「no」と一致するもの

有機ELディスプレイを開発・製造・販売し、世界初の印刷方式有機ELディスプレイ量産ラインの構築を進めている JOLEDは4月8日、このたび開設した「千葉事業所」において、「後工程」製造ラインの構築を開始したと発表した。

千葉事業所は本年4月1日の開設で、茂原市のJDI茂原工場(旧 日立ディスプレイズ)内に設置した。

印刷方式の有機ELディスプレイパネルの後工程製造ラインを設ける。能力は有機ELディスプレイ 約220,000台/月。

2818年7月開設の能美事業所でアレイ工程から印刷OLED工程までの「前工程」を行ったあと、千葉事業所にて「後工程」であるモジュール工程を行い、最終検査を経て製品として顧客に出荷する。

両事業所は2020年に同時に稼働する予定。

JOLEDは、RGB印刷方式による21.6型4K高精細の有機ELパネルを世界で初めて製品化し、2017年12月5日より出荷を開始した。
大画面に均一に一括塗布する設備技術・プロセス技術の実用化とともに、光取り出し効率が高い独自の「トップエミッション構造」により、優れた色再現性や広視野角を実現した。

住友化学が開発した高分子発光材料を使用する。印刷方式は蒸着よりコストが安い半面、パネルが大型になるほど均一に材料を塗布するのが難しかったが、これを使えば塗布のムラができにくくなる。 

2018/3/24 デンソー、JOLEDに300億円出資

今回の設備投資には、INCJ、ソニー、NISSHAを引受先とする第三者割当増資により調達した総額255億円の資金の一部を活用する。
3社のうち、INCJは200億円の出資を発表している。残り55億円の内訳は不明。

ーーー

JOLEDは2015年1月、有機ELディスプレイの量産開発加速および早期事業化を目的として、ソニーとパナソニックの有機ELディスプレイの開発部門を統合して設立された。

産業革新機構が75%、ソニーとパナソニックが各5%出資し、有機EL事業の進出を図るジャパンディスプレイ(JDI) も15%出資した。

JDIは2016年12月にJOLEDに51%の出資とすることを決めたが、中期経営戦略の見直しに伴い、2018年3月30日にこの出資方針を取り消した。
但し、今後の追加出資で、議決権比率を15%から20%台に引き上げる予定とした。

JOLEDは石川、京都、神奈川の技術開発センターを拠点に開発を進め、2016年にパイロットラインを立ち上げ、印刷方式による有機ELディスプレイ量産技術を確立した。2017年に石川技術開発センターから製品出荷を開始している。

経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)は2018年3月30日、能美工場を産業革新機構に200億円で売却すると発表した。産業革新機構はこれをJOLEDに現物出資するとされた。(現物出資をしたのかどうか は発表がなく、JOLEDが増資で取得した資金で買収した可能性もある。)

JOLEDは2018年8月23日、第3者割当増資により、総額470億円を調達したと発表した。

引受先の内訳はデンソーが300億円、豊田通商が100億円、住友化学が50億円、SCREENファインテックソリューションズが20億円。
デンソーとは車載向けディスプレイの開発で協力するほか、豊田通商には販売面の協力を仰ぐ。住友化学とは材料開発での協力体制を強化する。

JOLEDは2019年中に世界初となる低コスト方式での有機ELパネルの量産を始めるが、デンソーとパネルを共同開発して車載分野を強化し、先行する韓国勢に対抗する。

2018/3/24 デンソー、JOLEDに300億円出資

今回、既存株主のINCJ(旧 産業革新機構)とソニーに加え、NISSHAが出資する。NISSHAはフィルムベースのタッチセンサーを主力製品のひとつとしており、タッチセンサーでJOLEDと協業する。


同社の出資関係はよく分からない。

最新の同社の資本金は 625億3,758万円となっている。出資額 は資本金と剰余金に分けられるが、その情報がなく、各社の出資額と出資比率の関係が不明。

今回の報道では、出資比率はINCJが36.1%、JDIが27.2%、デンソーが18.3%となっているが、JDIによる追加出資の発表はなく、比率アップの理由不明。

これまで発表されているのは下記(単位:億円)のとおり。

増資前 2018年出資 現物出資 今回出資
産業革新機構→INCJ 75% 200? 200
JDI 15%
Sony 5% 55
NISSHA
Panasonic 5%
デンソー 300
豊田通商 100
住友化学 50
SCREEN 20
合計 470 200? 255

メイ英首相は4月6日深夜、Brexitについて、野党・労働党の支持を取り付ける以外に事態打開の道はないとする声明を出した。

離脱協定案は英議会で3回否決されていると指摘し、与党・保守党内部と、閣外協力する北アイルランドの地域政党の民主統一党から過半数の支持が得られないなら、新しいアプローチ:労働党と妥協するしかないと明言した。市民は国の危機に際して政治家が一緒に解決することを期待していると述べた。

"The choice that lies ahead of us, is either leaving the European Union with a deal or not leaving at all.

"I think the government thinks we must absolutely leave the European Union.

"We must deliver Brexit. That means we need to get a deal over the line."

"And that's why we've been looking for new ways to find an agreement in Parliament, and that means cross-party talks.

"There's lots of things which I disagree with the Labour Party on policy issues.

"But on Brexit, there are some things we agree on.

"Ending free movement, ensuring we leave with a good deal, protecting jobs, protecting security.

"It'll mean compromise on both sides, but I believe delivering Brexit is the most important thing for us."

