2016年5月アーカイブ

ユーロ圏諸国の財務相らとIMFは5月25日未明、ギリシャ支援協議で合意に達した。

ギリシャは2015年8月、最大860億ユーロの支援でEUと合意、2015年10月までに計260億ユーロを融資することとなり、まず8月の国債償還用に130億ドルが融資され、11月には100億ユーロをギリシャの銀行救済基金へ移し、ギリシャ大手銀行への資金注入を正式承認した。 合計214億ユーロの融資を実行している。

しかし、その後はギリシャ政府の財政再建努力を見極めるため、融資を中断しており、支援継続にはギリシャが更なる改革を行うことが条件となっていた。

ギリシャは7月に多額の債務返済を控え、支援が滞れば財政危機が再燃する恐れもあった。

ギリシャ国会は5月9日未明、EUによる金融支援継続の前提となる財政改革法案を与党の賛成多数で可決した。
債権団の要求に沿って、一部の年金支給額を減らし、複数の年金基金を合併し、社会保障費を増額し、中高所得者層の税率を上げた。

更にギリシャ政府は、2015年7月20日に13%から23%に引き上げたばかりの付加価値税の税率を24%に引き上げるほか、燃料やタバコ、アルコール類の増税などを柱とする新たな財政改革案を議会に提出し、議会は5月22日、賛成153、反対145で可決した。

ギリシャ国民の不満は募っており、デモが頻発している。

これを受け、ユーロ圏諸国の財務相らとIMFは5月25日未明、ギリシャ支援協議で合意に達した。
ギリシャは金融支援第2弾を受けるために必要なことを成し遂げたと発表し、支援策の第1次評価を数カ月遅れで完了した。

ユーロ圏財務相会合議長(オランダ財務相)は「ギリシャが昨年夏に約束した一連の改革を承認することで完全に意見が一致した」と述べた。

ユーロ圏19カ国が正式に追加支援策を承認すれば、ギリシャ向けに総額103億ユーロの融資が数回に分けて実施される。最初の融資75億ユーロは早ければ6月にも実行される。

会合では債務軽減策も議論し、現行の第三次金融支援プログラムが終了する2018年時点で、返済期間の延長など抜本的債務軽減策を判断することで合意した。

IMF のラガルド専務理事は2015年7月8日の講演で、EUに対し、「ギリシャのケースでは、財政持続のために債務の再編が必要だ」と述べ、借金の減免や返済期限の延期を促している。

IMFは本年5月23日、ギリシャ財政の再建には債務負担軽減が不可欠だとする報告書を発表した。
ギリシャ財政が危機的状況を脱するには「無条件での債務軽減策」が重要だと指摘、EUなどがギリシャ向け融資の満期、返済猶予期間を延長し、少なくとも2040年まで金利を年1.5%以下に固定する必要があると分析した。

これに対し、2017年に総選挙があるドイツは、ギリシャへの更なる譲歩を避けたいとの思惑でこれに反対し、対立した。

ーーー

2015年1月の選挙で反緊縮を訴え、緊縮推進・EUとの合意支持の政権連立与党を破った急進左派連合(チプラス党首)は同じ反緊縮の独立ギリシャ人党と連立政府を樹立した。

しかし、チプラス首相はEUの金融支援と引き換えに、公約に反して緊縮策を受け入れた。

 合意された財政改革内容

黒字目標 2015〜18年に各1%、2%、3%、3.5%の黒字化
歳入 付加価値税 増税(1323%)、離島優遇税撤廃
法人税 2016年から増税(2628%)
歳出 雇用/年金 早期退職制度縮小/年金受給開始年齢引き上げ(67歳)
年金削減(GDPの1%分)
防衛費 2015年 1億ユーロ、16年 2億ユーロ削減
預金保護 破綻時預金保護上限設定(10万ユーロ)
民営化基金 国有財産(500億ユーロ)の民営化などによる売却

このため、与党内で造反の動きが続出し、2015年8月14日の財政改革法案(EU側からの金融支援の条件)では与党から多数の反対が出た。
野党は、「ギリシャ共産党」と「黄金の夜明け」(合計 32人)を除くと、緊縮派のため全員が賛成し、法案は成立した。

ユーロ圏財務相会合は同日、ギリシャに対し3年間で最大860億ユーロの新たな金融支援を行うことで正式に合意した。

ドイツなど関係国の議会での承認手続きを経て、「欧州安定メカニズム(ESM)」から、まずは10月までに計260億ユーロを融資する予定。
8月20日に欧州中央銀行が保有する約32億ユーロのギリシャ国債の償還期限を迎えることから、先行して130億ユーロを同日までに融資、残りの130億ユーロのうち、100億ユーロは銀行の資本増強にあてる計画。

チプラス首相は8月20日夜にテレビを通じて演説し、辞任して、総選挙を行うと表明した。改めて信任を問うもの。 

9月20日に投票、開票が行われ、チプラス首相は信任された。

2015/9/24 ギリシャ総選挙でチプラス首相信任 

ギリシャ議会は11月19日、債権団の要求に応じ、住宅ローン滞納者の保護基準引き下げなどを柱とする財政構造改革法案を可決した。
ユーロ圏はESMの管理下にある100億ユーロをギリシャの銀行救済基金へ移し、11月23日にギリシャ大手銀行への資金注入を正式承認した。


国有財産の売却の一環として、ギリシャは2016年4月8日、アテネ近郊にある同国最大のピレウス港の売買契約を中国海運大手の中国遠洋運輸集団(
China COSCO Holding)との間で締結した。

2016/4/12 ギリシャ、最大のピレウス港を中国に売却 


武田薬品工業がカナダの製薬大手、Valeant Pharmaceuticalsに買収を提案し、拒否されていたことがわかった。


Valeant はこれまで、成長の大部分を買収や、買収で手に入れた割安な医薬品の値上げに依存していた。
同社
は米国での医薬品値上げで監督当局や政治家から監視の対象となり、数カ月にわたって混乱に見舞われている。

3月15日の米国の株式市場で、Valeantの株価が51%下落した。
業績見通しを下方修正したことや、2015年第4四半期決算が予想を下回ったこと、4月の期限までに年次報告書を提出しなかった場合はデフォルトに陥る恐れがあると明らかにしたことなどが理由。

Valeant は再建対策の一つとしてコアでない資産の売却も検討しており、問い合わせもあるという。

Wall Street Journal (5月26日付)によると、1、2ヶ月前に武田薬品と投資会社TPGから共同での買収提案があった。金額の提示はなかったとされ、Veleantはこれを拒否、その後の話し合いはないという。
武田薬品は、この件に関して「コメントできない」としている。

Valeantは4月25日にライバルのアイルランドの製薬大手 Perrigo Co. のCEOのJoseph Papaを会長・CEOとして迎えることを決めた。
武田の提案はこれ以前とされる。

4月29日に2015年の年次報告書を提出し、デフォルトをひとまず免れた。
これによると、株主帰属純損益は、2014年の+881百万ドルに対し、2015年は-292百万ドルとなっている。

その後、資産家のWarren Buffett が5月初めに、Valeant のビジネスモデルには非常に大きな欠陥があると述べたこともあり、株価は2015年8月の高値から85%余り下落している。

ーーー

Wall Street Journal では、武田薬品の狙いは旅行者下痢症やIBS(過敏性腸症候群)のような胃疾患薬を扱う Salix Pharmaceuticalsではないかという。
ValeantはSalix のIBS薬の Xifaxanに期待しており、本年の売上高を10億ドルとみている。

Valeant は昨年、110億ドルでSalix を買収したが、武田薬品も争奪戦に参加していたとされる。

   2015/3/18 Salix Pharmaceuticals の買収合戦

TPGは傘下にAlder BioPharmaceuticals などの医薬品会社を持ち、アイルランドのEndo International PLC にも出資している。

TPGは2015年5月に、所有するPar Pharmaceutical をEndo International に売却した。

  2015/5/20 アイルランドの製薬大手 Endo、米の Par Pharmaceutical を買収 

ーーー

ValeantはAllerganの買収も狙ったが、失敗している。

各社の買収合戦の状況は下記の通り。



2015/2/28 Valeant Pharmaceuticals、米同業Salix Pharmaceuticalsを買収
2015/3/18 Salix Pharmaceuticals の買収合戦
2015/8/26 Valeant Pharmaceuticals、女性用バイアグラの Sprout Pharmaceuticalsを買収
ーーー
2015/11/19 ジェネリック医薬品大手のMylan、アイルランド製薬大手Perrigo のTOBに失敗
ーーー
2014/10/22 米製薬会社 Allergan を巡る買収合戦
2015/11/26 Pfizer、アイルランドのAllerganを買収
2015/7/29 後発薬最大手のTeva、米 医薬大手の Allerganから後発薬事業買収
2016/4/7 Pfizer とAllergan、合併計画断念


付記 

米著名投資家のCarl Icahn は5月31日、米製薬大手 Allerganの株式について「大量のポジション」を取得したと自身のホームページに掲載した文書で公表した。取得数や保有率は明らかにしていない。




EUは5月24日、AB InBev によるSABMiller買収を承認すると発表した。

既に対策として発表されていたSAB Miller の欧州のビール事業の実質的に全ての売却を条件とする。

付記

米国も7月20日、承認した。

付記

AB InBev は2016年7月26日、SAB Miller の買収価格を、これまでの44ポンドから45ポンドに引き上げた。英国のEU離脱選択を受けたポンド安(12%安)に対応するもので最終提案であるとしている。

2015年11月時点の評価では700億ポンド(当時のレートで1,060億ドル)であったが、今回改定で790億ポンドとなるが、 米ドル換算では1,040億ドルで、まだ前回より低い。
このため、一部株主の間で反対する動きが出た。

7月29日、最後の関門であった中国商務部が買収を承認した。
SAB Miller はこの日、AB InBev が提示した案を支持すると発表した。

ーーー

ビール世界最大手のAnheuser-Busch InBev (AB InBev)と同2位の英のSAB Millerの取締役会は2015年10月13日、AB InBevによるSAB Miller買収に原則的に合意した。

2015/10/14 ビール世界最大手のAnheuser-Busch InBev、2位のSAB Millerを買収へ

AB InBev は2015年11月11日、英のSAB Miller を697億8000万英ポンド(約13兆円)で買収することに正式合意したと発表した。

これに伴い、SAB Millerは保有するMillerCoorsの持株 58%を合弁相手の米 Molson Coors Brewing に120億ドルで売却する。
Molson Coorsは米国のビール市場でシェアを25%に伸ばし、AB InBev の45%に次ぐ2位に躍進する。

MillerCoorsの売却は、AB InBevがSAB Miller の買収で米当局から承認を得る上で不可欠である。

ーーー

AB InBev は欧州でもCorona やStella Artois (ピルスナータイプのビール)を持つため、欧州で独禁法で問題になるのを恐れた。

このため、AB InBev は2015年12月17日、SABMiller の欧州のブランド、Grolsch ビールとPeroni ビールを売りに出すことを明らかにし、3ヶ月以内の成約を求めた

アサヒビールは2016年2月10日、AB InBev に対し、AB InBevによるSABMillerの買収実行を条件として、SABMillerのイタリア、オランダ、英国事業その他関連資産を取得するための法的拘束力のある最終提案を行ったと発表した。

SABMillerのイタリア、オランダ、英国の事業を構成する会社の全株式と、3ブランドの知的財産権その他関連資産。
ただし、「Peroni」と「Grolsch」は米国・プエルトリコにおけるブランドに係る知的財産権を除く。

買収対象会社 ブランド  
Birra Peroni S.r.l.(伊) 「Peroni」 150年以上の歴史
Royal Grolsch NV(蘭) 「Grolsch」 400年の歴史
Meantime Brewing (英) 「Meantime」 英国のクラフトビールのパイオニア的ブランド
Miller Brands (UK) (英)    

2016/2/16 アサヒビール、英SABMillerの欧州事業の一部を買収 

AB InBev は4月19日、アサヒからの約29億ドルでの買収提案を受け入れた。

今回、EUはアサヒをこれら事業の購入者として承認した。

更にAB InBev は4月29日、SABMillerの中東欧事業を売却する意向と発表した。

SABMillerのハンガリー、ルーマニア、チェコ、スロバキア、ポーランドの全ての資産を売却する。売却額は50億ドル程度と推定される。
ブランドでは、ポーランドのTyskieとLech、ハンガリーのDreher、ルーマニアのUrsusなど。

これら中東欧の事業は1社または2社に売却される。

EUの調査結果は下記の通りで、上記のアサヒへの売却と中東欧事業の売却で解決するとしている。

イタリア、オランダ、英国、ルーマニア、ハンガリーでは合併で重要な競争相手がなくなる。

チェコ、ハンガリー、ルーマニア、スロバキアでは、MillerCoors を通じて、 AB InBevとMolson Coors にリンクが出来、競争がなくなる。

European Economic Area の四大ビールメーカーのうちの2社の合併は価格協定が容易になる。

ーーー

AB InBev によるSABMillerはこれまで、インド、韓国、チリ、コロンビア、メキシコ、アフリカ諸国などで承認を得ている。

米国では上記の通り、MillerCoorsの持株を合弁相手のMolson Coors Brewing への売却で対策をとっている。

中国では、香港の華潤ビール(China Resources Beer)とのJVの華潤雪花ビール(China Resources Snow Breweriesを華潤ビールに売却した。

2016/3/5 SABMiller、華潤雪花ビールを売却 




リーマン級危機?

