「no」と一致するもの

三井物産とダウは7月1日、両社が折半出資でテキサス州フリーポートで電解事業を行う合弁事業の設立に関する合弁契約書を締結した。

三井物産は約1.4億ドルを出資するとともに、プロジェクトファイナンスの活用に向け関係各社と協議中。

生産能力は苛性ソーダ約88万トン、塩素約80万トンで、2013年央に生産開始の予定。

製品は両社が半分ずつ引取るが、三井物産は塩素についてはダウにEDCへの加工を委託し、EDCを主にアジアで販売、苛性ソーダはダウを通じて米国内を中心に販売する。

三井物産は2009年4月に、塩事業、アルカリ事業、塩化ビニール原料事業、塩化ビニール樹脂事業、ウレタン原料事業を統合し、当該事業チェーン全体を川上から川下まで統括するクロールアルカリ事業部を発足させた。

同社はEDCをはじめとする塩素を原料とした商品群の販売を世界規模で展開しているが、本合弁事業を通じ、ダウとの関係を深化し、同社が強みを持つ商品の製造事業に参入するという意義があり、戦略的提携の一環として位置付けられる。

---

今回の計画はダウが2008年1月に発表したダウ単独のChlorine 7 ”計画に代わるものである。
当初は2011年のスタートを目指すとしていたが、経済情勢の悪化で延期されていた。

ダウは信越化学と提携し、シンテックの原料VCMは全量ダウが供給していたが、シンテックは2004年12月にルイジアナ州で塩素45万トン、VCM75万トン、PVC60万トンの工場建設を発表(1期は2008年10月に稼動、2期は本年後半に完成予定)、更に 2007年5月には、テキサス州で電解工場(塩素50万トン)とVCM工場(825千トン)を建設する許可申請を同州環境庁に提出した。

2007/6/1  シンテック、テキサス州にVCM工場の建設許可を申請 

ダウは2004年11月に、テキサス工場のEDCプラント1系列を2005年末までに停止し、VCMの生産も縮小すると発表、これにより、両社の関係が薄まりつつあるとの見方がなされた。 

しかし、ダウは20081月に、テキサス州フリーポートでクロルアルカリ設備(Chlorine 7 ”)の建設を開始すると発表、同時に30年以上の需要家であるシンテックとのVCMの長期供給契約の更新を発表した。

Andrew N. Liveris 会長兼CEOは、「この供給契約は新投資の操業を保証するもので、JVの形はとっていないものの、シンテックはクロルアルカリ事業での戦略的パートナーである」とし、実質的にAsset- light 戦略であるとした。シンテックはテキサスの電化・VCM計画を無期延期とした。

2008/1/31  ダウ、テキサスでのクロルアルカリ設備新設、シンテックとのVCM供給契約更新を発表 

旭化成ケミカルズは20082、ダウからテキサス州 Freeport 工場向けにイオン交換膜法食塩電解の大型設備を受注したと発表している。受注金額は約70億円。

ダウのChlorine 7 ”計画は2011年のスタートを目指すとしていたが、20092月にダウは経済情勢の悪化で延期すると発表した。

20081月の上記発表時点では、ダウは「シンテックは戦略的パートナー」としていたが、本年に入り、ダウと信越の姿勢に変化が見られた。

信越化学は20104月、Shintechがルイジアナ州PlaquemineVCMの第2工場の建設工事を開始したと発表した。
第2工場の生産能力は、
VCM 80万トン、カ性ソーダ 53万トンで、投資金額は約1000億円、2011年の完成を目指している。第2工場が稼動すると、VCM能力は160万トンとなり、Shintechのテキサス州の工場も含めたPVCの全生産能力264万トンの60%を自給することとなる。

ダウのCEOAndrew Liveris20102 に、塩素/EDC /VCMついてもAsset Light戦略を検討する意向を明らかにした。
同氏は「信越とのパートナーシップは2011年には明らかに終了する」とし、「クロルアルカリは資本集約的事業で、ダウの大規模設備は有利であり、PVC業界とのパートナーシップも探求する。塩素でもAsset Light戦略を行う積もりだ」と述べた。

2010/4/6  信越化学、米国でVCM増強 

Andrew Liveris信越とのパートナーシップは2011年には明らかに終了する」という発言の意味は不明だが、ダウがシンテック向けを前提に単独で実施しようとしたChlorine 7 ”を、三井物産を相手にしたAsset Light戦略に切り替えたこととなる。

ーーー

ダウは中東と中国でのクロルアルカリの投資計画を発表している。

中東ではダウはサウジアラムコとの間で、サウジのラスタヌラに世界最大級の石油化学コンプレックスを建設する覚書を締結したが、これにはワールドスケールの電解設備と、VCM、ポリウレタン、エポキシレジンなどが含まれている。

       2007/5/15  アラムコとダウ、世界最大級の石油化学コンプレックス建設

中国では中国の国有石炭最大手・神華集団との間で、陜西省楡林市にワールドスケールのCoal-to-Chemicals コンプレックスを建設するための詳細FS実施の契約を締結した。
計画では "clean coal" technologies を使用し、石炭からメタノール、メタノールからエチレンとプロピレンを生産するが、電解設備も建設し、苛性ソーダ、VCM、有機塩素等を生産する。

       2007/5/21 ダウの海外進出  

ーーー

シンテックはダウとの間で共存共栄体制を取り、これがシンテックの高収益の要因の一つとされた。
シンテックはPVC、ダウは塩素ーVCMに特化し、VCM価格にはPVC市況を反映させるものと言われている。