協定案で議員のマジョリティを得ることが、英国がEUから離脱する唯一の方法である。時間がかかればかかるほど、英国がEUを離脱しないリスクが高まるとする。

単一市場への残留や再国民投票の可能性を否定せず、与野党が合意している分野もあると強調。「双方とも域内での人の自由な移動は認めず、良い条件で離脱し、雇用を守ることを望んでいる」と語り、「これが議会で過半数を獲得できる妥協案の基になる」との見方を示した。

保守党の離脱派はメイ首相が労働党の要求、特にEUとの関税同盟、を受け入れるのではないかと、メイ首相の発言に怒りを示す。
関税同盟の場合、EUとは関税無しとなるが、英国が他国とFTAを締結することができなくなる。


実際には、単一市場に残りながら移民を制限する「いいとこ取り」の "soft Brexit " は、EUが認めないことが確実で、これが"hard Brexit" に踏み切った理由である。

May首相は2017年1月17日、EUからの離脱を巡り、移民制限や司法権独立など英国の権限回復を優先し、EU単一市場から完全に離脱すると表明した。

2017/1/19 BREXIT の12のポイント 


しかし、労働党との協議が成功する保証はない。

労働党との3日間の協議は金曜に合意なしで終わった。労働党のCorbyn党首は、政府側のポジションに大きな変化は見られないとしている。

Brexitの最大の問題はアイルランド問題である。

英国のEU離脱で、アイルランド島の内部で、英国の北アイルランドとEUに残るアイルランド共和国との間に再度国境管理が行われると、1998年4月10日のベルファスト合意(聖金曜日協定)で収拾した北アイルランド紛争の再発が懸念される。

共通旅行区域(CTA)制度は両国のEU加盟以前からある取り決めであると指摘し、税関や検疫も含め、物理的な国境設備の設置を避けることを目指すと明言し、日常的に住民や農業従事者、小規模な商業従事者が往来し物資の移動が行われている現状に配慮する必要性を訴え、通関申告を免除するなど「可能な限り摩擦のない陸上国境の実現」を目指すべきとしている。

また、ベルファスト合意を全面的に支持する姿勢を強調、同合意で定められた通り、北アイルランドの住民には両国間の往来の自由を認めると共に、両国の二重国籍を取得する権利やアイルランド国籍に由来するEU市民権も認めるよう求めている。

2019/2/11 Brexitの問題の根源(続き)-「北アイルランド国境問題」

英政府は本年3月13日、合意なき離脱となった場合、アイルランドと北アイルランドの厳格な国境管理を回避すると表明した。

合意なき離脱となった場合、アイルランドから北アイルランドへの商品の輸入について新たな検査や管理を導入しない。企業の自己申告に頼り、国境を越えた取引を記録するためアプリベースのシステムを活用するという。新たな輸入関税制度は適用しない。

この計画は一時的かつ一方向のもので、長期的な対策については、EU・アイルランド政府と早急に協議を開始するとしている。

英政府は同日、合意なき離脱となった場合、輸入関税を引き下げると発表した。

金額ベースで英国への輸入品の87%に相当する商品が無関税となる。現在は80%が無関税。

EUからの輸入品は現在は100%が無関税だが、82%が無関税となる。
EU以外からの輸入品は現在は56%が無関税だが、92%が無関税となる。

これは、英国の輸入関税の話であり、輸出先はこれと無関係に、(従来のEUメンバーとしての関税ではなく)WTOルールで関税をかける。
輸出産業は被害を受けることとなる。

英国の生産者を保護するための措置も継続する。自動車メーカー、牛肉、ラム肉、豚肉、鶏肉、酪農製品の生産者などが対象となる。

2019/3/14  英下院、「合意なき離脱」を否決 

しかし欧州側は、合意なき離脱に備え、アイルランドには国境を越えた貿易の検査体制を準備すべきだと圧力をかけている。アイルランド・英国間の貿易に対して大規模な検査体制を敷く必要があるとする。

アイルランド首相は、合意なき離脱の場合でも、国境を越えた貿易の検査は避けられると期待していたが、EUは、監視が少しでも欠けたら欧州の単一市場に大きな穴が開くことを懸念し、この方針を退けた。

欧州のある有力外交官は、「アイルランドの友人たちは、まだ現実を見ていない。我々は壁の建設について話しているわけではないが、単一市場の一体性を守る必要がある。加盟国の間では、アイルランドの準備不足を心配する人が増えている」と述べている。

アイルランド政府内では、国境を越える貿易に関税をかけ、通関手続きや食品・動物の検疫を実施するために対策が必要なことは暗に受け入れた。

工場や輸送中の製品など、国境から離れた場所での検査について議論している。

首相は4月3日、アイルランド議会に対し、関税や通関料はオンラインないし税務署で徴収できると述べ、合意なき離脱の場合も多くの検査は遠隔で実施できると語った。

しかし、問題は動物の検疫で、獣医によって物理的に行うしか方法がない。「そうした検疫は港で実施されるべきで、衛生基準と植物検疫基準についてはアイルランド島が島全体として扱われるべきだというのが我々の見解だ。それには英国の協力が必要になる」と語った。