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5月26日の伊勢志摩サミットの「世界経済」をテーマにしたセッションで、安倍晋三首相は現状の認識について「参考データ」と題する説明資料を提示した。

エネルギー・食料・素材など商品価格が「リーマン・ショック前後での下落幅である55%と同じ」で、新興国の投資伸び率も「リーマン・ショックより低い水準まで低下」と明記、リーマン級の経済危機再燃を警戒する内容となっている。

安倍首相は、「リーマンショック直前に北海道洞爺湖サミットが行われたが、危機の発生を防ぐことができなかった。その轍は踏みたくない。世界経済はまさに分岐点にあり、政策的対応を誤ると危機に陥るリスクがあることは認識する必要がある」と述べ、世界経済を回復軌道に戻すため、G7の政策協調を呼びかけた。

討議では世界経済の持続的な成長に向けて、機動的に財政戦略を実施し、構造改革を果断に進める重要性で一致したが、一部の首脳から、「危機という表現は強すぎるのではないか」という指摘が出された。

商品価格は IMF Primary Commodity Prices のデータのうち、All Commodity Price Index (2005 = 100) を採用している。
   http://www.imf.org/external/np/res/commod/index.aspx (Monthly Data)

リーマンショック時には、直前の2008/7 の219.90に対し、2009/2は98.16で、7ヶ月で55.4%の下落となった。
これに対し、最近では、2014/6の185
.16が2016/1 には 83.05 となり、19ヶ月で55.1%の下落となっている。
下落率は同じだが、今回は時間をかけたもの。

別の資料では、2015年の新興国・途上国の投資伸び率が2008年のリーマン・ショック後の3.8%を下回り、実質2.5%となったことを指摘している。
  http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2016/01/pdf/text.pdf


しかし、この間、輸入は-8.5%から+0.5%にアップ、GDPも+1.7%から+3.4%にアップしている。

また、全世界では様子は異なる。前回は投資伸び率は大きなマイナスだが、今回はプラスである。他の比率も同様。


最近の物価の値下がりは、実際には原油価格の下落の影響が大き く、同じIMF統計でNon-Fuel Price Indexは下記の通りとなっている。
最近の物価下落は2014年春からの22ヶ月間の緩やかなもので、下落率も低く、リーマンショック時とは異なる。

これらからみると、いいとこ取りの感がある。

ーーー

首相は消費増税延期の条件について、5月18日の党首討論で、「リーマン・ショックや大震災級の影響のある出来事が起こらない限り予定通り行っていく。適時適切に判断していきたい」と表明している。

今回の説明は、現状がリーマンショック時と同じ状況として消費増税を延期しようとしているのではないかと見られている。


付記

本日の池田信夫ブログは次のように述べている。

今回の奇妙な「危機説」が、世界最悪の政府債務を抱える日本が増税を延期するための国内向けの理由づけだとすれば、世界のエコノミストの失笑を買うだけだ。


付記

サミット首脳宣言では、リーマン級危機の表現はない。経済関係の要旨は下記の通り。

G7伊勢志摩首脳宣言(骨子)

前文
世界的な成長は、低成長のリスクが残る中、依然として緩やかであり、かつ、潜在成長力を下回っている。

G7伊勢志摩経済イニシアティブ
強固で、持続可能な、かつ、均衡ある成長に貢献するため、世界経済、移民及び難民、貿易、インフラ、保健、女性、サイバー、腐敗対策、気候、エネルギーの分野でのコミットメントを発展。

世界経済
<世界経済の状況>
世界経済の回復は継続しているが、成長は引き続き緩やかでばらつきがある。また、前回の会合以降、世界経済の見通しに対する下方リスクが高まってきている。我々は、新たな危機に陥ることを回避するため、経済の強靭性を強化してきているところ、この目的のため適時に全ての政策対応を行うことにより現在の経済状況に対応するための努力を強化することにコミット。

<政策的対応>
各国の状況に配慮しつつ、強固で、持続可能な、かつ、均衡ある成長経路を迅速に達成するため、我々の経済政策による対応を協力して強化すること及びより強力な、かつ、均衡ある政策の組合せを用いることにコミット。

債務を持続可能な道筋に乗せていくための取組を継続しつつ、世界的な需要を強化し、供給側の制約に対処するため、全ての政策手段-金融、財政及び構造政策-を個別にまた総合的に用いることにコミット。

3本の矢のアプローチ、すなわち相互補完的な財政、金融及び構造政策の重要な役割を再確認。

財政戦略を機動的に実施し、及び構造政策を果断に進めることに関し、G7が協力して取組を強化することの重要性について合意。

過剰な生産能力は、世界的な影響を有する構造的な課題。

為替レートの過度な変動や無秩序な動きは経済及び金融の安定に対し悪影響を与えに対し悪影響を与え得る。

1.売上高

2.営業損益

3.税引前損益(IFRS方式) / 経常損益(日本方式)

4.株主帰属損益

特記事項

1)武田薬品

株主帰属損益は2015/3が -1,458億円、2016/3が802億円となっているが、特別整理と、特別整理前のコア損益は下記の通り。

2015/3 2016/3
コアP/L 1,767 2,022
無形資産償却 -827 -794
無形資産減損 -417 -73
企業買収影響 339 -17
有価証券売却 43 70
遊休不動産売却 208 -18
事業構造再編費用 -224 -188
訴訟関連 -76 -45
アクトス関連訴訟 -1,779 -25
試験研究費税額控除 -427
税制改正影響 -81 -82
ベネズエラ連結除外 -67
政府補助金等 13 19
(調整合計) (-3,228) (-1,220)
財務ベース -1,458 802

2)アステラス製薬

主力の前立腺がん治療薬「イクスタンジ:XTANDI」が伸び、増収増益となった。

そのXTANDIは米国のバイオ医薬品会社のMedivation が開発したもので、アステラス製薬が全世界での開発・商業化に関する契約を締結し ている。

Paris, April 28, 2016 - Sanofi today announced that it has sent a letter to Medivation, Inc., in which it makes a non-binding proposal to acquire Medivation for $52.50 per share. This would represent an all-cash transaction valued at approximately $9.3 billion.[1] Combining Sanofi and Medivation represents a compelling strategic and financial opportunity to drive significant value for the respective companies' shareholders, employees, patients and caregivers.

The proposed purchase price represents a premium of over 50 percent to Medivation's two-month volume weighted average price (VWAP) prior to there being takeover rumors.

- See more at: http://mediaroom.sanofi.com/sanofi-offers-to-acquire-medivation-for-52-50-per-share-in-cash-proposal-would-provide-immediate-and-certain-value-to-medivations-shareholders-combination-would-create-complementary-offerings-t/#sthash.rBgkMzS2.dpuf

Paris, April 28, 2016 - Sanofi today announced that it has sent a letter to Medivation, Inc., in which it makes a non-binding proposal to acquire Medivation for $52.50 per share. This would represent an all-cash transaction valued at approximately $9.3 billion.[1] Combining Sanofi and Medivation represents a compelling strategic and financial opportunity to drive significant value for the respective companies' shareholders, employees, patients and caregivers.

The proposed purchase price represents a premium of over 50 percent to Medivation's two-month volume weighted average price (VWAP) prior to there being takeover rumors.

- See more at: http://mediaroom.sanofi.com/sanofi-offers-to-acquire-medivation-for-52-50-per-share-in-cash-proposal-would-provide-immediate-and-certain-value-to-medivations-shareholders-combination-would-create-complementary-offerings-t/#sthash.rBgkMzS2.dpuf

製薬大手の仏 Sanofiは4月28日、Medivation Inc. に対し現金での1株52.50ドル、総額93億ドルでの買収提案を行ったと発表したが、Medivationは4月29日、提案はMedivationの価値を低く見ており、同社と株主の利益に反するとしてこれを拒否したと発表した。

Sanofi はこれに対し、引き続き買収の実現を目指すとしており、さらに、AstraZeneca、Pfizer、Novartis AG などが買収の検討を始めたと報じられている。

2016/5/6 米国の製薬会社 Medivation、仏Sanofi の買収提案を拒否

アステラスでは、「ライセンス契約は強固な内容で、今の権利は損なわれない」とするが、条件の再交渉など難しい立場に追い込まれる可能性がある。
また、中央社会保険医療協議会の専門部会で高額の薬の価格見直しが始まったのも懸念材料。

3)第一三共

2015年3月期には非継続事業からの当期利益 2754億円を含む。

ランバクシーがサン・ファーマに吸収合併されたことによる税効果考慮後の子会社合併差益2,787億円(繰延税金負債として815億円計上)
株式交換で取得するサンファーマ株の時価と簿価の差額。

税引前 税引後
子会社合併差益 3,602億円 2,787億円
合併関連諸費用 50億円 34億円
ランバクシーグループの事業利益 18億円 - 0.5億円
(非継続事業からの当期利益) 2,754億円


2014/4/10 第一三共、ランバクシーを実質売却

フランスの油田サービス会社 Technipは、米同業 FMC Technologies, Inc. と株式交換方式で合併すると発表した。

新会社の社名は TechnipFMC で発表前の株式時価ベースで130億ドルとなる。
Technip株主は1株につき新会社の株を2株与えられ、FMCの株主は1株を与えられる。

原油安を背景に石油会社の支出が急減する中、合併により難局を乗り切る狙いがある。

2015年の売上高は合計で200億ドル、EBITDAは24億ドルとなる。合併により2019年に税引前で少なくとも年間4億ドルのコストエナジーを期待している。

新会社はロンドンを本拠地としながらも、ロンドン、パリ、ヒューストンの3都市にそれぞれに本部を置く複雑な構造となる。ロンドンを本拠地とすることについて、税率の低い国に本社を移すtax inversion が目的ではなく、「両社にとり中立的な場所を選んだ結果」としている。

フランス政府はTechnip 株5.2%を保有しており、同社がフランス国内に強いプレゼンスを維持するよう、長期的に株主としてとどまる見通しという。

ーーー

原油安を受け、今後の石油開発のピッチが鈍化する可能性が強く、油田サービス会社も合併により重複部門を整理する動きが出ている。

1)Halliburton / Baker Hughes

米資源装置・サービス大手のHalliburton Co は2014年11月17日、同業のBaker Hughes Inc を現金と株式で買収すると発表した。買収総額は346億ドルに上る。

売り上げ規模は単純合計でSchlumbergerを上回り業界トップの専業企業となる見通しだが、独禁法上で問題となる可能性がある。
Halliburton はこれを避けるため、75億ドル相当の事業の売却を行うとしていた。

2015/9/1 油田開発・サービス世界最大手のSchlumberger、Cameron International を買収

しかし、米司法省の反トラスト局は2016年4月6日、米油田サービス会社2位のHalliburton による 同業3位のBaker Hughes 買収は競争を脅かす恐れがあるとして、Halliburtonを提訴した。米司法省は1年半近くにわたって競争上の問題がないかを審査してきたが、買収は石油探査で使用する23種類の製品・サービスにおいて直接的な競争を失う恐れがあると主張した。
Halliburtonが対策として提案している事業売却案は不十分であると看做した。

Halliburton とBaker Hughes は5月1日、合併を取り止めると発表した。米国や欧州の監督当局からの強い反対に直面していた。

両社は、規制上の承認を得る問題から合意破棄が最善策との結論につながったと述べた。

Halliburton がBaker Hughes に契約解除金35億ドルを支払う。

2016/4/11 米司法省、油田サービス会社2位のHalliburton による 同業3位のBaker Hughes 買収を認めず 

2)Schlumberger / Cameron International

油田サービス業界で2位のHalliburton と3位のBaker Hughes の合併が頓挫した一方で、1位のSchlumberger は掘削機材メーカーのCameron International の買収に成功している。

Schlumberger は2015年8月26日、掘削機材メーカーのCameron International を約127億4000万ドルで買収すると発表した。

Cameron株主は1株につき現金14.44ドルとSchlumbergerの0.716株を受け取り、統合後の会社の約10%を握ることとなる。

こちらについては独禁法上で問題とされず、Schlumbergerは本年4月1日にCameron買収を完了したと発表した。

2015/9/1 油田開発・サービス世界最大手のSchlumberger、Cameron International を買収

ーーー

各社の売上高は下記の通り。Technip を除き、2015年は減収となっている。

Technip は報告がユーロ建てのため、ドルに換算


7. 東レ

単位:億円 (配当:円)

  売上高 営業損益 経常損益 特別損益 当期損益

配当

中間 期末
2014/3 18,378 1,053 1,106 -129 596 - 5.0
2015/3 20,107 1,235 1,286 -141 710 5.0 6.0
2016/3 21,044 1,545 1,502 -124 901 6.0 7.0
前年比 937 310 216 17 191 1.0 1.0
2017/3予 22,300 1,700 1,700 1,050 7.0 7.0


営業損益:

14/3 15/3 16/3 増減 増減理由 17/3予想
繊維 529 556 689 133 数量差         305
販売価格(石化関連) -379
販売価格(その他) 46
石化関連原燃料価格 676
営業費 -116
その他費用差 -222
差引 310
710
プラスチック・ケミカル 180 239 294 55 340
情報・通信機器 246 245 262 17 310
炭素繊維複合材料 169 262 361 99 380
環境・エンジニアリング 64 80 96 16 120
ライフサイエンスその他 56 41 31 -10 50
その他 20 19 20 1 20
全社 -212 -207 -207 0 -230
合計 1,053 1,235 1,545 310 1,700

特別損益は下記の通り。

2015/3 2016/3 増減
特別利益 資産売却益 17 56 39
その他 2 4 2
合計 18 60 41
特別損失 固定資産処分 62 61 -1
減損損失 79 91 11
その他 19 32 13
合計 159 183 24
特別損益 -141 -124 17

ーーー

8. 帝人

シンガポールのポリカーボネート工場の停止など、過去の構造改善、減損処理が効果を生み、大幅増益となった。

単位:億円 (配当:円)

  売上高 営業損益 経常損益 特別損益 当期損益

配当

中間 期末
2014/3 7,844 181 199 -54 84 2.0 2.0
2015/3 7,862 391 424 -493 -81 2.0 2.0
2016/3 7,907 671 603 -147 311 3.0 4.0
前年比 46 280 179 346 392 1.0 2.0
2017/3予 7,750 580 580 360 5.0 5.0


営業損益:

14/3 15/3 16/3 増減 増減理由 17/3予
高機能繊維・複合材料 57 144 185 41 販売数量差       15
スプレッド差       240
構造改革・コストダウン 55
先行費用ほか      -30
差引  280
185
電子材料・化成品 -72 34 223 189 135
ヘルスケア 245 248 288 40 300
製品 52 42 53 11 60
その他 17 40 65 25 65
全社 -119 -117 -143 -26 -165
合計 181 391 671 280 580


電子材料・化成品のうち、PCについては、主原料価格の低下、構造改革効果の発現により利益大幅改善
  シンガポール工場停止(2015年12月)により販売構成改善・固定費圧縮を推進

特別損益は下記の通り。減損損失と構造改善費用が大幅に減少した。

2015/3 2016/3 増減
特別利益 減損損失戻入益 1 33 32
その他 9 12 4
合計 10 45 36
特別損失 減損損失 304 76 -228
構造改善費用 168 55 -113
その他 31 63 32
合計 503 193 -310
特別損益 -493 -147 346

減損損失の内訳は下記の通り。

2015/3 2016/3
電子材料・化成品 シンガポール 96 栃木県 48
岐阜県 60
ヘルスケア 米国 ノレン等 51 米国 ノレン等 13
その他 原料重合、動力、その他 97 15
合計 304 76

ーーー

9. 積水化学

単位:億円 (配当:円)

  売上高 営業損益 経常損益 特別損益 当期損益

配当

中間 期末
2014/3 11,109 825 833 -109 412 11.0 12.0
2015/3 11,127 858 880 -37 530 13.0 14.0
2016/3 10,963 898 812 -33 567 14.0 16.0
前年比 -164 41 -68 5 37 1.0 2.0
2017/3予 10,970 940 880 590 16.0 16.0


営業損益

14/3 15/3 16/3 増減 増減理由 17/3予
住宅 411 413 364 -49 数量・構成 13
売値  -58
原材料  120
為替   32
固定費  -66
合計  41
380
環境・ライフライン 65 13 36 23 100
高機能プラスチックス 361 460 534 74 540
その他 -8 -20 -31 -11 -70
全社 -3 -8 -5 4 -10
合計 825 858 898 41 940

ーーー

10. トクヤマ

営業損益は増益となったが、マレーシアの多結晶シリコン事業で2年連続で多額の減損損失を計上し、当期損益は大幅な赤字を継続した。

単位:億円 (配当:円)

  売上高 営業損益 経常損益 特別損益 当期損益

配当

中間 期末
2014/3 2,873 203 150 -20 102 3.0 3.0
2015/3 3,021 195 129 -779 -653
2016/3 3,071 231 177 -1,042 -1,006
前年比 50 35 48 -263 -352
2017/3予 3,020 320 270 170


営業損益:

