2024年9月アーカイブ

年齢を重ねると、骨格筋はなぜ萎縮するのか。筋の柔軟性もなぜ低下するのか。「効果的な予防法や治療法はないのか」ー 九州大学農学研究院の辰巳隆一教授らの研究グループは9月25日、加齢に伴う筋萎縮と柔軟性低下を抑制する抗体を開発したと発表した。

九州大学大学院農学研究院の辰巳隆一教授、鈴木貴弘准教授、中島崇助教、中村真子教授らの共同研究グループは、筋幹細胞 (衛星細胞と呼ばれる"眠れる筋組織幹細胞")の活性化因子HGF (肝細胞増殖因子)がニトロ化されると生理活性を失うことを見出し、この現象が加齢に伴い進行・蓄積することによって筋萎縮が進行するという新しい学説を本年1月に発表した。

この研究成果に基づいて、HGFのニトロ化・不活化を抑制するモノクローナル抗体の作出を目指し、これに成功した。

この1C10抗体は、ニトロ化されるチロシン残基の極近傍に結合することで、HGFのニトロ化を抑制する特殊な抗体。

抗体が結合した状態でも細胞膜受容体との結合性は保持されているので、筋幹細胞の活性化とこれに続く増殖・分化などの生理活性も損なうことはない。

また、抗体のFab領域(抗体分子の「Y」の上半分の「V」の部分)がニトロ化抑制効果を発揮することも明らかにした。

これらの研究成果はヒト・ネコ・イヌなどのHGFにも広く適用可能で、ヒトや伴侶動物の加齢性筋萎縮症に対する抗体医薬への応用が期待され、健康寿命の延伸に大きく貢献すると期待される。 

下図の左では、K1のy198、K2のY250はニトロ化していない。(正常)

下図の右ではK1のy198、K2のY250はペルオキシナイトライト(ONOO)によりニトロ化しており、筋萎縮がおこる。

下図中央は今回の成功事例。モノクローナル抗体(1C10)がHGFにペルオキシナイトライト(ONOO)がつくのを防ぎ、ニトロ化を抑制する。

筋幹細胞(別名:衛星細胞):

骨格筋組織に存在する幹細胞。通常は休止した状態にあるが、運動や筋損傷などの物理刺激を受けるとHGF (肝細胞増殖因子)依存的に活性化し増殖を開始する。
その後、増殖した細胞は互いに融合し新しい筋線維(骨格筋を構成する主要な細胞。細長く大きな多核細胞なので"筋線維"と呼ばれる)を形成するほか、既存の筋細胞に融合する。これにより筋線維の肥大・再生が起きる。

活性化因子HGF (肝細胞増殖因子):

1980年代前半に、肝臓から同定された細胞増殖因子。種々の組織や細胞で多彩な機能を発揮しており、多機能性細胞制御因子として認知されている。
骨格筋においては、筋幹細胞の活性化を誘導することが認知されている唯一の因子である。

活性化した筋幹細胞の増殖を促進する一方で、線維芽細胞の増殖や脂肪細胞の肥大化を抑制する働きを知られている。全身性のノックアウトは致死性であることから、HGFの重要性は容易に理解される。

ニトロ化:

特定の芳香族アミノ酸 (主にチロシン残基) の側鎖にニトロ基 (-NO2) を導入する翻訳後化学修飾反応。
生体内において、一酸化窒素ラジカル(*NO)と活性酸素(*02-)との反応により速やかに生成するペルオキシナイトライトによって非酵素的にニトロ化が起こる。

中国海洋石油集団は9月20日、アジア初の円筒型海上石油ガス処理施設「海葵1号("Haikui-1":イソギンチャクの意味)」と、アジア1の大水深ジャケット「海基2号 ("Haikui-2")」が同時に稼働すると発表した。

「海基2号」(写真奥)は掘削、生産、居住の多機能が統合されたもので、全高は428メートル、総重量は5万トンを超える。


「海葵1号」(手前)は高さ約90メートル、総重量約3万7000トン、最大石油貯蔵量は6万トンに達し、1日約5600トンの原油を処理できる。


中国が独自に設計・建造したアジア初の「海上石油・ガス処理工場」である『海葵1号』(手前)は、中国海洋石油集団青島国際化ハイエンド設備製造基地で製造した。

掘削、生産、居住の多機能が統合されたもので、円筒型FPSO(浮体式生産貯蔵積出設備)の最大直径は約90m。

下部の船体部分と上部のモジュールで構成されており、上部モジュールの重量だけでも約9,000トンあり、空船状態の船体と合わせると重量は約36,000トン。

さらに石油・ガスを最大60,000トン貯蔵できるタンクやバラストタンクを備えており、設計排水トン数は100,000トン。1日当たり約5,600トンの原油を取り扱うことができ、設計耐用年数は30年で15年間はドックに戻ることなく連続稼働が可能。

珠江口盆地流花油田で6月10日、「海葵1号」の海上設置が完了し、深水油田二次開発プロジェクトの年内生産開始に向けた基礎を固めた。

所在海域は水深約324メートルで、風向きの変化が激しく、波が頻繁に発生する。この巨大な設備を深水に安定的に据え付け、海上で15年連続で稼働させるために、12本のアンカーレッグを3組(各4本)に分け、マルチポイント係留法で設置を行った。これにより、北東、南東、北西の3方向から安定した係留力を提供し、超大型台風にも耐えられる。

この2つの超大型石油・ガス設備が稼働するのは流花油田。1996年3月に生産を開始した中国初の深海油田で、平均水深は約324メートル、確認された地質埋蔵量は1億6000万トン以上。

流花油田群は、Liuhua 11-1、16-2、20-2 およびその他 1 ~2 の油田から構成されており、全体の位置は香港から 200km 以上離れた珠江河口流域にあり、水深範囲は300~400mくらい。

現在、Liuhua 11-1が開発中であり、残りの油層はいずれも近年新たに発見されたものである。

この油田は28年間の採掘を経て、累計2300万トン以上の深海石油・ガスの供給に貢献してきた。

油田全体の採掘率を高めるため、二次開発が進められており、32カ所の井戸を新設する計画で、油田のピーク時日産量は2700トンに達する見込み。

...

米議会の与野党指導部は9月22日、2024会計年度(2023年10月~2024年9月)が期限を迎えた後も、12月20日まで予算執行を続ける「つなぎ予算案」で合意した。

米議会下院のジョンソン議長(共和党)は9月22日、今月末の予算切れによる政府機関の一部閉鎖の回避に向け、期間3カ月のつなぎ予算案を提示した。


トランプ前大統領が要求し、民主党が反対している米国有権者資格保護法案(下記)の条項を除外した。トランプ氏に対する2回の暗殺未遂事件を踏まえ、シークレット・サービスに2億3100万ドルの追加予算を盛り込んだ。追加資金は「2024年大統領選挙活動を含む警護活動の遂行に必要な業務に充てられる」としている。

9月18日につなぎ予算を下院が否決したが、これには米国有権者資格保護法案条項が入っており、民主党に加え、共和党からも14人が反対にまわった。


与野党指導部は9月22日、「つなぎ予算案」で合意した。法案は近く上下両院で可決する見通し。バイデン大統領の署名で成立する。11月の大統領選前に政府機関が閉鎖されて混乱する事態は回避される見通し。

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2024会計年度の予算については、上院が2024年3月23日午前2時(つなぎ予算は3月22日までで、期限を2時間過ぎていた)に2024会計年度予算案を可決、下院は可決済みで、バイデン大統領署名で成立した。2023年10月に2024年度に入ってから半年を経て、ようやく予算案全体が議会を通過した。

2024/3/25 米国の2024会計年度予算 ギリギリで成立、政府機関閉鎖を回避

その後、ウクライナ支援等4つの追加予算案を通している。

2024/4/24 米上院、ウクライナなどを支援する下院の緊急予算案を可決

しかし、新年度(2024/10~2025/9)のスタートを数日後に控えても、新年度の予算の成立の見通しはまったくなく、11月の大統領選挙前に政府機関が閉鎖される可能性が強まった。

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共和党が過半数を占める下院では、2025年度歳出法案を2024年度内に成立させるべく審議を進めてきた。

しかし、同歳出法案に含まれる12本の法案のうち、人工妊娠中絶や低所得者向け支援などの内容を含む法案を中心に、なお半数程度の法案が採決に至っていない。

また、同歳出法案の下院通過後には、意見の隔たりが大きい上院との協議も必要になることから、年度内の法案成立は極めて困難である。

なお、現在の上院の勢力図は下記の通り。

共和党 民主党系 合計
民主党 民主系
無所属
無所属
49 48 2 1 100

民主系無所属はSanders, King 両議員、無所属は元民主党のSinema議員
賛否同数の場合は、上院議長を兼ねる副大統領(現在は民主党)が投票


このため、新年度スタート以降、最終予算が決まるまでのつなぎ予算が必要となる。

今回のつなぎ予算法案は、2025年3月28日までの6カ月間、2024年度歳出法と同規模での予算拠出を行うというもの。

つなぎ予算法案に対しては、共和党内部で、歳出削減を強く求める保守派からの批判や、国防関連の歳出額が不足しているとの批判があったほか、民主党からは同法案とセットで提案されていた米国有権者資格保護法案(注)に対する批判や、つなぎ予算の期間を3カ月間に短縮するべきといった指摘があった。

下院は9月18日、2025会計年度の歳出法案成立までの間、政府閉鎖を回避するためのつなぎ予算案を202対220で否決した。

民主党に加え、共和党からも14人が反対にまわった。

  賛成 反対 棄権 合計 欠員
共和党 199 14 7 220 1
民主党 3 206 2 211 3
合計 202 220 9 431 4

付記 つなぎ予算可決

下院は9月25日、341対82で可決した。

  賛成 反対 棄権 合計 欠員
共和党 132 82 6 220 1
民主党 209 3 211 3
合計 341 82 9 431 4

上院は賛成78、反対18で可決した。

共和党 民主党系 合計
民主党 民主系
無所属
無所属
賛成 28 47 2 1 78
反対 18 18
棄権 3 1 4
49 48 2 1 100

民主系無所属はSanders, King 両議員、無所属は元民主党のSinema議員
  賛否同数の場合は、上院議長を兼ねる副大統領(現在は民主党)が投票


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問題の米国有権者資格保護法案(Safeguard American Voter Eligibility Act:SAVE法案)は下記の通り。