英国の混乱続く - 化学業界の話題

メイ首相は4月5日、EUのトゥスク大統領に書簡を送り、12日に迫ったEU離脱期限を6月30日に再延期するよう要請した。

もし、議会が離脱協定案を承認すれば、5月23日の欧州議会選挙の前に離脱ができるとし、承認を得られない場合は議員候補を出すとしている。

しかし、4月12日が立候補締め切り日であり、英国の離脱を前提に議席の再割り当てをしているため、離脱が未定のままでは選挙を進められない。

既にEUのユンケル欧州委員長は4月3日に「離脱協定案を英議会が承認しなければ、短期延期は不可能」と明言している。

ーーー

英国のEU 離脱に伴う混乱を避けるため、英政府に対してさらなる離脱延期をEUに申し入れるよう義務付けた法案が、4月3日に わずか1日で下院を通過した。

労働党のYvette Cooper 議員が提出したもので、賛成313票、反対312票の僅差で可決された。 保守党から14人の造反者が出た。

投票権者 賛成 反対 棄権
保守党 312 14 290 8
民主統一党 10 10
(与党 (322) (14) (300) (8)
労働党 243 229 9 5
スコットランド国民党 35 35
自由民主党 11 11
独立党 11 8 3
独立グループ 11 11
シン・フェイン党 7 7
プライド・カムリ 4 4
緑の党 1 1
合計(欠員 1) 645 313 312 20

政府は声明で、「首相はすでにEUから協定にもとづいて離脱するための明確なプロセスを提示しており、政府もすでにさらなる延長に向けて尽力している」と述べ、「もしこの法案が可決されれば、政府の延長交渉に深刻な制限がかかることになり、4月12日までに新たな離脱日を英国法に示すことが難しくなる」 としている。

メイ首相は4月2日、約7時間に及ぶ閣議で対応策を協議したあと、首相官邸で声明を読み上げた。

1) 4月12日の合意なき離脱を回避するため、離脱の短期間の延期をEUに要請する。

2) そのうえで、秩序立った離脱を実現するため、最大野党・労働党のコービン党首と直接話し合い、合意形成を目指す。

2019/4/3 メイ首相、離脱の短期延期を要請へ 

これまでの「示唆的投票」は可決されても政府を拘束するものではないが、今回の法案は上院貴族院に廻り、上院で可決すれば法律となり、政府を拘束する。

但し、EUに離脱を申し入れても、EUが受け入れるとは思えない。

メイ首相の発言を受け、EUのユンケル欧州委員長は4月3日、「離脱協定案を英議会が承認しなければ、短期延期は不可能」と明言した。合意なき離脱の可能性が高まっているとし、「どんな結果になるかは英国側にかかっている」と述べた。

7月2日に開かれる新たな欧州議会の議員を選ぶ選挙は5月23日~26日に行われるが4月12日は立候補締め切り日である。
英国の離脱を前提に議席の再割り当てをしており、離脱が未定のままでは選挙を進められない。


EUのトゥスク大統領は、離脱期限について、12カ月の「柔軟な」延期を英国側に提示することを提案している。 BBCがEU高官の話として4月5日に報じた。

この場合は欧州議会に議員を出す必要がある。現時点ではメイ首相は、欧州議会選に参加しなくて済むよう、5月22日までに離脱関連法を成立させたいとしている。

ーーー

上院では4月4日にこの法案の審議が始まったが、保守党の 7時間に及びフィリバスターで、まだ投票には至っていない。(通常は下院で通った法律は上院でも通る。)

議長の調整の結果、4月8日に投票することとなった。

上院の構成:

一代貴族世襲貴族聖職貴族合計
聖職貴族 26 26
Conservative 199 48 247
中立派 152 32 184
Labour 181 4 185
Liberal Democrat 91 4 95
議長 1 1
無所属 26 3 29
その他 15 15
合計 665 91 26 782


聖職貴族:国教会の高位聖職者であるカンタベリー大主教、ヨーク大主教、ロンドン主教、ダラム主教、ウィンチェスター主教の5人と、そのほかの21名の教区主教をあわせた計26名。


ーーー

メイ首相は4月3日、膠着状態の打開策を探るため、労働党のコービン党首と会談した。

首相府はコービン党首との会談について、「建設的な対話だった」と位置付けているが、コービン党首は、「有意義だったが結論は出なかった」と し、メイ首相の姿勢は期待したほどには変わらなかったとも言い添えた。4日に再度協議を行うと述べた。

首相の労働党との協議の戦略は与党内から強い反発を招き、閣僚2人が辞任、議会でも与党議員からメイ首相を批判する発言が相次いだ。

4日の与野党協議には、労働党からは影のEU離脱相、影のビジネス相も参加した。

「協議を続けたし、これからも政府と協議を続ける」と述べた。

東芝メモリが1.3兆円を調達することが分かった。

三菱UFJ銀行と三井住友銀行みずほ銀行の大手3行が合計9千億円を融資し、別に1千億円の融資枠を設ける。

日本政策投資銀行も3千億円の議決権のない社債型優先株を引き受ける。出資の意向を表明していたINCJ(旧産業革新機構)は資金を出さない方針に転じた。
(現在東芝が所有する40.2%相当の議決権のうち、33.4%分は、将来的に資本参加を表明している産業革新機構と日本政策投資銀行に対し指図権を付与している。)

付記

東芝メモリは5月31日、日本政策投資銀行による出資とメガバンク3行からの借り入れで、6月末までに総額1兆2000億円を調達すると発表した。 3行は1000億円の追加融資枠も設定する。

なお、同社は5月17日、北上工場第1製造棟でWestern Digital と共同で設備投資を行う正式契約を締結した。3次元フラッシュメモリを生産する。2019年秋の竣工予定。


背景は次の通り。

東芝は2017年9月28日、東芝メモリの株式譲渡契約を締結したと発表した。

売却先はBain Capitalがこの目的のために設立し、参加各社が出資する㈱ Pangeaで、譲渡価額は2兆円。

2018年6月1日に譲渡が完了した。

東芝メモリ株式譲渡とともに、東芝は譲受会社のPangeaに合計3,505億円を再出資し、Pangeaの議決権のある普通株式を約1,096億円分(約40.2%)、転換権付き優先株式を約2,409億
円分(総数の約40.8%)取得し、その結果、約40.2%の議決権を取得した。