14/3 15/3 16/3 増減 17/3予
化成品 22 51 89 38 100
特殊品 60 41 -12 -53 70
セメント 66 44 58 14 80
ライフアメニティー 48 52 66 14 50
その他 41 60 57 -4 45
全社 -36 -53 -28 25 -25
合計 201 195 231 35 320


特別損益

15/3 16/3
特別利益 固定資産売却益 141
投資有価証券売却益 104 62
その他 2 12
合計 106 215
特別損失 減損損失 761 1,247
(うちマレーシア多結晶シリコン) (749) (1,239)
購入契約損失 109
その他 15 10
合計 885 1,257
特別損益 -779 -1,042


2014/11/3
 トクヤマ、マレーシアの多結晶シリコン計画で特別損失計上 

2016/2/3  トクヤマ、マレーシアの多結晶シリコン事業で再度、減損損失を計上 

住友化学は5月19日、旺盛な需要に対応するため、愛媛工場に、飼料添加物メチオニンの製造設備1系列を増強すると発表した。

増強規模は年産約10 万トンで、増設後の能力は既存設備15万トンとあわせ年産約25 万トンになる。2018年半ば完成を予定。

メチオニンは、動物の体内で合成することができない必須アミノ酸の一種で、鶏肉や鶏卵の生産性向上を目的に、飼料添加物として広く使用されている。

メチオニン市場は、現在全世界で約110 万トンといわれ、6%程度の成長をしており、今後も同程度での成長が期待されている。

ーーー

メチオニンは大手4社で90%以上を占める。

能力 増設計画
Evonik (旧 Degussa) Wesseling、Antwerp、Mobile 430
シンガポール 150 (2019)  150
合計 580 150
藍星集団・Adisseo フランス(4)、スペイン(1) 220
南京 140
合計 360
Novus International
(三井物産、日本曹達
米国 320

(2020) 120

住友化学 愛媛 150 (2018) 100
大連住化金港化工 20
合計 170 100

他に数万トンの能力があり、全体能力は150万トン弱となる。

Evonikは50年以上の生産の歴史を持ち、ドイツのWesseling、ベルギーのAntwerp、米国のMobile にプラントを持っている。

Evonik は2014年11月、メチオニンのシンガポール新工場(150千トン)の操業を開始した。
同社は2015年にシンガポールでの増設の検討を開始した。

中国の藍星集団は2006年1月にCVC Capital Partners から動物用栄養製品メーカーのAdisseoを買収した。 

AdisseoはCVCがAventis (現在はSanofi Aventis)の動物栄養製品部門を2002年に購入して設立した会社で、メチオニン、ビタミン、飼料用酵素を製造販売している。

藍星集団とフランスの子会社Adisseo Groupは2009年8月、メチオニン工場を南京市に建設する契約を締結した。第一期の能力は7万トンで、2012年下半期の稼動を目指した。
その後、第二期が完成し、現在の南京の能力は14万トンとなっている。

2009/8/27 藍星集団、南京でメチオニン工場建設

三井物産と日本曹達は1991年6月、Monsantoから米国のメチオニン系飼料添加物製品(MHAとALIMET)事業を買収し、三井物産 65%、日本曹達 35%出資でNovus International を設立した。

Monsanto は1950年代初めに研究を開始し、MHAの生産を始めた。1979年にALIMETを発売した。

Novusはその後、Monsantoから分離したSolutiaから飼料保存剤事業を買収、現在では多種類のanimal nutrition and health を世界90カ国以上に販売している。

日本曹達は1967年から二本木工場でDL-メチオニンを製造していたが、2006年に事業構造改善策の一環としてメチオニン生産を停止した。
日本化薬は日本曹達にOEM生産を委託して販売していたが、同時に撤退した。

三井物産は2016年5月に実施するNovus の増資を全額引き受け、出資比率を80%にする。

三井物産は、特に北米におけるメチオニン製造能力の拡大を成長戦略の要と位置づけ、今回の増資を通じてNovus社の経営基盤を強化しメチオニン事業とその他の飼料添加物事業を成長させるとしている。

2020年をめどに工場を新設し、生産能力を約44万トンに引き上げる。

住友化学は愛媛のメチオニン工場の能力を順次引き上げ、現在は15万トンとなっている。今回10万トンの増設を決定した。

住友化学は2009年12月10日、中国大連にメチオニン(2万トン/年)と農業用ポリオレフィン系特殊フィルム(4千トン/年)を製造販売する合弁会社を設立したと発表した。

社名 大連住化金港化工 Dalian Sumika Jingang Chemicals
場所 遼寧省大連経済技術開発区 
株主 住友化学 80%
大連金港集団 20%  (大連凱飛化学の株主)
設立 2009/10
能力 メチオニン 2万トン (長期的には大規模生産設備への増強も視野)
高機能農業用ハウスフィルム 4000トン
2016/4にフィルム 10,000トンにアップ


2009/12/15 住友化学、飼料添加物メチオニンを増強、中国で生産



Monsanto は5月18日、Bayer から買収提案を受けたと発表した。Bayer も5月19日、Monsanto と買収へ向けた交渉をしていると発表した。
買収額は400億ドルを上回る可能性がある。

Bayer は発表文で、最近、幹部がMonsanto幹部に会い、買収することで交渉したことを認めた。買収で生命科学の技術革新を促し、世界をリードする農業関連事業を創造できると強調している。一方、Monsantoは取締役会がBayerの提案内容を吟味していると述べた。

なお、下記の通り、BASFはDowに対抗してDuPont の買収を検討していたが、今回、Monsantoの買収に動く可能性がある。

付記

Bayerは5月23日、Monsantoへの提案の内容を公表した。

1株当たり122米ドル、総額620億ドルで買収
これは5月9日の終値に37%のプレミアムとなる。

3年後のシナジーを年間約15億ドルと見込む。

Monsanto は5月24日、下記の発表を行った。

取締役会は満場一致で、Bayer の提案は不完全で適切なものではないと看做した。しかし株主の最大利益が得られるかどうかをみるため、引き続き交渉を行う。

ーーー

農薬・種子業界では、昨年12月にDow Chemical と DuPont が経営統合で合意した。両社の農薬・種子事業を統合するとMonsantoを上回り、業界トップに躍り出る公算となった。

Dow Chemical と DuPontは2015年12月11日、対等で経営統合すると発表した。 それぞれの取締役会が満場一致で賛成した。

統合会社の社名はDowDupont で、統合後に無税スピンオフで Agriculture、Material Science、Specialty Products の3つの会社に分離し、それぞれ上場する。

2015/12/14 Dow と DuPont、経営統合を発表

しかし、この合意の前に BASFが数週間にわたりDowに対抗してDuPont の買収を検討していることが判明した。
正式なオファーはしていないが、DuPontに打診を行っている。

BASF は除草剤、殺虫剤、その他農薬ではSyngenta とBayer に次ぐ世界第三位で、DuPontを買収すれば、Bayer に並ぶ。

DuPontは1999年に種子会社のPioneer Hi-Bredを買収した。
BASFは種子事業を持っておらず、もしDuPontを買収できれば、農業科学分野でのギャップを埋めることが出来るとともに、Monsantoに次ぐ世界第二位のメーカーとなる。

2016/3/7 BASF、DuPontの全部又は一部の買収を検討 

Monsanto は2015年にスイスの農薬・種子メーカー Syngentaの株式を1株449スイスフラン、総額450億米ドルで買収する提案を行ったが、Syngentaは5月8日、取締役会はいろいろな観点から十分に検討したうえで満場一致で拒否することを決めたと発表した。

Monsantoの提案額はSyngenta の価値を過小評価しており、また、多くの国で行われる独禁法等によるチェックのリスクを過小評価しているとした。

8月18日にMonsantoは新しい提案をしたが、Syntentaは拒否した。

2015/5/12 Syngenta、Monsantoによる買収提案を拒否

その Syngentaは本年2月3日、中国の化学メーカー、中国化工集団(ChemChina)が同社を430億ドル余りで買収する提案をしたと発表した。

Syngentaの取締役会は満場一致で受け入れを支持した。TOBは数週間のうちに開始され、年末に買収が完了する見込み。

2016/2/5 中国化工集団(ChemChina)、スイス農薬のSyngentaを買収 

ーーー

農薬関係のトップメーカーの2015年の売上高は下記の通り。
  (百万米ドル、1ユーロ=1.12米ドル換算、1米ドル=110円換算)

多くの企業が2015年は減収となっている。

2014 2015
Dow Agricultural Sciences 7,290 6,381
DuPont Agriculture 11,296 9,798
DowDupont Agriculture 18,586 16,179
Syngenta :中国化工集団(ChemChina)が買収 15,134 13,411
Bayer CropScience 10,633 11,611
Monsanto Agricultural Productivity 5,115 4,758
Seeds & Genomics 10,740 10,243
全社 15,855 15,001
Bayer + Monsanto 26,488 26,612
BASF Agricultural Solutions 6,110 6,518
住友化学 健康・農業関連 3,140 3,264
FMC Agriculturral Solutions 2,174 2,253
Cheminova合併フルベース 3,400 2,615


FMCは2015年4月21日、デンマークのAuriga Industries A/Sの完全子会社で農薬会社のCheminova A/Sの負債の継承も含めて総額約18億ドルの買収を完了したと発表した。
2014年9月8日に合併合意文書への調印を発表したが、今回すべての必要条件と規制認可を満たした。
2015年売上高には合併後のものだけを含む。

6. 信越化学

営業損益は2010年3月期から連続増益となった。
しかし、過去最高の2008年3月期の2,871億円には及ばない。

単位:億円 (配当:円)

  売上高 営業損益 経常損益 当期損益

配当

中間 期末
2014/3 11,658 1,738 1,806 1,136 50 50
2015/3 12,555 1,853 1,980 1,286 50 50
2016/3 12,798 2,085 2,200 1,488 55 55
前年比 243 232 220 202 5 5
2017/3予

未定



営業損益推移 (単位:億円)

  14/3 15/3 16/3 増減
塩ビ・化成品 602 503 447 -56
シリコーン 318 334 415 81
機能性化学品 128 153 182 29
半導体シリコン 245 356 469 113
電子・機能材料 410 462 515 52
その他 37 48 56 8
全社 -0 -3 1 4
合計 1,738 1,853 2,085 232


塩ビについてはShintech が減益となった。(後述)

シリコーン、半導体シリコン、電子・機能材料は好調。


Shintech の業績は下記の通りで、2012年に急回復し、2013年も増益となったが、2014年、2015年と減益となっている。
最近は円安の影響が大きいが、円ベースでも減益である。

決算を公表している米国の企業の業績は下記の通り。

北米需要は業界全体で前年比3%低減し、Westlakeによると平均売価は前年比 18.9%下落した。
そのなかでShintech は世界中の顧客に積極販売を行ったが、過去最高益となった2013年の水準には達しなかった。

元 Georgia Gulf のAxiall Corp.は、ノレン減損 847.8百万ドルを計上したが、これを除いたベースではShintech の損益推移に類似している。

なお、Westlakeは本年に入り、Axiallの買収を提案したが、拒否された。

2016/2/4 Westlake Chemical、Axiall に14億ドルでの買収を提案、拒否される 

その中でWestlakeは増益に転じているが、これには次の要因がある。

1)Westlake Chemical は2014年6月28日、投資会社のAdvent International からドイツを拠点とする塩ビメーカーVinnolit Holdings GmbH とその子会社を490百万ユーロで買収する契約を締結したと発表した。同年7月31日に 取引が完了した。 

ドイツと英国に6つの工場を持ち、能力は苛性ソーダが475千トン(100%)、VCMが665千トン、PVCが780千トンとなっている。2013年の売上高は917百万ユーロであった。

2014/6/3 Westlake Chemical、欧州の塩ビメーカー Vinnolit を買収

2015年はこれがフルに寄与した。

2) Calvert Cityのエチレン原料転換が完成、エチレン増産、Geismarのクロルアルカリ増産

  2012/10/10
Westlake Chemical、エチレン原料をプロパンからエタンに変更

Shintech も2013年に電解、塩ビモノマーおよび塩ビ樹脂の生産能力の増強を決定、2014年4月にはエチレンを生産する工場の建設許可をルイジアナ州の環境庁に申請した。

同社の能力は次のとおりとなる。(万トン)

立地 PVC VCM カ性ソーダ エチレン
Texas州 Freeport  145   -   -
Louisiana州 Addis   58   -   -
Plaquemine   60   160  106
今回増設 32 30 20 50
合計  295  190   126 50
増設完成時期 2015/下 2016/上
& 2017/上
2018/上

これらが完成すれば、Shintechの損益基盤はさらに強化される。

3.三井化学

ナフサ価格低下に伴う販売価格下落などで減収となったが、営業損益は増益となった。

しかし、減損損失により当期損益はほぼ前期並みとなった。

  売上高 営業損益 経常損益 特別損益 当期損益   配当
中間 期末
2014/3 15,660 249 225 -331 -251 3.0 0.0
2015/3 15,501 420 444 -86 173 2.0 3.0
2016/3 13,439 709 632 -219 230 4.0 4.0
前年比 -2,062 289 188 -133 57 2.0 1.0
2017/3予 12,500 700 620 360 4.0 5.0



営業損益は下記の通り。

15/3 16/3 増減 内訳 - 16/3 17/3予 増減
数量差 交易条件 固定費他
石化 216 393 177 30 132 15 基盤素材 10 40 30
ウレタン -35 -85 -50 -6 -50 6
基礎化学品 -79 -37 42 -6 30 18 モビリティ 449 390 -59
機能樹脂 187 262 75 6 76 -7
ヘルスケア 91 107 16 21 13 -18 ヘルスケア 116 150 34
フード&パッケージング 91 139 48 21 25 2 フード&パッケージング 203 200 -3
その他 9 -1 -10 -10 その他 -69 -80 -11
全社 -60 -69 -9 -9
合計 420 709 289 66 226 -3 合計 709 700 -9


石化:堅調な国内需要、交易条件(為替の影響を含む)で増益
基礎化学品:これまで進めてきた事業再構築の効果で赤字減少
ウレタン:市況悪化の影響で赤字増
機能樹脂:円安効果と需要拡大への適格な対応で増益
ヘルスケア:固定費増はあったが、増販効果で増益
フード:販売拡大、交易条件改善

来期よりセグメント変更

特別損益は下記の通り。(億円)

2015/3 2016/3 増減
特別利益 資産売却益 23 51 28
事業譲渡益 - 37 37
合計 23 88 65
特別損失 固定資産処分・売却損 45 56 11
減損損失 53 241 188
その他 11 10 -1
合計 109 307 198
特別損益 -86 -219 -133

減損損失には、2013年にドイツのHeraeus Holdingsから有利子負債を含め約543億円で買収した歯科材料事業 Heraeus Dental のノレンの減損195億円を含む。

北米地域での低迷や、急速なデジタル技工市場のトレンド変化のため、当初の利益計画から遅れが出たため。

2013/4/10 三井化学、歯科材料事業を543億円で買収 

ーーー

4.東ソー

ナフサ価格等の下落に伴う売価の下落で売上高は減収となったが、販売数量増加や原燃料安等を背景とした交易条件の改善等により営業損益は増益となった。

税引前損益では前期を上回ったが、前期には、日本ポリウレタン工業との合併で、同社から引き継ぐ繰越欠損金等の一時差異に係る繰延税金資産の計上等による税金費用の減少240億円があったため、当期損益ではほぼその分が減益となった。

