ヘルツォーゲンラートの本社と技術拠点、および英国のケンブリッジと米国カリフォルニア州 Sunnyvale にある技術拠点を維持する。

これに関し、オバマ米大統領は12月2日、Aixtron のカリフォルニア州の子会社 Aixtron Inc の買収を禁止すると発表した。軍事利用が可能な技術が対象に含まれ、米国の安全保障の脅威になると判断した。米財務省は、今回の買収に関し「中国政府が資金調達で支援している」と指摘した。

対米外国投資委員会(CFIUS)がAixtron の技術が軍事用途に使われる可能性があると判断しており、米子会社買収が「緩和措置を講じても解決できない安全保障上のリスクをもたらす」と強調した。

ドイツ政府は9月8日に買収を承認しているが、10月21日にこの承認を取り消し、買収の審査手続きを再開すると発表した。

福建芯片投資基金は12月8日、独 Aixtron の買収取り止めを発表した。米子会社を除いた買収も検討したが、戦略拠点の米子会社が除外され、独政府の認可の行方も不透明なことから買収を断念した。

2016/12/7 米政府、中国企業による独社の米子会社買収を禁止 

ーーー

ドイツの対外貿易に関する法律は、EU域外の企業がドイツ企業の株式の25%超を取得しようとする場合、それが公の秩序や国家の安全を脅かすものなら政府が阻止できるというものだった。
主に防衛部門の取引に適用されていた。

その後2017年7月の改正で、同法の適用範囲は先端防衛技術産業に加え、電力、水道、病院、交通等の基幹インフラに携わる企業にまで拡大された。
政府が買収を調査できる期間も、改正前の2ヵ月から最大4ヵ月に拡大された。

EUの欧州委員会は2017年、国家安全保障の観点から海外企業による投資について審査を厳格化する計画を打ち出し、ドイツはこれを支持している。

今回、審査が終わり、買収は承認された。中国人投資家によるコア技術をめぐる買収案件では、2017年7月の法律改正後で初めてのケースである。


Xeroxは5月3日、株主との和解を撤回したと発表した。


Xeroxは5月1日、富士フィルムによる買収提案を見直すと発表した。4月27日の裁判所による
買収手続きの一時停止を命じる仮処分を受け、同案に反対している大株主のCarl Icahn、Darwin Deason と和解した。

Carl Icahn、Darwin Deasonが提案する6人の取締役候補を受け入れ、Robert J. Keegan会長、Jeff Jacobson CEO ら現在の取締役7人が辞任する。

新たな取締役会は直ちに、富士フィルムとの関係を終了したり、再編することを含め、株主価値を最大にする戦略的代替案の検討を開始するとしている。

2018/5/2 Xerox、富士フィルムとの統合見直し、株主のCarl Icahn、Darwin Deason と和解  


5月1日のXeroxによる株主との和解を受け、富士フイルムHDは 5月2日、Xeroxが大株主と合意した和解に対し異議を申し立てた。

これを受け、 裁判所は5月3日聴聞を開いたが、和解案の発表から時間が無く、関係者の意見が出そろっていないと指摘。関係各者に書面で改めて意見を提出するよう求めた。決着までにはなお時間がかかる見通し。

今回の発表によると、上記の和解は、裁判所が承認し、その上で株主のDarwin DeasonがXeroxを相手取った訴訟を取り下げることを条件としていたが、 裁判所が承認を保留したため、5月3日午後8時の期限までに取り下げられず、失効した。

この結果、Robert J. Keegan会長、Jeff Jacobson CEO ら現在の取締役会と経営陣は留任する。引き続き財務と事業の改善に注力するとしている。

付記

Xerox は5月4日、裁判所が4月27日に下した買収手続きの差し止め命令に対し、異議申し立てをしたと発表した。
「差し止め命令はニューヨークの法律に反する。買収提案を認めるかどうかは裁判所ではなく、Xerox の株主が決めるものだ」と主張し、裁判所による差し止めの無効を訴えた。

富士フィルムホールディングスも同日、異議申し立てをした。

付記

米ニューヨーク州の裁判所は、上訴の審理を9月から始めると決めた。
審理までは差し止め命令が継続されるため、富士フイルムはゼロックスと買収手続きを進められない。

付記

Xeroxは5月9日、株主へのレターを発表した。

これまでの経緯を説明、裁判所からは富士フィルムと代替案の交渉をすることは出来るとの説明を受けており、富士フィルムと交渉するとしている。

ーーー

Xeroxが株主との和解を取り消しても、裁判所が4月27日に出した、Xeroxに対して買収手続きの一時停止を命じる仮処分は生きている。

株主に不利益が生じるのを防ぐため、企業側の買収手続きを暫定的に差し止めるもので、Xeroxは株主が満足する買収条件に変更するか、30日以内に上訴して命令取り消しを勝ち取る必要がある。

