2013年3月アーカイブ

本年は産構法が施行されて30周年となる。
30年前をシリーズで振り返る。


1983年6月に告示された「エチレン製造業の構造改善基本計画」により、全国エチレン年産能力6,348千トンの36%に当たる同2,293千トンの設備を過剰設備として処理する目標が決まつた。

出光石化は千葉で22万トンプラント(設計能力30万トン)を建設中であったが、これも計算に含めた。

原則として設備廃棄によるものとするが休止により行なうことも妨げないものとされた。
(その場合、
当該設備の運転を不能にし、相当の期間と費用をかけないと再開が不可能となる状況にすることが求められた。)

目標の1988年6月末までの間は告示日現在建設中の出光千葉を除き、分解設備の新設、増設および改造(当該設備の更新、改良を除く)は行わないことになった。

実際には一律の設備処理には問題があるため、各社は生産受委託や非効率設備の優先処理により高効率の大型設備への集中に努力し、下記の設備処理を行った結果、処理量は2031千トン(処理 2251千トン、新設220千トン)、目標達成率は88.6%となった。

会社名 場所 設備能力
1983/8現在
(A)
要処理量

(B)

協議の結果

処理実施量
(処理区分)
(E)
処理後能力
1986/3現在
(F)
能力枠

(C)
要処理量

(D)=A-C

住友化学工業

大江 2

64.6

 

 

 

廃棄

64.6

0

3 74.8       廃棄 74.8 0
千葉 1 85.0       廃棄 85.0 0
2 345.0           345.0
合計 569.4 219.0 370.0 199.4 廃棄 224.4 345.0

日本石油化学

川崎 1

52.0

 

 

 

廃棄 52.0

0

2 62.0       休止 62.0 0
3 127.0       休止 127.0 0
浮島石化
浮島
342.0           342.0
合計 583.0 238.0 364.0 219.0 廃棄
休止
52.0
189.0
342.0

丸善石油化学

千葉 2 110.0       廃棄
 
110.0
 

0

3 395.0       部分休止 22.0 373.0
合計 505.0 171.0 352.0 153.0 休止
部分休止
110.0
22.0
373.0

三井石油化学

岩国 2 87.0

 

 

 

廃棄 87.0

0

3 92.0       休止 92.0 0
千葉 4 143.0       廃棄 143.0 0
浮島石化
千葉
466.0           466.0
合計 788.0 325.0 489.0 299.0 廃棄
休止
230.0
92.0
466.0

三菱油化

四日市 2 80.0

 

 

 

廃棄 80.0

0

3 120.0       休止 120.0 0
4 250.0       部分休止 39.3 210.7
鹿島 1 350.0       部分休 51.0 299.0
合計 800.0 317.0 510.0 290.3 廃棄
休止
部分休
80.0
120.0
90.3
509.7

三菱化成

 

水島 1

67.0

 

 

 

廃棄

67.0

0

2 110.0      

廃棄

110.0 0
水島エチレン

360.0

 

 

     

360.0

合計 537.0 163.0 395.0 142.0   177.0 360.0

東燃石油化学

川崎 1

93.0

      休止 93.0

0

2 130.0       休止 130.0 0
3 350.0           350.0
合計 573.0 231.0 361.0 212.0 休止 223.0 350.0

昭和電工

大分 1

221.0

     

休止

221.0

0

2 320.0           320.0
合計 541.0 208.0 351.0 190.0   221.0 320.0

新大協和石化
(東ソー)

四日市 1 41.3      

廃棄

41.3 0
2 320.0      

部分休

54.1 265.9
合計 361.3 136.0 237.0 124.3

廃棄
部分休

41.3
54.1
265.9

出光石油化学

徳山 1

120.0

 

 

 

廃棄

120.0

0

2 260.0       部分休 95.7 164.3
千葉 0      

新設

△220.0 220.0
合計 380.0 95.0 354.0 26.0 部分休
新設
215.7
△220.0
384.3
 

大阪石油化学
(三井東圧)

泉北

320.0

105.0

227.0

93.0

部分休 68.0

252.0

山陽エチレン
(旭化成)

 

390.0

85.0

322.0

68.0

部分休 41.5

348.5

合計

 

6,347.7

2,293.0

4,332.0

2,015.7

 

2,031.3

4,316.4

備考

18工場
32系列

         

13工場
14系列

 

出光石油化学は既に認可を得ている千葉の30万トンエチレン建設着工を1982年10月に1年半延期、1985年6月に能力を落として22万トンでスタートさせた。

住友化学・愛媛はカルテル発効以前の1983年1月に自主的に停止を決めている。
住友化学・愛媛に続いて三井石油化学・岩国大竹と日本石油化学・川崎工場のエチレ
ン生産が 1985年3月に休止され、石油化学工業の第1期計画で稼働した4工場のうち3工場のエチレン設備が休止され、その後廃棄された。

この処理の結果、全工場平均の1プラント当たり能力198千トンであったのが、308千トンとなった。




本年は産構法が施行されて30周年となる。
30年前をシリーズで振り返る。


1979年1月には第2次石油危機が発生し、3万円/kl程度であったナフサ価格は一気に6万円/klまで上昇、需要が激減し、不況が深刻化した。

塩ビ業界の赤字は、1980年には 323億円となり、危機的な状況となった。(1981年470億円、82年 407億円)

このため、塩ビ業界は他の業種に先行し、産構法によらず共販会社体制に移り、第一塩ビ販売が1982年4月にスタートし た。

2012/4/3  塩ビ共販誕生から30年

通産省は、産業構造審議会を中心に事態の打開策を検討していたが、1982年7月に同審議会化学工業部会に石油化学産業体制委員会、翌8月同審議会総合部会に基礎素材産業対策特別委員会を設置し、さらに具体策を深めていった。

石油化学業界では1982年10月、エチレンセンター13社の社長で編成された石油化学産業調査団が訪欧、石油化学事情を調査するとともに、不況の脱出策を協議した。

高杉良の「局長罷免 小説通産省」は以下の通り書かれている。

 石油化学工業の中核部門であるエチレンセンター13社の社長で編成された石油化学産業調査団が欧米に派遣されたのは、ランブイエ・サミットの7年後である。

 同調査団は、欧州の石油化学事情を調査することを目的としていたが、これはあくまでおもて向きで、不況の脱出策を協議することが本来の狙いであった。
 利害対立が激し
く、メーカー間の相互信頼関係が著しく損なわれていた中で、斎藤(内藤正久基礎化学品課長)は各社首脳を精力的に訪問し、調査団の必要性について説いた。斎藤の水際立った根回しの見事さを青山(通産省)はすぐ近くでつぶさに見ていたのである。

 住之江化学の堤
武夫社長(住友化学 土方武社長)を団長とする大型ミッションが最初の訪問地フランクフルトに向けて成田空港を発ったのは昭和57年10月2日のことだ。一行は随員を含めて総勢20名、副団長は光陵油化の吉岡正雄社長(三菱油化 吉田正樹社長)と昭栄化学の西本康之社長(昭和電工 岸本泰延社長)。通産省から斎藤ほか2名が参加した。

 斎藤の存在なくして調査団
はあり得なかったし、その後の石油化学工業の再生、収益改善など望むべくもなかった、といま青山は確信をもって断言できる。

 一行は2週間
にわたってフランクフルト、ブラッセル、パリ、ロンドンなどを回り、西独BASF社、オランダDSM社、CEFIC(欧州化学工業連盟)、EC委員会、フランス政府工業省、英BPケミカルズ、ICI社などの首脳と意見を交換する一方、円卓会議を頻繁に開催し、不況対策について話し合った。

 調査団の帰国後、各社の首脳間に相互信頼感が芽生え、過剰エチレン設備等の廃棄、ポリエチレン、ポリプロピレンなどポリオレフィンの共同販売会社の設立など抜本的な構造改善対策が次々に打ち出され、構造不況に陥っていた石油化学工業は急速に立ち直ってゆく。

ーーー

内藤局長は1993年に通産省内部の紛争に巻き込まれ、熊谷弘通産大臣に罷免された。
調査団メンバーはその後も同氏を囲むランブイエ会を開催していたという。


調査報告書の中で業界対応については以下の通り記載されている。

過剰設備の処理
  過剰設備の処理の進め方は、マスタープランを作成して進める方法のほかに、バイラテラルな形で進めていくことも現実的方法として有効であるとの見解が示された。
過当競争の排除
  不況の原因の本質は企業数過多、設備過剰に伴う過当競争にあるとの指摘が多く、事業の交換、限界企業の撤退などを通して企業数を半分程度にすることが必要であるとの見解が示された。基礎的石油化学製品については共同生産が有効であるとの見解も示された。
高品質、高付加価値化等のための技術開発の推進

1982年12月、石油化学産業体制委員会は、「石油化学工業の産業体制整備のあり方について」を通産大臣に具申した。

内容は、
 ①過剰設備の処理、
 ②投資調整の実施、
 ③生産・販売の合理化のための集約化、
 ④コスト低減対策の実施、
 ⑤海外プロジェクトヘの対応
の5項目を骨子とするものであった。

これらの構造不況対策を実施するため、政府は1983年2月15日に「特定不況産業安定臨時措置法の一部を改正する法律案」を国会に提出、5月24日に「特定産業構造改善臨時措置法(産構法)」が、1988年6月30日を期限とする時限立法として施行された。

  1  特定産業の指定
石油化学工業などの7業種を法定候補業種として指定し、それら事業者の申出を受けて政令で特定産業に指定する。
  2  構造改善計画の策定
主務大臣は特定産業ごとに審議会の意見を聴いて構造改善基本計画を告示する。
同計画には①構造改善目標、②設備処理に関する事項、③設備新増設などの制限、禁止に関する事項、④事業提携など規模または生産方式の適正化に必要な事項、⑤雇用、関連中小企業などへの配慮事項を定める。
  3  共同行為
事業者が自主的努力のみでは設備処理などを実施できない場合には、主務大臣は公正取引委員会の同意を得て共同行為の実施を指示できる。
  4  事業提携計画の承認
事業提携につき独占禁止法との調整および税制上の特例措置を希望する者は共同して事業提携計画を作成し、主務大臣の承認を受ける。
  5  設備処理、事業提携、活性化投資について資金確保および課税の特例措置を行う
  6  雇用の安定、関連中小企業の経営安定のための措置を行う
  7  昭和63年6月30日を期限とする

石油化学関連では以下の製品で構造改善基本計画が作成された。

種名        特定産業
指定日
     構造改善基本計画の概要
目標年度     設備処理 構造改善の重点
処理目標 処理期
エチレン 1983/6/17 1988/6/30

229万t(36%)

1985/3/31 高効率設備への生産集約化
ポリオレフイン 1983/6/17 1988/6/30

90万t(22%)

1985/6/30 4共販会社の設立、これを核とした
生産流通等の合理化
塩化ビニル樹脂 1983/6/17 1988/6/30

49万t(24%)

1985/3/31 1982年4共販会社設立済
今後これ
を核に生産流通

の合理化
エチレンオキサイド 1983/8/30 1988/6/30

20.1万t(27%)

1985/6/30 高効率設備への生産集中
スチレンモノマー

1985/1

     1985/9/30  


エチレンオキサイドは、指示カルテルによらず業界各社が自主的に設備処理を行った。
スチレンモノマーは、遅れて1985年1月に産構法の業種指定となった。設備処理は各社が自主的に進めた。

 

 

1983年5月24日「特定産業構造改善臨時措置法(産構法)」が、1988年6月30日を期限とする時限立法として施行された。

本年は産構法が施行されて30周年となる。
30年前をシリーズで振り返る。


1979年1月に第2次石油危機が発生し、3万円/kl程度であったナフサ価格は一気に6万円/klまで上昇、需要が激減し、不況が深刻化した。

塩ビ樹脂を例に見ると、以下の通りとなる。

1977年以降、能力は200万トン程度で推移したが、生産量は100~150万トンとなっており、大幅な能力過剰となっていた。
当時は輸出は少量(10万トン未満)で、内需の低迷を意味する。

この結果、業界損益は莫大な赤字が継続し、1981年度には470億円もの赤字となった。

その塩ビ業界も、1986年度には若干の黒字となり、産構法の終わった88年度には100億円の黒字となった。

では、この業績改善は産構法の効果であろうか。

(塩ビ業界は産構法に1年先立ち共販会社をつくり、産構法で設備処理を行った。)

確かに塩ビの供給能力は産構法で200万トンから170万トンに減っている。しかし、需要が1987年以降、増加に転じており、産構法終了後にはむしろ供給不足となり、通産省の要請で信越化学が業界唯一の休止設備を再稼働させ、全体能力は再度、200万トンに戻っている。