単位:億円 (配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 特別損益 税引前 税金 当期損益   配当
中間 期末
2014/3 7,723 416 495 -20 475 175 296 3.0 3.0
2015/3 8,097 514 602 -12 590 -240
197
623 5.0 5.0
2016/3 7,537 694 658 -39 619 200 397 7.0 7.0
前年比 -559 180 56 -27 29 -243 -226 2.0 2.0
2017/3予 7,200 720 720 470 7.5 7.5

営業損益は下記の通り。

14/3 15/3 16/3 増減

内訳

- 17/3予想
数量差 交易条件 固定費他
石油化学 148 69 116 47 14 7 26 150
クロルアルカリ 39 83 180 97 44 27 26 190
機能商品 192 300 327 27 21 38 -31 319
エンジニアリング 13 33 46 12 12 0 0 37
その他 24 28 26 -3 -3 0 1 24
合計 416 514 694 180 87 72 22 720

ーーー

5. 旭化成

ケミカル事業で石油化学製品の市況が下落したことなどから、売上高は前期比マイナスとなったが、住宅事業やクリティカルケア事業が好調に推移したことなどから、営業利益は前期比増益となり、3期連続で過去最高を更新した。

しかし、営業外損益で15/3は為替差益が52億円、持分法投資利益が17億円であったのに対し、16/3は為替差損が37億円、持分法投資損失が9億円と逆転し、経常損益はマイナスとなった。

特別損益の赤字が大きく、当期損益は前年比で減益となった。

問題の杭工事に関しては、現時点では影響額を合理的に見積もることは困難として、施工データの流用等の調査等に要した費用 15億円のみを計上している。

単位:億円 (配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 特別損益 当期損益   配当
中間 期末
2014/3 18,978 1,433 1,429 210 1,013 7.0 10.0
2015/3 19,864 1,579 1,665 -81 1,057 9.0 10.0
2016/3 19,409 1,652 1,614 -150 918 10.0 10.0
前年比 -455 73 -52 -69 -139 1.0 0.0
2017/3予 19,100 1,450 1,430 920 10.0 10.0

営業損益は下記の通り。

14/3 15/3 16/3 増減

内訳

- 16/3 17/3予
数量差 売値差 コスト差
ケミカル 389 542 553 11 -26 -934 971 マテリアル 792 700
繊維 86 105 137 32 13 -10 29
エレクトロニクス 142 143 69 -74 49 -1 -121
住宅 630 592 654 62 19 40 3 住宅 710 650
建材 55 41 58 18 -10 1 26
医薬・医療 303 267 243 -24 -11 -13 ヘルスケア 362 285
クリティカルケア -35 41 119 78 148 -9 -61
その他 17 9 6 -4 9 -13 その他 38 40
全社 -153 -161 -187 -25 -25 全社 -250 -225
合計 1,432 1,579 1,652 73 191 -926 808 合計 1,652 1,450


旭化成は米国Zoll Medical と、AED(自動体外式除細動器)の日本における独占的販売に関する契約を締結し、クリティカルケア(救命救急医療)分野へ事業展開している。


特別損益は下記の通り。

2015/3 2016/3 増減
特別利益 有価証券売却益 28 83 55 政策保有株式の見直しの一環
固定資産売却益 4 9 5
合計 31 92 61
特別損失 投資有価証券評価損 11 4 -7
減損損失 13 35 22
固定資産処分損 47 52 5
事業構造改善費 40 36 -4
訴訟和解金 12 12
杭工事関連損失 15 15

施工データの流用等の調査等に要した費用のみ。
これ以外は現時点では影響額を合理的に見積もることは困難

共同販売契約終了損 53 53 久光製薬との過活動膀胱治療剤の共同販売契約終了
統合関連費用 15 15 組織再編
特別退職金 20 20 Polypore International 買収後、一部幹部が退任
その他 1 -1
合計 112 242 131
特別損益 -81 -150 -69

1. 三菱ケミカルホールディングス

各分野とも好調で、2014年下期に連結対象とした大陽日酸の業績がフルに寄与したこともあり、営業損益は大幅増益となり、過去最高だった2011年3月期を上回った。

但し、大陽日酸も高収益の田辺三菱製薬も三菱ケミカルの出資は50%超に過ぎないため、少数株主帰属利益が大きい。
(大陽日酸 50.56%、田辺三菱製薬 56.34%)   

当期は、減損損失の計上などで特別損益が大幅赤字となり、少数株主帰属利益を引いた当期損益は前期比でマイナスとなった。

                                                        単位:億円 (配当:円)

  売上高 営業損益 持分法 経常損益 特別損益 税引後 少数株主 当期損益   配当
中間 期末
2014/3 34,988 1,105 -4 1,031 135 603 280 322 6.0 6.0
2015/3 36,563 1,657 38 1,631 26 965 356 609 6.0 7.0
2016/3 38,231 2,800 101 2,706 -724 1,056 592 464 7.0 8.0
前年比 1,668 1,143 63 1,076 -749 92 236 -144 1.0 1.0
2017/3予 36,000 2,110 1,980 800 8.0 8.0


営業損益は下記の通り。次年度は減益を見込む。

営業損益対比(億円)           
  2014/3 2015/3 2016/3 前年比 増減内訳 2017/3
予想
売買差 数量差 コスト
削減
ケミカルズ 7 92 573 188
293
65 42 18 188
171
535
ポリマーズ 23 268 433 166 195 -23 31 -50 380
エレクトロニクス -55 -27 -10 17 -26 7 45 -8 -20
デザインドマテリアルズ 475 561 757 196 115 70 36 -20 670
ヘルスケア 673 770 1,034 264 -7 301 41 -71 820
その他 57 65 73 8 14 5 -7 45
全社 -75 -71 -60 11 12 -1 -320
合計 1,105 1,657 2,800 1,143 342 411 188 202 2,110


ケミカルズ:石化市況堅調、受払差損縮小、定修規模差により増益
       2014年下期から大陽日酸が連結対象となったことが増益に貢献 (+188億円)
          2014/5/19 三菱ケミカルホールディングス、大陽日酸株式の公開買い付け 

ポリマーズ:原料価格下落によりポリオレフィン、フェノール・ポリカ増益
       MMA関連はアジア需要低迷、市況悪化により減益
デザインドマテリアル:原料価格下落によりポリエステルフィルム及び高機能フィルム増益、
             電池材料増販により増益
ヘルスケア:導出に伴う技術料収入増に加え、重点品・ワクチンの増販により増益となった。

特別損益のうち、減損損失は790億円。 主なものは下記の通り。

テレフタル酸 インド MCC PTA 432
中国 寧波三菱化学 204
遺伝子組換え人血清アルブミン製剤 田辺三菱子会社 ㈱バイファ 33
電解液 英 MC Ionic Solutions 31
トナー 米 三菱化学イメージング 20
産業ガス シンガポール Leeden National Oxygen 14
特殊合成樹脂 Lucite International 11


2016/2/9 三菱化学、テレフタル酸で減損損失計上


なお、インド MCC PTA については2015年3月期にも104億円の減損損失を計上している。


田辺三菱製薬の実績は以下の通り。

単位:億円 (配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益   配当
中間 期末
2014/3 4,127 591 619 454 20.0 20.0
2015/3 4,151 671 677 395 20.0 22.0
2016/3 4,317 949 948 564 22.0 24.0
前年比 166 278 271 169 2.0 2.0
2017/3予 4,065 755 770 570 24.0 24.0


ノバルティスへの多発性硬化症治療薬、ヤンセンへの糖尿病治療剤等のロイヤルティー収入の増加のほか、バイオジェンへの自己免疫疾患治療剤のライセンス契約、アムジェンほかへの脂質異常症治療剤の特許・ノウハウ譲渡契約一時金などが大きく寄与した。
また血漿分画製剤の販売提携終了もあり売上原価率が低下した。

2014年下期から連結対象とした大陽日酸の業績は下記の通り。    

単位:億円 (配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益   配当
中間 期末
2014/3 5,227 315 305 202 6.0 6.0
2015/3 5,594 353 343 208 6.0 7.0
2016/3 6,415 434 432 258 7.0 9.0
前年比 821 81 89 51 1.0 2.0
2017/3予 6,100 520 487 300 9.0 9.0


 

ーーー

2.住友化学 

石油化学部門で、千葉工場の石油化学事業再構築やPetroRabighの定期修繕等の影響により、出荷が減少し、売上高は前年比マイナスとなった。
PetroRabighの定期修繕の影響で持分法損益も前年比でマイナスとなった。

農薬、医薬品、石油化学が好調で、営業損益は過去最高となった。
特別損益は、千葉再構築などの事業構造改善費用が一段落したため赤字が減少し、当期利益は前年を上回った。

三菱ケミカルと同様、大日本住友製薬など高収益企業の少数株主帰属利益分が大きい。

単位:億円 (配当:円)
  売上高 営業損益 持分法 経常損益 特別損益 税引後 少数株主 当期損益   配当
中間 期末
2014/3 22,438 1,008 120 1,111 -249 550 -180 370 6.0 3.0
2015/3 23,767 1,273 239 1,574 -407 711 -189 522 6.0 3.0
2016/3 21,018 1,644 202 1,712 -136 1,124 -309 815 8.0 6.0
前年比 -2,749 371 -37 138 271 413 -120 293 2.0 3.0
2017/3 20,300 1,400 1,500 800 7.0 7.0

 

営業損益対比(億円)           
  2014/3 2015/3 2015/3 2016/3 増減 2017/3予
基礎化学 -109 -4 エネルギー・
機能材料
8 -20 -28 60
石油化学 49 212 石油化学 208 288 80 170
情報電子化学 349 324 情報電子化学 324 247 -77 170
健康・農業関連 382 569 健康・農業関連 561 775 214 650
医薬品 471 290 医薬品 290 427 137 430
その他 84 157 その他 157 78 -79 70
全社 -218 -275 全社 -274 -150 124 -150
合計 1,008 1,273 1,273 1,644 370 1,400

  セグメント変更

旧 基礎化学 旧 石油化学
エネルギー・機能材料 アルミナ製品、アルミニウム、機能性材料、
添加剤、染料等
合成ゴム
石油化学 無機薬品、合繊原料、有機薬品、
メタアクリル等
合成ゴム以外


石油化学:千葉工場の石油化学事業再構築やPetroRabighの定期修繕等の影響により売上減となったが、
        (前期 9,323億円、当期 6,571億円、増減 -2,752億円)
       交易条件の改善や一時的なライセンス収入により、増益

情報電子化学:販売価格下落で減益
健康・農業関連:増収と円安で増益
医薬品:米国の増収と円安による増益が大きい。

特別損益の状況は下記の通りで、事業構造改善費用の減少が大きい。

2014/3 2015/3 2016/3
投資有価証券売却益 34 41 158
固定資産売却益 162
減損損失 -218 -333 -247
事業構造改善費用 -106 -322 -48
投資有価証券評価損 -15
その他 56 45
合計 -249 -407 -136

このうち、 減損損失は以下の通り。

(2015/3 333億円)
英国 EL材料、デバイス 126
新居浜 アルミナ 64
新居浜 医薬品(撤去) 52
韓国 サファイア基板 48
韓国 ダッチセンターパネル 16
(2016/3 247億円)
シンガポール S-SBR 85
ポーランド ディーゼル・パティキュレート・フィルター 82
シンガポール メタアクリル 54


大日本住友製薬の業績は次の通り。

単位:億円 (配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益   配当
中間 期末
2014/3 3,877 421 406 201 9.0 9.0
2015/3 3,714 233 233 154 9.0 9.0
2016/3 4,032 369 352 247 9.0 9.0
前年比 318 137 119 93 - -
2017/3予 4,100 400 400 250 9.0 9.0

日本では、後発医薬品の使用促進による大幅減収で減益
北米では、「ラツーダ」や抗てんかん剤「アプティオム」の売上が拡大、円安の影響もあり、大幅な増収増益

2016年3月期決算がほぼまとまった。

各社の決算状況は https://www.knak.jp/kessan/ 参照

各社とも非常に好調で、営業損益は前年と比べ、大幅に上回る。

但し、巨額の特別損失を計上している会社もあり、当期損益は各社異なる。

営業損益
経常損益
当期損益

 
減損損益が大きい会社には、三菱化学 790億円 (うちPTA 636億円)、トクヤマ 1,247億円 、住友化学 247億円、三井化学 241億円(うち歯科材料 195億円)などがある。

2016/2/9 三菱化学、テレフタル酸で減損損失計上

2016/2/3 トクヤマ、マレーシアの多結晶シリコン事業で再度、減損損失を計上

東ソーの当期損益が前年比大幅ダウンになっているのは、前年に日本ポリウレタン工業との合併で、繰越欠損金等 を引き継ぎ、税金費用の減少240億円があったため。

米製薬大手のPfizerはこのたび、自社製品が死刑執行に使われないよう、流通を規制すると発表した。

「当社の製品の死刑での使用についての見解」というタイトルで、要旨は次のとおり。

Pfizerの使命は健康と福祉の向上であり、当社の製品の死刑での使用に強く反対する。

死刑に使われる製品について、流通を制限する。

対象製品は、臭化パンクロニウム、塩化カリウム、プロポフォール、ミダゾラム、ヒドロモルフォン、臭化ロクロニウム、臭化ベクロニウムで、これら7 製品については、刑務所に死刑用に再販売しないという条件で、特定の業者にのみ販売する。

政府機関が購入する場合は、医療用に使用し、死刑には使わないということを確認する。また第三者に転売しないことの確認をする。

Pfizerはこれら7つの製品の流通を絶えずチェックし、ルールに従わないのを見つけた場合は対応する。
このシステムで、これらの薬に頼っている患者が薬を入手できることが重要である。

Pfizer は昨年、同業の米 Hospira, Inc.を170億ドルで買収した。

Hospiraはジェネリック注射剤を製造し、医療施設で広範囲に利用されている。またバイオ後続品の販売や開発も手がける。

2015/2/11 Pfizer、米製薬会社 Hospira, Inc. を買収 

これらの医薬品はHospiraが生産しているもので、Hospira自身、自社製品の死刑での使用を禁止しているが、昨年、Arkansas で死刑に使われた薬品のラベルが明らかになり、Hospira製の塩化カリウムであることが分かった。

Hospiraを買収したPfizer として立場を明らかにしたもの。

ーーー

米国では、麻酔薬などの注射による死刑執行が一般的だが、死刑を廃止している欧州との関係などから製品の使用を拒む製薬会社が相次いでいる。

死刑に反対する人権組織によると、米国で死刑に使われる医薬品を製造する世界の25のメーカーが死刑用の使用を禁止した。ニューヨーク・タイムズによると、通常の流通ルートで執行のための薬物を購入することはできなくなる。

昨年は6つの州で28人が死刑となっており、本年はこれまでで5つの州で14人の死刑が執行された。

2014年1月に1人の死刑を執行したオハイオ州は、薬の入手のため、何度も執行を遅らせた。現在、執行日時が決まっている囚人が20人以上いるが、薬を入手できていない。

テキサスなどいくつかの州では、FDAの承認を受けていない複合薬を使っているという。テキサス州は医薬品の供給者を明らかにしておらず、死刑に反対する弁護士から訴えれている。