判事はまた、Xeroxが取締役候補の指名を制限するのを止めさせることを求めた要望を承認した。IcahnとDeasonは6月と想定される次の株主総会で取締役候補を指名できる。

2018/4/30 富士フイルムの Xerox買収、NYの裁判所が差し止め仮処分 

和解を取り消したことで、大株主のCarl Icahn、Darwin Deasonとの関係は悪化する。

上訴しても、命令取り消しを勝ち取れるかどうか疑問であり、仮に命令取り消しを勝ち取ったとしても、双方の取締役候補についての取締役選任、富士フィルムによるXerox買収契約の承認を巡り、委任状争奪戦になる可能性がある。

 

サウジアラビアはSaudiAramco の新規株式公開(IPO)を巡る積極姿勢を後退させている。

当面、海外での上場をやめ、サウジ証券取引所(Tadawul)のみで上場する方向で進んでいる。年内とされていたが、2019年4月になると報道されている。

ーーー

サウジアラビア政府は2018年1月1日付で、Saudi Aramcoの企業形態を株式売買が可能な Joint Stock Companyに変更させた。
これにより、サウジ政府以外の投資家がAramco の株主になることができる。

Aramco は2018年下期にも株式の5%を内外市場で公開する予定で、上場する市場(複数)については、New York、London、Tokyo、Hong Kong などが候補として挙がっていた。
その後、国外上場候補をNew York、London、Hong Kong の3か所に絞り込んだと報じられた。

2018/1/11 Saudi Aramco、上場に備え企業形態を変更 

しかし、その後、法的リスクや、海外の取引所が企業に求める情報開示の基準が厳しいことなどを懸念し、先ず自国の証券取引所に限定する方針だと報じられている。

ムハンマド皇太子は3月20日、トランプ米大統領とホワイトハウスで会談し、Aramco の上場についても協議したとみられるが、具体的な進展はなかったとされる。

エネルギー産業鉱物資源相はテレビのインタビューで、Aramco のニューヨーク上場の条件や訴訟を巡るリスクに懸念を表明した。
ニューヨーク市が、ExxonMobil やBPなどの国際石油会社に対し「気候変動の原因を招いた」として提訴したことを具体例に挙げた。

ニューヨーク市は2018年1月10日、ExxonMobil、Chevron、BP、Shell、ConocoPhillips の5社を提訴すると発表した。
5社が気候変動の一因となっており、過去及び将来ニューヨーク市に財政的負担を強いるとし、港湾保護、上下水設備の改善、気候変動緩和、公共医療活動等に費やす数十億米ドルの補償を求める。
同市はすでに、海面上昇、強大な嵐、気温上昇対策のために200億米ドル以上を費やしている。

また、米国では2016年に米同時テロに関与した疑いがある外国政府に、遺族らが損害賠償を請求する訴えを起こすことができる「テロ支援者制裁法(JASTA)」が成立、本年3月に米国の判事がサウジ政府の要求を却下してサウジ政府を被告とする裁判が開始されることとなった。

