「no」と一致するもの

Exxon Mobil は10月11日、米シェール大手の Pioneer Natural Resources を買収すると発表した。買収額は595億ドル(債務込みで645億ドル)で、Pioneerの株主は1株あたりエクソン株 2.3234株を受け取る。2024年前半の買収完了を目指す。

新型コロナウイルス禍からの経済再開後、化石燃料の収益力が高まっており、シェールの事業基盤を再構築する。

PioneerはScott Sheffield 氏が1997年に創業し、米国のシェール革命をリードしてきた。テキサス州西部のシェール鉱区「パーミアン盆地」で有数の生産量を誇り、日量60万バレル(原油換算)以上の石油・天然ガスを生産する。

パーミアン盆地はMidland Basin とDelaware Basinに分かれる。

PioneerはMidland Basinに大きなガス田を持つ。これに対しExxon Mobil はDelaware Basinに大きなガス田を持つが、Midland Basinにも鉱区を持つ。

Pioneerはパーミアン油田最大の油井運営会社で総生産量の9%を占め、Exxonは6%で第5位の座を占めている。

Exxon Mobil はPioneer の買収により、自社の両Basinの57万エーカーにPioneerのMidland Basinの85万エーカーを加え、取引完了時には、エクソンモービルのパーミアン地での生産量は2023年の生産量の以上の130万石油換算バレル/日(MOEBD)となり、2027年には約200万石油換算バレル/日に増加すると予想されている。

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本年5月にはChevron Corporationが米シェール開発会社 PDC Energy, Inc.を買収することで同社と合意した。買収額は63億ドル(債務を含めて76億ドル)で年末までに取得する見込み。

PDCはコロラド州のDenver-Julesburg (DJ) 盆地に27万5,000エーカー(約1,113平方キロ)の権益、テキサス州とニューメキシコ州にまたがるPermian 盆地に2万5,000エーカー(約101平方キロ)の権益を保有している。

いずれもChevronが2020年にNoble Energy, Inc.から買収したガス田に隣接している。(2020/10/2 米シェール各社、業績悪化に悩む

2023/5/25 Chevron、米シェール会社 PDC Energy を買収




経営統合に向けて協議しているキオクシアと米国のWestern Digital が月内にも合意する見通しと報じられている。

Wall Street Journalは2021年8月25日、米半導体大手Western Digitalが、同業のキオクシアホールディングスを買収する交渉が大きく進展していると報じた。しかし、双方の資産査定で意見が一致せず、進展しなかった。

最終的には両社の株式価値を対等とするなど、大枠が固まったが、本社所在地や上場市場などで合意できず、暗礁に乗り上げたとされる。

2021/9/31 Western Digital、キオクシアを買収か?

今回は、2022年夏からのメモリー不況で両社とも赤字となり、財務悪化で投資余力が細るなか、再編せざるをえない状況に追い込まれた。

キオクシアの2023/4-6月期連結決算は売上高2511億円、1031億円の当期赤字で業績が低迷している。

Western Digital は下記の通り、ハードディスクドライブ(HDD) 専業メーカーで、2011年に日立から事業を買収して大きくなった。2015年にSunDiskを買収し、日本でキオクシアとNAND型フラッシュメモリー を共同生産する。

同社は6月決算で、業績は下記の通り(百万ドル)。前年比で大幅な減収、減益である。

2021/7-2022/6 2022/7-2023/6
売上高 Flash 9,753 6,063
HDD 9,040 6,255
合計 18,793 12,318
営業損益 2,391 -1,285
純損益 1,500 -1,730



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付記

経営統合に関し、金融機関が1兆9000億円の融資を確約したことが10月20日に判明した。

3メガバンクと日本政策投資銀行が合計1兆9000億円を融資する。このうち、4000億円は運転資金として引き出せる融資枠(コミットメントライン)

同社は2019年5月31日に日本政策投資銀行から3000億円、メガバンク3行から9000億円、合計1兆2000億円を調達しており、3行は1000億円の追加融資枠も設定した。統合に当たり、この借り換えが必要となる。


付記  交渉打ち切り

Western Digital は10月26日までに交渉打ち切りをキオクシアに通知した。

SKハイニックスの同意が得られず、キオクシア筆頭株主のペインキャピタルとも統合条件で折り合わなかった。



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報道では統合は下記の通りとなる。

持ち株会社 Kioxia Holdings の下に両社がぶら下がる形になる。統合比率はキオクシア側が49.9%、Western Digital側が50.1%だが、実質的な経営権はキオクシア側が握る見通し。

登記上の本社は米国で、本社所在地は日本となる。米ナスダック市場に上場し、東京証券取引所への上場も目指す。

統合にあたり日本の3メガ銀行と日本政策投資銀行などが1兆5千億〜1兆9千億円程度の融資を検討しており、20日までに金融機関と融資条件などを詰める。

キオクシアの大株主であるBain Capital が企業合併のために資金5000億円の拠出を検討しているとも報じられた。

キオクシアは半導体フラッシュメモリーで世界3位、Western Digital は4位。統合でシェアは31.7%となり、2位のSK hinixを抜き、首位の韓国サムスン電子33.7% に並ぶ規模となる。


合意後に各国での規制当局の承認が必要となるほか、キオクシアに間接出資する韓国 SK hinix が反発しており、実現にはまだ不透明な部分も残る。

中国が合併を承認しないだろうとの見方が強い。米国と日本は半導体製品の中国への輸出を規制しており、中国の反発は大きい。

東芝は2017年9月28日、東芝メモリのBain Capital への株式譲渡契約を締結したと発表した。

2018年5月に中国の独占禁止法当局が売却案を最後に承認したことが分かり、2018年6月1日に譲渡が完了した。2018年3月末までに中国の承認が得られる見通しがないため、3月決算で売却益を計上できず、債務過剰となるため、第三者割当による新株式の発行を余儀なくされた。その後、長年「物言う株主」に悩まされることになった。

現在はキオクシアの中国向け輸出は日本政府の規制下にあるが、合併に当たり、米国政府が中国向け輸出の規制を厳しくする可能性がある。

SK hinixはBain Capitalを通じ、14.96%を出資している。同社はNAND型フラッシュで2位のメーカーであり、合併により 1位、2位と大きく話される3位メーカーに陥落するため、統合に反対している。
韓国政府が合併に条件をつける可能性もある。