2024年に米国議会で導入された法案で、連邦選挙での投票者登録に際して米国市民であることを証明するための書類提出を義務付けることを主な目的としている。

  1. 市民権の証明:連邦選挙において投票者として登録するには、米国パスポートやREAL ID準拠のID、または他の政府発行の市民権を確認できる書類を提出する必要がある。
  2. 非市民の投票禁止の強化: 非市民が投票者として登録されないよう、申請時に市民権の証明が必要とされる。
  3. 代替プロセスの提供: 標準的な書類を提出できない場合、他の証拠を提出し、米国市民であることを誓約する代替プロセスも用意されている。
  4. 実施上の課題:法案は州に大きな管理負担を課すにもかかわらず、連邦からの資金提供はない。また、施行の準備期間が非常に短いため、選挙管理の混乱が懸念されている。ます。

この法案は、2024年7月に下院を通過し、現在は上院での審議が待たれている。

  賛成 反対 棄権 合計 欠員
共和党 216 0 4 220 1
民主党 5 198 10 213 1
合計 221 198 14 433 2

この投票日の後に民主党議員2名が死亡し、欠員が増えた。


トランプ前大統領が「もし共和党がSAVE法案を成立させず、その全てを手に入れなければ、いかなるかたちであれ、つなぎ予算に同意すべきではない」として、つなぎ予算とセットで審議することを強く求めている。

ホワイトハウスは下記の声明を出し、反対の姿勢を示している。

(1)外国人が連邦選挙で投票することは既に違法なこと、
(2)市民権を偽って主張したり、選挙で違法に投票したりした場合には、米国からの追放や入国の永久禁止の対象となるなど既に厳しい措置を取っていること、
(3)有権者資格の確認は各州で効果的な措置が取られていること
から、選挙の公正性の確保には役立たない。同法案により有権者登録がはるかに困難となり、有権者が有権者名簿から不当に削除されるリスクを高める。

帝人は9月19日、セレブロファーマと共同研究で、漢方薬原料による認知機能改善効果を発見したと発表した。

帝人は、医薬品事業および在宅医療事業で培った研究開発力や臨床評価技術を活用し、「ニュートラシューティカル製品」 (健康の維持を目的として、明確な科学的根拠に基づいて開発された日常的に摂取可能な食品) の研究開発・製造販売を行っており、NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)や、本わさび由来の 6-MSITC(6-メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネート)を含有したサプリメントなどの研究開発・製造販売を行っている。

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セレブロファーマは、大阪市立大学大学院医学研究科認知症病態学研究室の研究成果を元に、認知症の予防薬・治療薬を世に出すことを目的として、2017年11月に大学発ベンチャーとして設立された。

漢方薬原料の「酸棗仁(サンソウニン)」はクロウメモドキ科サネブトナツメの種子で、抽出エキスが漢方薬の原料として使用されており、鎮静・鎮痛・血圧上昇作用を有する。

セレブロファーマは、この酸棗仁がモデルマウスを使った実験でアミロイドβオリゴマーやタウオリゴマーを減少させ、脳由来神経栄養因子の発現を上昇させることで、認知症の予防に有効であることを見出した。

参考 アルツハイマー病の脳 (人間)

    アミロイドβ やタウは認知症の原因といわれるタンパク質

この天然物は摂食可能で安全性も高く、脳への直接作用に加え、腸内細菌に働きかけて間接的に脳の機能を改善する作用も合わせ持つことが示唆されている。

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セレブロファーマはこれをセルフ・メディケーションのための認知症予防食品として開発すべく、現在、帝人と共同で医療用食品として発売するためのプロジェクトを進めている。

帝人とセレブロファーマは共同研究を実施し、酸棗仁(サンソウニン)の全粒粉の投与により、認知症モデルマウスの認知機能が健常マウスと同程度に改善することを新たに発見した。

(1)前頭側頭型認知症モデルマウス(Tau784 マウス)、アルツハイマー病モデルマウス(APP23マウス)、パーキンソン病モデルマウス(αSyn マウス)を、酸棗仁の全粒粉を摂取させる群(全粒粉摂取群)、酸棗仁の抽出エキスを摂取させる群(抽出エキス摂取群)および酸棗仁を摂取しない群(コントロール群)にそれぞれ分け、1か月後にモリス水迷路行動試験法(*)を4 日間行い、認知機能の変化を健常モデルマウスと比較し、評価した。

(*)空間学習能力と記憶力を測定するための行動試験。水を張ったプールにラットを浮かべ、プール内に設置された透明の足場に退避するまでにかかる時間を計測して評価する。

(2)その結果、Tau784 マウス、APP23 マウス、αSyn マウスのすべてにおいて、全粒粉摂取群と抽出エキス摂取群のいずれも、退避行動にかかった時間が短縮され、認知機能の改善が見られた。

ただし、抽出エキス摂取群は、退避行動にかかる時間は短縮されたが、その程度は健常マウスには及ばなかった。
一方で、全粒粉摂取群は、退避行動にかかる時間が健常マウスと同程度に短縮されており、認知機能が改善されることが分かった。

(3)さらに、このような認知機能の改善と脳の関係を生化学的に解析したところ、全粒粉摂取群の脳では認知症病原タンパク質であるタウの集合体などの蓄積が除去されていた。

(4)これらの結果により、酸棗仁の全粒粉は認知症病原体タンパク質の除去を介して、幅広い認知症の治療や予防に有効である可能性が示唆された。

本研究成果は 2024年9月1日に学術誌「eLife」において掲載された。

「Simply crushed Zizyphi spinosi semen prevents neurodegenerative diseases and reverses age-related cognitive decline in mice 」
掲載 URL: https://doi.org/10.7554/eLife.100737.1


帝人は、今回の試験での結果を踏まえ、今後、酸棗仁の全粒粉についてヒトでの安全性や有効性の確認を進めながら、認知機能改善へのソリューションとして社会実装することを目指し、セレブロファーマと健康食品の開発などを進めていく。

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ツムラ酸棗仁湯エキス顆粒(医療用) 効能又は効果:心身がつかれ弱って眠れないもの

米大手電力Constellation Energy Corporationは9月20日、東部ペンシルベニア州のスリーマイル島原子力発電所1号機を再稼働させると発表した。

Microsoftの人工知能(AI)で使用するデータセンターに20年間にわたり電力を供給する。米国ではデータセンターの電力消費が急増し、温暖化ガスを排出しない原発の見直しが進んでいる。

スリーマイル島原発2号機では1979年に事故が発生した。メルトダウンが発生し、米国で原発の新規建設が数十年にわたり停滞した原因となった。

事故を免れた1号機は運転を続けたが、再生可能エネルギーと天然ガス火力発電の台頭を受けて競争力が低下。運転期間の許認可は2034年までだったが、それを待たずに2019年に廃炉を決めた。

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米電力大手Exelon Corporation は2017年5月29日、ペンシルベニア州のThree Mile Island Generating Station について、 州政府の支援が受けられなければ2019年に閉鎖すると発表した。

1979年3月に2号機が炉心溶融事故を起こし運転を停止した後も1号機は稼働していたが、「シェール革命」でガス火力発電が安価になり、採算が悪化していた。

1974年に運転を開始した1号機は、米原子力規制委員会(NRC)から2034年までの運転認可を得ているが、採算割れが続いている。同社は運転継続を可能にするため、州政府に補助金など再生可能エネルギー並みの支援を要請したが、不調に終わっている。

発表でCEOは、New York 州やIllinois 州のように、Pennsylvania州も クリーンで安定したエネルギーを維持し、また雇用を維持する対策を取るべきだとする。原発が止まれば、大気汚染が増え、電力供給が不安定になり、消費者のエネルギーコストが増加し、雇用が減り、州経済を弱化させるとしている。

Three Mile Island原発の概要は次の通り。
形式 出力 運転開始 事故発生 運転認可
1号機 加圧水型(PWR) 837MW 1974年6月19日 ーーー 2034年まで
2号機 加圧水型(PWR) 959 MW 1978年12月30日 1979年3月28日* ーーー

* 炉心溶融(メルトダウン)で、燃料の45%、62トンが溶融し、うち20トンが原子炉圧力容器の底に溜まった。


     1982/5 筆者撮影



Three Mile Island 原発の所有者の変遷は次の通り。

Owner
建設 General Public Utility →(改称)GPU
1979(2号機爆発) GPU子会社 GPU Nuclear 1998年まで1号機運転
1998年 AmerGen Energy Companyが買収 AmerGen Energyは①Philadelphia Electric Companyと②British Energy GroupのJV
2000年 Exelon Corporation  ①の持ち分買収 Philadelphia Electric CompanyはUnicom Corporationと合併
2003年 ②の持ち分買収し全体買収
2012年 Exelon Corporation  Exelonが Constellation Energyを買収し、統合
2022年 Constellation Energy Exelonが、Constellation Energy (utilities and power generation businesse)を分離
2024/9/20 Constellation Energy Constellation Energy/Microsoft  電力の20年売買契約締結→1号機再開へ

2022年にConstellation Energy がExelonの用役・発電部門全体(Three Mile Island 1号機を含む)を引き継いで分離した。

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再稼働するのは1号機83万5000キロワット。

Constellation Energy は約16億ドル(約2300億円)を投じて安全対策を進め、原子力規制当局の許認可を経て2028年までに再稼働させる。加えて、2054年までの運転の許認可も求める。再稼働のための公的支援額の見通しは明らかにしていない。

米国ではAIの普及でデータセンターの電力需要が急増しており、マイクロソフトは2025年までデータセンターなどの消費電力の排出ゼロを目指している。温暖化ガスを排出しない基幹電源(ベースロード)として原発の電力の調達を増やす。民間企業1社が大型炉1機分の電力をまるごと買い取る契約は珍しい。 マイクロソフトのエネルチー担当ホリス副社長は、「電力網の脱炭素化に取り組むうえでの重要な節目となる」と述べた。