ユタ州は昨年、医薬品の入手が出来ない場合、銃殺することを認めた。オクラホマ州は窒素ガスでの執行を認めた。テネシー州は2014年に医薬品が見つからない場合、電気椅子の使用を認める法律を通した。バージニア州も同様の法律を検討している。



東芝は5月11日、米国大手エンジニアリング会社の CB&I と締結していた米国の原発建設計画(South Texas Project 3、4号機)におけるEPC契約および改良型沸騰水型原子炉(ABWR) 原子力発電所の海外建設協力等の一連の契約について、契約解除をすることを合意したと発表した。

これにより、CB&IはEPC契約者としてSouth Texas Project から撤退するとともに、South Texas Project およびABWR事業開発会社 (Nuclear Innovation North America) に対し保持している債権を放棄する。

ーーー

東芝は2008年3月26日、米総合発電事業会社のNRG Energy が米テキサス州で推進する原発の建設計画 South Texas Project で、原子力発電プラント2基の主契約者に選定されたと発表した。

東芝はまた、NRGが設立した South Texas Projectの事業開発会社 (Nuclear Innovation North America) に3億ドル、12%分を出資することも併せて発表した。

NRG Energyはテキサス州 Houston 郊外で South Texas Projectを共同で推進しており、東芝が受注したのは、3号機と4号機。
具体的には、改良沸騰水型(ABWR)の原子炉2基や蒸気タービンなど主要機器の納入や建設、エンジニアリング業務を受注した。
事業費は8,000億円規模とみられ た。
2012年ごろに着工し、2015年から16年の運転開始を目指した。 

Reactor type Capacity Commercial operation
South Texas-1 Westinghouse 4-loop 1280 MW 1988/8/25
South Texas-2 Westinghouse 4-loop 1280 MW 1989/6/19
South Texas-3 ABWR 1350 MW
South Texas-4 ABWR 1350 MW

東芝は2010年11月29日、米国大手エンジニアリング会社 The Shaw Group Inc.との間で、今後東芝が海外で受注するABWR型発電所の建設関連作業について協力する契約を締結した。

Shaw は東芝との協力関係に対して 2.5億ドルを投資する。
まず1億ドルを Nuclear Innovation North America 経由でSouth Texas Projectに融資する。

Shaw はSouth Texas Project で主に建設工事を担当する。
Shaw は子会社に原子力の建設と統合的なサービスを担う Stone & Webster を持つ。

東芝とShaw Group はともにWestinghouse Electric の株式を保有し、Westinghouse の最新鋭原発 AP1000 の建設でも協力関係にある。

元々の Westinghouse Electric は 1995年に放送会社 CBC を買収、その後、防衛産業部門をNorthrop Grummanに、原子力以外の発電事業をSiemens になど、次々に売却し、1997年に CBC Corporation に改称した。


最後まで残っていた商業用原子力部門を1998年に英国核燃料会社(BNFL) に売却した。
これが現在のWestinghouse Electric である。

CBCは1999年に Viacom, Inc. に吸収合併された。

2005年7月、英国核燃料会社はWestinghouse Electricの売却を計画、各社が関心を示したが、2006年10月16日に54億ドルで東芝が購入した。東芝は77%を保有し、Shaw Group が20%、IHIが3%を保有することとなった。

2007年8月に東芝は株式の10%をカザフスタンの国営ウラン採掘企業 Kazatompromに売却した。

South Texas Project については2012年ごろの着工、2015年から16年の運転開始を目指した が、2011年3月の福島原発事故で状況が急変した。

福島原発事故を受け、米原子力規制委員会(NRC)は稼働中の全原発について安全性確認の実施を決定、新規原発の認可も棚上げとなった。

このため、South Texas Project の主体のNRG Energyは、新規原発建設の認可獲得に時間とコストがかかることを懸念し、2011年4月に追加の投資中止を決定した。

米国では外資100%出資の原発建設には制限があるため、東芝はNRG Energy に代わるパートナーが必要だが、見つけられていない。

立地のテキサス州は天然ガスが採掘できるため、原発のコスト優位性が低下しているのも一因である。

参考 

2012/7/31  原子力発電の正当化困難にーGE会長
2012/9/6 米電力大手Exelon、原子力発電所の申請を取り下げ
2012/10/26 米の発電会社、不採算を理由に原発を閉鎖
2013/9/2 米・電力大手Entergy、Vermont Yankee原発の廃炉を決定

ーーー

東芝とShaw Group との関係も変化した。 

2012年7月に米国大手エンジニアリング会社のCB&I が Shaw Group を買収することで合意、2013年2月に買収した。

東芝は 2012年10月10日、Westinghouseの株式 20%を Shaw Groupから取得すると発表した。Shawが当初の株式取得時のオプションを行使するもの。

これにより持株比率は87%に高まるが、東芝は50%超を保持して残りを売却するとしている。

Shaw との関係では、受注済みの案件については予定通り工事完成に向けて取り組むことで合意した。
今後は案件ごとに最適なパートナーを選定する方針。

Westinghouse は2015年12月31日、Shaw Group子会社で原子力の建設と統合的なサービスを担う Stone & Webster をCB&I から229百万ドルで買収した。

Shaw Group を買収したCB&I が原子力関係事業からの撤退を決めたもので、Westinghouse とStone & Webster は米国で建設中のボーグル発電所とV.Cサマー発電所向けにAP1000原子力発電所の設計、エンジニアリング、調達及びサポートを提供しており、買収により米国プロジェクト全体の一元管理・遂行が行える推進体制を構築する。

CB&Iが原子力関係事業からの撤退を決めたことから、CB&I からのSouth Texas Project への融資が見込めなくなったこともあり、 今回、CB&I と締結していたSouth Texas Project におけるEPC契約および改良型沸騰水型原子炉(ABWR) 原子力発電所の海外建設協力等の一連の契約について、契約解除をすることを合意したもの。

CB&Iとは火力事業を中心に引き続き重要なパートナーとして、今後も協力関係を維持していくとしている。

上記をまとめると次のとおりとなる。

ーーー

South Texas Projectの事業開発会社 Nuclear Innovation North America は2016年2月9日、米国原子力規制委員会(NRC)から、South Texas Project 3・4号機建設の建設運転一括許可(COL)の承認を受けた。ABWRとしてCOLが承認されたのは今回が初めて 。

新型加圧水型原子炉「AP1000」では、Vogtle原子力発電所3・4号機向け、Virgil C. Summer 発電所2・3号機向けにCOLが発給されている。

2012/4/4 米、2件目の原子力発電所新設を承認 

現在電力価格が低迷していることから、今後電力市況を見極めながらパートナー企業を募集し、適切な時期に建設開始の判断をすべく、協議するとしている。

しかし、原発の優位性はなくなっており、パートナーがすぐに出てくる可能性は少ない。

東芝はNuclear Innovation North America について、2013年度で310億円、2014年度で410億円の減損損失を計上している。

2016年3月決算では、Westinghouse のノレン代減損損失 2600億円を計上した。

2015/12/8 東芝の原子力事業 の付記参照

 

石油資源開発は5月12日、昨今の著しい油価下落に対応するため、孫会社の Japan Canada Oil Sands Limited(JACOS)によるカナダのアルバータ州Hangingstone 鉱区3.75 セクション地域におけるビチューメン(オイルサンド層から採取される超重質油)の生産操業を一時休止すると発表した。

油価が回復するまで埋蔵量を温存することで、より収益性の高い生産活動を目指す。操業要員は隣接の「拡張開発事業」へ異動する。

付近のFort McMurray地区で5月1 日に発生した山火事による直接の被害はないが、操業要員の移動や販路の確保に制約が生じたため、生産操業を一時的に見合わせて いる。
今回の決定で、山火事の鎮静後も生産操業を一時休止する。

カナダ西部アルバータ州で5月1日に発生した山火事で、Fort McMurray周辺の1.2万ヘクタールを含め、合計10万ヘクタールの森林が焼け、多くの民家が消失した。
山火事に襲われた地域はカナダ有数の原油生産拠点で、オイルサンド関連施設の操業が軒並み停止や縮小に追い込まれ、 オイルサンドからの原油生産は1日当たり100万バレル(カナダの生産量の1/3 余りに相当)が滞っているとされる。

最大の供給先の米国のエネルギー政策にも影響を及ぼしかねない事態となっている。

3.75セクションに隣接する「拡張開発事業」については、日量約20,000 バレル規模のビチューメン生産が可能となる設備の建設工事を進めており、2017年の生産操業開始を目指しているが、これについては、3.75セクションよりも効率的な生産操業が期待できるため、山火事鎮静後に速やかに作業を再開する。

ーーー

石油資源開発が現在 94.05% 出資するカナダオイルサンド㈱ は1978年に国と経済界の強力な支援を受け、当時の石油公団と民間各社により設立され 、カナダの子会社 JACOSを通じて、オイルサンド事業に取り組んできた。

JACOSはカナダ・アルバータ州北部のFort McMurray地区の南南西 に権益を有する。
今回休止するHangingstone鉱区 3.75セクション地域では、1 0 0 %権益を保有し、1 9 9 9 年に生産開始した。(2003年から商業生産)

Hangingstone鉱区 3.75 セクション JACOS(オペレーター)100%
Hangingstone鉱区 拡張開発地域 JACOS(オペレーター)75%、Nexen Energy 25%
未開発鉱区
Thornbury、Corner、Chard
JACOS 100%保有鉱区と、 パートナーの Suncor、Nexen Energy、Imperial Oil と共同で保有する鉱区(権益比率は鉱区毎に異なる)が存在

JACOSは、3.75セクションでさまざまな回収法の試行錯誤の末、当時は商業的には実証されていなかった SAGD(Steam Assisted Gravity Drainage) 法を採用した。

これまで日量5千~6 千バレルで生産していた。

拡張開発事業もSAGD法を使用し、初期開発においては日量約2万バレル程度で、 その後、最大日量3万バレル規模に拡張する。

生産されたビチューメンは、コンデンセート等の超軽質油で希釈し、重質油相当の希釈ビチューメンとして、主に米国の製油所に対しパイプラインを通じ販売をする 。
初期開発に係る総投資額は約14億カナダドルを予定している。



四国電力は5月10日、伊方原発1号機(1977年9月運転開始、能力56.6万kw )を廃炉にした。

運転開始から40年近くたち、申請すれば20年の運転延長も可能だが、巨額の安全対策費が予想され、採算性がないと判断した。

運転延長には、新規制基準をクリアするための電源ケーブルの難燃化などで約1700億円が必要。収支改善効果は約1500億円にとどまるため、四電は「投資回収が成り立たない」と判断した。

運転期間を原則40年とするルールでの廃炉は6基目となる。

関西電力の高浜1号、2号は2016年4月20日に安全審査に合格している。
2015年4月30日に運転期間延長を申請しており、延長のための審査がさらに必要。

関西電力の美浜3号は、震源断層の深さで規制委と対立していたが、2015年7月末に規制委案で見直すこととなった。
2015年11月26日に 20年延長を申請している。

運転開始 万KW

再稼動
  申請

原電 敦賀① 1970.3

40年

35.7 2015/3/17 廃炉決定
関電 美浜① 1970.11 34.0 2015/3/17 廃炉決定
東電 福島1① 1971.3 46.0 2012/4/19 廃炉
関電 美浜② 1972.7 50.0 2015/3/17 廃炉決定
中国電力 島根① 1974.3 46.0 2015/3/18 廃炉決定
東電 福島1② 1974.7 78.4 2012/4/19 廃炉
関電 高浜① 1974.11 82.6 2015/3/17 2015/4/30 運転期間延長申請、2016/4/20 安全審査合格
九州電力 玄海① 1975.1 55.9 2015/3/18 廃炉決定
関電 高浜② 1975.11 82.6 2015/3/17 2015/4/30 運転期間延長申請、2016/4/20 安全審査合格
東電 福島1③ 1976.3 78.4 2012/4/19 廃炉
関電 美浜③ 1976.3 82.6 2015/3/17 2015/11/26 20年延長を申請
四国電力 伊方① 1977.9 56.6 2016/5/10 廃炉
東電 福島1④ 1978.1 78.4 2012/4/19 廃炉
東電 福島1⑤ 1978.4 78.4 2014/1/31 廃炉
日本原子力 東海 1978.11 110.0 2014/5/20 (PWR優先で審査停滞) 
東電 福島1⑥ 1979.1 110.0 2014/1/31 廃炉
関電 大飯① 1979.3 117.5

関電 大飯② 1979.12 117.5

九州電力 玄海② 1981.3 55.9

四国電力 伊方② 1982.3 56.6

東電 福島2① 1982.4 110.0

(地元が廃炉要求)
東電 福島2② 1984.2 110.0

(地元が廃炉要求)
東北電力 女川① 1984.6 52.4

九州電力 川内① 1984.7 89.0 2013/7/8 2015/9/10 営業運転
関電 高浜③ 1985.1 87.0 2013/7/8 2016/1/29 再稼動、2016/3/9 運転差止
東電 福島2③ 1985.6 110.0

(地元が廃炉要求)
関電 高浜④ 1985.6 87.0 2013/7/8 2016/2/26 再稼動、直後にトラブル停止 2016/3/9 運転差止
東電 柏崎刈羽① 1985.9 110.0

九州電力 川内② 1985.11 89.0 2013/7/8 2015/11/17 営業運転
原電 敦賀② 1987.7 116.0 2014/11/5 2013/5/27 敦賀2号機直下の断層を活断層と断定
東電 福島2④ 1987.8 110.0

(地元が廃炉要求)
中部電力 浜岡③ 1987.8 110.0 2015/6/16
中国電力 島根② 1989.2 82.0 2013/12/25
北海道電力 泊① 1989.6 57.9 2013/7/8
東電 柏崎刈羽⑤ 1990.4 110.0

東電 柏崎刈羽② 1990.9 110.0

北海道電力 泊② 1991.4 57.9 2013/7/8
関電 大飯③ 1991.12 118.0 2013/7/8 2015/12/24 再稼働差し止めの仮処分申し立て却下
関電 大飯④ 1993.2 118.0 2013/7/8
北陸電力 志賀① 1993.7 54.0

2016/3/3  直下に活断層と最終判断
東電 柏崎刈羽③ 1993.8 110.0

中部電力 浜岡④ 1993.9 113.7 2014/2/14
九州電力 玄海③ 1994.3 118.0 2013/7/12
東電 柏崎刈羽④ 1994.8 110.0

四国電力 伊方③ 1994.12 89.0 2013/7/8 2015/7/15 安全審査合格
東北電力 女川② 1995.7 82.5 2013/12/27
東電 柏崎刈羽⑥ 1996.11 135.6 2013/9/27
東電 柏崎刈羽⑦ 1997.7 135.6 2013/9/27
九州電力 玄海④ 1997.7 118 2013/7/12
東北電力 女川③ 2002.1 82.5

中部電力 浜岡⑤ 2005.1 138.0

東北電力 東通 2005.12 110.0 2014/6/10
北陸電力 志賀② 2006.3 135.8 2014/8/12 2016/3/3 重要設備直下に活断層の可能性の判断
北海道電力 泊③ 2009.12 91.2 2013/7/8

