2016年8月アーカイブ


Pfizerは8月24日、AstraZeneca から複数の抗感染症薬の権利を最大15億7500万ドルで取得すると発表した。対象には既存の抗生物質の耐性菌に効果がある新薬などを含む。世界的に需要が拡大する感染症薬で品ぞろえを強化、収益拡大につなげる。

AstraZeneca としては、呼吸器・自己免疫疾患、循環器・代謝疾患、オンコロジーの3つの重点領域に注力する戦略の一環。

Pfizerは一時金として先ず手続き完了後(本年第4四半期を予定)に 550百万ドルを支払い、2019年1月に175百万ドルを支払う。
加えて、
新薬候補の開発目標達成などに応じて250百万ドル、販売高に応じて600百万ドル、合計最高で850百万ドルを支払う。(以上で最高 1,575百万ドル)

また、特定市場での製品Zavicefta と ATM-AVI の売上高に対しロイヤリティを支払う。

取得するのは、EUで承認を受けた新薬Zavicefta を含む抗菌薬3種類と開発中の新薬候補2種で、主に米国外での販売権。

北米では、Allergan Pharmaceuticalが4製品について権利を持つ。
Zinforoでは日本で武田薬品が、Merrem/Meronemでは大日本住友製薬が日本とアジア諸国での権利を持つ。

Zavicefta は既存の抗生物質が効かない耐性菌に使えるため、今後の需要拡大が見込まれる。

製品名 他社権利
Zinforo
(ceftaroline fosamil)
Forest Laboratories から導入
2012年8月に上市
北米:Allergan Pharmaceutical
日本:武田薬品
Zavicefta
(CAZ-AVI)
第三世代セフェム系抗生剤のセフタジジムとセリンベータラクタマーゼ阻害剤avibactamの合剤

2016/6/28にEUの承認取得

北米:Allergan
Merrem/Meronem
(meropenem)
メロペネム水和物 日本・中国・台湾・韓国:大日本住友製薬
大日本住友製薬は、マレーシア・フィリピン・インドネシア・香港についてのオプションを持つ。
ATM-AVI 現在、Phase II 段階 北米:Allergan
CXL 開発中 北米:Allergan



Pfizer は8月22日、バイオファーマのMedivation, Inc. を買収する契約を締結したと発表した。
5月16日には、米バイオ医薬の
Anacor Pharmaceuticals, Inc. を52億ドルで買収すると発表している。

短期的な収益拡大につながる主力薬の買収に積極姿勢を強めている。

2016/8/24 Pfizer、Medivation を買収

 

米国で製薬会社 Mylanに対する非難が集中している。

命の危険がある急性アレルギー反応「アナフィラキシー」を緩和するために用いられる注射薬「EpiPen」の価格をかつての5倍にまで引き上げ、不当に利益を得ているというもの。

EpiPen は、アレルギー疾患のうち、食物・薬物・ハチ等などにより即時型・多臓器アレルギー反応(アナフィラキシー症状)を起こす可能性の高い患者に対して事前に処方され、それを携帯し、緊急補助治療の目的に使用される医薬品である。

成分はepinephrineで、これはadrenalineの米国での名前。

症状出現後30分以内(遅くとも60分以内)に注射すれば、死亡者を減少させる効果が期待できる。

アナフィラキシーが起こる恐れのある何百万人もの患者に処方されている注射薬で、流通はMylanがほぼ独占している。

米国ではSanofi が競合品のAuvi-Q を販売していたが、2015年11月に、誤った投与量が注入される可能性があるとして自主回収した。

イスラエルのTeva Pharmaceutical はEpiPenのジェネリックをFDAに申請していたが、本年2月29日、FDAに大きな問題点を指摘され、却下された。
同社では上市は著しく遅れるとしており、2017年以前の上市は期待できないとみられている。

米上院の2人の有力議員が8月22日の上院司法委員会で、EpiPenの価格(2本入り)を過去6年間に100ドルから500ドル以上につり上げたとして同社を激しく糾弾した。

報道によると、実際には100ドルから600ドルに上がっており、その間、 同社のCEOの年俸は245万ドルから1893万ドルに上がったという。

日本ではファイザーが2012年8月にMylanから独占的販売権を取得するライセンス契約を締結した。
日本では2011年9月から保険が適用されている。
薬価は、大人用(0.3mg)が10,894円、子供用(0.15mg) が7,979円。

価格急騰で家族や学校、緊急救援隊員によるEpiPenへの使用を困難にしていると指摘し、価格引き下げを求めた。

EpiPenは1年ごとに買い替える必要があり、両議員によると、価格上昇により多くの患者が購入を続けられなくなっている。また、学校への常備や、患者が加入する健康保険プログラムへの出資額の増加により、政府も巨額の負担を強いられているという。

議員はまた、米連邦取引委員会に対し反トラスト法違反容疑での調査を要求した。

既に市場に長く流通していた同薬を2007年に買収したMylanは研究開発費を回収する必要もないとして、「EpiPenの継続的な価格引き上げには、何ら正当性がないとみられる」と指摘した。

これに対しMylanは、EpiPenには保険が適用されるため、大半の患者の負担は皆無か少額にすぎない上、同社は2012年から6万5000校以上にEpiPenを無料配布してきたと反論し た。

民主党大統領候補のHillary Clinton が8月24日に「製薬会社が正当な理由なく薬を値上げし、患者よりも自社の利益を優先することは間違っている」とし、Mylanの事例は「非常識」と非難、自主的値下げを要請した結果、Mylanは25日、患者の自己負担額を軽減する方針を発表した。

実際の定価引き下げは見送ったものの、患者が割引きカードを活用することで、2本入りの購入で最大300ドルのコストを軽減できる措置を導入した。これまで定価で購入してきた患者にとっては、自己負担額が実質半減することになる。
さらに、患者支援プログラムの使用要件を拡大し、保険未加入の患者や家族の自己負担額を軽減する方針を示した。

MylanのCEOは、同社がこれまでにEpiPenの改善に向け数十億ドルを投じてきたとしたうえで、薬剤給付管理会社や保険会社などが関与するため、同社が実際に回収できるのは定価の半分を下回る水準に過ぎないと主張している。

Clinton陣営は、Mylanの措置を歓迎するとしつつも、「定価を引き下げることなく割り引きを提供しても、高額の薬価を反映し保険料が上昇するため、今回の措置では不十分」との見解を示した。

カナダの製薬大手 Valeant Pharmaceuticals が2種類の心疾患治療薬を大幅に値上げしたことをめぐり、米議会下院の監視・政府改革委員会の民主党委員らが問題視した。

ValeantはMarathon Pharmaceuticals から2種類の心疾患治療薬(特許切れだがジェネリック品無し)を買収したが、即日、大幅値上げした。

医薬品 Marathon価格 Valeant価格 値上げ率
Isuprel 215.46$ 1,346.62$ 525%
Nitropress 257.80$ 805.61$ 212%

議員は、Valeantが2つの薬剤の権利を取得した当日にそれぞれ525%、212%値上げした根拠になる文書の提出を要請していたが、同社は機密性が高いとして情報の提出を拒んだ。

Valeant はこれまで、成長の大部分を買収や、買収で手に入れた割安な医薬品の値上げに依存していた。
同社
は米国での医薬品値上げで監督当局や政治家から監視の対象となり、数カ月にわたって混乱に見舞われている。

2016年3月15日の米国の株式市場で、Valeantの株価が51%下落した。
業績見通しを下方修正したことや、2015年第4四半期決算が予想を下回ったこと、4月の期限までに年次報告書を提出しなかった場合はデフォルトに陥る恐れがあると明らかにしたことなどが理由。

Valeant は再建対策の一つとしてコアでない資産の売却も検討しており、問い合わせもあるという。

Wall Street Journalによると、武田薬品と投資会社TPGから共同での買収提案があった。金額の提示はなかったとされ、Veleantはこれを拒否、その後の話し合いはないという。

Valeantは4月25日にライバルのアイルランドの製薬大手 Perrigo Co. のCEOのJoseph Papaを会長・CEOとして迎えることを決めた。

4月29日に2015年の年次報告書を提出し、デフォルトをひとまず免れた。
これによると、株主帰属純損益は、2014年の+881百万ドルに対し、2015年は-292百万ドルとなっている。

その後、資産家のWarren Buffett が5月初めに、Valeant のビジネスモデルには非常に大きな欠陥があると述べたこともあり、株価は2015年8月の高値から85%余り下落した。

2016/5/30 武田薬品、カナダのValeant Pharmaceuticalsに買収を提案、拒否される


Valeantは2016年5月、2剤について、病院に対し最低10%、数量に応じ20%、30%、40%のリベートを支払うと発表した。

8月26日にJanet Yellen FRB議長がJackson Hole Economic Policy Symposium での講演で、「米雇用が改善し、追加利上げの条件は整ってきた」と述べたことで米国の利上げ観測が強まった。

年内のあと3回(9/20-21、11/1-2、12/13-14)の連邦公開市場委員会で決まると予想される。先ず9月2日発表の雇用統計が注目される。

米国の金融政策は、年に8回開催される 連邦公開市場委員会(FOBC:Federal Open Market Committee)で決定される。

メンバーは連邦準備制度理事会(FRB) の議長ら理事7名と、ニューヨーク連銀総裁、及び残り11の連銀総裁から輪番で4総裁の合計12名で構成される。

FOMCは米国の景気が冷え込んでいる時には金利を引き下げて需要を喚起し、逆に景気が過熱気味になってくると金利を引き上げて景気が過熱することを防ぐ。

金融危機に対応するため、2008年11月~2010年6月に量的緩和策 QE1(Quantiative Easing Program-1 )を実施し、1兆7250億ドルが供給された。

米国の景気回復ペースの鈍化を受けて、2010年11月~2011年6月に実施されたQE2では6000億ドルが供給された。

更に、労働市場を刺激して景気を回復させるため、2012年9月にQE3 を開始し、以降、毎月850億ドルの債券買い入れを行ってきた。

2013年6月に当時のバーナンキFRB議長が、経済指標次第だが「年内に証券購入ペースを緩めるのが適切」と述べた。

2014年1月には、債券買い入れ規模を減らし、量的緩和(QE3)の縮小を継続する方針 を決めた。

2014/2/4 米国の量的緩和縮小とその影響 

その後、毎月の債券買い入れを月850億ドルから順次減少させ、2014年11月には買い入れをゼロとした。

そして、2015年12月16日に、米経済は2007-09年の金融危機による打撃を概ね克服したとの認識 に立ち、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を 0%~0.25% から0.25%~0.50% に引き上げ、2016年中に4回の利上げを予想した。

2015/12/17 米国、利上げ

今後の利上げの条件としては、「雇用情勢」と「物価」を挙げた。

このうち、「雇用」については、「失業率が5%まで下がり、完全雇用に近づいている」 とし、条件を満たしているとみなした。

しかし、「物価」は目標の2%に届いておらず、「原油の一段安で物価の下押し圧力が想定よりも長く続く」と懸念 し、「物価を注視して緩和的な環境を保つのが妥当で、追加利上げは段階的に」とした。


当初、2016年に4回の利上げを想定したが、5回開催された
連邦公開市場委員会ではいずれも見送られた。

2016/1/27 見送り

 ・ 世界的な株安や原油安に懸念
 ・ 米経済も「昨年終盤に減速した」

2016/3/16 見送り

 ・ 海外経済と金融市場には引き続きリスクあり。

2016/4/27 見送り

 ・ 海外経済や金融市場のリスクは後退したが、「米経済は減速した」
 ・ 個人消費の鈍化などを懸念

2016/6/15 見送り

 ・ 「経済活動は上向いたが、雇用改善は減速した」
    個人消費は「成長が強まった」
    5月の雇用統計が5年8カ月ぶりの低水準

2016/7/27 見送り

 ・ Brexit による市場混乱は一服、「短期的なリスクは弱まってきた」

2016/8/26 イエレン議長のJackson Hole Economic Policy Symposium 講演

「米雇用が改善し、追加利上げの条件は整ってきた」

物価は本年に入り下落、但し 食品・エネルギー除くと2%を上回る)



付記 9月2日発表の8月分雇用統計では、非農業部門雇用者数増は15.1万人で予想を下回った。
失業率は3ヶ月連続で4.9%。


韓国の検察は6月10日、ロッテグループの幹部が帳簿外の裏金づくりを行った疑いがあるとして、大々的な家宅捜索を行った。

ソウル中央地検が、ソウル市内のロッテグループ本社にある辛東彬(重光昭夫)会長の執務室と自宅、グループ会社など計17カ所を家宅捜索した。グループ創業者、辛格浩(重光武雄)氏の執務室なども捜索した。

2016/6/15 韓国検察、ロッテグループを家宅捜索

韓国ロッテグループを捜査しているソウル中央地方検察庁は 、グループ幹部で、辛東彬(重光昭夫)会長の側近の李仁源・副会長兼政策本部長と黄珏圭・ロッテショッピング政策本部運営室長の取調べを決めた。

両氏はグループ全体を統括する司令塔役で、系列社との間で行ったとみられる秘密資金作りに関与している可能性があり、横領や背任の容疑で調べるという。

地検は8月25日に黄珏圭・ロッテショッピング政策本部運営室長を取り調べた。
黄氏は記者団に対し、辛会長が秘密資金作りを指示した事実について否定した。

地検は李仁源・副会長兼政策本部長に26日の出頭を求めたが、同日の朝、自殺しているのが発見された。

遺書では、グループ内の裏金の存在を否定するとともに、会長を「立派な人」としていた。

副会長は、経営者一族やグループ全般に関することはもちろん、系列会社の経営まで総括する役割を担っていた。

検察は 今後、創業者の辛格浩(重光武雄)氏や次男で同グループ会長の辛東彬(重光昭夫)氏 などからの聴取も考えていたが、この件で「今後の捜査を再検討する」。

付記

韓国検察は9月1日、前副会長の辛東主(重光宏之) 氏を事情聴取した。2006年から2015年まで、勤務実体がないのにロッテ建設やホテルロッテなど7~8社の取締役を務め、400億ウォン(約36億円)の報酬を受けた横領疑惑。

