ドイツ政府は気候変動対策として2030年までに1500万台のEV普及を掲げ、2016年からEVの新車購入補助制度を始めた。これまでに210万台のEVに対し、100億ユーロ(約1兆5500億円)の補助金を支払った。
政府は11月27日、気候変動対策などに使う基金を大幅に減らし、インフレ対策などにあてる基金を今年末で廃止すると発表した。電気自動車(EV)の購入時に支給する補助金を停止する。
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ドイツ連邦経済・気候保護省は2022年12月9日、バッテリー式電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCEV)の新車購入時の補助金「環境ボーナス」制度の2023年以降の変更内容を正式発表した。今回の変更は2023年1月から適用、補助制度は2024年12月末で終了する。ただし、2023年以降は補助金財源がなくなり次第、支給終了となる。
PHEVへの補助金支給額はそれまで、(1)の場合は連邦政府支給分4,500ユーロ(これに自動車メーカー負担分2,250ユーロが加算され、総額6,750ユーロ)、(2)の場合は連邦政府支給分3,750ユーロ(同じく自動車メーカー負担分1,875ユーロが加算され総額5,625ユーロ)であった。
BEVとFCEVについては、連邦政府分の補助額を2023年1月から、(1)車体価格が4万ユーロ以下の場合は4,500ユーロ(それまでは6,000ユーロ)、(2)車体価格が4万ユーロ超6万5,000ユーロ以下の場合は3,000ユーロ(同5,000ユーロ)に減らす。
2024年1月からは、車体価格4万5,000ユーロ以下の車両に対してのみ、3,000ユーロを助成する。さらに、当初方針どおり、2023年9月から助成対象者を個人に限定し、企業などへの購入助成は終了するほか、これまで6カ月だった最低保有期間を2023年1月から12カ月に変更する。
また、それまでの制度では、自動車メーカーが連邦政府助成分の半分に相当する額を負担しており、このメーカー加算は継続する。例えば、2023年1月に車体価格が4万ユーロ以下のBEVを購入した場合、連邦政府助成分4,500ユーロに、メーカー負担分2,250ユーロが加算され、総額6,750ユーロが助成される。
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2022年12月の発表では、「補助制度は2024年12月末で終了する。ただし、2023年以降は補助金財源がなくなり次第、支給終了となる」としていたが、新型コロナウイルス対策で使わなかった過去の予算の転用が違憲となり、補助金を捻出できなくなった。
独憲法裁判所は11月15日、2021年度予算でコロナ禍の対応で借り入れた未使用の600億ユーロ(約9.8兆円)を気候変動対策などの基金に回した2022年の補正予算が、憲法に相当する基本法に違反すると判断した。
裁判長は、「ショルツ政権がコロナ・パンデミック対策予算のうち余った600億ユーロの国債発行権を、無関係の特別予算『気候保護・エネルギー転換基金』(KTF)に流用したのは憲法違反で、ショルツ政権が2022年初めに成立させた2021年度の2回目の補正予算は無効」とした。
判決の背景にあるのは、憲法(基本法)第109条の財政規律ルール「債務ブレーキ」。2009年に連邦議会で可決されたこの制度によって、連邦政府は2016年以来、GDPの0.35%を超える財政赤字を禁止されている。この債務ブレーキが一因となって、ドイツは2014年以来6年間財政黒字を記録した。
だが2020年にはコロナ・パンデミック、2022年にはロシアのウクライナ侵攻という未曽有の事態が発生した。憲法によると、自然災害や深刻な不況など政府がコントロールできない異常事態には、債務ブレーキの適用を一時的に停止することができる。
このため連邦議会は、2020~2022年の3年間については、債務ブレーキを停止した。ドイツ政府は2020年3月、コロナ対策費用として、経済安定化基金(WSF)を創設し、2000億ユーロの資金を国債発行によって追加的に調達できることになった。
ショルツ政権は2021年にコロナ対策に充てられる予定だった経済安定化基金の予算のうち、600億ユーロの国債発行権が使われずに残っていたことに気付き、余った600億ユーロの国債発行権を、経済グリーン化を主目的とする『気候保護・エネルギー転換基金』に流用させた。さらに債務ブレーキの適用を免除した年度が終わった後にも、政府が追加的に国債を発行できるように規則を変更した。
憲法裁判所は、ショルツ政権がコロナ対策に充てるはずだった国債発行権を、経済のグリーン化という全く違う用途に流用する際に、その理由を十分に開示しなかったことや、債務ブレーキが免除された会計年度が終わっても、特別予算を理由にして新たな借金をできるようにした点を違憲と認定した。
『気候保護・エネルギー転換基金』からの助成が予定されていたプロジェクトは、ほかに、産業界の脱炭素化(230億ユーロ)、鉄道インフラの整備(125億ユーロ)、外国の半導体工場の誘致のための補助金(72億ユーロ)など多岐にわたる。
このため同基金を活用していたEV購入補助についても「できるだけ早く終了する」となり、独経済・輸出管理局は12月16日、EV購入補助金の申請が17日以降できなくなると発表した。
今回は補助金停止の事前告知がなかったため、大きな駆け込み需要が起きない。
フランス政府も12月15日から中国などアジアで生産し輸入するEVについて新たに補助金の対象外とすると発表した。テスラやルノーの人気車種に、5000~7000ユーロの補助金がつかなくなる。
これまでフランスでは、どのEVを購入する場合でも、カーユーザーに対して一律の補助金を給付してきた。しかし10月10日に、EVの購入補助金の額を、生産から流通、登録に至るまでに生じる温室効果ガスの排出量に応じて決めるように制度を変更した。
仏政府は12月14日、電気自動車(EV)販売の補助金(1台当たり5000~7000ユーロ)支給の対象となる車種を発表した。部材の生産や車両の組み立て、輸送などの過程で生じる二酸化炭素量に応じた「環境スコア」を算定し、規定に満たない車種は12月15日以降に支給の対象外とする。
2023年の仏国内販売上位10車種のうち、対象外となったのは中国で生産する米テスラのモデル3、ルノーの「ダチア・スプリング」、中国の上海汽車集団が生産する英MGモーターの「MG4」。いずれも中国などで生産するアジア製で、これまで補助金の支給対象だった。同じテスラ車でも、ベルリンで生産するモデルYは引き続き支給対象となった。
新制度は石炭火力発電が多く、輸送距離も長いアジア製の車種が不利になるため、中国や韓国などの自動車生産国は反発していた。
ルメール経済・財務相は「これまで数億ユーロの公的資金が炭素排出量が非常に大きい車種に流れていた」と指摘し、制度改定の意義を強調した。
EVはエンジン車と比べ5割程度価格が高い。EU域内で1、2番目に大きな自動車市場である独仏が相次ぎ補助金を停止・縮小したことで、EUが政策として進めるEVシフトにブレーキがかかる可能性がある。
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