米国のIT大手はこれまで再生エネで排出削減を目指してきたが、最近は原発活用にかじを切っている。アマゾン・ドット・コムも3月、ペンシルベニア州のデータセンターを購入して近くの原発から電力供給を受けることで合意した。

米国テキサス州・ヒューストンに拠点を置く電力会社のTalen Energy Corporationは3月4日、同社が所有するペンシルベニア州北東部にあるCumulus data center campus を米アマゾン傘下のクラウド・サービス・プロバイダーであるAmazon Web Serviceに6億5,000万ドルで売却したと発表した。

Cumulus data center は、Talen Energyが90%を所有、運転する隣接のサスケハナ原子力発電所(BWR, 130.0万kW×2基)から直接電力供給を受ける。Cumulus キャンパス内には、同様に同発電所から電力を調達しているNautilus暗号資産(仮想通貨)施設が現在稼働中であり、Talen Energyはその75%の権益を保持している。

データセンターの急増で先行きは大幅に増加するとの見通しが2023年ごろから台頭した。2028年まで大型原発38機分に相当する3800万キロワット分の追加需要が発生するとの予想もある。再生エネだけでは賄えず、排出削減に向けた課題。

廃炉した原発を復活させる動きはこのほかにもある。ミシガン州と連邦政府は、約20億ドルを投入してパリセーズ原子力発電所を再稼働させる計画で、2025年10月の稼働開始を目指している。

米Intelは9月16日、ファウンドリー事業部門である「Intel Foundry」を独立子会社化する予定と発表した。経営状況が悪化する中、立ち上げに遅れているIntel Foundryの収益改善を急ぐ。

同社の2024年4~6月期は純損益が16億1000万米ドルの赤字だったが、Intel Foundryの28億米ドルの赤字が大きく影響した。

こうした業績悪化を改善するため、Intelは2025年に100億米ドル(同1兆4000億円)のコスト低減を目指している。事業再編や人員削減、海外工場の計画保留などを進めており、Intel Foundryの子会社化もその一環とする。


なお、Intelがドイツとポーランドに建設中の半導体製造工場については「約2年間計画を保留する」。

     2023/6/22 Intel、ドイツ・ポーランド・イスラエルに新工場建設

マレーシアに建設する先端パッケージング工場については、市況などに合わせて稼働を開始するという。

これまで、Intelの製造拠点は、ウエハーに回路を成形する前工程工場と、製品の形に整えたり試験したりする後工程工場の2種類があった。


しかし、最近は製造プロセスなどが異なる小さなチップ「チップレット」をブロックのように組み合わせて1つのチップとして扱えるようにするチップレット集積や、チップを垂直方向に積み上げる3次元(3D)実装などが製品の差異化領域となり、それらを実現する後工程が注目されている。こうした先進的な後工程をIntelは「Advanced Packaging」と呼んでいる。

マレーシア拠点は、アドバンストパッケージングを手掛ける2拠点のうちの1つで、もう1つの拠点は米ニューメキシコ州にある。

Intelは2023年8月、マレーシアにある同社の最先端の後工程工場を報道関係者向けに公開した。

Intelのマレーシアでの歴史は1972年に遡る。1棟の建物と100人の従業員から始まった拠点は、約50年で約8万4000平方メートルの敷地面積と、1万5000人の従業員を抱えるIntelの重要拠点の1つとなった。
今回、同社が公開したのは、ペナン州にあるペナンキャンパスと、ケダ州のクリム地区にあるクリムキャンパスにある施設。

アリゾナ州やオハイオ州など米国内の投資計画は維持する方針を示した。

2022/1/31  インテル、米に世界最大級の半導体工場新設 

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米国の官民がIntelの救済に一丸で乗り出した。

9月16日、米政府はIntelに最大30億ドルの補助金を追加支給すると発表した。

「国家安全保障のために国内の先端半導体の供給網へのアクセスを確保する」としている。


Amazon Web Service
は人工知能(AI)向け半導体の生産を委託すると発表した。数年間にわたり共同で数十億ドル規模の投資を見込む。


半導体は安全保障上の重要性が増しており、最先端の半導体製造の国産化を背負うIntelに米政府の関与が強まっている。

米国の半導体支援策  (日経まとめ)

概要:半導体国産化強化と供給網の安定を目指し、2022年にCHIPS・科学法成立。527億ドル補助   

2022/7/29 米議会、「CHIPS法」を可決 

補助金を受けた各社の投資計画

台湾TSMC アリゾナ州に650億ドル投資
米 Intel アリゾナ州とオハイオ州に新工場建設 建設遅れ
韓国 Samsung テキサス州に450億ドル投資
米 Micron アイダホ州やNY州などにメモリー工場


付記

Wall Street Journalなどは9月20日、アメリカの半導体大手 Qualcommが業績の低迷が続く同業のIntelに買収を打診したと報じた。ただ、関係者の話として「合意にはほど遠い」と伝えているほか、反トラスト法の審査対象になる可能性が高いとも指摘している。

インテルの時価総額は930億ドルで、Intelの会社全体を買収すれば巨額の取り引きとなる。


インテルは主力のパソコン向けCPU(中央演算処理装置)やデータセンター向けの半導体を手がける。

Qualcommはスマートフォン向けけの半導体に強みを持ち、パソコン向け事業を強化している。Qualcommの通信モデムラインは非常に先進的で、Android スマートフォンだけでなく iPhone にも使用されている。Appleは世界有数のチップ設計能力を持ちながら、これまでQualcommと競合できる通信モデム製品を開発できず、Qualcommに依存するしかなかった。

ロイター通信は9月5日、QualcommがIntelのパソコン向け半導体の設計部門などの買収を換討していると報じていた。


韓国の原子力安全委員会は9月12日、第200回会議を開き、慶尚北道蔚珍郡にある新ハヌル3、4号機建設案を許可したと発表した。新ハヌル3、4号機は前政権の「脱原発」政策で2017年10月に建設が中断された。
今回の許可は、韓国水力原子力が2016年1月に建設許可を申請してから8年8ヵ月ぶりに行われた。

これで韓国はセウル3、4号機(旧名「新古里5、6号機」)の建設許可以来、8年3ヵ月ぶりに新しい原発を建設することになった。

新ハヌル3、4号機は出力規模がそれぞれ1400メガワット(MW)の加圧軽水炉型原発(APR 1400)で現在運営中のセウル1・2号機、新ハヌル1・2号機と設計が同一だ。2016年1月に建設許可を申請したが、1年余り後の2017年10月、文在寅(ムン・ジェイン)政府が閣議を通じて「エネルギー転換ロードマップ」を議決し事業が中断され、建設許可審査も中止となった。以後、今回の政府が2022年7月に建設事業再開を宣言し、審査が再開された。

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韓国産業通商資源部は2022年12月14日、東部の慶尚北道蔚珍郡で新ハヌル原子力発電所1号機の完工式を開催した。

国内27基目の原発で、韓国が独自技術で開発した次世代型の原子炉「APR1400」を採用している。2010年の着工から12年を経て、今月7日に営業運転を開始した。

新ハヌル原発1号機は、課題として残っていた原子炉冷却材ポンプや計測制御システムなどのコア技術を国産化した。今後チェコなどに輸出されるAPR1400は韓国を代表する原子炉モデルとして、尹錫悦政権が国政課題の一つに掲げる「2030年までに10基の原発輸出」の達成に貢献する見通し 。


尹大統領はこの日の竣工式祝辞を通じて、前政府で推進していた脱原発政策の白紙化を公式化した。「独自の小型モジュール原子炉(SMR)の開発に合計4000億ウォンを投資し、未来の原発市場の主導権を確保していく」とも述べた。

「過去の政権で無理に推進された脱原発政策を廃棄して、原発政策を正常化した」とし「脱原発で萎縮した韓国の原発産業が活力を帯びて再び飛躍するだろう」と自評した。「政府は原発産業を我が国の輸出を導いていく支えにして、大韓民国が世界的な原発強国としての地位を今一度誇れるように積極的に支援する」とし、今年を「原発再飛躍元年」とした。


2022年5月に発足した韓国の尹錫悦政権は7月5日、同政権による初のエネルギー政策を決定したと発表した。

文在寅前政権が定めた脱原子力政策を正式に撤回し、総発電量における原子力発電のシェアを上方修正すると表明。2030年に原子力で少なくとも総発電量の30%を賄う方針であることや、白紙撤回された新ハンウル3、4号機(各PWR、140万kW)建設計画の再開方針などを明確に示した。

2022/12/20 韓国、新ハヌル1号原発の竣工式 


韓国は原発の輸出に注力している。

韓国が初めて海外に輸出した原発、アラブ首長国連邦(UAE)西部のバラカ(Barakah )原発4号機が2024年3月2日、出力100%に到達した。 韓国電力とUAEの原子力公社 (Emirates Nuclear Energy Corporation:ENEC ) の投資で設立されたUAE原発運営会社 (Nawah Energy Company:韓国電力18% / ENEC 82%) によると、4号機はこの日、昨年12月に燃料装填を完了してから3カ月後に初臨界に達した。

バラカ原発は韓国型原発の1400MW級APR1400炉型。アラブ地域初の商業用原発で最大クリーン電力源に挙げられる。

韓国初の海外原発事業で、斗山重工業・現代建設・サムスン物産などの韓国企業が参画し、韓国電力は主契約者として原発の設計・製作・施工・試運転および運営支援までを担当した。

2024/3/5 韓国が輸出したUAEのバラカ原発4号機が稼働

韓国産業通商資源部は2024年7月17日、チェコのドコバニとテメリンに1000メガワット(MW)級の原発各2基を建設する事業の優先交渉対象者に韓国電力公社の系列会社「韓国水力原子力」が選定されたと発表した。

今回確定した事業はドコバニ5・6号機で、チェコ側が予想した建設総事業費は173億ドル。最終契約金額は今後の交渉を通じて最終決定される予定。テメリンに建設する2基については5年以内に建設するかどうかを決める。