ーーー

地検は創業者の辛格浩氏の脱税疑惑も調べている。

同氏が、日本のロッテホールディングスの持ち株を事実婚の関係にある女性と娘に譲渡した際、約 6千億ウォン(約550億円)の贈与税を脱税した疑惑が浮上した。

中央日報によると2005年に、米国や香港、シンガポールなどに設立したペーパーカンパニーを通じ、女性らに株式を譲渡したとみられる。

韓国検察がロッテグループの巨額の裏金疑惑を捜査する過程で新たに脱税疑惑が浮上したもので、検察は女性らを任意で呼び、事実関係を調べる見通し。

ーーー

韓国公正取引委員会はロッテグループの創業者の辛格浩氏に対し、日本の関連企業の株式持ち分を虚偽申告した可能性があるとして、公正取引法違反で検察に告発する方針を固めた。

公取委は、韓国ロッテグループの系列企業11社に対して追徴金5億7千万ウォン(約5千万円)を課す方針も固めたという。

ロッテ側は、日本の系列企業の状況を十分把握できなかったためで故意ではない、と釈明している。

ーーー

既報のとおり、ソウル中央地検は7月7日、辛格浩(重光武雄)氏の長女・辛英子容疑者を背任収財や横領の疑いで逮捕した。

韓国の化粧品会社などからロッテ免税店への出店を認めるよう頼まれ、リベートとして計30億ウォン(約2億6400万円)を受け取ったほか、辛容疑者が実質的に運営する企業から40億ウォン(約3億5200万円)を横領した疑い。


国際石油開発帝石は8月18日、新潟県糸魚川市と富山県富山市を結ぶ天然ガス輸送パイプライン(富山ライン)を通じて、日産化学の富山工場へ天然ガスの供給を開始したと発表した。

富山ラインは、沿線の大口の需要家に対して、新潟県上越市に建設した直江津LNG 基地から送出するLNG気化ガスなどの天然ガスを供給する全長約103kmの天然ガス輸送パイプラインで、2012年4月に建設工事に着手した。

10月には、富山市、射水市、高岡市などに都市ガスを供給する日本海ガスに天然ガスの供給を開始する。

同社は、1960年代から、天然ガス輸送のためのパイプライン網の整備に取り組んでおり、一都七県に幹線パイプラインを敷設(新潟・長野・群馬・埼玉・栃木・東京・山梨・静岡)、総延長は約1,400kmに達する。

今回、これに富山ライン(103km)が加わる。

このパイプラインで送付する天然ガスのソースは2つある。

1) 南長岡ガス田は、新潟県長岡市の南西約10kmに位置する国内最大級の埋蔵量を誇る大型ガス田であり、国内最深の深度4,000~5,000mの深部火山岩中に含まれている。

1976年、長岡市西方でグリーンタフ中にガスの存在を確認し、1981年に開発を決定した。
南長岡ガス田で生産される天然ガスは、1984年に生産開始した越路原プラントで処理した後、パイプラインネットワークを通じて送られる。


2) 2013年に新潟県上越市(直江津港)にLNG受入基地を建設し、操業を開始した。

バース、タンク(18万kl ×2基、将来1基増設可能)、気化設備、熱量調整設備ほかを持つ。

ここでは、同社がオペレーターとして開発を手がけているオーストラリアの Ichthys LNGプロジェクト及びインドネシアの Abadi LNGプロジェクト(計画段階)で開発・生産されるLNGを受け入れる。


2012/12/22 豪州イクシスLNGプロジェクトのファイナンス契約締結

Ichthys LNGプロジェクト

生産量(予定)

LNG年間890万トン
LPG年間160万トン
コンデンセート日量約10万バレル(ピーク時)

生産開始予定

2017年第3四半期(2017年7月-9月)

2016/3/29  国際石油開発帝石、インドネシア政府方針でLNG計画を大幅変更へ

受け入れたLNGを気化した後、国産ガスと共に熱量調整し、製品ガスとしてパイプラインネットワークへ送り出す。

昭和電工とJXエネルギーは8月23日、LyondellBasell からサンアロマーの持分 50%を取得することで合意したと発表した。

現在は、昭和電工とJXエネルギーが出資するエスディーケイ・サンライズ投資が50%、LyondellBasellが50%出資する。

2016年8月31日にエスディーケイ・サンライズ投資がLyondellBasellよりサンアロマーの株式を取得し、100%子会社とする。
その後、11月1日付けで、サンアロマーを存続会社とする吸収合併方式により、エスディーケイ・サンライズ投資とサンアロマーは合併する。

この結果、昭和電工とJXエネルギーがサンアロマーに直接出資する形とする。

なお、サンアロマーとLyondellBasell間の技術・マーケティング・販売等に関わる提携は、これまで通り継続する。

昭和電工とJXエネルギーは、両社にとって、ポリプロピレン事業は、オレフィンチェーンの中核をなす事業の一つであり、今回の株式取得を契機に、サンアロマーとの連携を一層強化することにより、ポリプロピレン事業の競争力強化を図るとしている。


本件については、LyondellBasell は今のところ何も発表していない。

なお、サンアロマーとLyondellBasell は韓国で大林産業とのPPのJVを持っている。これについてどうするかも現時点では不明。
(PolyMirae は大林産業とLyondellBasellのJVとの認識で、サンアロマーは当初の台湾PPと同様に、LyondellBasellの一員として参加している)

社名 PolyMirae Co. Ltd.
設立 2000/9/1
出資比率
大林産業 LyondellBasell サンアロマー 台湾PP
当初 50% 8% 30% 12%
現在 50% 35.18% 14.82%
Basellは台湾PPに36%出資していたが、2006年に持株を李長栄化学に売却し、台湾PPのPolyMirae持分を買収した。
その後、サンアロマーと持分を調整した。
PP能力 4系列計 700千トン

ーーー

1995年2月、ポリオレフィン共販会社のエースポリマーに属する昭和電工と、三井日石ポリマーに属する日本石油化学がポリオレフィン事業を統合することを発表した。

1995年7月1日に昭和電工 65%:日本石油化学 35% 出資の日本ポリオレフィンが設立され、同年10月1日に営業開始した。

大分と川崎に下記の能力を持った。
 HDPE  331千トン/年 
 LDPE  214 
 LLDPE 110       
 PP     346 (水島の日本ポリプロ 64千トンを含む)   
 計    1,001  

 水島の日本ポリプロは昭和電工と旭化成のJVであったが、1994年10月に旭化成が持分を昭電に譲渡した。
 1999年3月に操業を停止。

日本ポリオレフィンは1996年7月にMontell International と折半出資のJV Montell-JPOを設立して自動車向け分野でのPP及びコンパウンド等の販売を始めた。

1999年5月にMontell-JPOを改組し、Montell 50%、昭和電工・日本石油化学50%出資とし、モンテルエスディーケーサンライズと改称して、日本ポリオレフィンからPP事業の譲渡を受けた。
日本ポリオレフィンはこれによりポリエチレン専業となった。 (その後、日本ポリエチレンに参加)

①社 名  : モンテルエスディーケーサンライズ  
②資本金   63億円
③出資比率  
エスディーケイ・サンライズ投資*  : 41.67%
日本ポリオレフィン    8.33%
(日本側計)    (50%)
モンテル   33.33%
台湾ポリプロピレン   16.67%
(モンテル側計)    (50%)
④年産能力  
ポリプロピレン    大分工場 3系列計  : 243千t
    浮島ポリプロ    65千t
    合  計   308千t

  *SDKサンライズ投資は昭和電工65%、日本石油化学35%

2006年にBasellが台湾ポリプロの株式を李長栄に売却、見返りに台湾ポリプロ所有のサンアロマー株を取得した。

その後、LyondellBasell 50%、エスディケー・サンライズ投資 50%となった。

現在の能力は下記の通り。

大分工場   : 281千t
川崎工場   127千t
合  計   408千t

サンアロマーの業績は下記の通り。

原子力規制委員会は8月24日、各原発事業者に対し原子炉容器等における炭素偏析の可能性に係る調査を指示した。

2015年4月、建設中のフランスの Flamanville 3号機で、Areva社傘下のCreusot 工場 (Creusot Forge ) が製造した原子炉容器上蓋と下鏡に鋼材組成の異常が見つかった。
炭素濃度の高い箇所では機械的強度が弱まるため、フランスの原子力安全局 (ASN) は、他の原子炉機器にこれと同様の異常が存在するかを特定する分析調査の実施をフランス電力(EDF) とArevaに指示した。

その結果、ASNは6月28日に下記の発表を行った。

フランスで運転中の58基の加圧水型原子力プラントのうち、9つの原発の18基の蒸気発生器で水室(Channel Head) の機械的強度が想定より低い可能性がある。

原発 リアクター
Le Blayais No.1
Bugey No.4
Chinon B1, B2
Civaux No.1, No.2
Dampierre No.2, No.3, No.4
Fessenheim No.1
Gravelines No.2, No.4
Saint-Laurent-des-Eaux B1, B2
Tricastin No.1, No.2, No.3, No.4

これらはArevaのCreusot 工場 と日本鋳鍛鋼(新日本製鐵グループ及び三菱グループの共同出資)が鍛造したもので、機械的強度を低下させる炭素濃度の高い領域を持つ鍛造鋼が使われた可能性がある。

ASNはEDFに対し、当該蒸気発生器の水室の機械的強度を裏付けるよう指示を出した。

このような鍛造鋼がクラス1容器(高温高圧の原子炉冷却材を閉じ込める原子炉容器、蒸気発生器、加圧器)において、使用されていないかどうかについて調査を継続するとしている。


これを受け、原子力規制委員会は、国内の実用発電用原子炉の原子炉容器等において、炭素濃度の高い領域が残っている可能性がある鋼塊部分を含んだ鍛造鋼の使用の有無等について確認する必要があると判断し、今回、下記のとおり指示した。

下記の調査対象機器について、製造方法及び製造メーカーを調査し、その結果を報告すること。

加圧水型原子炉:原子炉容器、蒸気発生器、加圧器
沸騰水型原子炉:原子炉圧力容器

調査の結果、鍛造鋼の使用が確認された場合は、当該鍛造鋼が規格を上回る炭素濃度領域を含む可能性について評価し、その結果を報告すること。

フランスで2015年4月に問題が分かり、ASNが調査を指示し、本年6月に結果を発表しているのに対し、原子力規制委員会の対応が遅いのが気になる。

中国商務省は8月22日、公告第34号で、日本とEU原産の高性能ステンレス継目無し鋼管* に対するアンチダンピング課税措置を撤廃すると公表した。

* 石炭火力発電所の超々臨界圧ボイラ等に使用される高付加価値特殊鋼

WTO上級委員会が2015年10月14日に、WTOルールに違反しているとして日本とEUの主張を認め、中国に対し是正を勧告する最終判断を示し た。

商務部は2016年6月20日付けで再調査を行う と発表した。

今回、当初の反ダンピング調査申請者が申請を取り消したとの理由で、アンチダンピング課税を撤廃した。

商務部は2011年9月8日、日本とEU原産の本製品について調査を開始し、2012年11月8日にクロの最終決定を行った。

反ダンピング税率は次のとおり。

日本
住友金属工業 9.2%
神鋼特殊鋼管 14.4%
其の他 14.4%
EU
Tubacex Tubos Inoxidbles 9.7%
Salzgitter Mannesmann Stainless Tubes Italia 11.1%
其の他 11.1%

日本政府は、中国では同製品を生産していないとし、中国側の損害認定などの説明が不十分と主張して、中国側に詳しい説明を求めた。

WTOの紛争解決手続きによると、相手国と協議し、解決しない場合は、WTOの「一審」に当たる紛争処理小委員会(パネル)設置を要請する。

日本(およびEU)は2013年4月11日、WTOに対し本件措置についてパネル設置要請を行い、同年5月24日にパネルが設置された。

2015年2月にパネル報告書が、同年10月14日に上級委員会報告書がそれぞれ公表された。

中国の措置はアンチダンピング協定に違反すると判断し、中国に対して措置を協定に適合させるよう勧告した。

  1. 中国によるアンチダンピング課税は、日本から輸出している高性能品と中国製品とのグレードの違いや競争関係がないことを適切に考慮していない等の点で損害及び因果関係の認定に瑕疵があり、アンチダンピング協定3条1項(実証的な証拠) 及び5項(損害立証) に違反するとしたパネル報告書の判断を支持した。

  2. 中国の措置は、アンチダンピング協定3条2項(影響を累積的に評価)及び4項(すべての経済的な要因及び指標の評価)にも整合しない。

これを受け、商務部は2016年6月20日、再調査をすると発表したが、当初の申請者が申請を取り消したという理由で措置を撤廃したもの。

経産省はこれについて、「WTOの紛争解決手続の有効性が改めて確認されるとともに、近年新興国においてアンチダンピング課税措置が増加傾向にある中、WTOルールの明確化を通じて、恣意的又は不透明なアンチダンピング課税措置発動を抑制することについても大きな意義があると考えられます 」としている。

ーーー

同様の例として、EU原産のX線セキュリティチェック機がある。

2011年1月23日にクロの最終決定を行った。

これに対し、WTO紛争処理小委員会は2013年2月、WTO反ダンピング規定に違反するとの判断を下した。

反ダンピング関税は「損害的ダンピング」への対処として厳格な条件の下でのみ課すことができるが、今回の事案において、中国はこれらの条件を満たしていないとのEUの訴えに同意した。
また、中国が適正な手続きと透明性の規定用件を尊重することを怠ったとの結論を下し、同国にWTO規定に則るよう要請した。

中国商務部はWTOの決定を受け、再調査していたが、2014年2月19日、当初の申請者が申請取り消しを申し出たため、国務院関税委員会がダンピング課税の終了を決めた。

2014/2/26 中国、WTO決定に従い、EU原産のX線セキュリティチェック機の反ダンピング措置を終了


WTOの決定前に中国側が取り消した例もある。

商務部は2005年9月に、米国・韓国・タイ・台湾原産の無漂白クラフト紙をダンピングと認定し、課税を開始した。

米国政府は被害の認定や調査手続きを問題視し、強く反発、WTOの協議を要請すると中国に伝えた。

米国企業が中国の行政再審法(1999/10/1発効)に基づき再審を要請したところ、商務部は再審の結果、この決定がアンチダンピング法に合致しないとして、2006年1月9日付けでこの決定を取り消し、同日付でダンピング課税を終了した。




Pfizerは8月22日、バイオファーマのMedivation, Inc. を買収する契約を締結したと発表した。

1株81.50ドルでの買収で、総額は140億ドルとなる。両社の取締役会は満場一致でこれを承認した。
Medivation株の8月19日の終値は67.15ドル。

PfizerはMedivationの買収で、前立腺がん治療薬 XTANDI ( 一般名Enzalutamide)を手に入れる。
XTANDIは、第二世代のアンドロゲン受容体拮抗薬で、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)に適応を持つ。