Apple、Seagate、Kingston Technology、Dell Technologies Capitalの需要家4社が(議決権無しで)4,155億円を出資している。

2017/9/30 東芝メモリの株式譲渡契約締結


東芝メモリは設備投資に充てる成長資金を確保するため、2019年11月以降に新規株式公開(IPO)を検討しているが、「取引先が株式を持つ現状では上場審査に不利」とされ る。

このため、Appleなど4社が持つ優先株を買い戻しておく必要がある。

今回の調達資金 1.2兆円(他に融資枠1千億円)で Apple等4社の持つ優先株(取得価額4,155億円)を約5,300億円で買戻し、消却する。
残りの資金で金融機関からの借入金 6千億円を返済する。現金700億円が手元に残ることとなる。


単位:億円) 出資 合計 転換
社債
借入金 再計 今回 処理後
議決権株 優先株
東芝 40.2% 1,096 2,409 3,505 3,505 3,505
HOYA 9.9% 270 270 270 270
(日本側) (50.1%) (1,366) (2,409) (3,775) (3,775) (3,775)
Bain 49.9% 1,361 759 2,120 2,120 2,120
SK Hynix 2,660 2,660 1,290 3,950 3,950
(Bain / SK) (49.9%) (1,361) (3,419) (4,780) (1,290) (6,070) (6,070)
Apple ほか4社
(買戻し額)
4,155 4,155 4,155

-4,155
(-5,300)

0

金融機関 6,000 6,000

-6,000
9,000

9,000
日本政策投資銀行 3,000 3,000
INCJ
(産業革新機構)
0
合計 2,727 9,983 12,710 1,290 6,000 20,000 1,845 21,845
(今回のCash 増) 700

ジャパンディスプレイ(JDI)は4月1日、下記の発表を行った。

当社は、既に発表のとおり、筆頭株主である株式会社INCJ(旧産業革新機構)とも連携しながら外部との提携交渉を行っております。

現在、当社は 当該提携に伴う600800億円規模の株式及び債券の発行による資金調達及び株式会社INCJによる既存債権に対する優先株式の引受けを含めたリファイナンスにより総額1,100億円超の資本増強について関係者との今週中の合意を目指しており、合意いたしましたら速やかにお知らせします。

日本経済新聞は4月3日、同社が中台連合3社から、出資などを含む600億~800億円の金融支援を受け入れることで合意する見通しと報じた。中台連合が議決権の5割弱を握る筆頭株主となり、JDIは連合の傘下に入るとしている。

ロイターは4月3日、JDIが今年後半から米 Appleの腕時計型端末「アップルウオッチ」向けに有機ELパネルを供給することが分かったと報じた。

JDIにとっては、この供給が有機EL市場への初参入となる。

JDIは現在、茂原工場で蒸着式有機ELパネルのパイロット生産を始めており、供給体制を整えつつある。本格生産のためには、中台連合の中国計画(下記)が必要になる。

ーーー

経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)は、中国と台湾の企業連合(下記のメンバー)から600億円規模の出資を受ける方向で交渉を進めてきた。

中国シルクロード・インベストメントキャピタル(中投絲路資本 CSIC
中国最大の資産運用会社の嘉実基金管理(Harvest Fund Management)
台湾のタッチパネルメーカーの宸鴻集団(TPK Holding)
中国の自動車部品メーカーの敏実集団(Minth Group)

4月3日の日経は、宸鴻光電科技(TPK)や台湾金融大手の富邦グループ、中国大手ファンドの嘉実基金管理グループとしている。

中台連合は、JDIの技術を活用して浙江省に有機ELパネル工場を建設することを計画している。

計画は、第6世代の基盤を3万枚/月、6型パネル 400万台/月の工場の建設で、投資額が約5000億円で、資金は中国政府の補助金を活用する。
早ければ2019年中に建設を開始し、2021年の量産開始を見込む。

しかし、この交渉は下記の理由で難航していた。

その問題がどうなったのか不明だが、今回は下記の線でまとまりつつあるとされる。

中台連合: 600~800億円 うち普通株が400億円、残りは新株予約権付社債
INCJ :残りを既存債権を優先株に切り替え
合計:1100億円超


問題点:

JDIは2015年3月6日、石川県白山市に第6世代(1500×1850ミリメートル)液晶新工場を建設すると発表した。月産2万5000枚の能力で、投資額は1700億円。

新工場の建設はAppleからの増産依頼によるもので、投資資金の大半はAppleからの前受け金1700億円で賄った。但し、Apple専用とせず、中国スマホメーカーなど他社へも供給する予定。

問題は、JDIと Apple の契約である。この前受金の契約には下記の条項がある。

・JDIは年間2億ドルまたは売上高の4%のいずれか高い金額を四半期ごとに返済する。

・JDIの現預金残高は300億円以上を維持する。

・上記2つの条項を守れなければ、Appleは、前受け金の即時全額返済、または白山工場の差し押さえを要求できる権利を持つ。

返済原資は貸し手であるAppleからの注文次第であることが問題で、Apple側の理由で注文が減ると、 たちまち返済原資に行き詰まる。
工場がApple専用であれば、それなりの条項が入れられたと思われるが、他社への供給もできるようにしたのが逆目に出る形とな った。(Appleが減った分は他社に売ればよいとの言い訳ができる)

中台連合としては、JDIに600億円を注入しても、Appleが注文を減らせば、返済不能となり、600億円はAppleに流れることとなる。

実際に、Appleの「iPhoneXR」の販売が低迷している。

今期のXR向け液晶の出荷量は、計画比で半減する見込みで、2月に入って主力の白山工場の稼働率は50%前後まで落ちている。これにより、昨年9月末に600億円あった現預金が1月に入って急激に減り始めたとされる。