シンテックの塩素ーVCM進出により、両社の関係が薄まったものと思われる。

金川会長は著書の「毎日が自分との戦い」のなかで、原料進出について、述べている。

(シンテックが1996年に原料一貫工場を計画した際に、環境を理由に反対運動が起こったこと、ダウが原料供給を増やす計画を立てたことで、一貫生産を見送ったが、)
こうした経緯を元ダウ社長でシンテック取締役を務められたブランチ氏に話すと、憮然とした表情で一言「ノー・フューチャー」(未来がない)。私は「エッ?」と言ったきり、言葉に詰まってしまった。同氏は、そろそろ独自に原料をつくらないと、シンテックには将来性はないと言いたかったのだろう。

一貫生産にこぎ着けるまでの過程では、ブランチさんの「ノー・フューチャー」が心の大きな支えとなった。

一貫生産は信越化学の戦略であるが、ダウとの共存共栄体制が切れるのは惜しい気もする。


目次、項目別目次
    
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


Akzo Nobelは621、20081月に買収したICIの一部、National Starch 事業を、米国のスターチや甘味料のメーカーのCorn Products International に売却すると発表した。
Akzoは現金13億ドルを受け取り、National Starchの年金債務等はCorn Products負担となる。

関係当局の認可を得て、第3四半期に取引完了の予定。

AkzoはICI買収の時点で、National Starchの事業のなかの接着剤とエレクトロニック材料事業をHenkelに売却しており、今回、National Starchのメインの部分(食品添加物とスターチ)を売却するもの。

塗料や特殊化学品を中心とする企業に衣替えしたAkzo Nobelにとって、スターチ事業のNational Starch は異質であった。

National Starch 2009年の売上高は12億ドル、8カ国11工場に2,250人の従業員を抱える。

ーーー

Akzo20078月に、ICIを約80億ポンド(約19000億円)で買収することで合意し、200812日に発効した。

2007/8/13 Akzo ICI を買収

ICI1997年に、化学品のなかでも付加価値が高く、投下資本が少なく、景気変動の影響が少なく、研究開発により重点を置いた事業に急速に転換することを決めた。

19977月、ICIは英蘭系Unileverの特殊化学品4社、National Starch(工業用接着剤、レジン、産業用でんぷん)、Quest(香料、乳化剤、芳香剤)、Uniqema(脂肪酸、グリセリン)、Crosfield(シリカ、ケイ酸塩、ゼオライト:その後売却)を買収すると同時に、既存事業を順次、分離・売却していった。 

その結果、ICIはスペシャリティ化学品を中心とした「新生ICI」に生まれ変わった。
塗料のほかは、Unileverから購入したNational StarchQuestUniqemaが中心である。

2006年にはQuestUniqema を 売却し、売却代金を退職年金不足額の充当と負債の返済に充てた。

この結果、Akzoが買収した時点のICIは塗料事業とNational Starchだけとなっていた。

ICIの事業の変遷は以下の通り。


目次、項目別目次
    
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


信越化学工業は6月28日、シリコーンの工場を中国に建設すると発表した。

同社100%出資の「信越有機硅(南通)公司」を設立する。<p>HTML clipboard</p>「有機硅」は「シリコーン」)
江蘇省南通市経済技術開発区にある工業団地に約15万平方メートルの工場用地を確保済みで、2011年末完成をめどに成形用シリコーンゴム、RTVゴムなど年産25,000トンのゴム系製品の工場を建設する。投資金額は約85億円で、年100億円の売り上げを見込む。
今後、順次製品群を拡大していき、最終的には全ての製品群の製造を行う予定。

原料モノマーは、当面タイのAsia Silicones Monomer(GE社と50:50合弁会社)から手当てするほか、日本や海外他メーカーから調達する。

2001年2月、信越化学はGE/東芝グループと50/50出資のシリコーンモノマーの製造会社Asia Silicones Monomer Limitedをタイに設立した。
能力は年間約7万トン(シロキサンベース)アジア最大の単独シリコーン製造工場である。

GEと東芝はシリコーン事業から撤退し、事業をApollo ManagementMomentive Performance Materials に売却したが、GE(東芝持分はGEが買収)このJVについては売却せず、株主のままとなっている。

2006/9/21 GE、シリコーン事業を売却

信越化学は1953年に日本で初めてシリコーンを事業化し、現在まで国内トップシェアを有している。さらに、アメリカ、台湾、韓国、タイなど海外にも生産・販売拠点を有して、世界市場においても優れた品質と多彩な機能で高い評価を得ている。

中国の需要が大きく伸張し、今後も高い成長が見込めることから、現地生産に踏み切り、中国市場におけるシリコーン事業の拡大を目指すこととした。

信越化学にとり、この投資が中国では初の大型投資となる。

同社は2002年に信越化学 90%出資(残り10%は米国のTOPCO International)で浙江信越精細化工有限公司を設立し、浙江省嘉善県の工業団地に工場を建設、シリコーンの二次製品である一部のエマルジョン製品、一液型RTVゴムなどを中心に生産している。投資金額は工場用地を含め約4億円であった。

また、2003年には「信越有机硅国際貿易(上海)有限公司」を設立、シリコーン製品の販売市場拡大を図ってきた。

ほかに子会社の信越ポリマーが、1993年には蘇州に現地法人を設立してキーパッドの生産を開始、その後、生産体制を拡張し、コネクター、ロールの生産にも着手、2004年には深センに塩ビコンパウンド工場を稼動させている。

<p><p><p>HTML clipboard</p></p></p>これらは小規模の投資で、信越化学はこれまで、カントリー・リスクを考え、中国への大型投資を避けてきた。

金川社長は中国進出については、こう述べている。(2005/6/12 TV朝日 「トップに迫る」)

「中国はね、市場としてはこれからの10年、圧倒的に伸びるでしょうね。 非常に魅力的な市場です。
我々は製品の輸出には中国に大変お世話になっていて、たくさん輸出しています。
ただし、投資とは別のことなのです。
中国の場合は カントリーリスクというと語弊があるかもしれないが、例えば我々の商品の基礎中の基礎の原料である石油とか電力を、政府が一番コントロールしている。
我々が下流、ダウンストリームでいくら努力して、事業を成功させても、上流で押さえられたらそれで一発で終わり。
つまり、我々の経営努力ではできないものがあるところではやってはいけない、というのが私の考え方。
経営努力で克服できるものは経営努力で克服するが、できないものはやらない。」

