米与野党幹部は2012年12月31日夜、
2012年末から2013年初頭にかけて米国で減税の期限切れと政府支出の強制削減がほぼ同時に訪れる「財政の崖」への対応で、当面の回避案で合意した。
米議会上院は1月1日未明、この法案を89対8の賛成多数で可決した。
しかし、下院では共和党員が、この案はほとんどが増税で、歳出カットはほとんどないとして、猛反発した。
保守派が追加の歳出削減を盛り込む法案修正を目指したため、協議が長引いた。
最終的に賛成257、反対167で法案は可決された。共和党は過半数が反対した。
オバマ大統領は、2%の富裕層に対し増税し、中間層の増税を防ぐものと評価し、米国の税制をより公平なものにするという大統領選での公約を果たせたとするとともに、新年においてはこの種の政策をもう少し円滑にまとめられないか皆が考えることを期待すると述べた。
法案の成立は1月1日に持ち越したため、形式上は一旦全国民が増税となったが、遡って減税を実施する。
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財政の崖(Fiscal
Cliff)は"Ben" Bernanke
FRB議長が使った言葉で、次の2つによる増税と歳出減で(財政赤字は縮小するが)消費の大幅減
となり、アメリカの景気が崖から落下するように悪化するというもの。マイナス成長と失業増が懸念される。
米経済がつまずけば、世界景気への影響も大きく、格付け会社FitchRatingsは、米国が「財政の崖」を回避できなければ、控えめに見積もっても、2013年の世界の経済成長率が半減する可能性があるとの見通しを示している。
1)2012年末で大型減税が期限切れを迎える。
増税関連
・ 医療改革に伴う増税 110億ドル
・ 医療保険税(Obama Care)増税 180億ドル
特別措置の終了
・ 失業手当金給付期間延長措置の終了 260億ドル
・ 投資減税延長期間の終了 650億ドル
・ 社会保障税の減税の終了 950億ドル
・ ブッシュ減税(所得税率や配当・キャピタルゲイン税率の軽減)の終了 2,210億ドル
2)財政管理法に基づく歳出の一律削減
連邦政府債務が上限に達したため、米与野党指導者は2011年7月、債務上限を2.1兆ドル引き上げるとともに、その条件として今後10年間で2.5兆ドルの財政赤字を削減することで合意に達した。
しかし与野党が具体的な削減案に合意できなかったため、2013年1月から10年間1.2兆ドルの予算カット条項が発動されることとなった。この半分は国防・安全保障費で、メディケアも一部カットされる。但し、Social
Security とMedicaidは除外。
2012/10/8 米国経済の問題点
米議会予算局(CBO)は、「財政の崖」が現実になれば5000億ドル超の規模の財政緊縮となり、2013年の実質経済成長率はマイナス 0.5%、失業率は9.1%になる
と予想する。
民主党と共和党では、「財政の崖」と赤字削減に関する主張に大きな隔たりがある。
民主党は富裕層への増税を主張、共和党はこれに絶対反対で、逆に福祉カットを主張している。
保守系の市民運動 Tea Party もオバマ政権の大型景気対策や医療保険制度改革などを批判し、「増税なき小さな政府」を掲げるが、Tea
は"Taxed Enough
Already" (もう税金はたくさんだ!)を表している。
逆に、大富豪のWarren Buffettは高額所得者に応分の負担を求めるべきだとしている。
両党は12月21日を与野党協議の期限として交渉を続けた。
最大の対立点は税制で、民主党側は「富裕層増税抜きの合意はあり得ない」としたが、共和党はこれに反対した。
共和党のベイナー下院議長は12月14日に、それまでの「減税継続・増税ゼロ」の主張
から降り、「年収100万ドル以上の富裕層への増税」案を出した。
これに対し、オバマ大統領は12月17日、これまでの「夫婦合算年収25万ドル超での減税打ち切り」から降り、「40万ドル超での減税打ち切り」を提案した。
しかし、この後の交渉は進展せず、最終日を迎えた。
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今回の合意の内容は以下の通り。
・年収40万ドル超(夫婦合算申告では45万ドル超)の個人の所得税減税措置の打ち切り
これにより、これら高所得層の税率は35%からクリントン政権の頃の39.6%に引き上げられる。
米国の所得税率(夫婦合算申告) |
所得 |
Bush減税前 |
現行税率 |
改正税率 |
~$14,400 |
15% |
10% |
同左 *
(Bush減税
継続) |
~$17,400 |
15% |
~$70,700 |
~$142,700 |
28% |
25% |
~$217,450 |
31% |
28% |
~$388,350 |
39.6% |
33% |
~$450,000 |
35% |
$450,000~ |
39.6% |
|
* オバマ大統領の当初案は25万ドル以下のみを減税継続 |
・配当とキャピタルゲインへの税の引き上げ
年収40万ドル超(夫婦合算申告では45万ドル超)の個人の所得に対し現在の15%から20%へ
・年収25万ドル超(夫婦合算申告では30万ドル超)の個人への所得控除、税控除の上限復活
・500万ドル以上の資産の遺産税は35%から40%に引き上げる。
・社会保障税(給与から控除)の減税打ち切り
2011年にオバマ政権が経済刺激策として従来の6.2%を4.2%に下げたが、これを6.2%に戻す。
・逆に、2百万人に対する緊急失業
保険給付金の1年延長
・政府予算の強制削減措置については、2カ月間延長する。
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今回の合意は「財政の崖」問題の当面の回避に過ぎない。
歳出の大幅カット問題は2011年夏以降の協議で結論を得られなかった。
共和党は今回、増税だけを呑まされたとの不満が大きく、強硬に福祉関連予算のカットを要求すると思われる。
2011年7月31日に連邦政府の債務上限14.3兆ドルを2.1兆ドル引き上げデフォルトを直前で逃れたが、2012年末には連邦債務はその16.4兆ドルに達している。
このため、財務省は公務員の年金基金などへの投資凍結などの「緊急措置」を発動したが、2月中には限度にくるとされる。しかも、その時期は、今回延期された国防費の自動的な歳出削減が発動される時期と重なる。
今後も両党の攻防は続き、協議がまとまらない場合は世界経済にも悪影響を与える。
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