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現時点でのキオクシアの株主、出資比率は下記の通り。

2020年8月の優先株転換後の出資比率のままである。

Bain/SK hinix の出資は4口に分かれているが、そのうちBCPE Pangea Cayman2, Ltd.はSK hinix の出資分と推定される。

出資比率
東芝 40.64%
HOYA 3.13%
Bain/SK hinix BCPE Pangea Cayman, L.P. 25.92%


Bain Capital
41.28%

BCPE Pangea Cayman 1A, L.P. 9.37%
BCPE Pangea Cayman 1B, L.P. 5.99%
BCPE Pangea Cayman2, Ltd. 14.96%

SK hinix

合計 100%

東芝は2017年9月28日、東芝メモリの株式譲渡契約を締結したと発表した。

売却先はBain Capitalがこの目的のために設立し、参加各社が出資する㈱ Pangeaで、譲渡価額は2兆円。

2018年6月1日に譲渡が完了した。

東芝メモリ株式譲渡とともに、東芝は譲受会社のPangeaに合計3,505億円を再出資し、Pangeaの議決権のある普通株式を約1,096億円分(約40.2%)、転換権付き優先株式を約2,409億 円分(総数の約40.8%)取得し、その結果、約40.2%の議決権を取得した。 Hoyaは9.9%の議決権を得た。

NAND型フラッシュメモリーで競合するSK hinixの参加については、下記の条件を付けた。

SK hinixは、1290億円は今後議決権がある株式に転換できる転換社債形式で、残りはBain Capitalが組成する会社に融資する形とする。

融資の一部(1290億円)については、株式(15%分)に転換する権利が付与されているが、今後10年間は 15%超の議決権を保有することはできず、当該転換権の行使には各国競争法当局の承認が必要となる。

東芝メモリとの間には、少なくとも10年間、ファイヤーウォールが設置され、SK hinixによる東芝メモリの機密情報へのアクセスは制限される。

Apple、Seagate、Kingston Technology、Dell Technologies Capitalの需要家4社が(議決権無しで)4,155億円を出資している。

2017/9/30 東芝メモリの株式譲渡契約締結


東芝メモリは2,019年5月31日、日本政策投資銀行による出資とメガバンク3行からの借り入れで、6月末までに総額1兆2000億円を調達すると発表した。3行は1000億円の追加融資枠も設定する。

今回の調達資金 1.2兆円(他に融資枠1千億円)で Apple等4社の持つ優先株(取得価額4,155億円)を約5,300億円で買戻し、消却する。
残りの資金で金融機関からの借入金 6千億円を返済する。現金700億円が手元に残ることとなる。

(単位:億円) 出資 合計 転換
社債
借入金 再計 今回 処理後
議決権株 優先株
東芝 40.2% 1,096 2,409 3,505     3,505   3,505
HOYA 9.9% 270   270     270   270
(日本側) (50.1%) (1,366) (2,409) (3,775)     (3,775)   (3,775)
Bain 49.9% 1,361 759 2,120     2,120   2,120
SK hinix     2,660 2,660 1,290   3,950   3,950
(Bain / SK) (49.9%) (1,361) (3,419) (4,780) (1,290)   (6,070)   (6,070)
Apple ほか4社
(買戻し額)
    4,155 4,155     4,155

-4,155
(-5,300)

0

金融機関           6,000 6,000

-6,000
9,000

9,000
日本政策投資銀行               3,000 3,000
INCJ
(産業革新機構)
              0  
合計 2,727 9,983 12,710 1,290 6,000 20,000 1,845 21,845
(今回のCash 増)             700  


2019/4/5 東芝メモリ、1.3兆円調達


2020年8月に優先株を転換した。

当初   現状(議決権)
東芝 40.2% 2020/8/27
優先株
 転換
210,300千株 40.64%
HOYA 9.9% 16,200千株 3.13%
Bain/SK hinix 49.9% 291,000千株 56.23%
合計 100%   517,500千株 100%

東証は2020年8月27日、キオクシアホールディングスの上場を承認した。上場予定日は10月6日であったが、上場を延期し、現在に至る。

2020/8/31 キオクシア、10月に上場 

キオクシアとWestern Digital は日本でNAND型フラッシュメモリーの生産を共同で行っている。

発端は1999年の東芝と米国のSanDiskとのNAND型フラッシュメモリ事業に関する提携の基本合意である。

2000年5月にNAND型フラッシュメモリの製造合弁会社の設立

社名:FlashVision LLC
立地:バージニア州(東芝子会社Dominion Semiconductor内に700億円の設備投資)
出資比率、製品引取比率:50/50

2002年4月に「フラッシュビジョン(旧:Flash Vision LLC)」を東芝四日市工場内に移転

以降、順次増設、両社の出資比率はたびたび変更

詳細は 2017/4/14 東芝の半導体売却に新たな難問 

Western Digial はハードディスクドライブ(HDD) 専業メーカーで、2011年に日立から事業を買収して大きくなった。

Western Digital は2015年10月21日、SunDisk を190億ドルで買収すると発表、2016年5月12日、買収手続きを完了した。

2017/5/5 Western Digital の歴史

経営再建中の東芝は2017年4月に半導体のメモリー事業を分社化し、買収を前提に新会社「東芝メモリ」を発足させた。Western Digital とのJV持ち分も移管した。

これに対し、Western Digitalがクレームを付けた。

2017/4/14 東芝の半導体売却に新たな難問

2017/5/15 東芝の半導体事業売却、Western Digital が差し止め申し立て

以降、下記の推移があり、最終的に東芝メモリとWestern Digital は和解し、このあとも共同で日本での生産を行っている。

2017/7/17 東芝とWestern Digital の法廷闘争

2017/8/8  東芝、東芝メモリの増設を単独実施

2017/9/7 東芝メモリの売却、9月13日に決定(岩手県北上市に新規拠点)

2017/9/22 東芝、東芝メモリの「日米韓連合」への売却発表

2017/12/14 東芝、Western Digital と和解

東芝メモリとWestern Digital は、係属中の仲裁および訴訟を解決し、フラッシュメモリ事業に関する協業を一層強化することで合意した
建設中の最先端メモリ製造棟で
ある四日市工場第6製造棟への今後の設備投資について共同で実施する

両社は2019年5月、北上市に東芝メモリが建設中の北上工場第1製造棟において両社共同で設備投資を実施する正式契約を締結した

2018/9/21 東芝メモリ 四日市工場 第6製造棟およびメモリ開発センターの竣工

2019/7/19 東芝メモリ、「キオクシア㈱」に改称

2020/10/29 キオクシア、四日市工場で新製造棟を建設

Samsung SDIは9月27日、Stellantisと設立した合弁法人StarPlus Energyの米国第2工場に2兆6556億ウォン(20億米ドル)を投資することを取締役会で決議したと公示した。