---

同社は1967年にニカラグアで、信越化学 33.75%、三井物産 11.25%、現地(ソモサ大統領系) 55%出資で、塩ビ会社Polimeros Centroamericanos S.A. (POLICASA) を設立した。中米共同市場を対象にPVC 年産 5千トン、同コンパウンド 6千トンを生産するもので、1970年にスタートした。

同社は中米でも一、二を争う高収益企業に成長したが、1979年の革命勃発(ソモサ大統領は亡命、のち暗殺される)で撤退を余儀なくされた。

「この経験は、事業を進めるときにカントリー・リスクは絶対に避けねばならないことを私に教えてくれた」
(金川社長 「毎日が自分との戦い」)

注)本年1月、ニカラグア政府は金川社長(民間外交推進協会=FEC 会長)に対し、FEC会長としての両国関係の長期安定的拡大への貢献と、過去のPOLICASAへの貢献で、「ホセ・デ・マルコレタ勲章」を授与した。

<p><p><p>HTML clipboard</p></p></p>しかし今回、中国政府の関与は変わっておらず、最近は人件費アップや為替の変動などもあり、中国のリスクはあるものの、中国市場の重要性を勘案すれば、現地生産が不可欠と判断した。

5月の社長交代のインタビューで、森・次期社長は以下の通り述べている。

「金川社長は中国に対する取り組みについて、今まではカントリーリスクということで、大型の投資は控え、中小のモノをやり、営業を活発にというやり方だったが、これから中産階級が消費需要が増大してくることを見込んで、積極的に出ようということを昨年暮れに社内に宣告された。それを早く実現していきたい。

中国だけでなくて、今、新興国のGDP伸びは高い比率を示している。期待も高く、当社も相当出ていますけども、現地需要開拓を目指すというのは当然ですが、現地生産も目指して積極的に検討していく。」

 

信越化学では6月29日の定時株主総会終了後の取締役会で、金川社長が会長に、森副社長が社長に就任する。


目次、項目別目次
    
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


再び人民元論争 - 化学業界の話題

中国の中央銀行である中国人民銀行は6月19日、「人民元相場の弾力性を強化する」との声明を発表、2008年8月から固定していた人民元を再び管理フロート制に戻した。

しかし、初日の終値は0.44%高と変動幅の上限に近いものとなったが、その後は政府が介入した結果、非常に緩やかな変動となっている。

このため、人民元をめぐる論争が再燃した。

ーーー

中国は2005年7月21日に2.1%の切り上げを発表、その後、管理フロート制を取ってきたが、2008年夏の金融危機以降、レートを1ドル≒6.8人民元でほぼ固定してきた。

米国は中国に対して元切り上げを要求してきたが、温家宝首相は「中国は自主性、制御可能性、持続性という原則に基づき、人民元為替相場メカニズム改革を穏健に推進する」と表明し、元切り上げ要求を拒否した。

中国にとっては大幅なユーロ安で欧州向けの輸出に影響が出ており、世界的な経済危機のなかでのドルに対するレート固定は国際経済に貢献しており、これ以上の元の切り上げは困難とした。

これに反発して民主党のCharles Schumer上院議員らは3月16日、中国など為替レートの不均衡を是正しない国への制裁措置として、輸入品に反ダンピング関税を課す「通貨為替監視法案」を提出すると発表した。

Debbie Stabenow上院議員は「通貨が過小評価され米国への輸入品が安くなるのは公正ではない」とし「中国が自分で是正しないなら強制するまでだ」と述べた。

2010/3/24 米国、人民元切り上げを要求 

多くの西側諸国のエコノミストは、人民元が25-40%過小評価されているとの見方を示している。

中国の中央銀行である中国人民銀行はG20サミットを控えた6月19日、「人民元相場の弾力性を強化する」との声明を発表、2008年8月から固定していた人民元を再び管理フロート制に戻した。

世界的な経済危機の中で人民元の対米ドル相場の安定を維持したことはアジアと世界経済の回復に寄与した。
最近の世界的な金融情勢の安定化を踏まえて今後は通貨バスケットを参考として市場の需給動向を人民元相場に反映させる。
中国の国際収支は均衡に向いつつあることから、大幅な為替相場修正の根拠は無いものの、弾力性の拡大は容認される。
銀行間市場における為替取引中心レートからの日中変動幅に変更はない。
(対米ドルの日中変動幅は同行の発表する中心レートから上下0.5%以下)
  * 為替取引中心レート(基準値、中間値)は、中国人民銀行が取引開始前に、前日相場などを勘案して発表するもの。

しかし、初日の終値こそ基準値比 0.44%アップと上限に近いものとなったが、その後は政府が介入した結果、非常に緩やかな変動となっている。
G20サミットを控え、人民元高の実績をアピールすると同時に、大幅な切り上げは容認しない姿勢も示した。

このため、米国では再び、更なる人民元切り上げを求める圧力が強まった。

オバマ米大統領は6月24日、人民元相場の弾力化を「初期の動きとしては評価できる」としつつ、「不均衡是正に十分か、評価を下すのは時期尚早だ」と中国にクギを刺した。

米製造業団体の幹部は、「中国の発表はG20を前にした、また議会からの圧力を避ける策略でしかない」と指摘、議会が引き続き、中国に圧力をかけていくことを望んでいると表明した。 

民主党のCharles Schumer上院議員は中国の通商政策に関する公聴会で「中国には対応を迫らない限り何も変わらない」と述べ、人民元の過小評価を政府による補助とみなす法案について近く上院で採決を目指す考えを示した。