後記のとおり、米国を除く全ての地域については、アステラス製薬がXTANDIの独占的開発・販売権を有している。

Pfizerは転移乳がん治療薬IBRANCE® (一般名:palbociclib) を持っており、乳がんと前立腺がんの治療薬を持つことになる。

PfizerはフランスのSanofiとの買収合戦を制した。

Sanofiは4月28日、Medivation に対し現金での1株52.50ドル、総額93億ドルでの買収提案を行ったと発表した。過去2ヶ月の平均株価に対し50%以上のプレミアムとしている。

終値は、2/1 が 33.16ドル、3/1 が 36.60ドル、4/1 が 46.19ドルであった。

しかしMedivationは翌29日、提案はMedivationの価値を低く見ており、同社と株主の利益に反するとしてこれを拒否したと発表した。

Sanofi はこれに対し、引き続き買収の実現を目指すとし、Medivationの株主に直接説明したいと述べた。敵対的買収にも含みを残した。

さらに、AstraZeneca、Pfizer、Novartis AG などが買収の検討を始めたと報じられていた。

その後、Sanofiは1株当たり58ドルの提案をしたが、Medivationは拒否した。

2016/5/6 米国の製薬会社 Medivation、仏Sanofi の買収提案を拒否

Sanofiは敵対的買収も考え、Medivationの株主に対し、取締役を追放させることについての暫定的な同意要請趣意書を送付した。

しかし、両社は7月5日に秘密保持契約を締結、敵対的買収提案の取り組みは終わり、より友好的な交渉に移った。

この時点でMotivationの株価は62.50ドルにまで上がっていた。

ーーー

Pfizer は2015年11月23日、アイルランドに拠点を置く同業のAllergan との合併を決めた。株式交換方式で合併するもので、実質的に、Pfizerによる1600億ドルでのAllergan 買収となる。
PfizerはAllergan買収を通じて本社を税率の低いアイルランドに移す考えだった

しかし、米財務省が2016年4月4日、税率の低い国へ本社を移転する税逃れ行為「インバージョン」をめぐり追加措置を発表したが、これが合併契約書に規定している「不利な税制変更」に該当するため、Pfizer は4月6日、Allerganとの合併を両社の合意で中止すると発表した。

2016/4/7 Pfizer とAllergan、合併計画断念

発薬との競争が激化する中、収益源多角化に向けたPfizerの次の一手が注目されていた。

2016年5月16日、Pfizerは米バイオ医薬のAnacor Pharmaceuticals, Inc.を52億ドルで買収すると発表した。

Anacorは承認が最終段階を迎える軽度のアトピー性皮膚炎の新薬を持っており、免疫系薬の品ぞろえ強化につなげる狙い。

ーーー

Medivation は2009年10月、アステラス製薬との間でXTANDI の全世界での開発・商業化に関する契約を締結した。

アステラス製薬は契約締結一時金として110百万ドルを支払い、開発マイルストン達成に伴う総額 335百万ドルの一時金支払いのほか、売上達成に応じて最大320百万ドルの追加一時金を支払う。

両社はXTANDI の広範囲な開発プログラムを共同で進め、米国における商業化を共同で行なう。

米国を除く全ての地域については、アステラス製薬が独占的開発・販売権を有し、アステラス製薬はMedivationに対し米国以外の全地域の売上に応じて漸増する2桁台のロイヤリティを支払う。

アステラス製薬のXTANDI の売上高は下記の通り。(単位:億円)

  2014/3 2015/3

2016/3

2017/3予
米国 443 857 1,484 1,637
日本 149 262 257
米州(米国以外) 8 26 45 61
欧州 95 334 707 959
アジア・オセアニア 0 6 24 45
合計 546 1,372 2,521 2,959


日本化学会は8月22日、山本尚・会長(中部大学教授・総合工学研究所長)が、米国化学会が設立し、有機化学の分野で優れた業績をあげた研究者に贈られる Roger Adams賞を受賞したと発表した。

1959年から2年に1度選出するもので、日本では2001年の野依良治・名古屋大学特別教授に続き 2人目となる。

これまでの受賞者29人のうち、11人がノーベル賞を受賞している。

2016年4月にサンフランシスコで授賞式 が行われる。賞金は25千ドル。


山本尚教授は、73歳で、紫綬褒章、フンボルト賞、日本学士院賞、野依賞、藤原賞などを受けている。

1980年代初頭にC2対称軸を持つキラル・ルイス酸触媒を提案・実現した。この触媒は不斉分子性酸触媒の源流となった。

最近では、さらに高選択性を得ることのできる、ルイス酸とブレンステッド酸を組み合わせた複合型酸触媒、ルイス酸の金属中心がキラルとなるシス・ベータ型金属触媒、2つの螺旋を組み合わせたシス・アルファ型鉄触媒の創成に成功している。

一方では、金属に替わる毒性のまったくない強力なスーパー・ブレンステッド酸触媒を開発、それを駆使した3次元分子の1工程合成に成功し、クリーンで省資源型のカスケード型合成法に成功した。

開発した触媒や反応剤は工業的にも日常的に用いられている。例えば、アルミニウム反応剤はプロスタグランディン合成に、アミド化ホウ素触媒はいくつかの医薬品プロセス合成に、バナジウム触媒は工業的規模での不斉酸化に用いられている。

ーーー

Roger Adams賞は、アダムス触媒(酸化白金)を開発したRoger Adams (1889-1971) を記念して設立された。

過去の受賞者は下記の通り。

(ノーベル化学賞)
2015 Larry E. Overman
2013 David A. Evans
2011 Robert H. Grubbs 2005年 有機合成におけるメタセシス法の開発
2009 Andrew Streitwieser
2007 Samuel J. Danishefsky
2005 Jerrold Meinwald
2003 Albert Eschenmoser スイス
2001 Ryoji Noyori 日本 2001年 不斉触媒による水素化反応の研究
1999 Dieter Seebach スイス
1997 K. Barry Sharpless 2001年 不斉触媒による酸化反応の研究
1995 Barry M. Trost
1993 Elias J. Corey 1990年 有機合成理論および方法論の開発
1991 Gilbert J. Stork
1989 George A. Olah  1994年 カルボカチオン化学における研究
1987 Jerome A. Berson
1985 Donald J. Cram  1987年 高選択的に構造特異的な相互作用をする分子(クラウン化合物)の開発と応用
1983 Sir Alan R. Battersby
1981 Nelson J. Leonard
1979 Melvin S. Newman
1977 William S. Johnson
1975 Rolf Huisgen
1973 Georg Wittig  1979年 新しい有機合成法の開発
1971 Herbert C. Brown 1979年 新しい有機合成法の開発
1969 Vladimir Prelog スイス 1975年 有機分子および有機反応の立体化学的研究
1967 John D. Roberts
1965 Arthur C. Cope
1963 Paul D. Bartlett
1961 Robert B. Woodward 1965年 有機合成化学に対する顕著な貢献
1959 Sir Derek H. R. Barton 1969年 分子の立体配座概念の確立

帝人は8月19日、日本とインドネシアのDuPontとのJVについて、DuPontの持分を買収し、帝人100%とすると発表した。

帝人とDuPontは2000年よりポリエステルフィルム事業を統合し、世界7カ国で合弁会社を設立してグルーバルに事業を運営してきた。

しかし、中国経済の減速に伴う需要低迷、中国メーカー台頭による市場構造の変化により、事業環境は厳しさを増し、事業構造の変換が急務になっている。

今回、事業運営柔軟性と意思決定の迅速性を向上するため、国内合弁とインドネシア合弁について、DuPont持分を取得することで合意した。

対価などは公表していないが、報道では数億円規模とみられるとしている。

帝人が持つ他の高機能素材と合わせた販売・製造拠点として活用する。

 国  現社名 出資比率 %  新社名
帝人 DuPont
日本 帝人デュポンフィルム 60.0 40.0 帝人フィルムソリューション
インドネシア P.T. Indonesia Teijin DuPont Films 50.1 49.9 P.T. Indonesia Teijin Film Solutions


ーーー

帝人はポリエステルフィルム分野では、世界7カ国で米国デュポンと合弁事業を行ってきた。

帝人は1957年に英国ICI のPETフィルム製造技術を導入。
DuPontは1998年にICI からポリエステル事業を買収。

両社は2000年1月、折半出資により世界最大のポリエステルフィルムのグローバル合弁会社(Teijin DuPont Films)を設立した。

日本をはじめ、米国、欧州(ルクセンブルグ、英国)、アジア(インドネシア、中国)の6カ国に地域合弁会社が設立されており、工業用、包装用、磁気用の幅広い用途向けに、それぞれの地域のニーズに対応した高機能ポリエステルフィルム製品群を、地域の販売網を通じて販売している。

インドネシアは帝人子会社、中国はDuPont のJVで、それぞれを両社のJVに移した。

その後、韓国にPETフィルムの販売会社のTeijin DuPont Films Koreaを折半で設立した。

 国  社名

出資比率 %

 備考
帝人 DuPont その他
日本 帝人デュポンフィルム 50.1 49.9 その後、 60/40 に変更
インドネシア P.T. Indonesia Teijin DuPont Films 50.1 49.9 元は帝人100%P.T.Indonesia Teijin Films
米国 DuPont Teijin Films U.S. 49.9 49.9 (*1) 0.2 *1 帝人デュポンフィルム
英国 DuPont Teijin Films U.K.  50.0 50.0
ルクセンブルグ DuPont Teijin Films Luxembourg 50.0 50.0
中国 DuPont Hongji Films Foshan
(佛山杜邦鴻基薄膜)

JV(*1)  51

(*2) 49 *1 DuPont Teijin Films China
*2
佛山塑料集団(Foshan Plastics Group)
(49.0) (51.0)
韓国 Teijin DuPont Films Korea 50.0 50.0 販売会社


帝人は2008年3月決算で
米国及びルクセンブルグでのJVの固定資産の減損処理を実施し、大幅減益となった。
需要低迷や原燃料価格の高騰により、特に米国のフィルム事業を取り巻く経営環境は厳しく、急速な業績回復は難しい状態となったのが理由。

DuPont Teijin は、2009年2月の米国Circleville, OH 工場の閉鎖、同6月のLuxembourg工場の1生産ラインの休止に加え、米国Florence, SC工場を段階的に縮小し、2010年末に閉鎖した。
これにより、米国におけるポリエステルフィルム製造拠点を、Hopewell, VA 工場に集約した。

帝人デュポンフィルムは、岐阜事業所、宇都宮事業所の2拠点で生産しているが、岐阜(能力3万トン)を2016年9月末までに停止し、宇都宮に集約する。
中国メーカーの台頭などで収益が悪化し、生産効率の高い設備を備える宇都宮事業所への集約を決めた。

同社は2013年末に茨城事業所(能力1万トン)を停止している。

ーーー

Bloomberg は2011年10月13日、DuPontがDuPont Teijin Films の買い手を探していると報じた。
売却額は10億ドル未満と見られている。

Ellen Kullman女史が2009年1月にCEOに就任して以来、71億ドルでのDanisco買収などで高成長分野に舵を切っている。
これまで大きな売却はしていないが、いよいよ時期が来たとしていた。

しかし、その後、売却の動きはない。

2011/10/18 DuPont、帝人とのポリエステルフィルムJVを売却か?


DuPontは現在、Dow Chemical との統合を進めている。

両社は2015年12月に対等合併で合意し、2016年7月20日の両社の株主総会でそれぞれ承認を得た。

2015/12/14 Dow と DuPont、経営統合を発表

米国立衛生研究所(NIH)の小林久隆・主任研究員らの研究チームは 8月17日付けの米医学誌 Science Translational Medicineで光免疫療法(PIT)により、癌細胞を免疫の攻撃から守っている仕組みを壊し、癌を治す動物実験に成功したと発表した。

http://stm.sciencemag.org/content/8/352/352ra110

1カ所の癌を治療すれば、遠くに転移した癌も消える効果があることが確認され、チームは「全身の癌を容易に治療できる可能性がある。3年程度で治験(臨床試験)を始めたい」と話す。


現在の癌治療では「手術」「放射線療法」「化学療法」の3つの方法が主流になっているが、これらの治療にはいずれも副作用が付いてくる。
「放射線療法」「化学療法」は癌細胞を殺すが、正常細胞も殺す。

副作用を最小限にするため、「分子標的薬」が開発されてきたが、その数はまだ少ない。

研究グループは、新しいタイプの分子標的癌治療法となる「光免疫療法」(PIT=Photo-Immuno-Therapy) を開発した。

研究チームは2011年11月6日のNature Medicine で初めて「光免疫療法」を報告した。

この報告は注目を集め、オバマ大統領が2012年の一般教書演説で「米政府の研究費によって、癌細胞だけを殺す新しい治療法が実現しそうだ」と紹介し、2014年にNIH長官賞を受賞した。

Innovation also demands basic research. Today, the discoveries taking place in our federally financed labs and universities could lead to new treatments that kill cancer cells but leave healthy ones untouched.

NIHの小林主任研究員は米ベンチャー企業のAspyrian Therapeutics, Inc. と組み、2015年4月30日にFDAの計画承認を受け、治験を開始した。


概要は次のとおり。(
米国国立がん研究所は動画「カメラが見たがん研究:光免疫療法でがんと闘う」で仕組みを説明している。)

1) 癌にくっついて熱で殺す

癌が生体で増殖し続けるのは、癌の周りに「制御性T細胞」が集まり、異物を攻撃する免疫細胞の活動にブレーキをかけて守っているためである。

制御性T細胞に結びつく性質を持つ「抗体」に、波長700nmの近赤外線を受けると光エネルギーを吸収し、化学変化を起こして発熱する「IR700」と呼ばれる色素をつけ、肺癌、大腸癌、甲状腺癌をそれぞれ発症させたマウスに注射した。

体外から近赤外光を当てた結果、約1日で全てのマウスで癌が消えた。
光を当てた約10分後には制御性T細胞が熱で大幅に減り、免疫細胞「リンパ球」のブレーキが外れて、癌への攻撃が始まったためとみられる。

.