宇部興産、 JSR、三菱レイヨンの3社は5月9日、3社のABS事業の統合で基本合意に達したと発表した。

現在、JSRは完全子会社のテクノポリマーで、宇部興産と三菱レイヨンは折半出資のUMG ABSで事業を行っている。

今後もさらに厳しさを増す国内外のABS樹脂事業を取り巻く環境下で、オペレーションの最適化、製造効率とコスト競争力の確保を目的として、2016年10月31日を目処に契約を締結、2017年10月1日に両社を合併することを目指す。 詳細は今後詰める。

合併で能力は366千トンとなり、第2位の日本A&Lの100千トンを大きく上回る。
しかし、世界最大手の台湾の奇美実業の生産能力は年185万トン、2位の韓国LG化学も年156万トンで、大きく引き離されている。

新会社は国内に3カ所ある工場の生産体制を見直し、コスト減を進めるとともに、高機能品の生産に特化するなどして、海外の巨大メーカーとの差異化を図る。

ーーー

テクノポリマー

1996年7月にJSRと三菱化学のABS事業を統合(JSR 60%、三菱 40%) してテクノポリマーがスタートした。
当時、JSRは日本のABSのトップメーカーであり、三菱化学も2番手グループで、統合したテクノポリマーは奇美実業、Bayer、GE(Borg Warnerを買収)に次ぐ世界4位であった。

奇美実業は当時、台湾で100万トンのABS樹脂を生産していたが、三菱化学は奇美に10%の資本参加をし、奇美製品の日本での販売(2万トン程度)を扱っていた。
このため、公取委がこの合併を問題視したため、三菱から、奇美との提携の解消を含めて措置をとるとの返事があり、公取委はこの措置を前提に承認した。

2002年10月、特殊ABS樹脂の業容拡大を目指すテクノポリマーと、コア事業への集中による事業基盤の再構築を進めたい鐘淵化学の意向が一致し、鐘淵化学から超耐熱・耐熱ABS樹脂の営業権を譲り受けた。鐘淵化学は高砂のプラントを他製品に転用した。

なお、2002年の新聞報道では、東レもテクノポリマーへの事業統合参加を検討しているとされたが、実現しなかった。

その後、三菱化学は戦略事業分野への集中的な投資を加速するとともに、事業の集中と選択を推進、2009年3月にテクノポリマーから離脱し、プラントを停止した。

2008/11/28 三菱化学、ABS事業から撤退

UMG ABS

1963年に宇部興産 51%、Borg Warner Chemical 49% 出資で宇部サイコンが設立された。
1988年9月にGE PlasticsがBorg Warnerの化学部門を買収し、GE Japanが株主となった。

2002年4月、宇部サイコンと三菱レイヨンがABS事業を統合し、UMG ABS としてスタートした。
この時点では、
宇部興産 42.7%、三菱レイヨン 42.7%、GE 14.6% の出資比率であったが、その後、GEが離脱し、宇部と三菱レイヨンの 50/50JVとなった。

宇部サイコンは宇部に年産110千トン、三菱レイヨンは大竹に同66千トンのABS樹脂設備をもち、合計176千トンと、テクノポリマーに次いで第2位メーカーとなった。

2015年3月期の売上高は下記の通り。
 テクノポリマー  42,662 百万円
 UMG ABS    42,349 百万円


ABS業界の推移は下記の通り。(能力は推定)

2006/10/9 日本のABS業界の変遷


旭化成は水島地区のエチレンセンター集約時の
国内石油化学事業の基盤強化の一環でABSプラントを停止した。

2014/2/27  旭化成と三菱ケミカル、水島地区エチレンセンター集約で合意


日本のABSの需要は下記の通り。輸出は、海外進出の日本企業への供給が多い。

  2000年 2015年 増減
国内 410 230 -180
輸出 184 128 -56

....

商社の決算

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伊藤忠商事が5月6日に発表した2016年3月期の連結決算(国際会計基準)は純利益が2403億円とない、前期比 602億円の減益となった。

本年2月時点では当初からの予想 3300億円を維持していたが、それと比べ896億円の減益となった。

しかし、三菱商事、三井物産が赤字決算となることから、総合商社で初のトップとなった。

2016/3/28 三井物産と三菱商事、減損損失計上で2016年3月期損益予想を大幅に引き下げ

今回の決算で「将来の損失リスクを最大限織り込んだ」とし、2017年3月期では3500億円の過去最高の利益を見込む。

実績予想では、下記の減損損失を見込んだが、 CITIC投資前倒しによる利益(200億円)や予備費(200億円)でほぼ相殺するとみていた。

しかし今回、下記の損失を追加計上した。当初からみていた損失を含めると1300億円を超える。

実績予想

今回追加

エネルギー 180億円 英領北海油田開発事業プロジェクト(WIDP)の減損

繊維 170億円 英国大手アパレル製造・卸業 Bramhope Group Holdings から撤退 60億円
ジャヴァホールディングス、LeSportsac の減損 85億円ほか
金属 180億円 IMEAの豪州石炭事業の減損 220億円 IMEAのGlencoreとのNCA石炭JV (35%出資)の権益売却 170億円
インドネシア石炭損失 25億円
IMEA石炭減損追加 25億円
食料 60億円 Dole Food の減損 145億円 Doleの減損追加 115億円
Dole 豪州撤退 20億円等
生活資材 310億円 英国 European Tyre Enterprise Limited 減損 310億円
(タイヤ卸のStapleton's と タイヤ小売のKwik-Fit グループの事業統括)
その他 55億円
合計

約420億円

900億円
特別損益 約400億円 CITIC投資前倒しほか
差引 ± 0


伊藤忠のITOCHU Minerals & Energy of Australia (IMEA)の豪州石炭事業は下記の通り。


なお、伊藤忠は同日、同社の単体決算で コロンビアの炭鉱とインフラに出資する ITOCHU Coal Americas の減損損失 465億円を計上すると発表した。

2011年度にコロンビアの石炭生産販売・輸送インフラ保有会社 Drummond International LLC の株式20%を取得し、ITOCHU Coal Americas を設立した。
Drummondは1995年の操業開始当初より輸送インフラ及び自社港湾設備を有し、高カロリー、低硫黄分、低灰分の高品質一般炭を低コストで生産、大西洋マーケット中心に安定的に販売して いる。約19億トンの豊富な埋蔵量が確認されている。

しかし、石炭価格下落により、Drummond International の公正価値が下落したため、ITOCHU Coal Americas の減損処理を行う。

但し、IFRS方式での連結決算においては、Drummondへの投資は「FVTOCI 金融資産」として扱っており、この公正価値の変動は「その他の包括利益」として処理されるため、株主帰属損益には影響しない。

IFRS方式では、資本性金融資産は通常、「純損益を通じた公正価値」=FVTPL(Fair value through profit or loss)で測定するが、例外として、当初の認識時に「その他の包括利益を通じた公正価値」=FVTOCI (Fair value through other comprehensive income)測定に指定をすることができる。

この場合、事後に変更はできない。
事後の公正価値の変動は減損処理の対象外となり、「その他の包括利益」として処理される。

なお、受取配当金は損益として認識する。

--
   ソース:https://www.obc.co.jp/click/ifrs/column/col_01/vol08.html


ーーー

住友商事は5月9日に決算を発表したが、2016年2月時点の予想より255億円の悪化となっている。

2015/3 実績 2014/10/1 住友商事、米国のタイトオイル開発などで大幅な損失計上 

2015/3 & 2016/3 減損損益 (億円)

2015/3 2016/3
米 タイトオイル開発 1,755
米 シェールガス事業 257
米 タイヤ事業 188
北海油田事業 36
マダガスカル ニッケル事業 770
チリ 銅・モリブデン開発 140
南ア鉄鉱石関連投資 183
北米鋼管事業 181
ブラジル鉄鉱石事業 623 146
豪州石炭事業 244 121
豪州穀物事業 114
その他 295
合計 3,103 1,951

2016年2月の予想では、通期の減損損失を1,700億円とみており、実績は250億円の損失追加となった。

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三井物産

三菱商事

2016/3/28 三井物産と三菱商事、減損損失計上で2016年3月期損益予想を大幅に引き下げ

丸紅

2016/4/22  丸紅も2016年3月期損益予想を大幅に引き下げ

第一三共は5月6日、2008年にRanbaxy Laboratoriesの株式を第一三共に譲渡した元株主を相手としたシンガポールでの国際商業会議所国際仲裁裁判所の仲裁判断を発表した。

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第一三共は2008年6月11日、Ranbaxy Laboratories 及び創業家一族との間で、同社の議決権総数の50.1%以上を取得する契約を締結、2008年11月に第三者割当増資、新株予約権の引受け等を合わせ 63.9%を取得した。

しかし、米国食品医薬品局(FDA)は2008年9月16日に、Ranbaxy Laboratoriesの医薬品30種以上の輸入を一時停止した。
Ranbaxy Laboratoriesは2011年12月に、FDAと同意協定書を締結したが、その後も輸入差止が相次いだ。

また、株価の大暴落で第一三共は多額ののれん償却を余儀なくされた。

第一三共はRanbaxyの米国事業の早期解決が難しいと判断、2014年4月にSun Pharma と株式交換し、2015年4月に取得したSun Pharmaの持株全てを売却した。

これについて第一三共は、2008年9月16日のFDAによるRanbaxyの医薬品30種以上の輸入の一時停止は 、同年6月の契約締結までに調査があった筈で、Ranbaxyの特定の元株主が、FDA 等の調査に関する重要な情報を隠蔽したものと判断し、国際商業会議所国際仲裁裁判所に仲裁を申し立てたもの。

4月29日付の仲裁判断は下記の通り。

元株主は第一三共に下記の金額を支払う。

損害賠償金 25,627.8 百万インドルピー 41,004百万円
損害遅延金 8,510.7百万インドルピー 13,617百万円
弁護士費用 14,549.7千米ドル 1,557百万円
仲裁費用 599.3千米ドル 64百万円
合計 56,242百万円

第一三共は、この回収の目処が立った段階で、同社の業績への影響を発表する。

ーーー

経緯は下記の通り。

第一三共は2008年6月11日、インドのジェネリック医薬品大手 Ranbaxy Laboratories 及び創業家一族との間で、同社の議決権総数の50.1%以上を取得する契約を締結したと発表した。

同社は11月7日、 Ranbaxy 株の63.9%を取得したと発表した。

2008年8月16日から2008年9月4日までの間、公開買付けを行ったうえ、創業家一族からの取得、第三者割当増資、新株予約権の引受けを行った。
総額4,950億円になる。

米国食品医薬品局(FDA)はTOB完了直後の 2008年9月16日、Ranbaxy Laboratoriesの医薬品30種以上の輸入を一時停止した。

Ranbaxy のインドの2つの工場で、製造器具の洗浄状況、生産管理、品質管理などに関する記録の保存に関して問題が改善されていないためとしている。

これが報道され、Ranbaxyの株価は(世界的な株安も加わり)暴落した。

第一三共は2009年1月5日、連結子会社であるRanbaxy Laboratoriesについて、3,540億円ののれん一時償却の特別損失を計上すると発表した。

2009/1/8 第一三共、ランバクシーの評価損計上

Ranbaxy Laboratoriesは2011年11月30日に、高コレステロール血症治療剤「リピトール」の後発薬を米国で発売した。
同社は当初、
インドでの原体生産を検討していたが、米国への輸入が認められていないため、Teva Pharmaceuticalに原体の生産を委託せざるを得なかった。

2011/12/5  第一三共子会社 Ranbaxy、米国で「リピトール」の後発品を発売

第一三共は2011年12月に、Ranbaxy Laboratoriesが米国FDAと同意協定書を締結したと発表した。

Ranbaxyは、データの信頼性を確実にするための手段や方針を更に強化し、現行の適正製造基準を遵守することを確約した。
また、これまでの行為に対し、5億ドルの罰金支払いで米国司法省と和解した。

2011/12/28 ランバクシー、米FDAと同意協定書締結

FDAは2013年9月13日、Ranbaxy Laboratoriesのインドのパンジャブ州のMohali 工場で生産された医薬品の輸入を差し止めるという輸入警告(import alert)を発表した。

2013/9/21  米FDA、第一三共子会社Ranbaxyに再び輸入差し止め 

第一三共は2014年1月14日、Ranbaxy Laboratories の原薬工場であるToansa工場(Punjab州)に関して、米国FDAによる査察の結果、何らかの問題があることを指摘する Form483 を受理したと発表した。

FDAは2014年1 月23 日付で、Toansa工場で製造された原薬を医薬品用に製造および流通させることを禁止する旨発表した。

2014/1/18 第一三共のRanbaxy、原体製造工場も問題か?



第一三共はRanbaxyの米国事業の早期解決が難しいと判断、Sun Pharma に売却することとした。

第一三共は2014年4月7日、Ranbaxy Laboratories をインドのSun Pharmaceutical Industries が株式交換により吸収合併することでSun Pharmaと合意したと発表した。

2015年4月に取得したサンファーマの持株全てを3,784億円で売却した。

2014/4/10 第一三共、ランバクシーを実質売却 

ヘリコプターマネー

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世界経済の低迷が続くなか、各国とも財政政策も金融政策も限界があることから、ヘリコプターマネーが注目され出した。

1969年に経済学者のMilton Friedmanが発表した概念で、需要喚起のために国民に対し直接紙幣のばら撒きを行う、という考えである。

2003年に"Ben" Bernankeが日本の需要低迷と物価下落への対策として提案した。

2001年3月からの日銀の量的金融緩和政策は中途半端であり、物価がデフレ前の水準に戻るまでお札を刷り続け、さらに日銀が国債を大量に買い上げ、減税財源を引き受けるべきだ。(「日本の金融政策に関する若干の考察」)

紙幣を刷って配る(政府が無利子の永久国債を発行して日銀が引き受ける)ため、実質的に国の債務を増やさずに需要を喚起できる。
但し、カネの価値を暴落させ、ハイパーインフレを招きかねないとされる。


2008年から2013年まで英国の金融行政の監督機関FSA長官を務めたAdair Turner が2015年10月に出版した著書 "Between Debt and the Devil:Money, Credit, and Fixing Global Finance" でヘリコプターマネーの導入を説いている。


日経ビジネスOn Line (2016年5月2日) がインタビュー記事「日本はヘリコプターマネーを本気で検討せよ  英金融サービス機構元長官、アデア・ターナー氏の警鐘」を掲載している。

世界経済の低迷の理由は2つ。需要不足過剰債務の問題に尽きる。
多くの先進国が、金融危機後に抱えた巨額債務の反動で財政規律重視の傾向が強まり、思い切った財政政策を打てず、経済の停滞につながっている。

期待されたのが中央銀行の金融政策だが日本の経験で明らかになったのは、金融緩和策の限界だった。
マイナス金利政策も、個人的には銀行の経営を圧迫 する以上のプラス効果は見込めないと見る。むしろ経済に対する不透明感が高まり、企業が投資を手控えたり、個人がタンス預金を増やしたりと需要喚起とは正反対の状況に陥りかねない。

しかし、まだ施策は残されている。「マネーファイナンス」の導入だ。
マネーファイナンスの最大のポイントは国民に現金を配り、家計を直接刺激することにある。
具体的には、国民の銀行口座に現金を入れたり、あるいは特別な商品券を配布したりする形が考えられるだろう。配布した商品券などには有効期限を設定し、使わないと価値を失う仕組みを作ってもいいだろう。