本件には
フランス電力公社(EDF)も入札に参加し、マクロン大統領自らも売り込みに乗り出したものの敗退した。

逆に韓国は、アラブ首長国連邦(UAE)でアラブ諸国で初めての原発建設を手がけたが、チェコでも選定されたことで欧州での新たな足掛かりを得ることになる。

ーーー

 

 

運転開始 原子炉形式 容量
 kW
文大統領の政策協定 新政権
ハヌル
(
蔚珍)

1

1988/9/10 加圧軽水炉 (PWR) 95万
2 1989/9/30 加圧軽水炉 (PWR) 95万
3 1998/8/11 加圧軽水炉 (PWR) 100万
4 1999/12/31 加圧軽水炉 (PWR) 100万
5 2004/7/29 加圧軽水炉 (PWR) 100万
6 2005/4/22 加圧軽水炉 (PWR) 100万
新ハヌル 1 (2018/4) KSNP (APR-1400) 140万

建設を暫定的に中止し、 社会的合意を通じて運転の是非を決定→建設

2022/12/14  
完工式
2 (2019/2) KSNP (APR-1400) 140万
3 KSNP (APR-1400) 140万 許可を取り消す。→ 「取消」への反対運動 2024/9/12
建設許可
4 KSNP (APR-1400) 140万
ハンピッ

(霊光)

1

1986/8/25 加圧軽水炉(PWR) 95万
2 1987/6/10 加圧軽水炉(PWR) 95万
3 1995/12 加圧軽水炉(SYSTEM80) 100万
4 1996/3 加圧軽水炉(SYSTEM80) 100万
5 2002/5/21 KSNP(OPR-1000) 100万
6 2002/12/24 KSNP(OPR-1000) 100万
月城

1 1983/4/22 CANDU 67.9万 運転延長取り消し判決の控訴を取り下げ、即時閉鎖
2 1997/7/1 CANDU 70万
3 1998/7/1 CANDU 70万
4 1999/10/1 CANDU 70万
新月城

1 2012/7/31 KSNP(OPR-1000) 100万
2 2015/7 KSNP(OPR-1000) 100万
3 KSNP(OPR-1000) 100万 (未認可)
4 KSNP(OPR-1000) 100万
古里

1 1978/4 加圧水型(PWR) 58.7万 (2017年6月停止決定)
2 1983/7 加圧水型(PWR) 65万
3 1985/9 加圧水型(PWR) 95
4 1986/4 加圧水型(PWR) 95万
新古里

1 2011/2 加圧水型(PWR) 100万
2 2012/7 加圧水型(PWR) 100万
セウル
1号

新古里
3 2017/1 加圧水型(PWR) 140万
セウル
2号
4 2019/5 加圧水型(PWR) 140万

建設を暫定的に中止し、社会的合意を通じて運転の是非を決定
建設継続→ 2019/4 稼働

セウル
3号
5 加圧水型(PWR) 140万 許可を取り消す。
2017/10/26 韓国大統領、新古里原発5、6号機の建設再開を表明
建設許可 
セウル
4号
6 加圧水型(PWR) 140万
三陟 4基 白紙に戻す。
盈徳 4基

米政府は9月13日、米通商法301条に基づく対中制裁関税の大幅な引き上げについて最終決定を下した。2024年分について、9月27日に引き上げる。

電気自動車の関税率を100%に引き上げるなどし、中国で過剰生産された廉価品に対し米国の戦略産業分野の保護を強化する狙いがある。


米国は5月14日、中国製EV関税などを大幅に引き上げると発表した。

5/29の一覧表発表時に、改正時期の2024年は2024年8月1日、2025年は2025年8月1日とされた。

2024/5/15 米国、中国製EV関税など大幅引き上げ 

その後、8月1日に予定していた中国の電気自動車などに対する制裁関税の引き上げを2週間以上、延期すると発表。

更に8月30日に最終決定を9月上旬に再延期すると発表していた。


2024年5月に発表された改正案は、一般からの1,100件を超えるコメントを検討した結果、中国の不公正な貿易慣行からアメリカの企業と労働者を保護する措置を強化するためのいくつかの更新を加えて、ほぼ採用された。

全リスト 
https://ustr.gov/sites/default/files/Section%20301%20Modifications%20Determination%20FRN%20(Sept%2012%202024)%20(FINAL).pdf


引き上げの主なものは下記の通り。

現行レート 改正レート 改正年
Battery Parts (Non-lithium-ion Batteries) 7.5% 25% 2024
Electric Vehicles 25% 100% 2024
Facemasks 0~7.5% 25% 2024
50% 2026
Lithium-ion EV Batteries 7.5% 25% 2024
Lithium-ion non-EV Batteries 7.5% 50% 2025
100% 2026
Medical Gloves 7.5% 50% 2025
100% 2026
天然黒鉛 0% 25% 2026
その他重要鉱物 25% 2024
永久磁石 0% 25% 2026
Semiconductors 25% 50% 2025
Ship-to-Shore Cranes 0% 25% 2024
Solar Cells (組み立て有無に関係なく) 25% 50% 2024
鉄鋼・アルミ製品 0~7.5% 25% 2024
注射器,注射針 0% 100% 2024
改正時期 9/27 1/1 1/1


医療用マスクと手術用手袋への関税を当初案の25%から50%に引き上げたが、中国以外の供給元への切り替えを可能にするため開始を遅らせた。
中国製注射器の関税率は当初予定の50%から100%に引き上げ、即時発効とする。乳児の経腸栄養注入器については1年間の除外を認める。

半導体は2025年、重要鉱物の天然黒鉛は2026年の、それぞれ1月1日に税率を引き上げる。 
半導体に対する50%の関税は2025年に導入する予定で、新たに太陽光パネルに使用されるポリシリコンとシリコンウエハーが追加された。

一方、コメントを受けた見直しにより、最初に関税強化が発表された今年5月14日までに契約した港湾用クレーンについては、2026年5月14日まで適用を除外することを決めた。米港湾当局協会は国内で大型クレーンを製造できる企業がなく、多額の追加費用が発生するとして撤回を要望していた。


中国商務部の報道官は9月14日、これについて「断固として反対する」との談話を発表した。「必要な措置を取り、中国企業の利益を守る」とも述べ、対抗策の発動を示唆した。報道官は「典型的な一国主義や保護主義のやり方だ」と強く批判した。

ーーー

米国では800ドル以下の個人向け貨物は、関税や複雑な輸入手続きが免除されている。米国人旅行者が持ち帰る土産物や贈答品などへの適用が想定されている。

しかし、中国の衣料ネット通販大手シーイン(SHEIN)やテム(Temu) などの利用が急拡大。海外拠点から米国の個人宛て小口貨物で商品を輸送するため、関税の適用対象外となってきた。
米政府によると、適用除外の輸入品は過去10年間で7倍超に膨らんだ。

今回、商法301条などに基づいて制裁関税を課された製品は、個人向け小口貨物を対象にした関税免除措置を適用しないと発表した。インターネット通販の急拡大で、衣類など安価な製品が無税で流入し、制裁関税の「抜け穴」になっていることを受けた措置で、さらに議会に対し、同措置の抜本的な見直しに取り組むよう要請した。

ーーー

EVの関税を100%に引き上げるが、現在はほとんど輸入はない。将来の流入に備えた予防措置と思われる。

ただし、比亜迪(BYD)のEVの最安値は1万2000ドルで、米国のTeslaのEVは安くても3万ドル超である。関税を100%に引き上げてもBYD品は2万4000ドルで、Tesla品よりはるかに安い。

米国のコストが高いのが問題だが、米国の理屈は、中国の低コストは過剰生産の結果であり、それを低価格で輸出するのは不公正な貿易慣行であるというものである。

2024年のIg Nobel 賞の受賞者が9月12日(日本時間13日)に発表され、生理学賞は、東京医科歯科大学と大阪大学で教授を務める武部貴則氏らの研究チームによる「多くの哺乳類が肛門呼吸できることの発見について」に贈られた。

武部貴則教授(37)の専門は実は「再生医学」で、11年前に共同研究者とともにヒトのiPS細胞から肝臓の機能を持つ細胞のかたまりを作ることに初めて成功した。

2019年にはヒトのiPS細胞から肝臓やすい臓など複数の臓器を同時に作り出すことにも成功している。

今回の研究を始めるきっかけとなったのは、田んぼなどに生息する「ドジョウ」で、ドジョウは酸素が少ない環境ではえらだけでなく腸でも"呼吸"できるという特徴があるため、哺乳類の中にも同じように腸から酸素を吸収できるものがいるのではないかと考えた。


実験では肺の機能が低下したブタのお尻から高い濃度の酸素を含む特殊な液体を入れ、体内に酸素がどれくらい取り込まれるかを調べた。その結果、血液中の酸素の量が大幅に増えた。

さらに▽酸素を含む液体を注入したマウスは酸素が少ない環境でも活発に動き回る様子が確認できたほか、▽呼吸不全の症状のあるブタに酸素の液体を注入したところ、症状が改善した。

この研究の論文は3年前の2021年、新型コロナウイルスの感染拡大によって各地の医療機関で重い肺炎の患者が相次ぐ中、発表された。

呼吸不全の新たな治療法として、実用化に向けた研究は現在も進められていて、ことし6月には武部教授が創業したベンチャー企業などが安全性などを確認する臨床試験を始めている。

株式会社EVAセラピューティクスは、腸呼吸を応用した治療法や医療機器を開発する東京医科歯科大学発ベンチャー企業。

武部貴則教授の研究チームが開発した、腸を用いたガス交換により血中酸素分圧を上昇させる「腸換気技術(EVA法)」の実用化を目的として設立。

腸管内に純酸素ガスもしくは酸素が豊富に溶けたパーフルオロカーボン(炭素とフッ素のみから構成される化学物質)を注入することで肺を介さずに呼吸不全を緩和できる可能性があり、人工肺(ECMO)や人工呼吸器の離脱促進や上気道閉塞における急性期の呼吸管理法としての利用を見込む。