需要の増大は、1985年末からの原油価格の下落による影響が大きい。
原油価格高騰で抑えられていた需要が、原油価格の下落で復活したものである。

国産ナフサ価格推移

1985/ 1Q 45,800 円/kl
  2Q 45,800  
  3Q 44,800  
  4Q 39,400  

1986/

1Q 31,300  
  2Q 16,900  
  3Q 15,100  

他の業界も同様で、エチレンやポリオレフィンでも休止設備を再稼働させるとともに、新増設を行っている。

逆にいえば、「産業構造の改善」のための産構法であった筈だが、業界の要請を受け入れ、設備休止も認めたため、原油価格低下により需要が復活すると休止設備はほとんど全て再稼働されて元に戻り、更に新増設も相次いだ。

一時的な設備カルテルに止まり、「構造改善」が出来ないまま、小規模多数工場という状況が現在に至っている。

ーーー

では何故、原油価格が急落したのか。実はこの時代の原油もバブルであった。
全てが冷静に行動すれば価格の急上昇が起こらない筈が、人為的に高価格となり、最後にバブルが弾け、
急暴落したものである。

原油の代わりに国産ナフサ基準価格で流れを見る。国産ナフサ基準価格は1982年7月以降、輸入価格スライドとなっている。
(この経緯については 
2006/7/29 2Qの国産ナフサ基準価格 49,800円/klに 参照)

OPECは1960年9月に設立されたが、1973年までは影響はほとんどなく、日本のナフサ価格も低位で安定していた。

1973年10月に第四次中東戦争がはじまり、OPECは原油価格を70%引き上げるとともに先進諸国に石油禁輸を行い、石油が武器として使われた。(第一次石油危機)

1978年12月にイランのストで原油輸出停止でパニックが起こり、翌1979年にはイラン革命が起こった。
1980年にはイランーイラク戦争が勃発した。

需要各国はパニックになり、1社が高値を受諾すると、他社は更に高い価格を受け入れ、原油価格は急騰した。

実際にはアラスカや北海油田などの新しいソースが動き始め、供給が増え始めた。
OPECは1982年3月に生産枠を決め、真のカルテルに移行し、高値を維持しようとした。

その後、アラスカや北海油田のほか、原子力、天然ガスなどの新しいエネルギーソースが増え、また各国で省エネを進めたため、価格が下がり始めた。

しかし、OPEC諸国は一度増えた収入を維持しようとして、生産枠を破って増産、サウジ一国がスイング国として価格維持のため減産した。

1985年に入り、サウジのシェアは大幅にダウンしたため、スイング国をやめると宣言、値下げ販売を行ったため、各国が追随し、大幅な価格下落となった。

結局は原油価格アップが他のソースの供給増と省エネによる需要減を生み、価格は元に戻った形となったが、パニック買いにより異常な高値となり、OPECの生産枠カルテルとサウジによるカルテル防衛策が長期の高値水準が続く原因となった。




武田薬品工業は3月26日、大阪国税不服審判所長より同社の主張を認容する旨の裁決書を受領したと発表した。
この結果、法人税・地方税等が全額還付されることとなり、還付加算金と併せ152億円が還付される。

前回の還付と合わせ、更生処分の全額が還付される。

ーーー

武田薬品は2006年6月、米国アボットとの50:50の合弁会社(当時)のTAPファーマシューティカル・プロダクツ(TAP)との間の消化性潰瘍治療剤「プレバシド」の製品供給取引等に関して、米国市場から得られる利益が武田に過少に配分されているとして、移転価格税制に基づき、大阪国税局より所得金額で6年間で1,223億円の所得の更正を受け、約570億円の追徴税額を課せられた。

武田薬品は、TAPとの取引価格はアボットの合意なしには決められず、独立企業間価格であり、移転価格税制が適用されるべきものではないとした。
本ブログも、通常は50/50JVとの取引価格は独立企業間価格とみられ、移転価格税制は適用されず、武田側の主張は当然であるとした。

2006/6/29 武田薬品、移転価格税制に基づく更正

武田薬品は2006年8月に大阪国税局に異議申し立てをおこなったが、2008年7月にこれを中断し、二重課税の排除を求めて国税庁に対し米国との相互協議を申し立てた。
しかし、相互協議が合意に至らず終了したため(米国側が合意しないのは当然のこと)、同社は一旦中断していた異議申し立て手続きについて大阪国税局へ再開を申し入れた。

武田薬品は2012年4月6日、更生された所得金額1,223億円のうち977億円を取り消す異議決定書を受領したと発表した。
455億円が還付され、還付加算金が116億円支払われた。

2012/4/9 武田薬品の移転価格税制での更正処分で異議決定 

大阪国税局が残りの246億円分の異議を認めなかった理由が分からない。

武田薬品は5月7日、残りの部分の全額の取り消しを求める審査請求書を、大阪国税不服審判所に提出した。

今回、これについて、同社の主張が容認された。
当初の追徴税の570億円全額に加え、還付加算金(金利:
2010年以降は年4.3%)として153億円もの多額が払われることとなる。


ーーー

付記

デンソーは3月27日、移転価格課税に基づく更正通知を受領したと発表した。

同社は2008年7月1日、名古屋国税局より、海外子会社との間の2002年3月期から2007年3月期までの6年間の取引に関して、独立企業間価格と異なるとの当局の判断により、更正処分の通知を受領したと発表した。
更正所得金額は155億円で、追徴税額は地方税等を含め、合計約73億円となる。

同社はこれを不服として、名古屋国税局に異議申し立てを行う一方で、二重課税の排除を目的として、国税庁に対して租税条約に基づく海外税務当局との相互協議の申し立てを行った。

今般、協議が合意に達した旨の通知を受領したもので、二重課税が完全に排除されることとなり、同社は追徴税額73億円のうち、日本側で約39億円(地方税等を含む)の還付を受けるとともに、当社海外子会社側でも海外当局より税還付を受ける。


キプロスとトロイカ(欧州中央銀行:ECB、欧州委員会、国際通貨基金:IMF)は3月25日、キプロスの金融支援策で合意に達し、その合意内容がブリュッセルのユーロ圏財務相会合で承認された。

合意内容は以下の通り。

1.すべての銀行の保険対象預金(10万ユーロ未満)は、EUの関連規則に従って完全に保護される。

2.国内2位のLaiki Bank(Cyprus Popular Bank)を株主、社債保有者、保険対象外の預金者の負担で整理する。 

銀行破綻処理制度により、キプロス中銀の決定に基づいて進める。   

Laiki BankはBad Bank とGood Bank に分離する。

Bad Bankには10万ユーロ以上の預金と不良貸し付け債権を残し、段階的に 整理する。
損失がいくらかは不明だが、預金のうち、40%程度が失われるとの試算がある。

残りのGood Bankは、銀行整理フレームワークに基き、第1位銀行のBank of Cyprusに編入する。

3.Bank of Cyprus

資本再編が発効するまで、保険対象外(10万ユーロ以上)の預金のみ凍結する。

Bank of Cyprusは、保険対象外預金と社債の株式転換を通じて資本を再編する。
プログラム終了時点の自己資本比率が9%になるよう設計する。

預金の50%以上が株式に変換されると見込まれている。

キプロス政府はこれにより、ユーロ圏から支援の前提条件として求められていた58億ユーロの財源を確保し、ユーロ圏などは最大100億ユーロの支援を実施する。

今回の仕組みは預金者への課税でなく、3月22日に急遽可決され、法制化された銀行破綻処理制度に基づくため、新たな議決を必要としない。

付記

ユーロ圏17か国は4月12日、キプロスの財政再建策を正式決定した。
当初総額170億ユーロが必要で、そのうち100億ドルをユーロ圏とIMFが支援する計画であったが、総額は230億ドルに増加した。

ユーロ圏が90億ユーロ、IMFが10億ユーロを融資する。

キプロスはLaiki Bankの破産処理、Bank of Cyprusの資本再編のほか、増税と支出カットで対応する。金準備の売却も検討されている。

ーーー

当初EU側が、EU関連規則で保護されている10万ユーロ未満の預金にも課税を要求したため、国民の反対を受けたキプロス議会が承認せず、混乱を生じた。


決着までに以下の経緯があった。

3月16日   ユーロ圏財務相会合は キプロスに対して、銀行預金への課税という前例のない措置を盛り込んだ100億ユーロ規模の救済計画に合意。
 2013/3/17  ユーロ圏、預金課税を条件にキプロス支援を決定
     
3月19日   キプロス議会は銀行預金に課税する法案について採決し、反対36、賛成0、棄権19、欠席1で否決。
 2013/3/20 キプロス情勢、混迷
     
3月20日   キプロス財務相、訪露し、25億ユーロの返済期限(2016年)の延長と金利引き下げを要請
(3月22日、トロイカの決定待ちとして交渉打ち切り)
     
3月21日   キプロス中銀、金融機関の無秩序な破綻を回避するための整理・再建策を盛り込んだ法案を公表
     
3月22日   キプロス議会、金融システムの整理・再建法案を可決。
経営が悪化している同国第二位のLaiki Bank(Cyprus Popular Bank)に適用。
  
通常業務を受け継ぐGood Bankと不良債権処理に専念する機関Bad Bankに分割
   Good Bankは
Bank of Cyprusに統合


キプロス議会、銀行からの資金流出規制を導入する権限を政府に付与する法案も可決。
(ユーロゾーンで初)

キプロス議会、年金基金やその他国家資産を財源とする「団結基金(solidarity fund)」を創設する法案を可決
   緊急時における債券発行が可能

ギリシャのPiraeus Bank、キプロスの2大銀行(Bank of CyprusとLaiki Bank)のギリシャ支店を買収
 (預金140億ユーロ、貸出 170億ユーロ)

     
3月23日   キプロス政府とトロイカ、Bank of Cyprusの10万ユーロ超の預金に25%課税することで合意。
 議会採決を目指すも失敗
     
3月24日   キプロス大統領がEU首脳と11時間以上の談判で25日未明に合意

ーーー

今回の処理により、低税率と緩やかな規制で集めていたロシア等からの預金に損害を与えることとなり、オフショアセンターとしての地位は危うくなる。


付記

3月28日、キプロスの銀行が約2週間ぶりに営業を再開した。

小切手の換金禁止
1日の預金引き出し限度額を300ユーロに制限

海外送金は輸入代金支払いや留学生への送金に限定
5000ユーロ以上の商取引をすべて中銀が精査

国外への現金持ち出しは1000ユーロに制限、空港での厳しい手荷物検査

「規制はユーロより格下の『キプロス・ユーロ』を生む」(ロイター通信)との見方が出ている。



 

BPは3月22日、合計80億ドルに及ぶ自社株買いを実施すると発表した。

BPは2012年10月に露石油最大手 Rosneftに、BPとロシアの投資家グループAlfa-Access-Renova(AAR)の合弁のロシアの石油会社TNK-BPの持株(50%)を売却する契約を締結し、本年3月21日に取引を完了した。

BPは2003年に80億ドルを出してTNK-BPを設立したが、現在までの10年で合計190億ドルの配当を受領している。
今回の売却で、BPはRosneft株の18.5%と現金124.8億ドル(BPが2012/12に受領したTNK-BPの配当7.1億ドルを含む)を受領した。

TNK-BP持株の対価として現金166.5億ドルとRosneft株12.84%
別途、ロシア政府(OFSC ROSNEFTEGAZ)からRosneft株5.66%を48.7億ドルで購入。
2012/12に受領のTNK-BPの配当 7.1億ドル
差引合計 Rosneft株の18.5%と現金124.8億ドル

BPは既に取得している分を含め、Rosneftへの出資比率は19.75%となる。

2012/10/24 ロシアのRosneft、TNK-BPを買収

自社株買いは12~18か月をかけて実施される予定で、購入した自社株は消却される。

BPはTNK-BP持株の売却代金の残り44.8億ドルについては借入金返済に使用する。

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BPは2012年11月15日、2010年4月のルイジアナ州で掘削中の海洋掘削プラットフォームDeepwater Horizon rig での爆発事故に関して、司法省によるすべての刑事訴訟で和解したと発表した。合わせて米証券取引委員会(SEC)とも和解した。

この和解で搊失額は 419.5億ドルとなる。

残る民事訴訟にはいろいろあるが、Clean Water Actによる連邦政府との民事訴訟が大きく、流出量が300万バレルとしても、過失無しの場合で罰金は33億ドル、重大な過失があるとされれば、129億ドルとなる。(500万バレルの場合、55億ドルと215億ドル)