これは、第2工場の総予想投資金額のうち、Samsung SDIの持分51%に当たる。

投資期間は2024年4月から2027年11月までで、具体的な敷地の位置などは検討中。


第2工場は2027年の量産を目標に、年産34GWh規模の生産能力を確保する予定 。第1工場と合わせると、能力は67GWhに増える。

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Stellantis N.V.は2021年10月、LG Energy Solution及びSamsung SDIとの間でそれぞれ、北米で電動車用の電池生産の合弁会社を設立すると発表した。Stellantis N.V.は、2021年1月16日付でFiat Chrysler Automobiles N.V.とPeugeot S.A.の統合により創設された。

Stellantis N.V.は2021年10月18日、LG Energy Solutionと合弁会社を設立し、北米で電動車用の電池を生産すると発表した。

LGとのJVはNextStar Energy

2021/10/21 Stellantis N.V.、米国でLGと合弁で電池生産

StellantisとLG Energy Solutionは2022年3月23日、本契約を締結した。立地はカナダのオンタリオ州 Windsor (デトロイト市に隣接)で、能力は45 GWh。


Stellantis N.V.と
Samsung SDI2022年5月24日、本契約を締結した。

SDIとのJV名はStarPlus Energyとなった。

立地:Kokoma, Indiana
能力:当初 23GWh、2~3年で33GWhに増強。Stellantis車需要に合わせ更に増強も
投資額:25億ドル以上、最終31億ドル
雇用:1400人
予定:2023年末に建設開始、2025年第1四半期に稼働

Samsung SDI はここで、2021年12月28日に発表した新バッテリー「PRiMX」を採用する。

2023年7月に第2工場設立のMOUを交わした。Samsung SDIが51%出資で、2027年から34GWhの生産をするというもの。今回、概要を発表した。

オランダの半導体製造装置大手ASMLは9月28日、北海道に技術支援拠点を新設する方針を明らかにした。

ラピダスが2025年に予定する千歳市の「千歳美々ワールド」の工場の試作ラインの稼働前に新工場周辺に拠点を設ける。

2024年中に40~50人の技術者を配置する計画で、EUV露光装置の設置のほか、生産支援や保守・点検業務などを担う。

ASMLは、半導体基板に電子回路を焼き付ける露光装置の世界シェア首位で、回路線幅が微細な先端半導体の生産に不可欠な「極端紫外線(EUV)露光装置」を製造できる世界唯一の企業 。ラピダスは、まだ技術が確立されていない回路線幅 2ナノの最先端半導体を2027年に量産する計画を掲げている。実現にはASMLのEUV露光装置が不可欠となる。

ASMLは世界各国で主要な半導体工場の周辺に技術支援拠点を設けており、台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県に建設中の工場周辺にも設置している。( TSMCは熊本では2ナノは生産せず、EUVは使用しない。)

「極端紫外線(EUV)露光装置」の導入には高圧ガス保安法の改正が必要である。

EUV露光装置は、PPL(Plasma-Produced Laser)方式の光源を採用
真空内を時速320km前後で移動する100万分の30mの大きさのスズの小滴を射出、レーザーを2回照射、1回目で高温にし、2回目で小滴を破壊、50万度のプラズマを発生させる。
スズを破壊させるプロセスを1秒当たり5万回繰り返すことで、半導体製造に必要な量のEUVが得られる。強力な炭酸ガスレーザーが必要。
炭酸ガスレーザーの生み出すエネルギーの8割は熱で、この除去が必要。 磁石でファンを浮上させ、熱を吸い出す。

この高圧状態のスズとその容器(タンク)が高圧ガス保安法の適用対象である。

高圧装置は、完成時の検査のほか、高圧ガス保安法に基づく年1回の保安検査が義務付けられている。このため、24時間365日稼働し続ける半導体製造装置を何日か停止させねばならず、超高額装置の稼働率の低下をきたすことになる。


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ラピダスは新千歳空港のすぐ東部にある「千歳美々ワールド」の一画で 工場を建設している。

約 65ヘクタールの敷地を確保し、敷地内に工場と研究施設を併設する。今後増築となった場合も、周辺の土地を約35ヘクタール取得可能で、最終的な敷地面積は100ヘクタールを想定しており、国内最大規模の半導体生産工場となる


ラピダスは千歳美々ワールドの第2期A、Bブロックを確保した。

第1期Dブロックでは、セイコーエプソンが高温ポリシリコンのTFT液晶パネルを生産している。

現在はIIM-1の建設準備中。

同社はプラント(ファブ)をIIM (Innovation Integration for Manufacturing)と呼んでおり、ここには2ナノを手掛ける「IIM-1」と、Beyond 2ナノを目指す「IIM-2」を設ける。


なお、2027年の本格稼働後に洗浄用の水として1日数万立方メートル必要で課題となっていたが、北海道は9月28日、道企業局の苫小牧地区工業用水道を活用し、安平川から取水する方針を固めた。 豊富な供給量に加え、水利権の調整が必要ないことが決め手となった。

Toyota Motor North America, Inc.とLG Energy Solutionは10月5日、米国で生産するトヨタのバッテリーEVに搭載するリチウムイオン電池の 購入契約を締結したと発表した。


この契約により、
LG Energy Solutionは同社のミシガン工場に約4兆ウォン(約30億ドル)を新規投資し、専用ラインを構築し、2025年から年間20ギガワット時(GWh)相当の「NCMA」(正極活物質にニッケル、コバルト、マンガン、アルミニウムを使用)と呼ばれるリチウムイオン電池セルとモジュールをトヨタのケンタッキー州の工場に供給する。年間でEV 25万台以上分の供給量となる。

同電池は当面、Toyota Motor Manufacturing Kentucky(TMMK)で2025年より生産予定のBEVの新型車となる3列シートSUVに電池パックとして搭載される他、今後、北米で拡大が見込まれるBEVラインナップにも、搭載される予定。

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トヨタは2023年6月1日、米国でのバッテリーEV(BEV)生産と電池工場への追加投資で電動化への取り組みを強化すると発表した。

・Toyota Motor Manufacturing Kentucky, Inc.(TMMK)で2025年からバッテリーEVのSport Utility Vehicle(3列シートSUV)を生産開始する。
  
 トヨタが米国でBEVを生産するのは初めてで、この発表時には下記のToyota Battery Manufacturing, North Carolinaで生産する電池を搭載するとしていた。

・Toyota Battery Manufacturing, North Carolina

Toyota Motor North Americaは2021年11月、TMNA90%、豊田通商10%の出資で、Toyota Battery Manufacturing, North Carolina (TBMNC)を設立した。