前記のトリガー条項により、Appleから前受け金の即時全額返済を求められる可能性が強まっている。

中台連合の要求に基づいて、2019年以降の返済減額を訴えるため、INCJの志賀会長と経済産業省幹部の2人がApple本社へ乗り込んだが、3月23日に事実上のゼロ回答があった とされる。

今回、出資交渉が進んだのは、なんらかの解決策が得られたとみられる。

ーーー

JDIの概要は下記の通り。

日本の液晶パネルメーカーは「2012年問題」に直面した。大型では日本勢は韓国、台湾勢に押され、シェアは落ちた。
中小型液晶については日本勢はまだ頑張っていたが、各社が単独で事業を進めた場合、十分な能力増強投資ができず、競争力を失ったテレビ用パネルの二の舞いになる可能性が高い。

2011/10/31 液晶パネル事業の現状と課題  

東芝、ソニー、日立製作所と官民ファンドの産業革新機構は2011年8月31日、2012年春に中小型液晶パネル事業の統合会社JDIを設立すると発表した。

3社は当初10%ずつ出資したが、その後売却した。

2011/6/9 東芝・ソニーが携帯向け液晶統合、産業革新機構が出資

経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)は2018年3月30日、第三者割当増資などで約350億円 、資産売却で200億円、合計550億円を調達すると発表した。

第三者割当増資(海外機関投資家)  300億円
第三者割当増資(日亜化学工業)  50億円
能美工場の資産の産業革新機構への売却  200億円 産業革新機構はこれをJOLEDに現物出資
合計 550億円

資本関係は次の通りとなった。 (億円)

2018/3/31 2018/12/31 増減
資本金 969 1,144 175
資本剰余金 2,136 2,311 175
合計 3,105 3,455 350
利益剰余金 -2,333 -2,441 -108
資本合計 772 1,014 242

当初 現状 増資後
産業革新機構  70% 35.58% 26.81%
ソニー 10% 1.78% 1.34%
東芝 10%
日立 10%
日亜化学 3.52%
海外機関投資家計 21.12%
その他現行株主 62.64% 47.21%
合計 100% 100% 100%

合わせて、2017年12月に稼働を停止した能美工場の資産を産業革新機構に約200億円で譲渡する。

2018/4/3  ジャパンディスプレイ、550億円を調達 

同社の工場は下記の通り。

国内:

石川工場 東芝モバイル(松下電器)
能美工場 東芝モバイル(東芝) 停止→ 産業革新機構に譲渡 → JOLEDに現物出資
白山工場 JDIとして新設   2016/12 稼働 Appleからの前受け金で建設
鳥取工場 ソニーモバイル(鳥取三洋)
東浦工場 ソニーモバイル
茂原工場 日立ディスプレイズ
深谷工場 東芝モバイル(東芝) 2016/4 閉鎖


海外:

Suzhou JDI Devices 江蘇省蘇州市 旧 日立顕示器件(蘇州)
Suzhou JDI Electronics 素尼移動顕示器(蘇州)を買収
Shenzhen JDI 広東省深圳市 旧 深圳日立賽格顕示器 2018 中国企業に売却
Nanox Philippines Philippines ナノックスより、81%取得
Kaohsiung Opto-Electronics Taiwan 旧 高雄日立電子


Saudi Aramcoは3月27日、SABICの株式の70%を政府系ファンドのPublic Investment Fund (PIF) から691億ドルで買い取ることで正式に合意したと発表した。

Aramcoは買収資金を自ら調達し、PIFに691億ドルを支払う。

2019/3/30 Saudi Aramco、SABIC株式の70%を取得 

ーーー

Aramcoは30年の長期を含む初のドル建て債を100億ドル規模で発行する。JPMorgan Chase とMorgan Stanleyの米投資銀行2社が主幹事を務める。

Aramco は初の債券発行を控え、投資家向けに業績を公表した

Bloomberg などによると、概要は次の通り。

1) 財務数値 単位:億ドル (億単位 四捨五入)

2016 2017 2018
売上高 1,350 2,630 3,560
EBITDA 940 1,650 2,240
法人税 380 790 1,020
純利益 130 760 1,110
営業Cash flow 290 890 1,210
Free Cash flow 20 560 860
配当 - 500 520



2) 2018年の純利益は、Apple とGoogle とExxonMobil の合計に等しい。


3) しかし、採掘費は安いが、税金が非常に高く、バレル当たりのCash flowは中位である。

サウジは国の運営資金をSaudi Aramco に頼っており、所得税は50%で、ロイヤリティは収入の20%から始まり、最高 50% にまでなる。


4) サウジの実力者であるムハンマド皇太子はSaudi Aramcoの企業価値について2兆ドルを上回ると指摘している。市場ではサウジ側のSaudi Aramco評価が過大だとの見方も出ている。

Bloombergは、2018年に同社が520億ドルもの配当をさせられていることから、1兆2千億ドル程度ではないかとしている。


5) 借入に問題なし

米格付け会社Moody's は4月1日、Saudi Aramcoの格付けを「A1」とし、「トリプルA」のExxonMobilと差を付けた。「Saudi Aramcoは生産規模の大きさや豊富な化石燃料資源などトリプルAに値する性質を多く持つ」と指摘する一方、「政府との密接なつながり」が評価を下げたと説明した。