2012/11/17  BP、Deepwater Horizon事故に関する米政府の全ての刑事訴訟で和解 

BPは流出事故費用をまかなうため、また、BPの強みと成長機会を生かすため、2010年から2013年の間で380億ドルの資産売却を目標としている。

2010年以降の資産売却は2012年末で378億ドルに達している。( 過去の売却実績




米国では共和党と民主党が上下院でねじれを起こしているため、2013会計年度(2012年10月~2013年9月)の予算は承認されておらず、暫定予算で運営してきた。

この暫定予算が3月27日に期限切れとなるため、政府機関の閉鎖のおそれがあった。

政府機関の閉鎖回避のための今年度末(9月30日)までの暫定予算案は、まず、野党共和党が過半を占める下院で3月6日に賛成多数で可決された。
3月1日に発効した政府予算 強制削減措置の削減幅は維持しつつ、軍事費についてはどの項目を削るかを国防総省に任せる案だった。

与党民主党が過半を占める上院は、非軍事費でも一部に柔軟性をもたせる修正を加え、3月20日に賛成73、反対26で承認した。

翌21日、下院は上院が修正した案を賛成318、反対109で承認した。
オバマ大統領の署名を経て成立する。

米国ではオバマ政権が発足してから4年間、本予算が一度も通らず、それまでの支出のペースを維持する短期の暫定予算をつないでいる。

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2012年末以降、米国で減税の期限切れと政府支出の強制削減がほぼ同時に訪れる「財政の崖」の攻防が行われている。

2012/12/31 「財政の崖」問題を当面回避

 年収40万ドル超(夫婦合算申告では45万ドル超)の個人の所得税減税措置の打ち切り、その他
 
政府予算の強制削減措置については、2カ月間延長する。

2013/1/4 米国、「財政の崖」問題を当面回避

2013/2/4 米国の国債発行の法定上限を暫定的に引き上げる法案成立
  2013年5月半ばまでに限って法定上限を超える国債の発行を政府に認める。
2013/3/1 政府予算の強制削減措置 発効

2011年7月に国債発行の上限を引き上げた際に、条件として財政削減を義務付け、これが出来ない場合には、強制削減することを決めた。1年半かけても合意できなかった。

2011/8/3  米国、債務上限引き上げ、デフォルト回避

 ・ 米政府の支出を今後10年間で計1兆2千億ドルを強制的に削減
  ・ 2013会計年度(2012/10-2013/9)で850億ドルを削減
      国防費が13%、国防費以外が約9%削減

2013/3/21 暫定予算案を承認
 850億ドルの歳出強制削減を維持、削減に一定の裁量

◎次の問題は2013年5月半ばの国債発行の上限期限切れ

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現在の米議会の勢力図は以下の通り。

  定数 民主党 共和党
上院 100 55 45
下院 435 201 234
上院民主党は民主党会派2名を含む。

2012年の大統領選挙に当たり、両党は選挙公約となる政策綱領を決めたが、税金と社会福祉については全く異なっている。

民主党 「成長する中間層に投資し、強い米経済を再生する」

  中間層以下には年末に期限を迎える包括減税「ブッシュ減税」を延長
  富裕層の減税は打ち切り

共和党 「アメリカンドリーム」は危機にある。政府を適切な役割に戻し、より小さく、より賢くしなくてはならない。

  最善の雇用創出計画は経済成長だ。政府による助成や一時的・人為的な雇用は提供しない。
  ブッシュ減税を延長する。中低所得者層の金利や配当、株式売却益への課税を廃止する。
  オバマ政権の医療保険改革を撤廃する。
  高齢者や低所得者向け医療保険を現在の「確定給付型」から「確定拠出型」に移行する。

この背景には考え方の違いがある。

米国民の1%が収入の1/4、財産の40%を保有するという大きな格差がある。

民主党はこれを異常とし、富裕層への増税、貧困層への福祉を打ち出している。

これに対し共和党は、高収入は努力の結果であり、富裕層への増税は努力したものに罰を与えるものとし、逆に貧困なのは努力が足りないためであり、福祉は努力をしないものを褒め称えるものだとする。
個人が自分の考えで寄付をするのはよいが、国が税金を使って福祉をやるのはおかしいとする。

Paul Krugmanは著書 "End this Depression Now !" のなかで、Steve Jobsなど少数の人を除き、高収入は努力の結果ではないとして、共和党の主張を以下の通り批判している。

Topの1%の所得は急激に上昇している。

このグループに属するのはファンドマネージャーや大企業のトップである。

ファイナンスの規制緩和の後、ファンドマネジャーが多額の成功報酬を受け取るようになった。(ファンドが失敗することも多いが、その時に前の報酬を返還することはない)

大企業のトップの報酬は他の企業のトップが務める報酬委員会が決めるが、ファンドマネジャーがそんなに貰っているのだから経営者がもっと貰って当たり前という言い訳が出来るようになり、互いに、報酬を増やした。
組合の弱体化もトップの高給を批判する力を弱めた。

保守系の市民運動 Tea Party もオバマ政権の大型景気対策や医療保険制度改革などを批判し、「増税なき小さな政府」を掲げるが、Tea は"Taxed Enough Already" (もう税金はたくさんだ!)を表している。

昨年末の「財政の崖」協議で富裕層増税を受け入れた共和党は、次は民主党が譲る番だとして、一段の歳出削減や社会保障制度改革を要求している。



本年のWorld Baseball Classic はドミニカがプエルトリコを破り優勝したが、オランダが2次ラウンドでキューバを2度破り、ベスト4進出を決めた。


オランダといっても、ほとんどの選手はカリブ海の旧 Netherlands Antillesの出身で、2次ラウンドで日本と対戦したときの先発メンバー のうち、オランダ出身は一人だけで、6人がキュラソー島、2人がアルバ島出身である。

これらの島は野球が盛んで、大リーガーも多い。

打順   名前 出身地
1 Andrelton Simmons キュラソー
2 Hainley Statia キュラソー
3 Jonathan Schoop キュラソー
4 Andruw Jones キュラソー
5 Curt Smith キュラソー
6 Kalian Sams ハーグ
7 Xander Bogaerts アルバ
8 Dashenko Ricardo キュラソー
9 Randolph Oduber アルバ


カリブ海の旧オランダ自治領のNetherlands Antillesはベネズエラ沖のABC 3島とリーワード諸島のなかのSSS 3島の6島から成っている。
当初は6島全体で自治領のNetherlands Antillesとなっていたが、現在は下記の通り、バラバラになっている。

SSS諸島
(リーワード諸島)
Sint Maarten 自治領
(島の北側はフランス領のSaint Martin
Sint Eustatius オランダ本国編入
Saba オランダ本国編入
ABC諸島
(ベネズエラ沖)
Aruba 自治領
Bonaire オランダ本国に編入
Curaçao 自治領

 


政府は徴税に必要な情報を海外とやり取りするための租税条約や協定を拡大する。
情報交換の条約をもとに各国の税務当局との連携を強める。

今国会に提出する条約は以下の通り。

このうち、ジャージー、ガーンジー両島はタックスヘイブンであり、オフショアセンターとして有名で、両政府との租税協定は、国際的な脱税及び租税回避行為を防止するため 、租税に関する情報交換を行うための詳細な枠組みを定める。

租税に関する情報交換を主体とした協定に署名するのは, バミューダ,バハマ,ケイマン,マン島及びジャージーに続いて5、6件目。

  締結  
税務行政執行共助条約 2012/11/3 締約国間で、租税に関する以下の行政支援を相互に行うための多数国間条約。
国際的な脱税及び租税回避行為に適切に対処していくことが可能になる。
(締結日現在で32か国が締結)
日・ジャージー租税協定 2012/12/2 国際的な脱税及び租税回避行為を防止するため,租税に関する情報交換。
日・ガーンジー租税協定 2012/12/6 国際的な脱税及び租税回避行為を防止するため,租税に関する情報交換。
日・ニュージーランド新租税条約 2012/12/10 投資先の国における投資所得(配当、利子及び使用料)に対する課税を軽減又は免除。
租税回避行為の防止。
日・ポルトガル租税条約 2012/12/19 二重課税を調整するため、両国において課税できる範囲を明確化。
両国間で生じた課税に関する問題を円滑かつ確実に解決。
国際的な脱税及び租税回避行為の防止。
日・米租税条約改正議定書 2013/1/25 投資所得(配当及び利子)に対する源泉地国免税の対象を拡大。
租税条約上の税務紛争の解決促進のため,相互協議手続に仲裁制度を導入。
徴収共助の対象を拡大。

  

Jersey島(Bailiwick of Jersey)とガーンジー島(Bailiwick of Guernsey)はフランス沖にあるチャンネル諸島に属し、イギリス王室属領である。

ともにイギリスのエリザベス女王が君主であるが、イギリスには属せず、EUにも加盟していない。
外交と国防はイギリス政府に権限を委任しているが、内政に関しては独自の政府、議会を持っている。

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バイキングの首領のRolloは911年に西フランク王国の北西部沿岸からセーヌ川を遡り、内陸に侵入した。

西フランク王シャルル3世は同年、Rolloとサン・クレール・シュール・エプト条約を結び、Rolloに北西沿岸部(ノルマンディ)を与え、公爵とした。

その後、バイユー、セーなどの土地をノルマンディー公国に組み入れ、西暦933年にはチャンネル諸島やその対岸のコタンタン半島をブルターニュ公国から奪った。

Bailiwick of Guernseyは、ガーンジー島のほか、オルダニー島、サーク島、ハーム島、ブレッシュ島、ジェソー島などの小島を含む。
Bailiwick of Jersey は、ジャージー島のほかマンキエ諸島やエクレウ諸島などにより構成される。

7代目のギヨーム2世は英国に上陸、イングランド王ウィリアム1世となった。

ノルマンディ地方は1204年にフランス王フィリップ2世に奪われたが、チャンネル諸島はイギリス王室属領のままとなって今に至っている。



中国江蘇省無錫市の中級人民法院は3月20日、「破産法」の関連規定に基づき、Suntech Powerの破産・再編手続きを決定した。
3月15日に償還日を迎えた転換社債541百万ドルが債務不履行(デフォルト) となり、2月末で合計71億元(約1,065億円)の貸出残を持つ中国工商銀行、中国農業銀行、中国銀行など9行が申請した。

今後は地元当局主導による再建が図られる見通し。

2013/3/15 中国のSuntech Power、倒産の危機 



三菱ガス化学は3月19日、不採算事業の構造改革で150億円の特別損失を計上すると発表した。

同社は2012年5月発表の中期計画で、不採算事業としてコエンザイムQ10、アンモニア、高純度イソフタル酸の3事業を挙げ、再構築を行うとしていた。

コエンザイムQ10については既に新潟工場の年産70トンの設備を2013年3月末に停止することを決めており、中間決算で8億円の特別損失を計上している。

アンモニアについては自社生産(新潟工場 13.2万トン)の停止の方向を明らかにしているが、まだ決定はしていない。

今回、高純度イソフタル酸について、円高基調の長期化、競合メーカーの増設、ポリエステル市場悪化に伴う需要減退などで厳しい事業環境が継続し、改善が見込めないとして、下記のとおり決めた。


製造会社 AGIC
(AG International Chemical)
下記処理後に整理 会社整理損
... 松山プラント(10万トン)
 三菱化学敷地内
2013年11月に生産停止、撤去、更地化 特別損失
水島プラント(12万トン) 三菱ガス化学に移管、
7万トンに規模縮小し、生産継続
減損
原料メタキシレン
水島プラント(22万トン)
三菱ガス化学に移管
2013年11月に15万トンに縮小
減損

高純度イソフタル酸の営業機能は2010年9月に三菱ガス化学に移している。


特別損失はコエンザイムQ10を含め150億円としているが、大部分が高純度イソフタル酸とみられる。

ーーー

イソフタル酸はメタキシレンを酸化して生産する。

(オルソキシレン原料でフタル酸、パラキシレン原料でテレフタル酸となる)

イソフタル酸の用途は、不飽和ポリエステル樹脂、アルキドまたはポリエステル系塗料樹脂、ポリエステル繊維 の変性、PETボトル用ポリエステル樹脂の変性、ポリアミドの変性、ドライラミネートフィルム用接着剤用樹脂の原料など。

AGICは1968年に同社(当時は三菱江戸川化学)とAmoco Chemical (現 BP) の50/50JVとして設立され、水島に12万トンのプラントを建設した。

2003年12月にBPが離脱し、三菱ガス化学 91.6%、双日8.4%となったが、2010年6月末以降、三菱ガス化学の100%子会社となっている。

BP(旧Amoco)はベルギーのGeelに125千トン、米国イリノイ州Joilet に200千トンのプラントを持っていたが、2004年に事業を米国のFlint Hills Resources に売却、BPの工場内にあるGeelのプラントについては製造受託を行っている。

