欧州委員会は10月23日、イタリアに対し、2019年予算案を3週間以内に再提出するよう求めた。
委員会の7月13日の勧告から著しく離脱しており、また、前政権が4月に提出したStability Programmeからも外れているとした。
イタリアはこの数年、EUの財政支援を受けており、Stability Programme では2019年の財政赤字をGDPの0.8%にするとしていた。
それに対し、イタリア側は予算案の修正に応じない姿勢を強調した。
付記
ユーロ圏財務相会合は11月5日、イタリアの2019年の予算計画に関する協議をブリュッセルで行い、欧州委員会の「評価に同意」し、「中期的な予算目標の道筋と十分な債務削減に重点的に取り組むことが、安定成長協定(SGP)に欠かせない」との声明を発表した。
イタリアは11月13日までに修正した予算案を欧州委へ再提出しなければならないが、イタリアのトリア経済・財務相は5日、「予算案は変わらない」と強調した。
付記
コンテ首相は12月12日、ユンケル欧州委員長と会談。財政赤字の見通しを実質GDP比で2.4%から2.04%に引き下げると説明した。欧州委は今後、加盟国の財務相による閣僚理事会で修正案を審議する。
首相は、最低所得保障や年金の受給開始年齢の実質引き下げといった、巨額の財政資金が必要な政策については「変更しない」と強調。国有資産の売却は進めるものの、赤字を減らす具体策については明らかにしなかった。
付記
欧州委員会は12月19日、イタリアが再提出した修正予算案(赤字幅を縮小)を承認した。制裁を見送り、監視を継続する。
イタリア下院議会は12月29日、2019年予算案を可決した。最低所得保障(ベーシックインカム)や年金受給開始年齢の引き下げなどを盛り込んだバラマキ型の予算で、GDPに対する財政赤字の比率は2.04%とした。
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「五つ星運動」と「同盟」のポピュリスト2党の連立政権であるイタリア政府は9月27日、2019-2021年の経済財政計画を発表したが、財政赤字目標はGDP比2.4%とした。
構造的財政収支の悪化を回避する目安とされた2%を上回った。前政権は 0.8%を約束していた。
イタリアの総選挙は3月4日に行われ、紆余曲折のうえ、6月1日に「五つ星運動」と「同盟」の連立で、政治経験のない法学教授のジュゼッペ・コンテ首相の内閣が発足した。
「五つ星運動」は、大衆の不満に率直な賛同を示す人民主義政党(ポピュリズム)として行動。「同盟」は右派ポピュリズム政党。
「五つ星運動」のディ・マイオ党首が経済発展・労働相、「同盟」のサルビーニ書記長は移民問題を扱う内相として入閣し、ともに副首相となる。
2018/6/5 イタリアの混迷
「五つ星運動」は、選挙公約だった最低所得保障などの政策を実践するため、所得保障のための100億ユーロを含む280億ユーロ規模の予算調整を目指した。この場合、赤字は2.5%となる。
政権の公約:
付加価値税の税率引き上げ見送り、フラット税の導入(実質的な減税)、家族向けに3000ユーロの一律所得控除、最低所得保障制度の導入、退職年齢引き下げなど。
エコノミストのトリア財務相はEUの財政規律の遵守を重視し、1.6%を主張した。
しかし、「同盟」書記長のサルビーニ副首相が五つ星党首のディマイオ副首相に同調し、押し切った。
前政権は2019年予算の財政赤字をGDP比で0.8%に抑える計画でEUと合意していた。EUルールでイタリアに許される歳出は0.1%増までだが、歳出は2.7%増となり、赤字はGDPの2.4%となった。
イタリアの公的債務はGDPの130%に達しており、ギリシャに次ぐ。
EUの財政規律である安定成長協定では、加盟国の予算を監視する制度の一環で、毎年10月15日までに次年度予算案を欧州委員会並びにユーロ圏の財務相会合に提出することが求められる。
EUの財政規律の基本は、財政赤字の対GDP比 3%未満、公的債務残高の対GDP比率 60%未満である。 (公的債務残高は多くの国が基準を超えている。)
イタリアの場合、財政赤字はGDP比で3%未満で基準を満たすが、公的債務は130%超で、債務の持続可能性を確保するため、 構造的財政収支の中期目標(MTO)をGDP比率でゼロ%に設定、毎年の構造収支の改善を求めていた。
政府は10月15日夜の閣議で、2019年度予算案を承認し、欧州委の審査を受けるため、同案を送付した。