車載用電池の製造会社で、2025年からの稼働を目指す。

  2021/11、ノースカロライナ州のGreensboro-Randolph Megasiteでの建設決定、投資額 12.9億ドル

  2022/8に25億ドルの追加投資発表

  2023/6に更に21億ドルを追加投資し、インフラ整備 (総投資額は59億ドル) 
  
  拡大する電動車の需要に必要なリチウムイオン電池を生産・供給
    2025年稼働予定、ハイブリッド車(HEV)、バッテリーEV(BEV)用電池を生産

 2023/6/5 トヨタ、米国でバッテリーEV生産、電池工場に追加投資


今回、
LG Energy SolutionはToyota Motor Manufacturing Kentucky(TMMK) で2025年より生産予定のBEVの新型車となる3列シートSUVの電池パック用に供給するとしており、Toyota Battery Manufacturing, North Carolinaとの関係について触れていない。

トヨタでは、2030年までにトヨタ・レクサスの両ブランドで30車種のバッテリーEVをグローバルに展開することを発表しており、今回の契約は、年間350万台のBEVを生産するトヨタの電動化への取り組みの推進にも貢献する としている。Toyota Motor Manufacturing Kentucky向けは実績のあるLG Energy Solutionのバッテリーでスタートすることに変更したと思われる。

LGESは「世界で最も売れている自動車メーカーであるトヨタを新たな顧客として迎えることができ、大変うれしく思う。リチウムイオン電池における30年の経験を生かし、弊社のNCMA電池を供給し、トヨタのBEV展開をサポートする。また、今回の合意は、弊社の北米における生産能力をさらに強化するための新たな大きな機会でもあり、それによって、北米における電動化に向けた現実的で大規模な進展をもたらすことになる」と している。

付記

LG化学は10月10日、トヨタの北米生産・技術担当法人と2兆8000億ウォン(約3000億円)規模の正極材供給契約を10月6日に結んだと発表した。

契約期間は2030年までで、年間に電気自動車60万~70万台に供給できる量と推定される。トヨタの電気自動車にLG化学の正極材が搭載されるのは今回が初めて。

LG化学は米国のインフレ抑制法の要件をクリアする正極材を作って供給し、今後トヨタと長期的な協力関係を構築していく方針。


LGESは北米で生産する車載電池を、GM、Stellantis、現代自動車、ホンダに供給しており、トヨタとの提携で供給先が大手5社となった。



LG単独ではミシガン州Hollandに5GWhの工場を持ち、GM、Ford Motor、Chrysler などに供給している。ミシガン工場はオバマ米大統領が2010年7月の起工式に参列するなど注目されたが、 当初はいろいろな問題が発生した。

2013/9/10 LG化学のミシガン州のリチウムイオン電池工場、生産開始2か月で停止 

LG Energy Solutionは2021年3月12日、2025年までの5年間で米国に45億ドル以上を投資すると発表した。少なくとも2工場を建設、米国での電気自動車の成長に対応し、能力を70GWh増やす。

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LGはGMとのJVのUltium Cells LLCで、オハイオ州 Lordstown の近辺に23億ドルを投資して生産能力30GWhの次世代グローバルEVバッテリーシステムの生産工場の建設中。

2020/1/3 GMとLG Chem、世界最大級のEV用電池工場建設計画を発表

GMとLGは2021年4月16日、第二工場のテネシー州Spring Hillでの建設を発表した。能力は35GWh。

GMは2022年1月25日、EVの生産能力の強化に向けて、米国で3つ目となる新たな電池工場の建設を発表した。LG Energy Solution との50/50 JVのUltium Cells LLCが26億ドルを投じ、ミシガン州 Lansing に第3工場を建設する。

2022/1/28 GM、米国で3つ目の電池工場を建設、電気自動車生産投資も

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Stellantis N.V.Fiat Chrysler Automobiles とPeugeot の統合会社)は2021年10月18日、LG Energy Solutionと合弁会社を設立し、北米で電動車用の電池を生産すると発表した。

StellantisとLG Energy Solutionは2022年3月23日、本契約を締結した。立地はカナダのオンタリオ州 Windsor (デトロイト市に隣接)で、能力は45 GWh。

同社はSamsung SDIとの間でもIndiana州にJVを設立した。

2022/5/27 Stellantis、米国での2つのEV向け電池合弁会社の内容が確定

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本田技研工業と韓国のLG Energy Solution は8月29日、北米で生産販売されるHondaおよびAcura(プレミアム・ブランド)のEV用リチウムイオンバッテリーを米国で生産する合弁会社の設立に合意した と発表した。

2022/9/2 ホンダとLG Energy Solution、米国にEV用バッテリー生産合弁会社設立に合意 

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Hyundai Motor Group とLG Energy Solutionは2023年5月26日、米国に5兆7000億ウォン(約43億ドル)を投じて自動車用バッテリーのJV工場を建設すると発表した。同日、ソウルのLG Energy Solution本社で契約を締結した。

現代自動車は2022年5月21日、米ジョージア州に電気自動車(EV)の専用工場と電池工場を新設すると発表したが、「バッテリーセル工場は合弁形態で設立するだろう。合弁対象は確定しておらず検討中」と説明した。SK On、LG Energy Solution、Samsung SDIの韓国企業3社のうち1社が有力とされた。

現代自動車は最終的にLG Energy Solutionを選んだ

現代自動車のEV新工場(Hyundai Motor Group Metaplant America )が建設される米ジョージア州ブライアン郡に建設する。JVは折半出資で、総投資額は5兆7000億ウォン(約43億ドル)。年間約30ギガワット時(GWh)のバッテリーセル(EV 約30万台) を生産する。

両工場を完成すれば、米国内にも合計約60万台以上のEVのバッテリー生産能力を備えることになる。

2023/5/31 現代自動車、SK On とのJV 及び LG Energy SolutionとのJVで米国にバッテリー工場建設

 

ジャパンディスプレイ(JDI)は9月29日、世界3位のディスプレーメーカー、中国HKC(惠科股份有限公司)との間で進めていた次世代有機ELパネルに関する提携交渉を打ち切ったと発表した。JDI技術をライセンスし、惠科が工場を建設する計画だったが、 技術料の支払い条件などが折り合わなかった。

中国市場ではデジタル製品の消費回復が遅れて液晶パネルの価格が低迷。工場の建設には数千億円規模が必要となり、HKCも調達が難しくなっていた。

代替案として、JDIは中国安徽省の蕪湖経済技術開発区に次世代有機ELパネルの工場を立ち上げる方針で、同開発区と覚書を結ぶことも発表した。年内の最終契約締結を目指す。2025年11月から順次量産を開始する予定で、生産能力は50倍以上に拡大するとしている。