同氏や他の議員は、中国の為替政策が同国の輸出に不当に利益をもたらしているとみている。

米上院財政委員会のMax Baucus委員長(民主党)も中国の対応は遅すぎるとし、2007年に策定した人民元改革を促す為替法案を再提出する考えを示した。

これに対し、中国外交部の秦剛報道官は6月24日の定例会見で、人民元切り上げでは中国と米国の貿易不均衡は解決しないとし、対中ハイテク製品輸出規制を緩和すべきだとした。

人民元の切り上げで中米貿易 の不均衡することもできないを解決することはできないし、米国が現在抱える国内問題ー低すぎる貯蓄率、ローン消費、失業などーを解決することもできない。
中国は、米国がひたすら非難し、圧力を加えるのではなく、もっと自国の経済構造に原因を求めることを望む。

人民元相場は中米貿易の不均衡を生み出す主要因ではない。
貿易不均衡はグローバル化を背景とした国際分業調整の結果であり、中米貿易の不均衡を生み出し ているもう
一つの主要因は、米国による対中ハイテク製品輸出規制だ。

中米の経済貿易関係は両国にとって重要であるのみならず、世界にとっても非常に重要だ。
中国は米国との経済貿易関係の発展において相互利益・ウィンウィンを重要な原則としており、強く意図して巨額の対米黒字を追い求めてはいない。

ここ数年来、われわれは一貫して積極的な措置を講じ、米国からの輸入を拡大してきた。
これらの措置は顕著かつ効果的なものだ。
米側が中国側と共に、両国の経済貿易関係の均衡的な発展を促すことを希望する。
人民元問題を政治化し、ひたすら圧力を加え、非難し、さらには保護貿易主義的措置をやたらと発動するやり方には少しの道理もない。

米国は、航空機や航空機用エンジン、コンピュータソフトウェア、レーザー装置、光ファイバー、情報通信機器などハイテク製品の中国向け輸出について、中国が軍備増強のために利用しているとの懸念から、政府の許可を必要としている。

中国は、米国製品を輸入したくても輸入できないのが貿易不均衡の重要な原因としている。

米国も最近、世界各地で緩和が進んでいる現状ではこの規制は意味をなさなくなったとして、輸出規制政策を再検討している。

ーーー

オバマ米大統領と中国の胡錦濤国家主席は6月26日、G20を前にカナダのトロントで会談した。

オバマ大統領は人民元の弾力化方針を歓迎しつつも、「具体的にどう実行されるかが重要だ」とし、「世界経済の安定成長に向けて中国の果たすべき役割は多い」と一層の内需拡大などを求めた。

これに対し胡主席は「対米貿易黒字を追求するつもりはなく、中国は以前から米国からの輸入を拡大する措置をとっている」と主張し、人民元の切り上げ圧力をけん制する立場を示した。


目次、項目別目次
    
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


PetroChina大慶煉油化工(Daqing Refining & Chemical) 69日、黒龍江省大慶市譲胡路区でPPの第二工場の建設を開始した。
BasellSpherizone 技術を使用するもので、能力は30万トン、2012年下期の完成を目指す。
同社は
2005年に30万トンのPP工場を稼動させている。

同じ大慶市の竜鳳区にはPetroChinaのもう一つの子会社、PetroChina大慶石油化学(Daqing Petrochemical) があり、10万トンのPP工場を持っており、大慶煉油化工の第二工場完成後の合計能力は70万トンとなる。

大慶煉油化工の第一工場は原料プロピレンを自社の製油所から得ているが、第二工場については大慶石油化学の建設中の第二エチレンクラッカーからパイプラインで供給を受ける。

大慶石油化学と大慶煉油化工の現状と計画は以下の通り。(千トン)

  大慶石油化学 大慶煉油化工
能力  計画 能力  計画
製油所 6,500   6,000  
エチレン    600   600    
PE    540  250
300
   
PP    100   300 300
ABS    105      
SAN     75      
SM     90 100    
BR     80      
BTX   400    
gasoline hydrogenation   600    
ポリアクリルアミド     100  

大慶石油化学は当初手直しで200千トンの増設を検討したが、600千トンの新設に変更した。
2012年に完成する予定。

ーーー

大慶石油化学は当初、Sinopecの子会社であった。

1983年7月に中国で石油化学を担当するため、中国石油化工総公司が設立された。これが現在のSinopecである。
大慶石油化学(1962年設立)も他の石油化学各社とともに、Sinopecの子会社となった。

大慶石油化学では1980年代に30万トン級のエチレンコンプレックスが建設された。

これに昭和電工のEthylene Plant Information Control Systemが技術供与された。

高杉良の小説「生命燃ゆ」は、大分石油化学コンビナート(鶴崎油化)でこれを完成させ、病を押して中国への技術供与を行い、完成を見ずに亡くなった同社の垣下怜氏(小説では柿崎仁)を描いている。

1988年に政府の石油探査、開発、生産部門を中国石油天然気総公司(CNPCPetroChina)とし、上流をCNPC、下流をSinopecに分離したが、その後、両社の利害が対立した。

この結果、1998年に再編を行い、石油と石油化学を垂直統合した新CNPCと新Sinopecが誕生、両社はほぼ万里の長城を境に、中国東北部と西北部をCNPC、長江以南と北京周辺を新Sinopecが担当することとなり、大慶石油化学はPetroChina に移った。

その後、石油の販売でこの協定は崩れ、現在は各地で競合している。

大慶煉油化工は大慶地区での第二の製油所として2000年にPetroChinaにより設立された。


目次、項目別目次
    
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


EUの欧州委員会は6月23日、浴室の設備メーカー17社が価格カルテルを結んでいたとして、総額6億2225万ユーロの制裁金を命じた。
このうち5社については、当初想定していた制裁金を科すと倒産する恐れがあると判断し、制裁金を減額する異例の措置を講じた。