高純度イソフタル酸の需要は急速に拡大し、水島工場はフル操業を続けたため、三菱ガス化学は増設を決定、三菱化学松山工場の休止していた高純度テレフタル酸のプラントを2006年末に取得し、10万トンのイソフタル酸プラントに改良、2008年5月に商業生産に入った。
 (生産は三菱化学に委託)

三菱ガス化学は同時に、高純度イソフタル酸やメタキシレンジアミンの原料のメタキシレンの増強を決め、2009年に水島工場に7万トン設備を新設、合計能力を22万トンとした。

市場の変化により、これら増設分が余剰となった。

 

現在、アジアでは次の各社がイソフタル酸を製造している。

1)韓国 KP Chemical(蔚山) 200千トン

KP Chemical はロッテグループの湖南石化の子会社であったが、2012年12月に湖南石化と合併し、Lotte Chemical となった。

2)台湾 東展興業 (Tuntex Petrochemical)  10千トン

Tuntexは台湾石化合成(Tasco Chemical)の子会社となった。

3)中国 北京燕山石化 36千トン

4)シンガポール Perstorp 70千トン

当初スイスの医薬会社 Lonza が建設したが、医薬に専念するため2007年にいPerstopに売却した。

ーーー

三菱ガス化学は新中期経営計画 MGC Will2014で、下記を中核事業としている。

天然ガス系化学品 メタノール 800万トン/年のグローバル生産体制を確立
芳香族化学品 MXDA/MXナイロン MXナイロンは世界でOnly One、海外増設検討
機能化学品 過酸化水素/エレクトロニクスケミカル 過酸化水素からの一貫生産で高品質製品
PC/シートフィルム 日本、タイ、中国(上海)の3拠点体制
特殊機能材 ビスマレイミド・トリアジン樹脂系製品
(半導体パッケージ基板材料)
樹脂は世界でOnly One
脱酸素剤エージレス 食品鮮度維持から医薬、電子部品などへ

 

日本化学会は3月13日、化学にまつわる貴重な歴史資料「化学遺産」に5件を認定したと発表した。

これで化学遺産は22件となった。

日本化学会は、歴史資料の中でも特に貴重なものを文化遺産、産業遺産として次世代に伝え、化学に関する学術と教育の向上及び化学工業の発展に資することを目的とし、「化学遺産認定」を行っている。

2010/3/18 化学遺産認定
2011/3/17 化学遺産、第二回認定
2012/3/17 化学遺産、第三回認定

第4回化学遺産認定の5件は次の通り。

▽小川正孝のニッポニウム発見:明治日本の化学の曙

小川正孝は、1904-06年ロンドン大学William Ramsayのもとで研究し、1908年に、鉱物トリアナイトのなかに原子量が約100の43番目の新元素「ニッポニウム(Nipponium: Np) 」を発見したと発表した。
しかし、追試で存在を明確な証拠が得られず、認定されなかった。

後にそれは43番元素ではなかったことが判明し、ニッポニウムは幻の元素となった。

しかし、近年に至り、小川の遺品の中にあったX線分光分析写真の解析によって、当時の未発見元素で1925年に Walter Noddack らが発見した75番レニウムであることが明らかになった。

▽女性化学者のさきがけ、黒田チカの天然色素研究関連資料

黒田チカは初の女子帝大生3人のうちの1人として東北帝国大学に入学し、眞島利行教授の指導で紫根の色素を研究してその化学構造を明らかにし「シコニン」と命名した。

その後、理研において紅花の色素カーサミンの構造を決定、この業績によって、黒田チカは化学分野において日本女性初の理学博士となった。

佐賀県の宮島醤油が郷土の先覚者の一人の黒田チカの伝記をホームページに掲載している。
   http://www.miyajima-soy.co.jp/kyoka/shaze29/shaze29.htm

▽フィッシャー・トロプシュ法による人造石油に関わる資料

1938年に設立された北海道人造石油は、ドイツから導入したフィッシャー・トロプシュ法(FT法)により、石炭から得られる一酸化炭素と水素との混合ガスからコバルト系触媒を用いて、人造石油の工業生産を目指し 、1939年から同社滝川工場で工業化した。

大学における基礎的な触媒研究に基礎を置いた工業化であり、戦後の石油化学産業につながる事業であった。

特殊会社である帝国燃料興業が中心となり、三井、三菱、住友の三大財閥のほか、北海道炭礦汽船など が株主。
これに加え、人造石油製造事業法に基づく多額の補助金がつぎ込まれた。

しかし戦争に突入すると、資材不足などがたたりプラントの稼働率は低迷 し、生産量は7,000klに留まった。
戦後も僅かな期間、プラントは稼働したが、1952年に経営破綻に至った。

研究所の建物が、陸上自衛隊滝川駐屯地内に残されている。京都大や北海道の滝川市郷土館にサンプルが残っている。

▽国産技術によるアンモニア合成(東工試法)の開発とその企業化に関する資料

農商務省は1918年に臨時窒素研究所(1928年に東京工業試験所に吸収)を設立し、アンモニア及び硫安の製造技術の開発に着手した。

1927年にアンモニアの高圧合成に成功し、昭和肥料(昭和電工)はこの合成法により1931年にアンモニア及び硫安の大量生産に成功した。生産規模は、当時国内最大の年産15万トン(硫安)だった。

産業技術総合研究所(茨城県つくば市)に残るアンモニア合成管や触媒が化学遺産に選ばれた。

日本のアンモニア及び尿素の技術開発の歴史については、国立科学博物館産業技術資料情報センター の肥料製造技術の系統化(牧野功氏)が詳しい。

▽日本における塩素酸カリウム電解工業の発祥を示す資料

マッチ工業の重要原料である塩素酸カリウムは1893年に日本舎密製造で工業化されたが、輸入品に敗れて1897年に中止した。

日本化学工業の棚橋寅五郎は1910年に電解法による工業化に成功した。その後、会津工場は1923年に操業停止、1932年に日本沃度が購入・運転再開の経緯をたどった。

同社は1934年に日本電気工業と改称、1939年に昭和肥料と合併して昭和電工になった。

会津若松市の昭和電工東長原事業所では1910年工場発足当初のまの製造建屋を現在も使っている。

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日本化学会は 第93春季年会(2013) を3月22日(金)〜25日(月)に立命館大学びわこ・くさつキャンパス(滋賀県草津市) で開催するが、期間中に下記の通り、第7回化学遺産市民公開講座を開催し、認定された5件の内容を紹介する。   

実施日 :3月24日(日) 13時30分~16時50分
詳細: http://kagakushi.org/?p=2948





キプロス議会は3月19日夜、銀行預金に課税する法案について採決し、反対36、賛成0、棄権19、欠席1で否決した。

法案内容:
 2万ユーロ未満の預金は課税対象外
 2万~10万ユーロ預金への課税率は6.75%
 10万ユーロ以上の課税率は9.9%

EUはキプロスが預金課税を受け入れない限り、100億ユーロの支援を行わない方針を示しており、キプロスは財政破たんの瀬戸際に立たされた。

キプロスの財務相はモスクワを訪問し、金融支援について協議している。
ロシアはキプロスに対して25億ユーロの融資を行っているが、2016年の返済期限を延長する方向で準備しているとされる。

ーーー

ユーロ圏財務相会合は3月16日、財政危機に陥るキプロスに対して、銀行預金への課税(「預金税」)という前例のない措置を盛り込んだ100億ユーロ規模の救済計画に合意した。

必要とされる支援は170億ユーロとみられていたが、100億ユーロの支援を決め、残りは「預金税」で賄う もので、10万ユーロ以上の預金に9.9%の課税、10万ユーロ未満の銀行預金には6.75%の課税(1回限り)を実施し、58億ユーロ を確保しようというものであった。

2013/3/17  ユーロ圏、預金課税を条件にキプロス支援を決定

しかし、これに反発した預金者が課税前にATMから預金を引き出す動きが拡大、信用不安が再燃し、通貨ユーロの下落を招いた。
キプロス議会は臨時に開会して17日に課税法案を通し、19日の営業再開前に税金として徴収する予定であったが、開会できず、キプロス政府はすべての銀行を20日まで休業させることを決めた。

ユーロ圏財務相は電話で対応を緊急協議し、「少額預金者は大口預金者と異なる」との表現を盛り込んだ声明を出し、10万ユーロ未満の預金は全額保護することを認めた。
但し、金融支援の前提として預金課税全体で58億ユーロを徴収するとの立場を崩さず、少額預金を保護する分、大口預金者の税率を10%超とするなど、課税の具体策の作成はキプロス政府に任せた。

これに対しアナスタシアディス大統領は、10万ユーロ超の預金に10%超の課税を行うことには断固として反対、(10万ユーロ未満ではなく)2万ユーロ未満の預金のみ保護する内容とした。

しかし国民の反発は強く、野党は「銀行経営の失敗のツケを国民に回すものだ」「EUの脅しには屈しない」などと課税そのものに強く反発し、否決した。大統領の中道右派政党も棄権に回った。

ーーー

キプロス島は1974年以来、南北に分断されており、島の北部約37%をトルコ系住民による北キプロス・トルコ共和国(トルコのみが承認)が占めている。
南側のギリシャ系住民が住むのがキプロス共和国で、EUに加盟している。

 



ShellとBASFは3月11日、ブラジル工場での殺虫剤製造による元従業員の健康被害に対し、総額620百万レアル(約316百万ドル)に及ぶ賠償金を支払うことで合意した。($1 = 1.9597 reals)

両社と連邦公共省労働公共局との間で合意したもので、Superior Labor Courtで公示された。

連邦公共省労働公共局によると、工場で殺虫剤を製造するための化学品に長期間晒された結果、60名が死亡した。
サンパウロ州Pauliniaの工場は1977年に操業を開始、2002年に政府が操業を禁止した。

ーーー

当初、1977年にShellが操業を開始、殺虫剤アルドリン、エンドリン、ディルドリンを製造した。

ブラジルではこれら殺虫剤の販売は1985年に禁止されたが、森林再生のためのシロアリ駆除剤としてのアルドリンの使用は認められた。

これら殺虫剤の輸出用の生産は1990年まで続けられ、1998年にこれら製品は完全に禁止された。

Shell1993年に農薬事業の中止を決定し、ブラジルを含め農薬事業をAmerican Cyanamid に売却した。

1994
年にAmerican Home Products がそのAmerican Cyanamid を買収し、2000年にBASFに売却した。

この結果、Paulinia工場はShellからAmerican Cyanamid を経由してBASFに渡ったことになる。
BASFは操業停止まで、2年間だけ操業を行った。

Shell は工場閉鎖後、2008年にBASFから土地を買い戻しているが、工場は閉鎖されたままとなっている。

ーーー

2010年にブラジルの裁判所は、Shell BASF に工場の従業員を毒性物質に曝した件で罰金を命じるとともに、従業員や家族に対する賠償支払いを命じた。

BASFによると、控訴したが敗訴となり、次に、Shellに責任があるとして訴訟を行い、 その後、Shell及び原告と話し合いを続けてきた。

2010/8/25 ブラジル裁判所、Shell とBASFに多額の罰金

ーーー

今回、両社は1068名の元従業員に個別に補償を行い、生涯にわたる医療費の支払いを行う。
労働公共局では、この費用を420百万レアル(214百万ドル)と見積もっている。

両社は別途、全体の倫理被害(moral damages)に対して200百万レアル(102百万ドル)を支払う。
このうち、50百万レアルは Paulinia に産婦人科クリニックを建設するのに使われ、150百万レアルは健康センターと労働者安全医療基金に寄付される。

Shellはこれまで、工場の操業と従業員の被害には関係がないと主張してきたが、環境汚染に遺憾の意を表した。

BASFによると、両社の負担割合は公表しない。



Dow Chemical は3月14日、昨年12月の投資家フォーラムで説明したポートフォリオマネジメントの推進案(今後 24か月で非中核事業資産を10億ドル売却)を更に推し進め、1年半で15億ドル以上の資産を売却すると発表した。

更に、売りに出す事業として、PP Licensing and Catalysts 部門と Plastics Additives 部門を挙げた。

PP Licensing and Catalystsは下記のPP技術、触媒を扱っている。
  UNIPOL PP 技術
  SHAC Catalyst
  CONSISTA D7000 Donor
  Advanced Donor Technology (ADT) 
  (Donorは触媒性能を向上させる添加物で、下記組み合わせで使用)

ダウは資産価値を最適化し、利益が高く成長が早い分野で主導的地位を確保するため諸手段を講じている。

2009年以降、非中核事業の売却で約80億ドルの収入を得ており、本年に入り、P
lastics Additives 部門のメチルスズ安定剤と固体潤滑剤事業をPMC Group に売却し、日本ユニカーの50%持株も売却した。

