3月20日、信越化学の直江津工場のメチルセルロース製造プラントで爆発があり、3人がやけどなどで重体、14人が重軽傷を負った。
2007/3/22 「信越化学 爆発事故」 参照
同社によると、4月10日現在、直江津・セルロース製造工場に対しては全て「使用停止命令」が出ている。
同工場のメチルセルロース能力は22,000トンで、爆発現場のMC-Ⅱプラントの能力は6,300トンとなっている。
同社ではMC-Ⅱプラント以外のプラントについて早期の操業再開策を取るべく、損傷度合いの確認及び復旧計画を進めている。
同社では5月末の生産再開の検討に入ったとされるが、事故原因の特定と再発防止策が生産再開の前提であり、また地元自治体、住民の同意を得る必要があり、いつ再開できるか不明である。
日本経済新聞(4/13)によると、医薬品メーカーが代替先確保に躍起になっている。
セルロース誘導体は医薬品錠剤を固める結合材やコーティングなどに使い、信越化学は世界シェア約3割の大手で、医薬品向けは国内シェアの約9割を握り、直江津工場でしか生産していない。
付記 2007/5/11
他にドイツに子会社があるが、医薬品向けは製造していない。
2006/10/10 「信越化学、ヨーロッパのメチルセルロース能力増強完了」
日本経済新聞(2007/5/11)によると、信越化学はドイツのSEタイローズ社に医薬品用など高機能製品の専用設備を新設する。投資額は数十億円の見込み。
金川社長は 「1カ所生産の方が効率はよいが、安定供給のために生産拠点を2カ所に分散する」と語った。
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付記 2007/9/6
信越化学は6日、ドイツのSEタイローズ社に医薬品用の製造設備を新設すると発表した。能力は年4千トン程度。
直江津でも2008年10月に医薬品用を増産する。
総投資額は約300億円。
信越化学ではダウなど海外メーカー数社に供給の肩代わりを依頼したが、セルロースは世界的に品薄気味で、ダウでは「すぐに信越化学に対応するのは難しい」としている。
また、海外品で代用する場合も、製品によっては原材料の一部変更を厚生労働省に申請し、審査・承認手続きが必要になることも考えられるという。
付記
2007/4/19 発表
発生原因:当局による事故原因の特定はまだだが、同社は粉塵爆発と推定。
安全対策:粉塵爆発の対策として以下を実施。
(1) 窒素置換
(2) 静電気除去対策
(3) 粉塵堆積の防止
メチルセルロース生産再開の目処:
爆発したMC-Ⅱ工場については操業再開の目途は立たず。
その他については早期の操業再開に向け準備(5月末目処)
2007/4/24
23日緊急に開かれた厚労省の薬事・食品衛生審議会の薬事分科会は信越のセルロース5品目に代替品を使う場合、審査を不要とする特例措置を決めた。通常なら企業が半年ー1年間程度かけて試験した後、国の審査を受ける必要がある。
6月までに約400種類(大衆薬などを含む)の生産に影響が出る恐れがあることが判明した。
付記 2007/5/22
信越化学工業は21日、「セルロース誘導体」の生産を一部再開したと発表した。新潟県と地元消防当局が同日、設備の使用停止命令を解除した。設備の調整や製品の品質試験などを経て、6月初めにも顧客に製品の出荷を始める。
操業を再開したのは、製造5施設のうち被害が軽微だった3施設。残る2施設のうち1施設は5月末の再開を目指すが、事故があった残る1施設は再開のめどが立っていない。
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大きなシェアを持つプラントの停止で思い出されるのは、住友化学のエポキシ樹脂プラント爆発事故である。
住友化学はIC封止材用エポキシ樹脂の開発に成功して以来、半導体メーカーの発展とともに販路を拡大し、1993年時点で、同社のオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂は半導体用途で世界の60%のシェアを占めていた。
1993年7月、愛媛工場の同樹脂製造設備で、溶媒の回収タンクに異物が混入したのを発端に、爆発、火災事故が発生、従業員1人が死亡、3人が負傷した。
同プラントの停止で、世界の半導体メーカーがパニックに陥った。世界的に半導体製品の価格が急騰した。
当時、石原慎太郎氏が講演で次のように述べている。
日本はもう消費財なんかほとんど輸出していません。完成品ではなしに大事な大事な部品を売っている。
例えばコンピュータなんかの半導体です。
インテル社が、日本が得意としたメモリーの素晴らしい製品を3~4年前に作って、私達はこれはやられたとショックを受けたのです。これに追い付き追い越すには数年かかるぞ、と。
ところが半年経ったら、インテル社の社長が青ざめて飛んできた。なぜなら住友化学の工場が事故で止まって、あそこで作っているエポキシがなかったらインテル社の半導体は半導体として売れないのです。
全世界の需要家から早急な供給の再開を強く要請された住友化学は、技術提携していた日本化薬、同系製品を製造受託していた大日本インキ化学工業および化成品の取引がありエポキシ樹脂も手掛けていた台湾の長春人造樹脂社に同社の製造・品質管理技術を新たに供与し、応援生産を依頼した。
しかし、すべての需要は満たせず、止むなく割り当て販売を行った。
同社では同設備の復旧に全力を注ぎ、保安、安全管理システムを抜本的に見直し、同年11月に新居浜市から使用停止命令の解除を受けて1系列、年産能カ5,500トンの設備の操業を再開した。
(住友化学社史より)
当時、半導体製造に必須で、かつシェアが圧倒的な同事業が余り儲かっていないことが話題になった。
同社はその後、半導体封止材向けの需要が高水準で続いているのに対応し、愛媛工場の能力を7,500トンにアップした。
また、2001年1月には南アフリカに英国のメリゾール社とのJVの住化メリゾールを設立し、住友化学技術でエポキシ樹脂中間体のオルソクレゾールノボラックを生産した。(原料オルソクレゾールをメリゾールが供給、製品は住友化学が引取り)
しかし、2004年6月、同社は、情報電子材料分野における事業の「選択と集中」についてという発表を行い、情報家電向け表示材料および電子部品材料分野に一層資源を集中させていくという方向性をより明確にした。
この方針の下、同社は液晶ポリマーの生産能力を増強する一方、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂事業を台湾の長春人造樹脂に事業譲渡し、技術も全面的に移管した。南アフリカのJV持分も譲渡した。
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