しかし、Saudi Aramco の負債は少ない。


6) 問題は Saudi Aramco には多くのリスクがあること。

同社は以下のリスクがあることを明らかにしている。

・ 同社の設備へのミサイル攻撃
・ 米国がOPECを独禁法違反とする恐れ
・ 気候変動問題 (
ニューヨーク市が、ExxonMobil やBPなどの国際石油会社に対し「気候変動の原因を招いた」として提訴)
・ サウジリアルと米ドルとの連動(固定相場制)がなくなる可能性
・ サイバー攻撃 (2012年に被害を受け、一部の作業をマニュアルに変えざるを得なかった事実がある。)
・ 石油価格下落 2016年にBrent原油が45ドルまで下がり、OPECが減産した際、同社は損益トントンとなった。
  (年間の純利益は130億ドルまで下がり、free cash flowはたった20億ドルであった。)

このほか、米同時テロに関与した疑いがある外国政府に、遺族らが損害賠償を請求する訴えを起こすことができる「テロ支援者制裁法(JASTA)」が成立している。



期限の4月12日まで2週間しかない4月1日、英下院はEU離脱に関し過半数の支持が得られる代替案を模索するための投票を再び実施した。


3月27日に16の案のなかから8案を選び、
「示唆的投票」 ("indicative" vote) を行ったが、いずれも過半数を得られなかった。

国民投票案が最大の268票を得た。関税同盟案が2位、労働党案は3位となり、親EU 派の案に多くの票が集まった。合意なき離脱には反対票が400票もあった。

2019/3/28 英議会 離脱延期を正式決定 代替案8案いずれも過半数に満たず

今回、当日に過半数を得られなかったものを含め、合計8つの案に投票する。過半数の支持が得られる代替案を模索するためという。

なお、メイ首相はその後、早ければ4月2日に自身の離脱案を再び採決にかける可能性がある。


ガーク司法相はBBCテレビに対し「現在は理想的な選択肢がなく、想定されるいかなる結果についても説得力ある反対論がある。それでもわれわれは何かをしなくてはならない」と強調した。

「首相は残された選択肢を検討しており、何が起こり得るか考えているが、何らかの決定が下されたとは私は思わない」と述べた。

保守党の議員314人のうち170人はメイ氏に書簡を送り、合意の有無にかかわらず数カ月内に Brexitを実施するよう求めたという。


示唆的投票の候補は次の通り。当初の16案のうち、3月27日に8案が採決に掛けられたが、今回はこのうちの4案と、前回採用されなかった1案及び新たな3案の合計8案が 候補となった。前回3位だった労働党案は入っていない。

しかし、最終段階では前回の4案(Revoke article 50を追加)が採決にかかった。結果は、前回に続き全て否決された。「EUとの関税同盟に恒久的に残留する案」が支持を集めたが、過半数までは届かなかった。

3/27    4/1
賛成 反対 議案 ポイント 賛成 反対
Labour plan EUとの緊密な経済関係の維持
・全面的な関税同盟
・単一市場との緊密な連携
・新しいEUの権利と保護に対応
・EUの機関、資金拠出計画への参加
・将来のセキュリティ関連の合意
237 307
Common market 2.0 欧州自由貿易連合(EFTA)、欧州経済領域(EEA) への参加
(EFTA加盟国はEUに加盟することなく、EUの単一市場に参加)
188 283

英はEUの単一市場に参加
居住、労働可能(互いに)
261 282
Confirmatory public vote 議会で通ったBrexit は批准前に国民投票にかける。          268 295 議会で通ったBrexit は、どんな案でも、批准前に国民投票にかける。 280 292
Public vote to prevent no deal

X

議会で「合意なき離脱」となった場合は国民投票にかける。
Customs union 英国全体が永久の全面的なEUとの関税同盟を締結 264 272 アイルランド国境管理不要
他国と別に貿易協定を結べない。
273 276
Malthouse compromise Plan A 協定案のアイルランドとの国境に関するbackstopを他の案に置き換える。
Revoke article 50 協定案否決の場合、合意なき離脱について投票する。
合意なき離脱が否決の場合、首相はBrexit を中止する。
184 293 〇+ 191 292
Revocation instead of no deal 議会が協定案を否決する場合、政府はBrexit 取り止めに必要な法案を緊急に提出する。
New customs union EUとの関税同盟を含む貿易協定を結ぶ。
EEA/EFTA without customs union 欧州経済領域(EEA)にとどまり、欧州自由貿易連合(EFTA)に再加入するが、EUとの関税同盟からは外れる。 65 37
EFTA and EEA

X

EFTA and EEAに参加、EUの単一市場に参加
アイルランド国境問題と農産品貿易問題の解決のため追加の協定を交渉
No deal 合意なき離脱 160 400

X

協定案反対なら4/12に離脱
Unilateral right of exit from backstop 北アイルランドのBackstop から英国が一方的に離脱できるよう、協定案を修正 (whenever it wants, without the EU's permission).