このための光は、光化学反応を効率よく起こせるだけの波長の短い光で、なおかつDNAに損傷を起こさないために可視光よりも長い波長の光である必要と、体内の光吸収物質に吸収されずに体の深部にまで到達する光である必要があり、その条件に合致するのが700nm あたりの近赤外領域の光である。

2) 光を当てない癌も消える

さらに、1匹のマウスに同じ種類の癌を同時に4カ所で発症させ、そのうち1カ所に光を当てたところ、全ての 癌が消えた。
光を当てた場所で癌への攻撃力を得たリンパ球が血液に乗って全身を巡り、癌を壊したと考えられる。

この治療で壊れなかった局所のがん細胞や近赤外光の到達できなかった場所のがん細胞、ひいては遠隔臓器に転移したがん細胞にも効果を起こせる可能性があり、「転移があっても効果的に治療できる方法になると期待できる」と話す。

3) 癌だけを殺せる!

この薬は癌細胞にくっつかない限り、体に害を与えない。
癌細胞にくっついて初めて、近赤外線を当てるとそのくっついた癌細胞を殺す。

世界のGDPの推移

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世界銀行は2015年の世界各国のGDPを発表した。

http://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.CD


上位各国のGDPは下記の通り。


上位5カ国の過去の推移は下記の通り。

日本は2012年以降、下降を続けており、中国との格差はどんどん広がっている。

日、独、英の低迷と比べ、米国経済の堅調さが目立つ。


Chemical & Engineering News の8月15日号は2015年のGlobal Top 50 Chemical Company を掲載した。

http://cen.acs.org/global-top-50.html?type=paidArticleContent

化学会社のChemical部門の売上高、営業利益、資産、設備投資、R&D支出を分析している。

日本企業では、売上高で三菱ケミカルホールディングスが 2014年の11位から9位に上がり、東レが21位から15位に上がった。住友化学は18位から21位に下がった。
三井化学は2014年が19位で、2015年は25位。

アジアでは、Sinopecが3位(前年も3位)、台湾のFormosa Plastics が5位(前年6位)、韓国のLG Chem が11位(前年13位)に入っている。

なお、Bayerは2014年9月に MaterialScience 部門をCovestroとして分離した。
Bayerとしての2014年売上高は23,464百万ドルで10位であったが、2015年にはCovestroが売上高 11,504百万ドルで20位に入った。

営業利益、営業利益率でみると、日本企業は低位にある。
但し、売上高27位の信越化学の営業利益、営業利益率は高い。



総務省は、ライフスタイルの変化を統計に反映させるために、「消費者物価指数」の調査品目などを見直す「基準改定」を5年ごとに行っている。

2016年7月分から改定するが、今回は基準となる年(指数を100とする年次)を現在の2010年から2015年に変更するとともに、毎月、価格を調べている588品目のうち、30品目余りを入れ替えた。

8月12日、新たな基準で計算した指数を過去にさかのぼって公表した。これに合わせ日銀も「日銀コアコア」について発表した。

2%の物価上昇率を目指す日銀の金融政策にも影響するため、結果が注目されていたが、小幅な変更にとどまった。
(日銀コアコアは各月とも旧基準を下回る結果となった。)

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品目入れ替えの例

費目 追加品目 廃止品目
食料 からあげ弁当
しょうが焼き定食(外食)
親子どんぶり
お子様ランチ
住居 カーポート
壁紙張替費
左官手間代
板ガラス取替費
家具・家事用品 空気清浄機
水筒
電気カーペット
電気アイロン
保健医療 青汁
マスク
ヘルスメーター
体温計
交通・通信 電動アシスト自転車
ロードサービス料
自動車ワックス
ETC車載器
教養・娯楽 競技用靴
ペットトイレ用品
筆入れ
植木鉢
諸経費 カウンセリング化粧品
警備料
合計品目数 33品目 32品目
選択の条件 ①~③の基準を全て満たす品目

① 新たな財・サービスの出現や普及、嗜好の変化などによる消費構造の変化に伴い、家計消費支出上重要度が高くなった品目
② 中分類指数の精度の向上及び代表性の確保に資する品目
③ 円滑な価格取集が可能で、かつ、価格変化を的確に把握できる品目

①~③の基準のいずれかに該当する場合

① 消費構造の変化などに伴い、家計消費支出上重要度が低くなった品目
② その品目がなくても、中分類指数の精度が確保できる品目
③ 円滑な価格取集が困難となった又は価格変化を的確に把握できなくなった品目


詳細は下記

   http://www.stat.go.jp/data/cpi/2015/plan/pdf/2015plan.pdf

マイナス金利の影響

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日本銀行は1月29日、政策委員会・金融政策決定会合で、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するため、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入することを決定した。
今後は、「量」・「質」・「金利」の3つの次元で緩和手段を駆使して、金融緩和を進めることとした。

金融機関が保有する日本銀行当座預金に▲0.1%のマイナス金利を適用する。 (2月16日から)
今後、必要な場合、さらに金利を引き下げるとした。

 

2月3日発表 

金利率
2月残高 年80兆円増
2015年平均残高 210兆円 210兆円 0.1%
これを超えた残高 うち一定割合 40兆円 残り  0%
これを超える分 10兆円 10~30兆円 -0.1%


2016/2/13 マイナス金利の波紋 


導入から半年が経過したが、目的の「2%の物価安定目標の早期実現」の兆しは見えない。


逆に悪影響はいろいろ出ている。

2016/8/13付日経によると、金融庁は日銀のマイナス金利政策の影響を聞き取り調査し、日銀に懸念を伝えた。

 ・ 利ざやの縮小などから、3メガ銀行グループの2017年3月期決算で少なくとも3000億円程度の減益要因になる。

マイナス金利による減益幅 マイナス金利幅拡大ケースの上積み
(金利収入面のみ)
三菱UFJ 1550億円 480億円
三井住友 750億~760億円 410億円
みずほ 610億円 600億円

 ・ 自己資本埋め合わせ対策としての公募増資は踏み切りにくく、リスク資産圧縮は融資先の絞込みに結びつく可能性がある。

 ・ ある銀行では年利0.625%で貸す住宅ローンの採算が割れ、銀行単体で赤字となっていた。

 ・ マイナス金利の長期国債などの変動影響を時価で評価したところ、1年間で自己資本比率が半分に減った保険会社ももあった。


三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長は4月14日、都内の講演で日本銀行のマイナス金利政策について、銀行にとっては「短期的効果は明らかにネガティブだ」と述べた。

「銀行はマイナス金利を個人や法人顧客に転嫁できないだろうから、資金利ざやはさらに縮小して基礎体力低下をもたらし」、銀行業界では「体力勝負の持久戦は厳しさを増し長期化することになる」とした。

一方、マイナス金利の経済効果については、欧州の先行例などを示し、既に金利の低い日本で企業や個人の投資を促すかどうかは分からず「残念ながら懸念を増大させる方向に働いてしまっているようだ」、「個人も企業も政策効果に懐疑的になってしまっており、将来に対する不確実性が増すにつれて支出や投資計画を凍結している」と述べた。

平野社長の懸念のとおりとなった。

ーーー

三井住友銀行の労働組合は2月23日、物価上昇に弾みがつかない中、マイナス金利などで本業の収益が悪化する懸念が出てきたため、春闘でのベースアップ要求を3年ぶりに見送る方針を固めた。三菱東京UFJ銀行やみずほフィナンシャルグループの労働組合もこれに従った。

2016年春闘は、政府が賃上げを呼びかける「官製春闘」の3年目にあたる。

安倍政権の要請に応えて、経団連は労働組合が求めるベースアップを容認する方針を固めていたが、マイナス金利が足を引っ張る結果となった。

ーーー

三菱東京UFJ銀行は7月13日、国債の入札に参加する際の特別な資格である国債市場特別参加者(プライマリーディーラー)の資格返上を正式に届け出た。財務省は7月15日付けで資格を取り消した。今後は特別参加者の役割を三菱UFJモルガン・スタンレー証券が行い、三菱UFJ銀行も必要に応じて国債の入札には参加する。

外資系では資格返上の例はあるが、日本の金融機関では2004年10月の制度導入以来初のケースとなる。メンバーは国内大手銀行や証券会社など計21社となる。

プライマリーディーラーは、財務省が開催する国債市場特別参加者会合に参加し、財務省と意見交換等を行うことができるが、下記の義務を持つ。

・応札責任:
全ての国債の入札で、相応な価格で、発行予定額の4%以上の相応の額を応札すること。

・落札責任:
直近2四半期中の入札で、短期・中期・長期・超長期の各ゾーンについて、発行予定額の一定割合(原則短期ゾーン0.5%、短期以外のゾーンは1%)以上の額の落札を行うこと。

・流通市場における責任:
国債流通市場に十分な流動性を提供すること。

・情報提供:
財務省に対して、国債の取引動向等に関する情報を提供すること。
これまで各銀行は自己資本比率を計算する際に、日本国債のリスクを事実上「ゼロ」と扱っており、貸し倒れリスクのない国債を大量に購入してきた。

三菱UFJの国債保有額は突出している。

2016年3月末
 三菱UFJ  28.3兆円
 みずほ   15.0兆円
 三井住友  9.8兆円

しかし、利回りがマイナスに下がった国債を買い続ければ損失が出る懸念がある。

日経によると、三菱東京UFJ銀行で 「国債の金利変動リスクを自己資本に反映させたらどうなるか」のシミュレーションを行った結果、「どのモデルを使って計算しても国債金利が一律2%上がると自己資本比率は5%程度下がる」という結果が出た。当時の自己資本の3分の1を吹き飛ばすというものであった。

プライマリーディーラーの場合は応札責任、落札責任があり、損失が出る懸念がある国債を買い続けることは株主に説明できない。

ーーー

日銀が導入したマイナス金利政策が企業業績に打撃を与えている。

市場金利が低下し、「退職給付債務」が膨らみ、利益を圧迫し始めた。

退職給付債務は国債や優良社債の利回りを参考にして決める「割引率」を使って計算する。市場金利が下がれば運用益が減ることになり、退職給付債務は拡大し、現時点で保有する年金資産を差し引いた積み立て不足は、費用計上する必要がある。

明らかにされた例は下記の通りだが、今後、他社にも拡大する。

大和ハウス工業 2016年3月期に849億円の特別損失を計上
住友林業 2016年3月期に115億円の費用を計上
LIXIL 2016年3月期の営業利益を108億円押し下げ
ダスキン 2017年3月期から5年で50億円の費用計上
四国電力 2017年3月期に166億円の費用計上

ーーー

金融庁は銀行救済のため、法令改正を行った。

金融庁は7月7日、「金融商品取引所等に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」を出した。

金融商品取引所はデリバティブ(金融派生商品)取引時に、決済の不履行に備えて顧客から一定の証拠金を預かっている。
これらはこれまで、銀行等への預金で管理することとなっていた。

しかし、マイナス金利ルールでは、銀行の預金(預かり金)が増加すると、その分は銀行が日銀に金利を支払うことが必要になる。

これを避けるため、金融庁は、金融商品取引所が証拠金を(銀行等以外に)日銀に直接預けられるように法令を改正した。

金融庁はマイナス金利の副作用に対して「助け舟」が必要だと判断した。




  
      
        
      
     

173人の死者・行方不明者を出した天津市の大規模爆発から8月12日で1年を迎えた。


天津市の工業地帯で2015年8月12日夜、大規模な爆発が発生した。

爆発は、天津東疆保税港区の瑞海公司(RuiHai International Logistics) の危険物倉庫で起こった。

コンテナーヤードには7類の危険品(第一類の火薬と第七類の放射性物質を除く)合計111種 11,384トン、うち硝酸アンモニウム 800トン、シアン化ナトリウム 681トン、ニトロセルロース類229トンを保管していた。
うち運抵庫(受入倉庫)には72種類、合計4,840トンを保管、うち硝酸アンモニウム800トン、シアン化ナトリウム 360トン、ニトロセルロース類48トンを保管していた。

シアン化ナトリウム681トンは、施設の設計上の保管量を40倍以上も上回る。

2015/8/14 天津で大規模爆発
2015/8/21 天津爆発事故のその後(2)
2015/8/27 天津爆発事故のその後(3)
2016/2/10 天津爆発事故の調査報告書

事故の発生から1ヶ月も経たない9月初めに、天津市は浜海新区の爆発現場を「海港生態公園海港エコ公園)」として整備する計画を明らかにした。

公園は24ヘクタールで「エコ、活気、暮らし、記念」を理念とし、事故前に着工していた小学校や幼稚園も敷地内に建てる。11月に着工し、2016年7月の完成を目指すという。

全体は43ヘクタールで、公園部分(下図の赤線内)は約24ヘクタール。公園の池は丁度、爆発の穴の場所。

南側には小学校、幼稚園などが、西側にはグリーンベルトがつくられる。


大惨事の原因究明も済んでいない中での発表に、事故車両を埋めようとした温州の高速鉄道と同じだと、批判が相次いだ。

2015/9/7 天津の爆発事故現場、早くも公園化計画 批判相次ぐ 


天津市は当初、2016年7月の完成としていたが、実際にはほとんど進んでいない。

1年前 (上の写真の逆の北側から見たもの) 現状


現在は爆発によりできた直径約100メートルの穴を重機によって埋める作業が昼夜を問わず続いている。

建設業者によると、爆発による汚染状況は想像していたより遥かに深刻で、1~2年での完成は難しいという。

更に当局は、商業秘密を含むとして汚染データを公開していないという。


地元政府は8月10日、現場周辺の復旧状況を公表し、周辺の大気や水質については問題ないとした。

しかし、爆心地から数百メートルと最も近い距離にあるマンション群「海港城」では、割れた窓や外壁はほぼ完全に改修され、表面上は新築物件のようだが、住み人はほとんどいないという。


EUの欧州委員会は8月11日、Dow Chemical とDuPont の合併計画をめぐり、農薬 (Crop protection) や種子、特定の石油化学製品などの分野で市場の寡占を招く可能性があるとして、合併の是非を見極める 精密調査(in-depth probe)に着手したと発表した 。


両社は2015年12月に対等合併で合意し、2016年7月20日の両社の株主総会でそれぞれ承認を得た。

2015/12/14 Dow と DuPont、経営統合を発表

通常は、欧州委員会は通知を受けて25就業日に承認を与えるか、または精密調査を始めるかを通知する。

両社は本年6月22日に欧州委に合併計画を提出した。問題点を指摘されたため、7月20日に欧州委の予備的な懸念を解決するため対応策を示したが、同委は深刻な懸念の払拭には不十分だ とみなした。

調査期間は90日で、12月20日までとなっている。

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両社はグローバルに活動しているため、欧州委は他の競争当局、特に米国司法省とブラジルとカナダの競争当局と密接に協力する。

「農家の生活は種子や農薬を安い価格で入手できるかどうかにかかっている。この合併の結果、価格が上がったり、革新的製品が出なくなることがないよう、確認したい」としている。