2013/2/6     Dow、日本ユニカー持株を売却

Liveris CEOは、同社では現在、全ての事業の見直しを行い、事業価値の最適化を図っており、戦略に合わないものや採算が合わないものを洗い出していると述べた。

ーーー

同社は2008年にRohm & Haasの買収を決め、その資金のソースとしては K-Dow Petrochemicals(Dowの石油化学部門を分離し、KuwaitのPICとの50/50JVとするもの)のPIC支払額を充てることにしていた。

しかし2008年末のJV設立間際にPICが撤退を決めたため、Dowは資金繰りに窮した。

最終的には借り入れや事業売却収入によりR&Hの買収を行ったが、債務は急増、格付けは低下し、史上初の減配を行った。

なお、PICのK-Dowからの撤退に対する損害賠償を巡る争いについては、国際商工会議所の国際仲裁裁判所は2012年5月、PIC側に責めがあると認定し、PICに対しDowへの21.6億ドルの損害賠償支払いを命じた。

金利と費用の額が未定であったが、国際仲裁裁判所は2013年3月4日、金利と費用を318百万ドルと決めた。これを加えると合計24.8億ドルとなる。

これらの経緯については 2012/5/25     Dow、石化JV中止問題での調停で勝利、21.6億ドルを獲得

ーーー

Dowでは昨年1年間で40件程度の計画中止、工場閉鎖を行い、コストダウン、支出削減、利益率向上を図っているが、今後の非中核事業売却や、PICからの損害賠償の入金などで、同社の資金繰りは急激に改善する。

同社では資金使途について、以下の通り説明している。

1)借入金の返済 

借入金は210億ドル残っている。

2)株主への配当増

3)成長のための投資

 A) 原料の有利性を利用した石化事業

  ・シェールガス利用のガルフコースト石化事業

  ・サウジ石化計画(AramcoとのJV:2015年下期生産開始)

 B) 高収益事業

   AgroSciences、Electronic Materials、Performance Packaging など

なお同社は、成長分野であっても、代替エネルギーのような、市場変化や政府の方針により大きく変動するような分野の計画からは撤退するとしている。

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本年2月初旬に、DowがLanxessを買収するとの噂が流れ、Lanxessの株価が上がった。

Dowではこれに対し、No comment としたが、合わせて、余剰資金は借入金返済と株主への配当に使うと述べた。




安倍首相は3月15日、首相官邸で記者会見し、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に参加すると正式に表明した。

「交渉参加で経済全体にはプラス効果になる」とする一方で「センシティブ品目への特別な配慮などを得るため、あらゆる努力で悪影響を最小限にとどめる」と強調し、農林水産分野で関税撤廃の例外の獲得をめざすとともに、「攻めの農業政策で輸出を拡大し、成長産業にする」と語った。

TPP担当相の兼務が決まった甘利経済財政・再生相は記者会見で「農林水産物の減少額をできるだけ極小化していく手腕が求められる」と表明した。

    参考  2011/11/16 環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉

2010/11/10  TPP参加と農業問題


政府は同日、TPP(11か国)に参加した場合の経済全体及び農林水産物生産に与える影響の統一試算を発表した。

試算の仮定
 関税撤廃の効果のみ(非関税措置の削減やサービス・投資の自由化を含まず)
 関税は全て即時撤廃
 追加的対策を計算に入れない 

試算結果

農林水産物の影響
  http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/dai5/siryou3.pdf

  試算の前提:

  輸入品と競合する国産品、競合しない国産品に二分
  
  競合品(安価な輸入品に置き換わる): 生産減少額=国産品価格 x 生産量
  非競合品(値下がり): 生産減少額=価格低下分 x 生産量
  
    試算対象は関税率10%以上、国内生産額10億円以上の33品目

  

   主要製品への影響

1) コメ

2)豚肉

3)牛肉


      4) 牛乳・乳製品




  


  

 

ユーロ圏財務相会合は3月16日、財政危機に陥るキプロスに対して、銀行預金への課税(「預金税」)という前例のない措置を盛り込んだ100億ユーロ規模の救済計画に合意した。 支援は国際通貨基金(IMF)も参加する。

預金口座からの徴税分は直ちに凍結された。3月18日は祝日で銀行が休業となる予定で、キプロス議会は臨時に開会して17日に課税法案を通し、19日の営業再開前に税金として徴収する。

キプロスは昨年6月に支援を申請したが、交渉が難航していた。
アイルランド、ポルトガル、ギリシャ、スペインに続く5か国目の支援となる。

支援金はギリシャの債務危機で損害を受けたキプロスの銀行への資本増強に充てる。
必要とされる支援は170億ユーロとみられていたが、今回、100億ユーロの支援を決めた。残りは「預金税」で賄う。

10万ユーロ以上の預金に9.9%の課税、10万ユーロ未満の銀行預金には6.75%の課税を実施する。(1回限り)
徴税額は58億ユーロにも達すると見られている。

キプロスの銀行資産はGDPの約8倍もあり、そのうち約37%が外国人と見られており、多くは国外のロシア人で、脱税に使われているともされる。
預金課税には支援でこうした預金者を一方的に救うことにならないようにする狙いがあるとみられる。

財務省会合議長は課税について、「キプロスの金融の安定に資することになり、全預金者に貢献を求めることは当然と思われる」と述べた。

キプロスの法人税も10%から12.5%に引き上げられる。

ーーー

Moody'sは2012年10月にキプロスの国債格付けを「Ba3」から「B3」に3段階引き下げたが、本年1月10日に更に「B3」から「Caa3」に3段階引き下げた。

キプロスの銀行部門で国内やギリシャ向け融資の返済遅延が増えており、「資本増強の必要が高まっている」と指摘。キプロス政府の債務不履行リスクも増大したとした。

 


イラン産天然ガスをパキスタンに輸出するパイプライン(Peace Pipeline)の起工式が3月11日、両国国境に近いイラン南東部Chabaharで両国大統領が出席して開かれた。

パイプラインはイラン南部のAsaluyehからパキスタン南部Nawabshahまでの約1880kmを結ぶもので、日量2150万立方メートルのSouth Pars ガス田の天然ガスを輸出する。

South Pars ガス田は世界最大のガス田で、イランとカタールの領海にまたがっている。(カタール側はQatar North Field

イラン側はほぼ完成しており、未着工のパキスタン側の約780kmをイランとパキスタンの企業が2014年末までに完成させる予定。
総工費は75億ドルで、パキスタン側の建設費は約15億ドル。このうち3分の1をイランが融資する。

イランの最高指導者ハメネイ師は2月下旬にパキスタンのザルダリ大統領と会談し、5億ドルを融資することを約束した。
残りの5億ドルは中国からの融資、5億ドルは電力料金値上げで賄う計画とされるが、実際に手当てできるかどうか、疑問との声もある。

パキスタンは米国に配慮し、また資金不足もあって、自国内でのパイプライン建設をためらってきたが、国内の電力不足の解消のため容認に転じた。東部パンジャブ州では停電が多発し、工場の支障が出ている。

パイプラインが完成すれば、核開発を巡って欧米の制裁下にあるイランが外貨を獲得する手段となり得る。制裁が骨抜きになる可能性があるため米国は強く反発しており、パキスタンとの間の火種となる可能性がある。

米国務省報道官は3月7日の記者会見で「パキスタンがエネルギー需要を満たすうえで解決方法はほかにある」と発言。イランとの計画を断念し、トルクメニスタンやアフガニスタンからガスを調達するよう促していた。

米国務省報道官は3月11日の記者会見で、「この計画が実際に前進すれば、制裁の引き金になるという深刻な懸念を持っている」と述べ、パキスタンへの制裁発動の可能性もあると警告した。

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パイプラインの交渉はイランとパキスタンの間で1994年に始まり、1995年に予備契約が締結された。
その後インドへの延長構想が生まれ、1999年にはイランとインドの間で予備契約が締結された。
イランは中国やバングラデッシュにも参加を呼びかけている。

インドは2008年10月に米国との間で原子力協力協定を署名した後、2009年に価格問題と安全保障問題を理由に、この計画から撤退した。

既報の通り、中国はパキスタン南西部のGwadar港の港湾管理権を取得した。

Gwadar港からパイプラインでカラコルム・ハイウェイを通って新疆ウイグル自治区の喀什市(カシュガル、Kashgar)まで結ぶKashgar Corridor構想があり、将来これが実現すると、イランの天然ガスを直接中国に受け入れることも可能となる。

2013/2/20 中国、パキスタンのグワダル港の運営権を取得 

中国はイランの天然ガス開発にも参加している。

2009/6/12 中国CNPC、イランで天然ガス開発

 



 

世界最大の太陽光発電モデュールメーカーSuntech Power(尚德太陽能電力有限公司)が倒産の危機に瀕している。
無錫市政府の持株会社である
無錫国聯発展集団が株式を取得し、事業再編を主導する計画との噂が流れている。

同社は今週末に541百万ドルの転換社債の返還を控えているが、資金繰りに困っている。

付記

中国江蘇省無錫市の中級人民法院は3月20日、「破産法」の関連規定に基づき、Suntech Powerの破産・再編手続きを決定した。
3月15日に償還日を迎えた転換社債541百万ドルが債務不履行(デフォルト) となり、2月末で合計71億元(約1,065億円)の貸出残を持つ中国工商銀行、中国農業銀行、中国銀行など9行が申請した。

今後は地元当局主導による再建が図られる見通し。

同社は2008年に欧州で太陽光発電プロジェクトを行うGlobal Solar Fundに80%出資(他にSuntech CEOの施正栄が10%出資)し、製品を供給し、保証も行ってきたが、昨年7月、これらの担保として受け取っていたドイツ国債560百万ユーロが偽物であることが分かったと発表した。Global Solar Fundの10%を所有し、会社の運営に当たっていたJavier Romeroに騙されたとされる。

この結果、事業の不振が続く中で資金が急速に減少した。

同社の取締役会は先週初めにCEOの施正栄会長から会長職を奪うとともに、会社と会長の取引関係を調べるよう命じた。

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同社は3月12日にアリゾナ州Goodyear市の工場を閉鎖すると発表した。
同工場では中国から輸入した太陽光発電セルをアルミ枠にはめ、配電盤を設置して、 "Buy American" 基準に合致する太陽光発電パネルとしている。

過当競争で製品価格が大幅に下落するなか、米国政府は昨年11月に中国製の太陽電池及びモデュールに反ダンピング関税と相殺関税を課すことを決定、Suntechは合計で35.97%の課税となり、同工場は、主材料の大幅コストアップで操業継続が困難になった。
同工場は2010年10月に生産を開始、2011年の生産は50メガワットであったが、昨年11月には年率15メガワットにまで減っていた。

2012/11/14 太陽光パネルを巡る貿易戦争

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Suntechの創設者でCEOの施正栄(Shi  Zhengrong )は豪州のニューサウスウェールズ大学の太陽光発電工学最先端技術センターの薄膜太陽電池研究グループの上位研究担当科学者及びリーダーを務めた後、2001年9月にSuntech Powerを設立した。2005年にはNew York証券取引所に上場した。

同社では2011年に3つの世界No.1に輝くとしている。

年間生産量 2.2GW (2008年から結晶系モデュール年間生産量4年間連続世界一) 

年間出荷量 2.1GW (2010年、2011年と2年連続で太陽光発電モデュール出荷量世界No.1)

累積設置量 7.0GW (2011年10月に世界で初めて累積5GWを達成、2012年8月に7GWに達した)

 



経済産業省は3月12日、愛知・三重県沖の海底にある「メタンハイドレート」からガスの取り出しに成功したと発表した。
水深約1000メートルの海底から330メートル掘り進めたところに分布するメタンハイドレートを減圧して水とガスに分解し、回収した。

水をくみ上げて井戸の周辺の圧力を減らし、これによりメタンハイドレートの分解を促し、気化したメタンガスを回収する。

減圧開始から約4時間後の午前9時半ごろにガスの産出を確認した。

海底からガスを取り出すのは世界で初めてで、取り出したガスを燃やして出る炎も確認された。

資源エネルギー庁は1月29日、渥美半島から志摩半島の沖合(第二渥美海丘)において、海底面下のメタンハイドレートを分解し天然ガスを取り出す、世界初の海洋産出試験を実施すると発表した。

試験時期は2013年1~3月末の予定で、石油天然ガス・金属鉱物資源機構が事業主体となり、石油資源開発がオペレーターとなる。
地球深部探査船「ちきゅう」が清水港を出港し、1月28日、試験地点にて準備作業を開始、3月12日に世界初の海洋産出試験を開始した。

2013/1/31 メタンハイドレート海洋産出試験の実施 

今後2週間ほどかけて数千~数万立方メートルのガスを取り出す計画で、 経産省では今回の結果をもとに2018年度までに生産技術を確立し、国産燃料のためのガスとして生産する目標を掲げている。

