フィンランドとスウェーデンは2022年5月18日、NATO加盟を正式に申請した。
NATOの加盟各国は2022年7月5日、スウェーデンとフィンランドの正式加盟を承認する議定書に署名した。NATOは32カ国体制となる。
2021/12/22 ロシアの安全保障条約草案に付記
実際の加盟には、EU加盟の30カ国全部の批准が必要である。
10月までに既存の全30カ国中、28カ国が国内の批准手続きを終え、10月12~13日の国防相理事会に両国は招待国として参加した。
しかし、トルコとハンガリーのみが批准をしていない。
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ハンガリーのオルバン首相は、内政や外交ではリベラリズムに難色を示し、EUやウクライナのゼレンスキー大統領に批判的な姿勢を打ち出していた。
しかし、首相は11月24日、スロバキアで開かれた中欧の地域経済枠組みV4の会合後の記者会見で、ハンガリー政府はすでにフィンランドとスウェーデンのNATO加盟支持を決定しており、議会は来年の初回会合でこの件を議題として取り上げると表明、「政府の支持決定を受け、議会も支持すると予想される」と述べた。ハンガリー議会の会期は通常2月中旬に始まる。
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トルコのエルドアン大統領は、トルコ政府と対立する国内のクルド分離主義組織「クルド労働者党(PKK)」を両国が支援しているとして難色を示していた。
両国の加盟を決めるNATO首脳会合中の2022年6月28日、スウェーデン首相、フィンランド大統領とトルコのエルドアン大統領はNATO事務総長とともに会談し、3国はスウェーデン、フィンランドのNATO加盟に関連して、覚書に合意した。
ストルテンベルグ事務総長は、今回の覚書はトルコの懸念に対応するもので、武器輸出やテロリズムへの対処に関する内容が盛り込まれたと説明した。スウェーデンとフィンランドがトルコの国家安全保障の脅威への対処を支援することを約束したほか、PKKの活動に対して厳しい処置をとり、トルコとの間で引き渡し協定を締結するとした。
覚書によると、北欧2国はクルド人武装組織の「クルド労働者党(PKK)」と「人民防衛隊(YPG)」、トルコが2016年のクーデター未遂事件の首謀者とみる在米イスラム指導者ギュレン師の関連組織を支援しないことなどを約束した。身柄引き渡しの対象者は特定されていない。
これに先だつ6月27日には、スウェーデン首相がNATO事務総長と会談後の記者会見で、PKKに関しテロ組織とみなしているとはっきりと述べた。また、トルコ側が求める引き渡しに関しては、欧州犯罪人引き渡し条約に従い、スウェーデンの法制度の下で迅速かつ慎重に扱うとした。
これらを踏まえ、トルコも両国のNATO加盟を支援することに合意した。
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クルド人は、中東のクルディスタンに住むイラン系山岳民族で、トルコ・イラク北部・イラン北西部・シリア北東部等、中東の各国に広くまたがる形で分布する。人口は3,500万~4,800万人といわれている。
トルコの独立戦争後、トルコ国内においてトルコ政府とクルド人の武力を伴う紛争が続いている。
トルコは、クルド人の民族自決が分離独立運動に結び付きかねないとの懸念から常にその動きに神経質であり、過剰にクルド人を弾圧する傾向がある。
スウェーデンは人道主義を尊重し人権を擁護するとの立場から、これまでも難民や政治的亡命者を多数受け入れてきているが、クルド人についてはトルコ国内政治における左右両派の対立先鋭化や1980年代の軍事クーデターを契機とする弾圧によって生まれた政治難民と認めて自国に受け入れて来た。
トルコのエルドアン大統領は、2022年5月16日の会見で スウェーデンをテロ組織の「揺籃の中心地」であると呼び、スウェーデンに(クルド労働者党 PKKと結びつきがある)クルド系国会議員がいることや、クルド系の活動家らがスウェーデンの国会に招致されたことなどを強い口調で非難した。
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エルドアン大統領は6月30日、フィンランドとスウェーデンが約束を守らなければ、国内の批准手続きを行わないと述べた。
北欧2国はテロリストに関する法改正を早期に終える必要がある。
トルコがテロリストと見なす73人の引き渡しをスウェーデンが約束した。
(覚書では引き渡しについて具体的な約束はなく、北欧2国がトルコの要請に対処するとだけ記されている。)
覚書の項目が履行されるか注視し、それに応じて行動する。
両国はまず文書に記された義務を果たすべきだ。さもなければ批准文書を議会に送付するなど問題外だ。
スウェーデンの議会は10月17日、9月の総選挙で第3党となった中道右派・穏健党のクリステション党首を、新たな首相に選んだ。
前政権は連立政権維持のためクルド系議員の協力を得ていたが、新政権は前政権と比べてもトルコ寄りの姿勢を鮮明にしている。
クリステション新首相は、スウェーデンのNATO加盟を支持するようトルコのエルドアン大統領を説得すべく、新しい中道右派政権はクルド人グループに距離を置くと述べた。
ビルストロム外相は、スウェーデンはシリアのクルド人民兵組織YPG(クルド人民防衛隊)およびその政治組織PYD(クルド民主統一党)に対する見方を変えるだろうと述べた。
多くの西側諸国はシリアの北東部でISIS(イスラム国)を打倒する上で助力を得たYPGを支持して来た。トルコはPKK(クルド労働者党)との密接な関係の故にYPGを直接的な脅威と見做している。
ビルストロム外相は11月5日、「これらの組織とPKKの間にはあまりに密接な関係があり‐‐‐‐われわれとトルコとの関係にとっては好ましくない」と述べた。
しかし、トルコ側は覚書の完全履行を求めている。 覚書には「(両国は)懸案のトルコによるテロ容疑者の国外追放あるいは本国送還の要請に迅速かつ完全に対応する」と書かれている。
トルコが引き渡しを求める「テロリスト」はクルド系の活動家など数十人に及ぶとされる。
トルコ側から見ればテロリストであるが、スウェーデン側からは政治的迫害を理由に受け入れた難民で、多くは既にスウェーデン国民となっている。人権国家のスウェーデンとしては、犯罪の証拠がない政治亡命者を引き渡す ことは出来ない。
これまで引き渡し対象となったのは詐欺罪が確定していた人物など数人に限られる。
12月2日、反政府武装組織クルド労働者党(PKK)メンバー1人の身柄が、逃亡先のスウェーデンからトルコ政府に引き渡された。引き渡されたメンバーは、トルコで禁錮6年10月の判決を受け、2015年にスウェーデンへ逃亡したが、亡命申請は認められなかった。
NATO加盟と人権擁護との板挟みとなっており、このままでは解決しそうにない。
付記 スウェーデンの最高裁は12月19日、トルコのエルドアン大統領が名指しで身柄移送を求めるトルコ人記者の送還は人道上の理由から「認められない」と判断した。
最終的には、米国がトルコを説得するのではないかと見られている。
なお、フィンランドについては、トルコは、同国の協力には満足しているが批准はスウェーデン、フィンランド両国分を同時に行う予定だとしている。
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