EVA法は、内閣府主催の「第4回 日本オープンイノベーション大賞」において、「腸換気(EVA)技術の実用化」として科学技術政策担当大臣賞を受賞した。


なお、日本人の
イグノーベル賞受賞は18年連続。 過去の受賞者


本年のその他の受賞(9件)は次の通り。

平和賞
B.F. Skinner
ミサイルの飛行経路を誘導するために生きたハトをミサイル内に飼育することの実現可能性を調べる実験

第二次世界大戦時に海軍研究所で行われた研究プログラムで、ミサイルの誘導にハトを使うことが検討された

鳥を垂直に透明なプラスチック板(スクリーン)の上に配置する新しいハーネスシステムを考案し、ニュージャージー海岸のどこかにあるターゲットの投影画像をスクリーン上で「つつく」ように訓練した。
誘導信号は、スクリーンとくちばしが接触したポイントから拾われた。
最終的には、システムをより強固なものにするために、3羽の鳩を使用するバージョンを作成した。

この時点で、軍事の焦点はマンハッタン計画に移っており、この案は却下された。

植物学賞
Jacob White
Felipe Yamashita

「本物の植物が隣接するプラスチック製の人造植物の形状を模倣することの発見」

ホワイト氏とヤマシタ氏(ブラジル人、ボン大学)は、チリ南部の熱帯樹林に生育するBoquila trifoliolataというつる植物をプラスチック製の藤の木にまとわせたところ、Boquila trifoliolataの葉色・向き・葉脈パターンがプラスチック製の藤の木についている偽物の葉を模倣したことを発見した。

Boquila trifoliolataが宿主植物の模倣をすることは知られていたが、どういう情報経路で模倣を行うかはわかっておらず、化学物質経由か遺伝子経由であると考えられていた。しかし、今回の実験でプラスチックの植物も模倣したことから、「これまで考えられた2つの可能性は否定された」と論じている。

解剖学賞
Marjolaine Willems

「毛髪形成における遺伝的決定論と半球の影響」

研究チームは、北半球に住んでいる人と南半球に住んでいる人、そして同性の双生児74組でつむじの向きをチェックした。

その結果、双子のつむじの向きは同じであったことから、つむじの向きへの遺伝的影響は強いことが判明。
さらに、南半球の子どものつむじ毛は北半球の子どもよりも反時計回りの傾向が高いこともわかり、研究チームはHemispheric Influenceの可能性が示唆されたとしている。

薬学賞
Lieven A. Schenk
痛みを伴う副作用を引き起こす偽薬は、痛みを伴う副作用を引き起こさない偽薬よりも効果的である可能性があることについて


研究チームは77人の健康な参加者に「フェンタニル(鎮痛薬)鼻腔スプレーを投与する」と伝えて投与する実験を行った。
実際には一方のグループには中性のスプレー、一方にはカプサイシン(軽度の灼熱感を引き起こし、偽の副作用として機能)を含むスプレーが与えられた。

実験の結果、偽の副作用を引き起こすプラセボスプレーの方が、副作用のないプラセボスプレーよりも効果的に痛みを軽減することが明らかになった。
これは参加者が灼熱感を副作用として期待し、それによってスプレーが効いていると思い込んだためと考えられる。軽度の副作用が実際には治療効果を高める重要な役割を果たす可能性があることを示唆している。

物理学賞
James C. Liao
死んだマスの遊泳能力の実演と説明

魚は渦流のエネルギーを利用することでエネルギー消費を抑えていると考え、泳ぐ動きを変えて流れ​​に同期するニジマスを実験対象として選んだ。

ニジマスの死骸を流水装置に入れたところ、速度変化をつけることはできないという違いはあるものの、生きたニジマスと同じような動きをすることが分かった。「つまり、魚は渦流から十分なエネルギーを引き出して自身の抗力を克服することができ、羽ばたく物体はたとえ遠く離れていても、エネルギーを消費することなく、別の航跡を生成する物体を追うことができるということです」

確率賞
František Bartoš
コインを投げた時、最初に上にしていた面が出る確率の方が高いという理論を35万757回の実験で示したことについて


理論的にはどちらも2分の1で等しいはずだが、実際にはコインの重心に偏りがあり、コインを投げるとその回転軸の方向が変化するため、最初の面を上にして空中にある時間がより長くなると研究チームは予想した。テストの結果、最初に上にしていた面が出る確率の方がわずかに高いことが示された。

化学賞
Tess Heeremans
酔った虫と酔っていない虫を分離するためのクロマトグラフィーの使用

自己駆動粒子(自分で速度を変えられる物質や物体)に関するもので、研究チームはイトミミズを高活性グループと低活性グループに分け、低活性グループにはエタノールを吸収させ、両方のイトミミズを流路に放った。

その結果、エタノールを摂取していない高活性のミミズは、酔っぱらったミミズよりも先に流路の端まで到達した。活性ポリマーを長さと活性で選別するには「構造化された空間中に流れる流路」が適していることを示した。

人口統計学賞
Saul Justin Newman
最も長生きしたことで有名な人々の多くが、出生と死亡の記録がきちんと保管されていない場所に住んでいたことの発見


従来、100歳以上の長寿者が集中する「ブルーゾーン」は、強い社会的つながりや野菜摂取量の多さ、特定の遺伝的要因などと関連付けられてきた。しかし同氏は、貧困や低所得、高い犯罪率といった要因と長寿との意外な関連性に気づき、人口統計データを詳しく調査した。

その結果、各ブルーゾーンのデータに多数の誤りがあることが判明した。例えば、1997年のイタリアでは3万人の死亡者が年金を受給し続けていたり、2000年のコスタリカの国勢調査では99歳以上の42%が年齢を誤って申告していたことが分かった。さらに2010年の日本では、百歳以上の高齢者23万人以上が行方不明、架空の人物、死亡、または事務的ミスによるものであり、82%もの誤りがあったことを明らかにした。ニューマン氏は「他の分野でこれほどの誤りが発見されれば大スキャンダルになるはずだが、人口統計学ではこうした問題がほとんど言及されません」と指摘。

生物学賞
Fordyce Ely
牛がいつ、どのように乳を噴出するかを調べるために、牛の背中にいる猫の横で紙袋を爆発させる実験(猫は不要と判明)


搾乳時に乳を出そうとしない牛と、すぐに乳を出す牛の違いに注目し、乳房からの乳の射出に関わる生理学的プロセスを理解するための実験

乳を出す行為は、血中のオキシトシンによる乳腺内の圧力が高まる条件反射として説明できると結論付けられた。
この条件反射により、乳腺胞と乳管の筋肉が収縮し、乳が放出されると論じている。
また、乳を出さない場合は血中のアドレナリンが筋肉の収縮を妨げ、乳腺内の圧力が高まるのを防いでいることが分かった。


注 人口統計学賞での日本についての記述

2010年9月10日、所在不明高齢者問題を巡り、現住所が不明で住民票が削除されているにもかかわらず、戸籍上「生存」する100歳以上の高齢者が約23万人以上いることが法務省の調査で分かった。
戦争や移民先の海外で死亡したものの、死亡届が未提出の例が多いとみられる。同省は自治体に対し、戸籍の整理・抹消手続きを促す。

同省は2010年8月末から9月初めにかけ、電子化された戸籍を中心に、全体の約9割にあたる約4743万戸籍を調査。現住所や住所履歴を記す戸籍の「付票」に住所の記載がない100歳以上が23万4354人。うち「120歳」以上が7万7118人、「150歳」以上は884人だった。

田辺三菱製薬の将来

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9月10日付けの日本経済新聞は、「田辺三菱製薬を売却へ 三菱ケミG 多額の開発費重荷」と題する記事を掲載した。

化学業界では中国メーカーの過剰生産で収益が悪化し、各社が事業見直しを迫られている。三菱ケミGも本業との相乗効果が見込みにくい医薬品を含め全社的な事業再構築を模索する。

三菱ケミGは売却に向けファイナンシャルアドバイザーを起用し、外資系ファンドなどに打診しているもようだ。売却に向けての交渉は初期段階とみられる。三菱ケミGは田辺三菱を完全子会社化した際の5000億円を上回る金額での売却をめざしているようで、金額など条件次第では売却しない可能性も残る。

収益貢献が高い医薬品事業も見直しの対象になるのは、多額の研究開発費用が必要という医薬品事業特有の理由がある。医薬品の世界では従来型の低分子医薬品からパイオ薬が競争の中心になり、創薬の難易度が格段に上がった。世界の製薬大手は毎年数千億ー1兆円規模を研究開発に投じている。田辺三菱の売り上げは約4300億円と国内でも中堅規模。三菱ケミGの筑本学社長は「医薬品事業のための資金をどう捻出するかは頭が痛い問題」と話す。

三菱ケミカルは同日、この報道を否定した。

当社が発表したものではなく、そのような事実はありません。
当社は、ファーマ事業を含めた全ての事業を対象に、グループ全体の事業ポートフォリオのあるべき姿に関して継続的に検討をしており、売却を含めたあらゆる選択肢を念頭に置いてポートフォリオ改革を推進しております。今後開示すべき事実が発生した場合は速やかに開示いたします。

後述するが、同社には有望な製品はなく、買い手を探すのに苦労すると思われる。

ーーー

三菱ケミカルホールディングスは2019年11月18日、田辺三菱製薬の普通株式の全てを取得し、完全子会社とすることを目的とし、公開買付けを実施すると発表した。TOBは成立し、2020年2月末に田辺三菱製薬は上場廃止となった。その後、田辺三菱製薬の決算は公表されていない。

2019/11/22  三菱ケミカルホールディングス、田辺三菱製薬に公開買付け

三菱ケミカルのヘルスケア事業のコア営業損益の状況はこれまでの発表からみると、下記の通りである。2023/3月期以降は田辺三菱製薬の実績は不明。

コア営業損益 単位:億円

三菱ケミカル
ヘルスケア部門
田辺三菱製薬
合計 田辺以外 コア合計 うちロイヤリティ その他
2019/3 538 -20 558 631 -73
2020/3 165 -26 191 174 17
2021/3 179 -31 210 159 51
2022/3 -70 -40 -30 133 -163
2023/3 1,418 159 1,259
2024/3 563