除草剤や殺虫剤のリーダーで、革新的な製品を市場に出してきた2社が結びつき、世界最大の農薬・種子メーカーが生まれること、特定の石油化学製品の大メーカーが生まれること、既にグローバルに集約されつつある業界で今回の統合が行われることに注目している。

欧州委は以下の点を懸念している。

農薬

両社はともに、多くの作物用の除草剤と殺虫剤に強い製品群を持つ。両社統合により、これら市場での競争が減り、その結果、価格、品質、製品の選択可能性、イノベーションに悪影響が出るのを懸念する。

両社の殺線虫剤や殺菌剤についてもチェックしたい。

合併により、農薬全体でイノベーションが低下するのではないか懸念する。十分なR&Dの能力を持つグローバル企業が少ない業界であり、合併で新しい原体を開発し、上市できる数少ない企業の1社がなくなることになる。

種子

両社はともに新しい種子の品種改良を加速できる「遺伝子編集」技術を開発している。合併後に、競合者にこれら技術をライセンスするインセンティヴが減ったり、競合技術の開発が難しくなるのではと懸念する。

統合会社は幅広い農薬製品を持ち、かつ種子でグローバル市場でのリーダーの一つになり、業界で最大の統合企業となる。両社の農薬と種子の販売が統合された場合、競合企業による農薬と種子のディストリビューターへのアクセスが難しくなるのではないかと懸念する。

石油化学製品(ポリオレフィンとモノマー)

両社はスペシャルティポリオレフィンの強力なサプライヤーであり、この市場で1社がなくなる影響を調査する。

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両社の農薬・種子部門の状況

Dowは農薬が中心で、一方 DuPont は種子が中心となっている。

Dow は幅広い作物を対象にしている。

伊方原発3号機が8月12日、5年3ヶ月ぶりに再稼動した。

下記の問題を抱える。

 避難計画に弱点を抱える。
    佐多岬の先端側の住民約4700人が孤立する恐れ。

 中央構造線断層帯への地震の影響の懸念
     松山、大分、広島の各地裁で、住民が運転停止を求める仮処分申請

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規制委員会の審査に合格した原発は下記の通り。

40年超
稼働中 九州電力 

     

川内① 2015/9/10 営業運転開始
川内② 2015/11/17 営業運転開始
四国電力  伊方③ 2016/8/12 再稼動
運転差止 関西電力 

     

高浜③ 2016/1/29 再稼動 2016/3/9 運転差止命令
  (大津地裁)
高浜④ 2016/2/26 再稼動、直後にトラブル
審査合格 関西電力 高浜① 2016/6/20 運転延長認可 対策工事完了待ち
(2019/秋 以降)
高浜②
合格内定 関西電力 美浜③ 2016/8/3 適合の審査書案 対策工事完了待ち
(2020/春 以降)


全体の状況は下記の通り。

廃炉は福島第一の6基と、原電敦賀、関電美浜①、②、中国電力島根①、九電玄海①、四国電力伊方①の6基の計12基。

稼動中の3基を除くと、残るのは39基(他に建設中のJパワー大間の1基)。

運転開始 万KW

再稼動
  申請

原電 敦賀① 1970.3

40年

35.7 2015/3/17 廃炉決定
関西電力 美浜① 1970.11 34.0 2015/3/17 廃炉決定
東京電力 福島1① 1971.3 46.0 2012/4/19 廃炉
関西電力 美浜② 1972.7 50.0 2015/3/17 廃炉決定
中国電力 島根① 1974.3 46.0 2015/3/18 廃炉決定 2016/7/4 廃炉申請
東京電力 福島1② 1974.7 78.4 2012/4/19 廃炉
関西電力 高浜① 1974.11 82.6 2015/3/17 2015/4/30 運転期間延長申請、2016/4/20 安全審査合格
2016/6/20 運転延長認可
九州電力 玄海① 1975.1 55.9 2015/3/18 廃炉決定
関西電力 高浜② 1975.11 82.6 2015/3/17 2015/4/30 運転期間延長申請、2016/4/20 安全審査合格
2016/6/20 運転延長認可
東京電力 福島1③ 1976.3 78.4 2012/4/19 廃炉
関西電力 美浜③ 1976.3 82.6 2015/3/17 2015/11/26 20年延長を申請
2016/8/3
新規制基準に適合すると認める審査書案
四国電力 伊方① 1977.9 56.6 2016/5/10 廃炉
東京電力 福島1④ 1978.1 78.4 2012/4/19 廃炉
東京電力 福島1⑤ 1978.4 78.4 2014/1/31 廃炉
日本原子力 東海 1978.11 110.0 2014/5/20 (PWR優先で審査停滞) 
東京電力 福島1⑥ 1979.1 110.0 2014/1/31 廃炉
関西電力 大飯① 1979.3 117.5

関西電力 大飯② 1979.12 117.5

九州電力 玄海② 1981.3 55.9

四国電力 伊方② 1982.3 56.6

東京電力 福島2① 1982.4 110.0

(地元が廃炉要求)
東京電力 福島2② 1984.2 110.0

(地元が廃炉要求)
東北電力 女川① 1984.6 52.4

九州電力 川内① 1984.7 89.0 2013/7/8 2015/9/10 営業運転
関西電力 高浜③ 1985.1 87.0 2013/7/8 2016/1/29 再稼動、2016/3/9 運転差止
2016/8/2、テロ対策施設の設置計画を了承。
東京電力 福島2③ 1985.6 110.0

(地元が廃炉要求)
関西電力 高浜④ 1985.6 87.0 2013/7/8 2016/2/26 再稼動、直後にトラブル停止 2016/3/9 運転差止
2016/8/2、テロ対策施設の設置計画を了承。
東京電力 柏崎刈羽① 1985.9 110.0

九州電力 川内② 1985.11 89.0 2013/7/8 2015/11/17 営業運転
原電 敦賀② 1987.7 116.0 2014/11/5 2013/5/27 敦賀2号機直下の断層を活断層と断定
東京電力 福島2④ 1987.8 110.0

(地元が廃炉要求)
中部電力 浜岡③ 1987.8 110.0 2015/6/16
中国電力 島根② 1989.2 82.0 2013/12/25
北海道電力 泊① 1989.6 57.9 2013/7/8
東京電力 柏崎刈羽⑤ 1990.4 110.0

東京電力 柏崎刈羽② 1990.9 110.0

北海道電力 泊② 1991.4 57.9 2013/7/8
関西電力 大飯③ 1991.12 118.0 2013/7/8 2015/12/24 再稼働差し止めの仮処分申し立て却下
関西電力 大飯④ 1993.2 118.0 2013/7/8
北陸電力 志賀① 1993.7 54.0

2016/3/3  直下に活断層と最終判断
東京電力 柏崎刈羽③ 1993.8 110.0

中部電力 浜岡④ 1993.9 113.7 2014/2/14
九州電力 玄海③ 1994.3 118.0 2013/7/12
東京電力 柏崎刈羽④ 1994.8 110.0

四国電力 伊方③ 1994.12 89.0 2013/7/8 2015/7/15 安全審査合格 2016/6/23 核燃料搬入開始
2016/7/17
1次冷却水のポンプの部品に不具合
2016/8/12 再稼動
東北電力 女川② 1995.7 82.5 2013/12/27
東京電力 柏崎刈羽⑥ 1996.11 135.6 2013/9/27
東京電力 柏崎刈羽⑦ 1997.7 135.6 2013/9/27
九州電力 玄海④ 1997.7 118 2013/7/12
東北電力 女川③ 2002.1 82.5

中部電力 浜岡⑤ 2005.1 138.0

東北電力 東通 2005.12 110.0 2014/6/10
北陸電力 志賀② 2006.3 135.8 2014/8/12 2016/3/3 重要設備直下に活断層の可能性の判断
北海道電力 泊③ 2009.12 91.2 2013/7/8


京都大学は8月10日、玉木敬二教授(医学研究科)らの研究グループが、口腔内細胞のDNAを用いて、これまで親子・兄弟までしかできなかった2人の間の血縁関係を「また従兄弟」(いとこの子ども同士)まで判定できるDNA鑑定法を開発したと発表した。

同成果は7月29日に米国科学誌「PLOS ONE」に掲載された。

Pairwise Kinship Analysis by the Index of Chromosome Sharing Using High-Density Single Nucleotide Polymorphisms


ヒトは父親と母親からの染色体を1本ずつ23対持っている。

血縁が近い人同士は、血縁の遠い人や他人と比べて互いに同じ色の部分を多く持つため、血縁鑑定では、この同じ色の部分がどれほどあるかを検出すれば判定できる。

ところが、通常のDNA鑑定法(DNAの15箇所を検査)は、染色体にある複数の離れた場所の配列情報だけをDNA型として検出するため、血縁が遠くなって染色体の同じ部分が少なくなると、どこが同じ部分なのか分からなくなる。

現在の方法では、親子、兄弟までしか、完全には判断できない。


今回の方法は、DNAマイクロアレイを用いてDNAの配列上のわずかな違い(一塩基多型:SNPs)を174,254ヵ所 検査する。

この検査結果を有効に利用するため、「染色体共有指数」(ICS:Index of chromosome sharing ) を考案した。

検査した2人が特定の血縁関係にあるかどうかを、分布の高さ(確率密度)を利用する計算方法を用いて、確率的に評価する。

血縁関係が予想できる場合は、血縁関係がある場合とない場合の確率(尤度)を比較する尤度比で計算する。
尤度比が高いほど、血縁関係があることを意味する。

状況により、特定の血縁関係(兄弟なのか、伯父甥なのか、従兄弟なのか)が分からない場合があるが、この場合は確率密度とベイズの定理を応用した事後確率を算出し、決定する。

この方法を使うと、性別に関係なく、「いとこの子供」といった遠い縁戚関係でも99.9%の確立で判断できる。
「またいとこ」でも約94%の確立で、他人と鑑別できることが分かった。


今後の展望として、次のとおり述べている。

・ サンプル数を増やして精度の検証をしたい。

・ 今回は新鮮な頬の細胞を用いたが、遺体の場合、爪や歯や骨であることが多く、長期にわたり外環境にさらされて壊れているのが殆ど。
 このような試料からの確実に判定できるよう研究を続けたい。



 

日立オートモティブシステムズは8月20日、米国司法省との間で、一部の顧客へのショックアブソーバーの販売に関して米国独占禁止法に違反したとして、少なくとも55.48百万米ドルの罰金を支払うことなどを内容とする司法取引契約を締結したと発表した。

司法省によると、同社は1990年代央から2011年夏までの間、自動車メーカー向けのショックアブソーバーの供給の割り当てに同意した。同社と競合社とはまた、価格引き上げのため、自動車メーカーからの値下げ要請に対し協調した。


実は、同社は2013年9月26日に、自動車のスターター、オルタネーター、その他の電子部品の価格カルテルで司法取引を行い、195百万円の罰金を支払っている。

この件で、同社の社員1名が2015年4月に15ヶ月の禁固刑と2万ドルの罰金刑を受けている。
更に、他の社員3名が2014年9月に起訴されている。(恐らく、日本に居住のまま出頭せず、時効中断になっていると思われる)

司法省によると、同社はこの際に司法省の調査に協力し、罰金を割り引いてもらっている。しかし、ショックアブソーバーの件については申告しなかった。

このため司法省は、ガイドラインの罰金刑の幅の下限から著しく上に設定するよう、また、裁判所が同社を3年間の保護観察(Probation) に置くよう、裁判所に勧告した。
これは、違法行為で司法取引を行う際に、違法行為全体を明らかにしなかった場合の通常の対応である。

保護観察に置かれた企業は、コンプライアンス・プログラムを策定し、その実施等に係る遵守事項について監視される。

ーーー

これを含めると、自動車部品カルテルでの摘発は下記の通りとなる。

企業としては、46社が司法取引を行い、罰金合計は2,888百万ドルとなる。

このなかには、親会社と米国子会社が同時に起訴されたのが2組あり、日立は2度のため、実質は43社となる。
このうち、外国企業は5社だけで、日本企業が38社(うち米企業の日本子会社が1社)に及ぶ。

個人としては、起訴が64名(うち日本人63名)で、うち禁固刑・罰金刑を受けたのが31名(うち日本人が30名)となっており、残り33名(すべて日本人)が起訴のままとなっている。

詳細は 2015/9/7 日本ガイシ、 自動車用触媒担体のカルテルで米司法省と司法取引

S&Pは8月8日、韓国の国債格付けを「AAマイナス」 から「AA」に1段階引き上げた。同国として過去最高水準である。
S&P は2015年9月15日に
「Aプラス」から「AAマイナス」に1段階格上げしており、2年連続の引き上げとなった。

引き上げの理由について、順調な経済成長、対外健全性改善持続、十分な財政・通貨政策余力を挙げた。
韓国はこの数年間、先進国経済より堅調な成長を見せ、昨年は対外純債権に転換するなど対外部門の指標が改善したためと説明した。
「韓国の今年のGDP成長率は2.6%と予想されるが、これは主要先進国の0.3~1.5%より高い」としている。

また、見通しを「安定的」とした。北朝鮮をめぐる地政学的リスクが大きく高まることはないと判断したためとしている。
但し、北朝鮮との緊張が高まれば格付け引き下げの要因になり得ると説明している。

中国(AA-)より1段階、日本(A+)より 2段階高い。 

Moody'sは2015年12月19日、韓国の格付けを従来の「Aa3」から、今回のS&Pと同水準となる「Aa2」に引き上げている。

しかし、朝鮮日報社説は、「暮らし向きは悪化しているのに格付けだけ上昇する韓国経済」というタイトルで、次のように述べている。

2-3%という成長率は財政支出によって引き上げたものであり、対外債務の健全性や財政・通貨政策の余力は現在のような輸出不信と福祉費用急増による財政悪化を放置すれば決して長続きしない。

今の韓国経済はますます停滞の泥沼で苦しんでいる。政府が格付け上昇を自慢するほど余裕はない。

構造改革や輸出多角化など経済の体質改善がなければ、過去最高の格付けも水の泡にすぎない。

ーーー

日本の場合は、S&P は2015年9月16日に「AAマイナス」から「Aプラス」へと1段階引き下げた。

Moody'sは2014年12月1日に「A1」に、Fitchは2015年4月27日に「A」に、それぞれ1段階引き下げている。

2015/9/19 S&P、日本国債を格下げ、韓国国債は格上げ

ーーー

なお、6月23日の英国の国民投票でEU離脱の結果となったのを受け、6月27日に S&Pは「AAA」から「AA」に2段階、Fitchは「AA+」から「AA」へ1段階引き下げた。