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経済産業省は2009年3月、「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」を取りまとめ総合海洋政策本部会合で了承を得た。

本計画は、2008年3月閣議決定の海洋基本計画に基づき、メタンハイドレート及び海底熱水鉱床の実用化に向けた探査・技術開発に係るロードマップ等を示した。

 

メタンハイドレートは、低温かつ高圧の条件下で、水分子の立体の網状構造の隙間にメタン分子が入り込み氷状の結晶になっている。

安定しているメタンハイドレートを分解させるためには、メタンハイドレートを含む地層の「温度を上げる」(加熱法)か「圧力を下げる」(減圧法)というオペレーションが考えられる。
加熱法はエネルギーを得るためにエネルギーが必要で、効率が悪い。

  メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム


2002年、5カ国(日本・カナダ・米国・インド・ドイツ)、7機関(JOGMECの前身の石油公団を含む)の共同研究として、カナダ北西準州のマッケンジーデルタ地域マリックサイトにおいて、第1回陸上産出試験が実施された。
加熱法の一種である「温水循環法」が選択され、約470m3のメタンガスを生産することに成功した。

2008年3月、石油天然ガス・金属鉱物資源機構がカナダの天然資源省との共同研究で、減圧法により、カナダ北西部のBeaufort 海沿岸陸上地域で、永久凍土の地下約1100mに存在するメタンハイドレート層からメタンガスを産出する試験を実施し、メタンガスを連続的に生産することに成功した。

このほか、清水建設が2009年3月、ロシア科学アカデミー陸水学研究所、北見工業大学及び北海道大学と共同で、バイカル湖水深約400mの湖底で、湖底表層に閉じ込められたメタンハイドレートから、ガスを解離・回収する実験に成功した。

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商業化にはコストが壁となる。

メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアムの試算では、開発コストは100万BTU当たり30ドル前後で、現時点でのLNG輸入価格の2倍となる。生産量が予想を下回ると60ドルまで上がる。
産出規模が大きくなり、技術革新が進むと15.8ドル程度ま下がるという。(日本経済新聞 2013/3/13)

米国のシェールガス価格は4ドル程度で、LNGでの日本向け輸出が認められると、LNGへの加工費が約 3ドル、輸送費がメキシコ湾岸からなら約3ドルで、合計10ドル程度で輸入できることとなる。

「国産燃料の切り札」とか「天然ガス消費量100年分」などの見出しの記事が見られるが、メタンハイドレートが国産燃料のためのガスとして利用できるまでには、まだまだ技術革新が必要であろう。


 


Lanxessは3月4日、グリーンタイヤ(省燃費型高性能タイヤ)の需要増大に対応するため、ブラジル Triunfo工場(Rio Grande do Sul 州)の乳化重合法SBR(e-SBR)プラントを溶液重合法(s-SBR)に 転換すると発表した。

能力は現在と同じ年産11万トンで、2014年末にスタートする。投資額は8千万ユーロ。

e-SBRについてはDuque de Caxias工場(Rio de Janeiro 州)で引き続き生産し、ブラジル市場に供給する。

Lanxess は2007年にブラジルのBraskem とUnipar などからブラジルの合成ゴムメーカー Petroflex の株式の70%を購入、2008年に残りの株式についてTOBを行い、100%子会社化した。

ーーー

EUのタイヤの「ラベリング(表示)制度」導入や燃費規制で、グリーンタイヤの需要が増えている。
Lanxessではグリーンタイヤ用の高機能ゴムの需要は2017年まで年率10%程度伸びると予想しており、ブラジルでもタイヤのラべリング制度が2016年下期に始まる予定であることから、既存プラントの転換を決めた。

日本の各社も s-SBRプラントを新設している。

2010/12/27 溶液重合法SBRの増設相次ぐ

タイヤラベリング制度で省燃費のため「転がり抵抗」と「ウェットグリップ」が問題とされるが、Lanxessによれば、Nd-PBRはこれに加え、需要家の求める耐久性でs-SBRを上回る。

Lanxessは各地でs-SBRや同じく高機能のネオジウム触媒ポリプタジエンゴム (Nd-PBR)の増設を行い、シンガポールでは年産14万トンのNd-PBRプラントを新設中である。今回、更にs-SBRを11万トン追加することとなる。

2011/6/6 Lanxess、シンガポールでポリブタジエンゴムを生産 

同社は現在、ドイツ(Dormagen)、ブラジル(Cabo)、フランス(Port Jerome)、米国(テキサス州Orange)の工場でNd-PBRを製造している。

同社は2010年3月に、上記の4拠点で2012年第1 四半期までに年間計5 万トン(うちテキサスで2万トン)の追加増産を発表した。
同時にSSBRでの手直し増強を行っている。


NKNK(Nizhnekamskneftekhim) はロシアの化学会社
Sythos S.A.はポーランドの化学会社

KKPCは韓国のKumho Petrochemical(錦湖石化)の略称
SIBUR Group はGAZPROMが100%出資するロシア最大の垂直統合石油化学会社
Polimeri EuropaはENI 100%
Karbochem (Pty) Ltd は南アの合成ゴムメーカー

BASFと新疆美克化工(Xinjiang Markor Chemical Industry )は3月5日、新疆ウイグル自治区の庫爾勒 (Korla) でブタンジオール(BDO)とポリテトラヒドロフラン(PTMG、商品名polyTHF)を製造する2つのJVを設立すると発表した。

2015年に生産開始する予定で、能力はBDOが年産10万トン、polyTHFは年産5万トン。

PolyTHF はスパンデックスやポリウレタンの原料。BDOはTHF用の他に、エンプラのPBTやポリウレタン、溶剤などに使われる。

新疆美克化工はMarkor Investment Groupの子会社で、庫爾勒周辺の天然ガスを利用し、アセチレン、メタノール、 ホルムアルデヒド、BDO、THFを製造販売している。 

同社のBDOは第一期が6万トンで2008年5月にスタート、第二期10万トンが最近完成した。合計能力16万トンは中国最大。

ーーー

BASF の現在のBDOの合計生産能力は535千トンで、ドイツ Ludwigshafen、米国 Geismar、上海 Caojing、マレーシア Kuantan、千葉の5工場で生産している。

PolyTHFの生産能力は 250千トンで、Ludwigshafen、Geismar、上海 Caojing、韓国蔚山で生産している。

  BDO THF PolyTHF  
Ulsan (Korea) X X 三菱化学のブタジエン法BDOTHFの技術
2009年停止
 2009/1/20 BASF、韓国のBDO、THFプラントを永久停止
Ludwigshafen (Germany)  
Feluy (Belgium) X     2005年停止
Geismar (USA)  
Caojing (China) 当初、BDOを経由せず、ブタンTHFプロセス
 
2007/10/18 BASF、上海でのTHF製造再開
Kuantan (Malaysia)   BASF Petronas
千葉     BASF千葉:BASF 67%(当初は50/50の出光BASF
四日市   X X BASFジャパン、2006年停止

永久停止した蔚山工場は三菱化学のブタジエン法BDOプロセスのライセンスを受け、三菱化学がTHFを一部引き取る契約を結んでいた。
(ブタジエンをパラジウム触媒と酢酸
で 1,4-ジアセトキシ化した後、還元、加水分解するもの)

上海
Caojing 工場では、当初はBASFが新たに開発したブタンから直接THFを生産 (BDO工程を省略)するという独自の技術を初めて採用することとした。
しかし、THF プラントは「技術的理由」で停止し、プラントを塩漬けした。

同社はその後、
無水マレイン酸とBDOの設備を追加し、生産を再開した。

他の工場では、アセチレンとホルムアルデヒドからBDOを生産するプロセスを使用している。
今回のBASFのJVも同様と思われる。

参考 

サウジでは Sipchem がマジョリティのInternational Diol Company が無水マレイン酸からBDO、THFを生産している。

2008/2/29 サウジ Sipchem の石油化学計画



 

三菱ケミカルホールディングスは3月5日、中期経営計画APTSIS 15(2013年度-2015年度)の説明会を開いた。

2012年度(2013年3月期)見通しがAPTSIS 15の当初計画に対し大幅なギャップを生じていることを勘案し、「基本戦略は変更しないが、実行可能な目標を再設定する」とし、2015年度(2016年3月期)の営業損益予想を大幅に下方修正した。

ーーー

同社は2008年5月、2008年度-2010年度の新中期経営計画 APTSIS 10の策定 を発表した。

APTSISは、強い企業体として持続的成長を遂げるために欠かすことのできない6つの要素 であるAgility、Principle、Transparency、Sense of Survival、Internationalization、Safety, security and sustainabilityの頭文字からとった。

同社は2010年3月に三菱レイヨンを子会社化し、2010年10月1日に完全子会社化したが、これを折り込み、同年12月に、2011年度から2015年度を対象とする新中期経営計画「APTSIS 15」を策定した。

この時点の2010年度の営業損益予想は三菱レイヨンの連結効果もあり、前年度実績の663億円を著しく上回る2,030億円であったが、2015年度の営業損益を、機能商品とヘルスケア分野でのアライアンスとM&Aによる「飛躍」の利益 700億円を含んで、4,000億円とした。

2010年度の営業損益実績は2,265億円と予想を更に上回ったが、翌2011年度は 特に素材部門が大幅な減益となり、1,306億円に減少した。

2012年度は業績は更に悪化し、現時点での予想ではAPTSIS 15での目標の2,300億円に対し、1,000億円まで減少すると見込まれている。

主な問題点は以下の通り。

素材(テレフタル酸、ポリオレフィン、フェノール・PCチェーン等):
  景気後退による市況低迷、中国を含む新興国の過剰投資による需給バランス悪化

グリーンエネルギー(LiB、LED関係、炭素繊維・複合材料等):
  市場の立ち上がり遅延、過剰投資による需給バランス悪化

フラットパネルディスプレイ関連(OPLフィルム、PETフィルム、PMMA導光板等):
  欧州景気低迷や中国成長鈍化、ニーズ変化に伴う市場縮小

これを受け、今回、基本戦略は変更しないが、目標と事業管理手法を見直すこととした。

自助努力による改善を重視、セグメントごとに実行可能な目標を再設定した。
機能商品とヘルスケア分野でのアライアンスとM&Aによる「飛躍」も、700億円から200億円に減らした。

なお、前提条件を一部変更した。
 ナフサ価格(2013~2015年度):55,000円/kl65,000円/kl
 為替レート:80円/$→90円/$


セグメント別営業損益対比は以下の通り。

  2010/3 2011/3 2012/3   2013/3   2016/3
実績 実績 実績 計画 予想 差異 計画 見直し 差異
機能商品 エレクトロニクス
アプリケーションズ
-14 10 -53 120 -40 -160 300 50 -250
デザインド
マテリアルズ
133 365 240 540 240 -300 1,000 800 -200
ヘルスケア 710 851 764 790 770 -20 1,200 1,100 -100
素材 ケミカルズ 69 530 149 350 20 -330 350 250 -100
ポリマーズ -225 550 254 480 10 -470 700 350 -350
62 45 61 70 75 5 100 100 0
全社 -73 -86 -108 -50 -75 -25 -50 -50 0
Contingency
(安全をみたもの)
            -300   300
飛躍 (アライアンス + M&A)             700 200 -500
合計 663 2,265 1,306 2,300 1,000 -1,300 4,000 2,800 -1,200



当初のAPTSIS 15
 
今回見直し

 

ーーー

化学業界とその周辺を取り巻く状況は大きく変わりつつある。

「素材」分野では、海外では中東で依然として設備新設が盛んである。

従来の計画と異なるのは、これらでは汎用品だけでなく、最新技術を入れた高付加価値製品が生産されることである。
これまで安泰であった製品も今後はそうではなくなる。

さらにシェール革命を受けて、米国の天然ガス価格が大幅に下落し、米国の石油化学産業が大々的に復活しつつある。

2012/12/25      2012年 回顧と展望

「機能商品」分野では、液晶関連や太陽光発電(太陽電池、シリコンなど)のように、世界中のいろんな分野の企業が新規成長分野に競って参入することとなったため、状況は短期間で激変する。

「ヘルスケア」分野でも世界のトップメーカーによる生き残り競争が熾烈である。

今後もこれまでは考えられなかった状況変化が起こり得ると思われる。

 









SABICは3月3日、同社とSinopecが共同で計画していたTrinidad and Tobagoでのメタノール計画を取り止めると発表した。

同国政府との間で原料の天然ガスの価格と供給条件で合意に達せず、交渉を中止することで合意したとしており、SABICとSinopec側は状況が変われば交渉を再開したいとしている。

同国政府は、この計画は、天然ガスを原料に、メタノールから更にメタノール誘導品、Methano--to-Olefinsによるポリエチレン、ポリプロピレンまでを含む一連の計画の中枢の計画であるとし、計画遂行のため他のパートナーを探したいとしている。