欧米の17社は1992年から2004年にかけてドイツなど欧州6カ国で、洗面台、浴槽、蛇口などの価格を調整していた。

17社の社名と制裁金は以下の通り。

社名 制裁金 (Euro)
Artweger (オーストリア) 2,787,015
Cisal (イタリア) 1,196,269
Dornbracht (デンマーク) 12,517,671
Duravit (デンマーク) 29,266,325
Duscholux (オーストリア) 1,659,681
Grohe (デンマーク) 54,825,260
Hansa (デンマーク) 14,758,220
Ideal Standard (US) 326,091,196
Kludi (デンマーク) 5,515,445
Mamoli (イタリア) 1,041,531
Masco (US) 0
RAF (イタリア) 253,600
Roca (スペイン) 38,700,000
Sanitec (スイス) 57,690,000
Teorema (イタリア) 421,569
V&B (デンマーク) 71,531,000
Zucchetti (イタリア) 3,996,000
合計  622,250,783

このうち、米国のMascoはカルテルについて最初に欧州委員会に報告したため、全額免除となった。
また、
Ideal Standard Groheは調査に協力したため、30%の減額となった。

17社のうち、10社が欧州委員会に対して制裁金を支払えないと申し出た。
比較的規模の小さい企業が多く、金融危機で住宅投資が減少し、企業収益が悪化している。

欧州委員会では、各社の最近の決算書や今後の損益予想、諸財務比率(健全性、収益性、支払能力、流動性など)、銀行や株主関係、各社の社会的・経済的状況を検討、更に制裁金のために倒産に追い込まれた場合に各社の資産価値が大幅に失われるかどうかを検討した。
評価は、公平性を確保し、
EUの抑止力を維持するよう、出来るだけ客観的に、数値化して行われた。

この結果、10社のうち、3社に対しては50%の減額、2社に対しては25%の減額とした。減額対象となった企業名は明らかにされていない。

Joaquin Almunia 競争政策担当委員は、違法な行為は摘発していくこと、制裁金は違法行為をやらせないような水準にすることを強調しつつ、「制裁金の目的は経済的苦境にある企業を倒産に追い込むことではない」と述べた。


目次、項目別目次
    
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


USA TODAY紙は621日付けのOPINION欄にダウのCEO Andrew N. Liverisの論文 “How U.S. can launch a manufacturing renaissance”を掲載した。
  http://www.usatoday.com/news/opinion/forum/2010-06-18-Liveris21_st_N.htm?loc=interstitialskip

米国の製造業の雇用が増えず、1990年以来、製造業の雇用減は300万人で、ほぼ20%に達する。この結果、多くのセクターでリーダーシップを失った。

国としての戦略がなければ、雇用減は回復できない。経済を活性化し、産業の競争力を高め、雇用を増やすために、米国は高度の製造業のプランが必要とし、以下の各項目が重要であるとしている。

(1)新しいインフラ

新しいインフラで、企業の設備投資を促進し、米国の通信ネットワーク、送電線、海陸空の輸送システムを近代化することが必要。
これにより、国内の生産を高め、生活の質を改善できる。

(2)最先端のR&D

外国との競争で、R&D投資が経済成長を高め、生産性を高め、生活水準を高める。

(ダウは6月21日、副大統領参列のもと、政府補助金を受けた最新のリチウムイオン電池工場の起工式を実施した)

(3)教育

米国の学生の科学、技術、工学、数学などの能力はグローバルな競争で遅れをとっており、これを高める必要がある。
過去にはSTEM(Science,
Technology, Engineering and Mathematics)教育や社員訓練が米国の強みであり、製造業におけるリーダーシップを支えていた。

(4)"pro-trade" (自由貿易)policy

関税や輸入障壁を減らし、公平な条件での貿易を推進すべし。
多角的貿易交渉を進め、主要貿易国と対等の扱いを確保すべきだ。

(5)代替エネルギー政策

業界の競争力維持のための豊富なエネルギーが必要

(6)規制改革

環境規制は必要だが、イノベーションを止めたり、科学的根拠なしの規制が多い。

(7)税制

製造業を支える税制が必要。
 米法人税率はOECDで2番目に高い。
 他国と異なり、全世界の利益に課税される。
 R&Dの税額控除は主要OECD国で23番目。

(8)裁判制度の改革

原告側弁護士は企業に不当な賠償を請求しすぎである。

ーーー

米国は将来の雇用創出のため、製造業にインセンティブを与える戦略的統合アプローチが必要が必要で、景気対策のためのパッチワークのインセンティブでは不十分である。

米国がグローバルな競争に打ち勝つためには高度の製造業のプランが必要である。アメリカが製造業を諦めれば、子供たちの将来はないと説く。


目次、項目別目次
    
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


丸紅は6月23日、中国の総合化学大手、天津渤海化工集団(Tianjin Bohai Chemical)と戦略的パートナーシップ契約を締結し、今後、天津渤海化工が計画しているプロジェクト推進に協力していくと発表した。

天津渤海化工は天津市傘下の国有企業で、長年、石炭を原料としたアンモニア・肥料やソーダ灰(ガラス原料)やクロルアルカリなどの無機化学事業と、輸入エチレンやプロピレンを原料とする石油化学事業、殺虫剤、染料中間体などの事業を天津市の経済開発区で営んでいる。

天津市は、石油・化学産業は発展が期待される基幹産業と位置付けており、天津渤海化工は、天津市のサポートも得て、天津渤海化工園区を現在建設し、プロパンを原料としたプロピレンとその関連誘導品の事業化計画を進めている他、電子材料や精密化学品分野を含むケミカル・チェーン経営への展開も計画している。