マネーファイナンスでは、新たに創造するマネーは中央銀行から与えられる。すなわち、国の実質的な債務を増やさずに済む。
減税は結局、将来の増税という形で需要を先食いしているに過ぎないが、マネーファイナンスの場合はそうした懸念もない。消費は間違いなく増え、物価は上昇する。

運用次第でハイパーインフレのリスクは十分管理できる。

日本は過去20年以上、非伝統的金融政策を使っても思うように物価が上がらなかった。意思決定の仕組みが複雑な欧州に比べれば、はるかに実施できるチャンスはある。政府や日銀はあらゆる可能性を排除すべきではない。

池田信夫ブログ(5月3日)「ヘリコプターマネーは日本を救うか」 はこれを取り上げ、黒田総裁の裁量で日銀のオペとして実行できる(国会決議は必要)ので、財政危機を「ハードランディング」させるには、いちばん簡単な方法だとしている。

銀行を通さないで、国民に直接カネを配るのだ。期限つきデビットカードを推薦したい。

「定額給付金」のように数兆円ぐらいでは効果がないので、思い切って100兆円ぐらいばらまいたらどうだろうか。1人80万円だから、車1台ぐらい買える。預金しておくと1年後にはゼロになるので、急いで使うだろう。

これによってGDPが100兆円増えることも確実なので、安倍首相の「名目 GDP 600兆円」も実現できる。

マネタリーベースは一挙に30%ぐらい増えるので、物価は2倍ぐらいになるだろう。

これで政府の実質債務は半減する。
年金生活者の所得は半減し、国民の金融資産も半減するが、その60%は60歳以上がもっているので、世代間格差も解消する。
もちろん財政は破綻し、日本経済はめちゃくちゃになるが、1年たてば正常化するだろう。あの石油ショックで物価が2倍になったときも、5年でもとに戻った。

財政法第5条では、国会の議決を経た場合は日銀による国債引き受けが可能である。

第5条 すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。
但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。

しかし、黒田日本銀行総裁は4月20日の衆院財務金融委員会の日銀半期報告の質疑で、景気刺激策の財源を中央銀行の紙幣増刷で賄う いわゆるヘリコプターマネー政策は「全く考えていない」と述べた。同時に、物価安定目標達成のために必要なら追加緩和を行う姿勢をあらためて示した。

ヘリコプターマネーは金融政策と財政政策を一体的に行うものとの認識を示した上で、財政は政府と議会、金融政策は政府や議会から中立的な中央銀行が行うので、「一体としてやるのは法的枠組みと矛盾する」と指摘。これまでに「具体的に検討したこともない」と重ねて否定した。

ーーー

ヘリコプターマネーの導入で本当に需要が喚起されるであろうか。

1999年に地域振興券が配布された。

15歳以下の子供のいる世帯主、老齢福祉年金等々の受給者、生活保護の被保護者等、満65歳以上で市町村民税の非課税者等を対象に、
財源を国が全額補助することで日本全国の市区町村が発行し、
地域振興券を1人2万円分、総額6,194億円を贈与という形で交付した。

交付開始日から6ヶ月間有効で原則として発行元の市区町村内のみで使用でき、
釣り銭を出すことが禁止され、額面以上の買い物をすることを推奨した。

内閣府経済社会総合研究所は2002年4月にこの効果を分析したレポート 「地域振興券の消費刺激効果」 を出している。

個票データに基づく推計結果を見ると、地域振興券はその配布時点において半耐久財、とりわけアパレル品等、を中心に消費を拡大させ、振興券配布月内で評価した限界消費性向は0.2~0.3 程度であった。

(経済企画庁は振興券を受け取った中の9,000世帯に対してアンケート調査を行い、振興券によって増えた消費は振興券使用額の32%であったとしている。)

一方、地域振興券の消費刺激効果は時間とともに減衰し、最終的な限界消費性向は0.1に低下している。これは、一旦拡大した半耐久財の消費が異時間代替の形でその後若干減少したことによる。

保有資産が少ない世帯ほど振興券受領に応じ消費を拡大する傾向が見られた。

まず、受け取ったカネの7割~8割が貯蓄に回された。(振興券がなくても行われた消費に使われる場合、本来使うはずのカネは貯蓄に回る)
また、消費のうち、半耐久財の場合は将来需要の先食いが含まれ、翌年以降の需要が減少する。

この結果、ネット需要増は配布されたカネの1割だけとなり、非常に効率が悪いことが分かった。

カネがないから消費できない人には有効だが、実際には、カネがないから消費しないのではなく、欲しいものが無いから、または将来に不安があるから消費しない人が多いのが現状で、ヘリコプターマネーの大半は貯蓄に回るであろう。
期限付きの商品券を配るとしても、その使用によって、本来使うはずのカネが貯蓄に回れば消費は増えない。

金額が大幅に増えても同じであろう。



LG Chem が本年4月にメール詐欺で240億ウオン(約22億円)の被害を受けたことが明らかになった。

同社はAramco Products Trading Co. から長期間ナフサを購入している が、Aramco から、取引用の銀行口座を変更したため、代金を新しい口座に振り込むよう依頼のメールがあった。

LG Chem は何の疑いも持たず、新口座に240億ウオンを振り込んだ。

しかし、この口座は Aramco Products Trading の口座ではないことが判明した。

LG Chemはこのほど、ソウル中央地方検察庁に電子メールを使ったハッキング詐欺の捜査を依頼した。

ーーー

実は同様の事件がAramco Trading and Oil とインドのOil and Natural Gas Corp (ONGC) の間で 2015年9月に発生している。

Aramco が 1,970百万ルピー(約39百万ドル)のナフサをONGC から購入したが、ONGCの社員を騙る犯人(メールアドレスの@ongc を@ognc に変えて 使用)は Aramco にメールを送り、代金を State Bank of India の口座ではなく、バンコックの銀行の口座に送るよう要請した。

詳細は明らかでないが、Aramco は、この企みは失敗に終わり、両社ともに被害は出ていないとしている。

インドの警察によると、Mumbai で2015年だけで少なくとも15 社が同様のやり方で被害にあったという。


Paris, April 28, 2016 - Sanofi today announced that it has sent a letter to Medivation, Inc., in which it makes a non-binding proposal to acquire Medivation for $52.50 per share. This would represent an all-cash transaction valued at approximately $9.3 billion.[1] Combining Sanofi and Medivation represents a compelling strategic and financial opportunity to drive significant value for the respective companies' shareholders, employees, patients and caregivers.

The proposed purchase price represents a premium of over 50 percent to Medivation's two-month volume weighted average price (VWAP) prior to there being takeover rumors.

- See more at: http://mediaroom.sanofi.com/sanofi-offers-to-acquire-medivation-for-52-50-per-share-in-cash-proposal-would-provide-immediate-and-certain-value-to-medivations-shareholders-combination-would-create-complementary-offerings-t/#sthash.rBgkMzS2.dpuf

Paris, April 28, 2016 - Sanofi today announced that it has sent a letter to Medivation, Inc., in which it makes a non-binding proposal to acquire Medivation for $52.50 per share. This would represent an all-cash transaction valued at approximately $9.3 billion.[1] Combining Sanofi and Medivation represents a compelling strategic and financial opportunity to drive significant value for the respective companies' shareholders, employees, patients and caregivers.

The proposed purchase price represents a premium of over 50 percent to Medivation's two-month volume weighted average price (VWAP) prior to there being takeover rumors.

- See more at: http://mediaroom.sanofi.com/sanofi-offers-to-acquire-medivation-for-52-50-per-share-in-cash-proposal-would-provide-immediate-and-certain-value-to-medivations-shareholders-combination-would-create-complementary-offerings-t/#sthash.rBgkMzS2.dpuf

製薬大手の仏 Sanofi は4月28日、米国の製薬会社Medivation Inc. に対し現金での1株52.50ドル、総額93億ドルでの買収提案を行ったと発表した。過去2ヶ月の平均株価に対し50%以上のプレミアムとしている。

Sanofi は2015年11月に中期戦略を発表しているが、バイオ医薬品部門で最大でかつ伸びの高い癌治療分野での再構築をうたっており、すぐれた前立腺癌治療薬を持つMedivation との組み合わせは患者に役に立つとともに、両社の株主に利益をもたらすとしている。

Medivationは4月29日、提案はMedivationの価値を低く見ており、同社と株主の利益に反するとしてこれを拒否したと発表した。

Sanofi はこれに対し、引き続き買収の実現を目指すとし、Medivationの株主に直接説明したいと述べた。敵対的買収にも含みを残す。

さらに、AstraZeneca、Pfizer、Novartis AG などが買収の検討を始めたと報じられている。

ーーー

Medivationは、本社を米国カルフォルニア州に置くバイオ医薬品会社で、がん治療薬の開発・販売を手がけており、前立腺がん治療薬 XTANDI ( 一般名Enzalutamide、開発コードMDV3100)を実用化している。

XTANDI は、第二世代のアンドロゲン受容体拮抗薬で、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)に適応を持つ。

Medivation は2009年10月、アステラス製薬との間でXTANDI の全世界での開発・商業化に関する契約を締結した。

アステラス製薬は契約締結一時金として110百万ドルを支払い、開発マイルストン達成に伴う総額 335百万ドルの一時金支払いのほか、売上達成に応じて最大320百万ドルの追加一時金を支払う。

両社はXTANDI の広範囲な開発プログラムを共同で進め、米国における商業化を共同で行なう。

米国を除く全ての地域については、アステラス製薬が独占的開発・販売権を有し、アステラス製薬はMedivationに対し米国以外の全地域の売上に応じて漸増する2桁台のロイヤリティを支払う。

アステラス製薬は、過活動膀胱治療剤「ベシケア」や前立腺肥大症に伴う排尿障害改善剤「ハルナール」のグローバルでの販売に加えて、前立腺がん治療剤では「エリガード」を欧州で販売するなど、泌尿器領域において既に強固な事業基盤を構築している。
また、がん領域をフォーカス疾患のひとつに位置づけ経営資源を集中している。

アステラス製薬はこの契約締結により、泌尿器領域並びにがん領域における事業基盤を強化した。


FDAは2012年8月、転移性去勢抵抗性前立腺癌向けにXTANDI を承認、アステラス製薬は同年9月に米国で発売した。

2013年6月には欧州委員会から承認を得て、同年7月にまず英国で発売した。

アステラス製薬は2014年3月24日、経口アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤「イクスタンジ®カプセル 40mg」について、去勢抵抗性前立腺癌の効能・効果で製造販売承認を取得した。

アステラス製薬のXTANDIの売上高は下記の通り。(単位:億円)

2014/3 2015/3 2016/3
(1Q-3Q)
米国 443 857 1,129
日本 149 202
米州(米国以外) 8 26 34
欧州 95 334 507
アジア・オセアニア 0 6 17
合計 546 1,372 1,888

アステラス製薬ではXTANDIについて、販売地域の拡大(新興国を中心に)、適応拡大(より早期の前立腺癌、乳癌、肝細胞癌など)を図る。

Medivationでは、XTANDI のほか、乳がん治療薬のTalazoparib、白血病治療薬のPidilizumab(白血病)でも開発を進めている。

欧州連合は2月19日夜、ブリュッセルで開いた首脳会議で、英国のEU離脱を回避するためにCameron英首相が求めているEU改革案を巡って全会一致で合意した。

合意を受け
Cameron首相は、6月23日に国民投票を実施することを決め、自らはEU残留を訴えていく考えを明らかにした。

2016/2/22 EU首脳会議、英離脱回避へ改革案合意


経済協力開発機構(OECD)は4月27日、英国がEUを離脱した場合の影響分析:The Economic Consequences of Brexit : A Taxing Decision を発表した。
英国(Britain) のEU離脱(exit ) は Brexit と呼ばれる。

OECDのAngel Gurría 事務総長は同日、これについて ロンドンでスピーチ(タイトルは To Brexit or not to Brexit: A Taxing Decision )を行った。

OECDの分析によると、英国が6月23日の国民投票でEU離脱を選択した場合、2020年の英国のGDPは加盟を継続した場合より3.3%少なく、これは1 世帯あたり 2,200ポンド(約34万円)の損失に相当するという。

長期的には、2030年時点でGDPの減少幅は5.1%に広がると推計する。(楽観ケースでは2.7%減、悲観ケースで7.7%)
1 所帯当たりでは3,200ポンド(約50万円)の損失。(楽観ケースでは1,500ポンド、悲観ケースでは5,000ポンドの損失)

事務総長は、離脱による損失を英国民にとっての「離脱税 ( Brexit tax)」と呼び、これは、一般の税金とは異なり、公共サービスに使われるのでも財政赤字の穴埋めに使われるのでもなく、純粋な超過負担(pure deadweight loss)で経済的利便のないコストであるとしている。しかもこれは一回限りのものではなく、英国民は何年にもわたり払い続けることとなる。

このため、離脱は「やっかいな決定(taxing decision) 」であるとする。

6月23日の国民投票でEU離脱を選択した場合、直ちに交渉を始め、正式離脱は2018年の終わりと予想する。
2019から2023年にかけてEUとの新しい貿易交渉を行い、移民を減らす方策を採用することとなる。

事務総長は以下の通り述べている。

短期的な影響として、経済的な不確実性が高まり、ひどい影響が出る。資産の投売りが起こり、リスクプレミアが大きく高まる。消費が減り、投資が減り、成長が落ちる。
離脱により
、EUとの貿易協定を結ぶ必要がある。EUへのアクセスが自動的に止まるだけでなく、EUが貿易協定を結んでいる53カ国・地域とも同様である。

今よりもよい貿易関係を結べるとの意見は妄想で、新しい交渉には長い時間がかかり、膨大なエネルギーを要する。ゼロからの交渉となる。オバマ大統領が述べたとおり、米国にとって英国は貿易交渉の最優先国ではなく、英国にとり有利な交渉は期待できない。

長期的にはサプライサイドで影響を受ける。

英国は現在、欧州で最大の海外からの直接投資対象国であるが、EU単独市場にアクセスできない英国の魅力は縮小する。
EU市場にアクセスするために英国に拠点を置いた企業は移転を考えるだろう。英国の多くの多国籍企業も同様である。
海外からの直接投資の減少は全体の投資、イノベーション、生産性に悪影響を与え、貿易不均衡を生む。

資金の流出、流入減が起こり、GDPの7%にも達する経常収支赤字の補填が難しくなる。

投資の減、モノと人の流入の減、信用コストのアップ、海外からのアイディアとスキルの流入減は、最終的に英国の生産性を弱め、長期的な経済力を弱める。

他のいろいろな調査でもBrexitの影響はマイナスである。

OECDの結論は、英国は欧州の一員としてより強くなり、欧州も英国が先頭を切ることでより強い。

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事務総長のスピーチには入っていないが、報告書は移民について次のように述べている。

2005年以降、英国への移民は200万以上の職を創り出し、英国のGDPの伸びの半分を占めている。EUからの労働力の自由な流入の制限と離脱後の英国経済の弱体化によって英国への移民のインセンティブが次第に減り、英国経済にとって負担となる。