X

BackstopではEUから抜けられない、北アイルランドが別扱いになるという反対に対応。但し、EUは再交渉しないとしている。
Consent of devolved institutions 合意なき離脱はしない、離脱に際してはスコットランド議会、ウェールス議会の同意を要する。
Contingent preferential arrangements EUとの離脱協定が出来ない場合、EUとの特恵貿易協定を結ぶ。 139 422
Contingent reciprocal arrangements EUとの協定が出来ない場合、EU及びメンバー国とのアレンジは相互的なものとする。
Respect the referendum results 英国がEUから離脱するという国民投票の結果を尊重することを議会が再確認する。
Constitutional and accountable government EU離脱を支持、政府の協定案を拒否。新しい試みには2/3の多数を必要とするよう下院ルールを修正。
Parliamentary supremacy

X

合意なき離脱回避のステップ
①政府は4/12の2日前に離脱の延期を求める。
②EUが認めない場合、議員に合意なき離脱か離脱中止の選択を求める。
③離脱中止が選ばれた場合、将来のEUとの関係について、何が英国で最も支持され、かつEUが了承するかの調査を行う。

英国の混迷が続いている。

英下院は離脱予定日の3月29日、離脱協定案について3回目の採決を行い、賛成286、反対344の反対多数で否決した。

離脱日は4月12日まで延期された。英国はこの日までに、5月23〜26日に実施される欧州議会選挙への参加有無も含め、離脱の長期延期か、「合意なき離脱」か、離脱の撤回か、を示すことが求められる。

しかし、案がまとまる見込みはすくなく、合意なき離脱の可能性も大きい。

ーーー

原因はいろいろあるが、まず英国の首相に2つの誤算があった。

1)キャメロン首相の誤算

英国内でEU離脱の声が高まった2016年に、Cameron英首相は英国のEU離脱を回避するため、EUの改革を求めた。

欧州連合は2016年2月19日夜、ブリュッセルで開いた首脳会議で、英首相が求めているEU改革案を巡って全会一致で合意した。


合意を受けCameron首相は、6月23日に国民投票を実施することを決め、自らはEU残留を訴えていく考えを明らかにした。

首相は、「イギリスは、改革後のEUの中でより安全で強く、豊かになるだろう」と述べ、離脱派の主張について、「離脱した場合、統一市場との自由な貿易を続けられるか、雇用は確保されるか、明らかにできていない」と述べ、牽制した。

2016/2/22 EU首脳会議、英離脱回避へ改革案合意

2016年6月23日英国で実施されたEU離脱の是非を問う国民投票は、大方の予想を裏切る「離脱」という結果となった。 これについて後述。

2016/6/25 英国、EU離脱


2) 後継のメイ首相の誤算

テリーザ・メイ首相は2017年4月18日、「国益のため」に、6週間後の6月8日に解散総選挙を前倒しする意向を表明した。

この時点で与党保守党は650票のうち331票で過半数を確保していたが、 総選挙に勝利することで、「この先数年間にわたる確実性と安定性を確保」し、EU離脱を含む政策の実施に欠かせない国民からの信任を確固なものにしたいと述べた。

結果は圧倒的多数を確保する狙いに対し惨敗で、保守党は過半数を取れず、北アイルランドの民主統一党を引き込み(閣外協力)、ギリギリで過半数を取った。

国民投票直後に、離脱派が主張してきたことが誤りであったことが判明し、「うそを信じてしまった」と離脱に投票したことを後悔する書き込みが増加し、「BREXIT」(Britain Exit )に絡め、BREGRET (Britain Regret) が使われたが、首相は国民の考え方が変わったことを読んでいなかった。

2016/6/28 BREXIT からBREGRET(Britain Regret) へ 

この結果、与党内の過激派が反対に廻ると、政府案は必ず否決されるという状況に陥った。

2017/6/8 選挙 異動 2019/1/15 異動 現状
保守党(議長含む) 331 -13 318 318 -4 314
民主統一党 8 +2 10 10 10
(与党)

(328) (328) (324)
労働党 232 +30 262 -6 256 -11 245
スコットランド国民党 56 -21 35 35 35
自由民主党 8 +4 12 -1 11 11
独立党 1 -1 0 +8 8 +3 11
独立グループ 0 +11 11
シンフェイン党 4 +3 7 7 7
ブライドカムリ 3 +1 4 4 4
緑の党 1 1 1 1
社会民主労働党 3 -3 0
アルスター統一党 2 -2 0
無所属 1 1 -1
合計 650 0 650 0 650 -1 649

労働党議員 1名 が本年に死亡。議員のうち議長団4名(保守党、労働党各2名)とシンフェイン党は投票せず。

ーーー

2016年6月の国民投票で、政府側はBrexitの問題点を国民に指摘しなかったことが、離脱賛成となった。

1) 最大の問題はアイルランドとの国境問題である。

北アイルランドの平和を維持するため、アイルランドとの国境を復活させることは出来ず、完全なBrexitを実施する方法はない。下手をすれば北アイルランドを分離することにも成りかねない。

不思議なことに、こんな重要な問題についてBrexitの検討中に議論された様子が全く見られない。 国民の判断材料にはなっていない。

2019/2/11 Brexitの問題の根源(続き)-「北アイルランド国境問題」

2) 離脱賛成派の嘘

離脱賛成派は、離脱しないと大変だ、離脱するとこんなに良いことがあると主張したが、その多くが全くの嘘であった。

その一つが、EUへの拠出金である。

離脱派は拠出金が週3.5億ポンド(約480億円)に達すると主張、与党・保守党のBoris Johnson 前ロンドン市長らが全国を遊説したバスの側面にも、巨額の拠出金を「国民医療サービスの財源しよう」と書かれていた。

実際には、英国に限り、50億ポンドのリベートがすぐに払われる。さらに、EUの政策に基づき、英国に45億ポンドが支出される。このため、ネットでは英国のEUに対する支出は85億ポンド(週当たりでは1.6億ポンド)に過ぎない。

離脱派は選挙直後に間違いであったと認めた。

移民問題でも嘘があった。

政府は移民を10万人以下と公約していたが、2015年の移民は33万人の純増であった。離脱派はこれを引き合いに出し、今後数年で400万流入の可能性 があるとか、トルコがEUに参加し、100万人 が流入するなどのデマを流した。英国がトルコ参加の拒否権を持たないとのデマも流した。