また格付会社は本年に入り、原油価格の下落を受けて産油国の国債の格付けを引き下げた。
サウジについては、S&Pは2月17日に2段階、Moody'sは5月14日に1段階、Fitchは4月12日に1段階、それぞれ引き下げた。

主要国の格付けは下記の通り。 (青字は最近の格上げ、赤字は格下げ)

S&P Moody's- Fitch
AAA
ドイツ
カナダ
シンガポール
Aaa
ドイツ
カナダ
シンガポール
米国
AAA
ドイツ
カナダ
シンガポール
米国
AA+
米国
Aa1
英国
AA+
AA
韓国←AA- 2016/8/8)
英国(←AAA 2016/6/27) 
Aa2 韓国←Aa3 2015/12/18) AA
英国(←AA+ 2016/6/27)
AA-
中国
Aa3
中国
AA-
韓国
サウジ(←AA 2016/4/12)
A+
日本(←AA- 2015/6/16)
A1
日本←Aa3 2014/12/1)
サウジ←Aa3 2016/5/14)
A+
中国
A   A2 A 日本←A+ 2015/4/27)
A- サウジ(←A+ 2016/2/17)        

日本ゼオンと住友化学は8月4日、溶液重合法スチレンブタジエンゴム(S-SBR)事業の統合に向けた検討を開始することで基本合意したと発表した。

両社は、S-SBR事業における新製品開発やコスト競争力の強化、安定供給の確保等による事業強化を目的とし、新たな合弁会社の設立や、両社のシンガポール子会社を含めたS-SBR事業の合弁会社への移管などについて検討する。

9月末までにデューデリジェンスの実施および統合効果の調査・検討を行い、12月末の最終契約締結、2017年4月の新会社営業開始を予定している。

日本ゼオンは徳山とシンガポールで、住友化学もシンガポールで S-SBR の生産を行っている。
(他に住友化学は千葉にパイロットプラント10千トンを持つ)

場所 能力 運営子会社
日本ゼオン 徳山 55千トン
シンガポール S-BR併産
第一期 30~40千トン(2014)
第二期 30~40千トン(2016)
Zeon Chemicals Singapore
住友化学 千葉 10千トン
シンガポール 40千トン (2014) Sumitomo Chemical Asia


後記のとおり、シンガポールでは旭化成もS-SBRの生産を行っている。

ーーー

SBRは、ブタジエンとスチレンを主原料とする合成ゴムで、製造法により乳化重合法によるE-SBRと、溶液重合法によるS-SBR2タイプがある。

E-SBRは汎用タイヤ向けが主体。

S-SBRの主な用途は自動車のタイヤトレッドで、タイヤの安全性能(グリップ力)を確保しつつ省燃費性能(転がり抵抗)を同時に向上させるというニ律背反の関係を解決する材料として、省燃費型高性能タイヤ用の需要が急速に拡大している。

日本の各社は、環境規制の強化や環境意識の高まりを背景に世界的に省燃費型高性能タイヤの需要が拡大しており、特にアジアではモータリゼーションの急速な進展とタイヤ生産のアジアへのシフトにより、タイヤ用ゴム市場の成長が続いていることから、増強を行っている。

2010/12/27 溶液重合法SBRの増設相次ぐ

世界需要は2020年まで年率7-8%で拡大するとみられる。

しかし、合成ゴム事業での唯一の成長分野として、世界の各社が増設・新設を行っており、さらに多くの計画が続く。

2014年のIISRP(国際合成ゴム製造者協会)の総会でのスピーチ "Global Synthetic Rubber Overview 2014" では、各社の増設計画をもとに今後の需給を予想している。

それによると、2013年のS-SBRの能力 1,602千トンに対し、需要は 1,200千トン。
新増設計画を積み上げると2017年には能力は300万トン弱となり、需要の年率18%もの伸びが必要になる。

需要の伸びが年率7-8%であれば、大幅な供給過剰となるのは必至である。


各社の生産設備の増強により、競争は既に激化している。

住友化学は2016年3月期決算で、シンガポールのS-SBR 製造設備で 8,519百万円の減損損失を計上した。

今回、「世界中で増産が進み、1社で踏ん張っても難しくなる」とし、独力で商品開発を続けるよりも、ゴムを主力とする日本ゼオンに委ねたほうがよいと判断した。

8月4日付け日経の「ニュース一言」コラムで、住友化学の十倉社長は次のように述べている。

余剰資金が世界を徘徊しており、為替や原油価格の振れ幅は広がる。
右往左往せず、伸ばす事業には投資し、縮小撤退もいとわない。メリハリが重要だ。

住友化学と日本ゼオンは、新第一塩ビを設立するなど、親しい関係にある。
(住友化学と日本ゼオンはともに新第一塩ビから実質撤退している。)

ーーー

日本ゼオンと住友化学以外のアジアでの進出企業は下記の通り。

場所

能力(千トン)

備考
現行 計画
旭化成 川崎 105
シンガポール 100 第一期 50、第二期 50
大分 52 10 日本エラストマー
(旭化成 75%、昭和電工 25%)
JSR 四日市 60
タイ 50 50 JSR BST Elastomer
(
JSR 51%Bangkok Synthetics 49%)  
ハンガリー 60 JSR MOL Elastomer
(
JSR 51%、MOL 49%
錦湖石化 韓国 63 公称計画は120千トン
LG Chem 韓国 60
Lotte Versalis Elastomers 韓国 100 Lotte 50%、Versalis (Eni子会社) 50%
Synthetic Rubber Indonesia インドネシア 80 Michelin55%、Styrindo Mono Indonesia 45%
Liaoning North Dynasol Synthetic Rubber 中国遼寧省 50 Dynasol (Grupo KUO / Repsol) 50%
山西北方興安化學 50%
Zhucheng Guoxin Rubber 中国山東省 100
Keyuan Petrochemical 中国浙江省 150


三菱化学は8月5日、日本合成化学工業にTOBを実施すると発表した。1株当たり910円で買い付ける。完全子会社にすることを目指しており、買い付け額は最大で約430億円の見込み。

三菱化学は既に日本合成化学工業の発行済み株式の51.49%を保有しており、残りを買い付ける。
TOBは子会社の三菱化学ヨーロッパと共同で実施し、最終的に三菱化学が議決権を95%、三菱化学ヨーロッパが5%持つようにする。

三菱化学は、1963 年に日本合成化学と水島合成化学工業(現在は日本合成化学水島工場)を設立するとともに、資本参加するなど、長期にわたり提携関係にあった。

2009 年9月に連携強化のため、市場内取引によって株式を追加取得し、40.04%とし、連結子会社とした。
さらに、市場内にて株式を買い進めた結果、2013 年2月には議決権保有割合が過半数を超え、その後、2015 年8月に市場外取引によって取得した株式を含め、現時点では 51.49%を取得している。

日本合成化学は、1926年に木酢生産4社の共同研究によりアセチレンを原料とする酢酸の工業化生産技術を確立し、翌1927年に4社合同で日本合成化学研究所を設立したのに始まる。
1928年に日本合成化学工業に改称し、日本で初めての有機合成酢酸の工業化に成功した。

1936年には、日本で最初にアセチレン法による酢酸ビニルモノマーおよび酢酸ビニル樹脂の製造に成功した。

1963年に石油化学への原料転換のため水島コンビナートに進出を決定、三菱化成とのJVの水島合成化学工業を設立し、翌年アセトアルデヒドを原料とする酢酸及び酢酸エチルの生産を開始した。

現在の日本合成化学の主要製品は下記の通り。

商品 能力 世界シェア
PVOH
(ポリビニルアルコール)
「ゴーセノール」他 水島工場 40千トン
熊本工場 30千トン
合計   70千トン
PVOHフィルム 「OPLフィルム」他
(光学用)
大垣工場 2,500万㎡ / 年(2系列)
熊本工場 6,300万㎡ / 年(4系列)
合計   8,800万㎡ / 年(6系列)
大垣工場に第7系列(1,800万㎡)
2017年2Q完工予定
2位(約30%)
EVOH
(エチレンビニルアルコール共重合樹脂)
「ソアノール」他 水島工場  10千トン
NOLTEX (米国) 38千トン
NIPPON GOHSEI UK 18千トン
合計    66千トン
2位(約40%)

NOLTEXは、DuPontのEVOHプラントを買収
NIPPON GOHSEI UK はBP工場敷地内にある。

ーーー

なお、三菱化学、三菱樹脂及び三菱レイヨンは、2017 年4月1日に統合する予定。

2015/12/10 三菱化学、三菱樹脂及び三菱レイヨンの統合 

現状
統合後


IMFは8月2日、日本経済に関する年次審査スタッフ報告書を発表した。

 Japan : 2016 Article IV Consultation  発表文 (日本語)   Staff Report

日本経済の現況については、次のように述べている。

民間消費の弱さと投資の低迷によって減速し、インフレは上昇の勢いを失っている。
当局は、マイナス金利政策、追加的財政刺激策、消費税率引き上げ延期などの措置を取ったが、成長とインフレの見通しは引き続き弱いままである。

日本経済は2016年に約0.3%という緩慢なペースで成長すると期待され、2017年には(今後採用される経済対策による潜在的効果を除き) 0.1%に低下すると見込まれる。

アベノミクスは当初、期待の押し上げと日本経済の再活性化に進展をもたらしたが、構造的障害と、とりわけ構造面での政策の不足が、持続的な改善を難しくしている。

特に経済成長の見通しに対する信認の低さが投資と借入需要を抑制している。
労働市場の二重構造と硬直性が賃金の伸びを阻害しており、金融部門のリスク・テイキング支援は限定的である。
加えて、財政政策の変動と中期的な予算の見通しを支える楽観的な成長前提は、信頼できる中期的なアンカー(支え)のない財政政策をもたらし、政策の不透明性を高めている。

IMFの日本チームリーダーはワシントンで開いた記者会見で、政府の新たな経済対策について、全面的な効果を評価するには時期尚早との認識を示し、金融緩和や賃金上昇への取り組み、子育て手当の拡充など労働力縮小に対応した構造的障壁の除去など、政策オプションの一環として、景気刺激策を位置づける必要があるとした。

ーーー

IMFはこれに合わせ、「アベノミクスを再充填するには」(How to Reload Abenomics)という論文を発表した。

Reloadには、下の漫画のとおり、新しい矢をつがえるという意味を掛けている。

賃金アップとインフレ期待による「2%のインフレ率」、財政政策による「2020年までに基礎的財政収支プラス」、構造改革による「実質成長率2%」の3本の矢はいずれも的に当たらなかった。日本は新しい矢をつがえるか、的を代えるしかないとし、新しい矢について述べている。

概要は次のとおり。

試練-アベノミクス効果の弱まり

安倍晋三首相がまとめた金融政策による刺激と財政の「柔軟性」、構造改革の「3本の矢」からなる「アベノミクス」は当初は成功したが、ここにきて経済の勢いが弱まり、デフレリスクが再び高まっている。

日本の2016年の成長率は0.3%、2017年は0.1%で、総合インフレ率は2016年の0.2%から、2017年は 0.4%へ上昇する。
労働市場は経済の明るい部分で、2016年6月時点の失業率は3.1%と他国がうらやむ低さだ。しかしベース賃金の2016年の上昇率はわずか0.4%にとどまり、民間部門の消費と投資は低迷している。

今後を展望すると、消費者物価のインフレ率2%、実質成長率2%、2020年までの基礎的財政収支の均衡というアベノミクスの野心的な目標は、現在の政策では手の届かなくなっている。

日本の金融政策と財政政策による刺激余地は限られている。
これらの目標を達成するには日本はより大胆な改革が必要だ。

解決策― 3 主要分野に集中を

1. 所得政策を再充填し、企業に賃金上げを促すべし

インフレ率を上げる賃金と物価の好ましいダイナミクスを作動させるには、所得政策の後押しが必要となる。
・賃上げの規則を企業に求める。
・最終的には罰則の導入も視野に入れた税制上のインセンティブを拡大
・インフレ目標に整合した行政的に管理された賃金と物価の引き上げなど 

2. 労働市場改革

所得政策が有効性を持つためには、大規模な労働市場改革と持続的な財政・金融政策による需要の下支えが並行的に必要。

労働市場改革
・雇用保障と賃金上昇のバランスをよりよく取った雇用契約での新たな雇用を促進
・正規社員と賃金の低い臨時雇用社員に分断された現市場を消滅させていくことを目指す。
「同一労働・同一賃金」プログラムを加速

それに加え、
・税及び社会保障システムの改革
・利用可能な育児施設の増設
・外国人労働者の受け入れ促進
を通じてフルタイムの正規労働への障害を取り除くことができる。

また、継続的な需要の下支えは、賃金上昇の物価への転嫁を実現し、構造改革がデフレ圧力を生じさせないことを確実にするため必要となる。

3. 財政の持続可能性の達成

・消費税の段階的ながら着実な引き上げをできる限り早期に着手
・社会保障支出の伸びを抑制する明確な支出規則を制定

アベノミクスの約束を実現するには、日本は以下の実行が不可欠だ。

  • より野心的な構造改革を実行すべし。
     特に労働市場分野で、その二重性を縮小し、女性、高齢者、専門性を持つ外国人労働者の参加を奨励すべきである。

  • 賃金・物価のダイナミクスを拡大するポリシーミックスにより強力な所得政策を加えるべし。
     このダイナミクスは継続的かつバランスの取れた財政・金融政策によって実現される。

  • 事前に公表された着実な消費税引き上げの行程を伴った信頼される財政健全化計画にコミットすべし。
    また、課税ベースの拡大、社会保障制度改革、政策の信頼性を高める財政枠組みの強化が必要。

  • 金融政策の有効性と信頼性を向上すべし。
    より明確な対話とフォワードガイダンスのより有効的な活用でインフレ期待を引き上げることが必要。

  • 金融安定性をセーフガードすべし。
    それは銀行収益や国債市場流動性のモニタリングの強化、さらなる規制改革を通じて地方銀行の耐性を高めることを含む。




三井住友銀行は8月2日、秋田県の有力農業法人やNECグループなどと共同でコメ生産を手がける新会社「みらい共創ファーム秋田」を設立したと発表した。

高齢化で農作業が難しくなった農家から作業を請け負ったり、農家から土地を借りたりしてコメをつくる。

大規模営農化に伴うコスト削減、海外を含む新たな販路開拓等を通じた効率的で収益性の高い農業経営モデルの構築を目指すことで、農業の成長産業化や地方創生の実現といった我が国の課題解決に貢献していくとしている。