英国が現在問題にしているのは、EUの拡大の結果、東欧諸国からの移民の大量流入で、低賃金層の英国人の職が奪われる点と、公的医療などの社会保障の費用が増えることである。

金融分野や企業誘致による知的労働層の移民は英国経済に大きく貢献しており、これが減ると、英国経済に悪影響を与える。上の表のImmigration はこの影響を表している。

フランスのマクロン経済相は、英国が離脱するならば、「ロンドンの金融街シティーからの帰還者を受け入れることになるだろう」と語った。

オーストラリアのモリソン財務相は4月29日、中国の上海鵬欣集団(Shanghai Pengxin)の傘下企業による 豪州の巨大牧場の所有者の S. Kidman & Co 買収 を、「国益に反する」として認めない予備決定を下した。

S. Kidman & Co はオーストラリア史に残る牧畜王のSidney Kidman の一族が所有する。
Kidman が100年以上前に始めた牧場は
現在、総面積は約10万平方キロ、国土の1.3%に及ぶ。(イングランド全土の3/4の大きさで、北海道や韓国よりも広い。)

買収額は約3億7000万豪ドル(約310億円)で、財務相は、「規模が大きすぎ、豪企業が応札できない」ことを理由に挙げた。農地などへ中国からの投資が拡大し、安全保障上の懸念が浮上していることが背景にある。

Kidman は10箇所の 牛の牧場、1箇所の種牛飼育場を持ち、185千頭の牛を飼育している。


2015年に 3億2500万ドルで売却に出されたが、全世界から多数の応札が入った。

中国からは上海鵬欣集団のほか、東淩糧油 Donlinks Grain and Oil) 、浙江日發 (RIFA Holding)、大康牧業旗下的鵬欣集團(Dakang Pasture Farming's PengXin)、寧波先鋒新材料(Ningbo Xianfeng)等が応札した。

2015年11月初めに、Kidman は上海鵬欣集団に独占交渉権を与えた。

売却には豪州の外国投資審査委員会(Foreign Investment Review Board)と豪州政府の承認を必要とする。

豪州では2015年9月15日にMalcolm Turnbull 首相の新政権が発足したが、豪州政府は11月19日、安全保障上の理由から売却の承認を拒否した。

安全保障上の懸念があり、国益を損なう可能性があることから、売却を認めるべきでないとする外国投資審査委員会の判断に同意するとの考えを示した。

この判断は Kidman のAnna Creek牧場がウーメラ武器試験場(Woomera Test Range) に隣接していることも影響している。
ウーメラ試験場は世界最大の武器試験場で、最近、英防衛大手BAEシステムズの次世代無人ステルス攻撃機「タラニス」の英防衛関連科学者による試験でも使用された。

付記   「はやぶさ」が持ち帰った小惑星イトカワの砂を入れたカプセルは2010年6月13日、Woomeraに着陸した。

これに対し、2016年4月19日、Kidman と上海鵬欣集団 は問題のAnna Creek 牧場を買収対象から除外して売買契約を結ぶこととした。

発表では、上海鵬欣集団 が支配するベンチャーが80%の権益を購入し、残り20%を豪州のAustralian Rural Capital が購入する。
上海鵬欣集団子会社の湖南大康牧業がベンチャーの51%を出資する。

湖南大康牧業は中国の畜産中堅で、ニュージーランドの3つの牧場を傘下に収めている。


豪州政府は今回、問題とされた「武器試験場に隣接」する牧場を売買対象から外したにも係わらず、これを不承認とした。

国内には、買収後の軍事利用や、牛肉を全て中国に出荷することへの警戒論がある。

Turnbull 新政権は、次期潜水艦建造計画では本命視された日本を選らばず、仏企業を選定し、「日本製採用に反対する中国に配慮した」と噂されるなど、「親中」ととれる政策が続いていたが、今回は厳しい態度で臨んだ。

ーーー

上海鵬欣はニュージーランドでも牧場買収を阻止されている。

上海鵬欣は 2014年8月1日、子会社 Pure 100 Farm Limited を通じ、ニュージーランド北島中部のTaupo の近くの 13,800エーカーのLochinver 農場を購入することで合意した。

同国の海外投資局(Overseas Investment Office)はこの申請を受け付けたが、国民の反発を恐れ、9月20日の選挙が終わるまで秘密にされていた。
しかし、これが保守党党首の選挙演説で暴露された。「国民は裏で何が起こっているか知るべきだ。本件は明らかに選挙の争点だ。ニュージーランドは 'For Sale' の看板を下ろすべきだ」と述べた。

これを受け、上海鵬欣は契約したことを発表、既に購入した農場とのシナジーを求めてのものと述べた。

海外投資局が申請を受け付けるかどうか、注目された。

2014/8/9 中国企業のニュージーランド牧場購入が問題に

ニュージーランド政府は2015年9月17日、上海鵬欣集団による購入計画を承認しないことを決めた。

外資による土地所有への懸念が高まるなか、海外投資局はこれまでの容認姿勢をくつがえす決定を下した。

政府は声明で「ニュージーランドに相当の利益をもたらすこと、またはその公算が大きいことを確信できなかった。この広さの慎重に扱うべき土地に関する申請では重要な要件となる」と述べた。

上海鵬欣集団はこの決定に対する司法審査を求めていたが、2016年4月1日にこれを取り下げた。

上海鵬欣集団はLochinver 農場に隣接するFleming farm の買収交渉も続けていたが、政府によるLochinver 農場買収の不承認を受け、断念した。

住友金属鉱山は4月28日、レアアースの一つのスカンジウムの回収事業への参入を決定するとともに、米国大手企業と酸化スカンジウムの長期販売契約を締結したと発表した。

スカンジウム(scandium)はレアアースの一つで、原子番号 21、元素記号は Sc。

現在は米国、ウクライナ、ロシア、中国等を中心に年間10トン程度生産されていると推定される。

生産量が少なく、高価であることから需要は限定されているが、下記のように、アルミへの添加剤や固体酸化物形燃料電池の電解質等の分野での伸びが期待されている。


住友金属鉱山はフィリッピンの子会社
Coral Bay Nickel とTaganito HPALで低品位ニッケル酸化鉱を原料として「HPAL法」(High Pressure Acid Leach:高圧硫酸硫酸浸出法)を用いたニッケル製錬を行っている。

Coral Bay Nickel :住友金属鉱山 54%、三井物産 18%、双日 18%
Taganito HPAL:
住友金属鉱山 62.5%、Nickel Asia 22.5%、三井物産 15.0%

2009/8/22 住友金属鉱山、比最大手ニッケル鉱山会社の株式を取得

この原料鉱石中に微量のスカンジウムが含まれている。

同社は新居浜研究所でこの効率的な回収方法を確立、2013年にCoral Bay Nickel 内に酸化スカンジウム製造のパイロットプラントを建設、試作を行ってきた。

今回、回収の事業化を決定、Taganito HPALに酸化スカンジウムの中間品製造プラントを建設、最終製品への加工プラントを播磨事業所に建設する。

投資額 約40億円
製造能力 酸化スカンジウム換算 約7.5トン/年
製造拠点 前工程 Taganito HPAL (鉱石から中間品を回収)
後工程 播磨事業所  (中間品から酸化スカンジウムを生産)
生産開始 2018年春予定

 
 

米財務省は4月29日、主な貿易相手国・地域の為替政策に関する半年に一度の報告書 Foreign Exchange Policies of Major Trading Partners of the UNITED STATES を発表した。

そのなかで、通貨を意図的に安く誘導する為替操作への監視を強化するため、日本、中国、韓国、台湾、ドイツの5つの国と地域を新たに設ける「監視リスト」の対象にし、動向を詳しく分析し監視していくとした。

これは、本年2月に成立した2015年貿易円滑化・貿易履行強制法案に基づくものである。

オバマ政権はTPPの大筋合意を受けて、米議会で強まる自由貿易協定への反対論を抑えるため、貿易相手国の通貨政策を監視して対抗措置がとれるよう法制度を強化した。

ーーー

オバマ大統領は2月24日、2015年貿易円滑化・貿易履行強制法案 ( Trade Facilitation and Trade Enforcement Act ) に署名し、法を成立させた。

2015年2月に下院に提案され、修正案を含めた最終法案が2015年12月11日に下院を256対 158で通過し、上院は今年の2月11日に75対20で可決した。

これはアンチダンピング法、相殺関税法および貿易救済法などを強化したものだが、上院の審議で為替操作国に対する措置が盛り込まれた。

追加された第7章「Engagement on Currency Exchange Rate and Economic Policies」は、提案議員の名前をとって BennetHatchCarper 法と呼ばれるが、第701条と第702条の二つの条文から成る。

第701条は、「米国の主要貿易相手国との為替レートおよび経済政策の取り極めの促進」と題し、次のように規定している。

財務長官はこの法律制定から180日以内に、米国の主要貿易相手各国について、米国との貿易収支、直前の3年間における経常収支のGDP比、外貨準備額の短期債務額比とGDP比を含む報告書を上院財政委員会および下院歳入委員会に提出し、以後半年毎に提出する。

重大な対米貿易黒字実質的な経常黒字を有し、外為市場に対する長期かつ一方的な介入を行った米国の主要貿易相手国については、マクロ経済および為替政策に関する高度な分析を行い、財務長官はこの法律制定から90日以内に、この分析で使用した諸要因を公表する。

上記の高度な分析には、当該国の
 (i)可能な限り詳細な為替介入の推移を含む当該国の為替市場の展開、
 (ii)実質有効為替レートの変化および為替切り下げ度合の変化、
 (iii)資本規制および貿易制限の推移に関する分析、および
 (iv)外貨準備高の傾向を含むものとする。

大統領は財務長官を通して、マクロ経済および為替政策に関する高度な分析の対象国と高度な二国間取り極めを開始する。

「高度な二国間取り極め」は、
 (i)当該国通貨の過小評価、大幅な対米貿易および実質的な経常黒字の要因に対処するための政策の実行を当該国に促し、
 (ii)通貨の過小評価と大幅黒字に対する米国の懸念を表明し、
 (iii)当該国が適切な政策を採用しなかった場合は、大統領が取り得る行動を当該国に忠告し、
 (iv)通貨の過小評価と大幅黒字に対処する具体的な行動を伴う計画を作成する、ために行われる。

 (iii)の「大統領が取り得る行動」は次のひとつ以上の行動と規定されている。

(i)海外民間投資公社(OPIC)による当該国に対する新規融資等の禁止、
(ii)連邦政府による当該国からの財・サービスの調達・契約締結の禁止、
(iii)IMF米国代表理事による当該国のマクロ経済および為替政策の厳格な監視および公式協議の要求、
(iv)当該国との二国間または地域間貿易協定の締結または交渉参加の是非の検討。

第702条は、財務長官に政策を諮問するため、「国際為替レート政策に関する諮問委員会」を新設することを規定している。

上院議長、下院議長および大統領が各3名の委員を任命し、合計9名で構成する。

ーーー

財務省は上記②の重大な対米貿易黒字実質的な経常黒字を有し、外為市場に対する長期かつ一方的な介入を行った貿易相手国の分析に関し、次の基準で選ぶこととした。

重大な対米貿易黒字 対米貿易黒字が200億ドル(米国GDPの約0.1%) 以上
実質的な経常黒字 経常黒字がその国のGDPの3.0%以上
外為市場に対する介入 GDPの2%以上(ネットで)の額の外貨を繰り返し購入

財務省は今回、3つの基準全てに当て嵌まる国はないことを確認したが、米国の主要貿易国の5カ国が3つの基準のうち2つに該当することを見つけた。このため、新しい「監視リスト」を創設し、この5国を監視していくこととしたもの。

2015年の分析結果は下記の通り。黄色部分が基準にかかっている国。

対米貿易黒字
億ドル
経常黒字
GDP比
net 外貨購入
GDP比

継続

中国 3,657 3.1% -3.9%
ドイツ 742 8.5%
日本 686 3.3% 0.0%
メキシコ 584 -2.8% -1.8%
韓国 283 7.7% 0.2%
イタリー 278 2.2%
インド 232 -1.1% 1.8%
フランス 176 -0.2%
カナダ 149 -3.3% 0.0%
台湾 149 14.6% 2.4%

英国 150 -5.2% 0.0%
ブラジル -43 -3.3% 0.1%
参考 ユーロ計 1,302 3.2% 0.0%

報告では各国について以下の通り述べている。

日本 重大な対米貿易黒字と実質的な経常黒字だが、4年間為替介入を行っていない。
中国 重大な対米貿易黒字と実質的な経常黒字。昨年8月の中国の為替政策変更で急激な人民元安となった後、人民元を守るため強い介入を行った。為替相場の目標についての透明性が高まれば市場は安定する。
韓国 重大な対米貿易黒字と実質的な経常黒字。2015/7~2016/3に介入した。介入は為替市場が秩序立たない場合のみに限定することと、操作の透明性を求める。
台湾 実質的な経常黒字。2015年を通じ継続して外貨買いをしている。介入は為替市場が秩序立たない場合のみに限定することと、操作の透明性を求める。
ドイツ 重大な対米貿易黒字と実質的な経常黒字。GDPの8%以上の黒字で、少なくともその一部は、ドイツの国内消費のサポートに使うべきである。


日本については、次のように述べている。

本年1月に日銀はマイナス金利導入で市場を驚かせた。黒田総裁は日銀は2%のインフレターゲット達成のために引き続き何でもやると述べた。
日銀の決定後、数日間は円安となったが、その後、円高に戻り、3月末時点では昨年11月央と比べ8.9%の円高となっている。日本政府は為替の動きを「quite rough」とし、緊張感をもって市場の動きを監視するとしている。

日本はこの4年、介入をしていない。

米財務省としては、 現在のドル・円の為替市場は秩序だっている(orderly) とみており、全ての国が為替政策に関するG-20、G-7のコミットメントを守る必要性を強調する。

G-20、G-7では日本は三本の矢の全てを使うことをコミットし、金融政策だけではバランスのとれた成長は達成できないと認めた。
日本の成長の弱さ、グローバルな需要停滞を考えると、日本政府は、柔軟な財政政策、税制改革・労働市場改革・地方活性化などの野心的な構造改革、TPPや R&Dインフラ強化などの長期的利便のための改革継続など、全てのポリシーレバーを使うことがますます重要となっている。

ーーー

アメリカ大統領選挙に向けて民主党候補への指名がほぼ確実なHillary Clinton 前国務長官はTPP協定について反対だと明言するとともに、中国その他に加え、日本も輸出を有利にするため円安を誘導していると批判し、対抗措置を取る考えを示した。

共和党候補になる可能性が高まった不動産王Donald Trump候補も、日本の円安誘導を批判し、TPPに反対している。

2016/2/25 Hillary Clinton、TPPに反対を表明、日本も為替操作国に含める

円高が進む中、米国がこれを秩序だっていると見ていることから、また為替介入には対抗策を取るとしていることから、日本政府による為替介入は非常に難しくなった。

米国の利上げは遠のいており、暫くは更なる円高が予想される。

麻生財務相は4月30日深夜、海外市場で円相場が 1ドル=106円台と1年半ぶりの円高水準に上昇したことについて「一方的で偏った投機的な動きに極めて憂慮している」と述べた。
「(投機的な動きに)必要に応じて対応する」とも明言し、円売り介入も辞さない姿勢を強調した。



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