欧州委員会は2014年6月11日、Apple、Starbucks、Fiat Finance
and Trade
3社の法人税に関して、それぞれアイルランド、オランダ、ルクセンブルクの各国税務当局が下した判断について、本格的な調査を開始したことを明らかにした。
欧州委員会は9月30日、2014年6月11日付けのアイルランド向けのレターを公表した。Appleに対する課税の疑惑を詳細に述べ、今後調査を続けることを伝え、資料の提出を要求している。
また、10月7日
にはルクセンブルグのAmazon
への優遇策についても正式に調査を始めたと発表した。
2014/6/13 欧州委員会、Apple等の法人税を調査
欧州委員会は11月14日、2014年6月11日付けのオランダ政府宛のレターを公表した。
http://ec.europa.eu/competition/state_aid/cases/253201/253201_1596706_60_2.pdf
EUは今回、オランダ子会社のStarbucks Manufacturing を問題視した。
(Starbucks Coffee EMEA BV については未調査であるとしている。)
同社は、
Starbucksのスイス子会社からコーヒー豆を仕入れ、
英国子会社から商標と焙煎方法等のライセンスを受けて焙煎し、
欧州各国の販売店に製品を販売している。
今回、EUはスイス子会社との間のコーヒー豆の取引価格と、英国子会社との間のロイヤリティを問題にした。
1) コーヒー豆の取引価格
関係会社間の取引価格は任意に決められるため、各国の税務当局は一般的に市価(arm's
length price)に置き直して課税する。(移転価格税制)
このため、Starbucks Manufacturing
は事前にオランダの税務当局との間で取引価格についての協定(Advance Pricing Arrangement :APA)
を結び、同業他社の利益率を適用した取引価格で取引し、税務上、認めてもらっている。
それによると、2001年~2005年の同業20社のmark-up
(コストへの上乗せ分、調整後)は、下位25%が6.6%、上位25%が20.9%で、中央値は9-12%となっており、これを適用した。
問題は、上記の同業20社のmark-up は豆代を含めたコストに対するものであるが、Starbucksは同社はコーヒー豆の焙煎を受託加工しているだけであるとして、豆代を除いたコストに対しこのmark-upを適用した。
しかし、Starbucksの取引を調べると、受託加工ではないことが分かった。
スイスの会社は単にコーヒー豆を売るだけであり、Starbucks
Manufacturing
はバランスシートに豆の在庫を計上しており、また在庫の値下がりに備えての引当もし、在庫のリスクを負っており、自ら販売活動を行っている。受託加工ではない。
このように、適用している mark-up
は受託加工のものではないうえ、事業自体が受託加工ではないため、豆代を含めたコストに対してこのmark-up を適用すべきである。
その場合、mark-up の金額ははるかに大きくなる。
欧州委員会の試算では、2010/2011年度の税引前損益(1,431千ユーロ)は、トータルコストに対し7.8%のマージンとすると13百万ユーロと
9倍に膨らむ。
現状はStarbucks
Manufacturing の利益を著しく少なくし、その分を豆代を膨らませて、税率の低いスイスの会社の利益を膨らませていることになる。
2)ロイヤリティ
Starbucks Manufacturingは英国のAlki LP
にロイヤリティを支払っている。
ロイヤリティは通常は売上高などをベースに決められるが、同社の場合、異常な形になっている。
同社の損益計算書は下記の通り。(千ユーロ)
|
2009/2010年度 |
2010/2011年度 |
2011/2012年度 |
売上高 |
142,627 |
184,159 |
286,217 |
売上原価 |
120,021 |
153,276 |
252,501 |
粗利益 |
22,606 |
30,883 |
33,717 |
販売管理費 |
16,835 |
14,303 |
17,470 |
為替差損 |
2,266 |
2,089 |
8,163 |
営業損益 |
3,505 |
14,491 |
8,084 |
その他費用 |
1,080 |
12,353 |
5,786 |
金利(ネット) |
772 |
707 |
716 |
税引前損益 |
1,653 |
1,431 |
1,581 |
法人税 |
429 |
338 |
395 |
純損益 |
1,225 |
1,093 |
1,186 |
脚注に、「その他費用」はロイヤリティであると明記されている。
ここに見られるように、ロイヤリティの額は、2009/2010年度が1,080千ユーロだが、翌年は売上高は29%増に過ぎないのにロイヤリティは12,353千ユーロと10倍以上になっている。
欧州委員会は、このロイヤリティの計算方法は arm's length pricing
に合致したものではないとし、税引き前利益が当局と合意した水準に収まるようロイヤりティをを毎年調整していた可能性を示唆している。
なお、英国法人のAlki
LPは、米本社がオランダに持つ2つのパートナーシップの子会社となっているが、オランダの税務当局の説明の中で、この仕組みは米国の課税を避けるためと明言している。
欧州委員会はこれらにより、オランダ当局の税優遇措置が、違法な国家補助に当たる可能性があるとの見解を示した。
今後も調査は続くが、最終的に違法と判断されれば、Starbucksは多額の追加納税を求められる可能性がある。
レターでは、オランダに対して以下の規定があることに注意を喚起している。
1) 「EUの機能に関する条約」の108(3)条