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JDI20225月に、世界で初めてマスクレス蒸着とフォトリソを組み合わせた方式で画素を形成し、輝度・寿命を大幅に高める次世代OLEDeLEAP」の量産技術を確立した。

また20223月には、世界で初めて第6世代量産ラインにおいて、従来の酸化物半導体薄膜トランジスタと比較して電界効果移動度 24 倍以上となるバックプレーン技術「HMOの開発に成功しており、早期の量産化を目指している。

そのほかを加え、6つの「世界初、世界一」独自技術を持つ。

eLEAP
(次世代OLED)
environment positive(環境ポジティブ)
Lithography with maskless deposition
マスクレス蒸着+フォトリソ方式

Extreme long life, low power, and high luminance
(超長寿命・省電力・高輝度)

Any shape Patterning
(フリーシェイプ・パターニング)

広発光領域でピーク輝度2倍または寿命3倍、フリーシェイプで明るく鮮明な画像を実現
OLED蒸着用マスクを使用せず、洗浄不要

HMO
(High Mobility Oxide)
電界効果移動度従来 OS-TFT 技術と比較し 2倍以上となる高移動度酸化物半導HMOHigh Mobility Oxide技術
及び 4倍以上となる超高移動度酸化物半導体UHMOUltra High Mobility Oxide技術
メタバース
(超高精細ディスプレイ)
圧倒的なリアリティと没入感
高い歩留りと安定した品質
AutoTech EVに対応した統合コックピットの実現
HUDの進化による安全性の向上
Rælclear
(透明ディスプレイ)
高い技術開発力により実現したバックライト無しで表示が可能な液晶ディスプレイで、電源や駆動回路、HDMIと組み合わせて作られた透過率84%を誇るモニターセット。
映し出された映像は、表と裏の両面からクリアに見ることが可能。
新技術・新商品・新事業 独自技術の用途拡大
課題解決型の新規事業


ジャパンディスプレイ(JDI)
は2023年4月10日、世界第3位の生産出荷規模を誇る広東省深圳市
ディスプレイメーカーのHKC:惠科股份有限公司との間で、グローバル戦略パートナーとして次世代OLED ディスプレイ技術の推進と工場建設などに関する戦略提携覚書を47日付で締結したと発表した。

有機ELは韓中勢が席巻する。JDIは上記の多くの技術を持つが、赤字経営が続き、資金力で劣る。

他方、HKC は、近年、大型ディスプレイ分野において急速な成長を遂げているエレクトロニクスメーカーで、2017年以降、中国の重慶、滁州、綿陽、長沙にて次々と第8.6世代ディスプレイ工場での量産を開始して売上を急拡大しており、強力なコスト競争力、販売力、機動力、更には資金力も有している。

JDIとHKC は、JDIの「世界初、世界一」独自技術及び生産技術力、HKC のコスト競争力及び販売力、並びに両社の人材力の融合が、両社の企業価値の飛躍的向上に資するとの考えで一致した。

JDIが虎の子の技術を供与してHKCが中国国内で工場を建設、2025年の量産を目指す。新工場の投資額は数千億円規模になる。JDI側は工場建設への直接的な投資は行わなず、技術者を送るなどして対価を得る。

2023/4/13 ジャパンディスプレイ、世界第3位のディスプレイメーカー惠科股份(HKC)との戦略提携覚書締結 

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JDIは9月29日、中国パネル大手の恵科電子(HKC)との有機ELパネルの量産に関する提携交渉を打ち切ったと発表したが、 同日、中国安徽省蕪湖経済技術開発区で25年以降の稼働を目指して有機ELパネルの工場建設を計画することも発表した。

HKCとは別案件で、現地に新会社を設立する方針だが、総投資額や出資比率は未定。中国企業や投資家からの資金を募る。地方政府などと協議して23年12月末までに最終合意を目指す としている。

同社は、2022年に、マスクレス蒸着とフォトリソを組み合わせた方式で画素を形成し、輝度・寿命を大幅に高める次世代 OLED「eLEAP」の開発に成功した。2024年からの千葉県茂原市の G6 工場で量産開始(月産 1.3K シート)を予定している。

蕪湖開発区内で G6 工場(月産 10K シート)と G8.7 工場(月産 30K シート、G8.7 のガラス基板面積は G6 の倍以上)を建設する予定で、これにより同社の生産能力を 50倍以上拡大する。G6 工場の量産開始は 2025年11月、G8.7工場の量産開始は 2026年12月を予定している。


JDI の技術が6つの「世界初、世界一」独自技術を持つ ものであれば、ライセンスではなく、当初から自社でやるべきであった。自社でやる資本力がないため、ライセンスでやることにしたと思われるが、今回、資金をどうするのだろうか。

スウェーデンのカロリンスカ研究所は10月2日、2023年のノーベル生理学・医学賞を、生化学者のKatalin Kariko さん(68)と、米ペンシルベニア大のDrew Weissman教授(64)に授与すると発表した。

RNA(リボ核酸)の一種で遺伝子の一部にあたる「メッセンジャー(m)RNA」を、生物が体内に取り込んでも、異物として拒絶する免疫反応を引き起こさないようにする手法を解明した。mRNAの利用により、新型コロナウイルスワクチンの迅速な開発につながった。

授賞式は12月10日、ストックホルムで開かれる。


本ブログは2021年のノーベル賞に選ばれると見ていた。2年遅れとなった。

下記にブログを再掲する。

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2021/2/3 今年のノーベル医学・生理学賞は確定? mRNAワクチンの開発

今年のノーベル医学・生理学賞受賞者はmRNAワクチンの開発者のKatalin Kariko とDrew Weissmanではないかと言われている。

当初、COVID-19ワクチンの開発は1年では無理と言われていた。

しかし、米国では2020年12月に2つのワクチンが緊急使用許可を得て、接種されている。
BioNTech/Pfizerの「BNT162b2」と、Modernaの「mRNA-1273」である。

いずれもmRNAワクチンで、Katalin KarikoとDrew Weissmanの研究が基になっている

Developer/manufacturer Platform Type doses Timing Route 承認
BioNTech(独)/ Pfizer   RNA 3 LNP-mRNAs 2 0, 28days IM