入札の第二位はNational Gas Companyであった。

他の参加者には以下の各社がある。
 Celanese
 Methanol Holdings Trinidad Ltd (MHTL)
 Integrated Chemicals  (ICCL:米国):三菱ガス化学、Neal and Massy of Trinidad and Tobagoと提携
 Saudi International Petrochemical (SipchemとJapan-Arabia MethanolのJV):三井物産、ダイセルと提携

ーーー

2012年2月、SABICとSinopecは共同で53億ドルを投じてTrinidad and Tobagoでメタノールコンプレックスを建設する件で同国政府との交渉を開始した。両社は他の各社も入った入札で一番札となった。

SABICとSinopecは2012年1月14日、新規事業開発に関する協力覚書を締結している。

具体的な計画は明らかにしていないが、地元紙はMethanol-to-olefins (MTO) と Methanol-to-petrochemicals (MTP) が含まれていると報じている。同地の天然ガスを原料とするもので、立地はPoint Lisas。

2012/2/15  SABIC/Sinopec のTrinidad and Tobagoメタノール計画

 ーーー

当時、本計画の入札の透明性についてTrinidad and Tobago で論争が起きていた。野党議員も、Sinopecが参加することを知らなかったと述べ、交渉内容を明らかにするよう求めた。

米大使は政府に書簡を送り、米国企業などの競合相手を抑えてSABICを選ぶことに懸念を表した。日本大使館も懸念を表する書簡を送ったとされる。

もう一つの問題は原料の天然ガスの価格の大幅値引きである。
SABICはNYMEXでの天然ガス価格が当時 100万BTU当たり2.48ドルであるのに対し、1ドル以下を要求していると伝えられている。
これは第二位の
National Gas Companyの求める価格より36%低いもので、国内メーカーよりも極端に安い価格を外国企業に認めるのはおかしいとの声が出ていた。

計画によれば日量225百万立方フィートの天然ガスが必要だが、SABIC/Sinopec側は政府が十分な量の天然ガスを供給できるのか疑問を持ったとされる。



 

EUは3月5日、ENIに対し、合成ゴムカルテルでEU普通裁判所が認めなかった重犯理由の罰金50%増しを行い、追加で90.75百万ユーロを科す旨の通告を行った。

 

欧州委員会は2006年11月、ブタジエンゴム(BR)とエマルジョンSBR(ESBR)の価格カルテルで合成ゴムメーカー5社に519百万ユーロの罰金支払いを命じた。
1996年から2002年までの間、価格カルテルを結んでいた。ESBRは全社が、BR は Eni, Bayer, Shell、Dowが生産していた。

罰金の内訳は以下の通り。

  社名・国 減免率
   %
減免額
     euros
罰金
     euros
2011/7
General Court
1. Bayer, Germany    100   204,187,500         0  
2. Dow, USA     40    43,050,000    64,575,000  
3. Eni, Italy     0         0   272,250,000 181,500,000
4. Shell, Netherlands     0         0   160,875,000  
5. Unipetrol, Czech Republic     0         0    17,550,000 0
6. Trade-Stomil, Poland     0         0     3,800,000  
  TOTAL     247,237,500   519,050,000  
 

2006/12/5 EC、合成ゴム価格カルテルで5社に約800億円の罰金支払い命令

Eniについては、Eniと子会社のVersalis S.p.A.(当時はPolimeri Europa )の行為が対象となり、以下の2つの前科があるため、重犯として50%(90.75百万ユーロ)増しとなっている。

1986年のPPカルテル:Anicが摘発された。
1994年のPVC
Ⅱカルテル:Enichemが摘発された。

しかし、EU普通裁判所(General Court )は2011年7月13日、同一主体が違反行為を繰り返したという十分な証拠を出していないとして、50%増し分の罰金を減額する判決を行った。
(チェコの
Unipetrolについては、カルテル参加の証拠が不十分として罰金を取り消した。)

今回、EUは普通裁判所の指摘した問題点を正すため、異議申立書のなかで以下の点を明らかにした。

Eniは上記2つのカルテルの時点で、AnicとEnichemの株式をほぼ100%所有していた。
Anicはその後 Enichemに引き継がれ、そのEnichemはその後Versalisに引き継がれた。
このため、EniとVersalisの合成ゴムカルテル参加は重犯になり、罰金は50%増しとなる。

こんな簡単なことを、裁判の過程で説明できず、しかも判決から1年半もかかったのは、何故だろうか?

ーーー

欧州委員会は2007年12月、クロロプレンゴムの市場棲み分けと価格操作を理由に5社に総額 243.2百万ユーロの制裁金支払いを命じたと発表した。制裁金支払いを命じられたのは、バイエル、電気化学、旧DuPont Dow Elastomers、ENI、東ソーの5社。

1993年から2002年の間、各社はクロロプレンゴムの市場棲み分けと価格操作を行なったというもの。
Bayerからの情報提供で、2003年3月と7月に各社に立ち入り調査を行なった。

各社の罰金は以下の通り。(単位:千ユーロ)

  本来の罰金 減額 実際の罰金
Bayer     201,000
(重犯 50%増)
 100%        0
東ソー        9,600   50%     4,800
DuPont/Dow
(うちDow) 
    79,000
    (64,900)
  25%     59,250
    (48,675)
ENI      132,160
(重犯 60%増)
     132,160
電気化学      47,000       47,000
合計        243,210


EU普通裁判所は2012年12月17日、Eniへの制裁金を106.2百万ユーロに減額した。理由は「当事者からの要請」で明らかにしていない。
前年のカルテルがあるため、重犯での割増には異論はない筈で、別の理由と思われる。

2007/12/11 欧州委員会、クロロプレンゴムのカルテルで 243.2 百万ユーロの制裁金






石油資源開発(JAPEX)は3月4日、マレーシアの国営石油会社 Petronasとの間で、Petronasが推進するカナダBritish Columbia 州でのシェールガス開発・生産プロジェクトおよび同州西海岸で検討中のLNGプロジェクトに参画することで基本合意したと発表した。

同州North Montney地域におけるシェールガス鉱区の10%権益を取得するとともに、同州西海岸におけるPacific Northwest LNG Project(生産量1,200万トン/年)の10%権益と同権益比率相当のLNG(120万トン/年)を引き取る権利を併せて取得する予定。

石油資源開Petronasと組んで、イラク南部のGharaf油田を開発している。

2009/12/14  イラクの石油第二次入札で石油資源開発が落札

海外事業シフトを進める石油資源開発と、日本向けのLNG販路を確保したいPetronasの思惑が一致した。

計画概要は以下の通り。

1)シェールガス鉱区

North Montney地域のAltares、Lily、Kahta鉱区。
現在、Petronasが天然ガスを生産し、AECOハブ(西カナダの主要ガス市場)で販売中。

2)LNG計画

Prince Rupert 市のLelu島で年1,200万トンプラントを計画しており、2018年末に生産開始の予定。
上記の鉱区からガスパイプラインで結ぶ。

ーーー

Petronasは2011年6月2日、カナダのProgress Energy Resources Corporation との間で、British Columbia州のNorth Montney地域のAltares、Lily、Kahtaのシェール鉱区の権益の50%を10.7億カナダドルで取得する契約を締結した。Progressが運営する。
これはPetronasにとってカナダへの初進出となる。

上記に加え、LNG輸出計画も合意した。これは西海岸にLNG基地を建設、運営するもので、Petronasが80%、Progressが20%出資し、Petronasが運営を担当、Petronasの世界のLNG市場の需要家ネットワークを使い、共同でLNGを輸出するもの。


その後2012年6月に、PetronasはProgressを55億カナダドルで買収することで合意した。

しかしカナダ政府は2012年10月、カナダにとって"net benefit"でないとして、買収不承認を決めた。

これに対し(Bloomberg Newsによると)、マレーシアのRazak首相がカナダのHarper首相に親書を送り、Petronasが今後30年にわたり、Progressの事業に680億~700億ドルを投資すると伝え、マレーシア政府はPetronasの意思決定や事業に関与しないとして、買収の承認を求めた。

カナダ政府は2012年12月7日、中国海洋石油(CNOOC)によるNexen買収と、PetronasによるProgress Energy Resources の買収を承認した。

 CNOOCによるNexen買収は、カナダの承認の後、2013年2月12日に米政府の外国投資委員会から承認を受け、2月26日に買収を完了した。

承認に当たり、カナダのHarper首相は以下の通り述べた。

カナダは事業を解放しているが、これはカナダを外国政府に売り渡すということではない。(We do not mean that Canada is for sale to foreign governments.)

一連の外国の国営企業による大規模な買収で、産業が自由市場産業から外国政府の管理下の産業に変換する恐れがある。

カナダ政府は、これ以上の外国政府管理下のオイルサンド開発はカナダの利益にならないところまで来たと考える。

この決定を受け、Petronasは12月12日、Progress Energy の買収を完了した。

 ーーー

カナダ西海岸のアジア向けLNG輸出計画については 
  2013/2/1    出光興産とAltaGas、カナダ産LNG、LPGのアジア向け輸出共同事業でパートナーシップを締結
 




3月5日のニューヨーク株式市場は、アメリカの景気や企業業績の回復への期待を背景に、取引開始直後から多くの銘柄に買い注文が広がり、ダウ平均は史上最高値を更新した。

ダウ平均は一時 14.286.37ドルをつけ、過去最高の2007年10月11日の 14,198.10ドルを5年5か月ぶりに更新した。終値も 14,253.77ドルとなり、2007年10月9日の14,164.53ドルを更新した。

先週から高値が続いていた。

     終値    一時  
過去最高  14,164.53
(2007/10/9)
   14,198.10
 (2007/10/11)
 
       
2/27  14,075.37    
28  14,054.49    
3/1  14,089.66    
4  14,127.82    
5  14,253.77    14,286.37  
       

付記 その後も14日まで、最高値更新が続いた。

  終値 一時  
3/6 14,296.24 14,320.65  
7 14,329.49 14,354.69  
8 14,397.07 14,413.17  
11 14,447.29 14,448.06  
12 14,450.06 14,478.08  
13 14,455.28    
14 14,539.14 14,539.29  



これに対し、3月5日の東京株式市場では、日経平均株価は11,683円45銭となり、2008年9月29日(11,743円61銭)以来、約4年5カ月ぶりの高値を付けた。(レーマンショック前の2007年の最高値 18,300円39銭にははるかに及ばない。)

しかし池田信夫ブログは、「最近の日経平均の動きは為替に比べても上ぶれしており、これは日本経済の実態を反映しないバブルである」としている。

「今まで日本株は出遅れていたので水準訂正するのは理解できるが、日経平均はPERでみると25倍を超えており、NYダウ(12倍)や(ロンドン市場の)FT100(11倍)の2倍以上である。」






太陽電池バブルの崩壊で、欧米や中国で倒産が相次いでいる。

2012/4/6 太陽電池大手 Q-Cells 破綻

米国とEUは中国品について反ダンピング調査を行っている。中国もこれらに対抗している。
(EUは中国製の太陽光パネルの反ダンピング調査に加え、2月28日に太陽光発電用ガラスの反ダンピング調査も開始した。)

2012/11/14 太陽光パネルを巡る貿易戦争 


このなかで、日本の太陽電池素材事業も苦境に陥っている。

1)新日本ソーラーシステム

JNC(チッソの事業継承会社)、JX日鉱日石金属、東邦チタニウムの3社は2月28日、太陽光発電用途ポリシリコン事業から撤退すると発表した。

3社は共同で開発した独自の亜鉛還元法(JSS法)による太陽光発電用途ポリシリコンの製造のため2008年6月に「新日本ソーラーシリコン」を設立し、鹿島工場で品質及び量産技術の確立に取り組んできた。

この技術は、3社がそれぞれ有する固有技術を融合させたもので、次の利点を持つ。

太陽光発電用途ポリシリコン市場で主流のシーメンス法と同じ塩化法によるもので、太陽光発電用途に十分な性能である8N~9N(99.999999~99.999999%)の高純度ポリシリコンを生産することができる。

シーメンス法に比べ、四塩化珪素(SiCl4)を原料とするため、反応効率がよく、加えて未反応の四塩化珪素の再利用が容易であることから、低コストである。

新日本ソーラーシリコンの概要は以下の通り。
 出資:JNC(チッソ) 50%、
JX日鉱日石金属
30%、東邦チタニウム 20%
 工場:鹿島コンビナート奥野谷浜工場団地内
 生産計画:
   第一期 年産400トン(1系列) 2010年上期予定
   第二期 年産3,000トン 
   総投資額(第1期、第2期合計) 約240億円