プロパン脱水素によるプロピレン計画は能力60万トンとされ、プロピレンは渤海グループのプロピレン誘導品のオクタノール、エピクロルヒドリン、アクリル酸、酸化プロピレン(下記)などに使用される。PPの計画はない。

丸紅は、1980年代に天津渤海化工の殺虫剤や漂白剤の販売から始め、現在ではVCM、エチレンやプロピレン、溶融硫黄などを長期的に同社に供給している。溶融硫黄については輸入・貯蔵する合弁会社を天津渤海化工傘下の子会社と設立している。

今回の戦略的パートナーシップ契約の締結を契機に、丸紅は、天津渤海化工が今後推進する案件への事業提案や、ライセンサーや合弁を含めた海外事業パートナーの積極的な紹介を通じ、その原材料や製品の取扱い、ならびに事業参画にも優先的に関与していく。
また、天津渤海化工との包括的なアライアンスを通じて、中国市場への取組みを強化していく方針。

ーーー

天津渤海化工は子会社に天津大沽化工(
Tianjin Dagu Chemical) を持つ。

天津大沽は自社で800千トンのPVC能力を持つとともに、韓国LG ChemとのJVの天津LG大沽化工(LG 85%、天津大沽 15%)で340千トンのPVCを生産している。

天津渤海はLG Chemとの合弁で、天津に天津LG渤海化工(LGグループ75%、LG大沽10%、渤海化工15%)を設立し、苛性ソーダ 240千トン、EDC 300千トン、VCM 350千トンを生産、VCMは天津LG大沽化工に供給している。

2006/9/12 LG Chem、中国で2工場竣工

ーーー

天津渤海化工の子会社の天津大沽化工は塩ビチェーンのほかにPOおよびPO誘導品を事業化している。
PO能力は年産100千トンで、三井東圧化学(当時)の技術を導入したもの。

同社はこのたび、過酸化水素法酸化プロピレン(HPPO)の年産1,500トンのパイロットプラントの操業を開始したことを明らかにした。本年末に市場に製品を出す予定。

同社ではHPPO年産10千トンの商業生産用プラントの建設も行っている。

過酸化水素法PO(HPPO)、はBASFが1995年頃から研究してきたもので、副産物がなく、最終製品であるPOと水しか発生しないこと、プラントの設置面積が小さく、必要インフラストラクチャが少ないことが特徴とされている。

ダウとBASFは合弁でアントワープに過酸化水素法で30万トンのPOプラントを建設、2009年3月にスタートアップ段階を終え、順調に操業している。

2009/3/12 ダウとBASFのHPPO法PO 生産開始

ダウはまた、2009年9月に、この技術を使用し、タイのMap Ta Phut 近郊のAsia Industrial Estates39万トンのHPPOプラントの定礎式を行った。
実施はタイの
Siam Cement GroupとのJVMTP HPPO Manufacturing で、2011年に生産開始の予定。

2008/6/16 Dow、タイで過酸化水素法PO工場建設

天津大沽化工は独自でこの製法を開発し、中国で特許を取ったとされている。

なお、中国科学院大連化学物理研究所(DICP-CAS)もHPPOの技術を開発したとされる。但し、パイロットプラントは建設していない。

ーーー

また、天津大沽はSINOPECの天津エチレン計画(100万トン)に参加し、2007年11月にSM 600千トン(500千トンから見直し)とABS400千トン(の第一期200千トン)の建設を開始した。

2007/8/23 天津大沽化工、天津でSM 500千トンプラント建設


目次、項目別目次
    
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


6月19日の記事に以下のコメントをいただいた。

ワックスマン(正しくはJoe Barton)議員の「ゆすり」発言については、正直、少し同意しますよ。法的な裏づけもなく 200億ドルの拠出を要請というのは…。じゃあ、なんで油濁法の賠償上限なんてものがあるんだ、という話です。法律の不備に対しては、政府が責任を負うのが筋でしょう。実際、今回の掘削プランは、「だいたいは」総務省のMMSが承認した通りなのに…。

米国油濁法(Oil Pollution Act of 1990 )の問題と、米内務省のMinerals Management Service(鉱物資源管理局=MMSの認可責任の問題である。

1)米国油濁法

三井物産の損害負担について、「米国油濁法による賠償限度額」というブログで、以下の通り記載されている。
 
http://messages.yahoo.co.jp/bbs?.mm=FN&action=m&board=1008031&tid=bb00fjaabbba&sid=1008031&mid=43474

「米国には中小の石油会社がたくさんあり、油濁事故を起こした石油会社の倒産を防ぐため、油濁法により損害賠償の限度額が定められています。その限度額は 7500万ドル(70億円)で・・・

今回の被害の原因は非常時に緊急バルブ(防憤装置)がまったく作動しなかったことによるものですから,メンテナンスを請け負っているTransocean や、緊急バルブを納入したCameron International、掘削泥水の操作を行っていたM I Swacoにも法的責任が発生し、これらの会社も賠償責任を負うことになると三井物産の負担割合はもっと下がってきます。・・・」

(この中で「三井物産の負担が7%」とあるのは、三井物産が、権益の10%を持つ三井石油開発の69.91%株主であるため)

19893月のExxon Valdezの事故を機に、米国で油濁防止に関する関心が高まり、19908月に米国油濁法(Oil Pollution Act of 1990OPA 90)が成立した。
これにより、全てのタンカーはダブルハル(二重底および二重船側)が義務付けられた。

このなかで、損害賠償の限度額が決められ、これを超えた分をカバーするために油濁基金(Oil Spill Liability Trust Fund )が創られた。

 損害賠償の限度額は以下の通り。
 今回の事故の場合の限度額は、全ての回収費用+
$75,000,000 となる。

タンカー 次の大きい方
(1)gross ton 当たり$1,200
(2)3,000gross ton以上の場合 
$10,000,000
  それ以下の場合  $2,000,000
他の船 gross ton 当たり$600か、$500,000の大きい方
offshore facility all removal costs $75,000,000
onshore facilitydeepwater port $350,000,000