UK 2020/12/2
FDA 2020/12/11
EU 2020/12/21
WHO 2020/12/31

Moderna / NIAID RNA LNP-encapsulated mRNA 2 0, 28 days IM

FDA 2020/12/17
EU 2021/1/6


一般のワクチンは、ウイルスの蛋白質を体内に送り、抗体をつくる。このため、新しいウイルスの場合、手間と時間がかかる。

ウイルスベクターワクチン:ウイルスベクターに抗原たんぱく質の遺伝子を組み込む。
DNAワクチン:抗原たんぱく質の塩基配列を作る情報を持ったプラスミド(環状)DNAのワクチン
組み換えたんぱく質ワクチン:ウイルスの構成成分である抗原たんぱく質を昆虫細胞や植物、哺乳動物細胞などで作り、単離・精製
組み換えVLPワクチン:ウイルスのゲノムを含まない外殻たんぱく質のみを微生物や昆虫細胞、植物で作り、単離、精製
不活化ワクチン:ウイルス自体を培養し、ウイルスの感染性や病原性を消失させたもの

これに対し、mRNAワクチンは、抗原タンパク質を直接導入するのではなく、ウイルスのタンパク質分子の情報を運ぶ。BNT162b2やmRNA-1273はSARS-CoV-2の特徴であるスパイク部分の設計図をコピーしている。

ウイルスの細胞内では核のDNAの情報を転写し、mRNAが合成される。mRNAはタンパク質の合成場所であるリボソームに移動、そこで情報を翻訳して元のタンパク質が合成される。

mRNAワクチンでは、ウイルスのスパイク部分の設計図をもつmRNAを人体に投与し、人体のタンパク質合成機構がこの情報を使ってウイルスのスパイクタンパク質を作成、これが抗体となって、T細胞、B細胞を活性化する。ワクチンの mRNA そのものはタンパク合成を指令したあと分解されてしまい、ワクチン由来の人工的な遺伝子は体に残らない。

このため、SARS-CoV-2の遺伝子配列さえ分かれば、その設計図である mRNAワクチンは簡単に作成できる。

実際にBNT162b2はその構造が公表されており、世界のどこの研究室や工場でも、このワクチンを再現できるという。

AGAAΨAAAC ΨAGΨAΨΨCΨΨ ・・・

mRNAは、「アデニンA」「ウラシルU」「シトシンC」「グアニンG」という4種類の塩基からなる。この場合、ウラシルUがシュードウリジン(Ψ)に置き換えられている。(後記)

ウイルスが変異すれば、それに合わせてワクチンを簡単に改良できる。

BioNTech(独)/ Pfizer とModernaは、これまでに特定された最も懸念される変異株に対応するため、ワクチンのバージョンアップを検討している。

2019年12月31日、中国武漢で肺炎患者が44人発生したことが報告され、2020年1月5日にはWHOが未知の感染症について警告を発した。

2020年1月11日、新型コロナウイルスSARS-CoV-2の遺伝子配列が読み取られて発表された。

ModernaがmRNAワクチンの候補数種類を設計したのはそのたった2日後の1月13日とされる(異論もある)。その中には承認されたmRNA-1273が含まれている。

コロナウイルスの拡大を懸念したBioNTechのUğur Şahin CEOは、2020年1月に「倫理的な責任」としてワクチン開発に着手すべきと判断、自らいくつかのワクチン候補を設計したという。

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Katalin Karikoはハンガリー出身で、 セゲド大学在学中からRNA研究に取り組んだ。主要研究はRNAの免疫原性を抑制するヌクレオシド修飾プロセスの発見で、mRNA研究の臨床応用への道を開いた。

1985年に夫と娘と共に渡米し、ペンシルベニア州のテンプル大学でポスドク研究員として働き始めた。しかし、テンプル大学の上司が国外退去させようとしたため、4年間務めた同学を辞職してペンシルベニア大学に籍を移した。

mRNAの抗ウイルス応答が癌ワクチンの腫瘍予防に有効であることが分かったが、応募を重ねても研究助成金がまったく得られず、大学では降格された。

"Every night I was working: grant, grant, grant,"Karikó remembered, referring to her efforts to obtain funding. "And it came back always no, no, no."

そのなかで学内で免疫学者のDrew Weissmanと知り合い、共同研究から生まれたのが上記の論文である。

Dr. Weissman は現在、University of PennsylvaniaのPerelman School of Medicine の教授。

mRNAはDNAの遺伝情報をたんぱく質に翻訳する橋渡しの分子である。DNAの情報は転写プロセスでmRNAに写し取られ、mRNAは細胞核から細胞質に移動し、リボソームがmRNAをタンパク質に翻訳する。このタンパク質が細胞や組織で各種の役割を担う。

Katalin KarikoはmRNAを直接、体に投与し、治療やワクチンに必要なたんぱく質を細胞に作らせることを狙った。

問題は注射すると身体の免疫系が異物と認識し、炎症反応を引き起こす。

mRNAは、「アデニンA」「ウラシルU」「シトシンC」「グアニンG」という4種類の塩基からなる。その一つ が問題であることが分かり、それをわずかに細工すること(RNA修飾)で免疫系をすり抜け、炎症を回避し、細胞にたんぱく質を作らせる手法 を考えた。

The stumbling block, as Karikó's many grant rejections pointed out, was that injecting synthetic mRNA typically led to that vexing immune response; the body sensed a chemical intruder, and went to war. The solution, Karikó and Weissman discovered, was the biological equivalent of swapping out a tire.

Every strand of mRNA is made up of four molecular building blocks called nucleosides. But in its altered, synthetic form, one of those building blocks, like a misaligned wheel on a car, was throwing everything off by signaling the immune system. So Karikó and Weissman simply subbed it out for a slightly tweaked version, creating a hybrid mRNA that could sneak its way into cells without alerting the body's defenses.

ウラシルから誘導されるヌクレオシドはウリジンであるが、ウリジンをシュードウリジン(Ψ)などに置き換えると、mRNAの二次構造が変化し、効果的な翻訳を可能にしながら、自然免疫系による認識を低下させる 。

mRNAワクチンはこの発明により可能となった。 

2005年、ハーバード大学の幹細胞生物学者のDerrick Rossiは、彼らの論文は「根底をくつがえす」ものだとしてノーベル化学賞に匹敵すると述べた。彼は2010年にワクチン開発の可能性を見出してmRNAに焦点を当てたバイオテクノロジー企業Modernaを設立した。

付記 Karikoは次のように述べている。(2021/3/14 毎日新聞オンライン)

幹細胞生物学者のDerrick Rossiは当時、山中伸弥教授が発見したiPS細胞を作ろうとする過程で、mRNAを活用しようと考えていた。ところがmRNAを入れた細胞は死に、うまくいかなかった。
さまざまな方法を探る中で私たちの論文に行き着き、実際に私たちが発表した方法に基づいて修飾したmRNAを使えばiPS細胞が樹立できたのです。

(彼は2010年にワクチン開発の可能性を見出してmRNAに焦点を当てたバイオテクノロジー企業Modernaを設立した。)

