ギリシャ議会は7月16日未明(日本時間16日午前)にも、金融支援協議の前提としてEUなどの債権団から要求された財政改革の関連法案を採決する。
― 付加価値税率の簡素化
― 広範な課税
― 年金削減
― 国家統計局の独立
付記 ギリシャ議会は、賛成は229票、反対は64票、白票は6票 (欠席1人)で可決した。
しかし、これを可決しても、終わりではない。EUはギリシャ議会での法制化を待って、7月15日にユーロ圏財務相会合を開催して改革の実行を確認し、各国議会での承認を経てようやく、正式に支援策の交渉を開始するが、以下の措置へのコミットメントが、協議開始への最低条件である。
◎ギリシャは7月22日までに民事司法改革やEUの銀行破綻ルール実施を可決。
付記
ギリシャ議会は7月23日未明、財政改革法案第二弾を可決した。
ギリシャの金融システムや訴訟制度の安定性を高めるための法案で、銀行が破綻した場合に保護する預金額を一定基準に抑える制度を導入する。民事訴訟の手続きを簡略化し、費用を減らす司法制度改革も進める。
◎以下の改革について明確な日程を設定。
― 大胆な年金改革
― 製品市場の改革
― 送電網の民営化
― 団体交渉、ストライキ、集団解雇などの見直し
― 不良資産への対応や政治的介入の阻止など金融セクターの強化
◎以下の措置を講じる。
― 民営化や資産移管による独立基金で500億ユーロを設定。
このうち3分の2は、銀行の資本増強や債務削減に充当。
― 行政コスト削減と政治的な影響力を抑制。7月20日までに最初の提案。
― 主要法案を議会などに提示する前に債権団の承認を得る
ギリシャの円建て国債「サムライ債」のうち7月14日に償還期限が来た約117億円は全額返済されたが、7月13日が期限のIMFからの借入金
4.5億ユーロは返済されなかった。
7月17日は、2014年7月発行の3年もの国債の利払い(7100万ユーロ)があり、7月20日にはECBへの
35億ユーロが待っている。
正式な支援策が決まるまでに、つなぎ融資がどうしても必要だが、これについて、EU内部での抗争がある。
EUの執行機関である欧州委員会は、7月のギリシャの資金不足を手当てするために欧州金融安定メカニズム(EFSM:European Financial
Stability
Mechanism)を活用して70億ユーロのつなぎ融資を実施することを提案している。
これに対し、英国のGeorge
Osborne財務相は、14日の協議を前に各国の財務相と電話で会談し、以下の通り述べ、EFSMを活用することに反対すると強調した
。
EFSMを使って、ギリシャ向け繋ぎ融資を実行すると聞いている。そのためには、EU加盟28ヶ国全体で、100~120億ユーロを払い込まなければならない。そうなると、英国の支払い額は、10億ユーロ規模となる。
英国は、前回ギリシャ債務危機が発覚した2010年に欧州連合との間で、ユーロ圏で起きた危機に関してはEFSMは使わない、ユーロ圏の国だけで対応するという合意を取り付けており、今回どうしてギリシャ危機に対する融資にEFSMが使われようとしているのか、理解出来ない。
英国とともに、非ユーロ圏のチェコも強く反対しているとされる。
2009年10月のギリシャの政権交代後、前政権による財政赤字と債務の"粉飾"が明るみに出たことから、ギリシャの財政危機が発生、財政懸念がポルトガルやスペインその他に拡大した。
このため、2010年5月のEUの臨時閣僚会議で、2つの組織の設置を決め、それらとIMFを加えた3つの柱からなる包括的支援策がつくられた。
EFSM
(欧州金融安定メカニズム:European Financial Stability
Mechanism)EU27カ国の組織
EFSF(欧州金融安定ファシリティ:European Financial Stability Facility)ユーロ圏17カ国の組織(時限組織)
EFSM はEFSFとIMFとともに、アイルランドとポルトガル向けの支援を行った。
EFSFは
ギリシャ、アイルランド、ポルトガル向けに1920億ユーロを、スペインの銀行資本増強に1000億ドルの支援を行った。