 油濁基金(Oil Spill Liability Trust Fund)には、米国で操業する石油会社が生産量+輸入量に対して
 1バレル当たり
8セントを納入する。

ホワイトハウスもこの規定は認識しているが、国民の怒りを利用して、BPに200億ドルの基金創設を認めさせた。

Exxon Valdezの場合、裁判で賠償額が決められたため、長期間の争いの後に賠償額が大幅に引き下げられたケースや、裁判での決着を見ずに亡くなった人が多数あった。

今回は漁業やレストラン、観光など、被害を受けた企業や個人は膨大で、被害は何年も続くため、裁判となれば、それまでに企業は倒産し、個人は生活の糧を失う。
このため、裁判によらず、第三者の査定により企業や個人を救済する必要があった。

ホワイトハウスも、あらゆる場合に全額をBPなどに負担させるとはしていない。

ホワイトハウスは近く、議会に緊急対策のための歳出法案を提出する。
同法案で、賠償責任額の上限額を
7500万ドルから100億ドルに引き上げ、BPにも適用するとされている。

また、同法案では油濁基金への納入を今年から1ガロン当たり9セントへと、1セント増やし、2017年からは10セントへ引き上げる。

賠償限度を100億ドルに引上げた上で、それを超える分を油濁基金の今後の増加額で補うという考えである。

このうち、新上限額をBPに適用するのは問題である。上記のブログでは以下の通り述べている。

「オバマさんがいくら頑張っても,罪刑法定主義の原則からみて、法案が改正される以前の事故にこの金額が適用される見込みはほぼありません。」

新上限額の遡及適用は別として、上限額引き上げ自体は通る可能性が強い。

これまで共和党は引上げに反対していたが、Joe Barton議員の「ゆすり」発言で反対できなくなった。

限度額が低いことが、BPに無謀なやり方を取らせ、事故の原因になったとの意見が強い。

ホワイトハウス報道官は、「Barton議員の発言は個人の発言ではなく、共和党の考え方を反映したものであり、11月の中間選挙で国民が判断するだろう」と述べた。

以上のとおり、油濁法では損害賠償の限度額が決められており、改正での遡及適用も無理筋である。
このため、油濁法以外の法律を適用して、責任を追及するべきだとの意見も出ている。

但し、油濁法の規定では、限度額は以下の場合には適用されず、基金の資金も利用できないとなっている。

(A) gross negligence or willful misconduct (重大な過失、意図的な違法行為), or
(B) the violation of an applicable Federal safety, construction, or operating regulation

このため、今回の事故が重大な過失、意図的な違法行為、規則違反が原因とされた場合、損害賠償の限度額はない。
これまでの下院の委員会の調査では規則違反や重大な過失の疑いが出ている。

この場合、事前に政府に提出した文書に基づき、権益保有者がまず連帯して負担し、分担は権益保有者と他の責任者の間で決めることとなる。
3社間の契約がどうなっているかによるが、例えBPに重大な過失があった場合でも、他の権益者が完全に責任を免れるかどうかは不明である。
恐らくは裁判で決めることとなろう。

Anadarkoは負担を避けるため、BPの責任であるという声明を出したが、BPのwillful misconduct を主張する訴訟を準備中と報道されている。
BPAnadarkoを訴える準備をしていると報道されたが、BPではまだ決めていないとしている。

なお、BP自身は油濁法の7500万ドルの限度と関係なく支払うこと、石油漏洩の結果生活手段をうしなった人に、仕事に復帰するまでは補償を続けるとしている。

BP does not believe that the $75 million cap in the OPA '90 statute is relevant.

We intend to continue replacing this lost income for those impacted for as long as the situation prevents them from returning to their work.

2)Minerals Management Service (MMS)

オバマ大統領は6月15日、元連邦検事補 Michael BromwichMMSの新長官に指名し、以下の通り述べた。

10年以上前から、石油会社とMMSとの癒着した関係がチェックされずにきた。
その結果、安全な計画だからというのでなく、石油会社が安全を保障しているというだけで採掘許可が出された。
これからはこんなことは許されない。

大統領は先月には、「石油業界と政府の監督官との癒着は規制がほとんど、又は全くないとの同じだ」とし、MMSを3つの部門に分割することを発表している。

このように業界との癒着が問題になり、6月2日にはメキシコ湾での掘削の安全規則を厳密にするとの発表がなされているにも係らず、MMSはその後に少なくとも5件の新しい掘削を承認し、そのうち3件は環境評価が免除されていることが明らかになった。

業界とMMSとの癒着は事実であり、大統領も認めているが、それを理由に米国政府が補償を負担すべきだとの主張は全く出ていない。


目次、項目別目次
    
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


ブラジルのValeが、日本とブラジルが共同で行っている「アマゾン・アルミニウム事業」(アルミ精錬のAlbrasとアルミナのAlunorte)から撤退する。

同事業を含むアルミ事業とアルミナ事業及びボーキサイト鉱山の権益をノルウェーのアルミ最大手Norsk Hydroに売却する契約を締結した。
Valeは現金11億ドルと、Norsk Hydroの株式の22%を受け取る。これらに7億ドルのJVの債務負担を加えると、合計で49億ドルに相当する。
Norsk Hydroは格付け維持と将来の投資資金確保のため、17.5億ドル相当の増資を行う。

この結果、Norsk Hydroが本年第4四半期に、Albrasの権益51%、Alunorte権益91%と、パラゴミナス鉱山の権益60%及びCAPアルミナ(Para州に建設する計画)の権益81%を保有することになる。
Norsk Hydroはパラゴミナス鉱山の残り権益40%については2分割2013と2015年にそれぞれ2億ドル)で購入するオプションを持つ。