もし山中教授がいなければ、もしiPS細胞の発見がなければ、私たちの論文が「発見」されることはなかったかもしれません。

付記  2021/3/26 Moderna, Inc.のDerrick Rossi 

KarikoとWeissman の研究技術のライセンスを受けたBioNTech はmRNAワクチンなどの開発に焦点を絞り取り組んだ。

BioNTechは2008年に、トルコ系ドイツ人の科学者であるUğur Şahinと彼の妻である Özlem Türeci、オーストリアの腫瘍学者のChristoph Huberによってドイツで設立された。

2013年にKarikoがBioNTechのSenior Vice President に就任した。

個別化されたがん免疫療法、感染症に対するワクチン、希少疾患のタンパク質補充療法に使われるメッセンジャーRNAをベースとした医薬品候補を開発しているほか、癌の治療オプションとしての細胞療法、新規の抗体、低分子免疫調節剤を開発している。mRNAをベースとした静脈内へ投与するためのヒト向け治療法を開発した。

BioNTechはmRNA技術を使ってがん治療薬を開発していたが、2020年1月に「倫理的な責任」としてワクチン開発に着手すべきと判断した。

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2021年1月30日の毎日新聞で青野由利 専門編集委員が「カタリンの物語」を書いている。

カリコさんはなぜ、mRNA医薬に興味と確信を持ち続けてきたのか。メールでたずねてみた。

「80年代の終わりから焦点があてられた遺伝子治療の目的はDNAを細胞に送り込み永続的に働かせること。でも、多くの病気は遺伝性ではなく、治療は一時的であるべきで、mRNAを使う方が合理的だと思ったのです」。

mRNAは迅速に作ることができ、改良を重ねられたことも利点らしい。

ワクチンの mRNA そのものはタンパク合成を指令したあと分解されてしまい、ワクチン由来の人工的な遺伝子は体に残らない。

米政府は9月28日、新年度となる10月1日以降の連邦政府予算が確保できないことに伴う政府閉鎖を見据え、閉鎖時の対応などについて職員に通知を始めた。

議会下院では多数派を占める共和党の内部対立で、予算案の成立が見通せて おらず、政府閉鎖となれば、トランプ前政権だった2018年12月~2019年1月以来となる。

2023/9/29 米政府機関閉鎖の可能性 強まる 

  共和党 民主党 合計 欠員
賛成 198 198
反対 21 211 232
棄権 2 1 3

合計

221 212 433 2


しかし、翌9月30日に下院は11月半ばごろま
での45日分の予算を確保する「つなぎ予算案」を賛成多数で可決し、与党・民主党が多数派の議会上院に送られた。

今回の案には民主党が求め、保守強硬派が反対していたウクライナ支援の予算60億ドルが盛り込まれていないが、これまで共和党が主張していた支出の削減が修正され、バイデン政権が求めていたものと同程度の予算額となったことなどから民主党の賛成をとりつけたものとみられている。ホワイトハウスが求めた緊急災害援助160億ドルが認められた。

  共和党 民主党 合計 欠員
賛成 126 209 335
反対 90 1 91
棄権 5 2 7

合計

221 212 433 2

米上院は同日、10月1日午前0時の期限を数時間後に控え、下院が通した11月17日までのつなぎ予算案を可決した。政府機関閉鎖を土壇場で回避した。

共和党 民主党 民主系
無所属
無所属 合計 欠員
賛成 39 46 2 1 88
反対 9 9
棄権 1 1 2
合計 49 47 2 1 99 1

無所属は元民主党員
民主党 Dianne Feinstein(90歳)が9月29日逝去、
後任は今後、カリフォルニア州知事が指名する。

バイデン大統領は同日、つなぎ予算案に署名した。大統領は声明で、「今夜、上下両院の超党派の多数決によって政府機能を維持し、何百万人もの勤勉な米国民に無用な苦痛を与えることになる不必要な危機を防ぐことができた」と評価した。  

つなぎ予算案にはウクライナへの新たな支援は含まれていないが、民主・共和両党は、より長期的な連邦政府予算について交渉する時間を確保した。

9月29日に下院が共和党マッカシー議長が支持した案を共和党の強硬派の反対で否決した時点で政府機関の閉鎖は必至と見られたが、一気に逆転した。

起点は下院の野党・共和党を率いるマッカーシー議長の「変心」だった。

9月30日にマッカシー議長は民主党に歩み寄った。ウクライナ支援は除外されたが、ホワイトハウスが求めた緊急災害援助160億ドルが認められ、バイデン政権が求めていたものと同程度の予算額となったことなどから民主党の賛成をとりつけた。


裏切られた形の強硬派が議長罷免を求める可能性があるが、罷免実現には民主を含めた下院議員の過半数の同意が必要となる。仮に民主の一部が投票で欠席すれば罷免は失敗する。

 但し、マッカシー議長の下院運営は更に難しくなると思われる。

付記

米下院共和党保守強硬派のMatt Gaetz 議員は10月2日、マッカーシー下院議長の解任動議を今週中に提出した。マッカーシー議長が、政府機関閉鎖の回避に向けたつなぎ予算成立を図るため、民主党の支持を得たことを問題視している。

解任に民主党議員全員が賛成した場合、共和党から5人の造反者が出れば、動議が可決される可能性があるが、民主党全員が解任に賛成するとは思えない。

マッカーシー氏は記者団に「これは国家に混乱をもたらすと思う。私は自分の仕事をこなすことに専念するだけだ」と述べた。


今年1月にマッカーシー氏を下院議長に選出するための採決でもゲーツ氏は何度も反対票を投じ、マッカーシー氏が反対派の説得のため、多くの妥協をした。その一つとして、議長解任動議の提出条件は会派の半数の賛成であるが、McCarthy 議員は最終的に1人で動議を出せることを認めた。これが今回のゲーツ氏の動きにつながっている。


米国の議会史上、これまでに下院議長が解任された例はない。


付記

議会下院は10月3日、共和党のマッカーシー下院議長の解任動議を可決した。下院議長の解任動議の可決は歴史上初めて。

  共和党 民主党 合計 欠員
賛成 8 208 216
反対 210 210
棄権 3 4 7

合計

221 212 433 2

共和党での賛成者は以下の8人

    • Andy Biggs of Arizona
    • Ken Buck of Colorado
    • Tim Burchett of Tennessee
    • Eli Crane of Arizona
    • Matt Gaetz of Florida
    • Bob Good of Virginia
    • Nancy Mace of South Carolina
    • Matt Rosendale of Montana