サウジ政府が最大株主になるアラムコは、資産差し押さえなどの潜在的なリスクにさらされる。

2016/10/1 米同時テロ遺族のサウジ提訴法案、大統領拒否権を覆し成立

2018/4/6 サウジ政府を被告とする9.11同時多発テロ訴訟、裁判開始へ

上場会社になると、Aramco の確認埋蔵量などのデータを公表する必要が出るが、これに対する反発も根強い。





Saudi Aramco は4月29日、新取締役5名を発表した。サウジ政府が指名した。3名が退任する。

H.E. Khalid A. Al-Falih Chairman、サウジ エネルギー大臣
H.E. Dr. Ibrahim A. Al-Assaf Vice Chairman
Mr. Amin H. Nasser President and CEO
新任 H.E. Mohammed A. Al Jadaan サウジ財務大臣
新任 H.E. Mohammed M. Al-Tuwaijri サウジ経済企画大臣
H.E. Yasir O. Al-Rumayyan 元サウジ財務大臣、サウジ PIF Managing Director
ソフトバンク取締役
Sir Mark Moody-Stuart Royal Dutch Shell 元会長、国連財団Global Compact 会長
Mr. Andrew F. J. Gould 英国BG Group 会長(元 Schlumberger会長・CEO)
新任 Mr. Peter L. Cella Chevron Philips Chemical 元社長 (2011-2017)
新任 Ms. Lynn Laverty Elsenhans Sunoco Inc 元社長・CEO (2008-2012)
新任 Mr. Andrew N. Liveris (2018/7/1 就任) DowDuPont Director を2018/7/1に退任
退任 H.E. Dr. Majid Al-Moneef サウジ王室アドバイザー
退任 H.E. Dr. Khaled S. Al-Sultan King Fahd 石油鉱物資源大学 学長
退任 Mr. Peter Woicke 元世銀理事・IFC副総裁


本年下期か2019年初めに5%の上場を準備しているSaudi Aramco は、初めて女性を取締役に選任した。

2008年から2012年まで米国のSunoco Inc.の会長兼CEOを務めたLynn Laverty Elsenhans 女史である。
それ以前は、Royal Dutch Shellに28年以上勤務し、最後はExecutive VP of global manufacturing であった。
2017年7月まで Baker Hughesの取締役であった。現在、GlaxoSmithKlineの取締役でもある。

他に、下記の人々が選任された。

・サウジの財務大臣と経済企画大臣

・2011年から2017年までChevron Philips Chemicalの社長を務めた Peter L. Cella氏

・DowDuPont のAndrew N. Liveris 氏

DowDuPontAndrew N. Liveris 会長兼CEOは2018年4月1日付で退任した。7月1日には同社の取締役からも退任する。
DowDuPont
の取締役退任の7月1日付で SaudiAramco取締役に就任する。

ーーー

サウジでは女性が大企業の取締役になっているのは極く少数であるが、最近は変わりつつある。

2004年にLubna Olayan (Olayan 財閥の一員)が Saudi Hollandi Bank(現在のAlawwal Bank )の取締役に就いた。彼女は2006年に最大の鉱山会社 Ma'aden の取締役にも選ばれている。

昨年には、サウジ証券取引所がSarah Al-Suhaimi を女性として初の会長に選任した。

ムハンマド皇太子はサウジの改革を進めている。

サウジでは世界で唯一、女性の自動車運転が禁止されていたが、2017年9月27日にサルマン国王が女性に自動車の運転を許可する勅令を出した。

Xeroxは5月1日、富士フィルムによる買収提案を見直すと発表した。4月27日の裁判所による買収手続きの一時停止を命じる仮処分を受け、同案に反対している大株主のCarl Icahn、Darwin Deason と和解した。

2018/4/30 富士フイルムの Xerox買収、NYの裁判所が差し止め仮処分

Carl Icahn、Darwin Deasonが提案する6人の取締役候補を受け入れ、Robert J. Keegan会長、Jeff Jacobson CEO ら現在の取締役7人が辞任する。
Jacobson CEOを「ならず者経営者」と呼んだCheryl Krongard を含む 3人は留任する。

新任の取締役のうち、Icahn EnterprisesのCEOのKeith Cozzaが会長に、John Visentin(Senior Advisor to the Chairman of Exela Technologies )が副会長兼CEOに就任する。

新たな取締役会は直ちに、富士フィルムとの関係を終了したり、再編することを含め、株主価値を最大にする戦略的代替案の検討を開始するとしている。


富士フイルムは「Xerox旧経営陣と合意した買収計画の実行を新たな経営陣にも求めていく」とコメントした。「今回の和解を想定していなかった」としており、今後対応策を検討するとみられる。

富士フィルムは、4月27日の判決について、「意外な判決に驚いている。精査して、上訴を含め適切な手段をとっていく」と述べていたが、Xeroxが株主との和解に踏み切り、新たな取締役会がIcahn主導となったため、富士フィルムの買収案がこのまま通る可能性はなくなった。


付記

富士フイルムHDは 5月2日、Xeroxが大株主と合意した和解に対し異議を申し立てた。

米裁判所は4月27日、買収手続きの一時差し止めを命じたが、大株主とXeroxが和解したことで、Xeroxのみ一時差し止めが解除されることになり、同社は他社との交渉を進められることになる。
富士は自社だけ差し止めが続くことを不服としており、認められなければ上訴する。

裁判所は5月3日、和解案の発表から時間が無く、関係者の意見が出そろっていないと指摘。関係各者に書面で改めて意見を提出するよう求めた。決着までにはなお時間がかかる見通し。