パラゴミナス鉱山は世界3位のボーキサイト鉱山で、現在の年産能力は990万トンだが、CAPアルミナへの供給で1500万トンに拡大する。

CAPアルミナは現在建設中で、第一期能力は186万トンだが、744万トンまでの拡大を検討している。ボーキサイトは主にパラゴミナスから供給を受ける。

Norsk HydroQatarQatar Petroleumとの50/50JVのQatalum(年産585千トン)に参加している。
第2期も検討対象となっている。

2008/6/3 中東のアルミ事業

これらの事業の概要及び経緯は以下の通り。

アルミ事業       アルミナ事業
JV Albras
(Aluminio
Brasileiro)
Alunorte
(Alumina do
Norte do Brasil)
CAP計画
(
Companhia
de Alumina do Pará
)
能力   45万トン   626万トン  186万トン
技術 三井アルミ 日本軽金属  
出資    Vale  51%→0%  57.03%→ 0%  61%→ 0%
日本アマゾンアルミニウム  49%   3.80%  
Norsk Hydro   0%→51%  34.03%→91.06%  20%→81%
Cia Brasileira de Aluminio     3.62%  
ジャパン アルノルテ インベストメント     1.19%  
三井物産     0.23%  
三菱商事     0.10%  
Dubai Aluminium      19%

AlbrasとAlunorteは工場はバルカレーナ市にあり、隣接している。
(CAPも同じバルカレーナ市)

アルミナの原料のボーキサイトは、従来からのトロンベタス鉱山(年600万トン)に加えて、新しくパラゴミナス鉱山が開発され、後者からは年900万トンが輸送用パイプライン(約244km)でスラリー輸送される。

電力はツクルイ水力発電所から供給を受ける。

      日本アマゾンアルミニウムのホームページから

この計画は1973年8月にブラジル政府から要請のあったもので、ブラジル東北部アマゾン河流域の豊富な水力資源とボーキサイトを利用して、ベレン地区に年産能カ80万トンのアルミナ工場(アルノルテ計画)および同32万トン(16万トンx2系列)のアルミニウム製錬工場(アルブラス計画)の建設、運営を行うという計画である。
所要電力は同国政府がツクルイ地区に建設する発電所から供給されることとなっていた。

ブラジル政府から要請のあった2ヵ月後に第一次石油危機が発生した。エネルギーコスト上昇の見通しの中、ブラジルへの経済協力とアルミニウムの長期的な安定供給源確保のため、1976年9月に政府支援が決まり、ナショナルプロジェクトとなった。

1977年に日本側投資会社の日本アマゾンアルミニウムが設立された。
当時精錬5社は経営悪化で出資余力に乏しく、需要家や商社などに出資を求め、民間側32社の出資となった。

現在の出資は以下の通り。
 政府: 国際協力機構(当初は海外経済協力基金) 44.92%
 アルミメーカー: 三井アルミ 8.30%、日本軽金属 7.94%、住友化学 4.59%、
神戸製鋼所 1.84%、昭和電工 0%(←3.21%)
 アルミ需要家: YKK 2.02%、三協立山アルミ 0.92%
 商社: 三井物産 12.57%、三菱商事 5.51%、伊藤忠商事 2.75%、丸紅 2.02%、
住友商事 1.84%、双日 1.84%、豊田通商 0.92%、JFE商事 0.92%
 その他: 日産自動車 1.01%、三井住友海上火災保険 0.09%
   注 昭和電工は3.21%を出資していたが、2005年1月に三井物産に売却

1978年9月にVale(当時の呼び名はRio Doce)との合弁で2つのJVが設立された。
  アルミ精錬 Albras   日本側 49%   所要資金 約13億ドル
  アルミナ   Alunorte 日本側 39.2% 所要資金 約 8億ドル

Albrasの建設工事は1978年に開始され、1985年に第一期16万トンの通電を開始、1986年末にフル生産に入った。
引き続き、1987年に第二期16万トンの建設を開始し、1991年に1-2期合計の実質34万トンがフル操業となった。

しかし、借入金の大半は円建てのため、プラザ合意以後の円高で金融費用が大幅増となり、アルミ市況の低迷もあって事業が困難となった。

このため、追加出資、金利引下げ、返済条件緩和など、両国の官民による二度の支援が行われた。
この一環として日本アマゾンアルミへの協力基金の出資も当初の40%から引上げられた。

一方、Alunorteについては、アルミナの需要減少で国際価格が下落したため、1983年から3年間、建設工事を中断したが、日本アマゾンアルミは1986年末に、建設が4割程度完成していたこの計画から撤退した。
日本側の出資・融資金は全額、同社の議決権のない優先株となった。

Alunorteは1993年にブラジル側のみで新株主を加えて工事を再開、2005年にアルミナ110万トンが生産開始した。

その後、ジャパン アルノルテ インベストメントが出資。
(日軽金 49%、三井アルミ 17%、伊藤忠 17%、三井物産 17%)
2003年に三井物産と三菱商事が新たに出資し、引取権を得た。

なお、Valeは2000年に持株の一部をNorsk Hydroに譲渡した。
Valeは1997年に民営化されたが、コアビジネスを鉄鉱石とロジステックスとした。

その後、2006年に250万トンから440万トンに引上げられたが、同年に総額8億ドルを投じて626万トン(世界第一位の規模)に増強する計画が決まり、日本側も増資に応じた。2008年央に増設が完成した。

ーーー

現在、Albrasで生産されたアルミニウム地金は出資比率相当の49%が日本へ輸出されており、これは日本の輸入量の10%に相当する。

Alunorteのアルミナ626万トンのうち、88万トンがAlbrasにアルミ原料として供給され、残り538万トンは主に輸出されている。


目次、項目別目次
    
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358  

最近のコメント

月別 アーカイブ