民主党にとって議長は共和党ではあるが、共和党強硬派の反対を押し切って「つなぎ予算」を通してくれた恩人でもある。解任に全員が賛成するとは、どういうことだろうか。

今後、本予算を通す必要があるが、強硬派を勢いづかせるだけであり、今後の運営が非常にむつかしくなるだろう。

当面、次期議長の選任が必要だが、難航必至で、予算編成や対ウクライナ支援の遅滞といった悪影響が懸念される。

米政府は9月28日、新年度となる10月1日以降の連邦政府予算が確保できないことに伴う政府閉鎖を見据え、閉鎖時の対応などについて職員に通知を始めた。

議会下院では多数派を占める共和党の内部対立で、予算案の成立が見通せていない。政府閉鎖となれば、トランプ前政権だった2018年12月~2019年1月以来となる。

米議会上院の与野党は2018年12月21日午後8時30分に、新たなつなぎ予算案を可決することなく22日正午まで休会に入った。 国土安全保障省、司法省、住宅都市開発省など、連邦政府の約4分の1にあたる機関では12月22日午前0時1分に予算が失効した。

2018/12/31 米政府機関の一部閉鎖、年明けまで続く

上院は2019年1月25日、満場一致で「国境の壁」建設費を含まないつなぎ予算を承認、その後、下院が承認し、ホワイトハウスに送った。大統領が署名し、2018年12月22日から始まり、35日間続いた政府閉鎖はいったん終わった。

2019/1/26 米国、政府閉鎖を一時解除

今回の新年度予算を巡っては2023年5月、バイデン大統領とマッカーシー下院議長が、国防費を除いた歳出規模を前年度並みに抑制することで合意。財政拡張を志向する民主党と、緊縮財政を求める共和党の双方が歩み寄り、歳出抑制方針を盛り込んだ法案を超党派で可決した。

Biden米大統領と米連邦議会のKevin McCarthy 下院議長(共和党)は2023年5月27日、米政府債務の法定上限を引き上げることで合意した。債務上限を引き上げる一方で、政府の支出を削減するなどの案で「基本合意に至った」と明らかにした。今後は双方のスタッフ間での法案の文言の調整を進めるほか、28日にはBiden大統領と再び会談し、正式合意に至るとの見通しも示した。

暫定合意には、2年間の債務上限引き上げ(時限措置として現行の上限である約31.4兆ドルを上回る債務残高を認める)に加え、非国防支出を今後2年間にわたりほぼ現行の水準に据え置く歳出合意が盛り込まれた。
非国防支出を2024年度は2023年度と同レベルとし、2025年度は1%だけ増やすとされる。
未使用の新型コロナウイルス資金を回収、一部のエネルギープロジェクトの許可プロセスを加速し、貧しい米国人向けの食糧援助プログラムに要件を追加する。

2023/5/28 米債務上限引き上げで基本合意

2023/6/2  債務上限法案を上院も可決、デフォルトを直前回避


しかし、共和党の一部の保守強硬派は、新年度予算でこの合意内容を上回る大幅な歳出削減を要求した。

トップ合意に反する主張だが、党内基盤の弱いマッカーシー下院議長は保守強硬派の声に配慮せざるを得ず、新年度予算の協議は行き詰まった。政府機関閉鎖を避けるため、つなぎ予算の検討に入った。

米上院の民主・共和両党の指導部は9月26日、つなぎ予算により11月17日まで連邦政府機関の閉鎖を回避するとともに、ウクライナ への60億ドル(約8900億円)の支援を提供する計画について合意した。

ウクライナ支援はバイデン大統領が要求した240億ドルには届いていない。ホワイトハウスが求めた緊急災害援助160億ドルのうち60億ドルは含まれている。

ウクライナ支援には保守派が反対しており、ポール上院議員(共和)が、ウクライナ支援を盛り込むことを巡り、手続き上の妨害によって審議・採決を遅らせると脅している。
このため、上院は9月30日深夜の政府機関閉鎖回避期限前に同計画の承認採決を実施できない可能性もある。


下院はそれ以上に問題である。下院のマッカシー議長(共和党)は党内の保守強硬派の反対を受け、譲歩に譲歩を重ねて15回目の投票でようやく新議長に選出された経緯があり、保守強硬派の意見を無視できない立場にある。

下院共和党の保守強硬派でつくる「フリーダム・コーカス(自由議連)」のドナルズ議員は、つなぎ予算案には不要な歳出が多いとして「実現不可能だ」と一蹴した。

下院共和党は、政府機関閉鎖を避けるための予算案には、メキシコとの国境に移民希望者が殺到している現状を踏まえ、新たな入国規制措置を盛り込む必要があるとしている。

具体的に提示しているのは(1)トランプ前大統領が目玉政策としていたメキシコとの国境の壁の建設再開(2)亡命申請者の規制(3)国境管理関係の人員増強と報酬引き上げ――など。

下院の一部共和党議員は、ウクライナ向け追加支援を盛り込んだ法案には反対票を投じる姿勢。

連邦緊急事態管理庁(FEMA)は、ハリケーンや山火事など自然災害の被災者向け支援予算が間もなく尽きると議会に警告しており、 上院では60億ドルの災害支援を含む歳出法案が超党派の支持を獲得したが、これがウクライナ支援とセットになる場合、下院共和党の一部が反対に回る恐れがある。

下院共和党は、社会問題への対応で保守的な政策を入れた歳出法案を幾つか提案している。(1)薬局での経口中絶薬ミフェプリストンの販売禁止(2)国防総省が職員に対して中絶を合法としている州で手術を受けるための旅費を支給することを禁止(3)国防総省による人種多様性プログラム実施の禁止(4)人種問題に関する学校教育の制限――といった内容 。

下院のマッカーシー議長(共和党)は9月27日、上院が超党派で合意した11月17日までの政府予算を賄う「つなぎ予算」案について、成立に必要となる下院の採決を行わない意向を示した。

つなぎ予算成立のタイムリミットは9月30日深夜で、間に合わなければ10月1日から一部の政府機関が閉鎖される見通し。

バイデン大統領は9月27日、政府が閉鎖されれば「多くの重要な仕事が影響を受ける」とし、共和党に譲歩を促した。

共和党のマコネル上院院内総務は債務上限問題ではマッカーシー議長を公然と支持する姿勢を貫いたものの、今回は上院で取りまとめられている政府機関閉鎖回避のための超党派案を支持し、自身をはじめとする上院共和党と下院共和党との違いを鮮明にしている。「上院と下院とでは極めて異なる。上院では、超党派ベースで可決が可能な合意に達することに引き続き努め、政府閉鎖がないようにしたい」と語った。

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