欧州委員会が,当該補助について域内市場と両立しないおそれがあるとして審査を開始した場合には、当該審査の結論が欧州委員会決定によって示されるまで、加盟国は当該措置を実施してはならない。
2)
Council Regulation No.659/1999 第4条 "Recovery of aid"
違法な支援であると決定された場合、各国はその支援額をその企業から取り戻す全ゆる必要な手段を取らねばならない。
Starbucks は以下の通り述べている。
欧州委員会の調査に引き続き協力する。
同社は関連する租税ルール、税法、国際的なガイドラインに従っている。
オランダでの税計算方法は、専門家が検討し、オランダの税務当局が承認したものである。
同社の全世界の実効税率は34%であり、アンフェアな優遇措置を求めたことはない。
ーーー
国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は11月5日、Pepsi、IKEA、FedEx
など、国際企業340社超が、税負担を軽減する目的でルクセンブルク政府と秘密協定を結んでいたとする報告を発表した。日系企業も複数含まれている。
これらの企業はルクセンブルクに拠点を置き、他国から利益を移し、低税率の適用を受けていた可能性が高い。
ICIJによると、一部の場合では企業がルクセンブルクに集めた利益の1%未満しか税金を支払っていないという。
http://www.icij.org/project/luxembourg-leaks/leaked-documents-expose-global-companies-secret-tax-deals-luxembourg
これに対し、欧州委はルクセンブルク政府に問い合わせ中で、追加的な調査を開始する可能性があるとしている。
欧州委のJean-Claude Juncker
委員長は11月15日、G20首脳会議前に記者会見し、「我々は企業の課税逃れに対して戦う」と強調した。
しかし、ICIJの発表で、この時期にルクセンブルグの首相であったJuncker
委員長が弁明に追われる事態となっており、欧州議会の一部からは問責動議を出す動きも出ている。
付記 欧州議会は11月27日、Juncker委員長が率いる欧州委員会に対する不信任決議案を反対多数で否決した。
伊藤忠は11月25日、同社が出資するブラジルの鉄鉱石生産・販売会社Nacional Minerios S.A.(NAMISA) とブラジル鉄鋼大手Companhia Siderurgica Nacional (CSN) が保有する鉄鉱石事業関連資産 Casa de Pedra 鉱山及びロジスティクス (鉄道株式及び港湾) の資産統合に関して合意した と発表した。
CSNも同様の発表をしたが、発表はこの事実だけで、双方とも詳細については一切述べていない。
この取引は12月のCSNの取締役の承認と、当局の同意(手続きに1年程度かかる)が必要となる。
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NAMISAは伊藤忠が国内製鉄会社と共に設立した日伯鉄鉱石㈱ と韓国、台湾の大手製鉄会社で形成する日韓台コンソーシアムが40%を保有し、CSNが60%を保有する。
NAMISAは2006年にCSNの100%子会社として設立され、ブラジル南東部ミナスジェイラス州の大鉄鉱床地帯である「鉄四角地帯」にEngenho 鉱山とFernandinho 鉱山を保有する。両鉱山は今回統合する Casa de Pedra鉱山に隣接する。
NAMISAの鉱石はイタグアイ港まで鉄道で約440km運搬され、輸出される。
2008年4月にCSNがNAMISAの拡張計画推進のため、株式の一部を売却することとなり、伊藤忠と日本の高炉メーカーがコンソーシアムを結成し、国際入札に参加、韓国のPOSCOもこれに加わり、NAMISAの40%を取得した。日本の鉄鋼各社はNAMISAとの間で2009年から15年間の長期引取契約を締結している。
2011年6月に新日鉄と住友金属工業が離脱した。
同社の持分は伊藤忠とJFEが肩代わりするとともに、2011年10月に台湾のCSC (China Steel Corp.) が参加した。
新日鉄は「NAMISAの能力拡張が当初計画に対し3年遅れており、将来の能力拡張に確信が持てなくなったため」とし、住友金属も「拡張計画が遅れており、出資継続について総合的に判断して撤退を決めた」としている。
これに対し、伊藤忠は「収益拡大に寄与する優良なプロジェクトと位置付けている」とし、JFEスチールも「環境問題などでNAMISAの生産能力の拡張に遅れは生じているものの、販売量については2009年の1500万トンから2014年に3900万トン体制まで拡張する計画で、優良な案件との見方は変えていない」とした。
NAMISA株主推移
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2013年5月にブラジル紙が、コンソーシアム側がNAMISAの株をCSNに売却する可能性があると報じた。
当初の契約で、コンソーシアムは買収額の30.8億米ドルで売り戻すput-option をもっている。
背景には、CSNが株主間協定に含まれていた事業拡張や物流プロジェクトを長年延期してきたことがあり、コンソーシアム側は鉄鉱石の生産量を年内に1300万トンまで増やしたい意向だったがCSNが前向きな姿勢を示さなかったとされる。
この報道に対し、伊藤忠は売却は検討していないとしたが、その後、解散を避けるため話し合いを続け、今回の結論に達したとみられる。
Casa de Pedra 鉱山は能力2100万トン。CSNではNAMISAの生産能力を現在の680万トンから2016年には3300万トンに拡張するとしている。
今回の統合でコンソーシアム側の出資比率は低下するが、日系各社は大幅な追加出資をする予定はないとみられる。