ユーロ圏のEFSFは2010年6月から2013年6月までの時限機関として設立されたため、その後継としてESM(欧州安定メカニズム:European
Stability Mechanism)が設立された。
EFSFの債権のうち、スペインの銀行資本増強分1000億ユーロはESMに肩代わりされた。
EFSFはその後は融資はしないが、1920億ユーロの債権回収完了までは存続する(現在も存続)。
ESMの融資能力は5000億ユーロだが、既存の(EFSFの)1920億ユーロを含めると、最高貸付金額は約7000億ユーロとなる。
現時点での体制は下記の通り。
EFSM(EU27カ国)
ESM+EFSF(残務整理)(ユーロ17カ国)
英国によると、ユーロ圏で起きた危機に関しては今後はEFSMは使わず、ユーロ圏の国だけで対応するという合意があったという。
その場合、当然ESMを使うこととなる。
しかし、欧州委員会は、7月のギリシャの資金不足を手当てするためにEFSMを活用して70億ユーロのつなぎ融資を実施することを提案している。
この理由としては、下記の事情があるのではと噂されている。
ESMを使う場合、緊急動議という議決方法が必要だが、それには議決権の85%
以上の賛成が必要となる。
この場合、ドイツの議決権は26%を超えているため、ドイツが賛成しなければ繋ぎ融資が出来ない。
ギリシャが全ての要件を満足させるまでの間は、ドイツの賛成は無理と思われ、当面の資金手当てはEFSMに頼らざるを得ない。
しかし、ユーロ圏の内部事情(ドイツの反対)で、合意に反してEFSMを使うというのは筋が通らず、非ユーロ国の賛成を得られないだろう。
付記
欧州中央銀行(ECB)は7月16日、ギリシャの銀行向け緊急流動性支援(ELA)の上限を引き上げた。
引き上げ幅は1週間で9億ユーロとした。
これを受け、ギリシャの国内銀行は週明け7月20日から営業を再開する。1日60ユーロの引き出し制限は続けるが、引き出さなかった分を翌日に持ち越すことが出来るようにする。→ 1週間あたり420ユーロに変更
ギリシャの財政改革の関連法案可決を受け、ギリシャ支援に議会承認が必要なドイツ、フィンランドなど6カ国の議会が承認した。
電話によるユーロ圏財務相会合が開かれ、3年間で820億ユーロを超える新たな支援に向けた手続き開始を決めたが、支援の正式決定は8月になる見通し。
EUは7月17日、EFSMを活用してギリシャに71.6億ユーロの短期のつなぎ融資を行うことを決めた。期間は最大3ヶ月で、2回分割で返済する。
短期のつなぎ融資ということで、英国も同意したとみられる。
これで当面の債務返済の目途がたった。
7月20日、71.6億ユーロのつなぎ融資を実施。
ギリシャは同日、欧州中央銀行(ECB)が保有する同国国債の元本と利息を合わせて42億ユーロを支払った。IMFにも延滞していた20億ユーロを返済し、IMFは声明でギリシャが「延滞国」でなくなり、同国の金融安定と成長を支えると表明した。
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IMFは7月14日、ギリシャの財政に関する報告書を発表した。
http://www.imf.org/external/pubs/ft/scr/2015/cr15186.pdf
IMFは6月26日付けで、報告書を発表したが、その後の変動を織り込み、見直した。
内容は以下の通り。
2週間前の報告時以降、銀行休業、資本規制導入により銀行システムと経済は痛んだ。
ギリシャの2018年末までの金融支援の必要額は850億ユーロに及ぶ。
早期の対策の合意がなければ、債務は2年間でGDPの200%に達する。
ギリシャは欧州が考えているものを超えた救済策がなければ持続不能となる。
選択肢として、融資の金利を極めて低い最優遇金利にした上で30年以上の返済猶予を行うか、債権の一部放棄を行うことだ。
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