Supreme Court of the State of New YorkのBarry Ostrager判事は4月27日、 富士フィルムによるXerox買収に反対する株主のDarwin Deason の主張を認め、Xeroxに対して買収手続きの一時停止を命じる仮処分を出した。

株主に不利益が生じるのを防ぐため、企業側の買収手続きを暫定的に差し止めるもので、Xeroxは株主が満足する買収条件に変更するか、30日以内に上訴して命令取り消しを勝ち取る必要がある。


判事はまた、Xeroxが取締役候補の指名を制限するのを止めさせることを求めた要望を承認した。株主は6月と想定される次の株主総会で取締役候補を指名することができる。

判決文 https://www.documentcloud.org/documents/4449147-650766-2018-in-Re-Xerox-Corporatio-v-in-Re-Xerox.html#text/p1


Xeroxは、「取締役会は今回の案が会社にとって、また全ての株主にとってベストと考えており、ただちに控訴する」と述べた。

富士フィルムは、「意外な判決に驚いている。精査して、上訴を含め適切な手段をとっていく」と述べ、裁判所の説明(XeroxのCEOとの共謀説)に対し、「ゼロックスとの間で独立性を保ちながら協議してきた」と説明した。

同社はゼロックスからの申し入れに応じて買収条件などを再交渉中だが、買収価格の積み増しなど一定の譲歩を迫られる可能性がある。

原告のDeasonは、「裁判所が株主を守ってくれたのを感謝する。Xeroxの価値を高めるため、更に努力する」と述べた。

ーーー

経緯は次の通り。

富士フィルムHDは1月31日、米国Xerox Corporationとの間で以下の点で合意したと発表した。

 ①富士フィルムHDがXerox Corporatの50.1%を取得、Xeroxは社名をFuji Xeroxに変更、NYSEの上場を維持
 ②富士フィルムHDの子会社の富士ゼロックスとXerox Corporationの経営統合

2018/2/1 富士フィルム、米国Xerox Corporationを買収

株主でCarl Icahn と提携するDarwin Deasonは2月13日、富士フィルムによるゼロックス買収は不正だとして、差し止めを求める訴えをニューヨーク州の裁判所に起こした。

ゼロックスと富士フィルムが、株主にとって重要な契約の存在を17年間隠して おり、これは不正行為であり、取締役は受託者としての義務に違反しているとし、この取引を中止し、既存のJV契約を終了することを求めた。

2018/2/15  富士フイルムによる買収、ゼロックス大株主が差し止め提訴  

Darwin Deason は3月2日、Xeroxを相手取り、新たな取締役を推薦する権利を求める訴訟を起こした。

Darwin Deasonは今春の株主総会で全取締役の候補を推挙する権利を求めたが、会社側は候補の推挙の期限の2017年12月11日が既に過ぎているとして、これを拒否した。これを不服とし、会社は期限が過ぎた後に株主にとって重要な一連の決定をしたとして、推挙期限を延ばすことを求め訴訟を起こした。

2018/3/5 米ゼロックス、大株主が再び提訴 

Darwin Deasonは4月13日に改定訴状を提出した。

XeroxのCEOが、富士フィルムとの交渉を勝手に行い、株主の利益を犠牲にして自身の地位を守る合意を取り交わしたと非難している。

2018/4/23 Xeroxを巡る戦い 激化、委任状争奪戦に発展か?  

ーーー

判事は、下記のとおり事態を説明したうえで、原告のDarwin Deasonの主張を全て認めた。

既存のXeroxと富士とのJV契約にはいろいろの規定があるが、他の買い手がXerox株主に現金を支払うという他のディールは困難ではあるが、必ずしも不可能ではない。

Xerox株の30%以上を富士の競争相手に売却する場合は、Xeroxに不利になるような規定があるが、これは2018年1月31日に初めて株主に開示された。

富士ゼロックスの経理スキャンダルにからむ問題は、Xerox取締役会が買収を承認した時点では解決しておらず、両社間で買収条件の更なる交渉が行われる可能性がある。
JVの準拠法である日本の法律で、Xeroxがこれを理由にJV解散を要求できるかどうかには議論があるところである。

問題の根幹はXeroxのJacobson CEO の行動である。Jacobsonは2017年11月10日に、取締役会が彼の後任となる新CEOを積極的に探しているということが伝わると、この取引で自身を不可欠な存在にするため富士フィルムと協力した十分な証拠がある。

原告は、Jacobsonが、提案された取引を承認する取締役として受託者の職務を破り、富士がそのような違反を助長したと主張するが、原告の説明はこの主張が通る可能性を示している。