新会社の概要は次のとおりで、2016年4月1日施行の農地法改正を受けたもの。

社名 ㈱ みらい共創ファーム秋田
所在地 秋田県大潟村
出資金 165百万円
議決権
大潟村あきたこまち生産者協会 50.1%
NECキャピタルソリューション 30.0%
秋田銀行 5.0%
三井住友ファイナンス&リース 9.9%
三井住友銀行 5.0%
合計 100.0%
事業内容 農産物の生産および農作業の受託業務
農産物の販売業務
その他これに付随する業務

三井住友銀行は秋田銀行と同じく銀行法で5%しか出資できないが、事業全体を主導する。


今秋から人手が足りない農家から刈り取りや精米を請け負い、来年からは田んぼを借りて本格的な米の生産に乗り出す。
秋田での事業が軌道に乗れば、米づくりが盛んな他県にも広げていく。

三井住友銀行は農業を「成長分野」と位置づけており、自ら農業に参入して、貸し出しの増加などにつなげる狙いがある。

ーーー

農業協同組合法等の一部を改正する等の法律が2015年9月4日に公布され、2016年4月1日に施行された。

6次産業化等を通じた経営発展を促進するため、農地を所有できる法人の要件(議決権要件、役員の農作業従事要件)が見直された。

改正前 改正後
呼称 「農業生産法人」 「農地所有適格法人」
事業要件 売上高の過半が農業(販売・加工等含む) 同左
農業関係者の議決権 4分の3以上 2分の1超
農業関係者以外の者の 議決権 4分の1以下 2分の1未満
要件 関連事業者(法人と継続的取引関係を有する者)に限定 左を撤廃
(関連事業者以外も可能)
役員要件 役員の過半が農業(販売・加工含む)の常時従事者 同左
さらにその過半が農作業に従事 役員又は重要な使用人のうち、1人以上が農作業に従事
農業の6次産業化を進めようとすると、資本増強が必要となるが、改正前では議決権は農業関係者と関連事業者に限定されるため、外部資本の導入が出来ない。

また、6次産業化を進めると、販売・加工のウエイトが高まるが、改正前ではそれに従事する役員が限定されてしまう。

今回の改正により、農業関係者が2分の1以上出資し、役員の過半が農業(販売・加工含む)の常時従事者で、1人以上が農作業に従事していれば、その法人は農地を所有できることとなる。

この結果、これまでは出資できなかった (農業法人と継続的取引関係のない) 銀行などの出資が可能となり、また多額の外部資本の導入が可能となった。

今後農地の集約化や大型化が進むとみられる。


出光興産と昭和シェル石油の合併に反対している出光創業家は8月3日、昭和シェル株式を0.1%強を取得したと表明した。
出光興産の昭和シェル株式購入はこれを合わせると 1/3 を超えることとなり、TOBが必要で、出光興産が計画していたShell からの市場外での昭和シェル株式買収ができなくなる。

「両社は企業風土があわず、合併でも買収でもうまくいかない」と主張、「合併に最後まで反対する」として合併断念を迫った。

出光昭介名誉会長は、「異なった経歴の中で成立し働いている人々を、出光大家族の中に加え、同様に面倒を見ていく事に私は非常に危惧の念を抱きます」と統合反対の理由を述べている。

出光興産は、2000年5月、第三者割当により配当優先株式290万株の発行を決め、東海銀行、住友銀行、住友信託銀行、東京海上火災保険、住友生命の各社に割り当てた。
2006年10月24日に東京証券取引所第一部市場に上場した。

2006/10/28 出光興産上場

2000年5月に当時の出光昭社長が、外部資本の受け入れを表明、「数年後には上場も検討する」とぶち上げたのに対し、出光昭介会長が真っ向から反対した経緯がある。
この時は、
銀行の後押しを受けた社長派が勝利した。

創業家は、出光がシェルからの購入株数を減らして1/3 未満にしようとした場合に昭和シェル株の買い増しも検討しており、「昭和シェルに関する重要事項を伝えられるとインサイダー取引の可能性がある」として、今後は協議に応じないとしている。

創業家側は出光興産の議決権の33.92%を握っており、総会決議で拒否権を持つが、それに加え、新たな抵抗策をとったこととなり、出光興産にとり、一層ハードルが高まった。

日章興産 * 16.95%
出光文化福祉財団 7.75%
出光美術館 5.00%
(小計) (29.70%)
名誉会長 * 1.21%
長男 * 1.51%
次男 * 1.51%
合計 33.92%


付記 創業家側は8月8日、上記*の共同保有の届出を行った。21.18%となる。

昭和シェルとの合併は、出光興産のこれまでの歴史を一変するものであり、それについて経営者側が創業家と十分に話し合ってこなかったツケが出たといえる。

ーーー

出光経営陣は9月にも市場外で Shell 所有の昭和シェル株 35%のうち 33.3%を1株あたり 1,350円で買い取り、年内にも開く臨時株主総会で出光とシェルの合併の承認を得る計画でいる。

2014/12/22 出光興産、昭和シェル買収へ
2015/8/3 出光興産と昭和シェル石油、経営統合で基本合意
2015/11/16 出光興産と昭和シェル、経営統合に関する基本合意書締結

しかし、筆頭株主の日章興産などを通じて出光株の33.92%を握っている創業家は昭和シェルとの統合に反対している。

2016/6/29  出光興産の創業家、昭和シェルとの合併「反対」

出光興産の月岡隆社長と創業家の出光昭介名誉会長が7月11日に会談したが、理解を求めた経営陣に対し、創業家側は反対姿勢を譲らず、平行線のままだった。

このたび、出光昭介名誉会長が市場で昭和シェル株を40万株(発行済み株式の0.1%)を購入した。買い取り価格は4億円弱とみられる。

大株主の創業家は会社の「特別関係者」と見なされるため、出光側の保有割合が3分の1を超えることになり、TOBの義務が生じ、Shell のみから市場外で株を購入することが出来なくなる。TOBの場合、8月3日の終値が939円に対し、Shellとの契約価格は1,350円のため、多数株主が応じるとみられ、買収金額は膨れ上がる。

買取りを断念する場合は多額の違約金を支払う必要が出るとみられる。

ーーー

昭和シェルの株式状況は下記の通り。

株主 株数(千株) 持株比率(%) 購入金額
 (@1,350)
Shell出光興産 125,261.2 33.24 <1/3 1,691億円
出光昭介(特別関係者?) 400.0 0.11
(小計) (125.661.2) (33.35) >1/3
Shell (Anglo-Saxon Petroleum) 6,784.0 1.80
Aramco 56,380.0 14.96
その他株主 188,025.2 49.89 (2,538億円)
合計 376,850.4 100.00

金融商品取引法(第27条の2)では、下記の場合は公開買付が必要となっている。

①市場外での買付け等で株券等所有割合が5%超となるもの(著しく少数の者からの買付け等を除く)
②市場外での著しく少数の者からの買付行為で株券等所有割合が1/3 超となるもの
特別関係者がある場合にあつては、その株券等所有割合を加算したもの

「著しく少数の者」は「61 日間で10 名以内」 (金融商品取引法施行令)

「特別関係者」は、株券等の買付け等を行う者と、株式の所有関係、親族関係その他の政令で定める特別の関係にある者となっている。

政令では、下記の通りとしている。

①株式の所有関係、親族関係その他の特別の関係にある者。
  (法人の場合)
   ―買付者の役員
   ―買付者が特別資本関係にある法人等及びその役員
   ―買付者に対して特別資本関係にある個人、法人等、その法人等の役員

②買付者との間で、共同して対象株券等の取得・譲渡、議決権その他の権利の行使、買付後の相互の株券等の譲渡・譲受を合意している者

早稲田大学の黒沼教授は、「特別関係者」の規定は、「目的を共有して共に行動することを前提」としており、「合併阻止のために規定を利用することは想定されていない」としている。(日経) しかし、規定では、単に「特別の関係にある者」となっている。


フランス電力公社(EDF)がイングランド南西部サマセット州Hinkley Pointで進める新規原子力発電所Hinkley Point Cの建設プロジェクトに黄信号がついた。

中国広核集団(CGN) が33.5%を出資、残りをEDFが出資し、英国南西部サマセット州で160万kW級の欧州加圧水型炉(EPR)を2基建設するもの。

建設を主導するフランス電力(EDF)は7月28日、同原発の建設計画を決定した。

ところが、英政府は7月29日、中国広核集団、フランス電力、英政府による包括的原子力協力協定の調印式の数時間前というタイミングで、同計画の決定を「秋の初め」に遅らせると発表した。

中国政府は、「この事業は中英仏三者が互恵互利、協力・ウィンウィンの精神に基づき、英側と仏側の大きな支持を得てきたということを強調したい。英側が速やかに決定をし、事業の順調な実施を確保することを希望する」と述べた。

ーーー

英国政府は2009年11月に原発拡大策を発表した。
10か所に原発を新設し、2025年までに全電力の25%を原発で賄う計画(当時は全電力の13%)。

  稼働中 廃止 政府案
Berkeley    2基   
Bradwell    2基 
Calder Hall    4基   
Chapelcross    4基   
Dounreay DFR   2基   
Dungeness  2基   2基   
Hartlepool  2基   
Heysham  4基   
Hinkley Point  2基   2基 
Hunterston  2基   2基   
Oldbury  2基   
Sizewell  1基   2基 
Torness  2基     
Trawsfynydo    2基   
Windscale    1基   
Winfrith SGHWR    1基   
Wylfa  2基   
Braystones    
Sellafield    
Kirksanton    
合計  19基   26基   
 

しかし、福島事故による新しい安全対策などのさまざまな理由でコストが跳ね上がり、2012年以降、ドイツ、英国の企業が原発計画から撤退した。

英国政府は2013年、原発推進のため自然エネルギーの普及に使われている「固定価格買取制度」を原発に導入した。

フランスのEDF と英国政府は2013年10月、2基の原発リアクターの建設で合意した。
英国での原発新設は1995年完成したSizewell B 原発以来となる。2023年の運転開始を目指す。

総額160億英ポンド(うち建設費は140億英ポンド)を投じて、Hinkley Pointに欧州加圧水型原子炉(EPR) 2基(総出力320万kW)を建設する。
これに続いて、Sizewell に2基のEPRの建設を進める。
同型のものを建設することで、設計、購入、建設における経費節減を図る。("series benefit")

英国政府とEDFは今回、原子力発電での電力の固定価格買取価格(35年間)について、下記の通り合意した。

Sizewell での建設を決める場合 £89.50/MWh(約14.1円/kWh)
Hinkley Point単独の場合    £92.50/MWh(約14.6円/kWh)

2013/12/27 英国が原発建設再開、固定価格買取制度導入

2015年10月21日、英国を訪問していた中国の習近平国家主席は、フランス電力公社が進めるHinkley Point Cの建設プロジェクトに33.5%を出資することで正式に合意した。

中国広核集団(CGN) が33.5%を出資、残りはEDFが出資する。

同原発の運転開始は当初の計画より2年遅い2025年になるが、総投資額が180億ポンドと見込まれ、25千人の雇用を生み、約60年間にわたり、約600万世帯に電力を供給することになる。

当時のオズボーン財務相は9月に中国を訪問した際、同国の投資を促すため、英政府も自らHinkley Point Cに20億ポンドを投入することを確約していた。

中国はまた、EDFがイングランド東部のサフォーク州 Sizewell とエセックス州 Bradwellで予定する新規原発建設計画にも参画することで合意した。

Sizewellの新原発は中国から20%の出資を受け入れる。一方、Bradwell新原発は資金の2/3 を中国から受け入れるとともに、欧米で初めて中国製の原子炉を採用する。

2015/10/28 中国、英国の原発に出資、中国製原発も導入  

ーーー

これまで本計画については、英国の前のキャメロン政権が建設に積極的で、EDF側は建設負担でEDFの経営に影響が及ぶとの懸念がくすぶっており、今春にはCFOが辞任し、同社の複数の労働組合からも懸念が示されてきた。

英国の環境保護派や消費者団体などは、安全性の問題と、電力コスト大幅上昇などへの反対活動を続けている。

EDFは7月28日に取締役会で同原発の最終投資決定(FID)を票決した。2025年の運転開始を目指すとした。

取締役会に参加した17人の取締役のうち10人が賛成、7人が反対というかなりきわどいものだった。
また直前に、取締役の一人がCEOに宛てて「同事業は非常に危険で、EDFを破たんに導くリスクがある」との書面を送付し、辞任した。

EDFに85%出資するフランス政府は本計画に賛成していた。
報道によると、EDFのCEOは英語で書かれた2500ページの契約書をたった2日前に取締役会に提出し、議決を急いだという。賛成を強いられたとする取締役もいる。

BBCは、原子力当局による最終許可が28日中に降りる見込みとなったと報道した。

ところが、英国のメイ新首相は7月28日にフランスのオランド大統領と電話会談し、本プロジェクトについて決断を先送りする計画を説明した。
フランスと中国が出資するこのプロジェクトが英国の利益にかなうかどうか結論を出すまでに、時間が必要だと述べたという。


ーーー

今回のメイ首相の決断については、メイ内閣の一部の同僚も蚊帳の外に置かれたとされる。

報道では、事業に参画する中国の扱いや、英国のEU離脱決定後のEUとの交渉との関係などが取りざたされている。

メイ政権は現在、あらゆる政策見直し作業を行っており、本件もその一環である。

キャメロン前首相は、採算面での懸念を緩和するため、英中首脳交渉で、中国広核集団から33.5%の出資を確約させたほか、エセックス州のブラッドウェルに中国製原発の誘致を決めるなど、中国シフトを明瞭に打ち出した。

これに対し、メイ政権の支援者の一人は、 「原発での英中合意は、英国の安全保障を中国に売り渡すとともに、中国の資本を受け入れることで、中国の人権問題に英国が口をつむぐという"取引"をした」と批判してきた。
中国が建設した原発のコンピューターシステムに、何らかの細工を施し、彼らの意のままに原発をシャットダウンされるリスクが残るという指摘まである。

英国はEU離脱を決めたが、欧州の原子力商業利用の基本枠組みである欧州原子力共同体条約(ユーラトム)には残る。ドイツが原発全廃を打ち出しており、原発利用の主要国は事実上、英仏両国に絞られる。