同社では、太陽電池の原料となるポリシリコンの需要は引き続き大幅な伸張が予想されるとし、高品質・低コストの太陽光発電用途ポリシリコンを安定的に供給していくとし、将来的には、年産1万トン規模の生産体制の構築を視野に入れていた。

しかし、その後の市場環境の悪化を受け、稼働開始時期を決めかねていたが、ポリシリコンが世界的に供給過剰が続く見通しから、撤退を決めた。

東邦チタニウムでは28億円の特別損失を見込んでいる。

2)トクヤマ

トクヤマは2月27日、295億円の減損損失を計上すると発表した。

多結晶シリコンは2012年3月期以降、市況が急激に悪化し、厳しい状況が続いており、将来のキャッシュフローが見込めないため、徳山製造所の多結晶シリコンと併産品の乾式シリカ設備を全額減損処理(275億円)し、合わせて、多結晶シリコン用原材料について20億円の減損処理を行う。

同社によると、半導体用も含めたシリコンの需給は下記の通りで、主要メーカーの供給能力が需要を上回っている上に、その他メーカーの大きな供給能力が上乗せされ、合計能力は需要の2倍にも及ぶ状況である。

同社の営業損益の推移は下記の通り。
2010年3月以降、セグメントの組み換えがあり、その前後で直接は対応しないが、特殊品の損益の大半はシリコン関係である。

2008年3月期には特殊品の営業損益は300億円程度もあったのが、2013年3月期予想では20億円の赤字となる。

トクヤマは2009年8月に、マレーシアのサラワク州のサマラジュ工業団地に総工費約800億円をかけてに太陽電池向け多結晶シリコンの年産6000トンの大型プラント建設を決めたと発表した。

同社は徳山製造所で半導体用途を中心に多結晶シリコンの製造をしているが、太陽電池用途の増産対応とリスク分担の面からの第二拠点として進出を決めた。2011年初めに着工し、2013年9月の営業運転開始を目指すとした。

2008/12/5 トクヤマ、マレーシアに多結晶シリコン第二製造拠点

更に、2011年には第二期として太陽電池向けに年産13,800トンの建設を決めた。(投資額 1,000億円、累計 1,800億円)
2012年2月に建設を開始、その後、当初の2015年1月営業運転開始予定を9か月前倒しした。

合わせて徳山製造所の能力を2013年春完成で1,800トンアップし、11,000トンとした。

全て完成後は、日本11,000トン、マレーシア20,000トンで合計31,000トンとなるが、同社はこれにより、半導体用途は世界シェア20%を維持し、太陽電池用途では5%程度のシェアを10%程度に引き上げるとしていた。

 

上記の通り、現状は大幅な供給過剰となっているが、同社では、中長期的には需要拡大と競争力のないメーカーの生産停止等で、需給ギャップは徐々に縮小し、2015年頃には需要と主要メーカー供給能力はバランスすると予測している。

そのため、マレーシアの第一期(半導体向け主体)は2013年6月に営業運転開始とし、第二期(太陽電池向け)については2015年4月に営業運転を開始して、早期にフル生産を目指す。
徳山製造所はマレーシアの半導体向けの認定取得に応じ、生産量を徐々に縮小する。

この予測が当たるかどうかは分からないが、仮に当たっても、潜在的な供給能力は大きいため値上げは難しく、採算的には苦しい状況が続くと思われる。

ーーーーーーーーーーーーー

シリコンがこのように状況になることは、数年前までは考えられなかった。

2011年9月に倒産した米国の太陽電池メーカーのSolyndra は、高価なシリコンの代わりに、光吸収層の材料として銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)などを用いたCIGS型太陽電池を事業化した。

米国のエネルギー革新のモデル企業とされ、
2009年にオバマ大統領の「Green New Deal」政策の一環として535百万ドルの融資保証を受け、2011年5月にはObama大統領も訪問した。

しかし、たった4年で、新しいポリシリコン製造工場への投資が増え、シリコン価格はkg当たり400ドルから20ドルにまで下がり、その恩恵を受けられずに同社は倒産した。

2012/10/19 倒産した米太陽電池メーカーSolyndra、中国の太陽電池企業を独禁法違反で訴え

 

液晶関連事業もあっという間に状況が激変した。

世界中のいろんな分野の企業が新規成長分野に競って参入することとなったため、今後もこのような事態は発生すると思われる。






 

イタリア総選挙の結果、下院では中道左派が過半数を獲得したものの、上院では過半数を得られなかったため、ユーロ危機が再燃するとの懸念が高まった。

PIIGS諸国(ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン)に対する不安はまだ解消していない。

その中で、2013年2月15日付 英Financial Times は、ユーロ圏の中核諸国の基本的な成長展望に関する長期的な強い不安感から、PIIGSだけでなく、FISH(フランス、イタリア、スペイン、オランダ)が問題になっていると報じている。

主要国のなかで、これら4国はユーロ高と不況に悩んでおり、ドイツの独り勝ちとなっている。

2013年2月に発表されたEU各国の経済数値の予測では、以下の通りとなっている。

1)GDP:2012-13年はフランスがほぼゼロ、イタリア、スペイン、オランダはマイナス。

2)失業率:ドイツ、オランダ以外は10%超、スペインの失業率が高い。

3)財政赤字:ドイツ以外は全て赤字、特にスペインの赤字が大きい。

Morgan Stanley は2月4日のReport "Strategy and Economics"で、通貨ユーロの分析を行っている。

消費者物価指数(CPI)と生産者物価指数(PPI)を組み合わせたPurchasing Power Parity (PPP) による計算では、1ユーロは1.33米ドルとなり、現状の1.304ドルとほぼ近い。

Morgan Stanleyではユーロ各国それぞれのユーロの適正価値を、相対的な成長率、賃金コスト、輸出成長率という3つの指標を使って推定した。

それによると、以下の通りで、ドイツとアイルランド、オーストリアの3国以外は全体平均の1.33ドルを下回っている。(各国にとりユーロは過大評価となっている。)

ドイツは1.53ドルで13,2%の過小評価だが、FISH各国はそれぞれ、7.8%、12.1%、5.4%、9.1%の過大評価となっている。

現在のレートでは、ドイツはユーロ安の恩恵を大きく受けているが、逆に、他のFISH諸国はユーロ高で苦しんでいることが分かる。

このままでは格差は更に広がることとなり、現在PIIGSで進めている財政赤字削減策だけでは問題は解決できない。

 

なお、Paul Krugmanは "End this depression now" のPaperback版の序文で、IMF、欧州中央銀行とECのトロイカがギリシャなどに要求している緊縮策は最悪で、患者を殺す処方だとしている。







 

ルイジアナ州Baton Rougeの連邦裁判所は2月25日、Dow Chemicalが約10億ドルの節税を行った2つのタックスシェルター行為を否認したうえ、20%の罰金を科した。

1つ(Chemtech I )は1990年代にGoldman SachsとKing & Spalding法律事務所が考案したもので、SLIPS(Special Limited Investment Partnerships)と呼ばれる。多国籍企業が海外の銀行とパートナーシップをつくり、所得控除を作り出すもの。

Dowの場合、1993年から1997年の間に、自社の特許を使用するために、スイスの欧州本部がつくったパートナーシップに
特許料を支払い、費用に落とした。

もう一つ(Chemtech)はKing & Spalding法律事務所が考案したもので、パートナーシップを利用して、既に償却済みの化学工場の償却費を再度落とした。
1998年から2003年の間に利用された。

いずれの場合も、パートナーシップの収益はタックスヘイブンでの所得となり、Dowには課税されない。

これらは、通常は絶対に結び付けられることのない税法の無関係ないろいろな規定同士を繋ぎ合わせ、理屈を作り上げたもので、これを使えば何度も費用に落とせることとなる。
これまでも国税庁はこれと争い、多くの勝利を得ている。このため、現在ではこれらの案は販売されていない。

裁判長は、正当な事業目的ではなく、税法の抜け穴を利用する計画で得られた見せかけの税効果を否認する政府の行動は正しいと判断した。税法が扱うのは経済実態であり、法律の抽象的概念ではないとし、真面目な人ならこんな計画で得られたみせかけの税効果は旨過ぎる話( "too good to be true")と考える筈であり、罰金は当然だとした。

また、Dowは税務部門をプロフィットセンターと見ており、多数の弁護士や税の専門家を思うままに使っていると述べた。

司法省の税部門はこの判決を高く評価し、大企業が税法を悪用して多額の税控除を受けるのは真面目な納税者を侮辱するものだと述べた。

Dowではこの決定に失望したとし、事実や法の規定に反するとして、控訴を含め、いろんな案を検討していると述べた。
問題の金額は1993~2003年の期間に既に仮払しているため、影響は小さいとしている。





国家発展改革委員会は2月22日、中国酒のトップメーカーの四川省のWuliangye (五粮液) と貴州省のKweichew Moutai (州茅台)に対し、価格カルテルで総額449百万元(71.4百万ドル)の罰金を課した。五粮液は202百万元、貴州茅台は247百万元。

発表では、両社は独占契約を結んでいる卸業者に対し、酒類の販売最低価格を決めていたという。

2008年に中国の独禁法が施行されて以来、最高額の罰金となる。

中国国家発展改革委員会(NDRC)2011年11月独禁法違反で製薬会社2社に合計で約110万ドルの罰金を科した。

2011/11/18 中国が価格カルテルを摘発

2013年1月4日にNDRCはLG電子、サムスン電子など韓国、台湾の液晶メーカー6社に対し、総額353百万人民元の制裁金(うち144百万元が罰金を科したが、これは独禁法施行前の事案のため、価格法に基づいており、制裁金の額は低くなっている。

2013/1/9  中国政府、価格カルテルで外資に制裁金
 

関係者は、両社は国営企業であり、今回の措置は、政府が独禁法に関しては例外を設けないということを示していると述べている。
但し、この罰金は昨年の両社の売上高の1%に過ぎず、独禁法では最高10%まで有り得ることから、かなり軽いとみている。

ーーー

茅台(マオタイ)は高粱を主な原料とする蒸留酒で、産地の貴州茅台鎮から命名された。

五粮液高粱、糯米、粳米、とうもろこし、小麦の5つを原料にしているため、そう呼ばれている。

ーーー

中国では習近平総書記が、政府や党幹部の腐敗一掃に向け「倹約令」を指示し、役人を接待し高級酒で春節を祝う宴会の自粛が全国に広がった
役人の接待などの宴会用に茅台酒を毎年、大量に買っていた企業関係者の購入がぱたっと止まった」という

このため、春節(旧正月)を迎え茅台酒をはじめとする高級酒の価格が急落する異変が起きている。
高級とされる茅台酒は、2300元(約3万円)の商品が現在は1800~1900元(約2万3400~2万4700円)にまで値下がりしており、中には1600元(約2万800円)で販売している店もあるという。
しかし、価格が下がっても個人で買う人は少なく、売れ行きはさっぱりだという。

そのなかでの罰金で、両社にとってはダブルパンチとなる。



SinopecとChesapeake Energyは2月25日、SinopecがChesapeake Energyの持つオクラホマ州北部のMississippi 石灰層(Lime play)の石油・天然ガスの85万エーカーのリース権の50%を購入する契約を締結したと発表した。

対価は現金10.2億ドルで、契約成立時に約93%を支払う。

同リースでの生産量は2012年第4四半期で原油換算で日量34千バレルで、確認埋蔵量は約140百万バレル。

今後の開発費用は折半負担で、Chesapeake がJVの操業、販売の全業務を担当する。


 

Sinopecは2012年1月、独立系石油会社Devon Energyの5つの新しいシェール鉱区の権利の1/3を22億ドルで取得する契約を締結している。

対象となるのは次の5つ。
  
Tuscaloosa Marine Shale 
  Niobrara 

  Mississippian:デボン紀後半~ミシシッピ紀(石炭紀)前半の地層
  Ohio Utica Shale 
  Michigan Basin 

2012/1/9 PetroChina、カナダのオイルサンド権益を100%にアップ、Sinopecは米のシェールガスの権益取得

ーーー

Chesapeake Energyについては、2012/5/9   Chesapeake Energyの混乱

同社の主な活動地域は下記の通り。今回のMississippi Lime playはAnadarko Basin にある。

このうち、Eagle Ford Shale については中国のCNOOCが60万エーカーのリース権益の33.3%を購入している。

2010/10/18  CNOOC、テキサス州のEagle Ford Shale projectに参加

日揮は2011年6月、Chesapeake Energyからテキサス州 Eagle Ford シェールの権益の10%を65百万ドルで譲り受けた。

BHP Billitonは、Chesapeake Energyからアーカンソー州のFayetteville Shaleの権益全てとパイプラインを47.5億ドルで買収した。

2011/2/23 BHP Billiton、米シェールガス鉱区を買収 

 




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