1.三菱ケミカルのヘルスケアの営業損益のうち、田辺三菱製薬分を除くとほとんどなし。

2.田辺三菱製薬の損益は大半がロイヤリティ収入で、それ以外の販売損益はゼロに近い。 

  

 ・ 多発性硬化症治療剤「ジレニア」

田辺三菱製薬の前身の吉富製薬が創製し、海外ではノバルティス(スイス)に導出したこの薬剤のロイヤリティ収入は、収益の柱となっている。

2019年2月、ノバルティスから本件契約の規定の一部の有効性について疑義が提起され、2019年2月15日、国際商業会議所より、ノバルティスを申立人とする仲裁の申立てがあった旨の通知を受領した。

ノバルティスは、米国、EU等における製品の売上ベースのロイヤリティ支払い義務を定める本件契約の規定の一部は無効であり、ノバルティスにはロイヤリティの一部の支払義務がないことの確認を求めている。 本仲裁は、ICCの仲裁規則に従い、英国ロンドンを仲裁地として行われる。

2023/2/15 国際商業会議所の仲裁判断で田辺三菱製薬のロイヤリティ収入が復旧

仲裁の期間中はロイヤリティは売上高に計上しなかった。

最終的に田辺三菱の勝訴となり、2023年3月期4四半期にこれまでの 1,259億円を一括して売上収益として認識した。

 ・ もう一つのロイヤリティの「インヴォカナ」は、ヤンセンファーマシューティカルズに導出した2型糖尿病治療剤。

上記の通り、三菱ケミカル全体のヘルスケア部門の営業損益は過去のロイヤリティがほとんどであり、これらは契約期間が終了すると、利益はゼロになる。

3. 三菱ケミカル(田辺三菱製薬)としては当然、新製品の開発、他社からの技術導入により事業拡大を狙っているが、今までのところ、すべて失敗に終わっている。

1) 新型コロナワクチン

田辺三菱製薬のカナダ子会社 Medicago Inc.は、植物由来ウイルス様粒子「VLP」技術を用いた新規ワクチンの研究開発に特化したカナダのバイオ医薬品会社であり、2022 年2月には新型コロナウイルス感染症の予防を適応として開発してきた VLP ワクチン「COVIFENZ®」がカナダにおいて承認され、商用規模生産の移行に向け準備を進めてきた。カナダ政府と最大7600万回分の契約をむすび、日本でも承認申請の予定だった。

たばこ属の葉に遺伝子を組み込んで抗原を作るが、段階的に生産を引き上げる「スケールアップ」に課題が見つかり、計画通りに量産できない状況となった。

新型コロナウイルス感染症を取り巻く環境は大きく変化しており、現状の新型コロナウイルスワクチンの世界的な需要及び市場環境と、商用規模生産の移行への同社の課題を包括的に検討した結果、COVIFENZ®の商用化を断念するという結論に至り、精算を進める。減損損失が480億円であることを発表した。

   2023/2/4 田辺三菱製薬、新型コロナワクチンから撤退、カナダ子会社を精算へ

2)田辺三菱製薬は2017年7月24日、イスラエルの医薬品企業 NeuroDerm Ltd.の買収手続き開始について合意したと発表した。本買収の取得価額の総額は、約11億米ドル。

NeuroDerm は、パーキンソン病の治療薬に関して、新たな製剤研究や、医薬品と医療器具(デバイス)とを組み合わせる優れた技術開発力を有する医薬品企業で、現在、米国および欧州でフェーズ3に移行し、2019年度に上市が見込まれるパーキンソン病治療薬「ND0612」を中心に開発を推進していた。

 2017/7/27  田辺三菱製薬、イスラエルの医薬品企業 NeuroDermを買収   

NeuroDerm では「ND0612」の治験が当初計画から遅れていたが、第3相臨床試験の治験施設の開設および患者組み入れにおいて重要な立ち上げ期間に今般の新型コロナウイルス感染症の拡大が重なるなどしたため、更に約1年半の開発計画の延長を決定した。

このため、欧米での申請は2023年度になる。

本開発計画の遅れと、複数の競合品の開発状況等から収益性が低下する見込みとなり、2020年9月中間決算で、仕掛研究開発費について845億円の減損損失を計上した。

田辺三菱製薬は2024年6月、ND0612の米国承認申請について、米国食品医薬品局(FDA)より審査完了報告通知を受領した。これは、現在の申請内容では承認に至らない場合にFDAより発行される。

ーーー

米国に進出しているメーカーとしては住友ファーマの例がある。

収益の柱であった第二世代抗精神病薬に分類される「統合失調症」および「双極性障害におけるうつ症状の改善」の治療薬「ラツーダ」の特許が切れ、年間2000億円の売上高が、一気にゼロになるという「特許の崖 (Patent Cliff )」に襲われた。

ラツーダの後継候補をこれまで買収してきたが、いろいろな問題でうまくいかなかった。 

2009年9月にSunovion Pharmaceuticals Inc.を買収した(買収額 約26億米ドル)が、同社のバーキンソン病治療薬「キンモビ」の売上予想を見直し、特許権全額 -556億円を減損処理した。

2012年4月に米国のBoston Biomedical Inc.の買収を完了した。癌幹細胞への抗腫瘍効果を目指して創製された低分子経口剤であるBBI608 (ナパブカシン)及びBBI503 の2 つの有力な開発パイプラインを有している。(買収額 200 百万米ドル+マイルストーン)

ナパブカシンは、がんの親玉である「がん幹細胞」をピンポイントで攻撃する世界初の新薬候補として注目を集めていた。またナパブカシンは比較的低コストで治療効果が期待できるとされ、開発費の抑制にもつながるため製薬各社や市場関係者が注視していた。

2019年7月2日、年間売上高が1千億円以上の「ブロックバスター」候補だったナパブカシンの膵がん患者を対象としたフェーズ3試験の中止を発表した。減損損失 -269億円
胃がん、膵がん、結腸・直腸がん向けに、臨床試験の最終段階である第3相まで開発が進んでいたが、2017年6月に胃がん向けの開発に失敗した。

2012/3/3 大日本住友製薬、米国医薬品会社Boston Biomedical を買収 

最後の手段として2019年10月31日、Roivant Sciences との間で、戦略的提携に関する正式契約を締結した。

2019/11/4  大日本住友製薬、Roivant Sciences と戦略的提携、30億ドルを投資

大日本住友製薬は対価として総額30億ドルを支払った。(子会社5社を含めた新会社に 20億ドル、Roivantの株式に10億ドル)
更に、このうちのMyovant Sciences Ltd.( 約52%買収)を2022/10/23に 総額17億米ドルを支払い、100%とした。 合計投資額は6000億円となった。

現在、ラツーダ後継としているのは、Roivant Sciencesの下記の3剤。

    当初開発  
進行性前立腺がん治療剤オルゴビクス 一般名:レルゴリクス 武田薬品 Pffizerと提携
子宮筋腫・子宮内膜症治療剤マイフェンブリー レルゴリクス40mg、エストラジオール1.0mg、
酢酸ノルエチンドロン0.5mgの配合剤
  Pffizerと提携
過活動膀胱治療剤ジェムテサ 一般名:ビベグロン 米 Merck  

しかし、ラツーダの利益減をカバーできるとは思えない。

2023/11/8  米国医薬業界、特許切れの恐怖:住友ファーマのケース


米国では、主要大企業が自社での新製品開発に多額の研究費を投じるとともに、
開発会社が開発中の目ぼしい新製品を金に糸目をつけず、買い漁っている。
このため、中小企業は淘汰され、少数の大企業が生き残りを賭け、争っている。

医薬品の開発は、途中の段階では問題がなく、有望であっても、最後の最後の臨床試験で悪い結果がでると終いである。そのような開発品に数千億円をかけざるを得ない。

多数の有望製品をもっていたとしても、それらは次々に特許が切れる。それに備えて次々と有望製品を買い漁る必要がある。

日本の企業で今後、世界で事業をやっていける企業は少ないだろう。

世界の大企業が企業生命を賭けて大投資をしているなかで、三菱ケミカルや住友化学のような多角化企業の場合、医薬に投資できる資金は限られる。

特定分野に限定するとか、中外製薬のようにRocheと組むなどを考えないと、投資の配分で他の事業にも影響を与えかねない。

多角化事業の一環として医薬事業をやることは今や無理であろう。

住友商事は9月10日、米州住友商事会社の 100%子会社で、米国において化粧品原料の販売を行うPresperse Corporation がニュージャージー州連邦破産裁判所に Chapter 11に基づく企業再生手続開始の申立てを行ったと発表した。 

住友商事は1990年に日本産化粧品素材の欧州・米国・中国への輸出を開始、2007年に北米の化粧品素材販売事業会社Presperseに20%出資、2010年に出資比率を100%に引き上げた。

当時の発表によると、化粧品業界は、市場規模約32兆円(グローバルベース)、今後新興国を中心に年率3~4パーセントの成長が見込まれる有望な市場で、Presperse は、エスティローダー、ロレアル、エイボン、P&G、レブロン、ジョンソン・エンド・ジョンソン等の大手化粧品メーカーを主要顧客とし、約300社の化粧品メーカーとの取引実績を有する米国の大手化粧品原料フォーミュレーターである。

米国市場を軸としビジネスを行っているが、今後は欧日市場に展開すると同時に、飛躍的な伸びが見込まれるBRICSをはじめとする新興国にも拠点を配置しながら拡大し、一気に世界展開を進める予定であった。


今回、Presperse Corporationは米国内におけるタルク(滑石)関連訴訟を受け、これまで真摯に訴訟対応を進めてきたが、同対応に係る費用が大きく、同社の事業継続が困難な見通しとなった。

しかし、同社が活動を行う化粧品業界においては、多くのステークホルダーに同社の事業価値を認めてもらっているため、同社の事業を継続したい。

このため、Chapter11 524(g)による再建手段を検討することで原告側と合意に至り、裁判所に Chapter11に基づく企業再生手続申請することとした。

Chapter 11 524(g) とは、アスベスト被害に対応するために制定された連邦倒産法の事業再生手続の一類型。

通常の事業運営を継続しつつ、アスベスト関連責任について切り出して解決を行う際に利用される。同手続の申請者は、アスベスト関連責任の解決のために一定額の救済基金を設立し、アスベスト関連責任の債権者は当該救済基金から返済を受けることで、申請者のアスベスト関連責任が免責される仕組みとなっている。