選挙後に、離脱派は「移民がゼロになるわけではなく、少しだけ管理できるようになる」と、「下方修正」した。

しかも、BBCを含めた報道が、誤りを修正せずにそのまま報道した。
BBCは「公平性の原則」を理由に、発言をそのまま報道した。庶民が読む地方紙は賛成派、反対派に分かれ、虚偽の報道をした。

政府は正しい情報を元に国民に是非を判断させるべきだが、これを怠った。

2019/1/21 Brexitの問題の根源

ーーー

野太郎 外相の「ごまめの歯ぎしり」の「おすすめの本」(2018/10/5 ) は
Nicholas Shakespeareの "Six Minutes in May : How Churchill unexpectedly became Prime Minister" を取り上げている。
(右上 本の紹介)

イギリスのノルウェー戦線の失敗とそれに続くイギリス議会での議論、そしてその議論がふとした拍子に転換し、議会で投票が行われ、そのわずか6分間を要した投票の結果が、チェンバレンの退陣に結びついていく様子をしつこいぐらい (かなりしつこい)調べて描いています。

面白いのはチャーチルが海軍大臣として主導したノルウェーの戦いで、ドイツがスウェーデンの鉄鉱石をノルウェーの港から出荷するのを防止するため、英軍が魚雷を設置しようとして発生した。

英海軍はドイツに対する勝利を確信していたが、 時間は十分あったのに、全くの準備不足で、ノルウェーの地図さへ用意しておらず、実施が決まってから旅行会社に地図を買いに行ったという。これに対し、ヒットラーは準備万端であった。

今回のドタバタで思い出した。

英下院は3月29日、離脱協定案について3回目の採決を行い、賛成286、反対344の反対多数で否決した。

今回の採決での賛否の差は58票で、1回目の230票、2回目の149票よりは縮まった。

メイ首相が協定案の可決と引き換えに首相を辞任すると表明したことで、過去2回の採決で反対した与党・保守党の議員の一部が賛成に転じたが、保守党内の強硬派は依然として反対し、閣外協力の北アイルランドの地域政党の民主統一党や野党は引き続き反対した。

離脱協定案の賛否は下記の通り。(2/17に労働党議員1名が死亡で欠員) 

投票権 1回目(1/15) 投票権 2回目(3/12) 今回(3/29)
賛成 反対 棄権 賛成 反対 棄権 賛成 反対 棄権
保守党 316 196 118 2 -4 312 235 75 2 277 34 1
民主統一党 10 10 10 10 10
労働党 254 3 248 3 * -1
-10
243 3 238 2 5 234 4
スコットランド国民党 35 35 35 35 34 1
自由民主党 11 11 11 11 11
独立党 8 3 5 +3 11 4 6 1 4 5 2
独立グループ +11 11 11 11
シン・フェイン党 7 7 7 7 7
プライド・カムリ 4 4 4 4 4
緑の党 1 1 1 1 1
合計 646 202 432 12 * -1 645 242 391 12 286 344 15
賛否差 -230 -149 -58

ーーー

EUは3月21日、首脳会議を開き、EU離脱について下記の通り決めた。

1)英国下院が3月29日までに離脱協定案を可決すれば、協定案の批准手続きのため5月22日までの延期を認める。

2)下院が3月29日までに可決できない場合、離脱日を本来の3月29日から4月12日まで延期する。

英国に対し、この日までに、5月23〜26日に実施される欧州議会選挙への参加有無も含め、離脱の長期延期か、「合意なき離脱」か、離脱の撤回か、を示すことを求める。

下院は3月27日に「示唆的投票」("indicative" vote) を実施したが、8つの案 のいずれも過半数を得られなかった。

このうち、「合意なき離脱」は160対400と圧倒的に反対が多い。逆に親EU 派の案に多くの票が集まっている。

2019/3/28 英議会 離脱延期を正式決定 代替案8案いずれも過半数に満たず

なお、下院は3月13日夜、「合意なき離脱を拒否」の採決を行い、321対278で離脱拒否案を可決している。

投票権者 賛成 反対 棄権
保守党 312 17 265 30
民主統一党 10   10  
(与党) (322) (17) (275) (30)
労働党 243 235 2 6
スコットランド国民党 35 35    
自由民主党 11 11    
独立党 11 7 1 3
独立グループ 11 11    
シン・フェイン党 7     7
プライド・カムリ 4 4    
緑の党 1 1    
合計(欠員 1) 645 321 278 46

2019/3/14  英下院、「合意なき離脱」を否決

ーーー

議会は4月1日にメイ首相の離脱協定に代わる複数の案について議員の投票を実施する。

「示唆的投票」で8つの案 のいずれも過半数を得られなかった。仮に、代替案が見つかったとしても、実行するには準備期間が必要になるため、EUと交渉して長期の離脱延期を認めてもらわなければならない可能性が高い。

離脱の長期延期か、「合意なき離脱」かであれば、長期延期の公算が強い。但し、土壇場でどうなるか分からない。

今回の否決を受け、EUのトゥスク大統領は、4月10日に臨時の首脳会議を開き、英国の離脱問題について協議する方針を明らかにした。

英紙Timesによると、EUは最長1年の離脱延期を受け入れるか、合意がないままEUを離脱するか二者択一を英国に迫る方針だという。

欧州委員会のスポークスマンは否決を遺憾に思うと表明し、「4月12日の合意なき離脱はいまやあり得るシナリオだ」と発言。「EUは2017年12月から合意なき離脱のシナリオに向けて準備を進めてきた。今の段階で4月12日深夜をもって合意なき離脱となったとしても、準備は万端だ」と続けた。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358  

最近のコメント

月別 アーカイブ