2019年の単年度財政赤字目標をGDP比2.4%に引き上げ、2020年が2.1%、2021年は1.8%に設定した。
欧州委は前政権との間で、上記の通り、2019年予算の財政赤字をGDP比で0.8%に抑える計画で合意している。
欧州委は10月18日の書簡で財政規律ルールの深刻な違反につながると警告したが、イタリアは22日に予算案を修正しないと回答した。
欧州委は、GDP比130%の公的債務が膨張する懸念を伝えたが、イタリアは、財政拡大で成長刺激、税収増となり、財政悪化につながらないとしている。
トリア財務相は、「イタリアの赤字は西側民主主義国では普通であり、とんでもない値ではない」と言明、この目標値は前政権が掲げた数字(GDP比0.8%)を大きく上回るものの、国内経済の成長鈍化のため財政赤字の同比率は既に2.0%に向かっているとした。
このため欧州委は23日に、期限を待たずに即座に差戻しを決めた。イタリアは、11月13日までに修正した予算計画案を提出しなければならない。
欧州委が加盟国の予算案を差し戻すのは初めてのケース。
今後3週間以内に修正案を出す必要がある。拒めば、欧州委はイタリア財政を監視下に置き、改善努力が乏しければ最大でGDPの0.5%相当の制裁金が必要となる。
EUの財政規律では、構造的財政収支に基づく中期的な財政目標の達成に向けた取り組みが不十分な国に対して、GDP比で0.2%相当の有利子預託金を課す「重大な逸脱手続き」や、最大でGDP比0.5%相当の制裁金の支払いとEUの構造投資基金(経済・社会・地域格差是正や成長促進を目指す投資基金)の凍結につながる「過剰な赤字手続き」が開始される。
ただ、最終的な制裁の発動は、EUの是正勧告と効果的な措置が採られたかの評価を複数回繰り返したうえで、加盟国の逆特定多数決(欧州委員会の勧告を覆すには、国数で55%以上、人口比で60%以上の賛成が必要)で決定される。
これまで実際に制裁が発動された例はない。
なお、欧州委員会の助言機関である欧州財政委員会(EFB)は10月10日公表したリポートで、EUの財政規律について、公的債務削減への効果が高まるように修正するべきだとして、債務が減少している国を対象に赤字目標を廃止するよう提言した。
EFBは、既存のルールは複雑過ぎる上、一部加盟国の公共財政の長期的な持続可能性向上につながっていないと指摘 する。
GDP比3%以下とする既存の財政赤字目標の廃止を提案し、債務削減だけに焦点を当てるべきだとした。
「簡略化した新たな財政の枠組みは債務の対GDPB比率を中核にするべきだ。これにより、加盟国の債務の長期的な持続可能性が財政規律の基本目標として維持される」としている。
提案では、プライマリー支出が3年にわたって上限を下回った国は債務削減が見込まれるとして赤字が過剰であっても財政規律に順守しているとみなされる。
規律に順守しているかどうかの評価対象から構造的財政赤字目標を外す案も示した。
債務の対GDP比の上限は現在と同じ60%としたが、目標に達するまでの調整期間を15年に延長することを提案した。
イタリア政権の中枢は、反エスタブリッシュメントの「五つ星運動」と反移民を掲げる「同盟」のポピュリスト政党であり、EUとの対決を恐れていない。
6月1日の内閣発足後すぐに、「同盟」の書記長のサルビーニ内相・副首相が難民問題で過激な発言をした。難民問題でのEUの対応を求め、EU予算拠出見直しや国境検問を示唆、「統合欧州がまだ存在しているかどうかは1年以内に決まるだろう」と発言したと報じられた。イタリアへの移民流入を抑制するために他のEU加盟国が協力しない場合、EU予算へのイタリアの拠出について見直す可能性があると発言した。
この問題はドイツのメルケル政権内部の争いに展開し、メルケル政権の崩壊直前にまで進んだ。
2018/7/2 EU首脳会議、移民問題で不十分な合意、ドイツ内相が辞任示唆
最低所得保障などの政策を選挙公約にし、EUと財政縮小の約束をした前政権の「民主党」を破って政権についた与党としては、EUの指示に従うことは国民を裏切ることとなる。
国民の支持と、ドイツの一人勝ちのもとで同様に財政赤字に悩む南欧諸国の暗黙の支持をもとに徹底的に抵抗すると思われる。
EUは英国に対して非常に厳しい態度を示すことで、EU離脱の追随国が出るのを防いだが、新たな火種となる。
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