2024年3月時点での負債総額は5920万ドル(約83億円)。同社が販売するタルク(滑石)を原料に含む化粧品を使用した消費者から訴訟が相次ぎ、関連費用が膨らみ、事業継続が困難になった。

商品の競争力は維持できているものの、数百件に上る訴訟にかかる弁護士費用や和解金の積み立てが生じ、24年3月期の最終損益は4057万ドルの赤字(前期は317万ドルの黒字)だった。

住友商事は24年3月期の連結決算で、訴訟関連費用約50億円を計上し、Presperse の株式評価額を0円にする評価の見直しも実行済みのため、25年3月期の連結業績予想に与える影響は軽微としている。

Presperseは原料の安全性の問題について認めていない。

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米国ではタルクについての裁判が相次いでいる。このうち最大のものはJohnson & Johnsonのもので、これにはPresperse Corporation は関与していない。

Johnson & Johnsonはベビーパウダーのタルクにアスベストが含まれ、中皮腫や卵巣がんが発症したとして訴訟が相次いでいる。

Johnson & Johnson向けのタルクのサプライヤーはCyprus Mines(キプロスに拠点)とフランスのImerys である。

ヘルスケア製品最大手のJohnson & Johnson(J&J) は2018年4月5日、同社製ベビーパウダーのタルクにアスベストが含まれており、中皮細胞から発生するガンの一種、中皮腫を誘発したとする告訴を巡る米ニュージャージー州ミドルセックス郡の上級裁判で敗訴した。

原告に3,000万米ドル、配偶者に700万米ドル、合計3,700万米ドル(約40億円)の補償的損害賠償金の支払いを命じる評決を陪審員が下した。

これに対し、J&Jは原告側の主張を否定し、同社のベビーパウダーにはアスベストは含まれておらず、ガンを引き起こすはずはないと反論している。

同様の訴訟が相次いだが、2024年5月の時点で約95%のケースで和解に至った。また米各州が提起した消費者保護訴訟でも暫定合意に達したと発表した。

J&Jは2024年5月1日、タルクを使った同社のベビーパウダーが原因で卵巣がんを発症したとして集団訴訟を起こされている問題で110億ドル(約1兆7400億円)での一括和解案を提示。昨年の提示額に21億ドル上乗せし、数千人もの原告に支持を求めた。

5月1日の発表によれば、J&Jは既存および将来の法的請求をすべて決着することを目指して子会社に破産法適用を申請させることに原告の承諾を求めた。同社の子会社は過去に2度、連邦破産法11条の適用申請を試みたが、原告側は補償額が少なすぎるとして受け入れなかった。


J&Jが今回進めようとしているのは「プレパッケージ」破産と呼ばれる手法で、債権者から事前に十分な支持を取り付ければ破産法11条の適用プロセスをスピードアップできるもの。破産裁判所では集団訴訟の原告は無担保債権者とみなされる。J&Jが破産法裁判所の判事から承認を得るには、原告の75%から支持を取り付ける必要があると破産法11条は定めている。

2月に提出された有価証券報告書によるとJ&J は現在、ベビーパウダーや類似製品に使用されたタルクがさまざまな種類のがんを発症させたとして、6万件近くの訴訟を抱えている。この多くはニュージャージー州にある連邦裁判所判事の判断で集約され、公判前の情報交換が行われている。その他の訴訟は州裁判所で審理される。

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米国では陪審員制度であり、J&Jのような大企業が訴えられると賠償額は膨大なものになる。これが報道されると、同種の製品メーカーとそこに原料を供給するメーカーが相次いで訴えられるのが米国の慣行である。

Presperse Corporation についても、同社が販売するタルク(滑石)を原料に含む化粧品を使用した消費者から訴訟が相次ぎ、タルクを供給したPresperseも訴えられたものである。

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J&Jは2022年8月、タルク(滑石)を原料とするベビーパウダーの製造と販売を、来年から世界中で停止すると発表した。コーンスターチを原料として使っていくという。

J&Jのベビーパウダーは130年近く販売されており、おむつかぶれの予防や化粧に使われている。家庭にやさしい同社のイメージを象徴する製品となっている。しかし、タルクを使ったパウダーをめぐっては、含有されているアスベスト(石綿)が原因で卵巣がんを発症したとして、女性や遺族らがJ&Jを相手に数万件に上る訴訟を起こしている。

J&Jは製造・販売の停止の方針を明らかにしたが、安全性については、数十年にわたる独自の研究ですでに示されているとする、これまでの見解を繰り返した。「タルクを使用したJohnsonのベビーパウダーは安全で、アスベストを含んでおらず、がんを引き起こさないことが、世界中の医学専門家による数十年にわたる独立した科学的分析で確認されている。当社はそれを強く支持している」とした。

製造・販売の停止については、「世界的な製品ラインアップの評価の一環として、コーンスターチを原料とするベビーパウダーのラインアップに移行するという商業的な決断をした」と説明した。

米グーグル出身の研究者らが設立したサカナAIは9月4日、米NVIDIAなど複数の投資家から資金を調達すると発表した。

具体的な金額は明らかにしていないが総額は約200億円で、そのうちNVIDIAが数十億円と最大の出し手になる見通し。

生成AI(人工知能)開発競争が世界で過熱するなか、日本発のスタートアップと米国半導体の雄が組む異例の展開となる。

サカナAIは2024年1月に米有力ベンチャーキャピタル(VC)のKhosla VenturesやLux Capital主導のもとで約45億円の資金調達を発表した。NTTグループやKDDIのほか、ソニーグループのそれぞれのベンチャーキャピタルなど日本の大手企業からも出資を受けた。

世界では大手企業が出資や提携を通じて生成AIの有望なスタートアップを囲い込む動きが広がる。サカナAIを巡っても米テクノロジー企業やアジアの有力投資家が出資に意欲を示し、水面下で協議や交渉が進んでいるもよう。

付記

同社は9月17日、日本企業も加わり、下記の企業からシリーズAで合計約300億円を調達したと発表した。

シリコンバレーの有力VCであるNew Enterprise Associates(NEA)、Khosla Ventures、Lux Capital、Translink Capital、500 Global、NVIDIA

三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友銀行、みずほフィナンシャルグループ、NEC、SBIグループ、第一生命、伊藤忠グループ、KDDI、富士通、野村ホールディングス
日本のVCからは、グローバル・ブレインを筆頭に、JAFCO、みやこキャピタルが引き続き出資

これにより、シリーズAとして合計で約300億円の資金調達を完了

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サカナAIはグーグル出身のDavid Ha氏とLlion Jones 氏、外務省出身でメルカリ執行役員などを務めた伊藤錬氏の3氏が2023年に創業した。ジョーンズ氏は2017年にグーグルが発表し、現在の生成AIの土台となった論文「 Attention Is All You Need」の共同執筆者の一人として知られる。

2022年に米OpenAIが「Chat GPT」を公開して以降、急速に普及する現在の生成AIは「大規模言語モデル」と呼ばれる技術を中核にしている。米テクノロジー企業などが巨大なコンピューターを使い、膨大な文章データを学習させて言語を扱う能力を高めてきた。

サカナAIはこうした従来の開発手法とは一線を画し、魚が群れを形成するように小規模なAIを組み合わせて高度な知能を実現する目標を掲げてきた。

同社は3月21日、複数の人工知能(AI)を掛け合わせてより優れたAIを生み出す新たな手法を開発したと発表した。
進化的アルゴリズムによる基盤モデルの構築

短い時間で「交配」を繰り返してAIの進化を促すことで、開発期間を従来の数百分の1に縮められる可能性がある。

 

生成AIの開発には通常、高性能の半導体や膨大な学習データが必要となる。高度な基盤技術を開発できるのは資金力のある一握りのテクノロジー企業に限られていた。サカナAIは従来とは異なるアプローチを実現し、生成AIの開発にゲームチェンジを仕掛ける狙いだ。

今回の発表は具体化に向けた第1弾の成果となる。

開発した手法は一から自前でAIのモデルを構築するのではなく、設計情報が公開された「オープンソース」の技術などを用いる。世界中の開発者らがオープンソースの技術に改良や改変を加え、多様な特徴を持つAIが生まれている。これらの中から異なるモデルを掛け合わせ、生物が進化するように高性能のAIをつくり出す。

まず「親」となる数種類のAIを様々なパターンで組み合わせて「子」となるモデルをつくる。その中から優れた性能をもつAIを選抜し、再び掛け合わせて「孫」のAIを生み出す。実験では1世代で最大100種を超すモデルをつくり、数百世代にわたって掛け合わせを繰り返した。この作業により、無数の組み合わせによる「競争」を勝ち抜いた優れたAIが生まれるという。

サカナAIの手法ではこうした組み合わせや選抜の工程に人間が介在せず、自律的に動作するアルゴリズム(計算手法)を用いる。実験では数百世代にわたる膨大な掛け合わせも1日で済んだ。多くの電力を消費する大量のコンピューターも不要だ。

米テクノロジー企業などが自前の大規模言語モデルを開発する際には、一般に年単位の期間がかかる。条件や方法が異なるため単純比較はできないが、サカナAIの新たな手法ではこれまで大量のデータを学習させて言語能力などを高めていた時間を数十〜数百分の1にできる可能性がある。

同社は開発した手法を用いて実際に①日本語で数学の問題を解く大規模言語モデル②画像に関する質問に日本語で正確に答えるモデル③日本語の指示に基づいて高速に画像を生成するモデルの3種類を試作した。開発した手法は論文として公表し、さらに発展させてより優れたAIの実現につなげる計画だ。


ことし7月には、AIに日本語で浮世絵の特徴を学習させることで、浮世絵風の画像を作り出す生成AIモデルを開発したと発表し、日本文化の特徴を取り込んだAIとして注目された。

 

 