これらの点から、中国とフランスに対する政策を確定するまで、本計画の最終決定を延ばしたと見られる。

今回は、英国では、政権党の党首=首相が交代しただけだが、まるで政権が交代したような印象を与える。

しかし、EU離脱という大変革を迎えるなか、今後の対中、対仏関係の検討の一環として本計画をどうするか再検討するのも当然であろう。

2016年7月のSaudi Aramco のArabian light 原油のアジア向けDD (Direct Deal)価格が43.48ドル/バレルと決まった。


Saudi Aramcoを含めた産油国のDD原油輸出価格は、当月の「指標原油」のスポット価格に「調整金」を加算したものとなっている。

Saudi Aramcoの場合、アジア市場、米国、欧州向けに別々の原油を「指標原油」として使っている。

アジア市場 Dubai とOman の平均値
米国 Argus Sour Crude Index
欧州 Brent


米国向けは従来、
WTI原油価格を指標価格として使用していたが、2010年1月1日から変更した。

Argus Sour Crude Index は米国メキシコ湾岸地域の中質サワー原油現物価格の指数で、メキシコ湾岸のMars、Poseidon、Southern Green Canyon原油の全ての取引の加重平均価格である。

WTI原油の価格は、WTI原油の受け渡しが行われるオクラホマ州Cushing 周辺での貯蔵能力の影響を大きく受けた。(当時はメキシコ湾岸への輸送パイプライン無し)
また、投機資金の影響で乱高下するなど、市場参加者からは、値決めの基準となる「マーカー原油」としての役割を疑問視する声が上がっていた。

2009/10/31 Saudi Aramco、米国向け輸出の原油価格決定で英Argus Mediaの指標を利用へ

注) 2014年3月時点ではメキシコ湾岸への3つのパイプラインが開通しており、Cusingでの在庫滞留は解消に向かった。

2011/11/17 WTI原油価格急騰 の付記参照


Saudi Aramco はこのたび、2016年9月の調整金を発表した。

アジア向けは前月比で1.30ドル引き下げ、-1.10ドルとなった。
米国向けは0.20ドル引き下げた一方、欧州向けは0.25ドル引き上げた。

アジア向けは2015年11月以降で最大の引き下げで、Bloombergは専門家の見方として、アジアの顧客企業を対象とした「市場シェア獲得競争」の一環で、特に2016年1月の制裁解除後に原油輸出を増やしているイランとの競合によるものとしている。

イランの生産量は日量360万バレル超と、制裁前の水準に回復しつつある。対抗するサウジは油田を増強、日量1000万バレルを上回る。(日経)

市場では石油製品の需要低迷が警戒され、原油先物の売りが加速したとの指摘があった。

8月2日の東京市場のドバイ原油スポット価格は40ドルを割り、39.10ドル/バレルとなっている。
(WTI原油も8月2日終値は39.51ドルとなった。)


この水準が続くと、9月のサウジ品Arabian light 原油価格は38ドルを割ることとなる。

 

ビール世界最大手のAB InBev は2015年11月11日、2位の英のSAB Miller を1株当たり44ポンド、総額 697億8000万英ポンド(約13兆円)で買収することに正式合意したと発表した。

2015/10/14 ビール世界最大手のAnheuser-Busch InBev、2位のSAB Millerを買収へ

このままでは独禁法上で問題になるのは確実なため、両社は対策を取った。(下記参照)

これが奏功し、EUは2016年5月24日、米国は7月20日、 そして最後の大物の中国商務部も7月29日に承認した。これで23国・地域の承認を得、残りは数少ない。

Asia-Pacific では、豪州、インド、韓国と中国が承認している。日本で公取委が審査しているという話は聞かない。
両社の日本でのシェアは小さく、合併しても全く影響がない。

しかし、英国のEU離脱選択を受けたポンド安が新たな問題として浮上した。

合意時のレートでは、700億ポンドは1,060億米ドルに相当する。
しかし、Brexitによる12%のポンド安で、これは920億ドルに目減りした。

株主の不満を受け、AB InBev は2016年7月26日、SAB Miller の買収価格を、これまでの44ポンドから45ポンドに引き上げた。最終提案であるとしている。
この結果、買収総額は790億ポンドになる。

但し、これでも米ドル換算では1,040億ドルで、当初のドル建てより低い。

部投資家は新たな買収価格でもSAB Millerの価値が過小評価され、株主が公平に扱われていないとして、引き続き提案は受け入れられないとの姿勢を示した。

SAB Millerの取締役会は7月29日、AB InBev の新提案(1株当たり45ポンド)を全会一致で支持を決め、株主にこれを受け入れるよう勧告した。

これによりビール業界史上最大の買収実現に向けて道筋が整った。

ーーー

独禁法対策は下記の通り。

1)米国

SAB Millerは保有するMillerCoorsの持株 58%を合弁相手の米 Molson Coors Brewing に120億ドルで売却する。
Molson Coorsは米国のビール市場でシェアを25%に伸ばし、ABインベブの45%に次ぐ2位に躍進する。

ーーー

米国は2016年7月20日、これを条件に承認した。

2)EU

AB InBev は2015年12月17日、SABMiller の欧州のブランド、Grolsch ビールとPeroni ビールを売りに出すことを明らかにし、3ヶ月以内の成約を求めた

アサヒビールは2016年2月10日、AB InBev に対し、AB InBevによるSABMillerの買収実行を条件として、SABMillerのイタリア、オランダ、英国事業その他関連資産を取得するための法的拘束力のある最終提案を行ったと発表した。

SABMillerのイタリア、オランダ、英国の事業を構成する会社の全株式と、3ブランドの知的財産権その他関連資産。
ただし、「Peroni」と「Grolsch」は米国・プエルトリコにおけるブランドに係る知的財産権を除く。

買収対象会社 ブランド  
Birra Peroni S.r.l.(伊) 「Peroni」 150年以上の歴史
Royal Grolsch NV(蘭) 「Grolsch」 400年の歴史
Meantime Brewing (英) 「Meantime」 英国のクラフトビールのパイオニア的ブランド
Miller Brands (UK) (英)    

2016/2/16 アサヒビール、英SABMillerの欧州事業の一部を買収 

AB InBev は4月19日、アサヒからの約29億ドルでの買収提案を受け入れた。

更にAB InBev は4月29日、SABMillerの中東欧事業を売却する意向と発表した。

SABMillerのハンガリー、ルーマニア、チェコ、スロバキア、ポーランドの全ての資産を売却する。売却額は50億ドル程度と推定される。
ブランドでは、ポーランドのTyskieとLech、ハンガリーのDreher、ルーマニアのUrsusなど。

これら中東欧の事業は1社または2社に売却される。

ーーー

EUは5月24日、AB InBev によるSABMiller買収を承認すると発表した。
既に対策として発表されていたSAB Miller の欧州のビール事業の実質的に全ての売却を条件とする。

2016/5/28 EU、AB InBev によるSABMiller 買収を承認

3)中国

香港の華潤ビール(China Resources Beer)は2016年3月2日、SABMiller とのJVの華潤雪花ビール(China Resources Snow Breweriesを100%子会社化すると発表した。
SABMillerの持分49%を総額16億ドルで買収する。

中国では、華潤雪花、青島ビール、AB InBevが3強で、AB InBevSABMillerを傘下に収めると中国でのシェアは40%近くになる。

これだけでもAB InBevによるSABMiller買収承認の障害となるが、2008年11月の InBev によるAnheuser Busch 買収の際に、中国商務部は、「華潤雪花ビールの株式保有を求めてはならない」との条件を付けて承認している。

このため、AB InBev はSABMiller買収の承認を得るため、華潤雪花ビールを手放すこととしたもの。

2016/3/5 SABMiller、華潤雪花ビールを売却

ーーー

中国商務部も7月29日、買収を承認、これでほぼ全ての国での承認を取得した。


7月11日のブログで、BrexitでEUが揺れるなか、経済不振に悩む南欧の各国に対する EU当局の対応が新たな混乱の火種となり、ギリシャ危機のような事態を招く可能性や、各国でEU離脱派が勢力を強める可能性があると述べた。

一つはイタリアの銀行の不良債権問題で、もう一つはスペインとポルトガルのEU財政規律違反問題である。

2016/7/11 EUに新たな混乱の火種

後者のEU財政規律違反問題については、下記の通りとなった。

EUの財務相理事会は7月12日、制裁を科す方針で合意した。最大でGDPの0.2%に当たる額の罰金が科される可能性がある。

しかし、欧州委員会は7月27日、スペインとポルトガルに対する罰金を科さず、規律達成期限を延長することを提案した。
「スペインとポルトガルがこれまでに実施した取り組みや現在の厳しい環境などを踏まえ、欧州委はこの日の会合で罰金の取り消しを提案することで合意した。」

欧州では経済成長が足踏み状態にあるなかで反EU感情が高まっており、制裁措置の発動に消極的になっていると見られる。

欧州委はスペインとポルトガルに財政ルールを達成するよう求める期限も延長。スペインは現行の2016年から2018年まで2年間、ポルトガルは現行の2015年から2016年まで1年間延ばすよう提案した。

財政ルール違反に対する制裁のもうひとつの手段であるEUから両国への補助金の支給停止については、欧州議会との合意が必要になるとの理由から、判断を秋以降に先送りした。

これに対し、EU加盟国は異論を示さない意向とされる。

フランスについては、財政赤字の対GDP比率を3%以内とする期限は2013年であったが、2度延長し、2017年までとしている。

フランスが目標達成できない場合、欧州委員会はフランスから罰金を取るだろうか?

ーーー

イタリアの銀行の不良債権問題 は下記の通り。

イタリア大手銀行のBanca Monte dei Paschi di Siena(Monte Paschi)は7月4日、欧州中央銀行(ECB)から不良債権比率を下げるように求める書簡を受け取ったと発表した。不良債権の総額を昨年の469億ユーロから2018年までに約30%削減するように求められた。

イタリア政府は公的資金注入による救済の検討を始めたが、EUが定めた銀行再建ルールが障碍となった。

金融危機を受け、EUでユーロを使う国々は各国でばらばらだった金融行政を一元化する「銀行同盟」を進めた。
銀行の破綻処理のルールも1月から施行し、まず銀行の債券などを持つ投資家に一定の割合の損失を負わせることにし、公的資金の利用を制限する仕組みにした。

 * Bail-in 制度:まず銀行の株主や債券保有者が銀行負債の8%相当の損失を負担する。
---- 従来の Bail-out(外部からの「保釈金」で危機を逃れる)に対し、銀行のStake holders が先ず資金を捻出する。

しかし、イタリアでは銀行の債権者に個人投資家も多いため(個人が銀行債を預金に近い感覚で購入している)、このルールを適用すれば反発を招くおそれがある。 

イタリア政府は欧州委員会に特例を求めているが、欧州委やドイツは、導入したばかりのルールを破ることに難色を示した。

イタリアの銀行の不良債権問題で新しい展開があった。

欧州銀行監督機構(EBA)は7月29日、大手51銀行(EU:50、ノルウェー:1)を対象に実施したストレステスト(健全性審査)の結果を公表した。

http://storage.eba.europa.eu/documents/10180/1532819/2016-EU-wide-stress-test-Results.pdf

審査は2015年末の資産状況を基に2018年末までの3年間で、大幅な景気悪化などが収益や資本に与える影響を評価した。
51行全体では2,690億ユーロの中核的自己資本が損なわれ、中核的自己資本比率は13.2%から9.4%に低下するとした。

今回の審査では合否判定を行わず、その基準も示されていない。

多額の不良債権が問題となっているイタリアのMonte dei Paschi di Siena(Monte Paschi)は、景気が大幅に悪化した場合、中核的自己資本比率 (Tier 1)が唯一マイナス(-2.44%) で最悪となり、同行の経営基盤の脆弱さが突出した。

他に、Allied Irish が2014年の前回査定で「合格ライン」とされた基準(5.5%)を下回り、7%を維持できない銀行が他に3行ある。

また基準が高い有力銀行で基準ギリギリの銀行も多い。Barclaysは基準(7.5%)を下回る。

銀行名 Threshold
(基準)
2015年 2018年
悪化ケース
基準比
(% point)
Monte dei Paschi Italy 5.5% 12.07% -2.44% -7.94
Allied Irish Ireland 5.5% 13.11% 4.31% -1.19
Raiffeisen Austria 5.5% 10.20% 6.12% +0.62
Bank of Ireland Ireland 5.5% 11.28% 6.15% +0.65
Banco Popular Spain 5.5% 10.20% 6.62% +1.12
以下はグローバルに重要なため、基準が高い銀行で、基準ギリギリの銀行
Unicredit Italy 6.5% 10.38% 7.10% +0.60
Societe Generale France 6.5% 10.91% 7.50% +1.00
Barclays UK 7.5% 11.35% 7.30% -0.20
Dutsche Bank Germany 7.5% 11.11% 7.80% +0.30
BNP Paribas France 7.5% 10.87% 8.51% +1.01
HSBC UK 8.0% 11.87% 8.76% +0.76
  

ストレステストは一定規模以上の銀行に限った。他にポルトガルやギリシャに問題を抱える銀行が多い。

欧州銀行監督機構の幹部は、欧州の銀行システムが抱える不良債権を一掃することに専念する必要があると語った。


Monte dei Paschi は7月29日、この発表の少し前に、資本増強や不良債権売却を柱とする再建計画を発表した。

JPMorgan とイタリアのMediobanca が主導でまとめた案で、まず92億ユーロの不良債権を証券化する。政府の呼びかけで同国の銀行や保険会社が参加した民間投資ファンドが一部を引き受け、残りは既存株主などに売る。

民間投資ファンド Atlante(銀行や保険会社が参画)が16億ユーロ
既存株主が16億ユーロ
その他の投資家が60億ユーロ

付記 Monte dei Paschi は不良債権を簿価の33%で売却することを決めた。

その後、再建策のとりまとめを手掛けたJPMorgan、Mediobanca などの銀行団を引受先に最大50億ユーロの増資を実施する。

引き受け銀行団には上記2行のほか、Goldman Sachs、Credit Suisse、Deutsche Bank、Bank of America Merrill Lynch、Santander、Citigroup の6行が参加を表明している。

増資および不良債権売却計画は年内に完了する見通し。

この再建策とは別に、スイスの金融大手UBS とイタリアの銀行大手Intesa Sanpaolo の元CEOのCorrado Passera 氏が支援の提案を行った。
支援内容は明らかにされていないが、
Monte dei Paschi はこれを拒否した。

欧州中央銀行(ECB)はMonte dei Paschi の再建策を承認したとされるが、実現を懸念する見方もある。



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