両社間では長期にわたり両社の関係をどうするかについて議論があったが、2017年の初めにXeroxの全株を富士が買収する交渉が始まった。
2017年3月にJacobsonは訪日し、富士からこの提案を受け、取締役会に諮り、富士に対し、ある程度のプレミアムのついた価格で、かつ全額現金払いである場合のみ、交渉に応じると返事した。

2017年5月にJacobsonはCarl Icahnと会談したが、IcahnはJacobsonはCEOとして適当でなく、Xerox株を売却したいと述べた。(2017年11月、Icahn は取締役会と争う姿勢を示したが、休戦し、Icahn指名の取締役を追加した。)   

2017年5月、富士は富士ゼロックスの経理スキャンダルが終了するまで議論ができないと通知してきた。
その後、Jacobsonは投資銀行と協議し、富士が現金無しで買収する案を作成した。

Jacobsonはこれについて、Keegan 会長の承認を得たと述べているが、取締役会は聞かされていない。

2017年6月にJacobsonはこの案を富士に提案した。これにより当初の全額現金払案は消えた。Jacobsonは7月に初めて取締役会にこれを報告した。

Icahnは7月にこの案を知り、Keegan会長に反対を伝えた。またJacobsonの後任を探す委員会の設置を求めた。KeeganはJacobsonに対し、富士がIcahnのXerox 持分を買収するよう提案してはどうかと伝えた。

2017年夏に、Jacbsonは富士との交渉を続けたが、取締役会は彼のCEOとしての働きに疑念を持ち、将来のXeroxを率いるには適していないと判断した。Cheryl Krongard取締役は、これが満場一致の判断であったと証言している。取締役会は後任候補を探す委員会を設立した。10月と11月に複数の候補と面談した。そのなかで、IBMとHPの元取締役のGiovanni Visentin がよいと判断し、条件を交渉し、2017年12月11日を就任日とした。

Jacobsonは11月10日までこれを知らなかったと証言した。(多くの人が動きを知っているため、これには疑念がある。)
11月10日にKeegan会長はJacobsonにこれを伝え、富士との交渉をやめるよう指示した。

富士はJacobsonの現金無しでの買収案に傾き、Keegan会長にJacobsonとの交渉継続をもとめ、Keeganは取締役会に伝えずに、これを許した。

11月21日の東京会談で、Jacobsonは古森会長に事情を説明、条件概要書(Term sheet )を提出するよう依頼した。

富士は11月30日に正式買収提案を送った。全額現金払ではなく、富士ゼロックス株を通じて Xeroxの50.1%を取得するものである。

2018年1月24日のKeeganと古森の電話会談以前には、Xerox取締役の誰も富士との交渉に参加せず、Jacobsonだけが交渉した。

裁判所にとって、少なくとも2017年11月10日時点で、JacobsonがXeroxを代表して富士との交渉を行ったのは相反する立場にあると思われる。また、Jacobsonが富士に対し、彼自身の状況を説明し、富士に彼の地位保全のため助力を求めたと思われる。(そうではないということは counter-intuitiveであり、not credible である。)

取締役会の指示に反して、Keegan会長がJacobsonに交渉を続けさせたのも、受託者義務違反(breach of fiduciary) である。

2017年12月4日に取締役会にこの案が説明された。

Cheryl Krongard取締役はKeegan会長に対し、富士との交渉をやめるようとの取締役会の指示に反し、Jacobsonが交渉を続けたのに懸念を示した。
会長宛レターで、Jacobsonを「ならず者経営者"rogue executive"」と呼んでいる。

付記

5月14日付日経によると、裁判でのDiscoveryで富士フィルムとXeroxのメールが開示され、富士フィルムに不利に働いたという。

富士→Jacobson 「我々は共通の敵と戦う同じチームだ」
Jacobson→富士 「友と並んで立つ」
Jacobson→富士 「我々は使命を果たし勝つ」
富士→Jacobson 「我々はあなたを支えるよ、ジェフ!」

  Jacobson→富士 「ミスターコモリに、よろしく。彼の助けには感謝している」
  富士→Jacobson 「キーガン会長に『ジェフがCEOでいてもらいたい』と伝えるよう、コモリにはっきり進言したよ」

裁判官は、決定理由でこうした複数のメールを引用したうえ、ジェイコブソン氏らについて「自身の地位を守ろうとして富士フイルム側と協力した」などと認定し買収の暫定差し止めを命じた。

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