京都大学病院はiPS細胞から作った膵臓の細胞のシートを糖尿病の患者に移植する臨床試験を2025年にも実施する。

膵臓の細胞が正常に働かず血糖値が上昇し、様々な合併症を引き起こす重症の1型糖尿病の患者にiPS細胞から作った膵臓の細胞「膵島細胞」を移植する。

血糖値を下げるための注射を不要にしたり、回数を減らしたりして、患者の負担を軽減できる可能性がある。2030年以降の実用化をめざす。

ーーー

膵臓は、アミラーゼやリパーゼなどの消化酵素を分泌する外分泌細胞と、インスリンやグルカゴンを分泌して血糖調節を行う内分泌細胞との2種類の異なる細胞群(組織)からできている。

この血糖調節を行う内分泌組織を「膵島」という。直径が約 0.1〜0.3 mm の球状の塊で、膵外分泌組織の中に点々と散らばっている。

膵臓の中には 成人1人あたり約 100 万個の膵島があり、膵臓を構成する組織の約1%程度といわれている。

膵島のうち、血糖を上昇させる働きがあるグルカゴンを分泌するのがα細胞

血糖を低下させるホルモンであるインスリンを分泌するのがβ細胞

糖尿病には1型と2型がある。

1型は、自己免疫疾患などが原因でインスリン分泌細胞が破壊されるもので、インスリンの自己注射が必要。 患者は通常、インスリン製剤を毎日数回、腹部に自分で注射する必要がある。

2型は、遺伝的要因に過食や運動不足などの生活習慣が重なって発症する。糖尿病の多くは、この2型である。


国内では、亡くなった人の膵臓から膵島細胞を取り出し、重症患者に移植する「膵島移植」が2020年から公的医療保険の対象になっている。
しかし、日本膵・膵島移植学会によると、提供者(ドナー)不足などから、保険適用後に実施されたのは10人以下にとどまっている。

健康な人の膵島細胞を移植する既存の治療法はドナー(提供者)が不足しており、免疫抑制剤による副作用もある。


京大などはiPS細胞から膵島細胞を作ってシート状にする技術を開発し、この技術をもとに京大病院での治験計画を立てた。
2024年の8月下旬に京大の治験審査委員会で承認され、医薬品を承認審査する医薬品医療機器総合機構(PMDA)に計画書を送付した。

健康な人の細胞から作ったiPS細胞から膵島細胞の塊をつくり、複数集めて数センチメートル四方のシート状にする。手術でシート複数枚を患者の腹部の皮下に移植する。

移植したシートが患者本来の膵島細胞の代わりにインスリンを放出し、血糖値を下げることで、患者の体の負担や合併症のリスクを減らせる。

シートは京大と武田薬品工業が中心となって立ち上げ、iPS細胞の事業化を手掛けるオリヅルセラピューティクス(神奈川県藤沢市)が製造する。同社は実用化に向けて今回の治験の後、海外の研究機関や企業などと協力し、規模を拡大した国際共同治験によって有効性を確かめる方針だ。

オリヅルセラピューティクス株式会社 は、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)と武田薬品工業によるiPS細胞共同研究「T-CiRAプログラム」の事業化を目的に発足した研究開発型企業で、創業日 は2021年4月9日
事業内容 は、1.細胞移植による再生医療等製品の開発、2. iPS細胞関連技術を利活用した、創薬研究支援および再生医療研究基盤整備

株主は、京都大学イノベーションキャピタル、武田薬品工業、SMBCベンチャーキャピタル、他

iPS細胞から作った膵島細胞を使う治療法について、主に1型糖尿病の患者支援や治療法の開発支援に力を入れるNPO法人「日本IDDMネットワーク」の井上龍夫理事長は「新しい治療法が従来の課題を解決し、根治に向けた選択肢になると期待したい」と話す。

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世界でも1型糖尿病の治療技術の開発が進む。米バイオ企業のVertex Pharmaceuticalsは6月、1型糖尿病の患者12人にヒトの幹細胞からつくった膵島細胞を移植し、インスリンが作られることを確認したと発表した。うち11人は注射などによるインスリンの投与量が減ったり、投与が不要になったりした。

国立国際医療研究センターはヒトではなくブタの膵島細胞を使う手法の研究を進めており、今後1型糖尿病患者向けに臨床試験の実施を目指す。ヒトの免疫がブタの細胞を攻撃するのを防ぐため、細胞を微小な穴の開いたカプセルに入れて投与する。

ブタの細胞がつくるインスリンはヒトのものとの違いが少なく代用できる。過去にはブタのインスリンを糖尿病の治療に活用していた時代もある。

米通商代表部(USTR)は8月30日、カナダが施行したデジタルサービス税(DST)が米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に違反しているとして、カナダ政府に同協定に基づく協議を要請した。

協議が75日以内にまとまらなければ、USMCAの紛争解決制度に従って正式にカナダ政府を提訴する見通し。

カナダは6月にデジタルサービス税(DST)を発効した。全世界の売上高が7億5千万ユーロ(約1200億円)を超す企業の収入の一部に3%の税金をかける。

課税対象はSNSやオンラインのマーケットプレイス事業、デジタル広告で、主にグーグルやメタといった米テック企業が徴税の対象になる。2022年1月以降の収入に遡って適用され、年間およそ8億7500万ドル(約1280億円)の税収が見込まれている。


米国は、カナダのDSTは
グーグル、アップル、アマゾン・ドット・コム、メタなどのアメリカのハイテク大手を不当にターゲットにしているとし、米国企業をカナダ企業と同等に扱うよう定めたUSMCAの規定に違反していると主張している。USTRのキャサリン・タイ代表は「米企業を差別する一方的な措置に反対する」とした。

米連邦議会上院財政委員会のロン・ワイデン委員長も「米国のイノベーターを標的にした差別的な税金で良質な雇用を危険にさらす」と述べてUSTRを支持した。

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デジタル課税は、恒久的施設を持たない外国企業への課税が可能になる仕組みで、世界的な多国籍企業について、各国間の利益と課税権をより公平に再配分することを目的としている。

各国がバラバラに導入を検討したため、大きな問題となった。

2020/1/29 デジタル課税を巡る問題

2020/7/14 米国、フランスのデジタル課税に報復関税 

2019/3/12 EU、デジタル課税合意見送り、仏英など独自課税へ

2019/12/30 イタリア、デジタル課税を導入、 フランスに追随

2020/2/18 OECD、多国籍企業課税新ルールの影響の試算発表   

「第1の柱」について、利益率10%以上の部分を超過利益とみなし、その20%を市場各国に分配するとした。「第2の柱」については最低税率を12.5%と仮定した。

2020/6/4 米、10カ国・地域にデジタル税の対抗措置検討

2020/6/23 米、デジタル税を巡る国際協議からの撤退を示唆

2020/10/23 フランス、デジタル税を再開

OECD/G20の「BEPS(税源浸食と利益移転:Base Erosion and Profit Shifting)包摂的枠組み」において、2021年10月8日に大枠合意に至った。詳細を巡って米国やインドなどの意見調整が進まず、制度の根拠となる多国間条約の署名が実現していない。

国際課税ルールの抜本的な改革であり、2023年前半に多国間条約の署名、2024年に条約発効を目標としている。カナダ政府は交渉に参加している。

経済協力開発機構(OECD)は2021年5月に米国の新提案を採用する調整に入った。関係国の交渉担当者に新たなルールに基づく複数の試算を示した。

多国籍企業の利益に対する課税権を、事業活動で利益を上げている国に再配分することを第一の柱とし、世界的に15%の最低法人税率を導入することを第二の柱とする。

米国案は、売上高と利益率の規模で機械的に対象を決める。米企業の狙い撃ちになるのを避け、対象を世界で100社ほどに絞り込む。
企業の国別売上高に応じて税収を各国に配分するという現行案の仕組みは変えない。

OECDは関係国の交渉担当者に新たなルールに基づく複数の試算を示した。いずれも米国が4月に提案した案に沿っており、利益率と売上高の組み合わせで一定の基準を超えるグローバル企業に課税する。

具体的には売上高を100億ドル(約1兆1000億円)以上とする案や、利益率の水準を15~20%以上とする案などがある。


OECD公表による合意内容および第1の柱・第2の柱の概要   詳細 別紙


2021/5/25 OECD、デジタル課税で米提案を採用へ

2021/10/12 国際課税の新ルール、136カ国・地域が合意

経済協力開発機構(OECD)は2023年7月12日、デジタルサービス税を導入している国がカナダ 等を除き、同税の適用を少なくともあと1年間見送ることで合意したと明らかにした。

OECDはアップルやアマゾンといった巨大IT企業への課税を見直した新たな国際課税ルールを2021年にとりまとめた が、この合意に参加した143カ国が2024年から合意内容を実施することになっていた。

デジタルサービス税凍結に不支持だったのは、143カ国中、ベラルーシ、カナダ、パキスタン、ロシア、スリランカの5カ国。この中でデジタルサービス税構想を持つのはカナダのみ。

デジタル課税発効の見通しが立たないため、カナダは独自ルールの施行に踏み切った。デジタル課税の交渉中はDSTを凍結するという案も拒否した。

カナダの財務大臣は2024年4月16日、政府の予算案を公表した。

国際税務関連では、以下の改正項目が含まれる。

第1の柱・第2の柱

本予算案において、OECD・第1の柱についてのコミットメントを再確認する一方、デジタルサービス税(DST)の制定計画を進めており、その実施法案が議会に提出されている(初年度は2022年1月1日以後の収入が課税対象見込み)。
第2の柱の実施法案は、近く議会に提出見込みである。


2024年2月の下院財務常任委員会の報告書では、必要があれば、多国籍企業に対して25%以上の実効税率を適用し、デジタルサービスに係る独自の課税の導入を進めるよう(また、デジタルサービスに係る税が引き続き国際先例との整合性を確保するよう)提言している。

なお、カナダの一般的な連邦法人所得税(CIT)税率は15%(基本税率38%-10%(州・準州レベルのCIT課税の可能性を考慮。外国法域に係る課税所得には適用なし)-13%(一般税率控除/製造・加工業に係る控除))であり、州・準州のCIT(連邦CIT上、損金不算入)税率はかなり異なっている。

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